【睡眠時無呼吸症候群】CPAPかGLP-1か 、睡眠時無呼吸症候群の治療を変える肥満治療薬の「光と影」
はじめに ― 「痩せる注射」が睡眠時無呼吸を治す時代へ
「夜中に何度も目が覚める」「日中の眠気で仕事に集中できない」「家族からいびきと無呼吸を指摘された」――こうしたお悩みで当院を受診される方は年々増えています。睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea)は、世界で約 10 億人が罹患するとされる極めて頻度の高い疾患であり、高血圧、心房細動、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、認知症などの発症リスクを大きく押し上げることが多数の疫学研究で示されています(Patel & Ryan, Eur Respir Rev 2026)。
OSA の標準治療は、長年にわたり持続陽圧呼吸療法(CPAP)でした。CPAP は睡眠中の気道閉塞を確実に解除し、日中の眠気と生活の質を大きく改善する強力な治療です。しかし、機器の装着感や長期継続の負担、そして「肥満という根本原因」には介入しないという限界も以前から指摘されてきました。そこに登場したのが、糖尿病・肥満治療薬として急速に普及している GLP-1 受容体作動薬(GLP-1 RA)、特にチルゼパチド(マンジャロ®/ゼップバウンド®)です。
2024 年 6 月、米国 NEJM 誌に発表された SURMOUNT-OSA 試験は、チルゼパチドが OSA の重症度を示す AHI(無呼吸低呼吸指数)を約 50%低下させたことを示し、米国食品医薬品局(FDA)は同年 12 月、世界で初めて OSA の治療薬としてチルゼパチドを承認しました(Malhotra et al., NEJM 2024)。一方で、欧州呼吸器学会(ERS)は 2026 年の Pro-Con ディベートにおいて、その熱狂と並ぶ慎重な議論も提示しています。本コラムでは、OSA の治療に GLP-1 RA を選択する際の「利点」と「欠点」を、欧米の最新エビデンスに基づいて整理します。
1. 睡眠時無呼吸症候群と肥満 ― 病態の中心にある「気道の脂肪」
OSA は、睡眠中に咽頭(のど)周囲の上気道が繰り返し閉塞し、無呼吸・低呼吸と間欠的低酸素を引き起こす疾患です。Patel & Ryan(Eur Respir Rev 2026)は、肥満が OSA の病態に複数の経路で寄与することを指摘しています。第一に、咽頭壁への脂肪沈着が気道断面積を物理的に狭めます。第二に、腹部および胸郭の脂肪が機能的残気量を低下させ、咽頭への縦軸方向の牽引力を減弱させて気道の易虚脱性を高めます。第三に、レプチン抵抗性を介して換気フィードバックループの感度が上昇し、呼吸の不安定性が増します。
疫学的にも、OSA 患者の 60〜70%が肥満を合併し、米国では 2003 年時点で全 OSA 症例の約 60%が「過体重・肥満に起因する」と推計されていました(Patel & Ryan, Eur Respir Rev 2026)。世界的な肥満パンデミックが続く中、Global Burden of Disease 2021 研究は、2050 年までに成人の過体重・肥満有病率が世界平均で 50%を超えると予測しており、OSA 有病率もこれに比例して上昇する見込みです。
日本においても、日本呼吸器学会の睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療ガイドライン 2020 は、成人男性の約 20%、閉経後女性の約 10%が中等症以上の OSA を有すると報告しており、すでに 50 万人を超える方が CPAP 療法を受けています。「いびき=単なる癖」という旧来のイメージから、「全身疾患の入口となる慢性病」へと、OSA の位置づけは大きく変わってきました。
2. SURMOUNT-OSA 試験の衝撃 ― 1 年で AHI が半減
GLP-1 RA を OSA 治療として位置づけた決定的なエビデンスが、Malhotra ら(NEJM 2024)が報告した SURMOUNT-OSA 試験です。本試験は BMI 30 以上(日本は 27 以上)かつ中等症以上の OSA(AHI 15 回/時以上)を有する成人 469 名を対象とした第 3 相試験で、CPAP 未使用群(試験 1)と CPAP 併用群(試験 2)の二つに分けて、チルゼパチド最大耐量(10mg または 15mg 週 1 回皮下注)とプラセボを 52 週間比較しました。
