【腹囲】内臓脂肪は、がんの土壌―おなか周りが 19 種類のがんを招くメカニズムと、減量がもたらす希望―
はじめに ― お腹の脂肪は、ただの「ぜい肉」ではない
「健康診断でお腹まわりを指摘されたけれど、見た目の問題だから」――そう考えていませんか。しかし近年の研究は、お腹の奥にたまる内臓脂肪が、単なる体型の問題ではなく、糖尿病や心臓病、そして「がん」のリスクを押し上げる存在であることを明らかにしています。2026 年に Nature Metabolism 誌に発表された大規模レビュー(Watts EL ら, Nat Metab 2026)は、過剰な体脂肪が少なくとも 19 種類のがんの原因となること、そしてその負担が今後数十年でさらに増大すると警告しています。
肥満は今や世界で 10 億人を超える人々が抱える健康課題であり、2050 年には世界人口の半分を超える 38 億人が過体重・肥満になると予測されています(Global Burden of Disease 2021 Collaborators, Lancet 2025)。日本でも生活習慣の変化とともに内臓脂肪型の肥満は増え続けています。本コラムでは、この最新レビューをひもときながら、「なぜ内臓脂肪ががんを招くのか」というメカニズムを、ホルモン・インスリン・炎症という 3 つの視点からわかりやすく解説します。さらに、減量によってそのリスクを下げられるのか、最新の GLP-1 薬や画像検査の話題も交えてお伝えします。
1. 内臓脂肪と皮下脂肪はどう違うのか ― 「沈黙の内分泌器官」
ひとくちに「脂肪」といっても、その置かれる場所によって体への影響は大きく異なります。皮膚のすぐ下にたまる皮下脂肪(SAT)に対し、お腹の内臓の周囲、腹腔内にたまるのが内臓脂肪(VAT)です。Nature Metabolism のレビュー(Watts EL ら, Nat Metab 2026)は、この内臓脂肪こそが代謝の悪化と強く結びついていると指摘しています。脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、数千種類のホルモンや炎症性物質を血液中に放出する「内分泌器官」として働いているのです。
とりわけ内臓脂肪は、皮下脂肪に比べてエネルギー代謝が活発で、炎症や腫瘍の増殖を促す物質(プロがん性分泌物=セクレトーム)をより多く放出することが知られています(Hazelwood E ら, J Natl Cancer Inst 2025)。同じ体重でも、脂肪が「どこに」ついているかでリスクが変わりうるのは、このためです。健康診断でおなじみの BMI(体格指数)は身長と体重から計算する簡便な指標ですが、脂肪と筋肉を区別できないという弱点があります。それでも、集団全体でみれば、BMI は体脂肪量とよく相関する(相関係数 r>0.9)ため、世界中の研究でがんとの関連を調べる物差しとして使われ続けています。
2. 肥満は少なくとも 19 種類のがんと関連する ― 世界 150 万人のデータ
今回のレビューの土台となったのは、約 150 万人のがん患者データを統合した系統的レビュー・メタ解析です(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。その結果、BMI の高さは、子宮体がん、食道腺がん、腎がん、胆のうがん、胃がん、肝がん、閉経後乳がん、甲状腺がん、髄膜腫、大腸がん、多発性骨髄腫、白血病、頭頸部がん、膵がん、卵巣がん、非ホジキンリンパ腫、進行性前立腺がん、膀胱がん、神経膠腫(グリオーマ)という 19 種類のがんのリスク上昇と関連していました。
これは 2016 年に国際がん研究機関(IARC)が 13 種類のがんで体脂肪との関連を認めた報告(Lauby-Secretan B ら, N Engl J Med 2016)を、さらに広げる内容です。実際の数字でみると、新たに診断されるがんの約 2.4%は高い BMI に直接起因すると推計され、その割合は男性(1.6%)より女性(3.4%)で高いとされています。高い BMI は、たばこ・飲酒に次ぐ 3 番目に大きながんの危険因子であり、決して軽視できません。一方で、肺がん(非喫煙者)や食道扁平上皮がん、閉経前乳がんではむしろリスクが下がるなど、がんの種類によって関係が異なる点も重要です。460 万人規模のスウェーデンの大規模研究でも、肥満は多くのがんで増加と関連しつつ、種類ごとに方向性や強さが違うことが確認されています(Sun M ら, Lancet Reg Health Eur 2024)。
3. なぜ内臓脂肪ががんを招くのか ― ホルモン(エストロゲン)の暴走
