小児のけいれん(ひきつけ)
■けいれんを疑うポイント
お子さまが突然「けいれん(ひきつけ)」を起こしたかもしれない場面では、次のような様子がみられます。
まず意識がなくなり、呼びかけても反応せず、体が硬直したり手足がガクガクと反復的に震えたりします。目の焦点が合わず白目をむいたり、口から泡を吹いたり、呼吸が一時的に止まって唇が紫色になることもあります。こうした場合、お子さまは自分の意思で動いているわけではなく、脳の電気的な信号の乱れによる発作(例えば、てんかん発作)の可能性が高いと考えられます。
一方で、熱があるときにガタガタ震える寒気(悪寒)や、怒ったときに息を止めて青ざめる「息こらえ発作」など、けいれんと紛らわしい症状もあります。見分け方の一つとして、軽く肩や頰に触れたり、名前を呼んでも反応がない場合は本当のけいれん発作である可能性が高いでしょう。悪寒の場合は震えていても意識ははっきりしており、問いかけに反応することが多いです。また息こらえ発作では、子どもは泣いた後に息を止めてチアノーゼ(顔色が青白くなる)になりますが、多くは数十秒で自然に息をします。けいれん発作中のお子さまはこちらの呼びかけに全く応じませんので、まず反応の有無が重要なポイントです。
けいれん発作のほとんどは1~2分程度で自然に止まります。
長く感じられるかもしれませんが、実際には多くが5分以内に終息します。発作が続く間、お子さんは意識が戻らず体が勝手に動いてしまいますが、慌てずに安全を確保しつつ見守ることが大切です(具体的な対処法は後述します)。
なお、発作が終わった後、眠ってしまったりすることが多いですが、これは発作後の一時的な反応(ポストイクト状態)なので、多くの場合は少し休めば徐々に意識がはっきりしてきます。逆に、けいれんではなく貧血や脱水による失神の場合は、倒れても体がバタバタと震えることは少なく、数十秒で意識が戻って泣き出すことが多いです。
医療従事者でも、けいれん発作と他の発作様症状(模倣発作)を区別するのは時に難しいとされています。実際に診断が難しいケースもあるため、保護者の方は「本当にけいれんだったのかどうか」悩むことも多いでしょう。しかし、呼びかけに応じない明らかな意識消失と、全身の突発的な硬直・けいれん運動がみられた場合は、まず「けいれん発作かもしれない」と疑って構いません。一度発作が落ち着けば、お子さんの様子をよく観察し、必ず医師の診察を受けて原因を確認するようにしましょう(原因については次項で詳しく説明します)。
■けいれんの原因
けいれん(ひきつけ)は症状の一つであり、その背景には様々な原因がありえます。
小児の場合、最も多い原因は熱性けいれんです。
熱性けいれんとは、生後6か月~5歳までの乳幼児が発熱を伴って起こすけいれん発作で、脳炎や髄膜炎など他に明らかな原因がないものと定義されます。実は熱性けいれんは小児で最もよくみられる発作であり、日本では約7~9%ものお子さんが経験すると報告されています(欧米では2~5%程度)。特に生後1歳前後から2歳ごろに好発し、90%近くは3歳までに初発するとされています。熱性けいれんは、しばしば保護者にとって「突然起こる命に関わる出来事」に感じられ、救急受診の大きな理由にもなっています。しかし実際には、熱性けいれんそのものは良性で後遺症を残すことはほとんどありません。後述するように適切に対処すれば大丈夫ですので、まずは落ち着いてください。
熱性けいれんの原因としては、発熱を引き起こす感染症が背景にあります。特にウイルス感染症(インフルエンザ、アデノウイルス、ヒトヘルペスウイルス6型〈突発性発疹の原因〉など)がきっかけとなることが多く、細菌では中耳炎が原因になるケースがあります。また遺伝的な要因も関与しており、熱性けいれんを起こした子の3割~半数程度に家族歴(両親や兄弟姉妹も幼少期に経験)がみられます。一昔前には「熱が急に上がった時に起こる」と言われましたが、現在では発熱の高さそのものが発作誘発の要因と考えられています。実際、ある研究では体温が約0.5℃上昇するごとに、熱性けいれんリスクが2倍近くになるという結果も報告されています。つまり、高熱になればなるほどけいれんを起こしやすいということです。そのため発熱時にはできるだけ早めに解熱剤で熱を下げたほうが良いのではとも考えてしまいますが、後述するように、解熱剤による発作予防効果は明確ではありません。
