病気と健康の話

【肝機能異常】脂肪肝と診断されたら——GLP-1 受容体作動薬が注目される理由

――最新エビデンスに基づく解説―—

脂肪肝(MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)は、今や世界で 13 億人以上が罹患するとされる、最も患者数の多い慢性肝疾患です。一方、肥満・糖尿病・高脂血症の治療薬として注目を集めるGLP-1 受容体作動薬(代表的なものがセマグルチド)が、体重減少に加えて「肝臓を直接守る」という画期的な作用を持つことが、最新の大規模臨床試験・基礎研究によって次々と明らかになっています。本コラムでは、脂肪肝の最新データからGLP-1 薬の作用メカニズム、そして当院での取り組みまで、わかりやすく解説します。

1. 脂肪肝(MASLD)とは?―世界と日本の最新データ

「脂肪肝」とは、肝臓の細胞に中性脂肪が過剰に蓄積した状態です。以前は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていましたが、2023 年の国際コンセンサスにより「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD:Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」という名称に改称されました。これは単なる呼び名の変更ではなく、「肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症といった代謝異常を背景に発症する肝疾患」という疾患の本質をより正確に反映した定義です[1,2]。

2026 年 4 月に医学誌『Lancet Gastroenterology & Hepatology』に発表された GBD 2023 MASLD研究は、1990 年から 2023 年にかけて 204 か国・地域のデータを解析した、これまでで最も包括的な MASLD 疫学調査です[3]。その結果は衝撃的なものでした。2023 年時点で世界の約 13 億人(全人口の 16.1%)が MASLD を有していると推計されており、1990 年比では罹患者数が 142.7%増加しています。さらに 2050 年には約 18 億人に達すると予測され、増加の一途をたどる見通しです。

地域別では、北アフリカ・中東地域の有病率が特に高く(10 万人あたり約 29,246 人)、日本を含む高所得アジア太平洋地域が最も低い水準(10 万人あたり約 8,654 人)でした。日本でも成人の約 2〜3 割が脂肪肝を持つと言われており、生活習慣病の代表的な合併症として重要視されています。重要な点として、MASLD が肥満の方だけの病気ではなく、「痩せ型 MASLD(Lean MASLD)」、特にアジア人に多い BMI 正常値でも発症する MASLD が注目を集めています[3]。

MASLD は単純な脂肪蓄積(単純性脂肪肝)にとどまらず、放置すると炎症を伴う代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH:Metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)、さらには肝硬変、肝細胞がんへと進行するリスクがあります。近年、欧米では MASLD が肝移植の原因疾患の第 1 位になりつつあり、公衆衛生上の喫緊の課題とされています[4]。DALYs(障害調整生命年)の分析では、1990 年から 2023 年の間に絶対的な疾病負担は倍増以上となっており、医療・経済的なインパクトは計り知れません[3]。

2. なぜ脂肪肝は危険なのか?―進行するとどうなる?

脂肪肝の大半は無症状で経過するため、健診などで偶然発見されることが多い疾患です。しかし「脂肪肝だから大丈夫」と放置することは危険です。MASLD は以下のように段階的に進行することがあります。

【単純性脂肪肝(MASLD)】肝細胞に脂肪が蓄積した状態。自覚症状はほぼなし。この段階で生活習慣を改善すれば回復も可能。

【代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH)】脂肪蓄積に加えて炎症・肝細胞障害が加わった状態。線維化(肝臓の瘢痕化)が始まることもある。血液検査(ALT・AST の上昇)で発見されることが多い。

【肝線維化・肝硬変】慢性的な炎症が続くと肝臓の正常組織が線維組織に置き換わる(線維化)。進行すると肝硬変となり、肝機能が著しく低下する。

【肝細胞がん】肝硬変を経由せずに MASLD から肝細胞がんへ直接進行するケースも報告されており、サーベイランスの重要性が高まっています[4]。

MASLD のリスク因子として最も重要なのが高血糖(空腹時血糖高値・2 型糖尿病)で、GBD 2023 研究では DALYs への寄与度でトップでした(10 万人あたり 2.2 の DALY 率)。次いで高 BMI(肥満)、喫煙と続きます[3]。これらはすべて、日本の生活習慣病診療と密接に関連するリスク因子です。

また、MASLD は肝臓だけの問題ではなく、心血管疾患・慢性腎臓病・2 型糖尿病と強い双方向性の関連があることが、多くのシステマティックレビューで示されています。つまり脂肪肝は「全身代謝疾患の鏡」とも言えるのです。当院のような内科・生活習慣病専門クリニックが脂肪肝の管理に真剣に取り組む理由がここにあります[3]。

