【高血圧】クリニックの血圧計は壊れていません―「家ではこんなに高くない」の“差”に潜む、血圧のばらつきという心血管リスク―
はじめに ― 診察のたびに変わる血圧、気にしていますか
「今日は少し高いですね」「前回は低かったのに」――健康診断や外来で、受診のたびに血圧の数字が上下してとまどった経験はありませんか。多くの方は「その日の体調や緊張のせい」と考え、あまり気に留めません。しかし近年、この“受診ごとの血圧のばらつき(受診間血圧変動性、visit-to-visit blood pressure variability: VVV BPV)”そのものが、平均血圧とは独立した心臓・血管の危険信号であることが明らかになってきました。
きっかけは 2010 年に Lancet 誌に報告された Rothwell らの研究で、受診ごとの収縮期血圧のばらつきが、平均血圧とは別に脳卒中を強く予測することが示されました(Rothwell et al., Lancet 2010)。そして 2026 年、European Journal of Preventive Cardiology 誌に、49 の研究・のべ数百万人を統合した最新のメタ解析が発表され、血圧のばらつきが心血管病(CVD)の発症を約 6 年先まで予測しうること、そして「どのくらいのばらつきから危険か」という具体的な目安までが示されました(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。
本コラムでは、この最新エビデンスをもとに、血圧の“平均値”だけでは見えないもう一つのリスク―受診ごとのばらつき―について、なぜ体に悪いのか、どのくらいが危険なのか、そして私たちに何ができるのかを、わかりやすく解説します。
1. 「血圧のばらつき」とは何か ― 平均値では見えないもう一つの指標
血圧の管理というと、多くの方は「上が 140 を超えないように」といった“平均的な高さ”に注目します。もちろん平均血圧は最も基本的で重要な指標です。しかし、同じ「平均 135」でも、毎回きれいに 130〜140 にそろっている人と、ある日は 110、別の日は 160 と大きく揺れる人とでは、血管が受けるダメージは異なると考えられています。この“揺れの大きさ”を数値化したものが血圧変動性です。
受診ごとのばらつきは、複数回の受診で測った血圧の散らばり具合として表されます。研究では、標準偏差(SD)、変動係数(CV=標準偏差÷平均血圧)、平均血圧に依存しない指標(VIM)、連続する測定値の差の平均(ARV)などが用いられます(Rothwell et al., Lancet 2010)。なかでも SD と CV は計算がしやすく、日常のカルテデータからも算出できるため、実臨床への応用が期待されています(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。
2024 年に改訂された欧州心臓病学会(ESC)の高血圧ガイドラインでも、単回の外来血圧に頼らず、複数回・複数の場面での測定を重視する方向性が打ち出されました(McEvoy et al., Eur Heart J 2024)。血圧を“点”ではなく“線”として、時間の流れのなかでとらえることが、これからの血圧管理の鍵になります。
2. なぜ「ばらつき」が体に悪いのか ― 血管への負担のメカニズム
では、血圧が大きく揺れることは、なぜ血管や心臓に悪いのでしょうか。血圧が急に上がったり下がったりを繰り返すと、血管の内側を覆う内皮細胞に機械的なストレスがかかり、血管をしなやかに保つ機能(内皮機能)が損なわれると考えられています。さらに、動脈の“硬さ”(動脈硬化・動脈スティフネス)が進むと血圧を一定に保つ緩衝作用が弱まり、変動そのものが大きくなる――という悪循環も指摘されています。
2025 年に European Journal of Preventive Cardiology 誌に掲載された論評は、この現象を「変動性(variability)から脆弱性(vulnerability)へ」と表現し、血圧の揺れが臓器の傷つきやすさを映し出す指標であると論じています(Koutsopoulos et al., Eur J Prev Cardiol 2025)。血圧の乱高下は、脳や心臓、腎臓といった血流に敏感な臓器に、繰り返し負担をかけているのです。
実際、2025 年に European Heart Journal 誌に報告された英国 UK バイオバンクの大規模研究では、収縮期血圧のばらつきが大きい人ほど、心血管イベントだけでなく慢性腎臓病・認知症・死亡のリスクも高いことが示されました(Cheng et al., Eur Heart J 2025)。血圧の揺れは、心臓だけの問題ではなく、全身の血管の健康を映す鏡だといえます。
