病気と健康の話

【HbA1c】ごはんの行き先は筋肉へ向かうか、あるいはお腹の脂肪か―筋肉が決めるインスリン抵抗性の分かれ道―

はじめに ― 同じ茶碗一杯が、人によって違う場所へ向かう

同じ量のごはんを食べても、しっかり動くためのエネルギーになる人と、お腹まわりの脂肪として蓄えられてしまう人がいます。年齢のせい、体質のせいと片づけられがちなこの違いには、実はかなりはっきりした生理学的な理由があります。鍵を握るのは、インスリンというホルモンと、その指示を受け取る側である骨格筋の状態です。
2026 年 8 月に Nutrients 誌に掲載された 40 ページに及ぶ総説(Rodzeń et al., 2026)は、インスリン抵抗性を「静かなパンデミック(silent pandemic)」と表現しました。世界の有病率は調査対象や診断基準によって 15.5〜61.2%と大きな幅があり、平均するとおよそ 26.5%と推計されています。米国では 18〜44 歳の糖尿病でない成人のおよそ 4 割にインスリン抵抗性が認められるという報告もあります。ところが世界保健機関の国際疾病分類(ICD-11)には、いまだにインスリン抵抗性そのものを指す診断コードが存在しません。その結果、多くの方は 2 型糖尿病を発症してから、あるいは健診で「血糖が高めですね」と言われてから初めて、10 年以上前から進行していた変化に気づくことになります。
本コラムでは、炭水化物・筋肉・インスリン抵抗性という三者の関係を、2024 年から 2026年にかけて欧米の主要誌に発表された最新研究をもとに整理します。「炭水化物は敵か」という単純な二分法ではなく、食べた糖を受け止める“受け皿”をどう保ち、どう鍛えるかという視点でお読みいただければ幸いです。

1. 食べた糖はどこへ行くのか ― 骨格筋という最大の「受け皿」

食事から吸収されたブドウ糖は、インスリンの作用によって全身の組織に取り込まれます。
このとき圧倒的に大きな役割を担っているのが骨格筋です。2025 年に PhysiologicalReviews 誌に発表された包括的総説(Richter, Bilan & Klip, 2025)によれば、インスリン刺激下で全身が処理するブドウ糖のおよそ 8 割は骨格筋が引き受けています。肝臓や脂肪組織も関与しますが、量的な主役はあくまで筋肉です。つまり食後の血糖値は、膵臓がどれだけインスリンを出せるかだけでなく、筋肉という受け皿がどれだけ大きく、どれだけ素直に反応するかによって決まります。
この受け皿の実体は、筋細胞の内部に待機している GLUT4 というブドウ糖輸送体です。インスリンが筋細胞の受容体に結合すると、IRS-1 から PI3K・Akt へと信号が伝わり、GLUT4 を積んだ小胞が細胞膜へ移動して、糖の入口が開きます。インスリン抵抗性とは、この一連の伝達のどこかが滞り、同じ量のインスリンでは同じだけの糖を取り込めなくなった状態を指します(Rodzeń et al., 2026)。
ここで重要なのは、筋肉には「インスリンを介さない」もう一つの糖の取り込み経路がある点です。Richter らの総説が詳しく解説しているとおり、筋収縮そのものが AMPK などを介して GLUT4 を細胞膜へ動員します。この経路はインスリン抵抗性がある人でもかなり保たれています。運動が血糖に効く理由の核心はここにあり、後の章で述べる筋力トレーニングの意義にも直結します。

2. インスリン抵抗性 ― 発症の 10〜15 年前から始まっている

インスリン抵抗性のやっかいなところは、初期にはほとんど症状がなく、血糖値も HbA1c も正常のまま推移することです。膵臓の β 細胞がインスリンの分泌量を増やして無理やり血糖を正常域に保つため、検査値の上では何も起きていないように見えます。Nutrients 誌の総説(Rodzeń et al., 2026)は、2 型糖尿病がインスリン抵抗性なしに発症することはまれであり、その先行期間は 10 年から 15 年に及ぶと指摘しています。健診で「血糖は正常です」と言われた時点で、すでに水面下では長い前史が進んでいる可能性があるということです。
同総説はさらに、経口ブドウ糖負荷試験で正常型と判定された人のうち 54〜75%に、インスリン分泌パターンの異常が認められると報告しています。血糖という「結果」だけを見ていては、インスリンという「努力量」の異常は見えません。そのため実地臨床では、空腹時インスリン値、HOMA-IR(空腹時血糖×空腹時インスリン÷405)、中性脂肪と HDL コレステロールの比(TG/HDL-C 比)、TyG 指数といった代替指標が用いられます。
見逃しの代償は小さくありません。インスリン抵抗性は 2 型糖尿病だけでなく、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、メタボリックシンドローム、高血圧、心血管疾患、さらには一部のがんや認知機能低下とも関連づけられています。血中インスリン濃度の長期変動が大きい人では、心血管疾患リスクが 65%、全死因死亡リスクが 97%高かったというデータも紹介されています(Rodzeń et al., 2026)。

