喘息

■喘息を知るポイント

喘息は、気管支という空気の通り道が慢性的に炎症を起こし、様々な呼吸器症状を引き起こす病気です。この炎症は、まるで気管支が常に”ヒリヒリ”と刺激されているような状態であり、様々な刺激に過敏に反応してしまいます。
咳や息苦しさといった症状は風邪にも見られますが、喘息は慢性疾患であり、継続的な治療と管理が必要になります。咳だけが長く続く咳喘息、発作的に症状が現れる典型的な喘息など、症状や種類も様々です。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状態に合った治療法を見つけることが、快適な日常生活を送る上で非常に重要です。

喘息の代表的な症状

喘息の代表的な症状は、咳、喘鳴(ぜんめい)、息苦しさ、胸の締め付け感です。これらの症状は、気管支の炎症と狭窄によって引き起こされます。喘息の咳は、特に夜間や早朝に悪化しやすい傾向があります。風邪の咳とは異なり、乾いた咳が出ることが多く、まるで喉がイガイガするような感覚を伴うこともあります。
喘鳴は、息を吸ったり吐いたりするときに、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった笛のような音が聞こえることです。これは、狭くなった気管支を空気が無理やり通ることで発生する音です。例えるなら、細いストローでジュースを飲むときに音がするのと似ています。
息苦しさは、呼吸が浅く速くなったり、深く息を吸えなくなったりする症状です。重症になると、話すことも困難になる場合があり、日常生活に大きな支障をきたします。
胸の締め付け感は、圧迫されるような感覚です。呼吸が苦しくなるため、強い不安感を伴うこともあります。

喘息の重症度分類

喘息の重症度は、症状の頻度や程度、肺活量などによって、軽症、中等症、重症、最重症の4段階に分類されます。この分類は、治療方針を決定する上で重要な指標となります。

軽症喘息日常生活にほとんど支障がない程度の軽い症状で、発作も稀です。
中等症喘息中等症喘息になると、症状が中等度で、時々発作が起こります。
日常生活に多少の制限が生じる場合もあります。
重症喘息重症喘息では、症状が重度で、頻繁に発作が起こります。日常生活に大きな支障をきたすことが多く、入院が必要になる場合もあります。肥満細胞、好酸球、マクロファージ、好中球、Tリンパ球、上皮細胞など多くの細胞が気管支の炎症に関与しており、この炎症により、呼吸困難、喘鳴、咳嗽、胸部締め付け感などの症状を引き起こします。
最重症喘息最重症喘息は、生命を脅かすような重篤な発作が起こる可能性があり、常に注意深い管理が必要です。入院治療が必要となるケースもあります。喘息は気道の閉塞性疾患であり、呼気流を制限します。急性かつ可逆性であり、炎症、気管支けいれん、気道分泌物の増加による気流閉塞を特徴とします。

喘息は慢性疾患のため、症状が落ち着いている時でも、継続的な治療と自己管理が大切です。適切な治療を続けることで、症状をコントロールし、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。

喘息の原因と誘因を理解する

喘息は、気管支という空気の通り道が炎症を起こし、狭くなることで呼吸困難を引き起こす病気です。この炎症は、まるで気管支が常に刺激を受けているような状態であり、様々な要因によって引き起こされます。喘息の症状を効果的に管理し、発作を防ぐためには、これらの原因と誘因を理解することが重要です。

