病気と健康の話

【特定健診】内臓脂肪と心臓病、そしてがん―BMI では見抜けない「隠れ肥満」の正体と減らし方―

はじめに ― その「お腹まわり」、ただの脂肪ではありません

健康診断で「お腹まわりが気になりますね」「内臓脂肪がやや多めです」と言われた経験はありませんか。多くの方は、脂肪を「食べ過ぎたぶんが貯まっただけの、いわばエネルギーの倉庫」と考えていらっしゃいます。しかし近年の研究は、その常識をくつがえしつつあります。とりわけお腹の奥深く、腸のまわりにつく「内臓脂肪」は、ホルモンを分泌し、神経を通じて脳や心臓と会話し、全身の代謝を左右する「活動する臓器」であることがわかってきました。

2020 年に国際動脈硬化学会(IAS)などが発表した合意声明は、ウエスト周囲径(お腹まわり)を血圧や脈拍と並ぶ「バイタルサイン」として日常診療で測るべきだと提言しています(Ross et al., Nat Rev Endocrinol 2020)。さらに 2026 年に Nature Reviews Endocrinology 誌に発表された総説は、脂肪組織を「体液性(ホルモン)と神経性の 2 つの経路で全身を統御するハブ」と位置づけました(Tsuji & Tseng, 2026)。本コラムでは、なぜ内臓脂肪が「ただものではない」のか、心臓・血管・がんとの関係を最新のエビデンスからひもとき、そして「どう減らすか」までをお伝えします。

1. 内臓脂肪と皮下脂肪はまったくの別物 ― 「どこにつくか」が運命を分ける

脂肪と一口に言っても、その「置き場所」によって体への影響は大きく異なります。皮膚のすぐ下に蓄えられる「皮下脂肪」は、いわば安全な貯蔵庫として、余ったエネルギーを比較的おだやかに保管します。一方、腹腔内で腸や肝臓を取り巻くようにつく「内臓脂肪」は、代謝的に活発で、炎症物質や遊離脂肪酸を血液中に放出し、動脈硬化や糖尿病のリスクを高めることが知られています(Neeland et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2019)。

やっかいなのは、体重や体格指数(BMI)だけでは、この危険な内臓脂肪の量を正確につかめないことです。BMI は身長と体重から計算する指標ですが、脂肪と筋肉を区別できず、脂肪の「分布」を反映しません。実際、英国バイオバンクの解析では、BMI は内臓脂肪よりも皮下脂肪や筋肉量と強く相関しており、内臓脂肪をとらえる精度は限られていました(Watts et al., Nat Metab 2026)。

2025 年に Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に発表された国際委員会の新しい肥満の定義も、BMI だけでは不十分であり、ウエスト周囲径など体脂肪の分布を反映する指標を併用すべきだと明言しています(Rubino et al., 2025)。「やせているから大丈夫」とは限らない ― これが内臓脂肪の第一の落とし穴です。

2. 脂肪は「臓器」である ― ホルモンと神経で全身と会話する

かつて脂肪組織は、単なるエネルギーの貯蔵庫、あるいは体温を保つ断熱材と考えられてきました。しかし現在では、脂肪は心臓や肝臓に匹敵する立派な「内分泌臓器」として理解されています。脂肪細胞は「アディポカイン」と総称される多彩なホルモンを分泌し、食欲を調節するレプチン、インスリンの効きを良くするアディポネクチンなどを通じて、脳・肝臓・膵臓・血管と絶えず情報をやりとりしています(Tsuji & Tseng, Nat Rev Endocrinol 2026)。

さらに近年の研究は、脂肪が「神経」を介しても全身とつながっていることを明らかにしました。交感神経は脂肪の分解や熱産生をうながし、感覚神経は脂肪の状態を脳に伝え返します。この体液性(ホルモン)と神経性の 2 つの経路が組み合わさることで、脂肪組織はエネルギーバランスや血糖、血管の状態までを精密に調律しているのです(Tsuji & Tseng, 2026)。

この「対話」が健全に保たれているうちは問題ありません。しかし内臓脂肪が過剰にたまると、この情報網が乱れ、全身に悪影響が波及します。脂肪は沈黙の倉庫ではなく、たえず発信を続ける臓器なのです。

