病気と健康の話

【生活習慣病】 「病気になってから病院へ」はもう古い ― 予防医療の転換点”これからの健康常識”

まんかいメディカルクリニック|ヘルスコラム

2025 年から 2026 年にかけて、高血圧、脂質異常症、心腎代謝症候群(CKM)、一次予防など、心血管疾患(CVD)予防に関わる主要なガイドラインが次々と改訂されました。これらは単なる個別の推奨事項ではなく、「心血管・代謝・腎臓は一つの連続した病態である」という新しい考え方への大きな転換を表しています。同時に、血液検査から生物学的年齢を推定する技術、冠動脈プラーク全体量の重要性、脂肪肝と心臓病の関係、社会環境因子の影響など、予防医療の土台となる科学的知見が急速に進歩しています。本コラムでは、予防医療領域の最新論文 10 本を統合し、これからの健康づくりに役立つ知識を分かりやすく解説します。

なぜいま「予防医療の転換点」なのか

米国予防心臓病学会(ASPC)会長の Shapiro 氏は、2026 年 3 月の論説で「予防心臓病学はいま転換点にある」と述べています。実際、2025 年には多学会共同の高血圧ガイドラインが、2026 年には新しい脂質異常症ガイドラインが公表され、さらに CKM(心腎代謝)疾患と一次予防に関する国家的ガイドラインの公表も続きます。これまで別々に扱われてきた血圧、脂質、代謝、腎機能、肥満、動脈硬化といった病態は、もはや孤立した問題ではなく、同じ疾患連続体(disease continuum)の異なる表現型として理解されるようになりました。しかし、ガイドラインが公表されても患者さんへの恩恵が自動的に届くわけではありません。実際、心血管リスクの高い多くの患者さんが適切な脂質低下療法を受けておらず、血圧管理も不十分なままです。新しい科学を実臨床に届けるためには、クリニックの診療体制そのものを変えていく必要があるのです。これこそが「転換点」の本質であり、かかりつけ医が果たす役割はかつてなく大きくなっています。

心血管・代謝・腎臓は「一つの連続体」として捉える

従来、高血圧は循環器、糖尿病は代謝内分泌、脂肪肝は消化器、腎機能低下は腎臓内科――といったように、臓器ごとに専門分化した診療が行われてきました。しかし最新のエビデンスは、これらが共通の病態生理(インスリン抵抗性、慢性炎症、内皮機能障害、脂質異常、交感神経系の活性化など)を土台として数十年かけて進行する、一つの病気であることを示しています。たとえば肥満は 2 型糖尿病のリスクを高め、2 型糖尿病は動脈硬化と腎機能低下を加速させ、腎機能低下はさらに心不全と脳卒中の発症を促進します。こうした悪循環を断ち切るには、個々の数値を別々に治療するのではなく、患者さん一人ひとりの「心血管代謝健康」全体を評価し、複数の危険因子を同時並行で管理する統合的アプローチが不可欠です。新しいガイドラインはこの方向性を強く打ち出しており、一次予防の概念が「発症してから治す医療」から「発症する前に軌道を変える医療」へと進化しつつあります。当院では、内科・呼吸器内科・生活習慣病管理・運動療法・GLP-1 受容体作動薬プログラムを統合し、この新しいパラダイムを実践しています。

血液検査から「生物学的年齢」を推定する ― HemeAge

「同じ 80 歳でも、人によって健康状態は大きく違う」――これは私たちが日々の診療で実感することです。実年齢(暦年齢)は健康状態を十分に反映しない指標であり、近年は「生物学的年齢」という考え方が注目されています。2026 年に Houston Methodist と NHANES(米国国民健康栄養調査)の大規模データを解析した研究では、一般的な血算(CBC、完全血球数)から機械学習で生物学的年齢を推定する「HemeAge」という手法が開発されました。約 16 万 3 千人を解析した結果、赤血球容積分布幅(RDW)、平均赤血球容積(MCV)、好中球数などが生物学的年齢を強く予測することが示されました。生物学的年齢が実年齢より 10 歳以上高い「加齢加速型」の人は、死亡リスクが 3.05 倍、主要心血管イベントのリスクが 1.37 倍に増加していました。逆に生物学的年齢が実年齢より 10 歳以上若い「レジリエント型」の人は、死亡リスクが 0.59 倍、主要心血管イベントが 0.76 倍と有意に低下していました。特に 40 歳から 80 歳の中年期にこの差が最も顕著でした。日常の血液検査という最も身近な情報から、将来の心血管リスクを早期に把握できる可能性を示す画期的な知見です。