3. 49 の研究が示したエビデンス ― 受診ごとの変動と心血管病
血圧のばらつきと心血管病の関係については、これまで多くの研究が積み重ねられてきました。2026 年に発表された最新のメタ解析は、世界中の 49 研究(電子カルテを用いた 20 研究と、臨床試験・観察研究による 29 研究)を統合し、参加者数は最大で約 800 万人規模にのぼる、この分野で最も包括的な検証のひとつです(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。
その結果、受診ごとの収縮期血圧のばらつきが 1 段階大きくなるごとに、心血管病全体の発症リスクは有意に上昇し、脳血管障害(脳卒中)で 18%、心不全で 14%、冠動脈疾患・心筋梗塞で 19%、そして心血管死では 21%高まることが示されました(それぞれハザード比 1.18、1.14、1.19、1.21)。さらに拡張期血圧(下の血圧)のばらつきでも、心血管病全体で 27%リスクが上がるなど、上の血圧に劣らない関連が確認されています。
重要なのは、これらの関連が“平均血圧とは独立して”認められた点です。つまり、平均値が良好にコントロールされていても、ばらつきが大きければ別のリスクが残っている可能性がある――ということを、大規模なデータが裏づけたのです。
4. どのくらいのばらつきが危険か ― 新しい“目安”という前進
これまで、血圧のばらつきは「大きいほど良くない」とわかっていても、「どこからが危険なのか」という具体的な線引きがありませんでした。2026 年のメタ解析は、用量反応解析という手法を用いて、この“境界”を初めて数値で示した点で画期的です(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。
その解析によれば、受診ごとの収縮期血圧の標準偏差(SD)が約 6.72 mmHg、または変動係数(CV)が約 9.05%を超えると、心血管病のリスクがおよそ 10%高まることが示されました。さらにばらつきが大きくなるにつれてリスクは段階的に上昇し、標準偏差が 20 mmHg に達する場合には、リスクが約 1.85 倍にまで高まると推定されています。これは、血圧の揺れが大きいほど危険度が増していく“坂道”のような関係(用量反応関係)を示すものです。
この論文があえて「10%上昇」という比較的低い基準を採用したのは、多くの心血管リスク評価が 10〜20%を高リスクの目安とするなかで、より早い段階でリスクに気づき、予防を始められるようにするためです。数字はあくまで研究上の目安ですが、「平均だけでなく、ばらつきにも注目する」という視点を持つきっかけになります。
5. 脳卒中から心房細動まで ― 変動が高めるさまざまなリスク
血圧のばらつきが高めるのは、単一の病気ではありません。前述のメタ解析では、脳卒中・心不全・冠動脈疾患・心血管死に加え、不整脈である心房細動(AF)についても関連が示唆されています(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。心房細動は脳梗塞の大きな原因となるため、血圧の安定は不整脈予防の観点からも重要です。
たとえば、心房細動をもつ患者さんを対象とした国際的な大規模臨床試験 ENGAGE AF-TIMI 48 の解析では、受診ごとの血圧のばらつきが大きい人ほど、心血管イベントや出血性合併症のリスクが高いことが報告されています(Proietti et al., Hypertens Res 2025)。血圧が乱高下する状態は、詰まる病気だけでなく出血のリスクにも影を落とす可能性があるのです。
注目すべきは、平均血圧が“至適(理想的)”とされる範囲の人でも、ばらつきが大きいと心血管リスクが残るという指摘です。米国の研究では、血圧が良好な成人でも受診ごとの変動が残余リスクの一因となりうることが示されています(Liu et al., J Am Heart Assoc 2022)。「平均が正常だから大丈夫」とは言い切れない――ここに、ばらつきに目を向ける意義があります。
6. 電子カルテが変える血圧管理 ― 日常診療のデータが持つ力
血圧のばらつきを評価するには、複数回の受診記録が必要です。これは一見ハードルが高そうですが、実は日々の診療で蓄積される電子カルテ(EHR)のデータを活用すれば、特別な検査を追加しなくても評価できる可能性があります。
2026 年のメタ解析は、この点についても重要な知見を示しました。電子カルテから求めた血圧のばらつきの予測力(ハザード比 1.17)は、厳密な測定手順を用いた臨床試験など非電子カルテ由来のデータ(同 1.14)と統計学的に差がなく、両者は同等に信頼できると結論づけられたのです(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。日常診療のありふれた血圧データが、心血管リスクの評価に十分役立つことを意味します。
