病気と健康の話

【マンジャロ】体重減少と内科的なダイエットは別の話―GLP-1 と運動、最新研究が示す「本当の効き目」―

はじめに ― 体重計の数字が、すべてではない

「注射するだけで体重が落ちる」――そんなイメージとともに、GLP-1 受容体作動薬(一般に「やせ薬」と呼ばれる薬)が世界中で爆発的に広まっています。実際、その減量効果は目を見張るもので、最新の大規模臨床試験では平均で体重の 15〜22%もの減少が報告されています(Jastreboff et al., N Engl J Med 2022)。これだけの効果があれば、「もう運動はしなくてもいいのでは」と感じる方がいても不思議ではありません。

しかし、近年つぎつぎと発表される研究は、まったく逆の方向を指し示しています。2026 年に Nature Metabolism 誌に掲載された解析では、やせ薬で体重が減っても、運動をしなければ、血管そのものの健康は改善しなかったことが示されました(Jordan & McDermott, Nat Metab 2026)。同じ年に米国心臓協会(AHA)が公表した科学的声明も、「運動は減量のための道具ではなく、それ自体が心臓と代謝の治療である」と明確に位置づけています(Swift et al., Circulation 2026)。

本コラムでは、やせ薬の限界をエビデンスにもとづいて整理し、なぜ「やせ薬は運動とセットで」こそが医学的に正しい使い方なのかを、最新の論文 10 件をひもときながら丁寧に解説します。体重計の数字の先にある「本当の健康」を一緒に考えていきましょう。

1. やせ薬(GLP-1)とは何か ― 食欲に働きかける新しい治療

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、もともと私たちの腸から分泌されるホルモンで、食後の血糖を整え、満腹感をもたらす働きを持っています。この作用を薬として強化したのが GLP-1 受容体作動薬で、代表的なものにセマグルチド(オゼンピック/ウゴービ)や、GLP-1 と GIP の二つに同時に働くチルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)があります。脳の食欲中枢と胃の動きに働きかけることで自然に食事量を抑え、結果として体重を減らします。

その効果は従来の減量薬を大きく上回ります。チルゼパチドを評価した SURMOUNT-1 試験では、最高用量で平均 22.5%もの体重減少が得られ、約 9 割の参加者が減量に成功しました(Jastreboff et al., N Engl J Med 2022)。さらに、心血管病をもつ肥満の方を対象とした SELECT 試験では、セマグルチドが心筋梗塞や脳卒中などの重大な心血管イベントを有意に減らすことも証明され(Lincoff et al., N Engl J Med 2023)、やせ薬は単なる「美容目的の薬」から「病気を防ぐ薬」へと評価を変えつつあります。

こうした目覚ましい効果は本物です。だからこそ大切なのは、この強力な道具を「どう使えば最大の健康効果が得られるか」という視点です。そして、その答えのカギを握るのが運動なのです。

2. 「体重は減ったのに、血管は変わらない」― S-LiTE 試験の意外な結果

やせ薬と運動の関係を最も鮮やかに描き出したのが、デンマークで行われた S-LiTE 試験の最新解析です。この研究では、まず 130 名の肥満の方が低カロリー食で平均 13.7kg(体重の約 12.7%)減量したのち、その後 1 年間を「運動のみ」「リラグルチド(やせ薬)のみ」「両方併用」「プラセボ(偽薬)」の 4 グループに分けて追跡しました(Sandsdal et al., Nat Metab 2026)。

注目すべきは、動脈硬化の進行度を映す「頸動脈の壁の厚さ(cIMT)」の変化です。1 年後、運動を行ったグループ(単独および併用)ではこの厚みが薄くなり、血管が若返る方向へ動きました。ところが、やせ薬を飲んでいても運動をしなかったグループでは、せっかく体重を維持できていたにもかかわらず、血管の厚さも内皮機能も炎症の指標も改善しなかったのです。さらに、慢性炎症の中心的指標であるインターロイキン-6(IL-6)は、運動群でプラセボ比 26%も低下しました。

この結果を解説した Nature Metabolism 誌の論評は、「リラグルチド単独では体重減少を維持できても、運動と同じ血管・炎症への恩恵は得られなかった」と総括しています(Jordan & McDermott, Nat Metab 2026)。体重計の数字が同じでも、運動の有無で「血管の運命」が分かれる――この事実は、やせ薬を使うすべての方が知っておくべき重要な知見です。

