【血糖値】糖質の素顔、インスリンは細胞を増やすアクセル―インスリン抵抗性とがんリスク―
はじめに ― 「正常です」の裏側で起きていること
血糖値も HbA1c も正常範囲です。一方で、その正常な血糖値を保つため、すい臓がどれだけのインスリンを出しているかまでは、通常の健診ではわかりません。お腹まわりに脂肪がつき、インスリンの効きが悪くなった状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。この状態では、すい臓が通常より「多くのインスリンを出し続けること」で、かろうじて血糖値を正常に保っています。数字は「異常なし」でも、血液の中はインスリンであふれている――これが「高インスリン血症」です。
インスリンは血糖を下げるホルモンとして知られていますが、もう一つの顔があります。それは、細胞に「育て」「増えろ」と命じる成長因子としての顔です。2026 年 5 月、マレーシア・マラヤ大学を中心に英国レスター大学の Khunti 教授らが参加した国際チームは Lancet Diabetes & Endocrinology 誌の総説で、糖尿病とがんは互いに影響し合う「双方向」の関係にあり、2050 年には世界のがん患者数が 2022 年より 77%多い 3,500 万人に達すると予測されるなかで、内分泌と腫瘍の両分野が連携すべきだと訴えました(Hee et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2026)。同じ 2026 年 9 月には、英国の約 37 万人を 13.5 年追跡した解析から、インスリンの効きが良い人ほど消化器がんで亡くなる割合が低いことも報告されて
います(Yang et al., BMC Cancer 2026)。
本コラムでは、インスリンが「血糖の問題」であると同時に「細胞増殖の問題」でもあることを、11 件の最新研究をもとに解説します。そして、がんに対して私たちが自分でできることは多くないなかで、インスリン抵抗性を改善し、インスリンを低く保つことが、なぜ数少ない有力な手段の一つと考えられるのかを、エビデンスの強さと限界の両面からお伝えします。
1. インスリンは細胞を増やすアクセル ― 血糖を下げるホルモンの、
もう一つの顔
インスリンは食後に上がった血糖を筋肉や肝臓、脂肪組織に取り込ませる「代謝のホルモン」です。しかしその構造と働きは、成長期に骨や筋肉を伸ばすインスリン様成長因子(IGF-1)とよく似ています。米国マウントサイナイ医科大学の Gallagher と LeRoith は Nature Reviews Cancer 誌の総説で、インスリンが細胞表面のインスリン受容体や IGF-1 受容体に結合すると、細胞内で「PI3K-AKT-mTOR 経路」や「MAPK 経路」という増殖のスイッチが入ることを整理しています(Gallagher & LeRoith, Nat Rev Cancer 2020)。
注目すべきは、この PI3K-AKT-mTOR 経路が、糖を取り込む「代謝の道」と、細胞を分裂させる「増殖の道」の両方を担っている点です。Lancet 誌の総説は、正常な細胞では PTEN という「ブレーキ役」の遺伝子がこの経路を抑えて異常な細胞の増殖を防いでいるものの、がんで PTEN が壊れたり、PIK3CA や AKT1 という遺伝子が変異したりすると、この経路が踏みっぱなしのアクセルになると解説しています(Hee et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2026)。
乳がん、すい臓がん、腎臓がん、白血病など多くのがんで、この経路の異常が見つかっています。
さらに高インスリン状態では、IGF-1 の働きを抑えるタンパク質(IGF 結合タンパク)が減り、血中で「自由に働ける IGF-1」も増えます(Gallagher & LeRoith, 2020)。つまりインスリンが高いことは、インスリン自身と IGF-1 の両方を通じて増殖のアクセルを踏み込む「二重のアクセル」になりうるのです。Jalal の論説も、インスリンは単なる糖の運び手ではなく、細胞の生存・増殖・血管新生に影響する強力な成長因子だと強調しています(Jalal, J ClinSci Res 2025)。
2. インスリン抵抗性とは何か ― 効きが悪いから、量が増える
2 型糖尿病は「血糖値が高い病気」と思われがちですが、多くの場合、血糖値が上がる何年も前からインスリン抵抗性と高インスリン血症の段階を経ています。内臓脂肪がたまり、筋肉や肝臓でインスリンが効きにくくなると、すい臓の β 細胞は分泌量を増やして帳尻を合わせます。その結果、空腹時血糖や HbA1c は正常でも、インスリン濃度は高いままという状態が長く続きます(Jalal, J Clin Sci Res 2025)。Jalal は、インスリン抵抗性は血糖値が異常になるずっと前から細胞のふるまいを静かに変えている「目に見えない発がんの力」かもしれないと表現しています。
