病気と健康の話

[気管支喘息]大人と同じ治療はこどもたちにも-GINA2026が示す”抗炎症おたすけ薬”という喘息治療の常識-

はじめに

GINA 2026で、喘息治療は何が変わったのか 世界の喘息診療の指針である「GINA(ジーナ:Global Initiative for Asthma)」は、毎年二回の系統的なエビデンス評価を経て改訂され、200 を超える国々で使われています。その最新版である GINA 2026 では、喘息と付き合うすべての方に知っていただきたい「真新しい知見」がいくつも盛り込まれています(GINA 2026)。 キーワードは「発作止めから、抗炎症へ」です。これまで喘息といえば「息苦しくなったら発作止めを吸う」のが常識でした。しかしGINA 2026は、その発作止めそのものを、炎症を抑える成分を含んだ「抗炎症リリーバー」に置き換えることを、大人にも子どもにも推奨しています。さらに、発作止めの“上限”の考え方の変更、半年に一度の注射で済む新しい重症喘息治療など、実生活に直結する新しい内容が加わりました。

本コラムでは、GINA 2026を中心に、いま知っておきたい喘息管理のポイントを、日本で実際に使える吸入薬の名前とともに、できるだけわかりやすく解説します。「自分の治療は今の標準に合っているだろうか」と確認しながら読み進めてみてください。

GINA 2026の大原則 ― 喘息は「炎症の病気」

GINA 2026が強調するのは、喘息の本質が気道(空気の通り道)の慢性的な「炎症」であるという点です。炎症で気道が敏感になると、少しの刺激でも縮んで狭くなり、ゼーゼー・ヒューヒュー(喘鳴)、息切れ、咳、胸の詰まった感じが現れます。症状が時間帯で変動する、夜間や明け方に悪化する、運動・笑い・冷気・アレルゲンそして風邪で誘発される――こうした特徴は喘息を強く示唆します(GINA 2026)。

大切なのは、症状が落ち着いている「調子の良いとき」でも、炎症は水面下でくすぶり続けているということです。だからGINA 2026は、症状の有無にかかわらず、① 症状・発作・副作用・肺機能などを「評価し(Assess)」、② 治療や生活習慣を「調整し(Adjust)」、③ 反応を「見直す(Review)」というサイクルを繰り返す、一人ひとりに合わせた管理を治療の土台に据えています(GINA 2026)。

当院では、この「評価」を支えるために、気道の炎症の程度を反映する呼気一酸化窒素(FeNO)の測定や、肺の機能を調べるスパイロメトリー、必要に応じて胸部 CT などを用い、目に見えにくい炎症を客観的に確認しながら治療を組み立てています。

GINA 2026の核心 ― 発作止めそのものを“抗炎症リリーバー”に

GINA 2026の中心にある考え方が「抗炎症リリーバー(AIR:Anti-Inflammatory Reliever)」です。これは、発作止めのときにも吸入ステロイド(炎症を抑える薬)を一緒に届けるという発想で、吸入するそのたびに気管支を広げつつ炎症も鎮め、発作の芽を早期に摘み取ります。GINA 2026は、この考え方を大人・思春期の全治療段階に採用しました。

背景には長年の強いエビデンスがあります。軽症喘息の SYGMA 試験では、吸入ステロイド・ホルモテロールを必要時に使う方法が従来の発作止め(SABA)より重い発作を大幅に減らし(O’Byrne et al., N Engl J Med 2018)、中等症~重症のMANDALA試験では吸入ステロイド+SABAのリリーバーがSABA単独より発作を27%減らしました(Papi et al., N Engl J Med 2022)。GINA 2026が新たに採用した2025年のBATURA試験では、軽症でも吸入ステロイド+SABA が発作を 47%減らすことが確認されています(LaForce et al., N Engl J Med 2025)。

なぜ「発作止めだけ」ではいけないのか。世界規模の調査SABINAでは、SABAを年間3本以上使う「使いすぎ」で発作が増え、喘息による死亡リスクまで高まることが示されています(Nwaru et al., Eur Respir J 2020)。発作止めをよく使う状態は、炎症をしっかり抑える治療が必要なサインなのです。GINA 2026が「SABA単独の治療はもはや推奨しない」と明言する理由がここにあります。