3. GLP-1 受容体作動薬(セマグルチドなど)とは?

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、食事摂取後に腸管の L 細胞から分泌されるホルモンです。血糖値の上昇に応じてインスリン分泌を促進し(血糖依存性)、グルカゴン分泌を抑制することで血糖コントロールを助けます。また食欲を抑制し、体重減少効果をもたらします。この GLP-1 の作用を模倣・増強した薬剤が「GLP-1 受容体作動薬(GLP-1 receptor agonist:GLP-1RA)」です[5]。

代表的な薬剤はセマグルチド(週 1 回注射または経口)で、2 型糖尿病・肥満症の治療薬として世界中で広く使われています。その治療の幅は今や驚くほど広がっており、心血管疾患・心不全・慢性腎臓病・変形性膝関節症・閉塞性睡眠時無呼吸症候群、そしてMASH(代謝機能障害関連脂肪性肝炎)にまで有効性が示されています[5]。特に MASH に対しては、2025 年にセマグルチドが米国 FDA から承認を受けており(ESSENCE 試験の結果に基づく)[6]、肝疾患治療の新時代を切り開く薬剤として世界中の医師・研究者から注目されています。

日本では GLP-1RA は主に 2 型糖尿病治療薬として使われてきましたが、2023 年からは肥満症治療薬としても保険適用が拡大されました。当院でも、肥満・糖尿病・脂質異常症の患者さんを対象に、適切な適応判断のもと GLP-1 受容体作動薬による治療を提供しています。

4. GLP-1 薬はどうやって脂肪肝を改善するのか?―最新の作用メカニズム

4-1. 間接的(体重減少を介した)メカニズム

GLP-1RA が脂肪肝を改善する最も分かりやすいメカニズムは、体重減少を介した間接的な作用です。体重が 5〜7%以上減少すると肝臓の脂肪含量が有意に減少し、10%以上の体重減少では肝線維化の改善も期待できることが知られています[6]。GLP-1RA は食欲抑制・胃内容排出遅延・エネルギー摂取量減少などを通じて有効な体重減少をもたらし、結果として肝臓の脂肪負荷を軽減します。

さらに、GLP-1RA は血糖コントロールを改善することで、肝臓への糖毒性・脂質毒性を間接的に軽減します。2 型糖尿病の合併は MASLD の進行と強く関連しており、血糖管理の改善は肝疾患の進行抑制にもつながります[3,7]。

4-2. 直接的(体重減少と独立した)肝保護メカニズム―2026 年の革新的発見

2026 年 7 月に科学誌『Cell Metabolism』に発表された Gonzalez-Rellan らの研究は、GLP-1 薬の肝保護作用に関する私たちの理解を根本から変える画期的な発見をもたらしました[7]。この研究では、GLP-1 受容体(GLP-1R)を欠損させて「薬による体重減少が起こらないマウス」(Glp1rWnt1−/−マウス)を使い、セマグルチドの肝臓への直接作用を検証しました。

驚くべきことに、体重が全く減少しない条件下でもセマグルチドは肝臓の脂肪蓄積・線維化・免疫反応の異常をいずれも著明に改善しました。つまり GLP-1RA には、体重減少とは独立した「肝臓を直接守る(肝保護)」作用があることが実証されたのです。

では、肝臓のどの細胞がこの直接作用を担っているのでしょうか?研究チームは最新の単細胞 RNA 解析(scRNA-seq:GEM-X Flex-seq 法)を用いて、肝臓内のあらゆる細胞で GLP-1受容体(GLP-1R)の発現を網羅的に調べました。その結果、GLP-1R は「肝類洞内皮細胞(LSEC:Liver Sinusoidal Endothelial Cells)の中でも、門脈周囲でなく中心静脈周囲(pericentral)に位置する細胞」と「CD8 陽性消耗 T 細胞」に選択的に発現していることが分かりました[7]。

特に注目されるのが、「傍中心静脈 LSECs(pericentral LSECs)」です。LSEC は肝臓の血管(類洞)を裏打ちする特殊な内皮細胞で、肝臓の免疫・解毒・代謝機能を支える「ゲートキーパー」として機能します。MASH の状態になるとこれらの細胞は炎症性・線維促進性の遺伝子プログラムへと変化しますが(いわゆる「脱分化」「類洞毛細血管化」)、セマグルチドによる GLP-1R 活性化はこの変化を逆転させ、正常な代謝・抗炎症的な遺伝子プログラムを回復させることが示されました[7]。