熱性けいれんには、「単純型」と「複雑型」の2種類があります。
単純型は、発作時間が15分未満で、左右対称の全身けいれん、24時間以内に1回だけ起こるものです。一方で、複雑型は15分を超えて長引いたり、体の一部だけがけいれんしたり、24時間以内に複数回起こるケースを指します。
複雑型の場合は脳炎・髄膜炎など他の疾患の鑑別や、将来てんかんに移行するリスクがやや高くなることが知られています。
ただしほとんどのお子さん(全体の90%以上)は、熱性けいれんを起こしても後にてんかん(慢性的なけいれん疾患)にはなりません。ごく一部のハイリスク例(発達の遅れがある子、家族にてんかんの人がいる、複雑型熱性けいれんを起こした、発熱から発作までの時間が短かった、発症年齢が3歳以上など)では、その後にてんかんを発症する率がやや高いものの、それでも大半の子は問題なく成長します。
ただしほとんどのお子さん(全体の90%以上)は、熱性けいれんを起こしても後にてんかん(慢性的なけいれん疾患)にはなりません。ごく一部のハイリスク例(発達の遅れがある子、家族にてんかんの人がいる、複雑型熱性けいれんを起こした、発熱から発作までの時間が短かった、発症年齢が3歳以上など)では、その後にてんかんを発症する率がやや高いものの、それでも大半の子は問題なく成長します。
熱性けいれんを経験したお子さんの約 3 人に 1 人は、後日繰り返し発作(再発)を起こすと言われます。再発しやすいかどうかの予測因子としては、(1)家族(両親や兄弟)に熱性けいれんの既往がある、(2)初めての発作が 1 歳未満で起きた、(3)発熱後 1 時間以内という早いタイミングで発作が起きた、(4)発作時の体温が高くなかった(39℃以下)場合、などが挙げられます。これらに該当しない場合、再発率は 15%程度と低くなります。したがって、小児科医はお子さんの状況に応じて再発予防策を検討しますが、後述するジアゼパム坐薬(ダイアップ®)による予防投与も、その一つです。
熱性けいれん以外の原因としては、てんかんが挙げられます。
てんかんとは、発熱などの誘因がない状況で、けいれん発作を繰り返す慢性の脳の疾患で、子どもの神経疾患の中でも比較的よくみられるものです。実際、小児のてんかんの有病率は 0.5~1%程度とされ、てんかんは小児で最も一般的な神経疾患の一つとも言われます。生後 1 年以内に初発する乳児てんかんもあり、年齢や遺伝的素因によって、さまざまなタイプのてんかんがあります。お子さんが熱もないのにけいれんを起こした場合、医師は脳波検査(EEG)や MRI などの画像検査を行って、てんかんの有無や原因を調べることがあります。
その他、脳や身体の病気に伴うけいれんも考えられます。例えば髄膜炎や脳炎など中枢神経の感染症では高熱とけいれん、意識障害を引き起こしますし、頭を強く打った後の外傷性けいれんや、血糖値の急激な低下(低血糖発作)、ナトリウムなど電解質の異常による発作もあります。
また、暑い環境下での熱中症でも体温上昇とともにけいれんが起こることがあります。特に生後 6 か月未満の乳児では熱性けいれんは通常起こらないため、この月齢で発熱とけいれんがあれば髄膜炎など他の原因を必ず調べます。
初めてけいれんを起こした際には、医師は血液検査や髄液検査(腰椎穿刺)などを行い、てんかん以外の病気がないか確認する場合があります。例えば発作が長引いたり、発作後にも意識がもうろうとしているような場合、また片側の麻痺が残る場合などは、髄膜炎や脳炎の有無を確認する検査(髄液検査、頭部 CT/MRI 等)が必要です。幸い何も異常が見つからず「熱性けいれんでしょう」と診断された場合でも、念のため数時間の経過観察を行ったり、今後の対策について説明を受けたりすることがあります。
■ご自宅でできること
お子さんがけいれん発作を起こしている最中は、周囲の大人が安全を確保してあげることが最優先です。
以下のような応急手当のポイントを押さえておきましょう。
- まず落ち着くことが大切です。
保護者がパニックになると適切な対応が難しくなります。「数分で止まることが多い、大丈夫!」と自分に言い聞かせ、落ち着いて対処しましょう。 - お子さんを安全な姿勢に寝かせます。
