【血圧】高血圧という負債に、時間という積み重なる利子―脳・心臓・腎臓を守るために、いま一度知っておきたいこと―
はじめに ― 「症状がないから大丈夫」という最大の誤解
健康診断の結果票をご覧になったとき「多少高くても、いまは困っていない」と考えてしまう―これが高血圧をめぐる最大の誤解です。
高血圧は、自覚症状がほとんどないまま血管の内側を一日十万回近く叩き続け、心臓・脳・腎臓という三つの臓器を静かに削っていきます。そのダメージは時間と共に複利で積み上がります。喫煙も、酒も、血糖も、LDL コレステロールも、そして血圧も。いずれも「その値がどれくらい高いか」だけでなく「どれくらいの年数、その値にさらされてきたか」―すなわち曝露の面積―で将来のリスクが決まります。何年にもわたって、血圧が 10mmHg 高いことの意味は、健診の一枚の紙からは決して読み取れません。
この数年、血圧をめぐる医学の地図は大きく描き替えられました。2024 年に欧州心臓病学会(ESC)が新しいガイドラインを発表し(McEvoy et al., Eur Heart J 2024)、2025 年 8 月には米国心臓協会・米国心臓病学会(AHA/ACC)が 7 年ぶりの改訂版を公表(Circulation 2025)、そして同じ 2025 年 8 月、日本高血圧学会が『高血圧管理・治療ガイドライン 2025(JSH2025)』を発刊しました。欧・米・日の三者が、ほぼ同時に、ほぼ同じ結論に到達しました。本コラムでは、血圧とは何を測っているのかという基本から、なぜ下げる必要があるのか、正しい測り方、生活習慣の効果の大きさ、そして薬が必要になったときの考え方まで、最新の臨床試験とガイドラインに基づいて、あらためて掘り下げてまいります。
1. 血圧とは何を測っているのか ― 2 つの数字の正体
「上が 130、下が 85」の二つの数字は、それぞれ心臓の異なる瞬間を写し取ったものです。心臓の左心室が収縮し、大動脈へ血液を押し出す瞬間に動脈壁が受ける圧力が収縮期血圧(上の血圧)。心室が弛緩し、次の拍動に備えて血液を満たしている間も動脈内の圧力はゼロにはならず、その最低値が拡張期血圧(下の血圧)です。単位の mmHg(ミリメートル水銀柱)は、その圧力が水銀を何ミリ押し上げるかを表しています。
ここで見落とされがちなのが、拡張期の生理学的な意味です。全身の臓器が血液を受け取るのは主に収縮期ですが、心臓自身を養う冠動脈が血流を受け取るのは拡張期です。つまり下の血圧は「心臓が自分自身に栄養を送る時間帯の圧力」であり、決して収縮期の付け足しではありません。日本高血圧学会が診察室血圧 130/80mmHg 未満という目標を、上下二つの数字の両方に課しているのはこのためです。
血圧が臓器を傷つけるメカニズムは、きわめて物理的です。喫煙が血管内皮への「化学的な傷害」であるのに対し、高血圧は「機械的な傷害」です。拍動のたびに繰り返される過剰な剪断応力が内皮を疲弊させ、そこに ApoB 粒子(LDL などのコレステロール輸送体)が入り込むことで動脈硬化が進行します。高血圧・脂質異常・喫煙という三大リスクが同じ「血管内皮」という一点で交差していること、そしていずれも曝露年数の積分値で効いてくること―これが、若いうちから血圧を知っておくべき理由です。
2. 世界が「130/80」に収束した ― 欧・米・日の三ガイドライン
2025 年 8 月に発表された AHA/ACC ガイドラインは、血圧を正常(120/80mmHg 未満)、上昇(収縮期 120〜129 かつ拡張期 80 未満)、ステージ 1 高血圧(130〜139 または 80〜89)、ステージ2 高血圧(140 以上または 90 以上)の 4 段階に分類し、「原則としてすべての成人で130/80mmHg 未満を治療目標とする」と明記しました。さらに、10 年心血管リスクを新しいPREVENT 式で評価し、リスク 7.5%以上または心血管病・脳卒中・糖尿病・慢性腎臓病を有する場合には 130/80mmHg 以上で薬物治療の開始を推奨、それ未満のリスクでは 3〜6 か月の生活習慣改善を先行させるという段階的な戦略を示しています。