アレルギーとの関係性

アレルギーは喘息の主要な原因の一つです。アレルギーとは、本来無害な物質(アレルゲン)に対して体が過剰に反応し、免疫システムが攻撃してしまう状態です。喘息の場合、ダニの死骸やフン、花粉、ペットの毛やフケ、カビなどがアレルゲンとなることが多く、これらのアレルゲンを吸い込むと、気管支に炎症が起こり、喘息の症状が悪化します。
アレルギー反応は、体内で複雑な免疫反応を引き起こします。アレルゲンが体内に侵入すると、免疫システムはそれを異物と認識し、IgE抗体と呼ばれる物質を産生します。このIgE抗体は、肥満細胞と呼ばれる細胞の表面に結合します。次に、同じアレルゲンが再び体内に侵入すると、アレルゲンは肥満細胞に結合したIgE抗体に結合し、肥満細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出されます。これらの化学物質が気管支の炎症や収縮を引き起こし、喘息の症状につながるのです。
アレルギー体質の人は喘息を発症するリスクが高いことが知られています。アレルギー検査を受けることで、どのようなアレルゲンに反応しているかを特定し、そのアレルゲンを避ける対策を講じることが、喘息の症状のコントロールに役立ちます。

環境要因(風邪、ストレス、タバコの煙など)

アレルギー以外にも、環境要因が喘息の症状を悪化させることがあります。大気汚染物質(排気ガス、PM2.5など)やタバコの煙は、気管支を直接刺激し、炎症を悪化させる可能性があります。タバコの煙は、喘息患者さん本人だけでなく、周りの人の喘息も悪化させるため、受動喫煙は絶対に避けなければなりません。
大気汚染物質やタバコの煙に含まれる化学物質は、気道に侵入し、気管支の粘膜を刺激して炎症を引き起こします。また、これらの物質は、気道の免疫細胞を活性化し、炎症性サイトカインと呼ばれる物質の産生を増加させ、気管支の炎症をさらに悪化させます。結果として、気道が狭くなり、咳、喘鳴、呼吸困難などの喘息症状が現れます。
さらに、気温や湿度の変化も喘息の症状に影響を与える可能性があります。急激な温度変化や乾燥した空気は、気道を刺激し、喘息発作の引き金となることがあります。温度差の激しい場所への移動や、乾燥した環境での滞在は、喘息の症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です。
風邪やインフルエンザなどのウイルス感染は、直接喘息の症状を悪化させる誘因となります。ウイルス感染によって気道に炎症が起こると、喘息の症状が悪化しやすくなります。感染症を予防するために、手洗い、うがい、マスクの着用などの対策を徹底することが重要です。

その他の誘因(運動、ストレスなど)

環境要因に加えて、運動、ストレス、特定の食べ物や飲み物なども喘息の誘因となることがあります。激しい運動を行うと、気管支が収縮し、呼吸が苦しくなることがあります。これは運動誘発性喘息と呼ばれ、運動前に適切な準備運動やウォーミングアップ、運動後のクールダウンを行うことで予防できます。
精神的なストレスも喘息発作の引き金となる場合があります。ストレスは、免疫システムのバランスを崩し、炎症反応を亢進させる可能性があります。ストレスを管理するための適切な対処法を見つけることが、喘息のコントロールに役立ちます。
特定の食べ物、アルコールなども喘息発作の誘因となる場合があるため、注意が必要です。ご自身の症状を悪化させる誘因を把握し、日常生活でそれらを避けるように工夫することで、喘息をうまくコントロールすることができます。喘息は、様々な要因が複雑に絡み合って発症・増悪する疾患です。ご自身の症状や誘因を理解し、医師と相談しながら適切な治療と生活管理を行うことが、喘息をコントロールし、健康的な生活を送るために重要です。

■喘息の治療とそれぞれのメリット・デメリット

喘息は、気管支に慢性的な炎症が起こり、空気の通り道が狭くなることで、咳や息苦しさなどの症状が現れる病気です。この炎症は、まるで気管支が常に刺激にさらされているような状態であり、様々な要因によって悪化します。喘息の治療は、この炎症を抑え、気管支を広げ、呼吸を楽にすることを目的としています。主な治療法として、薬物療法、免疫療法、その他の治療法があり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。患者さん一人ひとりの症状や生活スタイル、そして喘息に対する考え方なども考慮しながら、最適な治療法を選択していくことが重要です。

薬物療法(吸入ステロイド、気管支拡張剤など)