さらに同研究では、Tie2-Cre マウス(内皮細胞・T 細胞系列で GLP-1R を欠損)や AAV8-Creウイルスによる選択的肝内皮 Glp1r 発現抑制モデルを用いた実験で、肝 LSEC の GLP-1R が機能しない場合にはセマグルチドの肝保護効果が著しく減弱することを示しました。一方、体重減少や血糖改善効果はそれらのモデルでも保たれていました。これは「肝臓の内皮 GLP-1R シグナルが、体重・血糖とは独立して肝保護作用に不可欠である」ことを意味します[7]。

さらに、GLP-1R 陽性 LSEC は単独で働くのではなく、細胞間通信ネットワークの司令塔として機能し、VWF(フォン・ウィルブランド因子)・SELE(セレクチン E)・CEACAM・BMP(骨形成タンパク質)などのシグナル経路を通じて、免疫細胞・肝星細胞・肝細胞へ「治癒」のシグナルを送っていることも CellChat 解析で明らかになりました。プロテオーム解析でもこれらの変化が蛋白質レベルで確認され、さらに同様の変化が STEP1・STEP2 臨床試験の患者データとも一致していました[7]。これはマウスでの発見が、実際のヒト患者でも再現される可能性を示す、非常に重要な知見です。

5. 臨床試験の成果:ESSENCE 試験と最新エビデンス

セマグルチドの MASH 治療効果を検証した最も規模の大きい臨床試験が、2025 年に『New England Journal of Medicine』で発表された ESSENCE 試験(フェーズ 3)です[6]。この試験では、非代償性肝硬変のない組織学的に確定診断された MASH(線維化 F1b〜F3)の患者 800 名以上を対象に、週 1 回注射セマグルチド 2.4mg とプラセボを比較しました。

主要評価項目であった「MASH の組織学的改善(線維化の悪化なし)」においてセマグルチド群は 62.9%が達成し、プラセボ群 34.3%と比較して有意に優れた結果でした(p<0.001)。また「線維化の改善(MASH の悪化なし)」については 37.0% vs 22.4%と、こちらも有意差が示されました(p<0.001)[6]。この結果を受けて 2025 年にセマグルチドが MASH に対する初めての GLP-1RA 治療薬として米国 FDA に承認されました。

注目すべきは、セマグルチドの効果が体重減少の程度に関わらず広い範囲の患者で認められたことです。さらに 2025 年に『Nature Medicine』に発表された Jara らの研究[8]では、ESSENCE 試験の患者検体プロテオーム解析(血中蛋白質の網羅解析)が行われ、セマグルチドは体重が最小限しか減少しなかった患者群でも炎症性バイオマーカーを著明に低下させることが示されました。これは「体重減少と独立した直接的な抗炎症・抗線維化作用の存在」を、ヒト患者でも裏付けるものです[8]。

また、resmetirom(選択的甲状腺ホルモン受容体 β アゴニスト)が MAESTRO-NASH 試験(N Engl J Med 2024)で MASH の線維化改善に有効性を示し、2024 年に FDA 承認を受けています[9]。今後は複数の薬剤の組み合わせ治療(GLP-1RA+resmetirom など)の研究も進む見通しです。

慢性腎臓病との関連でも、FLOW 試験(N Engl J Med 2024)ではセマグルチドが腎機能を保護し腎疾患の進行を有意に抑制することが示されており[10]、脂肪肝・糖尿病・肥満・慢性腎臓病を合併するようないわゆる「多因子リスク保有者」にとって、GLP-1RA が複数の臓器を同時に守る可能性が広がっています。

6. 体重が減らなくても肝臓が守られる?―患者さんへの意義

「GLP-1 薬を使っても体重があまり減らない」という患者さんがいるのは事実です。しかし、2026 年の細胞・分子レベルの研究[7]と 2025 年の臨床試験プロテオーム解析[8]は、体重減少が限定的でも GLP-1RA が脂肪肝・肝炎・肝線維化を改善できることを示しています。

具体的には、GLP-1R 陽性の LSEC(肝類洞内皮細胞)が GLP-1 のシグナルを受け取ることで、①炎症性サイトカイン産生の抑制(TNF-α などの低下)、②免疫細胞の過剰活性化の是正(CD8 陽性エフェクターメモリーT 細胞の減少)、③肝星細胞への抗線維化シグナルの送出、④LSEC の「脱分化」の逆転(正常な機能の回復)、といった多面的な肝保護効果が発揮されます[7]。これらはすべて、体重計の数字とは独立して起きている現象です。