冠動脈プラーク「総量」が長期予後を決める

狭心症や心筋梗塞の原因は「血管の狭い部分」と多くの方がイメージされます。しかし 2026 年に欧州心臓病学会系の雑誌に発表された西デンマーク心臓レジストリの大規模解析(85,512 例)では、冠動脈の狭窄の数よりも「プラーク(動脈硬化病変)の総量」が長期予後を強く規定することが示されました。プラーク総量は冠動脈 CT で測定される冠動脈石灰化スコア(CAC)で評価できます。CAC が 1000 を超える患者さんでは、心筋梗塞・脳卒中・死亡のリスクが劇的に増加していました。さらに重要な発見は、冠動脈バイパス術(CABG)と経皮的冠動脈インターベンション(PCI/ステント治療)の比較です。CAC が低い患者さんでは CABG と PCI に予後差はありませんでしたが、CAC が 1000 を超える「プラーク負荷の大きい」患者さんでは、CABG のほうが PCI よりも長期予後が有意に良好で(ハザード比 0.75)、これは主に自然発症の心筋梗塞が少ないことによるものでした。つまり、狭い部分だけを治す治療(PCI)では、その先にある膨大な非狭窄性プラークからの心筋梗塞を防げない可能性があるということです。発症前の段階で冠動脈 CT によりプラーク総量を評価し、薬物療法・生活習慣介入を徹底することが、予防医療の最重要戦略となります。

年齢層と民族背景に応じたきめ細かなリスク評価

心血管リスクは年齢・性別・民族・ライフステージによって大きく異なります。2026 年の米国予防医学雑誌に発表された研究では、アジア系アメリカ人 78,559 人を解析し、民族ごと(中国系、フィリピン系、インド系、その他アジア系)・年齢層ごとに心血管リスク因子の有病率が大きく異なることが示されました。フィリピン系アメリカ人では 18-34 歳というごく若い年齢から高血圧、肥満、アルコール、睡眠不足の頻度が有意に高く、インド系アメリカ人では 35-44 歳から糖尿病の頻度が顕著に高いことが判明しました。この知見は日本人にも示唆的です。日本人は欧米人に比べ BMI が低くても内臓脂肪が蓄積しやすく、比較的若年で 2 型糖尿病や高血圧を発症する「やせ型代謝異常」が多いことが知られています。つまり「BMI が正常だから大丈夫」ではなく、体組成・腹囲・空腹時血糖・血圧・脂質を総合的にみて、若い世代から予防を開始することが極めて重要です。当院では 40 歳以降の方はもちろん、30 代からでも生活習慣病リスクを評価し、必要に応じて早期介入を行っています。また、健康診断で軽微な異常を指摘された段階から「様子見」ではなく「科学的根拠に基づく予防行動」に踏み出すことが、10 年後・20 年後の健康を左右します。

脂肪肝(MASLD)は心血管疾患の重要な危険因子

「健康診断で脂肪肝と言われた」――これは決して軽視してはいけない所見です。2026 年に発表された 52 の研究・約数百万人を対象としたメタ解析では、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD、旧称:非アルコール性脂肪性肝疾患 NAFLD)のある方は、ない方に比べて心血管イベントリスクが約 2 倍(プール効果 2.02、95%信頼区間 1.90-2.14)に上昇することが示されました。具体的には 10 年 ASCVD ハイリスク分類のリスクが 1.91 倍、主要心血管イベントのリスクが 1.74 倍でした。MASLD は単なる肝臓の病気ではなく、全身のインスリン抵抗性、慢性炎症、動脈硬化促進という共通の病態生理を反映しています。実際、MASLD患者では高感度 CRP、HOMA-IR、中性脂肪、LDL コレステロール、HbA1c が有意に高く、HDL コレステロールは低下しています。重要なのは、簡便な指標で心血管リスクを追加評価できる点です。FIB-4(年齢・AST・ALT・血小板から算出)が 1.3 以上、脂肪肝指数(FLI)が 30 以上、血圧が 130/85mmHg 以上、TyG 指数(空腹時血糖と中性脂肪から算出)が 8.716 超など、いずれも日常診療で得られる情報から計算でき、心血管リスクを 1.4-2.3 倍程度上乗せします。脂肪肝を指摘されたら、肝臓だけでなく心臓・血管も含めた総合的な評価と生活習慣介入が必要です。

