病気と健康の話

【尿酸値】尿酸の二つの顔 ―“溶けている尿酸”と“結晶化した尿酸”が心臓・血管に与える正反対の影響―

はじめに ―「尿酸値が高い」と言われたことはありませんか?

健康診断で「尿酸値が少し高いですね」と言われたものの、痛風発作もないし特に症状もないので、そのままにしている―そんな方は少なくありません。尿酸というと「足の親指が腫れて痛む病気(痛風)の原因」というイメージが強く、関節の問題として語られがちです。しかし近年、尿酸という物質は一つの顔だけを持つのではなく、“血液に溶けている状態”と“結晶になって組織に沈着した状態”という、性質のまったく異なる二つの顔を持つことがわかってきました。
この二つの顔は、心臓や血管に対してもそれぞれ違う影響を及ぼしています。2026年にJACC Asia誌に発表されたKojimaらの総説は、尿酸を単なる「代謝の指標」ではなく、血管の壁で炎症を引き起こす「結晶」という視点から捉え直す“血管痛風”という新しい概念を提示しました(Kojimaら, 2026)。痛風の総説(Dalbethら, Lancet 2021)でも、尿酸結晶が引き起こす炎症の重要性が繰り返し強調されています。本コラムでは、“溶けている尿酸”と“結晶化した尿酸”の違いを軸に、なぜ尿酸値を下げるだけでは心臓病を防げなかったのか、そして今わかってきた「炎症」という新しい治療標的について、最新のエビデンスをもとにわかりやすく解説します。

尿酸とは何か 「悪玉」だけではない物質

尿酸は、細胞の新陳代謝やプリン体(肉・魚・アルコールなどに多く含まれる成分)が分解される過程で生じる、いわば「代謝の最終産物」です。ヒトは進化の過程で尿酸を分解する酵素(ウリカーゼ)を失ったため、他の多くの動物より血液中の尿酸濃度が高く保たれています。これは一見不利に思えますが、尿酸は血液中で強力な「抗酸化物質」として働き、血漿の抗酸化能の大きな部分を担っているとされます(Kojimaら, 2026)。つまり尿酸は、本来は身体を守る役割も持っている物質なのです。
一方で、尿酸が過剰になり血液に溶けきれなくなると、針状の「結晶(尿酸ナトリウム結晶=MSU結晶)」となって関節や組織に沈着します。この結晶が引き金となって起こる激しい炎症が、痛風発作です(Dalbethら,2021)。同じ尿酸でも、溶けているときと結晶になったときでは、身体への作用がまるで別物になります。だからこそ、尿酸を「善玉か悪玉か」と一面的に捉えるのではなく、“どの状態にあるか”で考えることが、心臓・血管への影響を理解する鍵になります。

溶けている尿酸(soluble urate) 表と裏の顔

血液に溶けている尿酸(soluble urate)は、前述のとおり血漿中では抗酸化物質として振る舞います。ところが、同じ尿酸が細胞の中に取り込まれると、今度は一転して「酸化ストレス」を生み出し、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの働きを妨げることが実験的に示されています(Kojimaら, 2026)。血管の内側を覆う「内皮細胞」では、尿酸によって血管を広げる物質(一酸化窒素)の産生が抑えられ、血管がしなやかに拡張しにくくなる「内皮機能障害」が起こります。これは動脈硬化の初期段階と考えられています。
溶けている尿酸は、高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満・慢性腎臓病といった生活習慣病としばしば同時に存在します。そのため、尿酸値の高さが心臓病の「原因」なのか、それとも他の病気に伴って上がる「結果(指標)」に過ぎないのかは、長年議論が続いてきました。遺伝情報を使って因果関係を検証するメンデルランダム化研究でも結論は一致しておらず、“溶けている尿酸”が単独でどれだけ心臓病を引き起こすかは、まだ完全には決着していません(Kojimaら, 2026)。この“はっきりしなさ”こそが、次に述べる「結晶」という視点が注目される背景となっています。

結晶化した尿酸(MSU結晶) 血管に沈着する「血管痛風」

従来、尿酸の結晶(MSU結晶)は関節やその周囲だけに溜まると考えられてきました。ところが、二種類のエネルギーのX線を使って結晶の成分を見分けられる特殊なCT検査(デュアルエナジーCT=DECT)の登場により、この常識が覆されました。痛風患者を対象とした研究では、心臓や大血管に尿酸結晶の沈着が実に86.4%で認められ、痛風のない人(14.9%)より明らかに高頻度でした。心臓を養う冠動脈に限っても、痛風患者の32.2%で結晶が検出されています(Klauserら, JAMA Cardiol 2019)。尿酸結晶は、関節だけでなく血管の壁にも沈着しているのです。
血管の壁に溜まった結晶は、なぜ問題なのでしょうか。結晶は「NLRP3インフラマソーム」と呼ばれる免疫のスイッチを押し、炎症性物質であるインターロイキン-1β(IL-1β)を放出させます。これが動脈硬化の“プラーク(こぶ)”を不安定にし、破れやすくすることで、心筋梗塞や脳梗塞につながると考えられています。興味深いことに、動脈硬化ではもともとコレステロールの結晶が同じ免疫スイッチを押すことが知られており(Yalcinkaya & Tall, Curr Atheroscler Rep 2025)、尿酸結晶はそこに加わる“もう一つの結晶”として炎症を増幅している可能性があります。小島らはこの状態を“血管痛風”―血管の中で静かに進む痛風―と呼び、動脈硬化の一側面として捉え直すことを提案しています(Kojimaら, 2026)。