実際、英国の一般診療(プライマリ・ケア)データを用いた UK バイオバンク研究でも、通院のなかで得られた血圧の推移から将来のリスクを予測できることが示されています(Cheng et al., Eur Heart J 2025)。かかりつけ医で継続的に血圧を記録していくこと自体が、将来の病気を見つける“見張り役”になるのです。
7. ばらつきを抑えるためにできること ― 服薬・生活・受診のポイント
では、血圧のばらつきを小さく保つために、私たちに何ができるのでしょうか。まず大切なのは、降圧薬を医師の指示どおりに継続して服用することです。血圧のばらつきは、飲み忘れや自己判断での中断とも関連することが知られており、服薬を安定させること自体が変動を抑える第一歩になります。実際、血圧変動性は服薬アドヒアランス(きちんと飲めているか)の目安にもなると考えられています。
治療の質もばらつきに影響します。血圧をしっかり下げる強化療法と標準療法を比較した SPRINT 試験や STEP 試験の解析では、血圧のコントロールとともに変動性のあり方も予後に関わることが示されています(Chang et al., Hypertension 2017; Yu et al., Hypertension 2023)。2024 年 ESC および 2025 年 AHA/ACC の最新高血圧ガイドラインは、いずれも正しい測定と継続的なモニタリング、生活習慣の改善(減塩、適度な運動、体重管理、禁煙、良質な睡眠)を治療の土台と位置づけています(McEvoy et al., Eur Heart J 2024; Jones et al., Hypertension 2025)。
そして忘れてはならないのが、定期的な受診を続けることです。血圧のばらつきは、一度の測定では決してわかりません。かかりつけ医のもとで血圧の“推移”を見守ることが、平均値では見逃されるリスクを早期にとらえる、最も確実な方法なのです。
おわりに ― 「その日の数字」より「移り変わり」を診る
血圧は、その日の一つの数字で一喜一憂するものではなく、時間の流れのなかで“移り変わり”を見ていくべき指標です。2026 年の大規模メタ解析は、受診ごとの血圧のばらつきが、平均血圧とは独立して脳卒中・心不全・心筋梗塞・心血管死のリスクを高めること、そして標準偏差 6.72 mmHg・変動係数 9.05%という具体的な注意の目安があることを示しました(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。平均が正常でも、ばらつきが大きければ油断はできません。
だからこそ、健康診断や外来で血圧が上下していると感じたら、それを“その日の偶然”で片づけず、かかりつけ医に相談し、継続的に記録していくことをおすすめします。まんかいメディカルクリニックでは、毎回血圧を長期的にモニタリングし、必要に応じて頸動脈超音波や CT による血管評価、運動療法までを一貫してご提供しています。日曜・祝日も診療を行い、皆さまの心臓と血管の健康を継続的に見守ります。血圧の“ゆらぎ”が気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 血圧の平均値が正常なら、ばらつきは気にしなくてよいですか?
平均血圧が良好であることは、もちろん大切な目標です。しかし最新の研究では、平均が理想的な範囲にある人でも、受診ごとの血圧のばらつきが大きいと心血管リスクが残ることが示されています(Liu et al., J Am Heart Assoc 2022)。2026 年のメタ解析でも、ばらつきの影響は平均血圧とは独立して認められました(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。「平均が正常だから安心」ではなく、平均とばらつきの両方に目を向けることが、より確かな予防につながります。
Q2. 血圧のばらつきは、どうやって測るのですか?
特別な機器は不要で、複数回の受診で測った血圧の“散らばり具合”から計算します。医学的には標準偏差(SD)や変動係数(CV)、平均に依存しない指標(VIM)などが使われます(Rothwell et al., Lancet 2010)。ご家庭の血圧手帳や、かかりつけ医の電子カルテに記録された血圧の推移からも評価が可能で、日常診療のデータでも臨床試験と同等に信頼できることが確認されています(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。まずは受診のたびに血圧を記録していくことが出発点です。
Q3. どのくらいのばらつきから注意が必要ですか?