一方、2024 年の ESC ガイドラインは分類そのものを組み替え、収縮期 120〜139 または拡張期 70〜89mmHg を「上昇血圧(elevated blood pressure)」という新カテゴリーとして独立させました。そのうえで、降圧薬を服用している成人では収縮期 120〜129mmHg を目標とすることを推奨しています(McEvoy et al., Eur Heart J 2024)。ただし 85 歳以上、中等度以上のフレイル、症状のある起立性低血圧のある方には、より緩やかな目標を許容するという但し書きが添えられています。
そして日本高血圧学会の JSH2025 は、これまで年齢別に分けていた降圧目標を撤廃し、高齢者を含む全年齢で診察室血圧130/80mmHg 未満、家庭血圧 125/75mmHg 未満に統一しました。
第一選択薬には Ca 拮抗薬・ARB・ACE 阻害薬・サイアザイド系利尿薬に加え、一部の β 遮断薬(ビソプロロール、カルベジロール)が再び名を連ねています。Kario(Hypertens Res2026)が指摘するように、JSH2025・AHA/ACC 2025・ESC 2024 は「130/80」という一点に収束しました。もはや議論の焦点は「何を目指すか」ではなく「どうすれば実際に達成できるか」に移っているのです。
3. 本当に下げる方がいいのか ― SPRINT・ESPRIT・BPROAD
この 10 年の降圧医療を決定づけたのが SPRINT 試験です。心血管リスクの高い糖尿病のない9,361 名を、収縮期 120mmHg 未満を目指す厳格降圧群と 140mmHg 未満の標準降圧群に無作為に割り付けたところ、心筋梗塞・急性冠症候群・脳卒中・急性心不全・心血管死からなる複合エンドポイントは年 1.77%対 2.40%(ハザード比 0.73、95%信頼区間 0.63〜0.86)、そして総死亡も年 1.06%対 1.41%(ハザード比 0.75、95%信頼区間 0.61〜0.92)と、いずれも有意に減少しました(SPRINT Research Group, N Engl J Med 2021)。予想外だったのは、心血管以外を含む「あらゆる原因による死亡」まで 4 分の 1 減ったことです。
同じ問いは、その後アジアで再検証されました。ESPRIT 試験は高心血管リスクの 11,255 名を対象に、達成血圧 120.3mmHg 対 135.6mmHg という明確な差を作り、主要複合エンドポイントを 12%(ハザード比 0.88、95%信頼区間 0.78〜0.99)、心血管死を 39%(ハザード比 0.61、95%信頼区間 0.44〜0.84)減少させました(Liu et al., Lancet 2024)。さらに BPROAD 試験は、これまで結論が割れていた 2 型糖尿病患者 12,821 名を中央値 4.2 年追跡し、厳格降圧群で主要心血管イベントが 21%減少(ハザード比 0.79、95%信頼区間 0.69〜0.90)することを示しています(Bi et al., N Engl J Med 2025)。かつて ACCORD-BP 試験で否定的とされた糖尿病領域でも、答えは「低いほど良い」に傾きました。
では副作用はどうか。2025 年に Lancet 誌に掲載された 6 試験・80,220 名の個別患者データ統合解析は、この点に正面から答えています。厳格降圧により心血管イベントは 5.3%対7.1%(ハザード比 0.76)、総死亡はハザード比 0.87 と低下する一方、低血圧・失神・急性腎障害・電解質異常といった有害事象は確かに増加しました。しかし絶対値でみると心血管リスクの減少 1.73%に対し有害事象の増加 1.82%であり、重篤度を加味した便益・害比は 1.14と、正味では便益が上回ると結論づけられています(Guo et al., Lancet 2025)。「下げれば下げるほど良い」ではなく「慎重に、しかし確実に下げる」というのが現在の到達点です。