床やベッドなど硬く平らな場所に寝かせ、可能であれば、体を横向き(回復体位)にします。こうすると、舌が喉に落ち込みにくくなり、嘔吐した場合も吐物が自然に口から出て窒息しにくくなります。頭の下にタオルやクッションを入れてあげると頭部を保護できます。 - 衣服を緩めます。
特に首元のボタンや締め付けている帯などがあれば外し、呼吸を楽にしてあげましょう。 - 危険物を周囲から除きます。
お子さまの近くに硬い家具の角や熱い飲み物、鋭利なものがあれば速やかに遠ざけて、けいれん中にぶつかったりしないようにします。
- 絶対にしてはいけないこと:お子さんの口に物を入れないでください。
「舌を噛まないようにスプーンや指を入れる」といった昔の対処法は間違いで、口に物を入れると歯が折れたり異物を誤嚥したりしてかえって危険です。また体を揺さぶったり、押さえつけたりもしないでください。強く抑えても発作は止まらず、お子さんの関節や骨を痛める可能性があります。大声で呼びかけることも刺激になるだけなのでやめましょう。
- 発作の経過を観察し、記録することも大切です。スマートフォンで動画を撮影できれば理想的です。難しければ、目で見た情報を覚えておきましょう。「何時何分頃から始まり、何分続いたか(意識が戻るまでの時間)」「手足の動きは左右対称だったか、ガクガク痙攣していたか、硬直していたか」「顔色が青白くなったか」「目はどこを向いていたか(上転して白目になっていたか)」などを可能な範囲で確認します。これらは後で医師に伝える重要な情報になります。
- 時間を計る余裕があれば発作開始からの経過時間を把握してください。感覚では長く感じても実際は 1-2 分ということが多いです。スマホのタイマーや時計で〇分経過とメモするだけでも構いません(後述しますが 5 分を超えるかどうかが一つの目安になります)。
発作が止まった後 | けいれんが収まったら、お子さんがしっかり泣けるか、目を開けて保護者と視線が合うか、受け答えや喃語を発するか確認します。反応が戻っていれば一安心です。多くの場合、発作後は強い眠気が襲ってきてそのまま眠り始めます。眠ってしまった場合も呼吸状態と顔色はよく観察しましょう。普段通り穏やかに息をしていて顔色も良ければ、まず心配ありません。無理に起こさず楽な姿勢で休ませてあげてください。 |
発作中に嘔吐した場合 | 急いで顔を横に向け、吐いたものが喉に詰まらないようにします。口の中に残った吐物は指でかき出してあげましょう。発作が止まった後も、誤嚥による窒息に注意してしばらく横向きで寝かせてください。 |
お子さんが完全に覚醒した後 | まず「大丈夫だったよ」「もう終わったよ」と優しく声をかけ、安心させてあげましょう。けいれん直後は一時的に混乱して泣いてしまう子もいますが、抱きしめて落ち着かせてください。発熱がある場合は体温を測り、必要に応じて解熱剤を使用します。ただし解熱剤(例えばカロナールなどのアセトアミノフェン)を使っても熱性けいれんの再発予防になるというエビデンスはなく、使っても使わなくても再発率は変わらないことが分かっています。解熱剤はお子さん自身がつらそうなとき(頭痛、不機嫌などの緩和)に使えばよく、「けいれん予防のため」に無理に使う必要はありません。とはいえ高熱が続けば心配ですから、適宜使用し、水分補給もしましょう。ただし意識がもうろうとしているうちは、飲食厳禁です。後述するように、きちんと飲み込める状態か確認してから与えてください。発熱以外に下痢や咳など他の症状があれば、それらについても家庭でできる範囲でケアします。 |
発作が止まった後は、必ず医師に連絡または受診しましょう。
深夜であれば#8000(小児救急電話相談)に電話し指示を仰ぐか、迷う場合は救急外来を受診してください。初めての場合はもちろん、熱性けいれんの既往があって今回も短時間で治まったケースでも、一度専門家に状態を診てもらうことが安心につながります。
以上が、ご家庭でできる主な応急処置です。繰り返しになりますが、ほとんどの小児のけいれん発作は数分で自然に止まり、命に関わることはありません。発作中は見守るしかなく不安になりますが、「慌てず、危険から守り、経過を観察する」ことを心がけてください。次に、どんな場合に救急車を呼ぶべきか具体的な目安をお話しします。