内臓脂肪とがんをつなぐメカニズムの第一は、性ホルモンの乱れです。閉経後の女性や男性では、女性ホルモンであるエストロゲンの多くが、脂肪組織にある「アロマターゼ」という酵素によって男性ホルモンから作られます(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。つまり脂肪が多いほど、体内で作られるエストロゲンの量が増えるのです。エストロゲンは乳房や子宮内膜の細胞増殖を促すため、その過剰は閉経後乳がんや子宮体がんのリスクを高めます。
このレビューによれば、閉経後女性ではエストラジオール(エストロゲンの一種)が、BMI と乳がんの関連のうち約 24%を、エストロゲン受容体陽性のタイプに限れば約 49%を説明すると推定されています。子宮体がんでも、エストロゲンが BMI との関連の約 21%を仲介していました。さらに、脂肪が増えると「性ホルモン結合グロブリン(SHBG)」が減り、結果として組織に入り込める“遊離型”のホルモンが増えることも、この暴走を後押しします。ホルモン補充療法を使っていない女性ほど肥満とがんの関連が強いという事実も、エストロゲンが因果経路の上に乗っていることを裏づけています。
4. なぜ内臓脂肪ががんを招くのか ― 高インスリン血症という「成長の燃料」
第二のメカニズムは、インスリンの過剰です。内臓脂肪がたまると、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が生じ、体はそれを補おうと大量のインスリンを分泌します。この状態を高インスリン血症と呼びます(Gallagher EJ, LeRoith D, Nat Rev Cancer 2020)。インスリンは血糖を下げるホルモンとして知られますが、同時に細胞の増殖を促し、細胞死(アポトーシス)を抑える「成長の燃料」としても働きます。慢性的に高い濃度のインスリンは、がん細胞にとって都合のよい環境を作ってしまうのです。
Nature Metabolism のレビューは、高い空腹時インスリンが、子宮体がん・腎がん・胆のうがん・肝がん・乳がん・膵がん・大腸がんなど多くのがんのリスクと一貫して関連すると報告しています(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。遺伝情報を用いたメンデルランダム化解析では、高い空腹時インスリンが肥満と子宮体がんの関連の約 19%(95%信頼区間 5〜34%)を仲介していました。実際、2 型糖尿病は肝がんなど多くのがんの危険因子(肝がんでは相対リスク 2 以上)であり、内臓脂肪・インスリン・血糖・がんが一本の線でつながっていることがうかがえます。
5. なぜ内臓脂肪ががんを招くのか ― 慢性炎症と脂肪組織の「現場の火種」
第三のメカニズムは、慢性炎症です。肥満は全身に弱い炎症がくすぶり続ける状態であり、脂肪組織はレプチンやアディポネクチンといった「アディポカイン」を分泌して炎症や代謝を調整しています(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。一般に、肥満で増えるレプチンは炎症を促し、肥満で減るアディポネクチンは炎症を抑えて保護的に働くと考えられています。ただし、これら個々の物質とがんの関係は研究によってばらつきがあり、単一の犯人を特定するのは難しいのが現状です。
より重要なのは、脂肪組織そのものが「現場で」起こす局所の炎症です。脂肪細胞が肥大して死ぬと、その周囲にマクロファージが集まって王冠のような構造(crown-like structures)を作り、炎症性物質や遊離脂肪酸を放出します(Quail DF, Dannenberg AJ, Nat Rev Endocrinol 2019)。この火種は、乳房・前立腺・腹部臓器など脂肪に富む場所で、隣接する組織にがんを育てる微小環境を作り出します。さらに、肥満は胃食道逆流症(GERD)→食道腺がん、脂肪肝(MASLD)→肝がん、胆石→胆のうがんといった臓器ごとの慢性炎症・障害も引き起こし、これらの病態はそれぞれの部位のがんリスクを相対リスク 1.5〜16 倍にまで高めると報告されています。
6. 体重を減らせばがんは防げるのか ― 減量・GLP-1・手術のエビデンス
「では、内臓脂肪を減らせばがんのリスクも下がるのか」――これは多くの方が抱く最大の疑問でしょう。最も強いエビデンスがあるのが減量手術(肥満外科手術)です。1 年で約 30%の体重減少をもたらすこの治療は、全体のがん発生率を下げ、とくに子宮体がん(オッズ比 0.43)や閉経後乳がん(同 0.49)のリスク低下と一貫して関連しています(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。生活習慣による減量でも、9kg 以上の減量を維持した閉経後女性で乳がんリスクが下がる(ハザード比 0.68)など、女性ホルモン関連がんで効果が比較的はっきりしています。
