病気と健康の話

【肺炎球菌】肺炎予防の新時代―RS ウイルスワクチンと新しい肺炎球菌ワクチンが変える、高齢者の「守り方」―

はじめに

2026 年 6 月、元プロボクシング世界王者のガッツ石松さん(76 歳)と、俳優の中村玉緒さん(86 歳)が、相次いで肺炎のためにお亡くなりになりました。お茶の間で長く親しまれた方々の連日の訃報に、肺炎という病気の重さをあらためて実感された方も多いのではないでしょうか。「肺炎は風邪をこじらせたもの」「高齢になれば仕方がない」――そんなイメージをお持ちかもしれません。しかし肺炎は、いまや日本人の死因の第 5 位を占める主要な疾患であり、その死亡者の 97%以上を 65 歳以上の高齢者が占めています(日本呼吸器学会, 2025)。

一方で、肺炎をめぐる医療は近年大きく進歩しました。とりわけ予防の分野では、RS ウイルス(RSV)ワクチンの登場と肺炎球菌ワクチンの世代交代によって、「ワクチンで防げる肺炎」の範囲が大きく広がっています。本コラムでは、最新のエビデンスをもとに、いま私たちが手にしている「肺炎予防の新しい武器」と、その上手な使い方をわかりやすく解説します。

1. 肺炎は「死因第 5 位」 ― 高齢者にとっての本当の脅威

肺炎は、肺に細菌やウイルスが感染して炎症を起こす病気です。若く健康な方であれば多くは回復しますが、高齢になると様相が一変します。前述のとおり、日本では肺炎による死亡者の 97%以上が 65 歳以上であり(日本呼吸器学会, 2025)、加齢に伴って発症率も重症化率も急激に上昇します。背景には、加齢による免疫力の低下(免疫老化)、飲み込む力の衰えによる誤嚥、そして糖尿病・心疾患・慢性呼吸器疾患などの基礎疾患の存在があります。

やっかいなのは、高齢者の肺炎が「典型的な顔」をしていないことです。咳や高熱といったわかりやすい症状が乏しく、「なんとなく元気がない」「食欲が落ちた」「ぼんやりしている」といった一見肺炎とは結びつかない変化だけが現れることも少なくありません(日本呼吸器学会, 2025)。気づいたときには重症化している、ということが起こり得るのです。

だからこそ、発症してから治す「治療」だけでなく、そもそも発症させない「予防」の価値が、高齢者では格段に高まります。そして肺炎予防の主役こそ、本コラムで取り上げるワクチンと、口腔ケア・栄養管理なのです。

2. なぜ「新時代」なのか ― 予防の地図が塗り替わった

ここ数年で、高齢者の肺炎・呼吸器感染症を防ぐワクチンの選択肢は劇的に増えました。従来、成人の肺炎予防といえばインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチン(PPSV23)が中心でした。そこに、2023 年以降、欧米で RS ウイルスワクチンが次々と承認され、日本でも 2024 年から 60 歳以上の方が接種できるようになりました(日本呼吸器学会, 2025)。さらに肺炎球菌ワクチンも、従来の PPSV23 に加えて PCV15、PCV20、そして成人専用に設計された PCV21(21 価)へと、カバーする範囲が着実に広がっています。

この変化を裏づけるように、香港大学などの研究チームが 2026 年に医学誌 eClinicalMedicine(ランセット系)に発表した大規模なシステマティックレビュー・メタ解析(Du et al., 2026)は、2018 年から 2025 年までの 56 の研究を統合し、RSV 予防薬とワクチンが高齢者・乳児・妊婦のいずれにおいても確かな効果を示すことを報告しました。予防という分野が、経験や慣習ではなく、質の高いエビデンスに支えられた時代に入ったのです。

重要なのは、これらのワクチンが「別々の敵」を狙っている点です。インフルエンザ、肺炎球菌、RS ウイルス、新型コロナウイルスは、それぞれ異なる病原体であり、一つのワクチンですべてを防ぐことはできません。複数のワクチンを適切に組み合わせることで、はじめて高齢者の肺炎リスクを多面的に下げられるのです。