2026 年のメタ解析では、受診ごとの収縮期血圧の標準偏差が約 6.72 mmHg、または変動係数が約 9.05%を超えると、心血管病リスクが約 10%高まると報告されました(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。ばらつきが大きいほどリスクも段階的に上がります。ただしこれは研究上の目安であり、個々人の判断は年齢・持病・平均血圧などを含めて総合的に行う必要があります。数字が気になる場合は、自己判断せず医師にご相談ください。
Q4. ばらつきを小さくするには、どうすればよいですか?
最も基本的なのは、降圧薬を指示どおり継続して服用することです。飲み忘れや自己中断は血圧を不安定にしやすく、変動性は服薬状況の目安にもなると考えられています。加えて、減塩・適度な運動・体重管理・禁煙・良質な睡眠といった生活習慣の改善が土台となります。強化的な血圧管理が予後を改善しうることも臨床試験で示されています(Yu et al., Hypertension 2023)。最新のガイドラインも、正しい測定と継続的なモニタリングを重視しています(Jones et al., Hypertension 2025)。
Q5. 高齢者や糖尿病があっても、同じことがいえますか?
はい。2026 年のメタ解析では、高齢者・糖尿病・高血圧・一般集団など、さまざまな集団で血圧のばらつきと心血管病の関連が一貫して認められました(Lukitasari et al., Eur J Prev Cardiol 2026)。とくに糖尿病のある方は血管の負担が重なりやすく、血圧の安定がより重要になります。2025 年 AHA/ACC ガイドラインも、糖尿病や慢性腎臓病を含む幅広い方に、早期からの丁寧な血圧管理を推奨しています(Jones et al., Hypertension 2025)。持病のある方こそ、継続的な受診と記録が大切です。
参考文献
- Lukitasari M, Jonnagaddala J, Liaw ST, Jalaludin B. Visit-to-visit blood pressure variability and cardiovascular outcomes: a systematic review and dose-response meta-analysis. Eur J Prev Cardiol. 2026;33(7):1127-1137. https://doi.org/10.1093/eurjpc/zwaf546
- Rothwell PM, Howard SC, Dolan E, et al. Prognostic significance of visit-to-visit variability, maximum systolic blood pressure, and episodic hypertension. Lancet. 2010;375(9718):895-905. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(10)60308-X
- Cheng X, Song C, Ouyang F, et al. Systolic blood pressure variability: risk of cardiovascular events, chronic kidney disease, dementia, and death. Eur Heart J. 2025;ehaf256. https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehaf256
- Koutsopoulos G, Tsioufis K, et al. From variability to vulnerability: the prognostic significance of blood pressure fluctuations. Eur J Prev Cardiol. 2025. https://doi.org/10.1093/eurjpc/zwaf772
- McEvoy JW, McCarthy CP, Bruno RM, et al. 2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension. Eur Heart J. 2024;45(38):3912-4018. https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehae178
- Jones DW, Ferdinand KC, Taler SJ, et al. 2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation and Management of High Blood Pressure in Adults. Hypertension. 2025. https://doi.org/10.1161/HYP.0000000000000249
- Proietti R, Palazzolo MG, Ruff CT, Lip GYH, Giugliano RP. Long-term visit-to-visit blood pressure variability and risk of cardiovascular and bleeding events: insights from the ENGAGE AF-TIMI 48 trial. Hypertens Res. 2025. https://doi.org/10.1038/s41440-024-02083-x
- Yu J, Song Q, Bai J, et al. Visit-to-visit blood pressure variability and cardiovascular outcomes in patients receiving intensive versus standard blood pressure control: insights from the STEP trial. Hypertension. 2023;80(7):1507-1516. https://doi.org/10.1161/HYPERTENSIONAHA.122.20376
- Chang TI, Reboussin DM, Chertow GM, et al. Visit-to-visit office blood pressure variability and cardiovascular outcomes in SPRINT (Systolic Blood Pressure Intervention Trial). Hypertension. 2017;70(4):751-758. https://doi.org/10.1161/HYPERTENSIONAHA.117.09788
- Liu M, Chen X, Zhang S, et al. Assessment of visit-to-visit blood pressure variability in adults with optimal blood pressure: a new player in the evaluation of residual cardiovascular risk? J Am Heart Assoc. 2022;11(15):e022716. https://doi.org/10.1161/JAHA.121.022716
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