結果は劇的でした。AHI はチルゼパチド群でそれぞれ 20 回/時、24 回/時の絶対減少(48%、56%の相対減少)を示し、体重は約 20%減少、収縮期血圧は約 6mmHg 追加低下、CRP などの炎症指標、低酸素負荷(hypoxic burden)も同時に改善しました。CPAP 未使用群においては、日中の眠気を評価するエプワース眠気スケール(ESS)スコアの有意な低下も認められています(Kanu et al., Sleep Med 2025)。
この結果を受けて、FDA は 2024 年 12 月 20 日にチルゼパチド(ゼップバウンド®)を「肥満を合併する中等症〜重症 OSA 成人」に対する世界初の処方薬として承認しました。欧州呼吸器学会の Patel & Ryan(Eur Respir Rev 2026)は、本試験を「OSA の薬物治療というパラダイムシフトの嚆矢」と位置づけており、GLP-1 RA が「OSA 治療の第一選択になりうるか」が国際的な議論の焦点になっています。
3. 利点① AHI・血圧・代謝指標の同時改善
GLP-1 RA の最大の利点は、OSA だけでなく OSA に合併する複数の心血管・代謝リスクを「同時に」改善できる点にあります。Patel 氏(Eur Respir Rev 2026)は、SURMOUNT-OSA でチルゼパチドが CPAP に対して優位な効果を示した指標として、(1) ESS スコアの追加低下(CPAP 単独は 2.4 点、行動的減量介入では 4.7〜5.8 点、チルゼパチドは CPAP 単独に対しさらに 0.9〜1.4 点追加低下)、(2) 収縮期血圧の追加低下(CPAP による低下は約 1〜2mmHg であるのに対し、減量介入は 3〜16mmHg)、(3) インスリン抵抗性・耐糖能の改善を挙げています。
肥満治療薬としてのチルゼパチドの効果は、Jastreboff ら(NEJM 2022)の SURMOUNT-1 試験で確立されています。肥満を有する成人 2,539 名にチルゼパチド週 1 回皮下注を 72 週間投与した結果、5mg で 16.0%、10mg で 21.4%、15mg で 22.5%の体重減少が達成され、参加者の約 9 割が 5%以上の体重減少を示しました。さらに 3 年間追跡した SURMOUNT-1 拡張試験では、肥満+前糖尿病を有する被験者において新規 2 型糖尿病発症リスクが 93%減少するという、驚異的な予防効果が報告されています。
つまり GLP-1 RA は、OSA そのものの AHI を下げるだけでなく、OSA が引き起こす血圧上昇、糖尿病、脂質異常症、心房細動、慢性腎臓病といった「合併症の連鎖」全体に介入できる点で、従来の CPAP 単独治療とは異なる位置づけを持つ薬剤です。当院では CPAP 外来と GLP-1 RA 外来を併設しており、この複合的な利点を活かした個別化治療を実践しています。
4. 利点② 心血管イベント・糖尿病の予防効果
GLP-1 RA のもう一つの大きな利点は、いわゆる「ハードエンドポイント(心筋梗塞・脳卒中・心血管死)」を減らすエビデンスが蓄積している点です。Lincoff ら(NEJM 2023)の SELECT 試験は、心血管疾患既往かつ BMI 27 以上、糖尿病のない成人 17,604 名を対象に、セマグルチド週 1 回 2.4mg とプラセボを比較した大規模試験で、主要心血管イベント(MACE:心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中)を 20%有意に減少させました(HR 0.80, P<0.001)。
この結果は、SAVE 試験(McEvoy et al., NEJM 2016)で CPAP が OSA 合併心血管疾患患者の二次予防効果を示せなかったこととしばしば対比されます。SAVE では CPAP 使用群の平均使用時間が 1 晩 3.3 時間と不十分であったという批判もあり、Sánchez-de-la-Torre ら(JAMA 2023)の個別患者データメタ解析では、CPAP 遵守が良好な群(夜間 4 時間以上の使用)では再発心血管イベントが約 31%減少することが示唆されています。それでも、CPAP の「ハードアウトカム」に対する効果は、特に無症状・軽症例で議論が続いています。
GLP-1 RA は、肥満を介する経路だけでなく、抗炎症作用、脂肪組織の browning、血管内皮機能改善など、独立した心血管保護機序も持つと考えられています。WHO(Celletti et al., JAMA 2026)は 2025 年 12 月、GLP-1 療法を肥満治療の一環として長期的に使用することを「条件付き推奨」とする初の世界ガイドラインを発表し、OSA を含む肥満関連合併症全般への適応拡大を後押ししています。
