[GLP-1受容体作動薬]「やせ薬」の時代に、なぜ運動なのか
― マンジャロ・ウゴービで落ちるのは体重だけではない ―
はじめに ― 薬が効くほど、運動が大切になる時代
チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)やセマグルチド(オゼンピック/ウゴービ)といった
GLP-1 関連薬は、いまや糖尿病と肥満症の治療を一変させました。注射一本で体重が 15〜
25%も減る時代が現実になり、2026 年の米国糖尿病学会(ADA)では、3 つのホルモンに同時
に働くレタトルチド(retatrutide)が体重を平均 28.3%減らし、その約半数が手術に匹敵する
30%超の減量を達成したと報告されました(Abbasi/Kalyani, JAMA, 2026)。飲み薬の GLP-1 薬
オルフォルグリプロンも登場し、「やせ薬」は身近な選択肢になりつつあります。
ここで多くの方が考えます。「薬で体重が落ちるなら、これは楽だ。」しかし米国心臓協会
(AHA)は 2026 年の科学的声明で、運動は単なる減量の道具ではなく「心臓・代謝の治療」
そのものであり、GLP-1 薬を運動なしで単独使用することは推奨されないと明確に述べま
した(Anderer, JAMA, 2026)。本コラムでは、ADA2026 の最新動向、AHA 声明、そして運動
が筋肉から全身へ送る「メッセージ物質」マイオカインの総説(Aslam et al., Archives of
Pharmacal Research, 2026)をひもときながら、薬と運動を組み合わせることがなぜ重要なのか
を、エビデンスに基づいてわかりやすく解説します。
1. GLP-1 薬は何をしているのか ― 飛躍的に進む「やせ薬」
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、もともと私たちの腸から食後に分泌されるホルモンで、
インスリン分泌を促し、食欲を抑え、胃の動きをゆるやかにします。この働きを薬で強めた
のが GLP-1 受容体作動薬です。チルゼパチドは GLP-1 に加えて GIP という別のホルモンの
受容体にも同時に作用する「二重作動薬」で、SURMOUNT-1 試験では 72 週間で体重が平均
21.4%減少しました(Look et al., Diabetes Obes Metab, 2025)。
2026年の ADAでは、この流れがさらに加速していることが示されました。GLP-1・GIP・グ
ルカゴンの 3 受容体に働くレタトルチドは、糖尿病のない肥満の方で平均 28.3%、約 16.6kg
もの減量を達成しました(Abbasi/Kalyani, JAMA, 2026)。同会議では、セマグルチドにアミリ
ン類似薬カグリリンチドを組み合わせたカグリセマ(CagriSema)が、基礎インスリン使用者で
HbA1c を 8.8%から 6.5%へ下げ、最大 12%の減量を示したことも報告されています。薬の効
果はかつてないほど高まっているのです。
しかし、ここで見落としてはならない点があります。これらの試験で主に測られているのは
「体重」と「血糖」であり、減った重量の中身、すなわち脂肪と筋肉の内訳は、別に検証し
なければわからないということです。次章では、その「中身」に目を向けます。
2.減るのは脂肪だけではない ― 体重の約 4 分の 1 は筋肉
GLP-1 薬で体重が減るとき、失われるのは脂肪だけではありません。SURMOUNT-1 試験の
体組成サブ解析では、チルゼパチドで 72 週間に脂肪量が 33.9%減る一方、除脂肪量(その大
半は筋肉)も 10.9%減少し、減った体重のおよそ 25%が筋肉に由来していました(Look et al.,
Diabetes Obes Metab, 2025)。セマグルチドの STEP-1 試験でも、減った体重の約 4 割が除脂肪
量であったと報告されています(Neeland et al., Diabetes Obes Metab, 2024)。
このような筋肉量の低下を、単なる「適応的なリモデリング(体の作り替え)」とみなしてよ
いのか、それとも放置すべきでない問題なのかは、専門家の間でも議論が続いています
(Conte, Hall & Klein, JAMA, 2024)。減量に伴う筋肉減少が必ずしも機能低下に直結するわけ
ではないものの、もともと筋肉が少ない高齢者や、急速に大幅な減量をする方では、サルコ
ペニア(筋肉減少症)やフレイル(虚弱)のリスクが現実の懸念となります。
重要なのは、薬そのものが筋肉を狙って壊しているわけではないという点です。食欲が大き
く抑えられることでエネルギーとタンパク質の摂取が減り、それに運動不足が重なると、体
は筋肉を削ってしまう――これが筋肉減少の正体です。だからこそ、薬を使う時代にこそ、
運動とタンパク質摂取という「筋肉を守る側の対策」が欠かせないのです。
3. 筋肉は「沈黙の臓器」ではない ― マイオカインという全身への手紙
なぜ筋肉をそこまで守る必要があるのでしょうか。その答えは、近年の運動生理学が明らか