3. 見過ごされてきた RS ウイルス ― 実はコロナやインフルより重い

RS ウイルスというと「乳幼児の感染症」というイメージが強いかもしれません。確かに小児の肺炎の代表的な原因ですが、高齢者や基礎疾患のある成人では重症の肺炎を引き起こし、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全を悪化させる引き金にもなります(日本呼吸器学会, 2025)。米国では毎年 6 万〜16 万人の高齢者が RS ウイルス感染で入院し、6 千〜1 万人が亡くなっていると推定されています。

その深刻さを示したのが、米国 CDC が 20 州 25 病院で行った前向き調査(Surie et al., 2023/IVY ネットワーク)です。RS ウイルス、新型コロナウイルス、インフルエンザによる入院例を比較したところ、RS ウイルス感染者は新型コロナやインフルエンザよりも重症で予後が悪く、酸素投与を要した割合は RS ウイルスで 79.7%、新型コロナで 58.2%、インフルエンザで 65.8%でした。ICU 入院の割合も RS ウイルスで最も高く、24.3%にのぼりました。

つまり RS ウイルスは、「ありふれた風邪のウイルス」では決してなく、高齢者にとっては新型コロナやインフルエンザに匹敵する、あるいはそれ以上に警戒すべき相手なのです。これまで有効な予防手段がなかった RS ウイルスに、ようやくワクチンという「盾」が手に入った――これが新時代の最も大きな進歩の一つです。

4. RS ウイルスワクチンの実力 ― 3 つのワクチンとエビデンス

現在、60 歳以上の成人に使える RS ウイルスワクチンには、アレックスビー(GSK)、アブリスボ(ファイザー)、そして欧米で承認された mRNA タイプの mRESVIA(モデルナ)があります。いずれもウイルスが細胞に侵入する際の鍵となる「前融合(プレフュージョン)F 蛋白質」を標的にした、最新の設計に基づくワクチンです。

効果は非常に高い水準です。アレックスビーの国際共同第 3 相試験(Papi et al., AReSVi-006, NEJM 2023)では、RS ウイルスによる下気道疾患に対する有効性が 82.6%、重篤な下気道疾患に対しては 94.1%に達しました。アブリスボも国際試験(Walsh et al., NEJM 2023)で高い有効性を示し、mRESVIA も約 78.7%の発症予防効果が報告されています(米国 ACIP, 2024)。冒頭で紹介したメタ解析(Du et al., 2026)でも、高齢者のワクチン接種は初シーズンの RS ウイルス関連入院を 77%(95%信頼区間 69〜82%)減らすと結論づけられました。

効果の持続性も明らかになりつつあります。アレックスビーの 3 シーズン追跡(Ison et al., Lancet Respir Med 2025)では、一度の接種で複数シーズンにわたり保護効果が持続することが示されました。また 2025〜2026 年シーズンの実地データを用いたデンマークの大規模試験(Lassen et al., NEJM 2026)でも、RS ウイルスによる入院の予防効果が確認されています。一方でメタ解析(Du et al., 2026)は、2 シーズン目の有効性が 52%まで低下することも示しており、効果は強力ですが永続的ではない点に留意が必要です。

安全性については、接種部位の痛みや発赤など一般的で軽度の副反応が中心です(日本呼吸器学会, 2025)。ごくまれにギラン・バレー症候群との関連が指摘されていますが(Fry et al., 2025)、その頻度は極めて低く、RS ウイルス重症化を防ぐ利益が上回ると考えられています。米国では 2024 年に ACIP が、75 歳以上の全員と、60〜74 歳でリスクの高い方への接種を推奨する方針に踏み込みました(Britton et al., MMWR 2024)。

5. 肺炎球菌ワクチンの新展開 ― PPSV23 から 21 価ワクチンへ

肺炎の最も頻度が高い原因菌が肺炎球菌です。重症化しやすく、血液や髄液に菌が広がる致命的な「侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)」を引き起こすこともあります(日本呼吸器学会, 2025)。肺炎球菌には 100 種類以上の「型(血清型)」があり、ワクチンはこのうち主要な型をカバーします。日本で長く定期接種の中心だった PPSV23(ニューモバックス)は 23 種類の型をカバーしますが、近年はより強い免疫記憶を生む「結合型」ワクチン――PCV15、PCV20 が登場しました。PCV13 の大規模試験(Bonten et al., CAPiTA, NEJM 2015)では、ワクチンに含まれる型による肺炎球菌性肺炎を 45%、IPD を 75%減らすことが示されています。