3. 高インスリン血症は結果か、原因か ― 逆転しうる因果

従来の教科書的な説明では、まず筋肉や肝臓のインスリン抵抗性があり、それを補うために膵臓がインスリンを増産して高インスリン血症になる、という順番でした。しかし近年、この矢印が逆向きにも働きうることを示す知見が積み重なっています。Nutrients 誌の総説(Rodzeń et al., 2026)は、両者が双方向の関係にあるとする立場を詳しく紹介しています。
根拠として挙げられているのは、たとえば健康な人に 20 時間だけ生理的な範囲の高インスリン血症を人為的につくると、インスリン感受性が約 20〜30%低下したという実験です。血糖を正常に保ったまま数十時間高インスリン状態を続けた研究では、インスリン依存性の糖取り込みが 20〜40%減少しました。慢性的に高いインスリン濃度は IRS 蛋白の分解を促し、JNK などのセリンキナーゼを活性化して IRS-1 をリン酸化し、下流の信号を鈍らせます。つまりインスリンそのものが、受け皿の感度を下げる方向に働きうるのです。
食事の影響も速やかです。同総説によれば、健康な若年成人が 1 日だけ必要量の 78%増しのエネルギーを摂取しただけで、全身のインスリン感受性が 28%低下しました。また高炭水化物食に切り替えると、体重が変わらないうちから数日で肝臓のインスリン分解(肝インスリンクリアランス)が低下し、全身の血中インスリン濃度が上がることも示されています。ここに睡眠不足が加わると事態はさらに進みます。4 時間睡眠を 4 夜続けただけで高インスリン血症・高血糖・インスリン抵抗性が出現したという報告も紹介されています。

4. 炭水化物は「量」だけでなく「質」 ― GI・GL と糖尿病リスク

「炭水化物は身体に悪いのか」という問いには、量と質を分けて考える必要があります。質の指標として国際的に用いられているのが、食後血糖の上がりやすさを示すグリセミック・インデックス(GI)と、それに摂取量を掛け合わせたグリセミック・ロード(GL)です。
2024 年に Lancet Diabetes & Endocrinology 誌に発表された PURE 研究(Miller, Jenkins,Dehghan et al., 2024)は、20 か国 127,594 人を追跡し、GI の高い食事パターンをとる人ほど 2 型糖尿病の発症リスクが高いことを示しました。この関連は、すでに過体重や肥満のある人でより明確でした。同じ「炭水化物 60%」の食事でも、精製された白いパンや菓子パン、清涼飲料から摂るのか、全粒穀物や豆類、野菜から摂るのかで、膵臓と筋肉にかかる負荷はまったく異なるということです。
Nutrients 誌の総説(Rodzeń et al., 2026)は、この現象の背景にある「炭水化物-インスリンモデル」を紹介しています。急速に吸収される炭水化物は食後の血糖を鋭く押し上げ、それに応じた強いインスリン分泌を引き起こします。インスリンは脂肪組織へのエネルギー貯蔵を優先させるため、末梢組織で使えるエネルギーが相対的に減り、その不足が中枢の空腹シグナルを刺激して過食につながる——という循環です。食事の絶対量を減らす以前に、糖の「立ち上がり方」をなだらかにすることが、インスリンの総分泌量を下げる現実的な手段になります。