GINA 2026の「2つのトラック」と日本で使える吸入薬

GINA 2026 は、治療を「トラック 1」と「トラック 2」の 2つの道筋で整理しています。最も推奨されるトラック1は、ICS-ホルモテロール(吸入ステロイドと気管支拡張薬の合剤)を、リリーバーとしても毎日の維持薬としても同じ 1剤で使う方法です。「1つの薬・1つの用量・1 本の吸入器」で全段階をカバーできるシンプルさが最大の利点で、日本ではシムビコート(ブデソニド/ホルモテロール)が代表的な吸入薬です。この使い方は SMART(スマート)療法/MART療法とも呼ばれます(GINA 2026)。

トラック2は、ICS-ホルモテロールが使えない場合の代替案です。維持薬としての吸入ステロイド(フルタイド、パルミコート、オルベスコ、キュバールなど)や、吸入ステロイド・長時間作用性気管支拡張薬の合剤(アドエア、レルベア、フルティフォームなど)を土台にします。海外では発作止め自体に吸入ステロイドを含む合剤(ICS-SABA)も使われ始めていますが、この合剤は現時点で日本では未発売のため、日本では ICS-ホルモテロールを軸にしたトラック1が実践しやすい選択肢です。

治療は「一度決めたら終わり」ではありません。症状・発作・吸入手技・生活・ご本人の希望を踏まえて段階を上下に調整します。当院では、生活スタイルや吸入のしやすさ、費用面も含めて相談しながら、その方に最適な吸入薬を一緒に選んでいきます。

【GINA 2026の新知見①】子どもたちにも“抗炎症リリーバー”が広がった

これまで、抗炎症リリーバーの明確なエビデンスは大人が中心で、子どもでは十分ではありませんでした。この“空白”を埋めたのが、GINA 2026が採用した2025年のCARE試験です。5~15 歳の子どもを対象に、ICS-ホルモテロールを必要時に使う方法と、従来の発作止め(サルブタモール)を使う方法を比較しました(Hatter et al., Lancet 2025)。

結果、ICS-ホルモテロールを使った子どもは発作が45%減少しました。100人の子どもが従来の発作止めから切り替えると、1 年間で 18 回の発作を防げる計算です。しかも成長や身長、肺機能への悪影響は認められませんでした。「子どもに吸入ステロイドを使うのは心配」という不安に、明確な答えが得られたのです。GINA 2026 は、6~11 歳でも発作止め(SABA)単独の治療は推奨しないとしています(GINA 2026)。

これにより、大人と子どもの喘息治療のギャップが大きく縮まりました。お子さんの喘息でも、「発作が起きてから対処する」のではなく「発作の芽を早く摘む」治療が、世界の新しい標準になりつつあります。当院では小児呼吸器科として、お子さまの状態に合わせた治療をご提案します。

【GINA 2026の新知見②】発作止めの“上限”の考え方が変わった

GINA 2026 で見逃せない変更が、リリーバー使用回数の表現の見直しです。これまでは「1日に吸入できる最大回数」という“上限”として示されていましたが、GINA 2026では「これ以上必要なら医療機関を受診してください」という“受診のサイン”へと言い換えられました(GINA 2026)。 具体的には、ICS-ホルモテロールを使う大人・思春期では、1 日の吸入回数が 12 回を超える場合、6~11歳の子どもでは8回を超える場合に、必ず医療機関を受診するよう促しています。この変更には大切な意味があります。症状が強い日には一時的に回数を増やしてよく、その回数は「絶対に超えてはならない壁」ではなく「専門家に相談すべき目安」だということです。過度に我慢して受診が遅れることも、逆に漫然と使い続けて悪化に気づかないことも防ぐ、実用的な考え方です。

これはあらかじめ「行動計画」を用意しておくことの大切さにもつながります。症状が悪化したときにどう対応し、いつ受診するかを、お使いの薬に合わせて事前に決めておきましょう。

【GINA 2026の新知見③】重症喘息は“半年に1回の注射”の時代へ

治療を最適化しても症状が続く「重症喘息」に対し、GINA 2026は生物学的製剤(バイオ製剤)の選択肢をさらに充実させました。バイオ製剤は、炎症の引き金となる特定の物質(IgE、IL-5、IL-4/13、TSLP など)をピンポイントで抑える注射薬です。日本ではゾレア(オマリズマブ)、ヌーカラ(メポリズマブ)、ファセンラ(ベンラリズマブ)、デュピクセント(デュピルマブ)、テゼスパイア(テゼペルマブ)が使えます。

