【血糖値】糖尿病の「行き先」は変えられる ―「血糖を下げる」治療から「進行方向を変える」治療へ Lancet誌が示した35の新しい物差し―
はじめに ― 「HbA1cは良いのに、なぜ不安が消えないのか」
健康診断や外来で「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は 7%未満なので合格です」と言われ、ほっとした経験のある方は多いと思います。一方で、「このまま薬が少しずつ増えていくのではないか」「いずれ腎臓や目、心臓が悪くなるのではないか」という漠然とした不安を抱え続けている方も少なくありません。2 型糖尿病は長いあいだ「ゆっくり進行していく病気」と考えられ、治療の中心は、その時点の血糖値をいかに目標範囲に収めるかに置かれてきました。
ところが2026年9月、世界的医学誌The Lancet Diabetes & Endocrinologyに、この考え方を転換させる論文が発表されました。英国レスター大学の Khunti 教授、米国ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター、米国糖尿病学会(ADA)の研究者らによる国際共同研究です(Khunti et al., 2026)。論文は、2 型糖尿病の治療目標を「血糖を下げること」から「病気の進行の軌道そのものを変えること」、すなわち「疾患修飾(disease modification)」へと広げるべきだと提案し、その効果を測るための35項目・11領域の評価指標を初めて示しました。本コラムでは、この論文を軸に、欧米の最新の大規模研究9件を加えた計10件のエビデンスをもとに、「糖尿病の行き先は変えられる」という新しい時代の治療の考え方を、できるだけわかりやすくご紹介します。
1. 「疾患修飾」とは何か ― 症状を抑える治療から、病気の流れを変える治療へ
「疾患修飾」という言葉は、糖尿病の世界ではまだ耳慣れないものですが、関節リウマチや多発性硬化症、一部の血液疾患などでは、すでに治療の中心的な考え方になっています。たとえば関節リウマチでは、かつては痛みを和らげる鎮痛薬が治療の主役でしたが、現在は関節の破壊そのものを食い止める「疾患修飾性抗リウマチ薬」が標準治療となり、患者さんの将来は大きく変わりました。痛みという「症状」ではなく、関節が壊れていく「経過」を変える。これが疾患修飾の本質です。
Khunti教授らの論文は、2型糖尿病もこの段階に来ていると指摘しています(Khunti et al., 2026)。2 型糖尿病は、膵臓の β細胞(インスリンを作る細胞)の機能低下とインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)が進むことで悪化し、細い血管(目・腎臓・神経)と太い血管(心臓・脳・足)の合併症を招きます。しかし近年、生活習慣の介入、薬物療法、減量手術によって、特に発症早期であれば「寛解(薬なしで血糖が正常近くに保たれる状態)」も可能であること、そして臓器を守る新しい薬が次々と登場したことから、「進行は宿命ではない」ことが明らかになってきました。
興味深いのは、研究グループが疾患修飾を「病態の完全な逆転」に限定しなかった点です。リウマチや肺高血圧症の分野では「薬をやめても効果が続くこと」を疾患修飾の条件とする考え方もありますが、2 型糖尿病ではそれは厳しすぎると判断されました。治療を続けている間であっても、合併症、身体機能、生活の質(QOL)の面で持続的な改善が得られ、病気の軌道が変わっていれば、それを疾患修飾と呼ぶべきだという、現実的で患者さん中心の定義が採用されたのです。
2. HbA1c だけでは測れない ― Lancet論文が示した35項目・11領域の新しい物差し
この研究では「デルファイ法」という手法が用いられました。専門家や当事者に繰り返しアンケートを行い、意見を集約して合意を形成する方法です。糖尿病、肥満、循環器、腎臓、肝臓の専門家からなる国際運営委員会が文献から 62 の候補項目を抽出し、医療従事者・研究者・2型糖尿病とともに生きる患者さんが2回の調査(1回目233名、2回目79名)で評価しました。その結果、35項目・11領域について合意が得られました(Khunti et al., 2026)。