3. やせ薬で減るのは脂肪だけではない ― 失われる「筋肉」の問題

やせ薬のもう一つの見落とされがちな側面が、体重とともに筋肉(除脂肪量)まで失われてしまうという問題です。急激な減量では、脂肪だけでなく筋肉や骨も減ってしまうことが古くから知られていますが、これはやせ薬でも例外ではありません。

22 件のランダム化試験(計 2,258 名)を統合したネットワークメタ解析によれば、GLP-1 受容体作動薬で減った体重のうち、およそ 25%が除脂肪量(筋肉を含む)の減少だったと報告されています(Karakasis et al., Metabolism 2025)。とくにチルゼパチドやセマグルチドのような効果の強い薬ほど、脂肪を多く落とす一方で筋肉の保持には不利という傾向が見られました。糖尿病・肥満の専門誌に掲載された総説でも、研究によっては減量分の 40〜60%が除脂肪量だった例があると指摘されています(Neeland et al., Diabetes Obes Metab 2024)。

筋肉は、単に体を動かすためだけの組織ではありません。血糖を取り込んで代謝を支え、転倒や寝たきりを防ぎ、健康的な加齢の土台となる「代謝の臓器」です。これを大切に守りながら脂肪だけを落とすこと――それを可能にするのが、運動、とりわけ筋力トレーニングなのです。

4. 運動は「やせるための道具」ではない ― 体重と独立した効果

ここで発想を大きく転換する必要があります。多くの方は運動を「体重を減らすための手段」と考えていますが、最新の科学はそれだけではないと教えてくれます。2026 年に米国心臓協会(AHA)が機関誌 Circulation に発表した科学的声明は、運動が血圧・インスリン感受性・コレステロール・心肺フィットネスを、体重減少とは独立して改善することを強調しています(Swift et al., Circulation 2026)。

実際、運動だけで大きく体重を減らすのは容易ではありません。食事の見直しを伴わない運動は、体重を落とす刺激としてはむしろ弱いことが知られています。それでも声明の責任著者は「たとえ体重が減らなくても、運動はあなたをより健康にしてくれる」と述べ、運動を『減量のおまけ』ではなく『心血管・代謝そのものの治療』として処方すべきだと提言しています。有酸素運動は安静時血圧を下げ、善玉(HDL)コレステロールを増やし、中性脂肪を減らします。

さらに有酸素運動に筋力トレーニングを組み合わせると、筋肉量が保たれ、インスリン感受性の改善やヘモグロビン A1c(過去 1〜2 か月の血糖の平均)の低下がより効果的になると報告されています。つまり運動は、体重計に現れない部分で、私たちの体を内側から作り変えているのです。

5. 筋肉と機能を守る ― 減量期に運動が果たす役割

「やせ薬で筋肉が減るなら、運動で本当に守れるのか」――この問いに答える代表的な研究が、肥満の高齢者 160 名を対象とした NEJM 掲載のランダム化試験です(Villareal et al., N Engl J Med 2017)。この試験では、減量に取り組む高齢者を「有酸素運動」「筋力トレーニング」「両方併用」「運動なし」に分け、身体機能や筋力の変化を比較しました。

結果は明快でした。運動を組み合わせたグループは、減量に伴う筋力や身体機能の低下を防ぎ、なかでも有酸素運動と筋力トレーニングを併用したグループで最も大きな機能改善が得られました。とりわけ筋力トレーニングは、減量中に起こりがちな筋力低下に対する「歯止め」として働いたのです。これは、やせ薬で急速に減量する現代においても、そのまま当てはまる原則です。

肥満の方の筋肉は、脂肪が筋肉のあいだに入り込むこと(脂肪浸潤)によって質が低下していることが少なくありません。運動はこの「筋肉の質」を高めることが分かっており、量だけでなく質の面からも、やせ薬による減量を運動が下支えします。やせ薬で食欲を抑えながら、運動で筋肉と機能を守る――この組み合わせこそが、健康的な減量の王道です。

6. やせ薬と運動の相乗効果 ― 1+1 が 2 以上になる

やせ薬と運動は、別々に効くだけではありません。組み合わせることで足し算以上の効果を生みます。先ほどの S-LiTE 試験の大もととなった NEJM 掲載の原著(Lundgren et al., N Engl J Med 2021)では、減量後の 1 年間を追跡したところ、運動とリラグルチドを併用したグループが、体重維持の点でも体組成の点でも最も優れた成績を示しました。

