病気と健康の話

【糖尿病】【2026年最新版】糖尿病管理ガイドライン比較解説:ADA(米国)vs NICE(英国)— 共通点と相違点の整理

■はじめに:2つのガイドラインを読み解く意義

世界二大権威機関の糖尿病管理ガイドラインが整いました。米国糖尿病学会(ADA)は「Standards ofCare in Diabetes 2026」を1月に公表し、英国国立医療技術評価機構(NICE)は2026年2月18日に成人2型糖尿病管理ガイドライン(NG28)を大幅改訂しました。

この2つのガイドラインは、それぞれ異なる医療システム・医療文化を背景に作成されながら、多くの共通する方向性を示しています。一方で、実臨床における具体的な推奨内容に重要な違いも存在します。本稿では、「共通点」と「相違点」を軸に両ガイドラインを体系的に整理します。

■1.全体比較:一目でわかるADA vs NICE

項目ADA 2026(米国)NICE 2026(英国)
対象疾患1 型・2 型・前糖尿病・妊娠糖尿病・薬剤性高血糖など幅広くカバー主に成人2型糖尿病(NG28)に特化
改訂周期毎年1月改訂(年次更新)随時・必要に応じて改訂(今回は大幅
改訂)
目標HbA1c個別化を重視。多様な指標(CGM含む)で総合評価低血糖リスクなし:6.5%、リスクあり:7.0% と数値明示
初期治療薬SGLT2阻害薬+メトホルミン推奨(合併症考慮)合併症プロファイル別に2〜3剤の組み合わせを明示
CGM推奨対象「管理に役立つすべての糖尿病患者」へ拡大主にインスリン使用患者または特定条件の患者
GLP-1製剤1型糖尿病の肥満管理にも新たに推奨2型糖尿病の合併症別初期治療に組み込み
肥満評価BMI+体脂肪直接測定+体型測定を推奨BMI(アジア系は27.5以上)を基準
医療哲学共同意思決定・デジタルツール積極活用個別化ケア・段階的薬剤導入・シックデイルール明示
対象読者専門医・一般内科医・多職種チームNHS医療従事者・プライマリケア医中

■2.ADA とNICEの共通点

両ガイドラインは医療システムの違いを超えて、以下の5つの大きな方向性を共有しています。

共通点1:個別化医療(Precision Medicine)への転換

【両ガイドラインの共通姿勢】

患者一人ひとりの合併症・腎機能・年齢・価値観・経済状況に応じた「個別化された目標設定と薬剤選択」が最重要原則として位置づけられています。「全員に同じ治療」から「その人に最適な治療」への転換です。


ADA 2026年版(勧告1.1)では患者の価値観・好み・予後・併存疾患・経済的事情を踏まえた「共同意思決定」を明確に推奨しています。
NICE 2026年版(勧告1.1.1)でも「個人の好み・併存疾患・多剤服用リスク・長期介入から利益を得る可能性」を考慮したアプローチを義務づけています。

共通点2:SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の中心的役割

【両ガイドラインの共通姿勢】

SGLT2阻害薬(ジャディアンスなど)とGLP-1受容体作動薬(オゼンピックなど)は、血糖降下作用だけでなく「心臓・腎臓の保護効果」という独立したベネフィットがあり、心血管疾患・慢性腎臓病を合併する患者には積極的に使用すべき薬剤として双方で推奨されています。


支持エビデンス(共通):DAPA-HF試験(心不全へのSGLT2)、DAPA-CKD試験(腎保護)、LEADER試験(GLP-1の心血管保護)、FLOW試験(腎臓病へのセマグルチド)

共通点3:CGM(持続血糖モニタリング)の活用推進

【両ガイドラインの共通姿勢】

CGMは特定の重症患者だけのものではなく、より広い糖尿病患者に活用すべきツールとして双方で推奨範囲が拡大しました。HbA1c単独評価から、目標範囲内時間(TIR)などCGM指標を含む多面的評価への移行が進んでいます。


支持エビデンス(共通):DIAMOND試験・MOBILE試験(CGMによるHbA1c低下・低血糖減少)

共通点4:早期からの積極的介入

【両ガイドラインの共通姿勢】

「まず1剤から始めて様子を見る」という従来の段階的アプローチから脱却し、合併症リスクに応じて診断早期から複数の薬剤を組み合わせる「早期積極治療」が推奨されています。特に心臓・腎臓の保護を目的とした薬剤は血糖目標の達成とは独立して継続することが推奨されます。

共通点5:患者参加型の共同意思決定

【両ガイドラインの共通姿勢】

医師が一方的に治療方針を決めるのではなく、患者が十分な情報(薬の効果・副作用・コスト・利便性)を理解したうえで医師と共に決定する「共同意思決定(Shared Decision Making)」が双方で強調されています。