5. 欠点① 完全寛解には至らず、非肥満 OSA には無効
ここからは「欠点」「限界」を冷静に整理します。Ryan 氏(Eur Respir Rev 2026)が指摘する最初の欠点は、「GLP-1 RA は AHI を大きく下げるが、完全寛解には至りにくい」という点です。SURMOUNT-OSA 試験でも、チルゼパチド群の約半数は治療 52 週時点で依然として AHI 15 以上、あるいは AHI 5〜15 かつ ESS スコア 10 以上の「臨床的に意義のある OSA」が残存していました(Malhotra et al., NEJM 2024)。半減はしても、「治癒」ではないという事実は、患者さんへの説明においても重要です。
もう一つの重要な限界は、「OSA は肥満だけが原因ではない」という事実です。臨床コホートでは、OSA 患者のうち BMI 30 未満(つまり肥満診断基準を満たさない)は約 40〜50%、地域住民を対象とした疫学研究ではさらに多くを占めます(Patel & Ryan, Eur Respir Rev 2026)。OSA は本質的に上気道の解剖学的・神経筋学的疾患であり、顎顔面形態、舌・軟口蓋の大きさ、加齢による筋緊張低下、鼻閉などが原因となる症例では、減量だけで治癒することは期待できません。
また日本を含む多くの国で、GLP-1 RA の肥満適応は BMI 27 以上+関連合併症など一定の基準を満たす方に限定されており、すべての OSA 患者が処方対象になるわけではありません。当院では、OSA の治療においては、肥満の有無、上気道の解剖学的所見、症状の重症度、合併症のプロファイルを総合的に評価して、CPAP、口腔内装置、減量介入、GLP-1 RA、外科治療のいずれを優先するかを患者さんと相談しながら決定しています。
6. 欠点② CPAP に劣る早期動脈硬化への効果
心血管予防という視点でみると、GLP-1 RA は「肥満を介する経路」では強力ですが、「OSA 特異的な低酸素障害」に対しては CPAP に劣るというデータも報告されています。O’Donnell ら(Ann Am Thorac Soc 2024)はアイルランドからのプルーフ・オブ・コンセプト無作為化比較試験において、中等症〜重症 OSA の 30 名を CPAP 単独、リラグルチド単独、CPAP+リラグルチド併用の 3 群に 24 週間ランダム化し、18F-FDG PET-CT で大動脈壁の血管炎症と冠動脈の不安定プラーク量を評価しました。
結果として、CPAP 単独群と CPAP+リラグルチド併用群では AHI が大幅に低下し(プラセボ比 -45、-43 イベント/時)、CPAP 単独および併用群では血管炎症(大動脈壁の target-to-background ratio)と低吸収プラーク容積の有意な減少が認められました。一方、リラグルチド単独群は体重減少を達成したものの、AHI の減少幅は限定的(-12 イベント/時)で、血管炎症やプラーク改善は認められませんでした(O’Donnell et al., Ann Am Thorac Soc 2024)。
本研究は小規模かつリラグルチド時代のデータであり、より強力なチルゼパチド・セマグルチドでは結果が異なる可能性もありますが、「OSA に伴う間欠的低酸素や交感神経活動亢進による血管障害は、CPAP でしか直接的に取り除けない経路がある」という重要な示唆を与えています。AHI だけを指標に治療効果を評価するのではなく、低酸素負荷、ESS、血圧、血管機能を総合的に評価することの重要性が、欧米の OSA 研究の中心的なテーマとなっています。
7. 欠点③ 中止後のリバウンド・長期データ不足・コスト格差
三つ目の欠点は、GLP-1 RA は中止すると体重も OSA も戻ってしまうという「慢性疾患としての性格」を持つ点です。Aronne ら(JAMA 2024)の SURMOUNT-4 試験では、36 週間のチルゼパチド導入期で参加者は平均 20.9%の体重減少を達成しましたが、その後プラセボ群に切り替えた被験者は 52 週間で平均 14.0%の体重を再増加させた一方、チルゼパチド継続群は逆にさらに 5.5%の追加減量を達成しました。
減量介入を中止すると、リーキーガットや交感神経系・レプチンといった代謝適応機構を介して、約 5 年で減らした体重の 80%が戻ると報告されており(Patel & Ryan, Eur Respir Rev 2026)、GLP-1 RA も例外ではありません。つまり GLP-1 RA で OSA をコントロールする場合、長期にわたる継続投与が前提となり、現実世界での服薬遵守、副作用(悪心・嘔吐・膵炎・胃軽麻痺など)、長期安全性のデータはまだ不十分です。