薬物療法は喘息治療の柱であり、様々な薬剤を症状や重症度に合わせて使い分けます。大きく分けて、気管支の炎症を抑える「吸入ステロイド薬」、気管支を広げる「気管支拡張薬」、アレルギー反応を抑える「抗アレルギー薬」などがあります。
吸入ステロイド薬は治療における柱で、喘息の炎症を抑えるための基本薬です。シムビコート、レルベアなど現在はステロイド薬と気管支拡張薬が一緒になったICS/LABAが主流です。吸入器を用いて直接肺に薬を届けるため、全身性の副作用が少ないというメリットがあります。毎日継続して使用することで、喘息の症状をコントロールし、発作を予防する効果が期待できます。なかでもシムビコートのSmart療法は、エビデンスも豊富で喘息の基本的な治療法になりました。
気管支拡張薬は、気管支の筋肉を弛緩させ、狭くなった気道を広げることで呼吸を楽にする薬です。発作時に使用する短時間作用性β2刺激薬(メプチンなど)と、発作の予防に使用される長時間作用性β2刺激薬(セレベントなど)があります。短時間作用性β2刺激薬は即効性がありますが効果の持続時間が短いため、発作時の頓服として使用されます。長時間作用性β2刺激薬は効果の持続時間が長いため、発作の予防を目的として吸入ステロイド薬と併用されることが多いです。

抗アレルギー薬は、アレルギー反応を抑えることで喘息の症状を改善する薬です。代表的な薬には、オノン、シングレア、キプレスなどがあります。アレルギーが喘息の大きな原因となっている場合に有効です。
薬物療法は効果が高い一方、薬によっては副作用が生じる可能性もあります。例えば、吸入ステロイド薬では口腔カンジダ症や嗄声(声がれ)などの副作用が、気管支拡張薬では動悸や手の震えなどの副作用が生じることがあります。医師と相談しながら、患者さんにとって最適な薬を選択し、副作用への適切な対応策を講じる必要があります。

免疫療法(バイオ製剤、アレルゲン免疫療法など)

免疫療法は、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を少量ずつ体内に投与することで、アレルゲンに対する過剰な免疫反応を抑制しアレルギー反応を起こしにくくするアレルゲン免疫療法と、炎症物質を直接低下させるバイオ製剤があります。アレルゲン免疫療法は、喘息のアレルギーの原因が特定されている場合に有効な治療法で、ダニや花粉などに対するアレルギーが原因の喘息に用いられます。長期間継続することで根本的な体質改善が期待できるというメリットがあります。しかし、効果が現れるまでに時間がかかること、アナフィラキシーショックなどの重篤な副作用が起こる可能性があることに注意が必要です。皮下注射による治療法と舌下免疫療法があり、アレルゲンの種類や患者さんの状況に応じて選択されます。
喘息は、肥満細胞、好酸球、Tリンパ球など多くの細胞が関与する慢性炎症性疾患です。免疫療法はこのような炎症反応を調整することで喘息の症状を改善します。喘息治療の基本は吸入ステロイドなどの薬によって気道の炎症を抑えることですが、それでもうまくコントロールできない「難治性喘息」の方もいます。そのような方に向けた新しい治療法が、喘息バイオ製剤です。代表的な喘息バイオ製剤は以下の通りです。画期的な治療法ではありますが、バイオ製剤のメリットとデメリットも記します。

薬剤名作用標的特徴
ゾレア(オマリズマブ)IgE抗体アレルギー性喘息に有効
ヌーカラ(メポリズマブ)好酸球好酸球増多型喘息に有効
ファセンラ(ベンラリズマブ)好酸球+その受容体効果の持続が長い
デュピクセント(デュピルマブ)IL-4/IL-13アトピー性皮膚炎や鼻炎にも対応可能

— バイオ製剤のメリットとデメリット

メリット・発作の頻度を大幅に減らせる
・ステロイドの内服を減らせる
・QOL(生活の質)が大きく向上する
デメリット・注射による治療(2〜4週に1回)
・高額(保険適応だが3割負担で1回1〜3万円程度)
・適応には診断基準や血液検査、FeNOなどの精査が必要

