病気と健康の話

【血糖値】「まだ予備群だから大丈夫」が一番危ない―糖尿病にならなくても、心臓・腎臓・脳は傷つき続けている―

はじめに ― 「経過観察」と言われたまま、何年経ちましたか

健康診断の結果表に「HbA1c 5.8 %」「空腹時血糖 108 mg/dL」と印字され、「糖尿病予備群ではありますが、甘いものには気をつけましょうね」と言われた経験はないでしょうか。多くの方はその言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろします。まだ糖尿病ではない、薬もいらない、来年また測ればよい――。しかし近年の欧米の研究が突きつけているのは、その「安心」こそが最も危険だという事実です。
2026 年 8 月に Nature Medicine 誌へ掲載されたドイツ・チュービンゲン大学の Birkenfeld教授らによる Perspective 論文は、糖尿病予防の考え方そのものを書き換えるものでした(Wang et al., Nat Med 2026)。彼らは、予備群(中間高血糖)は糖尿病の「前段階」という独立した状態ではなく、正常血糖から糖尿病へと連続的に進む道のりの途中であり、しかもその道のりは妊娠期・小児期・更年期といった人生の節目でリスクが積み上がっていく「ライフコースの現象」であると整理しました。そのうえで予防の目標を、従来の「糖尿病発症の先送り」から「予備群の寛解、すなわち正常血糖への回復」へと移すべきだと提言しています。
さらに 2025 年に Diabetologia 誌へ発表された米国 ARIC 研究の 30 年追跡は、より直接的な警告を発しました。予備群の方に生じる動脈硬化性心血管疾患・心不全・慢性腎臓病・死亡といった超過リスクのうち、実に約 85%が「糖尿病に進行しなくても」残存していたのです(Rooney et al., Diabetologia 2025)。「糖尿病にならなければセーフ」という前提そのものが、データによって否定されたことになります。
本コラムでは、欧州と米国の最新論文を手がかりに、なぜ予備群で安心してはいけないのか、そして何をすれば血管と臓器を守れるのかを、具体的な数字とともに整理します。読み終えるころには、「経過観察」という言葉の意味が変わっているはずです。

1.「予備群」という言葉が生む錯覚 ― 線引きは連続体の途中にすぎ
ない

日本で「糖尿病予備群」と呼ばれる状態は、国際的には prediabetes あるいはintermediate hyperglycaemia(中間高血糖)と表現されます。米国糖尿病学会(ADA)の基準では、空腹時血糖 100〜125mg/dL(空腹時血糖異常)、75g 経口ブドウ糖負荷試験の 2 時間値
140〜199mg/dL(耐糖能異常)、HbA1c 5.7〜6.4%のいずれかに該当する状態を指します(ADA,Diabetes Care 2026)。問題は、この数値の線引きが「病気か健康か」を分ける生物学的な壁ではないという点です。
Nature Medicine 誌の Perspective は、閾値に基づく二分法が「集団ごとに異なるリスクを覆い隠し、リスクを累積的・段階的なものではなく二者択一のものとして扱わせ、行動を遅らせる」と明確に指摘しています(Wang et al., Nat Med 2026)。血糖値が基準の 1mg/dL 下にある人と 1mg/dL 上にある人の血管に、生物学的な違いはありません。
しかも予備群は決して珍しい状態ではありません。2025 年に Nature Reviews DiseasePrimers 誌に掲載された総説は、予備群を「多様な病態が混在する不均一な集団」と位置づけ、インスリン抵抗性が主体の人、膵 β 細胞の分泌不全が主体の人、脂肪肝を伴う人など、進行の速さも合併症の出方も大きく異なることを強調しています(Unnikrishnan et al.,Nat Rev Dis Primers 2025)。「予備群」という一語に押し込められた集団の中には、10 年後も何も起こらない人と、数年で糖尿病と心血管疾患に至る人が同居しているのです。