さらに見過ごせないのが、GLP-1 RA の高薬価とアクセス格差です。WHO(Celletti et al., JAMA 2026)は、世界中の肥満患者 10 億人以上のうち、現状で GLP-1 RA にアクセスできるのは最も楽観的なシナリオでも約 1 億人(10%未満)にとどまると試算しており、社会経済的に不利な層がさらに置き去りになるリスクを警告しています。WHO ガイドラインも「医薬品だけで世界の肥満問題は解決しない」と明記し、生活習慣介入と公衆衛生的予防の重要性を改めて強調しています。
8. 当院での実践 ― CPAP と GLP-1 RA をどう使い分けるか
まんかいメディカルクリニック(兵庫県三田市)では、呼吸器内科専門医・内分泌領域の知見を組み合わせ、OSA の治療を CPAP・GLP-1 RA・生活療法・運動療法の四本柱で個別化しています。中等症〜重症 OSA で肥満(BMI 27 以上)を合併する方には、CPAP による即効性のある気道確保と並行して GLP-1 RA による体重コントロールを提案し、心血管・代謝リスク全体の改善を狙います。
一方で、BMI が正常範囲の OSA や、上気道の解剖学的要因が中心の症例には、CPAP と口腔内装置・耳鼻咽喉科連携を優先します。Sánchez-de-la-Torre ら(JAMA 2023)が示したように、CPAP 遵守が良好な患者では心血管イベントが約 31%減少するため、装着指導・マスクフィッティング・遠隔モニタリングを通じた「CPAP を続けやすくする」サポートを重視しています。
また当院は、CT・超音波装置を完備し、頸動脈エコーや内臓脂肪 CT による動脈硬化・代謝リスクの総合評価が可能です。日曜・祝日診療、救急救命士常駐、運動療法(指定施設)といった体制を活かし、「治療開始のハードル」を下げることも重要な使命と考えています。GLP-1 RA は強力な武器ですが、「CPAP の代わり」ではなく「CPAP とともに使う選択肢」として位置づけることが、現時点でのエビデンスに最も忠実な姿勢であると考えています。
おわりに ― GLP-1 RA は「特効薬」ではなく「新たな選択肢」
睡眠時無呼吸症候群の治療に GLP-1 RA を取り入れる選択は、肥満を背景に持つ多くの方にとって大きな福音となりうる一方で、AHI の完全寛解には至りにくいこと、CPAP でなければ得られない動脈硬化抑制効果があること、中止後のリバウンドや長期データ不足、そしてコストの問題など、冷静に見つめるべき「影」も存在します。Patel & Ryan(Eur Respir Rev 2026)が結論づけたように、「答えはおそらく中庸にある」というのが現時点での国際的なコンセンサスです。
重要なのは、CPAP か GLP-1 RA かという二項対立ではなく、患者さんおひとりおひとりの病態・合併症・生活背景・価値観に応じて、最適な組み合わせをともに設計することです。日中の眠気、いびき、起床時の頭痛、夜間頻尿、家族からの無呼吸の指摘などの症状を感じておられる方、あるいは健診で高血圧・糖尿病・脂質異常症を指摘されている方は、ぜひ一度、まんかいメディカルクリニックの呼吸器内科外来・睡眠時無呼吸外来へご相談ください。簡易睡眠検査(自宅)から精密検査、CPAP 導入、GLP-1 RA を含む薬物療法、運動療法、減量サポートまで、一貫した体制でお迎えします。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. GLP-1 RA(チルゼパチドなど)は CPAP の代わりになりますか?
現時点では CPAP の「完全な代替」とは言えません。SURMOUNT-OSA 試験(Malhotra et al., NEJM 2024)でチルゼパチドは AHI を約 50%減少させましたが、約半数の患者さんで臨床的に意義のある OSA が残存していました。また O’Donnell ら(Ann Am Thorac Soc 2024)の研究では、CPAP は血管炎症や不安定プラークを改善した一方、GLP-1 RA 単独では同等の効果は得られませんでした。肥満を伴う中等症〜重症 OSA では、CPAP と GLP-1 RA を組み合わせる併用療法が、現状で最もバランスの取れた選択肢と考えられます。
Q2. GLP-1 RA をやめたら、また無呼吸は悪化しますか?