妊娠前・妊娠中の心血管代謝健康が生涯の健康を左右する

近年「ライフコース医療」という考え方が重要視されています。これは「人生のどの段階に介入するかで、将来の健康が大きく変わる」という概念で、特に妊娠期は将来の心血管リスクを大きく規定する重要な時期です。2026 年の米国予防医学雑誌に掲載された研究では、米国の 573 郡・数百万件の出生データを機械学習(ランダムフォレスト)で解析し、妊娠前の肥満・糖尿病・高血圧、および妊娠糖尿病・妊娠高血圧・子癇といった妊娠期合併症に、48 種類の社会環境因子(SEDH)が強く関連することを示しました。特に妊娠前肥満は、社会環境因子だけで最大 73%の地域差が説明できました。最も重要な因子は「一人当たり所得(貧困)」「ヒスパニック系人口比率」「深刻な住宅問題」などでした。妊娠前に高血圧・糖尿病・肥満がある女性は、妊娠合併症のリスクだけでなく、その後の慢性心血管疾患リスクも上昇します。また、妊娠高血圧症候群(子癇前症)の既往は、内皮機能障害のマーカーであり、将来の慢性高血圧・虚血性心疾患・心不全・脳卒中の強力な予測因子です。妊娠・出産を経験された女性は、産後の心血管健康チェックを受けていただくことを強くお勧めします。

急性冠症候群後の LDL コレステロール管理は「長く、低く」

心筋梗塞や狭心症(急性冠症候群、ACS)を経験された方にとって、再発予防(二次予防)は極めて重要です。2026 年にスペインから発表された 636 名・中央値 5.8 年の縦断解析では、ACS 後の LDL コレステロール(LDL-C)の長期動態とその予後への影響が詳細に検討されました。ガイドライン上は「55mg/dL 未満かつベースラインから 50%以上の低下」が推奨されていますが、実臨床では達成率が著しく低く、この研究でも目標達成は全測定値の 25%にとどまり、LDL-C が目標範囲内にある時間の割合(TTR)の中央値はわずか 18.1%でした。さらに重要な発見は、LDL-C と心血管死亡の関連に「時間依存性」があることです。ACS 発症から 1 年時点では LDL-C と心血管死亡に有意な関連はありませんでしたが、3 年時点では LDL-C が 10mg/dL 高いごとに心血管死亡リスクが 1.12 倍、5 年時点では 1.28 倍、6 年時点では 1.35 倍と、時間とともに関連が強まっていきました。時間加重平均 LDL-C で 100mg/dL 以上の群は、55mg/dL 未満の群に比べ心血管死亡リスクが約 5 倍でした。つまり LDL-C は「一時的に下げる」のではなく「長期間一貫して低く保つ」ことが重要であり、ACS 後は再発予防のための脂質管理を生涯にわたって継続する必要があります。当院では 2026 年脂質異常症ガイドラインに基づき、ハイリスク患者の厳格な LDL-C 管理を行っています。

PREVENT 方程式 ― 新しい心血管リスク評価ツール

2023 年から 2024 年にかけて、米国心臓協会(AHA)は従来の Pooled Cohort Equations(PCE)に代わる新しい心血管リスク評価ツール「PREVENT(Predicting Risk of cardiovascular disease EVENTs)」を発表しました。PCE は長年使われてきましたが、対象が動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のみで、30 歳から 79 歳までの 10 年リスクしか評価できませんでした。PREVENT はこれを大きく拡張し、①心不全を含む総合的な心血管リスクを評価、②30 年までの長期リスクも算出可能、③腎機能(eGFR、UACR)、HbA1c、社会経済的剥奪指数(SDI)など心腎代謝リスクを統合、④年齢も 30-79 歳に拡張、という特徴を持ちます。これは「心血管・代謝・腎臓は一つの連続体」という本コラム第 2 章の考え方を、リスク評価ツールとして実装したものです。PREVENT により、従来は見落とされがちだった若年者や、腎機能が軽度低下した方、軽度の代謝異常がある方のリスクも正確に評価できるようになりました。さらに、CAC(冠動脈石灰化スコア)、生物学的年齢(HemeAge)、FIB-4 などのバイオマーカーを組み合わせることで、PREVENT のベースライン評価をさらに精緻化できる可能性があります。当院では健康診断結果をもとに PREVENT による長期リスク評価を行い、患者さんと共にライフステージに応じた予防計画を立てています。