また、FABP4(脂肪酸結合タンパク 4)や CD36 といった LSEC 由来の炎症性・脂質代謝関連タンパク質が、セマグルチドによって転写レベルでも蛋白質レベルでも低下することが、マウス実験とヒト臨床試験データの双方で確認されています[7,8]。これらのタンパク質は血液中でも測定可能な「バイオマーカー」として将来の治療モニタリングに活用できる可能性があります。

当院では、GLP-1 受容体作動薬による治療において、体重だけでなく肝臓への効果も念頭に置いた診療を行っています。腹部超音波検査・血液検査(ALT・AST・γ-GTP・血小板など)を定期的にフォローすることで、治療の効果を多角的に評価しています。

7. 脂肪肝の診断・治療と当院(まんかいメディカルクリニック)の取り組み

脂肪肝の診断には、腹部超音波検査が最もよく使われます。CT 検査も MASLD の診断に有用であり、当院では CT と超音波の両方を院内で実施できる体制を整えています。より精密な評価が必要な場合(進行した線維化・肝硬変の疑いなど)は、専門医療機関へのご紹介も積極的に行います。

当院での脂肪肝に対するアプローチは以下の通りです。

【ステップ1:適切なスクリーニング】健診で「脂肪肝疑い」と指摘された方、ALT・ASTが高い方、BMI 高値・糖尿病・脂質異常症・高血圧のある方は、早めにご相談ください。腹部超音波・血液検査で脂肪肝の有無・程度を評価します。

【ステップ2:生活習慣指導】脂肪肝の基本治療は食事・運動による体重管理です。5〜10%の体重減少でも肝臓の状態は著明に改善します。当院では管理栄養士・専門スタッフによる具体的な食事・運動指導を行っています。また、当院は「運動療法施設」として保険適用の運動指導も実施しており、生活習慣の改善を総合的にサポートします。

【ステップ3:薬物療法】生活習慣改善だけでは十分な効果が得られない場合、または糖尿病・肥満症を合併している場合には、適応を慎重に評価した上でGLP-1 受容体作動薬(セマグルチドなど)の使用を検討します。当院では患者さんの全身状態・既往歴・使用中の薬剤を総合的に評価し、最適な治療プランをご提案します。

【ステップ4:継続的なフォローアップ】脂肪肝の治療は「経過をしっかり追う」ことが重要です。定期的な血液検査・超音波検査で肝臓の状態を継続的にモニタリングし、治療効果の確認と早期の方針変更を行います。

まんかいメディカルクリニックは、内科・呼吸器内科・皮膚科を擁する多専門診療所として、糖尿病・肥満症・脂質異常症・高血圧などの生活習慣病と脂肪肝を一体的に管理する「全人的医療」を提供しています。脂肪肝でお悩みの方、GLP-1 薬に興味をお持ちの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 脂肪肝と言われましたが、どれくらい心配すべきですか?

A. 脂肪肝(MASLD)自体は、初期段階であれば生活習慣の改善によって十分に回復が期待できる状態です。しかし、放置すると炎症(MASH)→線維化→肝硬変→肝がんと進行するリスクがあります。GBD 2023 研究によると、MASLD による世界の DALYs(障害調整生命年)は 2023 年時点で年間 360 万を超え、1990 年比で 2 倍以上に増加しています[3]。特に注意が必要なのは、①2 型糖尿病を合併している、②BMI25 以上の肥満がある、③血液検査で ALT・AST が高い、④腹部超音波で「輝度上昇(高輝度化)」を指摘されている、⑤γ-GTP が高い、といったケースです。まずは専門外来で一度詳しく評価を受けることをお勧めします。なお、MASLD の大多数(約 80〜90%)は単純性脂肪肝であり、MASH への進行者は全体の 20〜30%、肝硬変まで至るのはさらにその一部にとどまると推計されています[3]。

Q2. 体重を減らせば脂肪肝は治りますか?どのくらいの減量が必要ですか?