残念ながら、その可能性が高いと考えられます。Aronne ら(JAMA 2024)の SURMOUNT-4 試験では、チルゼパチドを中止した患者さんは 52 週で平均 14.0%の体重を再増加させました。減量介入の中止後はリーキーガット、レプチン低下、ghrelin 上昇など複数の代謝適応機構によりリバウンドが起こります。GLP-1 RA は慢性疾患である肥満・OSA の「長期管理薬」として位置づけ、生活習慣改善と組み合わせて継続することが推奨されます。中止のタイミングについては、減量達成度、OSA の残存度、副作用などを総合的に評価して個別に判断します。
Q3. BMI が普通でも、GLP-1 RA で睡眠時無呼吸は良くなりますか?
肥満が原因でない OSA には、GLP-1 RA の効果は期待しにくいと考えられます。OSA 患者の 40〜50%は BMI 30 未満であり、上気道の解剖学的要因(顎顔面形態、舌肥大、軟口蓋の弛緩など)や加齢が主因の症例も多くみられます(Patel & Ryan, Eur Respir Rev 2026)。日本を含む多くの国で GLP-1 RA の肥満適応は一定の BMI 基準+関連合併症の要件を満たす方に限定されています。BMI が正常範囲の方は、CPAP、口腔内装置、耳鼻咽喉科的アプローチ、生活習慣改善(飲酒制限、側臥位睡眠、鼻閉治療)が中心となります。
Q4. GLP-1 RA の副作用が心配です。安全に使えますか?
GLP-1 RA で最も頻度の高い副作用は悪心・嘔吐・下痢・便秘などの消化器症状で、通常は数週間で軽快します。稀に膵炎、胆嚢炎、胃軽麻痺(gastroparesis)などの重篤な副作用が報告されており(米国 FAERS データ等)、症状によっては中止と精査が必要です。当院では少量から漸増する標準プロトコルで副作用を最小化し、必要に応じて CT・超音波で胆嚢・膵臓を評価しながら安全に処方しています。チルゼパチド(マンジャロ®/ゼップバウンド®)、セマグルチド(オゼンピック®/ウゴービ®)など複数の選択肢から、患者さんの状態に応じてご提案します。
Q5. CPAP はつらいので、GLP-1 RA だけで治療したいのですが可能ですか?
CPAP の装着感や継続が難しいというお悩みはよく伺います。FDA は 2024 年 12 月、肥満を合併する中等症〜重症 OSA 成人に対してチルゼパチドを「世界初の OSA 治療薬」として承認しており、CPAP 不耐の方への選択肢は確実に広がっています。ただし、Sánchez-de-la-Torre ら(JAMA 2023)のメタ解析では、CPAP 遵守が良好な方ほど心血管イベント抑制効果が大きいことが示されており、CPAP を「最初から諦める」のではなく、マスクの種類変更、加湿器調整、遠隔モニタリングなど工夫の余地が大きい治療です。当院では CPAP 導入時のフィッティング外来も実施しています。まずはご相談ください。
参考文献
- Patel SR, Ryan S. Should weight loss be the first-line treatment for obstructive sleep apnoea? A pro–con debate. Eur Respir Rev 2026;35:250255. DOI: 10.1183/16000617.0255-2025
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- Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, et al. Semaglutide and cardiovascular outcomes in obesity without diabetes. N Engl J Med 2023;389:2221-2232. DOI: 10.1056/NEJMoa2307563
- McEvoy RD, Antic NA, Heeley E, et al. CPAP for prevention of cardiovascular events in obstructive sleep apnea. N Engl J Med 2016;375:919-931. DOI: 10.1056/NEJMoa1606599
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- Aronne LJ, Sattar N, Horn DB, et al. Continued treatment with tirzepatide for maintenance of weight reduction in adults with obesity: the SURMOUNT-4 randomized clinical trial. JAMA 2024;331:38-48. DOI: 10.1001/jama.2023.24945
- Jastreboff AM, Aronne LJ, Ahmad NN, et al. Tirzepatide once weekly for the treatment of obesity. N Engl J Med 2022;387:205-216. DOI: 10.1056/NEJMoa2206038
- Kanu C, Shinde S, Chakladar S, et al. Effect of tirzepatide treatment on patient-reported outcomes among SURMOUNT-OSA participants with obstructive sleep apnea and obesity. Sleep Med 2025;134:106719. DOI: 10.1016/j.sleep.2025.106719
- Celletti F, Farrar J, De Regil L. World Health Organization guideline on the use and indications of glucagon-like peptide-1 therapies for the treatment of obesity in adults. JAMA 2026;335:434-438. DOI: 10.1001/jama.2025.24199
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