3. 健康な脂肪が「炎症の発信源」に変わるとき

同じ脂肪組織でも、「健康な脂肪」と「病んだ脂肪」があります。適正な状態の脂肪組織は、アディポネクチンをはじめ、体を守る方向にはたらく物質を主に分泌しています。ところが内臓脂肪が過剰に蓄積し、脂肪細胞が肥大して酸素不足や細胞死を起こすと、状況は一変します(Watts et al., Nat Metab 2026)。

このとき脂肪組織には免疫細胞(マクロファージ)が集まり、慢性的な「くすぶり型」の炎症が起こります。分泌される物質のバランスも、保護的なアディポネクチンが減り、代わりに炎症やインスリン抵抗性をうながす eNAMPT、FABP4、RBP4、レジスチンといった因子が増えていきます(Tsuji & Tseng, Nat Rev Endocrinol 2026)。このシフトが、脂肪肝、糖尿病、動脈硬化、そして後述するがんへとつながっていきます。

興味深いことに、2025 年に Nature 誌に報告された脂肪組織の詳細な解析では、肥満によって脂肪組織の細胞が「老化(細胞老化)」し、傷害と代謝異常の悪循環に陥ることが示されました。そして、この老化は減量によって強力に巻き戻せる一方で、免疫細胞にはある種の「記憶」が残ることも明らかになりました(Miranda et al., 2025)。脂肪は、良くも悪くも変化しうる、いきいきとした組織なのです。

4. 心臓を静かに蝕む ― 内臓脂肪と冠動脈石灰化

内臓脂肪の危険性を、心臓の血管という具体的な舞台で示したのが、2026 年に JACC Advances 誌に発表された大規模メタ解析です。この研究は、心血管疾患のない 68,629 人を対象に、体格の指標と「冠動脈石灰化(CAC)」― 心臓の血管に生じる動脈硬化の早期サインを CT でとらえたもの ― との関係を統合的に分析しました(Khanna et al., 2026)。

結果は明快でした。冠動脈石灰化があるかどうかとの関連の強さは、ウエスト・ヒップ比(WHR)が最も強く(標準化平均差 0.46)、次いでウエスト周囲径(WC 0.32)で、内臓脂肪面積(VFA 0.43)も強く関連していました。一方、BMI の関連は弱く、統計的に有意ではありませんでした(0.13)。皮下脂肪面積(SFA)にいたっては、石灰化の有無とほとんど関係がありませんでした(−0.04)(Khanna et al., 2026)。

さらに、数年間の追跡で石灰化が「進行」するかどうかについても、ウエスト周囲径のほうが BMI より強く関連していました。つまり、心臓の血管を静かに蝕むのは「体重の重さ」ではなく「内臓脂肪の多さ」だということです。同じ体重でも、お腹まわりに脂肪が集中している人ほど、注意が必要なのです。

5. 心不全の新しい犯人説 ― 内臓脂肪が心臓を変える

内臓脂肪の影響は、血管だけにとどまりません。2025 年、循環器領域の権威である Packer 医師は、JACC 誌に「アディポカイン仮説」という新しい枠組みを提唱しました。これは、心臓のポンプ機能(駆出率)が保たれているにもかかわらず息切れやむくみを起こす「HFpEF(ヘフペフ:駆出率の保たれた心不全)」の多くが、内臓脂肪の拡大と質の変化から生じる、という大胆な仮説です(Packer, J Am Coll Cardiol 2025)。

この仮説によれば、過剰に増えて変質した内臓脂肪は、心臓を守る方向のアディポカインを減らし、代わりに炎症・線維化・体液貯留をうながすアディポカインを増やします。その結果、全身の炎症、血液量の増加、心臓の肥大と線維化が起こり、HFpEF の特徴がそろってしまうというのです(Packer, 2025)。

注目すべきは、この枠組みが治療への道筋も示している点です。減量手術や GLP-1 受容体作動薬、SGLT2 阻害薬といった治療が内臓脂肪を縮小させ、アディポカインのバランスを整えることで、心不全の症状改善につながる可能性が示唆されています。「脂肪を減らすこと」が「心臓を守ること」に直結しうる ― 内臓脂肪は、心不全の観点からも見過ごせない存在です。

6. 内臓脂肪とがん ― 19 のがんとの深い関係

内臓脂肪、そして肥満が関わるもう一つの重大な領域が「がん」です。2026 年に Nature Metabolism 誌に発表された総説と、それに付随する約 150 万人のがん症例を含むメタ解析は、BMI の高さが少なくとも 19 種類のがん ― 子宮体がん、食道腺がん、腎がん、胆のうがん、肝がん、閉経後乳がん、大腸がんなど ― のリスク上昇と関連することを示しました(Watts et al., Nat Metab 2026)。