ところが、近年やっかいな現象が起きています。小児へのワクチン普及によって、ワクチンがカバーしない型が成人の感染で増えてくる「血清型の置換」です。日本のデータでは、成人 IPD に対する PCV13 のカバー率は 2013〜2015 年の 45%から 2022〜2024 年には 26%まで低下しました(日本呼吸器学会, 2025)。せっかくワクチンを打っても、流行する型が変わってしまえば守りに穴が空いてしまうのです。

この課題に応えて開発されたのが、成人専用に設計された 21 価ワクチン PCV21(V116/Capvaxive、米国で 2024 年 6 月承認)です。子どもへのワクチンでは守りきれない、成人で問題となる型を重点的に選んで配合しているのが特徴で、日本のデータでもそのカバー率は 78%に達すると報告されています(日本呼吸器学会, 2025)。国際的な第 3 相試験(Platt et al., STRIDE-3, Lancet Infect Dis 2024)では、PCV21 は共通する型で PCV20 に劣らず、PCV21 に固有の型では PCV20 を上回る免疫応答を示しました。肺炎球菌ワクチン選びは、これまで以上に「型をどうカバーするか」が鍵になります。

6. ワクチンだけではない ― 口腔ケアと栄養という「もう一つの予防」

高齢者の肺炎の多くは、口の中の細菌や唾液を気づかぬうちに飲み込んでしまう「誤嚥性肺炎」です(日本呼吸器学会, 2025)。この誤嚥性肺炎には、ワクチンとは別の予防策が効果を発揮します。その代表が口腔ケアです。全国 11 か所の介護施設で行われた前向き研究(Yoneyama ら)では、歯科専門職による積極的な口腔ケアを行った群で、2 年間の肺炎発症率が対照群の 19%から 11%へと有意に減少しました(日本呼吸器学会, 2025)。口の中を清潔に保つことは、立派な肺炎予防なのです。

もう一つの柱が栄養管理です。低栄養になると免疫力が低下し、肺炎にかかりやすく、また肺炎になった際の死亡リスクも上昇します(日本呼吸器学会, 2025)。70 歳以上の高齢者の約 7%が低栄養状態にあるとされ、とくに男性、75 歳以上、高齢者のみの世帯で起こりやすいことがわかっています。主食に良質なたんぱく質と野菜を組み合わせ、しっかり食べて動くことが、結果として肺炎を遠ざけます。

つまり肺炎予防は、「ワクチンで原因病原体を防ぐ」「口腔ケアで誤嚥のリスクを減らす」「栄養で体の抵抗力を保つ」という三本柱で考えるのが最も効果的です。どれか一つではなく、組み合わせることに意味があります。

7. 「予防プラン」を年齢と基礎疾患で考える

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。インフルエンザワクチンは生後 6 か月以上のすべての方が対象で、毎年の接種がすすめられます。肺炎球菌ワクチンは、まず 65 歳を迎える年の定期接種(公費補助のある PPSV23)の機会を逃さないことが第一歩です。日本では肺炎球菌ワクチンの接種率は約 40%にとどまっており(日本呼吸器学会, 2025)、この「打ち忘れ」をなくすだけでも予防効果は大きく変わります。

RS ウイルスワクチンは現在のところ任意接種(自費)ですが、60 歳以上の方、とくに慢性の呼吸器疾患・心疾患・糖尿病などをお持ちの方には、検討する価値が十分にあります。米国 ACIP が 75 歳以上への接種を標準的に推奨し(Britton et al., 2024)、その後ハイリスク者の対象年齢を引き下げている流れは、このワクチンの有用性の高さを物語っています。どのワクチンを、どの順番で、いつ接種するか――これは年齢・基礎疾患・過去の接種歴によって一人ひとり異なります。

おわりに ― 大切な人の「OK 牧場」を守るために

肺炎は、もはや「年のせい」と諦める病気ではありません。RS ウイルスワクチン、世代交代した肺炎球菌ワクチン、そしてインフルエンザワクチンという「ワクチンの三本柱」に、口腔ケアと栄養管理を組み合わせることで、高齢者の肺炎は確かに防げる時代に入りました。質の高いエビデンス(Du et al., 2026; Papi et al., 2023; Platt et al., 2024)が、その効果を裏づけています。ガッツ石松さんや中村玉緒さんの訃報を、私たち自身と大切なご家族の「予防」を見直すきっかけにしていただければと願っています。