4. 標的は心臓だけではない ― 脳と腎臓への静かな打撃
高血圧が機械的な傷害である以上、細い血管を大量に抱える臓器ほど脆弱になります。その代表が脳と腎臓です。認知症との関係については長く観察研究の域を出ませんでしたが、2025 年に Nature Medicine 誌に発表された大規模クラスター無作為化試験が決定的な証拠を加えました。中国農村部 326 村・33,995 名を対象に、非医師の地域医療従事者が主導する厳格な血圧管理プログラムを 48 か月間実施したところ、収縮期血圧に 22.0mmHg もの群間差が生まれ、全原因認知症の発症が 15%減少したのです(相対危険 0.85、95%信頼区間 0.76〜0.95、He et al., Nat Med 2025)。降圧が認知症を「予防しうる」ことを介入試験で示した、現時点で最も説得力のあるデータです。
腎臓はさらに繊細です。左右合わせて体重のわずか 1〜2%にすぎない臓器が、心拍出量の 20〜25%を受け取っています。この途方もない灌流量を支える微小血管網は、圧の上昇にきわめて弱く、高血圧のある方では糸球体濾過量(GFR)の低下速度が同年代より明らかに速くなります。しかも糖尿病を併存すると、高血糖による微小血管障害が加わって二重の打撃となります。高血圧と高血糖はいずれもメタボリックシンドロームの構成要素であり、この二つが揃うことは決して稀ではありません。
当院では腎機能の評価に、筋肉量の影響を受けやすいクレアチニンだけでなくシスタチン Cを併用しています。たとえば 50 代の方で GFR が 60mL/分であれば、検査値としては「正常範囲」と判定されがちですが、その年齢で期待される 100 前後という水準からは大きく隔たっています。年齢に照らして早すぎる腎機能低下は、しばしば血圧計を当てる前から高血圧の存在を示唆します。心臓・脳・腎臓のいずれを守るうえでも、低い血圧が有利であること―これは現代医学が最も自信をもって言える結論の一つです。
5. 正しく測らなければ、すべてが台無しになる ― WHO チェックリス
ト
ここまで述べてきた「130」や「120」という数字は、すべて厳密な手順で測定された血圧を前提としています。裏を返せば、測り方が乱れれば診断も治療方針も根こそぎ狂います。世界保健機関(WHO)が公開している血圧測定チェックリストは、その要点を一枚に凝縮したものです。

図:WHO「Blood Pressure Measurement Checklist」(World Health Organization)より背もたれのある椅子に深く座り、背中を支える。足を組まず、床にしっかりつける。腕は机の上に置き、カフ(腕帯)は心臓の高さに。測定前後を通じて会話をしない。測定 30 分前の運動・コーヒー・お茶を避け、着席後 5 分間安静にしてから測る。カフは素肌か薄手の衣類の上に巻き、袖のたくし上げによる圧迫をつくらない。腕帯の長さは上腕周囲径の 80%以上、幅は 40%以上を満たすサイズを選ぶ。そして表示された数値は丸めずにそのまま記録する―WHO が挙げるこれらの項目は、いずれも「守らなければ誤差が生じる」という実証に基づいています。
誤差の大きさは決して小さくありません。背中や足が支えられていないだけで 5〜10mmHg、脚を組めば 5〜8mmHg、直前や測定中の会話で 10〜15mmHg、尿意を我慢した状態では 10〜15mmHg、5 分間の安静を省けば 10〜20mmHg も変動しうると報告されています。腕の高さも重要で、心臓より 2.5cm 下がるごとに約 2mmHg 高く、上がるごとに約 2mmHg 低く出ます。ESC2024 ガイドラインも AHA/ACC 2025 ガイドラインも、標準化された測定手順を診断の前提条件として明記しました。診察室で慌ただしく一度だけ測った数値に一喜一憂するより、正しい手順で測った家庭の数値を積み重ねること―これが現代の高血圧診療の出発点です。