なぜ脂肪ががんをうながすのでしょうか。総説は、確立された 3 つの経路を挙げています。第一に、脂肪組織で男性ホルモンが女性ホルモン(エストロゲン)に変換され、閉経後乳がんや子宮体がんのリスクを高めること。第二に、内臓脂肪によるインスリン抵抗性で血中インスリンが慢性的に高くなり、細胞増殖をうながすこと。第三に、脂肪組織の慢性炎症が発がんを後押しすることです(Watts et al., 2026)。

ここでも、危険なのは総体重よりも「内臓脂肪」です。英国バイオバンクの画像解析では、内臓脂肪が特定部位のがんリスクと直接関連することが示され始めています。体重計の数字だけでは見えないリスクが、お腹の奥に潜んでいるのです。だからこそ、内臓脂肪を「見える化」し、早めに手を打つことが大切になります。

7. 内臓脂肪は減らせる ― そして「減らし方」で体は変わる

ここまで内臓脂肪の「こわさ」をお伝えしてきましたが、朗報もあります。内臓脂肪は、皮下脂肪よりもむしろ減らしやすく、生活習慣の改善や治療によって着実に減少します。そしてその効果は、体重の数字以上に大きな意味を持ちます。

薬物療法の進歩は目覚ましいものがあります。糖尿病のない肥満・過体重の心血管疾患患者を対象とした大規模試験 SELECT では、GLP-1 受容体作動薬セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ)が心血管イベントを約 20%減少させました(Lincoff et al., N Engl J Med 2023)。また、チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)の試験 SURMOUNT-1 では、72 週間で内臓脂肪量が 40.1%も減少しました(プラセボは 7.3%減)(Look et al., Diabetes Obes Metab 2025)。

もちろん、土台となるのは食事と運動です。運動は内臓脂肪を減らすだけでなく、脂肪と筋肉・脳の「対話」を健全化し、インスリンの効きを改善します。前述のとおり、減量は脂肪組織の細胞老化を巻き戻すことも示されています(Miranda et al., Nature 2025)。「やせる」こと自体より、「内臓脂肪を減らし、脂肪を健康な状態に戻す」ことこそが本当の目標なのです。

おわりに ― まず「見える化」から始めましょう

内臓脂肪は、単なるエネルギーの倉庫ではありません。ホルモンと神経で全身と会話し、心臓の血管を蝕み、心不全を招き、がんのリスクを高める ― まさに「ただものではない」臓器です。そしてその危険性は、体重や BMI だけでは見抜けません。大切なのは、お腹まわり(ウエスト周囲径)や、CT・InBody による内臓脂肪の「見える化」です。

幸い、内臓脂肪は減らせます。食事・運動という王道に加え、必要に応じて GLP-1 受容体作動薬などの選択肢もあります。「お腹まわりが気になる」「健診で内臓脂肪を指摘された」という方は、ぜひ一度ご相談ください。当院では CT・超音波・InBody による体組成評価に加え、指定運動施設での運動療法や GLP-1 関連プログラムを整えており、日曜・祝日にも診療を行っています。あなたの「見えないリスク」を、数字と画像で確かめることから始めましょう。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. BMI が正常なら、内臓脂肪は心配しなくてよいのでしょうか?

残念ながら、そうとは言い切れません。BMI は脂肪の「分布」を反映しないため、標準体重でも内臓脂肪が多い「かくれ肥満」の方がいます。68,629 人を解析したメタ解析では、冠動脈石灰化との関連は BMI では有意でなかった一方、ウエスト・ヒップ比やウエスト周囲径では明確に認められました(Khanna et al., JACC Adv 2026)。2020 年の国際合意声明も、BMI だけでは心血管リスクを十分に評価できないとし、ウエスト周囲径の測定を推奨しています(Ross et al., 2020)。「やせているから安心」とは限りません。

Q2. 内臓脂肪と皮下脂肪では、どちらが体に悪いのですか?

一般に、内臓脂肪のほうが健康への悪影響が大きいと考えられています。内臓脂肪は代謝的に活発で、炎症物質や遊離脂肪酸を放出し、動脈硬化や糖尿病の引き金になります(Neeland et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2019)。実際、前述のメタ解析でも、冠動脈石灰化と強く関連したのは内臓脂肪面積であり、皮下脂肪面積はほとんど関連しませんでした(Khanna et al., 2026)。皮下脂肪はむしろ「安全な貯蔵庫」として働く面があり、問題は脂肪が内臓周囲や肝臓など「あるべきでない場所」にたまることなのです。

Q3. 内臓脂肪は運動や食事で本当に減らせますか?

