【高血圧】血圧の薬は「増やす」より「組み合わせる」―716 試験 16 万人が示した、副作用を抑えて続けられる高血圧治療―
はじめに ― 「薬 = 我慢」というイメージを見直す
血圧の薬を飲み始めると、「一生やめられないのでは」「副作用が心配」「だんだん薬が増えていくのが不安」と感じる方は少なくありません。実際に副作用への懸念は、世界的に高血圧の治療が不十分なまま放置される大きな原因とされています。
2026 年に医学雑誌 JAMA に発表された、716 本の臨床試験・約 16 万人分のデータを統合した大規模なネットワークメタ解析(Wang et al., JAMA 2026)は、この「副作用と続けやすさ」という、患者さんにとって最も切実なテーマに正面から答えた研究です。そこで示された意外な事実は、薬の種類や組み合わせによって「副作用で薬をやめてしまう率」が大きく異なり、なかにはプラセボ(偽薬)よりも中止が少ない――つまり、飲んだほうがむしろ体調が楽になる組み合わせがあるということでした。
本コラムでは、日本で高血圧治療によく使われる薬を、それぞれの「個性」と副作用とともにやさしく解説します。あわせて、「少量の薬を上手に組み合わせる」という考え方、そして見逃してはいけない隠れた高血圧の原因についてもお伝えします。
1. 大切なのは「続けられること」 ― 飲めない薬は効かない
高血圧治療の本当の目的は、血圧の数字を下げること自体ではなく、その先にある脳卒中・心筋梗塞・腎臓病・心不全といった重大な病気を防ぐことにあります。そのためには、血圧を下げる力と同じくらい、「治療を続けられること」が決定的に重要です。どれほど効く薬でも、副作用でやめてしまえば、得られる効果はゼロになってしまうからです。
Wang et al.(JAMA 2026)は、「副作用による治療中止」を、薬の種類を問わずその治療がどれだけ続けやすいかを映し出す総合的なものさしと位置づけました。716 試験を統合した結果、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)を含む組み合わせは中止が少なく、なかでも ARB と Ca 拮抗薬の 2 剤併用が最も続けやすい治療と評価されました。逆に、Ca 拮抗薬だけの単独使用や、β 遮断薬と利尿薬の組み合わせは、中止がやや多い傾向にありました。
さらに興味深いことに、ARB 単独や ARB+Ca 拮抗薬では、偽薬よりも中止が少ない、すなわち「飲んだほうが全体として症状が楽になっている」可能性まで示されました。降圧薬に対して多くの方が抱く「薬は我慢して飲むもの」というイメージは、必ずしも正しくないのです。
2. 日本でよく使う 3 つの降圧薬と、その「個性」
日本の外来で中心的に使われる降圧薬は、大きく 3 つのグループに分けられます。それぞれにはっきりとした「個性」があります。
まずは Ca 拮抗薬(代表薬:アムロジピン)。血管を広げて確実に血圧を下げる、頼れる主役です。用量を増やすほど血圧が下がっていく「素直な」薬ですが、その分、足のむくみ(浮腫)も用量に比例して増え、特に高用量(10mg)で目立ちます(Law et al., BMJ 2003)。
次に ARB(代表薬:テルミサルタン、アジルサルタンなど)。血圧を上げる体内のホルモン系をブロックする薬で、最大の特徴は「少ない量でほぼ効果が出そろう」ことです。最大用量の 4 分の 1 で効果の 6〜7 割、半量で約 8 割に達するとされ、量を増やしても降圧効果はそれほど大きく伸びません。一方で、量を増やしても副作用による中止が増えにくいという、他の薬にない長所があります。
そして利尿薬(代表薬:インダパミドなどのサイアザイド系)。体内の余分な塩分と水分を抜くことで血圧を下げます。こちらは「ごく少量で降圧効果がほぼ最大」に達し、増やしても効果は伸びにくい一方、電解質異常などの副作用は増量とともに増えていきます(Law et al., BMJ 2003)。3 剤とも性格がまったく異なるため、「どれを、どの量で、どう組み合わせるか」が治療の腕の見せどころになります。
3. 「増やすほど効く薬」と「そうでない薬」 ― 用量の考え方
降圧薬を理解するうえで知っておきたいのが、「降圧効果の伸び方」と「副作用の増え方」が薬ごとに違うという事実です。この二つの関係を知ると、なぜ薬の使い方が薬ごとに変わるのかが見えてきます。