インスリンの効きを正確に測る「高インスリン正常血糖クランプ法」は研究用の検査で、日常診療では使えません。そこで、健診の検査値から計算できる代わりの指標が使われています。代表的なものが、腹囲・高血圧の有無・HbA1c から計算する「推定グルコース処理率(eGDR)」、中性脂肪と HDL コレステロールの比(TG/HDL-C 比)、中性脂肪と空腹時血糖を組み合わせた「TyG 指数」です(Yang et al., BMC Cancer 2026)。eGDR は数値が高いほどインスリンの効きが良く、TG/HDL-C 比と TyG 指数は高いほどインスリン抵抗性が強いことを示します。
eGDR は「21.158 −(0.09×腹囲 cm)−(3.407×高血圧あり=1)−(0.551×HbA1c%)」で計算されます。たとえば腹囲 85cm・高血圧なし・HbA1c 5.6%の方は約 10.4 ですが、腹囲 95cm・高血圧あり・HbA1c 6.5%の方は約 5.6 まで下がります。腹囲、血圧、HbA1c という、生活習慣で動かせる 3 つの要素がそのまま式に入っている点に、この指標の大切な示唆があります。
3. がん治療薬が証明した「アクセル」 ― PI3K 阻害薬と高インスリ
ンの綱引き
インスリンが本当に「増殖のアクセル」として働いていることを、思わぬ形で示したのが、がん治療の現場です。乳がんなどに使われる PI3K 阻害薬(アルペリシブなど)や AKT 阻害薬は、がん細胞で踏みっぱなしになった PI3K-AKT-mTOR 経路を止める薬です。ところが同じ経路は筋肉や脂肪で糖を取り込む役割も担っているため、これらの薬は全身にインスリン抵抗性を引き起こし、高血糖を招きます。Lancet 誌の総説によれば、ランダム化試験での高血糖の発生率はアルペリシブで 63.7%に達しました(Hee et al., Lancet Diabetes Endocrinol2026)。
問題はその先にあります。高血糖になると体はインスリンをさらに分泌し、あふれたインスリンが、薬で止めたはずのがん細胞の PI3K-mTOR 経路を再び動かしてしまう可能性が動物実験で示されているのです。そのため総説は、この種の高血糖ではインスリン分泌を促す薬やインスリン注射は、他の治療が効かない場合や緊急時に限って使うのが一般的だと述べ、メトフォルミンなどインスリンを増やさない治療を優先する考え方を紹介しています(Hee et al., 2026)。
これは、「インスリンが高いことは、がん細胞にとって追い風になりうる」という仮説を、がん治療の側から裏づける重要な臨床的知見です。ただし、これは PI3K 阻害薬で治療中という特殊な状況の話であり、通常の糖尿病の方に必要なインスリン治療を否定するものではありません。高血糖そのものも体に害を及ぼすため、インスリンが必要な方はきちんと使うことが大前提です。
4. 37 万人・13.5 年の英国データ ― インスリンの効きが良い人ほ
ど、消化器がんで亡くなりにくい
集団レベルでこの関係を検証したのが、ドイツ・ライプツィヒ大学病院の Yang らが 2026 年9 月に BMC Cancer 誌に発表した前向きコホート研究です。英国バイオバンクに登録された、がんのない 36 万 9,447 人(平均年齢 56.3 歳)を平均 13.5 年追跡したところ、4,305 人が食道・胃・大腸・肝臓・すい臓のいずれかのがんで亡くなりました(Yang et al., BMC Cancer2026)。
年齢、性別、BMI、喫煙、飲酒、運動量、食事の質、糖尿病や高血圧、服薬状況、がんの家族歴など多くの要因を調整したうえで解析すると、eGDR が 1 標準偏差(約 2.5)高いごとに、消化器がん全体による死亡は 33%低いという結果でした(部分分布ハザード比 0.67、95%信頼区間 0.61〜0.74)。消化器がんで亡くなった方の登録時の eGDR は平均 7.1 で、それ以外の方の 8.2 より明らかに低い値でした。この関係は、追跡開始から 2 年以内の死亡を除いた解析や、糖尿病のない人だけに絞った解析でもほぼ同様に認められています。
曲線解析では、eGDR が低い領域ほど死亡リスクの傾きが急になっていました。つまり、インスリン抵抗性が最も強い層を少しでも改善することの意味が大きい可能性があります。一方で著者らは、これは集団での関連であり、eGDR を個人のがんリスク予測にそのまま使える段階ではないと明記しています。結果を正しく受け止めるうえで大切な注意点です。
5. 臓器ごとに違う顔 ― 大腸・肝臓・すい臓、そして高インスリンが
育てる「がんの芽」