■救急車を要請するポイント
お子さんのけいれんに際して、いつ救急車(119 番)を呼ぶべきかどうかは、悩ましい問題です。基本的に、以下のような緊急性の高いサインが一つでもあればためらわず 119 番通報してください。
けいれんが 5 分以上続いている場合 | これは早急に薬で止めるべき状態(痙攣重積の可能性)です。5 分という時間は目安ですが、長引けば長引くほど発作が止まりにくくなるため、「5 分経過=救急要請」と覚えておきましょう。救急隊は、酸素投与や必要に応じた薬剤投与(ベンゾジアゼピン系薬の筋注や静注など)を速やかに開始できますし、病院到着までの間も状態を観察してくれます。特にけいれんが 30 分以上続くと脳に酸素が行き渡らず後遺症のリスクが高まるため、そこまでには必ず止める必要があります。幸い救急車を呼んで搬送中にけいれんが止まった場合は、大事に至らず良かったと考えましょう。救急車を呼んだこと自体は決して大げさではありません。 |
発作が繰り返し起こる場合 | 一度止まったけいれんが短時間に何度も再発する(群発発作)、あるいは意識がはっきり回復しないまま次の発作が起きる(連続発作)場合も緊急です。けいれんとけいれんの間に意識が戻らない状態は痙攣重積発作の一種であり、早急な処置が必要です。ためらわず 119 番通報しましょう。 |
けいれん後も意識が戻らない場合 | 発作がおさまったのに呼びかけにも全く反応せず、ぐったりしている、開眼しないといった場合は非常に危険な状態です。脳に何らかの重篤な異常が起きている可能性があります。少しでも意識障害が残っていると感じたら迷わず救急車を呼んでください。 |
呼吸がおかしい場合 | 発作後に息が荒い、弱々しい、あるいは止まりそうに不規則など、呼吸状態が悪いと感じたら緊急です。特に唇や顔色が紫色または灰色になっている(チアノーゼが強い)場合は、発作による低酸素状態が長引いている可能性があります。すぐに救急要請し、必要であれば心肺蘇生の準備もしてください。救急隊到着までの間、お子さんの気道確保(横向きに寝かせ顎を少し上げる)や人工呼吸/胸骨圧迫が必要になるケースも稀にはあります。 |
大けがをしている場合 | 発作の最中や直前に高所から落下した、頭を強く打った、熱い湯に浸かっていた/火に触れた、など外傷や熱傷の可能性がある場合も迷わず救急車を呼びましょう。けいれんそのものだけでなく外傷の治療も必要です。特にお風呂場で発作が起きて水中でもがいていた場合は溺水の恐れもあります。 |
持病がある場合 | お子さんに糖尿病などの代謝疾患や重い心臓病、以前に脳の手術を受けた既往などがある場合、単なる熱性けいれんではなく基礎疾患に関連した発作の可能性があります。これらの場合も早めに医療介入した方が安全です。 |
生後 6 か月未満の場合 | 先述の通り、生後 6 か月未満で発熱とけいれんが起きた場合は典型的な熱性けいれんではありません。乳児特有の代謝異常や中枢神経感染症の可能性があるため、この月齢の赤ちゃんがけいれんしたら時間に関係なく救急搬送すべきです。 |
また、上記に当てはまらない場合でも、「初めてのけいれんでとても不安」「何かおかしい気がする」といった直感があるときは、遠慮せず救急車を呼んで構いません。小児科医も「初めてで不安なら、最悪の事態を考えて救急車を呼んで良い」とアドバイスしています。実際、救急車で運ばれたけれど病院に着いた時には発作がおさまっており、特に治療の必要なく帰宅になるケースも多いです。しかし、それは結果論であり、「呼ばなくてもよかったのに」では決してありません。「呼ぶのが早すぎて損をする」ということはありませんので、心配なときはためらわず 119 番通報してください。
なお、熱性けいれんで発作が 5 分以内に止まり、発作後すぐ意識もはっきりして元気に泣いた場合は、必ずしも救急車を呼ぶ必要はありません。落ち着いているようなら、夜間であれば朝まで様子を見て翌日にかかりつけ医を受診するという判断もあります。