エクスポソームと健康寿命 ― 遺伝より環境・生活習慣が重要

「体質だから仕方ない」「家系なので諦めている」――このように感じる患者さんは少なくありません。しかし 2025 年に Nature Medicine 誌に発表された Argentieri らによる画期的な研究は、この考えを根本から覆しました。UK バイオバンク約 50 万人のデータを用いてエクスポソーム(人が生涯で曝露されるすべての環境・生活習慣因子の総体)と遺伝因子を比較した結果、死亡率と主要慢性疾患の発症に対する寄与度は、環境・生活習慣因子が約 97%に対し、遺伝因子はわずか 3%という結果でした。特に心血管疾患では、喫煙、身体活動量、社会経済的地位、睡眠、BMI、社会的孤立、食事パターンといった修正可能な因子が圧倒的に大きな影響を持っていました。これは「健康寿命の大部分は自分で変えられる」という強いメッセージです。Medicine 3.0 と呼ばれる新しい予防医療のパラダイムは、まさにこの考え方に基づき、①代謝健康(体組成、インスリン感受性、栄養)、②運動(持久力、筋力、安定性)、③睡眠、④感情の健康、⑤薬剤と栄養補助、という 5 つの柱で介入を行います。当院のロンジェビティクリニック的アプローチも、この枠組みに沿って設計されています。遺伝子検査で「リスクが高い」と言われても絶望する必要はありません。むしろ、環境と生活習慣の最適化によってリスクを軌道修正できるのです。

まとめ ― いまできること

予防医療は歴史的な転換点にあります。ガイドラインは心血管・代謝・腎臓を統合的に捉える方向へ進化し、バイオマーカー(HemeAge、FIB-4、CAC、PREVENT)によるリスク評価はかつてなく精緻化されました。そして何より重要なのは、死亡と慢性疾患リスクの大部分は「変えられる因子」によって規定されているという科学的事実です。心臓病・脳卒中・糖尿病・認知症は、ある日突然やってくるのではなく、数十年かけてゆっくりと進行します。しかしその軌道は、早期の評価と介入によって大きく変えることができます。「まだ症状がないから大丈夫」ではなく「症状がない今こそ、未来を変えるチャンス」という発想への転換が、これからの時代の健康づくりの鍵です。

まんかいメディカルクリニックでは、最新のエビデンスに基づく一次予防・二次予防プログラム(呼吸器内科、生活習慣病管理、運動療法指定施設、GLP-1 受容体作動薬プログラム、人間ドック)を通じて、患者さん一人ひとりの「心血管代謝健康」の最適化をお手伝いします。健康診断で気になる数値があった方、ご家族に心血管疾患の方がいる方、症状はないが将来が心配な方――どなたもお気軽にご相談ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 生物学的年齢(HemeAge)とは何ですか?血液検査でわかるのですか?

A. 生物学的年齢とは、暦年齢(実年齢)とは別に、その人の身体が実際にどの程度の「老化度」にあるかを示す指標です。2026 年に発表された HemeAge 研究では、一般的な血算(完全血球数、CBC)と機械学習を用いて生物学的年齢を推定できることが示されました。特に赤血球容積分布幅(RDW)、平均赤血球容積(MCV)、好中球数が重要な予測因子です。生物学的年齢が実年齢より 10 歳以上高い方は死亡リスクが約 3 倍、主要心血管イベントリスクが約 1.4 倍に上昇する一方、10 歳以上若い方はそれぞれ 0.59 倍、0.76 倍とリスクが低いことがわかっています。当院では通常の血液検査から得られるデータで、将来の心血管リスクを予測する取り組みを進めています。

Q2. 健康診断で冠動脈石灰化スコア(CAC)が高いと言われました。どう対処すればよいですか?