Ca 拮抗薬(アムロジピン)は、降圧も副作用(むくみ)も用量に比例して増えます。「下げたいけれど、増やすほどむくむ」という関係です。だからこそ、むくみが出にくい範囲で使うのが基本になります。利尿薬は、ごく少量で降圧効果がほぼ最大に達する一方、副作用は増量で急に増えます。そのため「最小量で使う」のが理にかなっています。
ARB はこの両者とまったく違います。降圧効果は低用量で頭打ちに近づきますが、副作用は増量してもほとんど増えません。さらに ARB には、血圧を下げる作用とは独立して、蛋白尿(尿に漏れ出すタンパク)や心臓の肥大(左室肥大)を抑える「臓器を守る」作用があり、これは用量を増やすほど強まると考えられています。テルミサルタンが微量アルブミン尿から本格的な腎症への進行を抑えた INNOVATION 試験(Makino et al., Diabetes Care 2007)は、その代表例です。つまり ARB は、臓器保護が必要なら積極的に増やす価値がある薬なのです。
4. なぜ早くから「少量を 2 種類」なのか
かつての高血圧治療は、「1 種類を最大量まで増やし、ダメなら次を足す」のが一般的でした。しかし現在の欧米の主要ガイドラインは、多くの患者さんに対して「最初から低用量の 2 剤併用(できれば 1 錠にまとめた配合錠)」を推奨しています(2024 年 ESC ガイドライン、2025 年 ACC/AHA ガイドライン)。
理由は明快です。1 種類を無理に増やすより、作用の異なる 2 種類を少量ずつ組み合わせたほうが、副作用を抑えながら効率よく血圧が下がるからです。実際、テルミサルタン・アムロジピン・インダパミドを 4 分の 1 量から組み合わせた低用量配合錠は、各成分を低用量で合わせるだけで、良好な降圧と高い続けやすさを両立しました(Rodgers et al., Lancet 2024)。
組み合わせの「中身」も重要です。ACCOMPLISH 試験(Jamerson et al., NEJM 2008)では、RAS 阻害薬+Ca 拮抗薬の組み合わせが、RAS 阻害薬+利尿薬よりも心血管イベントを約 20%多く減らしました。先ほどの JAMA 2026 のメタ解析でも、ARB+Ca 拮抗薬は最も続けやすい組み合わせでした。こうした根拠から、当院では早期から ARB とアムロジピンを組み合わせ、血圧の微調整はアムロジピンの少量(2.5〜5mg)を中心に行い、むくみの多い高用量はできるだけ避ける方針をとっています。蛋白尿や心臓の肥大がある方では、臓器を守るために ARB をしっかり増やす――薬ごとに「ちょうどよい使い方」を変えているのです。
5. 副作用の正体を知る ― むくみ・めまい・頭痛・せき
薬を安心して続けるには、「どの症状が、どの薬で起こりやすいか」を知っておくことが大きな助けになります。Wang et al.(JAMA 2026)は、主な症状ごとに薬の傾向を整理しました。
むくみ(浮腫)は、Ca 拮抗薬で最も多く、単独使用では偽薬の約 4.7 倍にのぼります。ただし ARB や利尿薬と併用すると、むくみは和らぐことが知られています。めまい・ふらつきは、ほぼすべての降圧薬で増え、特に血圧をしっかり下げる 2 剤併用で増えます。これは血圧が下がっている証でもあり、立ちくらみとして自覚されることが多い症状です。
意外なのは頭痛です。Ca 拮抗薬の単独使用を除くほとんどの降圧薬は、頭痛を「減らし」ます。ARB+Ca 拮抗薬では、偽薬より約 4%も頭痛が減りました。頭痛はしばしば副作用と誤解されますが、実際には治療で楽になる症状という側面があるのです。せきは、ACE 阻害薬に特有の空せきとして知られますが、ARB ではほとんど起こりません。日本で ACE 阻害薬より ARB が好まれる理由の一つです。こうした知識は、症状の『犯人探し』にも役立ちます――新たなむくみは Ca 拮抗薬、立ちくらみは降圧そのもの、頭痛は多くの場合どの薬も原因になりにくい、と整理できるのです。
6. 「下がらない高血圧」に隠れた原因 ― アルドステロン症と睡眠時無呼吸
薬を組み合わせてもなかなか下がらない、あるいは若くして高血圧になった、血液中のカリウムが低い――こうした場合には、「二次性高血圧」という、原因のはっきりした高血圧が隠れていることがあります。当院では、なかでも頻度が高く、かつ治療法のある 2 つ――原発性アルドステロン症と睡眠時無呼吸――を積極的に調べることにしています。