しかし初回のけいれんではやはり緊急搬送を選択する方が安心ですし、2 回目以降であっても発作の様子が以前と違う場合は、夜間でも受診した方が良いでしょう。迷う場合は専門家に電話相談(#8000)し、指示を仰いでください。
■子どもの意識障害のポイント(飲水することが可能かどうかなど)
けいれん発作の前後や発熱時において、お子さんの意識状態を評価することは非常に重要です。小児は大人と違って「自分で調子が悪い」と明確に伝えることが難しいため、周囲の大人が意識レベルの変化に気づいてあげる必要があります。
チェックのポイントの一つは、普段通りに飲食ができるかです。具体的には、年齢にもよりますが水やお茶を一口飲めるかどうかを試すと良いでしょう。けいれん後にお子さんが泣いて喉を渇かせているようなら、まず抱っこして半坐位にし、スプーン 1 杯の水を与えてみます。そこでしっかりゴクンと飲み込めれば、意識レベルは概ね良好と判断できます。逆にうまく飲み込めずにむせてしまったり、飲もうとしない場合は、まだ意識がもうろうとしている可能性があります。その場合は無理に飲ませてはいけません。意識障害があるときに飲み物を与えると、誤って気道に流れ込んで窒息や誤嚥性肺炎を起こす危険があります。自力で安全に飲めない状態であれば、経口での水分補給は控えるのが鉄則です。
「飲めるかどうか」以外にも、年齢相応の反応ができるか観察します。例えば乳児なら母乳やミルクをいつも通り吸えるか、眠っていなければ笑ったり人の顔を目で追ったりするか。幼児以上なら名前を呼んでこちらを見るか、簡単な受け答えができるか、おもちゃで遊ぼうとするか、といった点です。特に目線が合うかどうかは重要で、呼びかけてもし目が合わないようなら意識障害の疑いがあります。また厚生労働省の資料では、ペットボトルのフタを自分で開けられるかというユニークな目安も紹介されています。普段は自分でペットボトルのフタを開けられる子が、熱性けいれん後にフタを開けられない・開け方が分からないといった場合、まだ意識がはっきりしていない可能性があるとのことです。
発作後の意識障害で注意すべきは、単に寝ているだけなのか、本当に反応が鈍いのかを見極めることです。熱性けいれんの後は多くのお子さんが深い眠りに入るため、一見すると意識がないように見えるかもしれません。しかし、そっと揺すったり名前を呼んだりすると一瞬目を開けたり、イヤイヤと手足を動かしたりすることが普通です。肌の色や呼吸が安定しており、時間の経過とともに徐々に反応が良くなってくるなら心配はいりません。この回復過程には個人差がありますが、目安として発作後 30 分~1 時間もすれば普通に水が飲めたり会話できたりするようになります。一方で、発作後しばらく経っても全く反応せずぐったりしている、呼吸や顔色も悪いとなれば、何らかの異常が続いているサインです。脳炎や脳症といった重篤な状態の可能性もあります。このような場合は直ちに救急車を呼んでください。
また、意識がもうろうとしている際に高熱が持続している場合、解熱剤の使用タイミングにも注意が必要です。先述の通り、飲み込む力が確実でないうちは坐薬の使用も検討しますが、医師や看護師の指示なしに自宅で判断するのは難しいでしょう。意識障害と高熱を伴う場合は、躊躇せず医療機関で評価してもらう方が安全です。
普段から、お子さんの意識状態のチェック項目を頭に入れておくと良いでしょう。具体的には「呼吸・顔色は普段通りか」「名前を呼ぶと反応するか」「目を合わせるか」「いつもできること(例:コップで水を飲む、歩く、話す等)ができるか」といった点です。これらは発作時だけでなく、発熱時や他の体調不良時にも有用な観察ポイントです。お子さんの“いつもと違う”様子に気付いたら、早めに医師に相談しましょう。
■ダイアップ(ジアゼパム坐薬)の説明と使用法
最後に、熱性けいれんの予防薬として時に処方される「ダイアップ坐薬」について説明します
ダイアップ®とは有効成分がジアゼパムという薬で、ベンゾジアゼピン系の鎮静・抗けいれん薬です。本来ジアゼパムは内服薬(飲み薬)もありますが、素早く効果を出すためと保存・扱いやすさの点から坐薬(肛門から入れる薬)が一般的に用いられています。サイズは体重に応じて 4mg・6mg・10mg の 3 種類があり、医師の指示で適切な容量を使用します。
どんな場合に使う薬か?