近年注目されるのは、GLP-1 受容体作動薬(セマグルチド〔オゼンピック/ウゴービ〕など)です。68 週間で平均 15%の減量効果が示され、肥満治療薬として広く使われ始めました。2 型糖尿病をもつ約 92 万人を対象とした研究では、GLP-1 薬の使用が肥満関連がん全体のリスク低下(ハザード比 0.87、95%信頼区間 0.83〜0.91)と関連していました(Mao X ら, J Natl Cancer Inst 2025)。さらに約 8.7 万人を対象とした最新の研究でも、GLP-1 薬の使用は全体のがんリスク低下(ハザード比 0.83)と関連し、とくに子宮体がん・卵巣がん・髄膜腫で低下がみられました(Dai H ら, JAMA Oncol 2025)。ただし腎がんではリスク上昇の可能性も指摘されており、長期的な検証が続いています。減量とがん予防の因果関係を確かめる決定的な臨床試験は、これからの大きな課題です。
7. BMI だけでは見えない ― 画像で「隠れ内臓脂肪」を見つける時代
体重や BMI が標準範囲でも、内臓脂肪が多い「隠れ肥満」の方は少なくありません。BMI は脂肪と筋肉を区別できないため、本当のリスクを取りこぼす可能性があります(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。そこで近年、CT や MRI で脂肪の「量」だけでなく「分布」を直接測る研究が進んでいます。遺伝情報を用いた解析では、内臓脂肪や肝臓脂肪が多いほど、肝がんのリスクが大きく上がる(オッズ比はそれぞれ 4.29、4.09)ことが示されました(Hazelwood E ら, J Natl Cancer Inst 2025)。
さらに、膵臓そのものにたまる脂肪(膵脂肪)が、膵がんの原因となりうることも、前向きコホートと遺伝解析の両面から示されています(Yamazaki H ら, Cell Rep Med 2024)。これらは、皮下脂肪よりも内臓脂肪・異所性脂肪(本来たまるべきでない場所の脂肪)が、がんと密接に関わることを裏づける知見です。CT や超音波で内臓脂肪を評価することは、見た目だけではわからない「隠れたリスク」を可視化する有力な手段になります。まんかいメディカルクリニックでは、CT や超音波装置により、内臓脂肪や脂肪肝の状態を含めた評価を行うことが可能です。
おわりに ― 内臓脂肪は「変えられるリスク」
内臓脂肪は、ホルモン・インスリン・炎症という 3 つの経路を通じて、少なくとも 19 種類のがんのリスクに関わっています。これは決して不安をあおるための話ではありません。たばこや遺伝と違い、内臓脂肪は食事・運動・適切な医療によって「変えられるリスク」だからです。実際、減量手術や GLP-1 薬による体重減少は、一部のがんリスクを下げうることが示されつつあります(Dai H ら, JAMA Oncol 2025)。まずはご自身の内臓脂肪の状態を「知る」ことが第一歩です。まんかいメディカルクリニックでは、CT・超音波による内臓脂肪・脂肪肝の評価、運動療法、GLP-1 を含む肥満・生活習慣病の管理を一貫して行っています。気になる方は、日曜・祝日診療も含めお気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. BMI が標準範囲なら、内臓脂肪とがんの心配はしなくてよいですか?
必ずしもそうとは言えません。BMI は脂肪と筋肉を区別できず、標準範囲でも内臓脂肪が多い「隠れ肥満」の方がいます。遺伝情報を用いた研究では、内臓脂肪や肝臓脂肪が多いほど肝がんなどのリスクが上がることが示されています(Hazelwood E ら, J Natl Cancer Inst 2025)。体重だけでなく、CT や超音波で脂肪の「分布」を評価することが、より正確なリスク把握につながります。
Q2. すべてのがんが内臓脂肪で増えるのですか?
いいえ。約 150 万人のデータを統合したメタ解析では、肥満は 19 種類のがんでリスク上昇と関連する一方、肺がん(非喫煙者)や食道扁平上皮がん、閉経前乳がんではむしろリスクが下がりました(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。がんの種類によって関係の方向や強さが異なるため、「太っているから必ずがんになる」という単純な話ではありません。あくまでリスクの一因として、変えられる部分を整えることが大切です。
Q3. 減量すれば、上がってしまったがんのリスクは下げられますか?