はい、内臓脂肪はむしろ減らしやすい脂肪です。食事の見直しと運動によって、体重が減る過程で内臓脂肪は優先的に減少します。運動は内臓脂肪を減らすだけでなく、脂肪組織とのホルモン・神経の連携を改善し、インスリンの効きを高めます。さらに、減量は肥満で生じた脂肪細胞の「老化」を巻き戻すことも報告されています(Miranda et al., Nature 2025)。数字上の体重が大きく動かなくても、内臓脂肪が減れば代謝は着実に改善します。継続できる範囲で、まず一歩を踏み出すことが大切です。

Q4. GLP-1 やマンジャロ(チルゼパチド)は内臓脂肪も減らしますか?

はい、これらの薬剤は内臓脂肪を効果的に減らすことが示されています。チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)の試験 SURMOUNT-1 では、72 週間で内臓脂肪量が 40.1%減少しました(Look et al., Diabetes Obes Metab 2025)。また、セマグルチド(オゼンピック/ウゴービ)は、糖尿病のない肥満・過体重の患者で心血管イベントを約 20%減らしました(Lincoff et al., N Engl J Med 2023)。ただし、これらは適応や副作用を医師が慎重に判断して用いる薬です。自己判断ではなく、必ず医療機関にご相談ください。

Q5. お腹まわりを測るだけで、リスクがわかるのでしょうか?

完璧ではありませんが、非常に有用な指標です。ウエスト周囲径は、安価で簡単に測れるうえ、内臓脂肪の量とよく相関します。国際合意声明は、ウエスト周囲径を血圧などと並ぶ「バイタルサイン」として日常的に測るよう推奨しています(Ross et al., Nat Rev Endocrinol 2020)。目安として、ウエスト周囲径は男性で 85〜90cm 以上、女性で 80〜90cm 以上、ウエスト・ヒップ比では男性 0.90 超・女性 0.85 超が注意の目安とされます。より正確に知りたい場合は、CT や InBody による評価が役立ちます。

参考文献

  1. Tsuji T, Tseng YH. Adipose tissue as a humoral-neuronal hub in metabolic regulation. Nat Rev Endocrinol. 2026. https://doi.org/10.1038/s41574-026-01265-6
  2. Khanna S, Mann G, Virk S, et al. Associations of central adiposity with subclinical coronary calcification and disease progression: meta-analysis of 68,629 participants. JACC Adv. 2026;5(6):102844. https://doi.org/10.1016/j.jacadv.2026.102844
  3. Watts EL, Gonzalez-Feliciano A, Gunter MJ, et al. Adiposity and cancer: epidemiology, mechanisms and future perspectives. Nat Metab. 2026;8:1266-1281. https://doi.org/10.1038/s42255-026-01529-5
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  5. Neeland IJ, Ross R, Despres JP, et al. Visceral and ectopic fat, atherosclerosis, and cardiometabolic disease: a position statement. Lancet Diabetes Endocrinol. 2019;7(9):715-725. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(19)30084-1
  6. Rubino F, Cummings DE, Eckel RH, et al. Definition and diagnostic criteria of clinical obesity. Lancet Diabetes Endocrinol. 2025;13(3):221-262. https://doi.org/10.1016/S2213-8587(24)00316-4
  7. Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, et al. Semaglutide and cardiovascular outcomes in obesity without diabetes. N Engl J Med. 2023;389(24):2221-2232. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2307563
  8. Look M, Dunn JP, Kushner RF, et al. Body composition changes during weight reduction with tirzepatide in the SURMOUNT-1 study of adults with obesity or overweight. Diabetes Obes Metab. 2025;27(5):2720-2729. https://doi.org/10.1111/dom.16275
  9. Packer M. The adipokine hypothesis of heart failure with a preserved ejection fraction: a novel framework to explain pathogenesis and guide treatment. J Am Coll Cardiol. 2025;86(16):1269-1373. https://doi.org/10.1016/j.jacc.2025.06.055
  10. Miranda AMA, McAllan L, Mazzei G, et al. Selective remodelling of the adipose niche in obesity and weight loss. Nature. 2025;644(8077):769-779. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09233-2

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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