クループ

お子さまの咳が「ケンケン!」という変わった咳だったり、息を吸うたびに苦しそうな音がしたり、その症状は、ウイルス感染によって喉が腫れる「クループ」かもしれません。
クループは、特に生後6ヶ月から3歳のお子さんによく見られる病気です。男の子の方が女の子よりも約1.4倍かかりやすいと報告されています。ほとんどは軽症で回復しますが、まれに呼吸困難といった緊急の対応が必要なケースもあります。
ここでは、クループの4つの主な症状や、救急車を呼ぶべきサインの見分け方、ご家庭でできるケアまで解説します。

■クループの主な症状4つと緊急性の見分け方

多くは軽い症状で済みますが、時には急いで病院へ行くべきサインもあります。

特徴的な咳(犬吠様咳嗽)

クループの最も分かりやすい症状は、とても特徴的な咳です。 医学的には「犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)」と呼ばれます。
まるで犬が「ケン、ケン!」と吠えているような、乾いた咳が出ます。 あるいは、オットセイが「オウッ、オウッ」と鳴くような、しわがれた咳のこともあります。 普段の風邪で聞かれる「コンコン」という咳とは響きが全く違うため、初めて聞くと驚かれるかもしれません。

この独特な咳は、ウイルスの感染が原因で起こります。
喉仏のあたりにある喉頭(こうとう)や気管が炎症で腫れてしまい、空気の通り道が狭くなることで発生します。
クループの症状は、夜間に突然始まったり、悪化したりする傾向があります。 日中は元気そうに見えても、夜寝てから急に咳き込み始めることも珍しくありません。

多くの場合は、咳などの症状は48時間で落ち着いてきます。 しかし、咳がひどくて眠れない、呼吸が苦しそうといった場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

息を吸う時のヒューヒューという音(吸気性喘鳴)と声がれ

クループのもう一つの特徴は、息を「吸う」ときに聞こえる音です。 これを「吸気性喘鳴(きゅうきせいぜんめい)」と呼びます。
喉の炎症で空気の通り道が狭くなっているためです。 狭い隙間を空気が通る時に「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった音が鳴ります。

ぜんそくは息を「吐く」ときにゼーゼーいうことが多いです。 クループは息を「吸う」ときに音がするのが、見分けるための大切なポイントです。
この喘鳴は、お子さんが泣いたり興奮したりすると、呼吸が速くなり、よりはっきりと聞こえるようになります。 興奮は喉の腫れを悪化させることもあるため、なるべくお子さんを落ち着かせ、安静に過ごさせることが重要です。
また、咳と同様の理由で、声を出す「声帯」も炎症で腫れます。 そのため、声がかすれたり、しゃがれたりする「嗄声(させい)」という症状もよく見られます。


犬吠様咳嗽、吸気性喘鳴、そして嗄声。 この3つは、クループの典型的な症状のセットとして知られています。 これらは、お子さまの喉で炎症が起きている大切なサインなのです。

呼吸困難やチアノーゼなど救急車を呼ぶべきサイン

クループのほとんどは軽症で回復に向かいます。 しかし、まれに喉の腫れがひどくなり、呼吸困難に陥ることもあります。 ご家庭では、お子さんの呼吸の状態を注意深く観察することがとても重要です。
以下のようなサインが見られたら、ためらわずに救急車を呼ぶか、救急外来を受診してください。

救急車を呼ぶべきサインのチェックリスト

陥没呼吸(かんぼつこきゅう)息を吸うたびに、鎖骨の上のくぼみや、胸の真ん中(胸骨)、肋骨の間がペコペコとへこむ状態です。
チアノーゼ 唇や顔色、爪の色が青白い、または紫色になっています。体の中に十分な酸素が足りていないサインです。
意識の状態が悪い ぐったりしていて元気がない、呼びかけへの反応が鈍いなど、意識がはっきりしない状態です。
水分がとれない喉の痛みや息苦しさから、よだれも飲み込めず口から垂らしていたり、水分を全くとれなかったりします。
よだれを垂らす喉が腫れて唾液を飲み込めないため、よだれを垂らします。

これらの症状は、気道がひどく狭くなっていることを示します。

■急性喉頭蓋炎などクループと似た症状の病気との違い

クループと似た症状を示す病気の中には、より緊急性の高いものがあります。 その代表が「急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)」です。
クループは主にウイルスが原因で起こります。 一方、急性喉頭蓋炎は細菌が原因で、進行が非常に速いのが特徴です。 急に気道がふさがり窒息する危険があるため、見分けることが非常に重要になります。

クループと急性喉頭蓋炎の主な違い

項目クループ症候群急性喉頭蓋炎
主な原因ウイルス細菌
特徴的な咳(犬吠様咳嗽)が多い咳はあまり出ないことが多い
ないか、あっても微熱程度が多い突然の高熱が出やすい
よだれ通常は見られない喉の激痛でつばを飲み込めず、よだれが大量に出る
姿勢特徴的な姿勢はない呼吸を楽にするため、前かがみで顎を突き出すことがある