Yang らの研究では、多重比較の補正後も eGDR との関係が確かだったのは、食道がん(ハザード比 0.66)、食道扁平上皮がん(0.64)、大腸がん(0.67)、肝臓がん(0.65)、すい臓がん(0.68)でした。胃がんと食道腺がんでは補正後に明確な関係は残らず、インスリン抵抗性の指標である TG/HDL-C 比と TyG 指数では、主に肝臓がんとの関連にとどまりました(Yang et al., BMC Cancer 2026)。Jalal の論説も、インスリン抵抗性とがんの関係は臓器や組織型によって一様ではないことを表にまとめています(Jalal, J Clin Sci Res 2025)。
なかでも、すい臓については因果関係を示す実験的証拠があります。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の Zhang らは Cell Metabolism 誌に、遺伝子操作でインスリン分泌量だけを抑えたマウスを用いた研究を発表しました(Zhang et al., Cell Metab 2023)。高インスリン血症は、消化酵素をつくる「腺房細胞」のインスリン受容体を直接刺激して、消化酵素の過剰産生と局所の炎症を引き起こし、その炎症の中で腺房細胞が前がん病変へと姿を変えていきました。腺房細胞のインスリン受容体を取り除くと、前がん病変の発生は抑えられました。
肝臓もまた、インスリンが最初に、しかも最も高い濃度で届く臓器です。脂肪肝(MASLD)からインスリン抵抗性が深まり、肝がんへとつながる経路が知られており、英国のデータで肝臓がんが eGDR・TG/HDL-C 比・TyG 指数のすべてと関連したことは、この背景とよく符合しています。インスリンは「どのがんにも同じように効く単純な要因」ではなく、臓器ごとの「土壌」を変える要因と理解するのが正確でしょう。
6. 糖尿病とがんは「双方向」 ― 急に始まった糖尿病が、がんのサイ
ンのこともある
糖尿病の方の死因も変わりつつあります。英国レスター大学の Ling らは、新たに 2 型糖尿病と診断された13万7,804人を最長20年追跡し、一般人口と比べて大腸がん死亡が2.4倍、すい臓がん死亡が 2.1 倍、肝臓がん死亡が 2.1 倍、子宮体がん死亡が 2.1 倍に上ることを報告しました(Ling et al., Diabetologia 2023)。血管の病気による死亡が治療の進歩で減るなか、高齢層ではがん死亡がむしろ増えており、著者らはがんが心血管病を抜いて主要な死因になった可能性を指摘しています。Lancet 誌の総説も、糖尿病は乳がん、胆のうがん、大腸がん、子宮体がんのリスクを特に高めると整理しています(Hee et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2026)。
一方で、その逆向きの関係もあります。同じ総説は、すい臓がんと新たに診断された方の最大 50%がその時点で糖尿病を合併しており、50 歳以上で糖尿病と新たに診断された方の約 1%が 3 年以内にすい臓がんと診断されると述べています(Hee et al., 2026)。がん細胞が出す物質がインスリンの分泌と働きを妨げ、「がんが糖尿病を引き起こす」ことがあるのです。
とくに、肥満などの典型的な危険因子がないのに急に糖尿病になった方、安定していた血糖が急に悪化した方、意図しない体重減少を伴う方は、詳しい検査を受ける価値があります。
総説では、発症年齢・体重減少・血糖の変化から、すい臓がんの可能性が高い人を絞り込む「ENDPAC スコア」も紹介されており、感度・特異度とも約 80%と報告されています。糖尿病は「がんの結果」として現れることもあれば、長年の高インスリン状態を通じて「がんの土壌」になることもある――この双方向性を知っておくことが、早期発見の第一歩になります。
7. インスリン抵抗性を改善する治療とがん ― 期待と限界
「インスリン抵抗性が改善すればがんが減る」のであれば、それを示す治療のデータがあるはずです。最も強いデータを示したのが肥満外科手術です。米国クリーブランド・クリニックの Aminian らによる SPLENDID 研究では、減量手術を受けた高度肥満の 5,053 人を、手術を受けなかった 2 万 5,265 人と比較したところ、手術群では肥満関連がんの発生が 32%、がん死亡が 48%少なく、その効果は体重減少が大きいほど強く認められました(Aminian et al., JAMA 2022)。