なぜ尿酸を下げても心臓病が減らなかったのか

「尿酸が心臓に悪いなら、薬で下げれば心臓病も防げるはず」―この自然な発想は、大規模な臨床試験で検証されました。しかし結果は期待どおりではありませんでした。英国で虚血性心疾患の患者約5,700人を対象に、尿酸を下げる薬アロプリノールを検証したALL-HEART試験では、心血管イベントを有意に減らすことはできませんでした(Mackenzieら,Lancet 2022)。尿酸値そのものは下がっても、心臓を守る効果ははっきり示されなかったのです。
なぜでしょうか。小島らはその理由の一つとして、“血液の尿酸値を下げても、すでに血管の壁に沈着した結晶はすぐには溶けない”可能性を挙げています(Kojimaら, 2026)。関節では時間をかけて結晶が消えていきますが、血管という特殊な環境で同じことが起こるかは未解明です。実際、日本で行われたFREED試験(高尿酸血症の高齢者を対象)ではフェブキソスタットが腎・心血管の複合イベントを減らしましたが、その追加解析では、炎症の指標(hsCRP)が治療群と非治療群で変わらず、尿酸を下げても炎症は必ずしも抑えられていなかったことが示されました。「尿酸値を下げること」と「炎症を抑えること」は、イコールではないのです。

炎症こそ標的 CANTOS・COLCOT・LoDoCo2の教訓

尿酸を下げるだけでは不十分だとすれば、では何を抑えればよいのか。近年の心臓病研究が指し示す答えが「炎症」です。CANTOS試験では、IL-1βそのものを抑える抗体薬カナキヌマブを心筋梗塞後の患者に投与したところ、コレステロール値を下げなくても主要な心血管イベントが有意に減少しました(HR 0.85、95%信頼区間0.74〜0.98)(Ridkerら, N Engl J Med 2017)。動脈硬化が「コレステロールの病気」であると同時に「炎症の病気」でもあることを、初めて臨床で証明した画期的な研究です。
さらに注目すべきは、痛風発作の治療薬として古くから使われてきた「コルヒチン」です。心筋梗塞後の患者を対象としたCOLCOT試験では、低用量コルヒチン(0.5mg/日)が心血管イベントを約23%減らし(HR 0.77、95%信頼区間0.61〜0.96)(Tardifら, N Engl J Med 2019)、慢性冠動脈疾患を対象としたLoDoCo2試験でも約31%の減少が示されました(HR 0.69、95%信頼区間0.57〜0.83)(Nidorfら, N Engl J Med 2020)。コルヒチンはもともと尿酸結晶による炎症を鎮める薬です。その薬が心臓病にも効いたという事実は、“結晶が引き起こす炎症”という共通のメカニズムが、痛風と動脈硬化をつないでいる可能性を強く示唆しています。

無症状高尿酸血症をどう考えるか 「沈黙の結晶」

ここで問題になるのが、痛風発作を一度も起こしていないのに尿酸値だけが高い「無症状高尿酸血症」の扱いです。前述のDECT研究では、痛風の症状がない人でも、関節や血管に尿酸結晶が“沈黙して”沈着している例が確認されています(Klauserら, 2019;Kojimaら, 2026)。症状がないこと(=結晶がないこと)とは限らないのです。小島らは、無症状高尿酸血症を、結晶が徐々に蓄積していく“血管痛風の前段階”と捉える視点を提示しています。
では、無症状なら治療すべきか。欧米と日本で、考え方が分かれます。米国リウマチ学会(ACR)の2020年ガイドラインや欧州(EULAR)の推奨は、症状のない高尿酸血症に対して一律の薬物治療を勧めておらず、まず生活習慣の改善を基本としています(FitzGeraldら, 2020;Richetteら, 2017)。一方、日本のガイドラインは、尿酸値が8.0mg/dL以上で心血管リスクや腎臓病を併せ持つ場合には、生活改善に加えて薬物治療を検討するとしています(Kojimaら,2026)。大切なのは、一つの数値だけで機械的に判断するのではなく、その人の心臓・腎臓のリスク全体を見て、必要性を個別に見きわめることです。