このほか、おもちゃなどを飲み込んでしまった「気管支異物」も考えられます。 突然の咳や呼吸困難が起こることがあるためです。 お子さんが何かを口に入れて遊んでいた時に急にむせこんだ場合は、この可能性も頭に入れておきましょう。
ご家庭でこれらの病気を正確に見分けることは困難です。 お子さんの様子がいつもと違うと感じたら、自己判断はせずに、速やかに医療機関を受診してください。

■クループの主な原因と感染対策3つのポイント

クループの正体は、主にウイルス感染による喉の炎症です。 そのため、原因となるウイルスを知り、正しい感染対策を行うことがとても大切です。

原因の多くはパラインフルエンザウイルス感染

クループを引き起こす原因として最も多いのは、「ヒトパラインフルエンザウイルス」というウイルスへの感染です。
ある研究では、呼吸器の感染症で入院が必要になったお子さんのうち、約15%でこのウイルスが見つかったという報告もあります。 特に、体の抵抗力がまだ弱い1歳未満の赤ちゃんは感染しやすく、注意が必要です。

このウイルスにはいくつかの種類(型)があり、流行する季節に違いが見られます。 世界的な調査でも、ウイルスの種類によって季節性が異なることがわかっています。

ウイルスの種類主な流行時期の傾向
パラインフルエンザウイルス3型春から夏にかけて流行のピークが見られます
パラインフルエンザウイルス1型、2型秋から冬にかけて流行することが多いです

特に3型は、日本のような温帯地域では春から夏にかけての流行パターンがはっきりしています。 クループの原因としては、この3型と1型が大多数を占めます。
もちろん、これらのウイルス以外にも、RSウイルスやインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどがクループの原因になることもあります。

どのウイルスが原因であっても、喉の奥にある声帯のあたりがウイルスによって炎症を起こし、腫れてしまいます。 その結果、空気の通り道が狭くなり、あの特徴的な咳や呼吸の症状が現れるのです。

家族や兄弟への感染と大人がかかった場合の症状

クループの原因となるウイルスは、感染力が強いのが特徴です。
咳やくしゃみで飛び散り、換気の悪い部屋に漂う飛沫に含まれて人から人へとうつります。そのため、ご家庭内で感染が広がる可能性は十分に考えられます。
特に、小さなお子さんがいるご家庭では、兄弟間での感染に注意が必要です。 ウイルスに汚染されたおもちゃなどを介して感染することもあります。
大人がパラインフルエンザウイルスに感染した場合、お子さんのようなひどいクループ症状になることはまれです。多くは、喉の痛み、咳といった、いわゆる「風邪」のような症状であることがほとんどです。 ただし、大人でも声がかすれる症状が出ることがあります。

ご家族がひいた普通の風邪が、お子さんにとってはクループの原因ウイルスである可能性もあります。家庭内での感染をできるだけ防ぐために、基本的な感染対策を徹底しましょう。

ご家庭でできる感染対策

手洗い石鹸を使い、指の間や爪、手首までこまめに丁寧に洗いましょう。
アルコール消毒  アルコールによる手指消毒もウイルスの感染力をなくすのに有効です。
マスクの着用咳などの症状がある場合は、マスクをつけて飛沫の拡散を防ぎましょう。
タオルの共用を避けるタオルや食器は、症状がある方と別にするのが望ましいです。
こまめな換気定期的に部屋の窓を開けて、空気を入れ替えましょう。
これらの対策は、クループだけでなく他のさまざまな感染症から家族全員を守ることにもつながります。

れらの対策は、クループだけでなく他のさまざまな感染症から家族全員を守ることにもつながります。

■保育園や学校の登園・登校停止の目安

クループは、インフルエンザのように法律で「何日間休む」という明確な出席停止期間が定められている病気ではありません。
そのため、いつから登園・登校を再開できるかは、お子さんの症状の回復具合を見て判断します。 最終的には、かかりつけの医師に相談し、その指示に従うことが大切です。

一般的に、登園・登校を考えてもよいとされる症状の目安は以下のとおりです。

登園・登校を再開する目安

咳の様子 「ケンケン」という特有の咳が落ち着き、回数も減っている。
呼吸の状態 息苦しさがなく、息を吸う時のヒューヒュー音も聞こえない。
全身の状態熱がなく平熱で、食欲も戻り、普段通り元気に過ごせる。

また、研究によると、クループの重症度はウイルスの種類そのものよりも、他の要因が関係することがわかっています。 例えば、もともと心臓や肺の病気などの基礎疾患があるお子さんや、他のウイルスにも同時に感染している場合は、症状が重くなったり、回復に時間がかかったりすることがあります。 お子さんの状態をよく観察し、焦らず慎重に判断しましょう。