5. 炭水化物を減らすと膵臓は休まるのか ― 12 週間の無作為化試験

炭水化物を制限すると血糖が下がるのは当然として、膵臓の β 細胞そのものの働きは回復するのでしょうか。この問いに正面から答えたのが、2025 年に The Journal of ClinicalEndocrinology & Metabolism 誌に掲載された米国アラバマ大学バーミングハム校の無作為化比較試験です(Gower et al., 2025)。
対象は診断から 10 年以内、HbA1c 8.0%以下、BMI 25〜50 の 2 型糖尿病の成人 57 名。炭水化物約 9%・脂質 65%・たんぱく質 26%の炭水化物制限食と、炭水化物約 55%の対照食に無作為に割り付け、12 週間実施しました。特筆すべきは両群とも体重維持カロリーで行われた点です。つまり「痩せたから良くなった」という説明を排除した設計になっています。
結果、炭水化物制限群ではブドウ糖注入直後の急性 C-ペプチド反応(いわゆる第一相インスリン分泌に対応する指標)が約 2 倍、最大 C-ペプチド反応が 22%、インスリン分泌能と感受性の積であるディスポジション指数が 32%、いずれも対照群より高くなりました。一方でインスリン感受性そのものには有意差がありませんでした。体重を減らさなくても、炭水化物の量を調整するだけで膵臓の反応性が改善しうることを示した点で、臨床的に示唆に富む結果です。ただしこれは 12 週間の試験であり、極端な糖質制限を誰にでも長期に勧めてよいという意味ではありません。

6. 筋肉が減ると受け皿が縮む ― サルコペニアという第二の問題

ここまでは主に「入ってくる糖」の話でしたが、方程式のもう一方の辺、すなわち受け皿の大きさも同じだけ重要です。2025 年に Acta Diabetologica 誌に発表された系統的レビュー(Putranata, Hengky & Hartoko, 2025)は、25 のコホート研究(筋量に関する解析で 278,475人、筋力に関する解析で 400,181 人)を統合し、体重で補正した骨格筋量および四肢骨格筋量が 2 型糖尿病の発症と有意に逆相関すること、BMI で補正した握力にも一貫した予防的関連があることを示しました。筋肉は「見た目」の問題ではなく、糖代謝の予備能そのものです。
やっかいなのは、この関係が一方通行ではないことです。2025 年に Reviews in Endocrineand Metabolic Disorders 誌に掲載された総説(Pérez Castillo et al., 2025)は、肥満と 2型糖尿病そのものが骨格筋の萎縮と機能低下を引き起こす分子機構を整理しています。慢性的な過栄養はインスリン信号を妨げるストレス経路を持続的に活性化させ、ミトコンドリア機能を障害し、筋線維を持久力の低い解糖系タイプへとシフトさせます。筋肉が減れば糖の受け皿が縮み、血糖が上がりやすくなり、その高血糖がさらに筋肉を傷める——典型的な悪循環です。
この視点は、GLP-1 受容体作動薬による減量が普及した現在、いっそう重要になっています。2025 年に European Journal of Clinical Investigation 誌に発表された総説(De Girolamoet al., 2025)によれば、GLP-1 受容体作動薬による体重減少のうち除脂肪量の減少が占める割合は概ね 20〜40%で、STEP 1 試験では除脂肪量が 9.7%、SURMOUNT-1 試験では 10.9%減少したと報告されています。同総説は、禁忌がなければ体重 1kg あたり 1〜1.5g のたんぱく質摂取(高齢者や併存疾患のある方はさらに多め)と、漸進的な負荷を用いた筋力トレーニング、そして体組成と身体機能の定期的なモニタリングを治療に併走させるべきだと結論しています。

7. 筋トレは「受け皿を作り直す」 ― GLUT4 が約 40%増えるという事

では、縮んだ受け皿は取り戻せるのでしょうか。答えははっきりしています。Nutrients 誌の総説(Rodzeń et al., 2026)が引用する Holten らの研究では、2 型糖尿病の患者においてわずか 6 週間の筋力トレーニングで骨格筋の GLUT4 蛋白量が約 40%増加し、インスリン刺激下の糖取り込みとインスリン信号伝達がともに改善しました。しかもこの効果は、目に見えるほどの筋肥大とは独立して生じています。つまり「筋肉が大きくなったから良くなった」のではなく、筋肉の質——糖を受け取る装置の密度——が変わったということです。
Physiological Reviews 誌の総説(Richter et al., 2025)は、この現象を分子レベルで説明しています。運動には、運動中から直後にかけての急性効果(収縮によるインスリン非依存性の GLUT4 動員)と、数日単位で持続する慢性効果(GLUT4 の発現増加、ミトコンドリア機能の改善、毛細血管の増生によるインスリンと糖の筋への届きやすさの向上)があり、両者が重なって血糖コントロールを改善します。運動後のインスリン感受性の亢進は概ね 24〜48時間で減衰するため、「2 日以上続けて休まない」という運動処方の原則には明確な生理学的根拠があります。
米国糖尿病学会の Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association,2026)も、成人に対して週 150 分以上の中等度以上の有酸素運動を週 3 日以上、連続して運動しない日を 2 日以上つくらないこと、加えて週 2〜3 回のレジスタンス運動を推奨しています。長時間の座位を 30 分ごとに中断することも、血糖管理の観点から推奨に含まれています。