11 の領域は、血糖評価(HbA1c、持続血糖測定による目標範囲内時間=TIR など)、代謝(体組成、脂質)、神経(末梢神経障害、自律神経障害、胃不全麻痺)、心血管(心機能、心不全、脳卒中、末梢動脈疾患、血圧)、腎臓(eGFR、尿アルブミン)、肝臓、視覚(網膜症)、身体機能、健康関連 QOL(糖尿病に伴う心理的負担=ダイアベティス・ディストレスを含む)、死亡・余命、そして治療の副作用や感染症、足潰瘍・切断などです。評価に必要な期間も示され、血糖や腎機能は7〜12か月、心血管合併症や神経障害は1〜2年、死亡や余命は2〜5年以上とされました。
示唆に富むのは、患者さんと医療者で「最も重要」と考える項目にずれがあったことです。1回目の調査では、患者さんだけが最重要とした項目が15もありました。また研究者らは、過去の糖尿病臨床試験のうち患者さん自身の報告による評価(体調、生活のしやすさなど)を主要評価項目にしたものは 18%にすぎなかったと指摘しています。つまり、これまでの糖尿病治療の評価は「医療者が測りやすい数字」に偏っていた可能性があるのです。さらに今回の枠組みには、副作用や治療負担といった「マイナス面」も含まれています。検査値が良くなっても生活の質が大きく損なわれるなら、それは患者さんにとって本当の意味で病気の流れを変えたとは言えない、という考え方です。
3. 「早く」が未来を変える ― UKPDS 44年間の追跡が示した遺産効果
病気の軌道を変えるうえで、最も確かなエビデンスの一つが「早期介入」です。英国で1977年に始まったUKPDS(英国前向き糖尿病研究)は、新たに2型糖尿病と診断された方を対象に、血糖を厳格に管理する群と従来治療の群を比較した歴史的な研究です。2024 年、Lancet 誌にその最長44年に及ぶ追跡結果が報告されました(Adler et al., 2024)。
驚くべきことに、試験終了後は両群の血糖値の差が1年ほどで消えていたにもかかわらず、診断直後から厳格に治療を受けた群では、その後数十年にわたって恩恵が持続していました。スルホニル尿素薬やインスリンによる厳格治療群では、全死亡が 10%、心筋梗塞が 17%、細小血管合併症が26%減少し、メトホルミン群では全死亡が20%、心筋梗塞が31%減少していました。この現象は「遺産効果(レガシー効果)」、あるいは体が高血糖を記憶しているという意味で「代謝の記憶」と呼ばれます。
この結果が教えてくれるのは、診断後の最初の数年間の過ごし方が、20 年後、30 年後の健康を左右するということです。Khunti教授らの論文でも、英国NICEの最新指針が40歳未満で診断された方に、メトホルミンとSGLT2阻害薬の早期併用を推奨し、GLP-1受容体作動薬の追加も検討するよう求めていることが紹介されています(Khunti et al., 2026)。「まだ軽いから様子を見る」ではなく、「軽いうちにこそ流れを変える」ことが、疾患修飾の出発点です。
4. 「寛解」という選択肢 ― DiRECT試験5年の教訓
2 型糖尿病は一度なったら治らない、と考えられてきましたが、その常識を覆したのが英国のDiRECT 試験です。発症6年以内の肥満を伴う2型糖尿病の方に、約3〜5か月間の低カロリー食(1 日800kcal 程度のフォーミュラ食)による集中的な減量と、その後の体重維持支援を行ったところ、1 年後には約半数が薬なしで血糖が正常近くに保たれる「寛解」に達しました。
2024 年にLancet Diabetes & Endocrinology 誌に報告された 5 年間の追跡では、支援を続けた群の 13%が 5 年後も寛解を維持していた一方、対照群では 5%にとどまりました(Lean et al., 2024)。一見すると控えめな数字ですが、介入群では5年間の重篤な有害事象が対照群より少なかったことも報告されています。体重が再び増えれば寛解は失われやすい一方で、減量と維持支援によって得られた「寛解していた期間」そのものが、合併症のリスクを下げる貴重な時間になりうることを示しています。
この結果は、Lancet 論文の考え方とよく合致します。寛解は疾患修飾の最もわかりやすい形ですが、唯一の形ではありません。体重を減らし、内臓や肝臓、膵臓にたまった脂肪(異所性脂肪)を減らすことで、インスリン抵抗性やβ細胞の負担が軽くなり、病気の進行速度が落ちる。たとえ完全な寛解に至らなくても、それ自体が「行き先を変える」治療になるのです。特に発症早期ほど効果が大きいため、診断されて間もない方ほど、減量という選択肢を真剣に検討する価値があります。