ダイアップ坐薬は熱性けいれんを繰り返すリスクが高いお子さん向けの「けいれん予防薬」です。熱性けいれんを 1 回起こしたお子さんの約 70%はその後繰り返さないため、全員に必要な薬ではありません。一般的に以下のような場合に限定して使用が推奨されます。
□ 過去に熱性けいれんを 2 回以上起こしたことがあるお子さま(再発率が高いため) |
□ 過去に 1 回の熱性けいれんが、15 分以上と非常に長引いたことがあるお子さま(次回も長引く可能性があるため) |
□ その他、ご家族の強い不安がある場合や、基礎疾患を持っていて発作が重篤化すると困る場合など、主治医が必要と認めたケース |
上記に当てはまり処方を受けた場合、ダイアップ坐薬を適切に、また安全に使用するために次のルールを守りましょう。
使い方(タイミングと回数):ダイアップ坐薬は発熱時に予防的に使用します。
具体的には、「熱性けいれんを起こしたことがあるお子さんが 38℃前後まで発熱したとき」が目安です(医師から 37.5℃で使用と言われることもあります)。最初の一回をできるだけ早めに挿入することが大切です。熱性けいれんは多くが発熱から 24 時間以内、とりわけ熱が上がり始めた初日に起こりやすいため、熱が出始めたタイミングで早めに使うことで発作を未然に防ぐ効果が期待できます。2 回目の坐薬は、1 回目から 8~12 時間後に使用します。たとえ一時的に熱が下がっていても、また上がる可能性があるので原則 2 回目は必ず入れるよう指示されることが多いです。例えば夕方に 1 回目を入れたら、夜中か翌朝に 2 回目を入れるイメージです。
*注意:
それ以上(3 回目以降)は、たとえ熱が続いていても使わないでください。連用により副作用が強くなり過ぎる恐れがあるためです。ダイアップ坐薬の効果は 1 回でおよそ 8 時間程度持続しますので、通常この 2 回でその発熱期間の予防は十分とされています。
効果の現れ方: 坐薬を入れてから血中濃度が上がるまで 15~30 分ほどかかります。
そのため、今まさに起きているけいれん発作をすぐに止める効果は期待できません。あくまで「次の発作を予防する」目的で使う薬です。実際、病院の救急外来でも「発作は止まっているが今後また起きるかもしれない」という場合にダイアップ坐薬を入れてから帰宅してもらうことがあります。
一方で、すでにけいれんが 5 分以上続行中であれば、在宅ではダイアップより速攻性のあるミダゾラム頬粘膜液(口の中に入れる液体)を使用することがあります。ただしミダゾラム製剤(商品名:ブコラム®)は 2020 年に承認された新しい選択肢で、使用には医師から個別に指示を受ける必要があります。現時点(2025 年)では、一般のご家庭で常備されることは少ないですが、NICE など海外では在宅発作止めの第一選択となっています。日本でも状況によって処方される場合がありますので、主治医と相談してください。
副作用
ダイアップ坐薬は、脳や神経の興奮を抑える薬ですので、半数程度のお子さんに眠気などの症状が現れます。
具体的には「目がとろんとして眠そうになる」「ふらついて転びやすくなる」「全身の力が抜けてぼーっとする」といった様子がしばしば見られます。まれに逆に興奮してハイテンションになる子もいますが、ごく少数です。1 歳以上で歩ける子は特に転倒・転落に注意が必要です。ダイアップを使ったあとはできるだけ安静にさせ、階段など危ない所に行かないよう見守りましょう。保育園や幼稚園に通っているお子さんの場合、使用翌日はお休みさせるのが望ましいです。