2.糖尿病にならなくても臓器は傷む ― ARIC 研究 30 年追跡の衝撃

予備群の危険性を最も鮮烈に示したのが、前述の米国 ARIC(Atherosclerosis Risk inCommunities)研究です。ジョンズ・ホプキンス大学の Rooney らは、中年期の成人 10,310 人を 1990 年から 2020 年までの 30 年間にわたって追跡しました(Rooney et al., Diabetologia2025)。参加者のうち約 60%がベースラインで予備群に該当していましたが、30 年の追跡でその後に糖尿病を発症したのは約 30%にとどまりました。
ここから先が本題です。研究チームは「予備群に伴う合併症リスクのうち、どれだけが“糖尿病に進行したこと”で説明できるのか」を統計学的に分解しました。結果は、動脈硬化性心血管疾患では超過リスクの 81%、心不全では 76%、慢性腎臓病では 80%、総死亡では 78%が、糖尿病への進行を考慮しても説明しきれずに残存していました。あらゆる合併症をまとめた解析では、超過リスクの 85%(95%信頼区間 75〜94%)が残ったのです。
著者らの結論は明快です。「糖尿病への進行は、予備群に関連する臨床アウトカムのリスクの 4 分の 1 未満しか説明しない」。言い換えれば、予備群の段階ですでに血管内皮・腎糸球体・心筋への傷害が始まっており、その進行は「糖尿病になるかどうか」とは半ば独立して続いているということです。糖尿病の診断がつくのを待ってから治療を始めるという発想は、この時点で時代遅れになりました。

3.数字で見る予備群のリスク ― 欧州のアンブレラレビューが示した
全体像

個々の研究ではなく、既存のメタ解析を横断的に統合した「アンブレラレビュー」という手法があります。ドイツ糖尿病センター(DDZ)の Schlesinger らは、前向き研究のメタ解析を網羅的に統合し、予備群と各種アウトカムの関連を定量化しました(Schlesinger et al.,Diabetologia 2022)。
正常血糖の方と比較した予備群の相対リスクは、総死亡で約8〜25%の上昇、心血管疾患で約6〜39%の上昇、慢性腎臓病で約 10〜25%の上昇、認知症で約 18〜47%の上昇、がん全体で約11〜25%の上昇でした。幅があるのは、予備群を空腹時血糖で定義するか、負荷後 2 時間値で定義するか、HbA1c で定義するかによって集団の性質が変わるためで、一般に耐糖能異常(負荷後高血糖)で定義した場合にリスクが高く出る傾向があります。
注目すべきは、リスク上昇が心臓と腎臓にとどまらない点です。認知症とがんという、糖尿病とは一見無関係に思える領域まで、予備群の段階でリスクが立ち上がっています。慢性的な高インスリン血症、軽度の慢性炎症、終末糖化産物の蓄積といった機序が、血糖値が「基準内」に見える段階から静かに全身へ作用していると考えられています。もちろん、これらの相対リスクは糖尿病そのものと比べれば小さいものです。しかし予備群に該当する人の数は糖尿病患者よりはるかに多く、社会全体で見たときの影響はむしろ大きくなります。

4.空腹時血糖が正常でも安心できない ― 1 時間値 155mg/dL という新
しい警告

「健診では空腹時血糖も HbA1c も正常だったから問題ない」――この判断にも、実は落とし穴があります。日本の一般的な健診は空腹時採血が中心であり、食後(負荷後)の血糖上昇を評価する機会がほとんどありません。ところが、耐糖能異常は空腹時血糖が正常なまま進行することが珍しくないのです。Nature Medicine 誌の Perspective も、「HbA1c のみに依存することは中間高血糖の判定には不十分であり、経口ブドウ糖負荷試験を行わなければ多くの耐糖能異常例が見逃され、予防と介入の機会が失われる」と明記しています(Wang et al.,Nat Med 2026)。
この問題に対して国際糖尿病連合(IDF)は 2024 年、22 か国の専門家 22 名からなるパネルによるポジションステートメントを発表しました(Bergman et al., Diabetes Res Clin Pract2024)。そこで提案されたのが、75g 経口ブドウ糖負荷試験の「1 時間値」を用いる方法です。
1 時間値 155mg/dL(8.6mmol/L)以上を中間高血糖、209mg/dL(11.6mmol/L)以上を 2 型糖尿病と判定するという基準で、従来の空腹時血糖や 2 時間値、HbA1c よりも早期かつ高感度に将来の糖尿病リスクを検出できると報告されています。
実際、1 時間値の上昇は膵 β 細胞機能の低下をより鋭敏に反映するとされ、前述の NatureMedicine 論文も、IDF の 1 時間値を組み込んだ「段階分類(staging)」の導入を提言のひとつに挙げています。空腹時血糖が 98mg/dL、HbA1c が 5.6%で「異常なし」と判定された方の中に、負荷後 1 時間で 180mg/dL まで跳ね上がる「隠れ予備群」が確実に存在します。血縁者に糖尿病の方がいる、妊娠糖尿病の既往がある、内臓脂肪が多い、といった心当たりがある場合には、負荷試験による評価を検討する価値があります。