■3.ADAとNICEの相違点

同じエビデンスを基盤としながら、医療制度・文化・対象患者の違いから、重要な相違点も存在します。

相違点1:初期治療薬の選択体系

ADA 2026年版心血管リスク・腎臓病・心不全・BMIなど患者属性に応じて推奨薬剤クラスを選択するアルゴリズム形式。SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬が中心的薬剤。チルゼパチドはHFpEF合併患者に初めて明示(勧告9.9a)。
NICE 2026年版合併症の種類(なし/心不全/動脈硬化性疾患/若年発症/肥満/CKD/フレイル)別に初期治療の組み合わせを具体的に明示。従来の「メトホルミン単剤開始」から「徐放性メトホルミン+SGLT2阻害薬の2剤開始」へ全面転換(勧告1.13〜1.19)。

※ポイント:NICE は「どの合併症があればどの薬を選ぶか」を表形式で明確化。ADAはアルゴリズムに基づく柔軟な選択を推奨。

相違点2:HbA1c目標値の設定方法

ADA 2026年版HbA1cの数値目標よりも「個別化」を重視。CGMデータ(TIR・平均血糖・血糖変動)を組み合わせた多指標評価を推奨。年齢・健康状態・薬剤によって目標範囲を柔軟に設定(セクション6)。
NICE 2026年版具体的な数値目標を明示:低血糖リスクなし
→48mmol/mol(6.5%)、低血糖リスクあり
→53mmol/mol(7.0%)。HbA1c 58mmol/mol
(7.5%)以上で薬物療法強化を推奨(勧告1.5.7〜1.5.8)。

ポイント:ADAはCGMを前面に出した多面評価。NICEはプライマリケア向けに数値目標を明確化。

相違点3:CGMの推奨対象範囲

ADA 2026年版「CGMが管理に役立つと判断されるすべての糖尿病患者」に推奨(勧告7.15)。インスリン非使用患者にも積極的に活用。AIDシステムも1型糖尿病全患者・複数回注射の2型糖尿病患者に推奨(勧告7.25a)。
NICE 2026年版主に複数回インスリン注射患者で「繰り返す低血糖・低血糖自覚症状乏しい・1日8回以上測定が必要」な患者に限定(勧告1.7.1)。NHSの費用対効果を考慮したより保守的な適応。

ポイント:ADA は「使えるすべての患者へ」という積極的推奨。NICEは医療リソースを考慮した限定的推奨。今後エビデンス蓄積により収束する方向。

相違点4:薬剤導入の実務手順

ADA 2026年版肥満評価としてBMIに加え体脂肪直接測定・ウエスト周囲径も推奨(勧告8.2a)。がん治療中の血糖管理指針(免疫チェックポイント阻害薬・mTOR阻害薬・PI3K阻害薬別)を詳細に新設(勧告9.33〜9.35)。1型糖尿病の肥満へのGLP-1製剤を新規推奨。
NICE 2026年版「シックデイルール」を明示(勧告1.10.1):発熱・嘔吐・脱水時はメトホルミン・SGLT2阻害薬を一時中止。超低糖質食中のSGLT2阻害薬はDKA リスクのため開始延期(勧告1.21.2〜1.21.3)。段階的薬剤導入(ステップワイズ)を詳細に規定(勧告1.20.1)。

ポイント:ADAは適応疾患の拡大(がん・1型糖尿病)に注力。NICEは安全な運用手順の整備に注力。

■4.日本のクリニックへの示唆

実臨床において、両ガイドラインの共通点と相違点から以下のことが導かれます。

実践すべき、共通推奨事項

  1. 2型糖尿病の初期治療:メトホルミン+SGLT2阻害薬の2剤併用を標準とする
  2. 心血管疾患・CKD合併例:GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)を積極的に使用
  3. HFpEF合併の肥満2型糖尿病:チルゼパチドを考慮(ADA勧告9.9a)
  4. CGMを活用した血糖管理プログラムの拡大(インスリン非使用患者にも)
  5. シックデイルールの患者教育:SGLT2阻害薬・メトホルミン服用患者全員に実施

ADA・NICEで推奨レベルが異なる点(慎重に判断)

CGMのインスリン非使用患者への適応:ADAは積極推奨、NICEは保守的。日本の保険適用状況を踏まえ、自費診療での活用を検討 • SGLT2阻害薬の血糖管理目標未達時の継続:NICEは心腎保護目的での継続を明示。ADA も同様の立場。保険診療上の査定リスクに注意 • チルゼパチドの1型糖尿病肥満への使用(ADA新規推奨):日本での保険適用外使用に関する患者説明を整備。