実践的アプローチ 私たちにできること

尿酸との付き合い方の基本は、まず生活習慣にあります。プリン体の多い食事やアルコール(特にビール)の取りすぎを控え、糖分の多い清涼飲料を減らし、適正体重を保ち、水分をしっかりとること。これらは尿酸値を下げるだけでなく、しばしば併存する高血圧・糖尿病・脂質異常症といった“動脈硬化の土壌”そのものを改善します(FitzGerald,2020;Dalbethら,2021)。適度な有酸素運動は、体重・血圧・血糖を通じて心血管リスクを総合的に下げる、いわば「治療そのもの」です。
そのうえで、尿酸値が高いと指摘された方は、痛風発作の有無だけで安心せず、血圧・血糖・脂質・腎機能・そして動脈硬化の状態を含めて総合的に評価することが大切です。当院では、CTや超音波による血管・臓器の評価、血液検査による炎症・代謝の総合的なチェック、そして運動療法まで、生活習慣病を「点」ではなく「面」で診る体制を整えています。尿酸値が気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。

おわりに 数値の先にある「結晶と炎症」を診る

尿酸には、血液に“溶けている”抗酸化物質としての顔と、組織に“結晶化して”炎症を引き起こす顔という、正反対の二面性があります。尿酸値を下げるだけの治療が心臓病を十分に防げなかった一方で、炎症を標的としたCANTOS・COLCOT・LoDoCo2といった試験が心血管イベントを減らしたという事実は、私たちが見るべきものが「尿酸値という数字」の先にある“結晶と炎症”であることを教えてくれます(Kojimaら, 2026)。無症状であっても、血管の中で静かに進む変化があるかもしれません。健診で尿酸値を指摘された方は、痛風がないからと放置せず、心臓・血管・腎臓を含めた全体像を一度きちんと調べておくこと――それが、将来の心筋梗塞や脳梗塞を防ぐ確かな一歩になります。

FAQ よくあるご質問

Q1. 健康診断でコレステロールが「基準値内」なら、動脈硬化の心配はいりませんか?

基準値内であっても安心とは限りません。動脈硬化は「今の値」だけでなく「これまで血管がLDLコレステロールにさらされてきた総量」の影響を強く受けるためです。
Domanskiら(2020, JACC)は、若いころから長くLDLにさらされてきた人ほど、同じ値でも将来の心血管リスクが高いことを示しました。基準値ぎりぎりの高値を長年放置すると、少しずつ血管に負担が蓄積します。値が正常範囲でも、家族歴や他の危険因子があ
る場合は、より長い時間軸でリスクをとらえることが大切です。

Q2. 若い人でも動脈硬化の検査を受けたほうがよいのですか?

症状がなくても、若い世代の血管にすでに変化が始まっていることがあります。米国のCARDIA研究(Carrら, 2017)では、32〜46歳でも一定の割合で冠動脈の石灰化が見つかり、その人たちは将来の冠動脈疾患・死亡リスクが高いことが示されました。REACT研
究(Hasselbalchら, 2026)も18歳から対象に含めています。すべての若年者に画像検査が必要というわけではありませんが、家族に若くして心筋梗塞や脳梗塞を起こした方がいる、コレステロールや血圧が高めといった場合は、医師に相談して評価を検討する価値があります。

Q3. 動脈硬化は一度始まったら、もう止められないのですか?

必ずしもそうではありません。PESA研究の6年間の追跡(Mendietaら, 2023)では、症状のない中年世代のプラークが進行する人がいる一方で、一部では退縮(縮小)していたことが報告されています。その差を左右していたのが、LDLコレステロール・血圧・血
糖・喫煙といった管理可能な危険因子でした。早い段階で生活習慣を整え、必要に応じてLDLをしっかり下げることで、進行を抑え、場合によっては巻き戻せる可能性があります。「手遅れ」と決めつけず、できることから始めることが重要です。

Q4. 心血管リスクの計算で「低リスク」と言われました。安心してよいですか?

多くのリスク計算式は「今後10年間」の発症確率を推定しますが、若い世代ではこの短い期間だと数値が低く出やすく、実際には血管に変化が始まっていても「低リスク」と判定されることがあります(Hasselbalchら, 2026)。米国では2024年に、より長期(30
年)のリスクも見られる新しい計算式PREVENTが登場し(Khanら, 2024)、2025年の研究(Krishnanら, 2025)は同年代内での自分の位置づけから“隠れた高リスク”を可視化できると報告しています。10年という物差しだけで安心せず、長い時間軸で考えることをおすすめします。

Q5. 動脈硬化を防ぐために、まず何から始めればよいですか?

基本は、LDLコレステロール・血圧・血糖を適正に保ち、禁煙し、運動習慣を身につけることです。これらはPESA研究(Mendietaら, 2023)でプラークの進行・退縮を分けた要因でもあり、早く始めるほど効果が期待できます。2025年の欧州(ESC/EAS)ガイドライ
ンも、リスクに応じてLDLをより早く・低く保つ方針を示しています(ESC/EAS, 2025)。
まずは自分の数値と危険因子を正しく把握することが第一歩です。気になる方は、生活習慣の見直しや必要な検査について、かかりつけ医にご相談ください。

参考文献

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記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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