まんかいメディカルクリニックでは、呼吸器内科・内科の専門的な視点から、各種予防接種のご相談に対応しています。CT や超音波による精密な検査体制を整え、日曜・祝日も診療を行っています。「自分はどのワクチンを打つべきか」「持病があるけれど接種して大丈夫か」――そんな疑問がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。肺炎から、あなたとご家族の毎日を守るお手伝いをいたします。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. RS ウイルスワクチンは、インフルエンザや肺炎球菌のワクチンを打っていれば不要ですか?

いいえ、それぞれ防ぐ相手が異なります。インフルエンザワクチンはインフルエンザウイルス、肺炎球菌ワクチンは肺炎球菌、RS ウイルスワクチンは RS ウイルスを標的にしており、互いに代わりにはなりません。RS ウイルスは高齢者では新型コロナやインフルエンザよりも重症化しやすいことが報告されており(Surie et al., 2023)、メタ解析でもワクチンが入院を 77%減らすと示されています(Du et al., 2026)。複数を組み合わせることが大切です。

Q2. RS ウイルスワクチンは毎年打つ必要がありますか?

現時点では、インフルエンザのような毎年の接種は想定されていません。アレックスビーの 3 シーズン追跡(Ison et al., 2025)では一度の接種で複数シーズン効果が持続することが示されています。ただしメタ解析(Du et al., 2026)では 2 シーズン目に有効性が 52%へ低下することも報告されており、効果は永続的ではありません。再接種の必要性や時期については研究が進行中で、かかりつけ医と相談しながら判断するのがよいでしょう。

Q3. 肺炎球菌ワクチンは「一度打てば一生大丈夫」ですか?

残念ながら、そうとは言えません。肺炎球菌には 100 種類以上の型があり、ワクチンがカバーする型は流行とともに変化します。実際、成人 IPD に対する PCV13 のカバー率は数年で 45%から 26%へ低下しました(日本呼吸器学会, 2025)。このため、PPSV23・PCV15・PCV20、さらに成人専用に設計された PCV21(Platt et al., 2024)など、より広く・より成人向けにカバーするワクチンへの追加接種が検討されます。接種歴に応じた組み合わせが重要です。

Q4. 持病(糖尿病・心臓病・呼吸器の病気)があると、ワクチンは打たない方がよいのでは?

むしろ逆です。慢性の基礎疾患をお持ちの方こそ、肺炎で重症化するリスクが高く、ワクチンの恩恵が大きい対象です。米国 ACIP も、60〜74 歳でリスクの高い方への RS ウイルスワクチン接種を推奨しています(Britton et al., 2024)。基礎疾患があっても多くのワクチンは安全に接種できますが、状態によって最適なタイミングがありますので、主治医にご確認のうえ接種を進めるのが安心です。

Q5. ワクチンさえ打てば、肺炎は完全に防げますか?

ワクチンは強力ですが、万能ではありません。高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎であり、これにはワクチンとは別に口腔ケアと栄養管理が有効です。積極的な口腔ケアで肺炎発症が減ったという研究(Yoneyama ら)や、低栄養が肺炎リスクと死亡リスクを高めるという知見があります(日本呼吸器学会, 2025)。ワクチン・口腔ケア・栄養の三本柱を組み合わせることが、最も確実な肺炎予防につながります。

参考文献

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  11. Platt HL, Bruno C, Buntinx E, et al. Safety, tolerability, and immunogenicity of an adult pneumococcal conjugate vaccine, V116 (STRIDE-3): a randomised, double-blind, active comparator controlled, international phase 3 trial. Lancet Infect Dis. 2024;24(10):1141-1150. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00344-X
  12. Bonten MJM, Huijts SM, Bolkenbaas M, et al. Polysaccharide Conjugate Vaccine against Pneumococcal Pneumonia in Adults (CAPiTA). N Engl J Med. 2015;372(12):1114-1125. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1408544

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状やワクチン接種のご相談は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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