熱が下がって元気に見えても、薬の影響で判断力や運動能力が落ちている可能性があります。同年代の遊び仲間と走り回ると転倒事故につながる恐れもありますので、安全のため自宅で静養してください。その他の副作用としては、呼吸がゆっくりになる、発疹が出る、肝機能値の変化などが添付文書上は指摘されていますが、いずれも極めてまれです。ごく短期間の頓用であれば深刻な副作用はまず起こりません。
坐薬の併用と注意
小児科では熱性けいれん予防にダイアップ坐薬を使い、同時に熱を下げるため解熱剤の坐薬(アンヒバ®やアルピニー®等)を使う処方がよくあります。この場合、必ず先にダイアップ坐薬を挿入し、少なくとも 30 分以上間隔をあけてから解熱坐薬を入れてください。両方の坐薬を同時に入れると、解熱薬の基剤が腸管内で干渉してジアゼパムの吸収が悪くなり効果が減弱するためです。逆に経口の解熱剤(シロップや錠剤)であれば、坐薬と併用しても吸収経路が異なるため同時に使って構いません。医師から特に指示がない限りは、ダイアップ坐薬→30 分後に解熱剤という順番を守りましょう。
どれくらいの期間、使用するのか?
一度ダイアップ坐薬が処方になった場合、最後にけいれんを起こしてから最低 2 年間、あるいは 4~5 歳になるまで使用を継続するのが一般的です。ただし過去のけいれん回数や重症度によって異なりますので、主治医と相談して決めることになります。
例えば 1 歳で複数回熱性けいれんを起こした子では、その後 2 年間(3 歳まで)は毎回発熱時に使い、3 歳を過ぎ再発なく経過していれば中止、といった具合です。5 歳を超えると熱性けいれんの可能性は低くなりますので、多くの場合は就学前までの一時的な予防策と考えてください。
ダイアップ坐薬のメリットとデメリット
ダイアップによる予防は、適切に使えば熱性けいれんの再発をかなり高い確率で防ぐことができます。実際 24 時間以内のけいれん再発率を有意に下げることが分かっています。しかし、(繰り返しになりますが)熱性けいれんそのものは良性であり、たとえ再発してもほとんどのお子さんは問題なく成長します。そのため医療ガイドライン上も「必ずしも予防しなくてはならないものではない」とされています。特に 1 回きりで再発因子もないような場合には、積極的に使う必要はありません。
一方で 15 分以上の長い発作を起こしたことがある子や、前述した再発リスク因子が複数ある子には予防的使用が推奨されています。お子さんの発作の傾向とご家族の不安の程度を考慮して総合的に判断されるべき薬なのです。主治医と相談し、処方された際には正しい使い方を習得しておきましょう。不明な点は遠慮なく医療者に確認してください。
■まとめ
小児のけいれんは、突然で驚かれると思いますが、適切に対処すれば怖がりすぎる必要はありません。多くの熱性けいれんのお子さまは後遺症なく元気に成長します。大切なのは「落ち着くこと」「安全確保」「時間計測」「観察」です。そして必要に応じて迅速に医療の助けを求めることも忘れないでください。ご家庭での対処法や予防法を知っておくことで、いざという時に慌てず対応でき、お子さんの安全を守ることができます。本記事がその一助となれば幸いです。お子さまの様子に不安があれば、いつでも小児科医に相談してくださいね。
参考文献
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- 神戸市小児救急医療事業団. けいれん(ひきつけ)を起こしたとき | こんなときどうする? (神戸こども初期急病センター公式サイト)kobe-kodomoqq.jpkobekodomoqq.jp.
- 国保旭中央病院小児科. 熱性けいれん予防薬(ダイアップ坐薬)Q&A (院内資料), 2020 年 4 月改訂