6. 家庭血圧こそ「本当の血圧」 ― 朝の 1 分が未来を変える
日本は世界に先駆けて家庭血圧を診療の中心に据えてきた国です。JSH2025 は家庭血圧125/75mmHg 未満という目標を明示し、診断・治療効果判定の双方で家庭血圧を優先する立場を鮮明にしました。診察室でのみ高い「白衣高血圧」、逆に診察室では正常でも日常生活では高い「仮面高血圧」は、家庭血圧を測らなければ決して発見できません。とりわけ日本人に多い早朝高血圧は脳卒中の強力な予測因子であり、朝の家庭血圧測定によってこそ捉えられます(Kario, Hypertens Res 2026)。
測定のタイミングは、朝は起床後 1 時間以内・排尿後・朝食前・服薬前、夜は就寝前が原則です。それぞれ 1〜2 回測り、1 週間以上の平均で評価します。1 日だけの数値、まして 1 回だけの数値で治療方針を決めることはありません。ESC 2024 ガイドラインも、家庭血圧の平均 135/85mmHg 以上、24 時間自由行動下血圧の平均 130/80mmHg 以上を高血圧と定義し、診察室外の測定を強く推奨しています。夜間に血圧が日中より 10〜20%低下しない「nondipper 型」は心血管リスクが高いことも知られており、必要に応じて 24 時間血圧計による評価を行います。
一点、注意していただきたいのが機器の選択です。AHA/ACC 2025 ガイドラインは、スマートウォッチをはじめとするカフのない(cuffless)血圧測定機器について、精度が十分に実証されるまで依拠すべきでないと明確に述べています。上腕式で、日本高血圧学会や国際的な検証基準を満たした機器をお選びください。手首式は腕の位置による誤差が大きく、上腕式が使えない場合の次善の選択と考えるのが妥当です。当院では、お使いの血圧計をお持ちいただければ診察室の測定値と突き合わせ、測定手順そのものを一緒に確認しています。
7. 生活習慣という「もう一つの降圧薬」 ― 効果の大きさを数字で見
る
血圧においては、生活習慣の改善が脂質管理の場合よりはるかに大きな力を持ちます。まず減量です。メタ解析によれば体重 1kg の減少あたり収縮期・拡張期ともおおむね 1mmHg 前後の低下が期待でき、5kg の減量は 5mmHg 前後の降圧に相当します。次に食塩。2024 年に JAMA誌に発表された CARDIA-SSBP 試験は、213 名を高ナトリウム食(約 5,000mg/日)と低ナトリウム食(約 1,270mg/日)に 1 週間ずつ割り付けるクロスオーバー試験を行い、両者の間に平均 7〜8mmHg もの収縮期血圧差を確認しました。参加者の約 75%で低ナトリウム食により血圧が低下しており、この効果は第一選択薬 1 剤の追加に匹敵します(Gupta et al., JAMA 2024)。
食塩感受性には個人差があり、高齢の方、すでに血圧の高い方、糖尿病や慢性腎臓病のある方でより顕著になる傾向があります。日本人の食塩摂取量は平均 10g 前後で、JSH2025 が掲げる 6g/日未満という目標には大きな開きがあります。同時に注目されているのがカリウムです。中国農村部の 600 村・20,995 名を対象とした SSaSS 試験では、食塩の約 25%をカリウムに置き換えた代替塩の使用により、脳卒中が 14%、主要心血管イベントが 13%、総死亡が12%減少しました。懸念された高カリウム血症の増加は認められていません(Neal et al., NEngl J Med 2021)。ただし腎機能が低下している方やカリウム保持性利尿薬・RAS 阻害薬を使用中の方では代替塩は禁物であり、必ず主治医にご相談ください。