GINA 2026で特に新しいのが、半年に一度の注射で済む抗IL-5抗体「デペモキマブ」です。SWIFT試験で重症好酸球性喘息の発作を約半分に減らすことが示され(Jackson et al., N Engl J Med 2024)、通院や注射の負担を大きく軽くする可能性があります。従来のバイオ製剤も、デュピルマブが重い発作を有意に減らし(Castro et al., N Engl J Med 2018)、テゼペルマブは血中好酸球が低い方も含め幅広い患者さんで発作を減らします(Menzies-Gow et al., N Engl J Med 2021)。GINA 2026にはこのほか、抗IgE抗体のバイオシミラー(後続品)や、吸入ステロイド・気管支拡張薬・抗コリン薬の3剤合剤(トリプル製剤、日本ではエナジアなど)も加わりました。

どのバイオ製剤が向いているかは、血液検査(好酸球)や呼気 NO、鼻茸・アトピー性皮膚炎などの合併症を総合して判断します。デュピクセントのように喘息以外の合併症にも効く製剤もあります。重症喘息でお困りの方は、専門的な評価を受けることをおすすめします。

【GINA 2026の新知見④】発作時対応の刷新・パルスオキシメーターの注意点

GINA 2026では、急な発作(増悪)に対応するための新しいフローチャートが4つ整備され、大人から乳幼児まで、外来・救急のそれぞれで「何をどの順で行うか」がより明確になりました。あわせて、軽症の大人・思春期では、発作止め(SABA)の代わりに ICS-ホルモテロール(例:ブデソニド・ホルモテロール)を使ってよいこと、効果の出るスピードはSABAと同じくらい速いことも明記されました(GINA 2026)。

実生活に関わる注意点も加わりました。血中の酸素飽和度を測る「パルスオキシメーター」は、肌の色が濃い方では実際より高く表示されることがあると明記され、酸素の目標値も標高に応じて調整するよう促されています(GINA 2026)。指先の数字だけで安心せず、呼吸の速さや会話のしやすさといった全身の様子も併せて判断することが大切です。

そしてGINA 2026が繰り返し強調するのが、「一度きりの発作でも軽視しない」という姿勢です。緊急受診やステロイド内服が必要になった発作は、それ自体が「治療を見直すべき赤信号」であり、次の発作を防ぐチャンスです。発作の後は吸入手技・服薬・悪化のきっかけを見直し、より炎症を抑える治療へ切り替えましょう。

正しい吸入と日常生活 ― 「振ってから吸う」とワクチン

どんなに良い薬でも、正しく吸えていなければ効果は半減します。GINA 2026が改めて注意を促すのが、エアゾール式(pMDI)は「毎回、噴射の直前によく振る」ことです。成分が液中に沈むタイプでは、振らずに使うと薬の量が大きくばらつき、初回は最大3倍、残量が少ないと3割ほどに変動すると報告されています。混乱を避けるため、GINA 2026は種類にかかわらず「すべてのpMDIを毎回振ってから吸う」よう勧めています(GINA 2026)。

薬以外の対策も治療の一部です。GINA 2026は、禁煙、適度な運動、呼吸リハビリ、体重の適正化、ワクチン接種を挙げています。喫煙は炎症を悪化させ吸入ステロイドの効きも弱めるため禁煙は最優先です。喘息発作の最大の引き金はウイルス感染であり、ワクチンも立派な喘息対策です。RSウイルスワクチンは60歳以上で下気道の病気を82.6%予防したと報告され、持病のある方でも同様の効果が期待できます(Papi et al., N Engl J Med 2023)。

「運動で発作が出るから」と体を動かすのを控えるのは逆効果になりがちです。適切に治療されていれば多くの方は運動を楽しめ、運動は心肺機能を高め喘息のコントロールにも役立ちます。当院は指定運動療法施設を併設し、CT・超音波・呼気 NO 測定・スパイロメトリー・モストグラフを備え、日曜・祝日も診療しています。薬・検査・生活習慣・いざというときの体制を組み合わせ、喘息管理をより確かなものにします。

おわりに ― 「症状がないとき」こそ、治療のチャンス

GINA 2026が示す喘息管理のポイントをまとめると、次の3点になります。第一に、喘息は「炎症の病気」であり、症状がないときも炎症を抑え続けること。第二に、発作止め(SABA)だけに頼るのは危険で、吸入ステロイドを含む「抗炎症リリーバー」が大人にも子どもにも新しい標準であること。第三に、発作止めの回数は“受診のサイン”であり、正しい吸入・ワクチン・生活習慣・重症例のバイオ製剤まで、一人ひとりに合わせて評価・調整・見直しを続けることです。