5. 糖尿病になる前に止める ― 前糖尿病でのSURMOUNT-1試験3年の成績
病気の流れを変える最も早い地点は、糖尿病を発症する前、いわゆる「前糖尿病(境界型)」の段階です。2025年にNew England Journal of Medicine(NEJM)誌に報告されたSURMOUNT1 試験の3年間の解析では、肥満と前糖尿病を併せ持つ1,032名に、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名マンジャロ/ゼップバウンド)または偽薬を週 1 回、176 週間投与しました(Jastreboff et al., 2025)。
チルゼパチド群の体重は用量に応じて平均12.3〜19.7%減少し、偽薬群の1.3%を大きく上回りました。そして2型糖尿病への進行は、チルゼパチド群が1.3%であったのに対し偽薬群は13.3%で、進行リスクは約 94%低下しました(ハザード比 0.07)。まさに「糖尿病へ向かう流れ」を止めた結果と言えます。
一方で、投与を中止して 17 週間経過すると体重の一部が戻り、糖尿病への進行もわずかに増えていました。これは、Lancet 論文が「薬をやめても効果が続くこと」を疾患修飾の必須条件にしなかった理由を裏付けるものです(Khunti et al., 2026)。高血圧の薬が、飲み続けることで脳卒中を防ぎ続けるように、肥満や糖尿病の治療も、続けることで軌道を変え続けるという発想が必要です。なお日本では、これらの薬の保険適用には診断や体格などの条件があるため、適応については医師とよく相談することが大切です。
6. 臓器を守る薬 ― 腎臓と心臓で「血糖を超えた効果」が次々と証明
この 10 年で糖尿病治療を最も大きく変えたのは、血糖を下げるだけでなく、腎臓や心臓を直接守る薬の登場です。2024年にNEJM誌に報告されたFLOW試験では、腎臓病を合併した2型糖尿病の方3,533名に、GLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名オゼンピック)を週1回注射したところ、腎不全、腎機能の大幅な低下、腎臓病や心血管病による死亡を合わせたリスクが24%低下しました(Perkovic et al., 2024)。eGFR(腎機能の指標)の年間低下速度も緩やかになり、心血管死は29%、全死亡は20%減少しています。
SGLT2 阻害薬でも同様の成果が示されています。慢性腎臓病の方6,609名(約半数が糖尿病)を対象とした EMPA-KIDNEY 試験の長期追跡では、エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)の腎保護効果が、試験終了後の追跡期間にも一定期間持続し、腎臓病の進行または心血管死のリスクが全体で21%低いままでした(EMPA-KIDNEY Collaborative Group, 2025)。これは、臓器の障害が進む速度そのものを変えた、まさに疾患修飾の一例と考えられます。
心臓や血管についても、エビデンスは積み重なっています。心血管病や腎臓病のある2型糖尿病の方9,650 名を対象とした SOUL 試験では、飲み薬のセマグルチド(商品名リベルサス)により、心筋梗塞・脳卒中・心血管死を合わせたリスクが14%低下しました(McGuire et al., 2025)。さらに、動脈硬化性疾患を持つ約 1 万 3 千名を対象にチルゼパチドとデュラグルチド(商品名トルリシティ)を直接比較した SURPASS-CVOT 試験では、チルゼパチドは心血管イベントについて非劣性を示し、全死亡は16%少ない結果でした(Nicholls et al., 2025)。これらの研究は、糖尿病治療の評価軸が「血糖値」から「臓器と命」へ移ったことを明確に示しています。
7. 見落とされてきた肝臓 ― 脂肪肝炎への治療効果と最新ガイドライン
Lancet 論文の11領域には「肝臓」が含まれています(Khunti et al., 2026)。これは偶然ではありません。2 型糖尿病の方の多くは、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD、いわゆる脂肪肝)を合併しており、一部は炎症と線維化(肝臓が硬くなること)を伴う脂肪肝炎(MASH)へと進み、肝硬変や肝がんの原因になります。しかも肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状がほとんどありません。