8. 有酸素運動と筋トレのスイートスポット ― 週 90〜120 分という最
新の答え

「有酸素運動と筋トレ、どちらを優先すべきか」は長く議論の的でした。2026 年 6 月にBritish Journal of Sports Medicine 誌に発表されたハーバード大学公衆衛生大学院の研究(Zhang et al., 2026)は、この問いに具体的な数字で答えています。Health Professionals
Follow-up Study と Nurses’ Health Study I・II を統合した 147,374 人を最長約 30 年追跡した解析で、週 90〜119 分の筋力トレーニングを行っていた群は、全死因死亡リスクが13%(ハザード比0.87、95%信頼区間0.81〜0.95)、心血管死亡が19%(同0.81、0.67〜0.97)、神経疾患による死亡が 27%(同 0.73、0.58〜0.92)低下していました。
注目すべきは、この効果が週 120 分を超えるとそれ以上伸びなかった点、つまり「多ければ多いほど良い」わけではないという点です。そしてもっとも死亡リスクが低かったのは、筋トレ単独でも有酸素運動単独でもなく、両者を併用していた群でした。有酸素運動を週 30〜45MET 時間行い、かつ筋トレを週 60〜119 分行っていた群のハザード比は 0.55——ほぼ半減です。この研究をとりあげた Medscape の記事(Carlson, 2026)でも、専門家が「筋トレが有酸素運動の効果を打ち消す」という、いわゆる干渉効果(interference effect)は一般の人においては過大に語られすぎており、実際には中立か、むしろ相乗的だと述べています。
しかも運動時間を倍にする必要はありません。2024 年に European Heart Journal 誌に発表された CardioRACE 試験(Lee et al., 2024)は、血圧高値を伴う過体重・肥満の成人 406 名を 1 年間追跡し、週 3 回・1 回 50 分という同じ総時間の枠内で、有酸素運動のみ、筋トレのみ、両者を 25 分ずつ組み合わせる併用群、対照群に無作為に割り付けました。心血管リスクの複合スコアは有酸素群(平均差−0.15)と併用群(同−0.16)で有意に改善し、筋トレ単独群では有意差がありませんでした。併用群は、有酸素運動の心血管ベネフィットを保ちながら、筋力という別の資産も同時に手にしたことになります。Medscape の記事によれば、米国では成人の約半数が有酸素運動の基準を満たす一方、筋力トレーニングの基準を満たす人は20%にとどまります。不足しているのは、多くの場合こちらです。

おわりに ― 「測る・整える・鍛える」の三本柱

ここまでの内容を整理します。食後の糖の行き先を決めるのは骨格筋という最大の受け皿であり、その働きが鈍った状態がインスリン抵抗性です(Richter et al., 2025)。それは 2 型糖尿病の発症より 10〜15 年先行して静かに進み、血糖値だけを見ていては捉えられません(Rodzeń et al., 2026)。炭水化物は量とともに質が問われ(Miller et al., 2024)、その調整は体重を落とさなくても膵臓の反応性を改善しうる一方(Gower et al., 2025)、受け皿である筋肉そのものが減れば同じ食事でも代謝は悪化します(Putranata et al., 2025)。そし
て筋力トレーニングは、わずか 6 週間で GLUT4 を約 40%増やし、受け皿を作り直す力を持っています。
実践としてお伝えしたいのは三つです。第一に「測る」。空腹時血糖と HbA1c だけでなく、空腹時インスリンや HOMA-IR、中性脂肪/HDL 比、そして体組成を確認すること。第二に「整える」。炭水化物をゼロにするのではなく精製度の低いものへ置き換え、主に植物性または魚介類でたんぱく質を体重 1kg あたり 1〜1.5g を目安に確保、睡眠時間を削らない、そして「鍛える」。週 150 分以上の有酸素運動に、週 90〜120 分・週 2〜3 回の筋力トレーニングを重ねること。この三つは、どれか一つでは完結しません。
まんかいメディカルクリニックでは、内科・内分泌の専門的な診療に加えて、InBody による体組成測定で筋肉量と体脂肪の推移を数値で追跡し、CT・超音波検査で内臓脂肪や脂肪肝の評価を行っています。運動療法、GLP-1 受容体作動薬を用いる場合にも筋肉量を守りながら減量を進める体制を整えています。日曜・祝日も診療しておりますので、平日にお時間の取りにくい方もご相談ください。「まだ糖尿病ではない」今こそ、いちばん手を打ちやすい時期です。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. 白いごはんやパンは、もう食べてはいけないのでしょうか。