下げられる可能性が示されています。1 年で約 30%減量する肥満外科手術は、子宮体がん(オッズ比 0.43)や閉経後乳がん(同 0.49)のリスク低下と関連します(Watts EL ら, Nat Metab 2026)。生活習慣による減量でも、9kg 以上の減量を維持した女性で乳がんリスクが下がっています。女性ホルモン関連のがんで、特に効果がはっきりしている傾向があります。
Q4. GLP-1 薬(やせ薬)はがん予防にも役立ちますか?
研究段階ですが、有望な結果が出ています。2 型糖尿病をもつ約 92 万人の研究では、GLP-1 薬の使用が肥満関連がん全体のリスク低下(ハザード比 0.87)と関連しました(Mao X ら, J Natl Cancer Inst 2025)。また約 8.7 万人の研究でも全体のがんリスク低下(ハザード比 0.83)が報告されています(Dai H ら, JAMA Oncol 2025)。ただし腎がんではリスク上昇の可能性も指摘されており、長期的な検証が必要です。あくまで医師の管理下で、適応を見極めて使う薬です。
Q5. 内臓脂肪を減らすには、まず何から始めればよいですか?
まずはご自身の内臓脂肪や脂肪肝の状態を「知る」ことが出発点です。CT や超音波で評価すれば、見た目ではわからないリスクを可視化できます。その上で、食事・運動の見直し、必要に応じた医療的介入を組み合わせます。運動は内臓脂肪を減らす有効な手段であり、当院では運動療法施設も備えています。内臓脂肪は食事・運動・医療で「変えられるリスク」ですので、気になる方は一度ご相談ください。
参考文献
- Watts EL, Gonzalez-Feliciano A, Gunter MJ, Chatterjee N, Moore SC. Adiposity and cancer: epidemiology, mechanisms and future perspectives. Nat Metab. 2026. doi:10.1038/s42255-026-01529-5
- Watts EL, Gonzalez-Feliciano A, Gunter MJ, Chatterjee N. Adiposity and cancer: systematic review and meta-analysis. Nat Metab. 2026. doi:10.1038/s42255-026-01542-8
- Lauby-Secretan B, Scoccianti C, Loomis D, et al. Body fatness and cancer — viewpoint of the IARC Working Group. N Engl J Med. 2016;375(8):794-798. doi:10.1056/NEJMsr1606602
- Sun M, Fritz J, Haggstrom C, et al. Body mass index and risk of over 100 cancer forms and subtypes in 4.1 million individuals in Sweden: the Obesity and Disease Development Sweden (ODDS) pooled cohort study. Lancet Reg Health Eur. 2024;45:101034. doi:10.1016/j.lanepe.2024.101034
- Hazelwood E, Goudswaard LJ, Lee M, et al. Adiposity distribution and risks of 12 obesity-related cancers: a Mendelian randomization analysis. J Natl Cancer Inst. 2025;117(12):2621-2642. doi:10.1093/jnci/djaf200
- Yamazaki H, Streicher SA, Wu L, et al. Evidence for a causal link between intra-pancreatic fat deposition and pancreatic cancer: a prospective cohort and Mendelian randomization study. Cell Rep Med. 2024;5(6):101391. doi:10.1016/j.xcrm.2024.101391
- Gallagher EJ, LeRoith D. Hyperinsulinaemia in cancer. Nat Rev Cancer. 2020;20(11):629-644. doi:10.1038/s41568-020-0295-5
- Quail DF, Dannenberg AJ. The obese adipose tissue microenvironment in cancer development and progression. Nat Rev Endocrinol. 2019;15(3):139-154. doi:10.1038/s41574-018-0126-x
- Mao X, Zhang X, Kam L, et al. Association between glucagon-like peptide 1 receptor agonist and obesity-related cancer in overweight or obese patients with type 2 diabetes: a nationwide cohort study. J Natl Cancer Inst. 2025;117(12):2053-2061. doi:10.1093/jnci/djaf164
- Dai H, Li Y, Lee YA, et al. GLP-1 receptor agonists and cancer risk in adults with obesity. JAMA Oncol. 2025;11(10):1186-1193. doi:10.1001/jamaoncol.2025.2681
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