具体的には、併用グループは体脂肪率を約 3.9 ポイント低下させ、これは運動のみ(約 1.7 ポイント)やリラグルチドのみ(約 1.9 ポイント)のおよそ 2 倍に相当しました。つまり、脂肪をより多く落としながら筋肉を守るという、減量における理想的な体組成の変化を、併用によって実現できたのです。さらに前述のとおり、血管の内皮機能の改善が見られたのは併用グループだけでした(Sandsdal et al., Nat Metab 2026)。

やせ薬は食欲を抑えて減量のスタートを切りやすくし、運動は心血管・代謝・筋肉という「中身」を整える。両者は役割が異なるからこそ、互いを補い合います。やせ薬を『運動の代わり』として使うのではなく、『運動の効果を最大化するための相棒』として使う――これが、エビデンスが示す最適解です。

7. 実践 ― 何を、どれくらい、どう始めるか

では、具体的にどれくらい運動すればよいのでしょうか。米国の身体活動ガイドラインおよび AHA は、週に 300 分以上の中強度有酸素運動(早歩きなど)、または 75 分以上の高強度有酸素運動に加え、週 2 回以上の筋力トレーニングを推奨しています(Swift et al., Circulation 2026)。これが一つの目標です。

ただし、AHA の声明が同時に強調するのは「いきなり 150 分を目指さなくてよい」という現実的な姿勢です。運動習慣のない方にとっては、ごくわずかな運動でも測定可能な健康効果が得られます。大切なのは『まず始めること』であり、『少しでも、何もしないよりはるかに良い(some is better than none)』という考え方です。階段を数回上る、車を少し遠くに停めて歩く、といった小さな工夫から始め、それを生活に「組み込んで」いくことが続けるコツとされています。

当院では、こうした運動を「気合い」ではなく「医療」として支えます。InBody による体組成測定で筋肉量と脂肪量を可視化し、やせ薬で筋肉が落ちていないかを定期的にチェック。さらに指定運動療法施設として、お一人おひとりの体力に合わせた安全な運動プログラムをご提案します。GLP-1 減量プログラムと運動療法を一体で受けられる体制こそ、当院の強みです。

おわりに ― やせ薬は「魔法」ではなく「相棒」

ここまで見てきたように、やせ薬は確かに強力で、心血管病すら防ぎうる画期的な治療です。しかし最新の研究は一致して、やせ薬だけでは血管の健康も筋肉も十分には守れないこと、そして運動がそれを補い、相乗効果を生むことを示しています(Sandsdal et al., 2026; Lundgren et al., 2021)。AHA も「GLP-1 を単独で使うことは厳に避けるべきだ」と明言しています。

やせ薬は、生活習慣を置き換える「魔法の薬」ではなく、健康的な生活への歩みを助けてくれる「相棒」です。体重計の数字だけを追うのではなく、血管・筋肉・代謝という体の中身を整えること――それが、リバウンドしにくく、長く健康でいられる体づくりにつながります。

まんかいメディカルクリニックでは、医師による安全な GLP-1 減量プログラムに、InBody 体組成測定と運動療法を組み合わせ、「やせ薬と運動のセット」を一つの場所で完結できる体制を整えています。減量を始めたい方も、すでにやせ薬を使っていて不安のある方も、どうぞお気軽にご相談ください。あなたの『本当の健康』を、私たちが伴走してお支えします。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. やせ薬を注射すれば、運動はしなくてもよいのでしょうか?

いいえ、運動は欠かせません。S-LiTE 試験では、やせ薬(リラグルチド)で体重を維持できても、運動をしなければ血管の厚さ・内皮機能・炎症のいずれも改善しませんでした(Sandsdal et al., Nat Metab 2026)。一方、運動を行ったグループでは血管が若返る方向へ変化し、炎症の指標(IL-6)も 26%低下しました。米国心臓協会も「GLP-1 を単独で使うことは避けるべき」と提言しています(Swift et al., Circulation 2026)。やせ薬は運動と組み合わせてこそ、本当の健康効果を発揮します。

Q2. やせ薬で筋肉が落ちると聞きました。本当ですか? 防ぐ方法は?