園や学校によっては、医師による「登園(登校)許可証」の提出が必要な場合があります。 事前に通っている園や学校に確認しておくと、再開がスムーズです。

■クループの治療法と家庭でできるケア

クループの治療は、お子さんの症状の重さに合わせて行います。 基本的には、喉の炎症を抑えるお薬での治療が中心です。
ここでは、病院で行われる代表的な治療法と、ご家庭ですぐに実践できる大切なケアについて説明します。

喉の腫れを抑えるステロイド薬による治療

クループ治療の中心的な役割を果たすのが「ステロイド薬」です。 このお薬は、ウイルスによって腫れた喉の炎症を強力に抑えます。
喉の腫れが引くことで、狭くなった空気の通り道が広がります。 その結果、お子さんの息苦しさが和らぎ、咳も楽になっていきます。

このステロイド薬による治療は、クループ治療の主軸と考えられています。研究でも、軽症から重症まで、すべての症状の段階で有効性が確認されています。 入院する確率を下げたり、治療後に再び病院を受診する割合を減らしたりする効果も報告されている、とても大切な治療法です。

ステロイド薬の使われ方

お薬の種類デキサメタゾンなどの飲み薬や、注射で使われることがあります。どちらを使うかは、お子さんの状態や症状の強さに応じて医師が判断します。
効果があらわれるまで お薬を使ってから効果が出るまでには、数時間ほどかかります。すぐに症状が消えなくても、焦らずに様子を見守りましょう。
安全性について「ステロイド」と聞くと、副作用を心配されるかもしれません。しかし、クループ治療で短期間使う場合、重い副作用が起こることはまれです。

重症時に行うアドレナリン(ボスミン)吸入療法

お子さんの呼吸がとても苦しそうだったり、安静にしていても息を吸うたびにヒューヒューという音が聞こえたりする場合。 そのような中等症から重症のクループに対して行われるのが、この吸入療法です。

「アドレナリン(商品名:ボスミン®)」というお薬を使います。
ネブライザーという専用の機械で、お薬を細かい霧状にして吸い込みます。 霧状のお薬を直接吸い込むことで、喉にすばやく届けることができます。
アドレナリンには、気道の血管を縮める働きがあります。 これにより、喉の腫れをすばやく和らげ、狭くなった空気の通り道を一時的に広げます。 急な呼吸困難を改善するための、緊急性の高い治療法です。

アドレナリン吸入療法のポイント

即効性治療を始めてから10分から30分ほどで、呼吸を楽にする効果が期待できます。
効果の持続時間効果は一時的で、およそ2時間以内には薄れていくとされています。効果が切れた後も、症状が治療前より悪化することはないと考えられています。
治療の場所この治療は、主に病院の救急外来や入院中に行われます。

アドレナリン吸入で一時的に呼吸が楽になった後、効果が長く続くステロイド薬を併用します。

自宅でできる加湿・水分補給・安静などの対処法

病院での治療とあわせて、ご家庭での適切なケアがお子さんの苦しさを和らげ、回復を助けます。

安静と楽な姿勢の確保ループの時は、お子さんを落ち着かせることがとても大切です。興奮して泣き叫んだりすると、呼吸がさらに苦しくなり、喉の腫れが悪化することがあります。できるだけ静かな環境で、ゆったりと過ごせるように工夫しましょう。寝るときは、背中にクッションなどを当ててあげましょう。 上半身を少し高くしてあげると、気道が広がりやすくなり呼吸が楽になることがあります。
こまめな水分補給咳や発熱によって、体から水分が失われやすくなります。 脱水を防ぎ、痰を出しやすくするためにも、水分補給は非常に重要です。
麦茶や湯冷まし、子ども用のイオン飲料などを少しずつ、回数を多くして与えましょう。 喉の痛みが強いときは、一度にたくさん飲めないこともあります。 焦らずお子さまのペースに合わせてあげてください。
適切な室温と湿度空気が乾燥していると、喉への刺激が強くなり、咳が悪化しやすくなります。 加湿器を使うなどして、お子さんが快適に過ごせる湿度を保つと良いでしょう。

かつては湯気の多い浴室で過ごすことなどが推奨されていました。しかし、その後の研究で、こうした湿潤空気(ミスト)そのものにクループを治療する効果はないことがわかっています。

■まとめ

特徴的な咳や、息を吸うときのヒューヒューという音は、ご家族をとても不安にさせますが、お子さまを安心させ、加湿や水分補給など、お家でできるケアを試してみてください。最も大切なのは、呼吸が苦しそうな「陥没呼吸」や顔色が悪い「チアノーゼ」といったサインを見逃さないことです。 これらのサインが見られたり、判断に迷ったりしたときには、ためらわずに医療機関を受診したり、救急車を呼んだりしてください。

参考文献

  • Yang S, Wang L, Lu S, Guo Y, Liu J, Wu P. Epidemiology and clinical severity of the serotypes of human parainfluenza virus in children with acute respiratory infection. Virology Journal.
  • Bjornson CL, Johnson DW. Croup.
  • Zama D, Lanari M. Bridging the global evidence gap in human parainfluenza virus seasonality in lower respiratory.

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