「発作が出ていないから大丈夫」と自己判断で治療をやめると、くすぶる炎症が次の大きな発作を招きかねません。逆に、症状が落ち着いているときこそ、炎症を抑えて将来の発作を防ぐ絶好のチャンスです。発作止めを月に何度も使う、夜間や明け方に咳やゼーゼーで目が覚める――そんな心当たりがあれば、それは治療を見直すサインかもしれません。

まんかいメディカルクリニックでは、呼吸器内科の専門的な視点から、GINA 2026に沿った検査に基づく喘息管理をご提案しています。「この吸い方で合っているのかな」「最近発作が増えた気がする」―そんな小さな疑問でも、どうぞお気軽にご相談ください。喘息と上手に付き合い、息苦しさに縛られない毎日を一緒に目指しましょう。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. GINA 2026で、喘息治療のいちばん大きな変化は何ですか?

「発作止めそのものに、炎症を抑える成分を加える」という抗炎症リリーバーの考え方が、大人にも子どもにも標準になったことです。GINA 2026 は発作止め(SABA)単独の治療をもはや推奨しておらず、日本ではシムビコート(ブデソニド/ホルモテロール)が代表的な吸入薬です。この方法は発作を大幅に減らすことが複数の試験で示されています(O’Byrne et al., N Engl J Med 2018/LaForce et al., N Engl J Med 2025)。

Q1. GINA 2026で、喘息治療のいちばん大きな変化は何ですか?

おすすめできません。SABA(サルタノールやメプチンなど)だけの治療は気道を広げるだけで炎症を抑えないため、GINA 2026 では推奨されていません。世界規模の調査SABINA では、SABA の使いすぎが発作や死亡のリスクを高めることが示されています(Nwaru et al., Eur Respir J 2020)。発作止めをよく使う状態は、むしろ炎症を抑える治療が必要なサインです。使用頻度が増えていると感じたら早めにご相談ください。

Q3. 発作止めを「1日に決められた回数まで」使わなければ危険ですか?

GINA 2026では、その回数は「絶対に超えてはならない上限」ではなく「これ以上必要なら受診してください」という目安に変わりました。ICS-ホルモテロールを使う大人では 1日12回、6~11歳の子どもでは8回を超える場合が受診の目安です(GINA 2026)。症状が強い日は一時的に回数を増やしてよく、その回数を超えるようなら医療機関を受診す

Q4. 子どもの喘息でも、大人と同じ吸入薬の使い方でよいのですか?

近年、子どもでも同様の考え方が有効であることが分かってきました。GINA 2026が採用した2025年の CARE試験では、5~15歳の子どもがICS-ホルモテロールを必要時に使うことで発作が 45%減り、成長への悪影響もなかったと報告されています(Hatter et al., Lancet 2025)。ただし年齢や重症度で最適な方法は異なりますので、お子さんの状態に合わせて医師が判断します。 Q5. 重症の喘息でも、注射の治療で改善が期待できますか? はい、多くの重症喘息でバイオ製剤が有効です。日本ではゾレア、ヌーカラ、ファセンラ、デュピクセント、テゼスパイアが使え、重い発作を大きく減らします(Castro et al., N Engl J Med 2018/Menzies-Gow et al., N Engl J Med 2021)。GINA 2026では半年に一度の注射で済むデペモキマブも紹介されました(Jackson et al., N Engl J Med 2024)。血液検査などをもとにどの製剤が向くかを判断しますので、治療に難渋している方は専門的な評価をおすすめします。

Q5. 重症の喘息でも、注射の治療で改善が期待できますか?

はい、多くの重症喘息でバイオ製剤が有効です。日本ではゾレア、ヌーカラ、ファセンラ、デュピクセント、テゼスパイアが使え、重い発作を大きく減らします(Castro et al., N Engl J Med 2018/Menzies-Gow et al., N Engl J Med 2021)。GINA 2026では半年に一度の注射で済むデペモキマブも紹介されました(Jackson et al., N Engl J Med 2024)。血液検査などをもとにどの製剤が向くかを判断しますので、治療に難渋している方は専門的な評価をおすすめします。

参考文献

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https://ginasthma.org
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。薬剤の商品名は代表例であり、使用にあたっては必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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