本当です。22 件の試験を統合した解析では、GLP-1 受容体作動薬で減った体重の約 25%が除脂肪量(筋肉を含む)の減少でした(Karakasis et al., Metabolism 2025)。とくに効果の強い薬ほどこの傾向があります。防ぐ最も確実な方法は運動、特に筋力トレーニングです。減量中の高齢者を対象とした NEJM の試験では、運動を組み合わせることで筋力と身体機能の低下を防げることが示されています(Villareal et al., N Engl J Med 2017)。当院では InBody で筋肉量を定期的に確認しながら減量を進めます。

Q3. 運動だけで、やせ薬と同じくらい体重を減らせますか?

体重を減らす力という点では、運動はやせ薬や食事療法にかないません。食事の見直しを伴わない運動だけでは、大きな減量は得にくいことが分かっています(Swift et al., Circulation 2026)。チルゼパチドの SURMOUNT-1 試験では平均 15〜22.5%もの減量が報告されており(Jastreboff et al., N Engl J Med 2022)、これは運動単独では到達が難しい数字です。ただし運動には、体重を減らす以外に血圧・血糖・血管を改善するという別の重要な役割があります。役割が違うからこそ、両者を組み合わせるのが最善です。

Q4. 体重があまり減らなくても、運動する意味はありますか?

大いにあります。米国心臓協会の科学的声明は、運動が血圧・インスリン感受性・コレステロール・心肺フィットネスを、体重減少とは独立して改善すると強調しています(Swift et al., Circulation 2026)。責任著者も「たとえ体重が減らなくても、運動はあなたをより健康にする」と述べています。心肺フィットネスの高さは、それ自体が心血管病や死亡のリスクを下げる重要な要素です。体重計の数字に一喜一憂せず、続けることに価値があります。

Q5. やせ薬をやめたらリバウンドしますか? 運動は維持に役立ちますか?

やせ薬は中止後に体重が戻りやすいことが知られており、長期的な体重維持には生活習慣が鍵になります。S-LiTE 試験では、運動とやせ薬を併用したグループが体重維持と体組成の両面で最も良好な成績を示しました(Lundgren et al., N Engl J Med 2021)。また米国心臓協会は、運動が体重維持を助けるだけでなく、たとえ多少のリバウンドが起きても、血圧やインスリン感受性の改善を保ち心血管を守る可能性があると指摘しています(Swift et al., Circulation 2026)。運動習慣は、薬をやめた後の「お守り」になります。

参考文献

  1. Anderer S. In Obesity Treatment, Physical Activity’s Benefits Go Beyond Weight Loss, Says AHA. JAMA. 2026. https://doi.org/10.1001/jama.2026.11338
  2. Jordan AJ, McDermott M. Exercise and glucagon-like peptide 1 receptor agonists in cardiovascular disease beyond weight loss. Nat Metab. 2026. https://doi.org/10.1038/s42255-026-01560-6
  3. Sandsdal RM, Holt J, et al. Effects of exercise and liraglutide on vascular health and inflammation during weight loss maintenance: a prespecified secondary analysis of the S-LiTE trial. Nat Metab. 2026. https://doi.org/10.1038/s42255-026-01554-4
  4. Lundgren JR, Janus C, Jensen SBK, et al. Healthy Weight Loss Maintenance with Exercise, Liraglutide, or Both Combined. N Engl J Med. 2021;384(18):1719-1730. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2028198
  5. Swift DL, Ross LM, et al. Role of Physical Activity in Obesity Treatment and Cardiometabolic Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2026. https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000001441
  6. Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, et al. Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes (SELECT). N Engl J Med. 2023;389(24):2221-2232. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2307563
  7. Jastreboff AM, Aronne LJ, Ahmad NN, et al. Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity (SURMOUNT-1). N Engl J Med. 2022;387(3):205-216. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2206038
  8. Neeland IJ, Linge J, Birkenfeld AL. Changes in lean body mass with glucagon-like peptide-1-based therapies and mitigation strategies. Diabetes Obes Metab. 2024;26(Suppl 4):16-27. https://doi.org/10.1111/dom.15728
  9. Villareal DT, Aguirre L, Gurney AB, et al. Aerobic or Resistance Exercise, or Both, in Dieting Obese Older Adults. N Engl J Med. 2017;376(20):1943-1955. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1616338
  10. Karakasis P, Patoulias D, Fragakis N, Mantzoros CS. Effect of glucagon-like peptide-1 receptor agonists and co-agonists on body composition: Systematic review and network meta-analysis. Metabolism. 2025;164:156113. https://doi.org/10.1016/j.metabol.2024.156113

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

お知らせ一覧へ戻る