■喘息発作の対処法

突然息苦しくなる喘息発作。とても不安になると思います。
発作時の適切な対処法と、日頃からの予防策を身につけることで、発作の不安を減らし、穏やかな毎日を送る助けになります。

発作時

喘息発作が起きた時は、まず落ち着いて行動することが大切です。パニックになってしまうと、呼吸がさらに苦しくなる悪循環に陥ってしまいます。

1.安心できる姿勢をとる

楽な姿勢で座るか、テーブルなどに腕をついて少し前かがみになると、呼吸補助筋を使いやすくなり呼吸がしやすくなります。横になるよりも、座っている方が効果的です。

2.発作時の薬を使う

医師から処方されている吸入薬(短時間作用性β2刺激薬など)があれば、すぐに使用しましょう。これは気管支を広げる薬で、発作時の症状緩和に効果的です。使用方法は医師から指導を受けているはずですが、もし使用方法が分からなくなってしまった場合は、薬局や医療機関に問い合わせてください。

3.呼吸を整える

ゆっくりと深呼吸を繰り返すことで、呼吸を楽にするよう心がけてください。過呼吸にならないように、落ち着いて深呼吸をすることが重要です。

4.水分補給

水分を摂ることで、痰を出しやすくし、呼吸を楽にする効果が期待できます。常温の水か白湯をゆっくりと飲みましょう。

5.周囲に助けを求める

症状が重い場合や、薬を使っても改善しない場合は、すぐに救急車を呼びましょう。家族や周りの人に助けを求めることも大切です。一人で抱え込まず、助けを求めることをためらわないでください。

■日常生活での注意点

日常生活における注意点を守り、喘息をコントロールすることで、発作のない快適な生活を送ることができます。

栄養バランスの取れた食事

偏った食生活は免疫力を低下させ、喘息発作を誘発するリスクを高めます。バランスの良い食事を摂り、免疫力を高めるようにしましょう。

適度な運動

適度な運動は、心肺機能を高め、喘息の症状を改善する効果が期待できます。ただし、激しい運動は喘息発作を誘発する可能性があるので、ウォーキングや軽いジョギングなど、自分に合った運動を無理なく行いましょう。運動前には必ず準備運動を行い、発作が出た場合はすぐに運動を中止してください。

十分な睡眠

睡眠不足は免疫力を低下させ、喘息発作のリスクを高めます。毎日同じ時間に寝起きし、十分な睡眠時間を確保するようにしましょう。

ストレス管理

ストレスは喘息発作の誘因となること。

風邪をひかないようにする

ウィルス感染は、それ自体が喘息のコントロールを悪化させます。

■長期的な管理方法

喘息は慢性疾患であるため、長期的な管理が必要です。

定期的な通院

症状が落ち着いている時でも、医師の指示に従って定期的に通院し、症状や治療経過を確認してもらいましょう。自己判断で治療を中断せず、医師との良好なコミュニケーションを保つことが大切です。

自己管理

症状日記をつけたりすることで、自分の状態を把握し、適切な対処ができるようにしましょう。毎日記録することで、症状の変化に気付きやすくなり、発作の予兆を早期に発見できる可能性があります。

呼気ガス検査(FeNO)

FeNO検査とは、息を吐くだけで気道の炎症の程度を調べることができる簡単な検査です。FeNOとは「呼気中一酸化窒素(Fractional exhaled Nitric Oxide)」の略で、気道に炎症があると、この一酸化窒素の量が増えることが知られています。
コントロールが不良な状態の喘息では、アレルギーに関わる好酸球という白血球が活性化し気道に炎症を起こします。この時、FeNO値も上昇します。

喘息は、適切な治療と自己管理によって、症状をコントロールし、日常生活を快適に送ることが可能です。医師と相談しながら、自分に合った治療法や管理方法を見つけていきましょう。

参考文献

  • Chabra R, Gupta M. Allergic and Environmentally Induced Asthma. , no. (2025): .

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