インスリン抵抗性と体重を同時に改善する GLP-1 受容体作動薬(セマグルチド:オゼンピック/ウゴービなど)にも注目が集まっています。2 型糖尿病の約 165 万人を解析した米国の研究では、GLP-1 受容体作動薬で治療を始めた方は、インスリン注射で治療を始めた方より、すい臓がん(ハザード比 0.41)、肝細胞がん(0.47)、大腸がん(0.54)など 13 種類中 10 種類の肥満関連がんの発生が少ないという結果でした(Wang et al., JAMA Netw Open 2024)。肥満の成人約 8 万 7 千人を対象とした 2025 年の研究でも、使用者でがん全体の発生が 17%少なく、とくに子宮体がんや卵巣がんでの低下が目立ちました(Dai et al., JAMA Oncol 2025)。ただし、いずれも観察研究であり、治療を選ぶ時点の病状の違いといった影響を完全には除けません。
期待が外れた例もあります。インスリン値を下げる糖尿病薬メトフォルミンは観察研究でがんの減少と関連すると報告され(Jalal, J Clin Sci Res 2025)、PI3K 阻害薬による高血糖でも第一選択として用いられています(Hee et al., 2026)。しかし、糖尿病のない早期乳がん患者 3,649 人を対象としたカナダ主導のランダム化比較試験MA.32 では、5 年間服用しても再発や死亡は減りませんでした(Goodwin et al., JAMA 2022)。薬を一つ足すだけでがんを防げるほど単純ではない――この事実は、インスリン抵抗性を根本から改善する生活習慣の重要性を、かえって浮き彫りにしています。
8. 自分でできるアクセルの緩め方 ― 運動・食事・体重
インスリンを低く保つうえで、最も確実で副作用の少ない方法が運動です。筋肉は体の中で最大のブドウ糖の消費場所であり、運動中や運動後の筋肉は、インスリンの助けが少なくても糖を取り込めます。運動は、すい臓が出すべきインスリンの量そのものを「節約」してくれるのです。
2025 年には、この運動の力ががんの再発予防に効くことを、初めてランダム化比較試験で証明した研究が New England Journal of Medicine 誌に発表されました。CHALLENGE 試験では、抗がん剤治療を終えたステージ III または高リスクのステージ II の大腸がん患者 889人を、指導員がサポートする 3 年間の運動プログラム群と、健康情報の冊子のみの群に分けました。その結果、運動群では再発または死亡が 28%少なく(ハザード比 0.72)、8 年時点の生存率は 90.3%対 83.2%で、死亡は 37%少なくなりました(Courneya et al., N Engl J Med2025)。
食事と体重管理も同じ方向に働きます。Jalal の論説は、植物性食品中心で精製糖質の少ない低 GI(グリセミック指数)の食事がインスリン感受性を高め、体重のわずか 5〜10%の減量でもインスリン抵抗性が有意に改善すると整理しています(Jalal, J Clin Sci Res 2025)。
eGDR の式に「腹囲」「血圧」「HbA1c」が入っていることを思い出してください。お腹まわりを数センチ減らし、血圧と血糖を整えることは、そのままインスリン感受性を高めることにつながります。
おわりに ― がんリスクに対して、わたしたちが出来る、数少ないこと
がんの原因には、遺伝や年齢、偶然の遺伝子変異など、私たちが変えられないものが多く含まれます。禁煙、節酒、検診を除けば、がんリスクに対して個人ができることは決して多くありません。そのなかで、インスリン抵抗性を改善し、インスリンを低く保つこと――内臓脂肪を減らし、筋肉を使い、精製糖質を控え、血圧と血糖を整えること――は、心臓病や糖尿病の予防と同時に、細胞を増やすアクセルを緩めるという意味で、がんに対してもできる数少ない手段の一つと考えられます。
紹介した研究の多くは観察研究であり、限界もあります。それでも、がん治療薬の現場でインスリンがアクセルとして働く様子が観察され(Hee et al., 2026)、高インスリンがすい臓がんの芽を育てる仕組みが実験で示され(Zhang et al., 2023)、37 万人のデータでインスリン感受性と消化器がん死亡が関連し(Yang et al., 2026)、運動で大腸がんの再発が減った(Courneya et al., 2025)という、異なる方向からの証拠が同じ一点を指しています。
まんかいメディカルクリニックでは、内分泌・糖尿病の専門的な視点から、腹囲・血圧・HbA1c に加えて必要に応じてインスリン抵抗性を評価し、InBody による体組成測定や、CT・超音波による内臓脂肪・脂肪肝の評価、運動療法、GLP-1 受容体作動薬を含む肥満治療まで一貫してご相談いただけます。「血糖値は正常だけれどお腹まわりが気になる」という方は、日曜・祝日も診療しておりますので、お気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 血糖値や HbA1c が正常なら、インスリン抵抗性は心配しなくてよいですか?