運動の効果も明確です。270 の無作為化比較試験・15,827 名を統合したネットワークメタ解析では、有酸素運動で 4.49/2.53mmHg、動的レジスタンス運動で 4.55/3.04mmHg、両者の併用で 6.04/2.54mmHg、そして最も大きかった等尺性運動(ウォールシットなど壁に背をつけて姿勢を保持する運動)では 8.24/4.00mmHg の降圧が得られました(Edwards et al., Br JSports Med 2023)。週 90〜150 分程度が目安です。加えて睡眠も見逃せません。睡眠時間が5 時間未満、あるいは 10 時間を超える場合、高血圧のリスクは最大 40%程度上昇すると報告されています。当院では運動療法室と InBody による体組成評価を備え、減量・運動処方を血圧管理の一環として一緒に組み立てています。
8. 薬が必要になったとき
生活習慣の改善を尽くしてなお目標に届かない場合、薬物療法に進みます。第一選択薬は長時間作用型 Ca 拮抗薬、ARB(アンジオテンシン II 受容体拮抗薬)、ACE 阻害薬、サイアザイド系利尿薬の 4 系統で、JSH2025 ではこれに一部の β 遮断薬が加わりました。いずれも単剤で収縮期 12〜15mmHg、拡張期 9〜11mmHg 程度の降圧が期待できます。AHA/ACC 2025 ガイドラインは、ステージ 2 高血圧では異なる系統の 2 剤を配合した単一錠(single-pillcombination)での開始を推奨しており、服薬アドヒアランスの向上という現実的な視点が前面に出ています。
薬剤選択には併存疾患による使い分けがあります。心不全で駆出率が低下している方には非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬を避け、妊娠中や血管性浮腫の既往のある方にはACE阻害薬・ARB を用いません。腎動脈狭窄が疑われる場合も同様です。ACE 阻害薬による空咳が問題となる場合は ARB への変更が有効です。また、高血圧の約 10%は二次性高血圧、すなわち治療可能な原因疾患によるものです。原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧、甲状腺機能異常、睡眠時無呼吸症候群、褐色細胞腫などがこれにあたり、若年発症、急激な発症、極端な高値、複数剤でも下がらない治療抵抗性といった特徴があれば精査が必要です。当院ではCT・超音波検査を院内で実施できるため、こうした鑑別を速やかに進められます。
治療抵抗性高血圧の領域では、新しい選択肢も登場しました。BaxHTN 試験では、アルドステロン合成酵素阻害薬バクスドロスタットを 796 名に投与し、12 週時点でプラセボ比 8.7〜9.8mmHg の収縮期血圧低下が得られています(Flack et al., N Engl J Med 2025)。一方で忘れてはならないのが「下げすぎ」への配慮です。ApoB と異なり、血圧は低ければ低いほど良いという一方通行ではありません。数値としての明確な定義はないものの、起立時のふらつき、失神、集中力低下、かすみ目といった症状は過降圧のサインです。減量や運動の成果で血圧が下がってきた方では、薬の減量が必要になることも珍しくありません。開始も減量も、必ず医師と相談しながら段階的に進めてください。
おわりに ― 「地味だが最も効く」介入
血圧管理は、最先端の抗加齢医療のような華やかさを持ちません。しかし、心血管イベントを減らし、認知症を減らし、腎臓を守り、そして総死亡を減らすという確かな証拠が、欧州・米国・日本の三方向から同じ結論を指し示しています。派手な健康法に時間と費用を投じながら、自分の血圧の数字を知らない―これは長寿医療において最も惜しい取り違えです。
どうか、まずご自宅で正しく測ることから始めてください。上腕式の血圧計を用意し、朝と夜、WHO のチェックリストに沿って 1〜2 週間記録する。それだけで、ご自身の本当の血圧が見えてきます。ご家族に高血圧の方がいらっしゃる方は特に、症状が出るのを待つ理由はありません。