■よくある質問(FAQ)

Q. 2型糖尿病と診断されました。最初にどの薬を使うべきですか?

NICE 2026年版(勧告1.13)・ADA 2026年版ともに、合併症のない2型糖尿病の方には「徐放性メトホルミン+SGLT2阻害薬」の2剤併用を初期治療として推奨しています。心臓病・腎臓病・心不全・フレイルがある場合は組み合わせが変わります。必ず担当医師と個別に相談したうえで決定してください。

Q. HbA1cの目標値はいくつですか?

NICE 2026年版では、低血糖リスクの低い薬のみ使用の方は6.5%(48mmol/mol)、低血糖リスクのある薬を使用の方は7.0%(53mmol/mol)が目標です。ADAでは個人の状況に応じた柔軟な目標設定を推奨しており、CGMデータも組み合わせて評価します。高齢者・フレイルのある方はより緩やかな目標が設定されます。

Q. SGLT2阻害薬を飲んでいます。体調が悪い時はどうすればよいですか?

NICE 2026年版(勧告1.10.1)では、発熱・嘔吐・下痢などの急性疾患(シックデイ)時はメトホルミンとSGLT2阻害薬を一時中止することが明示されています。脱水時のDKA(ケトアシドーシス)リスクを防ぐためです。事前に主治医から「どの薬をいつ止めるか」の説明を受けておくことが重要です。

Q. CGMはインスリンを使っていない患者でも使えますか?

ADA 2026年版では「CGMが管理に役立つと判断されるすべての糖尿病患者」に推奨されており、インスリン非使用患者にも適用されます。NICE 2026年版は現時点では主にインスリン使用患者中心ですが、科学的エビデンスの蓄積とともに適応が広がる方向にあります。まんかいメディカルクリニックではCGMを用いた血糖管理プログラムを提供していますので、ご相談ください。

■まとめ:2026年版ガイドラインが示す方向性

項目ADA 2026(米国)NICE 2026(英国)
共通する方向性①個別化医療(合併症・年齢・腎機能・価値観に合わせた治療)個別化医療(合併症プロファイル別の精密医療)
共通する方向性②SGLT2阻害薬とGLP-1製剤が治療の中心(血糖降下+臓器保護)同左(心腎保護を主眼とした薬剤選択)
共通する方向性③CGM・デジタルツールの標準治療化CGMの普及推進(適応基準は保守的)
共通する方向性④早期からの積極的多剤併用初期から2〜3剤の組み合わせ(全面転換)
共通する方向性⑤患者参加型の共同意思決定患者参加型・非審判的な言葉での説明義務
主な相違点①CGM:インスリン非使用患者にも全面推奨CGM:インスリン使用者・特定条件に限定
主な相違点②HbA1c:個別化重視・CGM指標を前面にHbA1c:6.5%・7.0%と数値目標を明示
主な相違点③対象:1 型・薬剤性・前糖尿病など幅広い対象:成人2型糖尿病に特化
主な相違点④がん治療中の血糖管理指針を詳細に新設シックデイルール・薬剤導入手順を詳細化

まんかいメディカルクリニックでは、ADA とNICE双方の最新ガイドラインに基づいた個別化糖尿病管理を提供しています。CGMを用いた血糖モニタリング、GLP-1製剤による体重管理、SGLT2阻害薬を中心とした心臓・腎臓保護治療などエビデンスに基づいた診療を丁寧にご提供します。

参考文献

  1. American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care 2026;49(Suppl.1). https://doi.org/10.2337/dc26-SREV
  2. NICE. Type 2 diabetes in adults: management (NG28). Last updated 18 February 2026.
    www.nice.org.uk/guidance/ng28
  3. Knowler WC, et al. Reduction in incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin.
    N Engl J Med 2002;346:393-403.
  4. McMurray JJV, et al. Dapagliflozin in patients with heart failure (DAPA-HF). N Engl J Med
    2019;381:1995-2008.
  5. Heerspink HJL, et al. Dapagliflozin in patients with CKD (DAPA-CKD). N Engl J Med
  6. 2020;383:1436-1446.
  7. Marso SP, et al. Liraglutide and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes (LEADER). N Engl J Med
    2016;375:311-322.
  8. Packer M, et al. Semaglutide and kidney disease (FLOW trial). N Engl J Med 2024;391:109-121.
  9. Welsh JB, et al. CGM and glycemic outcomes (MOBILE study). JAMA 2022;328:2260-2268.

※本記事は医療情報提供を目的として作成したものです。個々の治療方針については必ず担当医師とご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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