必ずしもそうではありません。インスリン抵抗性がある方は、すい臓が多くのインスリンを出して血糖値を正常に保っているため、血糖値や HbA1c だけでは高インスリン状態を見抜けません(Jalal, J Clin Sci Res 2025)。腹囲が男性 85cm・女性 90cm 以上、中性脂肪が高く HDL コレステロールが低い、血圧が高めといった特徴が重なる方は、血糖値が正常でもインスリン抵抗性が隠れている可能性があります。英国の 37 万人の研究でも、糖尿病のない方に限った解析で、インスリン感受性が低いほど消化器がん死亡が多い関係が認められています(Yang et al., BMC Cancer 2026)。
Q2. 自分のインスリン感受性(eGDR)は計算できますか?
健康診断の結果があれば、おおよその値を計算できます。式は「21.158 −(0.09×腹囲cm)−(3.407×高血圧の有無:あり=1、なし=0)−(0.551×HbA1c%)」で、数値が高いほどインスリンの効きが良いことを示します(Yang et al., BMC Cancer 2026)。英国の研究では、消化器がんで亡くなった方の平均は 7.1、それ以外の方は 8.2 でした。ただし、eGDRは研究用の推定値で、日本人での基準値は確立しておらず、この値だけで個人のがんリスクを判定することはできません。数値の推移を、生活習慣を見直す目安としてお使いください。
Q3. 50 歳を過ぎて急に糖尿病と言われました。がんの心配はありますか?
ほとんどの場合は通常の 2 型糖尿病ですが、注意すべきサインはあります。Lancet 誌の総説によると、50 歳以上で新たに糖尿病と診断された方の約 1%が 3 年以内にすい臓がんと診断されており、すい臓がんの方の最大 50%は診断時に糖尿病を合併しています(Hee et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2026)。肥満などの危険因子がないのに発症した、安定していた血糖が急に悪化した、意図せず体重が減っている、といった場合は、腹部の超音波検査や CT 検査などで詳しく調べることが勧められます。気になる方はご相談ください。
Q4. 糖尿病でインスリン注射をしていると、がんが増えるのですか?
自己判断でインスリン注射を中止することは絶対に避けてください。インスリンが必要な方は、それによって高血糖による重大な合併症を防いでいます。GLP-1 受容体作動薬とインスリンを比べた米国の研究ではインスリン群で肥満関連がんが多い結果でしたが(Wang et al., JAMA Netw Open 2024)、インスリンが選ばれる方はもともと糖尿病が進行していることが多く、薬そのものの影響とは言い切れません。インスリンの使用を控える配慮は、PI3K 阻害薬でがん治療中といった特殊な場合の話です(Hee et al., 2026)。
大切なのは、運動や減量でインスリン抵抗性を改善し、必要なインスリン量をできるだけ少なくすることです。
Q5. 薬や糖質制限で、がんを予防することはできますか?
現時点では、がん予防を目的とした薬の処方は認められていません。GLP-1 受容体作動薬では肥満関連がんの減少を示す観察研究が相次いでいますが(Dai et al., JAMA Oncol2025)、ランダム化比較試験での証明はなく、メトフォルミンは早期乳がんの再発を減らしませんでした(Goodwin et al., JAMA 2022)。極端な糖質制限ががんを防ぐという確かな証拠もありません。基本は、清涼飲料水や菓子パンなど精製糖質を控え、野菜・豆類・全粒穀物を中心にし、体重の 5〜10%を目標に減量することです(Jalal, 2025)。そして運動は、大腸がんの再発を 28%減らしたことがランダム化比較試験で示されています(Courneya et al., N Engl J Med 2025)。
参考文献
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