禁止する必要はありません。問題になるのは主に「立ち上がりの鋭さ」です。PURE 研究(Miller et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2024)では、20 か国 127,594 人の解析でグリセミック・インデックスの高い食事パターンほど 2 型糖尿病の発症リスクが高く、その
関連は過体重・肥満の方でより明確でした。裏を返せば、同じ主食でも精製度の低いもの(玄米、雑穀、全粒粉パン)に置き換える、野菜やたんぱく質を先に食べる、といった工夫で血糖の上がり方はかなり変わります。まずは「減らす」より「替える・順番を変える」ことから始めるのが現実的です。

Q2. 糖質制限をしていれば、運動はしなくても大丈夫でしょうか。

残念ながら代わりにはなりません。炭水化物制限の 12 週間無作為化試験(Gower et al.,J Clin Endocrinol Metab 2025)では、膵 β 細胞の反応性は明確に改善した一方、インスリン感受性そのものには有意な変化がありませんでした。感受性を高めるのは主に筋肉
側の変化であり、これは運動でしか得にくいものです。食事は膵臓の負担を軽くし、運動は受け皿を広げる。役割が違うため、両輪で考えていただくのが最も効率的です。

Q3. 筋トレは週にどれくらいやればよいですか。有酸素運動とどちらを優先すべ
きでしょうか。

2026 年の British Journal of Sports Medicine 誌の研究(Zhang et al., 2026)は、147,374 人を約 30 年追跡し、週 90〜119 分の筋力トレーニングで全死因死亡リスクが 13%低下する一方、週 120 分を超えても上乗せの効果は見られなかったと報告しました。優先順位については、どちらか一方ではなく併用がもっとも有利です。有酸素運動を週 30〜45MET 時間、筋トレを週 60〜119 分行っていた群のハザード比は 0.55 でした。時間が限られている場合は、CardioRACE 試験(Lee et al., Eur Heart J 2024)のように 50 分を 25分ずつに分ける方法でも、有酸素単独と同等の心血管ベネフィットが得られています。

Q4. 健診で血糖値も HbA1c も正常でした。インスリン抵抗性の心配はないと考え
てよいですか。

正常値は安心材料ではありますが、除外の根拠にはなりません。Nutrients 誌の総説(Rodzeń et al., 2026)によれば、ブドウ糖負荷試験で正常型と判定された人の 54〜75%にインスリン分泌パターンの異常が認められ、インスリン抵抗性は2型糖尿病の発症に10
〜15 年先行します。血糖が正常なのは、膵臓が余分に働いて正常に「見せている」段階かもしれません。気になる方は、空腹時インスリン値や HOMA-IR、中性脂肪/HDL コレステロール比、体組成の測定をご相談ください。米国糖尿病学会の Standards of Care in
Diabetes—2026 も、生活習慣への早期介入を一貫して重視しています。

Q5. GLP-1 受容体作動薬(オゼンピック/ウゴービ、マンジャロなど)で減量する
と、筋肉も減りますか。

一定程度は減ります。2025 年の European Journal of Clinical Investigation 誌の総説(De Girolamo et al., 2025)によれば、GLP-1 受容体作動薬による減量では、失われる体重のうち除脂肪量が概ね 20〜40%を占め、STEP 1 試験で 9.7%、SURMOUNT-1 試験で 10.9%の除脂肪量減少が報告されています。ただしこれは薬をやめる理由ではなく、対策とセットで使う理由です。同総説は、禁忌がなければ体重 1kg あたり 1〜1.5g(高齢の方や併存疾患のある方はさらに多め)のたんぱく質摂取と、漸進的な筋力トレーニング、体組成
の定期的なモニタリングを併走させるよう勧めています。当院では InBody で筋肉量の推移を確認しながら治療を進めています。

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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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