5.予備群は一生ものではない ― 「寛解」という新しいゴール

ここまで警告を続けてきましたが、最新の研究が明らかにしたもう一つの事実は、はるかに希望に満ちたものです。予備群は、正常血糖へ戻すことができる。そしてその「寛解(remission)」には、確かな臨床的価値があるということです。
2026 年に Lancet Diabetes & Endocrinology 誌へ発表された研究は、米国の DiabetesPrevention Program Outcomes Study(DPPOS)と中国の Da Qing 研究という、糖尿病予防研究の二大コホートを事後解析したものです(Vazquez Arreola et al., Lancet DiabetesEndocrinol 2026)。DPPOS の 20 年追跡では、予備群から正常血糖へ寛解した群の心血管死または心不全入院の発生率は 1000 人年あたり 1.74 件であったのに対し、寛解しなかった群では 4.17 件でした。各種因子で調整したハザード比は 0.41(95%信頼区間 0.20〜0.84)、すなわち約 6 割のリスク低下です。Da Qing 研究でもハザード比 0.49(0.28〜0.84)と、ほぼ同じ
方向の結果が再現されました。追跡期間中のいずれかの時点で寛解を達成した人をまとめた解析では、ハザード比 0.43(0.29〜0.63)でした。
重要なのは、これが「糖尿病発症を遅らせた」という代理指標ではなく、心血管死と心不全という硬いアウトカムで示された点です。だからこそ Nature Medicine 誌の Perspective は、予備群の寛解を糖尿病予防の中心的なエンドポイントに据えるべきだと主張しています(Wang et al., Nat Med 2026)。ただし著者らは同時に、その寛解が一時的な数値の正常化ではなく、生物学的に意味のある持続的なものでなければならないとも釘を刺しています。

6.体重が減らなくても血糖は正常に戻る ― 2025 年 Nature Medicine
の発見

「結局は痩せろということでしょう」と感じた方に、ぜひ知っていただきたい研究があります。2025 年 10 月に Nature Medicine 誌へ発表されたドイツの前向き介入研究は、従来の常識をくつがえしました(Sandforth et al., Nat Med 2025)。
研究チームは、1 年間の生活習慣介入を受けた予備群のうち「体重が減らなかった、あるいは増えた」234 人に注目しました。この体重非減少群のうち 51 人(21.8%)が、空腹時血糖100mg/dL 未満・負荷後 2 時間値 140mg/dL 未満・HbA1c 5.7%未満という厳格な基準を満たす「予備群の寛解」を達成していたのです。そしてこの群では、約 10 年間の追跡で 2 型糖尿病発症の相対リスクが非寛解群と比べて 71%低下していました。体重減少によって寛解した群の 73%という数字と、ほぼ同等です。
寛解した人としなかった人を分けていたのは、体重計の数字ではなく、インスリン感受性の改善、インスリン分泌能の回復、そして脂肪の「置き場所」の変化でした。寛解群では、体重が増えていても内臓脂肪ではなく皮下脂肪に脂肪が蓄積される傾向があったのです。体重が落ちなくても、運動によって筋肉のインスリン感受性が上がり、内臓脂肪と肝臓脂肪が減れば、血糖は正常へ戻りうる――これは「体重が落ちないから運動をやめてしまった」という多くの方にとって、決定的に重要なメッセージです。当院で運動療法に力を入れているのは、まさにこの機序を臨床で活かすためです。