2025 年にNEJM誌に報告されたESSENCE試験では、中等度から高度の線維化を伴うMASHの方800 名に、セマグルチド 2.4mg(商品名ウゴービ)を 72 週間投与しました(Sanyal et al., 2025)。その結果、線維化を悪化させずに脂肪肝炎が改善した方の割合は、セマグルチド群62.9%、偽薬群34.3%でした。また、脂肪肝炎を悪化させずに線維化が改善した方も36.8%対22.4%と、セマグルチド群で有意に多くなりました。肝臓の病気の経過そのものを変えうることを示した重要な試験です。
米国糖尿病学会の診療基準である「Standards of Care in Diabetes—2026」(ADA, 2026)も、血糖値だけでなく、体重管理、心臓・腎臓の保護、脂肪肝の線維化リスク評価を含めた包括的な管理を求めています。具体的には、血液検査から計算できるFIB-4指数などで肝臓の線維化リスクを見積もり、必要に応じて画像検査で評価することが推奨されています。当院でも、腹部超音波検査や CT 検査を用いて脂肪肝や内臓脂肪の状態を確認し、全身の臓器を視野に入れた糖尿病診療を心がけています。
8. 数字に表れない大切なもの ― 体の動き、暮らしやすさ、治療の負担
Lancet 論文のもう一つの大きな特徴は、「身体機能」と「健康関連QOL」を独立した領域として位置づけたことです(Khunti et al., 2026)。歩く速さや椅子から立ち上がる力といった実際の動作の測定に加え、患者さん自身が感じる体調や日常生活のしやすさ、治療に伴う負担や制限、通院の頻度、そして糖尿病と向き合うことによる心理的な負担(ダイアベティス・ディストレス)までが、評価すべき項目として合意されました。
これは、糖尿病とともに生きる方々が本当に望んでいるのは「検査値が良いこと」そのものではなく、「今と変わらず動けて、好きなことを続けられ、合併症を心配せずに暮らせること」だという事実を反映しています。米国糖尿病学会の 2026 年版診療基準でも、治療方針を決める際に、患者さんの価値観、生活状況、治療負担を考慮した「患者中心の意思決定」が重視されています(ADA, 2026)。
その意味で、運動療法は疾患修飾の中心的な手段の一つです。筋肉は血糖を取り込む最大の臓器であり、筋力や持久力を保つことは、インスリン抵抗性の改善と同時に、将来の「動ける体」を守ることにつながります。GLP-1 受容体作動薬などで大きく減量する場合も、脂肪だけでなく筋肉が減らないよう、たんぱく質の摂取と筋力トレーニングを組み合わせることが重要です。当院では体組成計(InBody)で筋肉量と脂肪量を定期的に確認しながら、運動療法を取り入れた糖尿病診療を行っています。
おわりに ― 「今の数字」から「10年後の自分」へ
2026 年の Lancet 論文は、2 型糖尿病の治療を「血糖値を目標範囲に収める管理」から「病気の進行方向を変える治療」へと再定義する、最初の枠組みを示しました(Khunti et al., 2026)。UKPDS の遺産効果、DiRECT 試験の寛解、SURMOUNT-1 試験の発症予防、FLOW・EMPAKIDNEY・SOUL・SURPASS-CVOT 試験の臓器保護、ESSENCE 試験の肝臓への効果。これらのエビデンスはすべて、「糖尿病の行き先は変えられる」という一つのメッセージに収束しています。
そのために大切なのは、できるだけ早い段階で、血糖値だけでなく、体重・体組成、血圧、脂質、腎臓、肝臓、心臓、そして毎日の暮らしやすさまでを一緒に見直すことです。まんかいメディカルクリニックでは、内分泌・糖尿病の専門的な診療に加え、CT・超音波による内臓脂肪や脂肪肝の評価、InBodyによる体組成測定、運動療法、GLP-1受容体作動薬を含む最新の治療選択肢をご用意しています。日曜・祝日も診療しておりますので、健診で血糖値を指摘された方、治療中で将来に不安のある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. HbA1c が目標値(7%未満)に入っていれば、合併症の心配はありませんか?