原発性アルドステロン症は、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される状態です。かつては稀と考えられていましたが、近年その頻度は大きく見直されました。米国の研究では、なかなか下がらない治療抵抗性高血圧の約 22%に、生化学的に明らかな原発性アルドステロン症が見つかったと報告されています(Brown et al., Ann Intern Med 2020)。見逃すと脳卒中や腎障害のリスクが高まる一方、適切な薬や手術で改善が期待できるため、見つける価値の高い病気です。
睡眠時無呼吸も、血圧が下がりにくい高血圧の重要な背景です。世界規模で患者個別データを統合した解析(Pengo et al., Eur Respir J 2025)では、CPAP(持続陽圧呼吸)治療は、特に「血圧がコントロールできていない患者さん」で血圧を下げる効果が大きいことが示されました。いびき、日中の眠気がある、といった方は、ぜひ一度ご相談ください。当院では睡眠時無呼吸の検査にも対応しています。
7. 薬の土台は生活習慣 ― 減塩は「降圧薬 1 剤分」の力
ここまで薬の話を続けてきましたが、すべての土台になるのは生活習慣、とりわけ減塩です。これは、すでに薬を飲んでいる方にとっても変わりません。
JAMA に発表された CARDIA-SSBP 試験(Gupta et al., JAMA 2023)は、わずか 1 週間の減塩食で、収縮期血圧が平均約 8mmHg 下がることを示しました。これは降圧薬 1 剤(少量の利尿薬)に匹敵する効果です。しかも参加者の約 4 分の 3 で血圧が下がり、すでに薬を飲んでいる人でも効果がみられました。塩分を控えることは、それだけで立派な「治療」なのです。
最新の欧米ガイドライン(2024 年 ESC、2025 年 ACC/AHA)も、減塩・適正体重の維持・運動・節酒・禁煙といった生活習慣の改善を、薬物治療と並ぶ柱として明確に位置づけています。生活習慣は「薬を始める前の段階」だけのものではなく、「薬を減らす・効きをよくする」ための強力な味方でもあります。当院では指定運動療法施設を併設し、食事・運動を含めた包括的な高血圧管理を行っています。
おわりに ― あなたに合う「組み合わせ」と「量」を一緒に
高血圧治療は、「強い薬を 1 種類、我慢して飲む」時代から、「個性の違う薬を、それぞれちょうどよい量で、上手に組み合わせる」時代へと変わりました。716 試験・約 16 万人を統合した JAMA 2026 のメタ解析は、ARB を含む組み合わせ、とりわけ ARB+Ca 拮抗薬が最も続けやすいことを示し、なかには偽薬より体調が楽になる治療があることまで明らかにしました。
大切なのは、副作用を正しく理解すること、必要なら隠れた原因(原発性アルドステロン症・睡眠時無呼吸)を調べること、そして減塩という土台を整えることです。そのうえで、あなたに合った薬の「組み合わせ」と「量」を、主治医と一緒に少しずつ見つけていくこと。それが、無理なく続けられる高血圧治療への近道です。
当院は内科・呼吸器内科を軸に、CT・超音波・心電図などの院内検査、睡眠時無呼吸の検査、食事療法、運動療法までを一貫して行える体制を整えています。血圧やお薬のことで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 血圧の薬は、一度飲み始めたら一生やめられないのですか?
必ずしもそうではありません。生活習慣の改善(特に減塩)や、原因のある高血圧(二次性高血圧)の治療によって、薬を減らせる・やめられる方もいます。CARDIA-SSBP 試験(Gupta et al., JAMA 2023)では、1 週間の減塩で収縮期血圧が平均約 8mmHg 下がり、これは降圧薬 1 剤に匹敵しました。ただし、自己判断での中断は血圧の急上昇を招く危険があります。減量・中止は必ず主治医と相談しながら進めてください。
Q2. アムロジピンで足がむくみます。やめたほうがよいですか?
むくみは Ca 拮抗薬(アムロジピン)に特徴的な副作用で、用量が多いほど起こりやすくなります(Law et al., BMJ 2003)。多くの場合、薬を中止しなくても対処できます。ARB や利尿薬を併用するとむくみが和らぐことが知られており、当院ではアムロジピンを少量(2.5〜5mg)にとどめ、ARB と組み合わせる方針をとっています。気になるときは自己判断で中断せず、量の調整や薬の変更をご相談ください。
Q3. 薬は 1 種類を増やすのと、2 種類を少量ずつ飲むのと、どちらがよいですか?