7.リスクは人生をかけて積み上がる ― 妊娠・小児期・更年期という
分岐点

Nature Medicine 誌の Perspective が提示したもう一つの重要な視点が、「ライフコース累積型の糖尿病リスク」という枠組みです(Wang et al., Nat Med 2026)。2 型糖尿病のリスクは中年期に突然生まれるのではなく、受胎前・妊娠期・産後・小児期・青年期・中年期という各段階で、代謝の脆弱性が高まる「窓」を通過しながら積み上がっていくという考え方です。
妊娠糖尿病はその代表例です。妊娠中の高血糖は母体のその後の 2 型糖尿病リスクを大きく高めるだけでなく、子宮内環境を通じて子どもの将来の肥満・糖尿病リスクにも影響します。
同論文は、母体の高血糖曝露が児の視床下部の構造や機能に変化をもたらすという知見にも触れています。             産後の耐糖能評価が「一度正常なら終わり」ではなく、生涯にわたるフォローアップの起点であるべき理由がここにあります。中年以降では、ホルモン環境の変化が新たな分岐点となります。女性では閉経に伴うエストロゲンの低下とアンドロゲンの相対的上昇により、内臓脂肪が増加しやすくなります。同論文は、この内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性の主要な駆動因子であり、その代謝的悪影
響は男性より女性で強く現れること、さらに EPIC-InterAct 研究で早発閉経と短い生殖可能期間が 2 型糖尿病リスクを高めることが示されたことを紹介しています。「体重は昔と変わっていないのに健診の血糖値だけ上がってきた」という 40 代後半から 50 代の訴えには、こうした背景があります。体重ではなく体組成、とりわけ内臓脂肪量を評価することが重要になる所以です。

8.何をすればよいのか ― 2026 年の欧米ガイドラインが示す実践

第一の柱は、依然として生活習慣です。ADA の「Standards of Care in Diabetes—2026」は、予備群の方に対し、体重の 7%程度の減量と週 300 分の中等度強度の身体活動を目標とする構造化された生活習慣プログラムを推奨しています(ADA, Diabetes Care 2026)。2026 年版では、2 型糖尿病予防に有効な食事パターンとして地中海食や低炭水化物食に関する記載が拡充されました。加えて、一定の条件を満たす方(特に若年、高度肥満、妊娠糖尿病既往のある方など)へのメトホルミン使用も選択肢として位置づけられています。
第二の柱は、血糖以外のリスクを同時に管理することです。2026 年 6 月に発表されたAHA/ACC/ADA/ASN 合同の「心血管・腎臓・代謝(CKM)症候群ガイドライン」は、肥満・脂質異常・高血圧・腎機能低下・血糖異常を切り離さず、CKM ステージ 0〜4 という一つの連続体として捉えることを求めています(Ndumele et al., Circulation 2026)。ガイドラインはPREVENT 式による 10 年・30 年心血管リスクの推定を推奨し、BMI と腹囲による評価、腎機能検査の定期的実施、そしてステージの進行防止と「後退(regression)」の促進を明確な治療目標に据えました。予備群と言われた時点で、血圧・脂質・尿蛋白・腎機能・肝臓の脂肪を同時に点検すべき理由がここにあります。
第三の柱は、薬物療法という新たな選択肢です。SURMOUNT-1 試験の 3 年間の成績は NewEngland Journal of Medicine 誌に報告され、肥満または過体重を伴う予備群の成人において、チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)投与群の 176 週時点での 2 型糖尿病発症率は 1.3%で、プラセボ群の 13.3%と比べてハザード比 0.07、実に約 93%の相対リスク低下でした(Jastreboff et al., N Engl J Med 2025)。体重減少率も最高用量で 19.7%(プラセボ1.3%)に達しています。ただし、これは肥満を伴う方を対象とした試験であり、すべての予備群の方に薬物療法が必要という意味ではありません。誰に、いつ、どの手段を用いるかを見極めることこそが、Nature Medicine 誌の Perspective が説く「精密予防(precisionprevention)」の核心です。

おわりに ― 「予備群」は待つ期間ではなく、取り戻せる期間です

本コラムで確認してきたことを整理します。予備群の段階ですでに心臓・腎臓・脳への傷害は始まっており、その超過リスクの約 85%は糖尿病に進行しなくても残ります(Rooney etal., Diabetologia 2025)。総死亡・心血管疾患・慢性腎臓病・認知症・がんのリスクはいずれも上昇しています(Schlesinger et al., Diabetologia 2022)。一方で、正常血糖への寛解を達成できれば心血管死・心不全入院のリスクは約 6 割減少し(Vazquez Arreola et al.,Lancet Diabetes Endocrinol 2026)、その寛解は体重が減らなくても達成しうるものです(Sandforth et al., Nat Med 2025)。
つまり「予備群」とは、糖尿病になるのを待つ期間ではありません。正常な代謝を取り戻せる、限られた、しかし確かな機会の窓です。そしてその窓は、年齢とともに少しずつ狭くなっていきます。
まんかいメディカルクリニックでは、CT・超音波による内臓脂肪計測と脂肪肝の評価、CGM装着による食後高血糖の検出、腎機能・尿中アルブミン・脂質・血圧を含めた CKM(心血管・腎臓・代謝)の包括的な評価を行っています。また、GLP-1RA と併用する運動療法を、健康運動指導士指導の管理下に行っております。日曜・祝日も診療しておりますので、平日にお時間の取れない方もご相談いただけます。健診結果に「要経過観察」「境界型」と書かれていた方は、次の健診を待たずに、一度ご相談ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. HbA1c が 5.8%で「予備群」と言われましたが、薬は不要と説明されました。本
当に何もしなくてよいのでしょうか。