A. 冠動脈石灰化スコア(CAC)は、冠動脈 CT で測定されるプラーク総量の最も信頼できる指標です。2026 年の西デンマーク心臓レジストリ解析(85,512 例)では、CAC が高い方ほど心筋梗塞・脳卒中・死亡のリスクが段階的に高くなることが確認されました。特に CAC が 1000 を超える場合は「超高リスク」と判断されます。ただし、CAC が高いこと自体を「治す」ことはできなくても、将来の心血管イベントは生活習慣介入(禁煙、運動、食事、睡眠)と薬物療法(スタチン、場合により降圧薬、糖尿病治療薬など)によって大きく減らせます。CAC が指摘された方は、動脈硬化性疾患のハイリスク群として、LDL コレステロールをより厳格に管理し(多くの場合 70mg/dL 未満、場合により 55mg/dL 未満が目標)、血圧と血糖の最適化、定期的なフォローアップが推奨されます。当院で詳しくご相談ください。

Q3. 脂肪肝と言われました。肝臓以外にも影響はあるのですか?

A. 脂肪肝(MASLD、旧称 NAFLD)は肝臓だけの病気ではなく、全身の代謝異常と動脈硬化を反映する重要な所見です。2026 年に発表された 52 研究・数百万人を対象としたメタ解析では、MASLD のある方は心血管イベントリスクが約 2 倍(ハザード比 2.02)に上昇することが示されました。これは糖尿病・脂質異常症・高血圧などのリスク因子を調整しても有意でした。脂肪肝の背景には、インスリン抵抗性、慢性炎症、内臓脂肪の蓄積、腸内環境の乱れなどがあり、これらはいずれも動脈硬化を促進する病態です。脂肪肝を指摘されたら、肝機能検査だけでなく、血圧、空腹時血糖、HbA1c、脂質プロファイル、腹囲、FIB-4(肝線維化指標)、必要に応じて心血管リスク評価を総合的に行うことが重要です。治療の基本は生活習慣の改善(体重の 5-10%減量、地中海式食事、週 150 分以上の有酸素運動、筋力トレーニング)であり、必要に応じて GLP-1 受容体作動薬などの薬物療法も検討されます。

Q4. 心筋梗塞後、LDL コレステロールはどのくらいまで下げるべきですか?

A. 急性冠症候群(ACS、心筋梗塞や不安定狭心症)を経験された方は「超高リスク群」に分類され、現行の欧州ガイドライン(2019 年改訂・2025 年更新)および 2026 年脂質異常症ガイドラインでは「LDL コレステロール 55mg/dL 未満かつベースラインから 50%以上の低下」が目標とされています(推奨クラス I、エビデンスレベル A)。さらに 2026 年のスペインの縦断研究(636 名、中央値 5.8 年追跡)では、LDL コレステロールと心血管死亡の関連が時間とともに強まることが示され、1 年時点では関連がなかったものが、3 年時点では LDL-C が 10mg/dL 高いごとに死亡リスク 1.12 倍、6 年時点では 1.35 倍となりました。つまり「一時的に下げる」のではなく「長期間一貫して低く保つ」ことが極めて重要です。実臨床では目標達成が難しいことも多いため、スタチン単独で不十分な場合はエゼチミブ、PCSK9 阻害薬、ベムペド酸などの併用療法が必要になります。自己判断での中断は絶対に避け、主治医と相談しながら生涯にわたる管理を続けましょう。

Q5. 予防医療でいま最も大切なことは何ですか?

A. 最も大切なのは「症状が出る前に行動する」ことです。2025 年に Nature Medicine 誌に発表された研究では、死亡率と主要慢性疾患の発症への寄与度は、環境・生活習慣因子(エクスポソーム)が約 17%に対し、遺伝因子はわずか 2%と報告されました。これは「健康寿命の大部分は自分で変えられる」という科学的事実を示しています。具体的には、①喫煙者は禁煙、②週150 分以上の中強度有酸素運動と週2 回の筋力トレーニング、③地中海式食事または和食をベースにした質の高い食事、④7-9 時間の規則正しい睡眠、⑤アルコールは控えめに、⑥年 1 回以上の健康診断と必要に応じた精密検査、⑦LDL コレステロール・血圧・血糖・BMI・腹囲の把握と管理、⑧ストレス管理と社会的つながりの維持、が重要です。そして最も見落とされがちなのが「症状がないから受診しない」という考え方です。心筋梗塞・脳卒中の多くは「初めての症状=重篤な発作」です。まんかいメディカルクリニックでは、症状がない段階での予防的評価と介入を重視しています。ぜひ早めにご相談ください。

参考文献

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※本コラムは医学的情報の提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。
気になる症状や検査結果がある方は、必ず医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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