多くの場合、後者(低用量の 2 剤併用)が勧められます。1 種類を増やすと副作用が増えやすい薬がある一方、作用の異なる 2 剤を少量ずつ組み合わせると、副作用を抑えながら効率よく血圧が下がるからです。低用量 3 剤配合錠の国際試験(Rodgers et al., Lancet 2024)や 2024 年 ESC ガイドラインも、早期からの低用量併用(配合錠)を支持しています。
Q4. ARB(テルミサルタンなど)は、量を増やしたほうがよいのですか?
血圧を下げる目的だけなら、ARB は低用量でほぼ効果が出そろうため、無理に増やす必要はありません。ただし、尿にタンパクが漏れている方(アルブミン尿)や、心臓の肥大がある方では、血圧とは別に「臓器を守る」効果が期待でき、これは量を増やすほど強まると考えられています。テルミサルタンの腎保護を示した INNOVATION 試験(Makino et al., Diabetes Care 2007)がその一例です。増量しても副作用による中止が増えにくいのも、ARB の大きな長所です。
Q5. 何種類も薬を飲んでいるのに血圧が下がりません。原因は?
3 剤以上でも下がらない「治療抵抗性高血圧」では、隠れた原因が見つかることがあります。代表が原発性アルドステロン症と睡眠時無呼吸です。米国の研究では、治療抵抗性高血圧の約 22%に原発性アルドステロン症が見つかりました(Brown et al., Ann Intern Med 2020)。睡眠時無呼吸も背景になりやすく、CPAP 治療で血圧が下がることが示されています(Pengo et al., Eur Respir J 2025)。いずれも検査で見つけられ、治療法もあります。当院で一度調べてみることをお勧めします。
参考文献
- Wang N, Van Der Hoorn S, Pant R, et al. Adverse effects and treatment discontinuation of blood pressure-lowering drugs and combinations: a network meta-analysis. JAMA. 2026;335(24):2135-2145. https://doi.org/10.1001/jama.2026.6214
- Law MR, Wald NJ, Morris JK, Jordan RE. Value of low dose combination treatment with blood pressure lowering drugs: analysis of 354 randomised trials. BMJ. 2003;326(7404):1427. https://doi.org/10.1136/bmj.326.7404.1427
- Jamerson K, Weber MA, Bakris GL, et al; ACCOMPLISH Trial Investigators. Benazepril plus amlodipine or hydrochlorothiazide for hypertension in high-risk patients. N Engl J Med. 2008;359(23):2417-2428. https://doi.org/10.1056/NEJMoa0806182
- Rodgers A, Salam A, Schutte AE, et al; GMRx2 Investigators. Efficacy and safety of a novel low-dose triple single-pill combination of telmisartan, amlodipine and indapamide, compared with dual combinations for treatment of hypertension. Lancet. 2024;404(10462):1536-1546. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01744-6
- McEvoy JW, McCarthy CP, Bruno RM, et al. 2024 ESC guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension. Eur Heart J. 2024;45(38):3912-4018. https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehae178
- Jones DW, Ferdinand KC, Taler SJ, et al. 2025 AHA/ACC guideline for the prevention, detection, evaluation, and management of high blood pressure in adults. J Am Coll Cardiol. 2025. https://doi.org/10.1016/j.jacc.2025.05.007
- Makino H, Haneda M, Babazono T, et al; INNOVATION Study Group. Prevention of transition from incipient to overt nephropathy with telmisartan in patients with type 2 diabetes. Diabetes Care. 2007;30(6):1577-1578. https://doi.org/10.2337/dc06-1998
- Brown JM, Siddiqui M, Calhoun DA, et al. The unrecognized prevalence of primary aldosteronism: a cross-sectional study. Ann Intern Med. 2020;173(1):10-20. https://doi.org/10.7326/M20-0065
- Pengo MF, Schwarz EI, Barbe F, et al. Effect of CPAP therapy on blood pressure in patients with obstructive sleep apnoea: a worldwide individual patient data meta-analysis. Eur Respir J. 2025;65(1):2400837. https://doi.org/10.1183/13993003.00837-2024
- Gupta DK, Lewis CE, Varady KA, et al. Effect of dietary sodium on blood pressure: a crossover trial. JAMA. 2023;330(23):2258-2266. https://doi.org/10.1001/jama.2023.23651
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