薬が不要であることと、何もしなくてよいことは同じではありません。米国 ARIC 研究の30 年追跡では、予備群に伴う心血管疾患・心不全・慢性腎臓病・死亡の超過リスクのうち約 85%が、糖尿病へ進行しなくても残存していました(Rooney et al., Diabetologia
2025)。この段階で必要なのは薬ではなく、体重の 7%程度の減量と週 150 分以上の身体活動を軸とした構造化された生活習慣介入であり、これは ADA の 2026 年版ガイドラインでも明確に推奨されています(ADA, Diabetes Care 2026)。同時に、血圧・脂質・腎機能・
脂肪肝といった併存リスクの点検も行うべき時期です。

Q2. 「糖尿病にならないようにする」ことが目標だと思っていました。それでは不
十分なのですか。

不十分である可能性が高い、というのが最新の考え方です。2026 年に Nature Medicine 誌へ掲載された Perspective は、予防の目標を「糖尿病発症の回避」から「予備群の寛解、すなわち正常血糖の回復」へ移すべきだと提言しています(Wang et al., Nat Med 2026)。
実際、正常血糖へ寛解した方では心血管死または心不全入院のハザード比が 0.41〜0.49と、約半分から 6 割のリスク低下が示されています(Vazquez Arreola et al., LancetDiabetes Endocrinol 2026)。診断基準のすぐ下に留まり続けることと、正常域まで戻すことでは、血管が受ける恩恵が異なるのです。

Q3. 健診では空腹時血糖も HbA1c も正常でした。それでも検査が必要なことはあり
ますか。

あります。耐糖能異常は空腹時血糖が正常のまま進行することが多く、Nature Medicine誌の Perspective も、HbA1c のみに依存すると多くの耐糖能異常例が見逃されると警告しています(Wang et al., Nat Med 2026)。国際糖尿病連合は 2024 年、75g 経口ブドウ糖負荷試験の 1 時間値を用い、155mg/dL 以上を中間高血糖、209mg/dL 以上を 2 型糖尿病と判定する基準を提唱しました(Bergman et al., Diabetes Res Clin Pract 2024)。ご家族に糖尿病の方がいる、妊娠糖尿病の既往がある、腹囲が大きい、脂肪肝を指摘されたこと
があるといった場合は、負荷試験による評価をご検討ください。

Q4. 運動も食事も頑張っていますが体重が減りません。意味がないのでしょうか。

決して意味がないということはありません。2025 年に Nature Medicine 誌へ発表された研究では、1 年間の介入で体重が減らなかった、あるいは増えた 234 人のうち 51 人(21.8%)が予備群の寛解を達成し、その後約 10 年間の 2 型糖尿病発症リスクが 71%低下し
ていました(Sandforth et al., Nat Med 2025)。体重減少によって寛解した方の 73%とほぼ同等の効果です。鍵を握っていたのは体重計の数字ではなく、インスリン感受性の改善と、内臓脂肪ではなく皮下脂肪へ脂肪が振り分けられるという体組成の変化でした。
体重が動かない時期こそ、運動を止めないことに価値があります。

Q5. GLP-1 受容体作動薬やチルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)は、予備群の
段階でも使えますか。

肥満を伴う予備群の方に限れば、エビデンスは非常に強力です。SURMOUNT-1 試験の 3 年成績では、176 週時点の 2 型糖尿病発症率がチルゼパチド群 1.3%、プラセボ群 13.3%(ハザード比 0.07)と、約 93%の相対リスク低下が示されました(Jastreboff et al., N Engl
J Med 2025)。ただし、これは肥満または過体重を伴う方を対象とした試験であり、すべての予備群の方に適応があるわけではありません。消化器症状などの副作用、費用、そして中止後の体重再増加も考慮が必要です。まずは生活習慣と CKM リスクの包括評価を行
い、そのうえで個別に適応を判断することをおすすめします(Ndumele et al.,Circulation 2026)。

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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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