A. はい、体重減少は脂肪肝改善の最も効果的な手段のひとつです。多くのエビデンスに基づくと、体重の 5〜7%の減少で肝臓の脂肪含量が有意に低下し、10%以上の体重減少では肝炎の改善(MASH の組織学的改善)や線維化の改善も期待できます[6]。例えば体重 70kg の方であれば、3.5〜5kg の減量でも脂肪肝への効果が期待できます。ただし「減量さえすれば薬は必要ない」というわけではありません。持続的な体重管理は難しく、多くの方がリバウンドを経験します。また、2 型糖尿病や肥満症を合併している場合は薬物療法も重要な選択肢となります。さらに、2026 年の最新研究では、体重の変化に関わらず GLP-1 受容体作動薬が肝臓の炎症・線維化を直接改善する作用を持つことが示されており[7]、体重減少の達成度によらず薬物療法が有効である可能性が広がっています。

Q3. GLP-1 薬(セマグルチドなど)は脂肪肝の治療に使えますか?副作用は?

A. 日本では現在、GLP-1 受容体作動薬の保険適用は「2 型糖尿病」および「肥満症(BMI≥35 または肥満関連合併症を有し BMI≥27)」の患者さんに限られています。MASLD のみを適応とした保険診療は現時点(2026 年)では日本では認められていません。しかし、2 型糖尿病や肥満症を合併した脂肪肝の患者さんには、適応を満たすケースも多くあります。ESSENCE 試験(N Engl J Med 2025)では週 1 回注射セマグルチドが MASH の組織学的改善に有意な効果を示し[6]、米国ではすでに MASH 適応で承認されています。副作用としては、悪心・嘔吐・下痢・便秘といった消化器症状が最も多く、特に投与初期に認められます。胆石リスクの上昇も報告されており、胆嚢疾患の既往のある方は注意が必要です。膵炎のリスクが懸念されることがありますが、大規模試験での頻度は低い水準にとどまっています。薬剤の選択・投与開始・用量調整はすべて医師の診断のもとに行われます。

Q4. GLP-1 薬で体重が減らなくても脂肪肝に効果がありますか?

A. これは非常に重要な最新の疑問です。2026 年に Cell Metabolism 誌に発表された Gonzalez-Rellan らの研究[7]では、中枢神経の GLP-1 受容体を欠損させて体重減少が起こらないマウス(Glp1rWnt1−/−マウス)においても、セマグルチドが脂肪蓄積・肝線維化・肝炎症を有意に改善することが示されました。この効果は、肝類洞内皮細胞(LSEC)に発現する GLP-1 受容体を介した「直接的肝保護作用」によるものと解明されました。同様に、2025 年の Nature Medicine 掲載論文[8]では、ESSENCE 試験参加患者の血液プロテオーム解析において、体重減少が最小限であった患者でもセマグルチドが炎症関連タンパク質を有意に低下させることが確認されています。ただし現時点では、体重減少が伴わない場合の臨床的に意味のある肝線維化改善がどの程度の患者で期待できるかについては、さらなる大規模・長期試験での確認が必要です。「体重が減らないから意味がない」とは言えない時代になりつつありますが、引き続き最新エビデンスの蓄積を注視していく必要があります。

Q5. 脂肪肝の進行を防ぐために日常生活で最も大切なことは何ですか?

A. エビデンスに基づく最も重要な生活習慣の改善は以下の通りです。①体重管理:前述の通り 5〜10%の体重減少が肝臓に明確な改善をもたらします。カロリー制限(特に果糖・飽和脂肪酸の制限)が有効です。②運動:有酸素運動(ウォーキング・水泳など週 150〜300分)と筋力トレーニングの組み合わせが、体重変化と独立して肝脂肪を低下させることが複数の試験で示されています。③アルコール制限:MASLD(旧 NAFLD)の定義上「多量飲酒を除外」していますが、少量のアルコールでも肝脂肪を増加させる可能性があります。脂肪肝と診断された場合は禁酒〜節酒が推奨されます。④血糖・血圧・脂質の管理:GBD 2023 研究では、高血糖が MASLD 関連 DALYs への最大の寄与因子であることが示されています[3]。血糖・血圧・コレステロールのコントロールは脂肪肝の進行を防ぐ上で非常に重要です。⑤定期的な健診:脂肪肝は無症状で進行することが多く、定期的な腹部超音波・血液検査による早期発見・早期介入が予後を左右します。当院では生活習慣病・肥満症の包括的な管理をしながら、脂肪肝の状態もともに継続フォローする体制を整えています。

参考文献

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本コラムの内容は医学的情報提供を目的としており、診断・治療の代替となるものではありません。症状や治療についてのご相談は必ず医師の診察をお受けください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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