まんかいメディカルクリニックでは、CT・超音波検査、シスタチン C を用いた腎機能評価、InBody による体組成測定と運動療法まで、血圧管理に必要な要素を院内で一貫してご提供しています。日曜・祝日も診療しておりますので、平日にお時間の取りにくい方もご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 家庭血圧は、いつ・何回測ればよいのでしょうか。
朝は起床後 1 時間以内、排尿を済ませ、朝食前・服薬前に。夜は就寝前に測るのが原則です。いずれも背もたれのある椅子に座って 5 分間安静にしてから、1〜2 回測定します。1日の値で判断せず、少なくとも 1 週間、可能であれば 2 週間分の平均で評価してくださ
い。JSH2025 は家庭血圧 125/75mmHg 未満を目標としています。数値は丸めず、表示されたまま記録することが大切です。前日の睡眠不足や飲酒、測定前の会話でも 10mmHg 以上動くため、条件を揃えた継続的な記録こそが最も価値のある情報になります。
Q2. スマートウォッチや手首式の血圧計では代用できませんか。
2025 年の AHA/ACC ガイドラインは、スマートウォッチを含むカフのない血圧測定機器について、十分な精度が実証されるまで依拠すべきでないと明記しています。現時点では、国際的な検証基準を満たした上腕式のカフ型血圧計をお使いください。手首式は腕の高
さのわずかなずれで大きな誤差が生じるため、上腕式が使用できない場合の次善の選択とお考えいただくのが妥当です。腕帯のサイズも重要で、WHO は長さが上腕周囲径の 80%以上、幅が 40%以上であることを求めています。腕の太い方は大きめのカフをご用意くだ
さい。
Q3. 減塩だけで、どのくらい血圧は下がりますか。
2024 年に JAMA 誌に発表された CARDIA-SSBP 試験では、高ナトリウム食と低ナトリウム食を 1 週間ずつ実施した比較で、収縮期血圧に平均 7〜8mmHg の差が生じ、参加者の約 75%で低ナトリウム食により血圧が低下しました(Gupta et al., JAMA 2024)。これは降圧薬1 剤の追加に匹敵する大きさです。JSH2025 は 1 日 6g 未満を目標としています。ただし食塩感受性には個人差があり、極端な制限がかえって望ましくない場合もあります。むしろ実行しやすいのは、汁物を半分に減らす、麺類の汁を残す、加工食品の栄養表示を確
認するといった日常の工夫の積み重ねです。
Q4. 運動はどの種目を、どのくらい行えばよいですか。
270 試験・15,827 名を統合した解析では、有酸素運動で 4.49/2.53mmHg、動的レジスタンス運動で 4.55/3.04mmHg、等尺性運動では 8.24/4.00mmHg の降圧が確認されています(Edwards et al., Br J Sports Med 2023)。週 90〜150 分が目安で、有酸素運動は最大心拍数の 65〜75%程度―会話ができる程度の強度が適切です。壁に背をつけて中腰を保つウォールシットのような等尺性運動は、器具も場所も不要で最も効率的でした。なお運動中に収縮期血圧が上がるのは正常な反応です。問題となるのは拡張期血圧の上昇であり、
当院では運動負荷時の血圧応答もあわせて評価しています。
Q5. 一度薬を始めたら、一生やめられないのでしょうか。
そのようなことはありません。減量や運動、減塩が実を結んで血圧が下がってくれば、薬を減量あるいは中止できる方は少なくありません。実際、生活習慣の改善を積み重ねた場合の降圧効果は、薬剤 1 剤に匹敵しうる水準に達します。ただし自己判断での中断は、
リバウンドによる急激な血圧上昇を招き危険です。必ず家庭血圧の記録を持参のうえ、段階的に調整してください。逆に、ご家族に高血圧の方が多く遺伝的素因が強い場合は、生活習慣を整えていても薬が必要になることがあります。それは努力が足りなかったのではなく、必要な時期に必要な治療を始められたということです。
参考文献
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