HbA1c を目標範囲に保つことは、網膜症や腎症などの細い血管の合併症を防ぐうえで今も非常に重要です。しかし、2026年のLancet論文が示したように、糖尿病の経過を評価するにはHbA1cだけでは不十分で、腎臓(eGFR・尿アルブミン)、心臓、肝臓、体組成、身体機能など 35 項目・11 領域を見る必要があるとされています(Khunti et al., 2026)。HbA1c が良好でも、尿アルブミンが増えていたり、脂肪肝が進んでいたりすることは珍しくありません。定期的に全身の臓器を確認することをおすすめします。
Q2. 2 型糖尿病は本当に「寛解」できるのですか?
発症からの期間が短く、肥満を伴う方であれば、大幅な減量によって薬なしで血糖が正常近くに保たれる「寛解」が可能であることが示されています。英国の DiRECT 試験では1 年後に約半数が寛解に達し、支援を継続した群では5年後も13%が寛解を維持していました(Lean et al., 2024)。寛解に至らなくても、減量はインスリン抵抗性や膵臓の負担を軽くし、血糖・血圧・脂質の改善につながります。発症早期ほどチャンスが大きいため、診断されたら早めにご相談ください。
Q3. 境界型(前糖尿病)と言われました。今から治療すべきですか?
前糖尿病は、糖尿病への流れを最も変えやすい段階です。まずは食事・運動による体重の5〜10%程度の減量が基本となります。肥満を伴う前糖尿病の方を対象とした SURMOUNT-1試験では、チルゼパチドにより 3 年間で糖尿病への進行リスクが約 94%低下しました(Jastreboff et al., 2025)。ただし、日本での薬物療法の保険適用には条件があり、誰にでも使えるわけではありません。まずは体組成や内臓脂肪の評価を行い、生活習慣の改善から一緒に取り組むことが大切です。
Q4. GLP-1 受容体作動薬やSGLT2阻害薬は、やめたら効果がなくなりますか?
多くの場合、中止すると体重や血糖値は徐々に戻る傾向があります。SURMOUNT-1 試験でも、投与中止後に体重の一部が戻ることが確認されています(Jastreboff et al., 2025)。一方、EMPA-KIDNEY 試験では、エンパグリフロジンによる腎保護効果が試験終了後も一定期間持続していました(EMPA-KIDNEY Collaborative Group, 2025)。Lancet 論文も、治療を続けながら病気の軌道を変え続けることを、疾患修飾として正当に評価すべきだとしています(Khunti et al., 2026)。高血圧の薬と同じように、長く続けることを前提に、副作用や費用も含めて医師と相談しながら選ぶことが大切です。
Q5. 糖尿病の人は、肝臓や腎臓の検査も必要ですか?
はい、強くおすすめします。米国糖尿病学会の 2026 年版診療基準では、尿アルブミンとeGFR による腎臓の定期評価や、FIB-4指数などによる脂肪肝の線維化リスク評価が推奨されています(ADA, 2026)。腎臓病を合併した方ではセマグルチドが腎不全などのリスクを24%低下させ(Perkovic et al., 2024)、脂肪肝炎ではセマグルチドが肝臓の炎症と線維化を改善しました(Sanyal et al., 2025)。早く見つければ、臓器を守る治療を早く始められます。当院では血液・尿検査に加え、腹部超音波やCTによる評価が可能です。
参考文献
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https://doi.org/10.1056/NEJMoa2505928
10. Sanyal AJ, Newsome PN, Kliers I, et al. Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic
Dysfunction–Associated Steatohepatitis (ESSENCE). N Engl J Med. 2025;392(21):2089
2099. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2413258
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