にした、筋肉の意外な「正体」にあります。骨格筋は体重の約 40%を占める最大の臓器であ
り、単に体を動かす収縮装置ではなく、運動するたびに数百種類もの生理活性物質を血中に
放出する「内分泌臓器」であることがわかってきました(Aslam et al., Archives of Pharmacal
Research, 2026)。
この筋肉由来のメッセージ物質を「マイオカイン(myokine)」と呼びます。マイオカインは、
肝臓・脂肪・骨・心臓・脳・腎臓といった離れた臓器へ手紙のように届けられ、糖や脂質の
代謝、炎症の制御、ミトコンドリア機能の維持を全身規模で調整します。代表的なものに、
インターロイキン 6(IL-6)、イリシン、FGF21、アペリン、マイオスタチンなどがあり、同総
説は 12 種類以上のマイオカインを、ヒトでの因果的証拠の強さに応じて 3 つの階層に整理
しています。
つまり運動は、脂肪を燃やすだけの行為ではありません。筋肉を動かすこと自体が、全身
の臓器に「健康を保て」という化学的な指令を送る営みなのです。薬は食欲や血糖には働
きかけますが、このマイオカインのネットワークを動かすことはできません。ここに、薬で
は代替できない運動独自の価値があります。
4. 運動が送る代表的なメッセージ ― IL-6・イリシン・FGF21・マイオスタチン
マイオカインの中で最もヒトでの証拠が確かなのが IL-6 です。運動時、収縮する筋肉から
放出される IL-6は血中濃度を一過性に最大 100倍まで高め、脂肪の分解と燃焼を促す「エネ
ルギーの配分役」として働きます。注目すべきは、IL-6 の受容体を薬で遮断すると運動によ
る内臓脂肪の減少が消えてしまったというランダム化比較試験の結果で、これは運動の代謝
メリットに IL-6 が因果的に関わる強い証拠とされています(Aslam et al., Archives of Pharmacal
Research, 2026)。なお同じ IL-6 でも、慢性的に高い状態は炎症と結びつくため、「一過性に
上がる」運動時の反応こそが有益である点が鍵です。
イリシンは、運動で誘導され、白色脂肪を熱を産生する「褐色様脂肪」へと変える働きを持
つマイオカインです。加齢とともに減少し、補充すると高齢動物のサルコペニア様の状態が
改善することが報告されています。FGF21 は肝臓を主な産生源としつつ筋肉からも分泌され、
脂肪燃焼や肝臓の脂肪化(MASLD)の改善に関わり、その類似薬は脂肪肝炎(MASH)や脂質異
常症の治療薬として臨床開発が最も進んでいる経路のひとつです。
もう一つ重要なのがマイオスタチンです。これは筋肉の成長を抑える「ブレーキ役」で、運
動はこのブレーキを緩めて筋肉を増えやすくします。興味深いことに、マイオスタチンを抑
える薬は筋肉量を増やしますが、運動を併用しないと必ずしも筋力や運動機能の向上につな
がらないことも報告されており(Aslam et al., 2026)、「量」を増やすだけでは不十分で、運動
による「質」の向上が不可欠であることを示しています。
5. AHA の新声明 ― 運動は「やせ薬」時代の心代謝治療である
2026 年、米国心臓協会(AHA)は肥満治療における身体活動の役割を再定義する科学的声明を
発表しました。その核心は「運動を単なる減量ツールから、心臓・代謝の治療へと捉え直す」
というメッセージです(Anderer, JAMA, 2026)。実際、運動には体重減少とは独立した心代謝
上の利点があります。有酸素運動は安静時血圧を下げ、HDL(善玉)コレステロールを増やし、
中性脂肪を減らし、心血管疾患と死亡の危険因子である心肺持久力を高めます。さらに筋力
トレーニングを組み合わせると、インスリン感受性の改善や HbA1c の低下により効果的と
されています。
声明はまた、運動だけでは大きな減量は得にくい一方で、たとえ体重が減らなくても健康は
確実に改善すると強調します。「体重が落ちなくても、運動は健康を改善する」「体重計の
数字よりもはるかに強力だ」という執筆者の言葉は、運動の本質を端的に表しています
(Anderer, JAMA, 2026)。だからこそ AHA は、GLP-1 薬を運動なしで単独使用することを明確
に戒め、薬・運動・必要に応じた手術を組み合わせる多面的アプローチを推奨しています。
ところが現実には、注意すべき所見も報告されています。700 人以上の肥満成人のウェアラ
ブル端末のデータでは、GLP-1 薬を開始した後、平均してかえって身体活動量が減っていた
のです(Anderer, JAMA, 2026)。薬で食欲が抑えられ体重が落ちると、「もう動かなくてよい」
と活動量が下がってしまう――この落とし穴こそ、薬の時代に最も警戒すべき点です。加え
て、肥満の方の筋肉はもともと脂肪が入り込んで質が低下していることが多く、運動はその
筋肉の「質」を高めることが知られています。薬を始めたときこそ、意識して体を動かす必
要があるのです。
6. 薬と運動を組み合わせるとどうなるか ― 臨床試験とガイドライン
理屈だけでなく、実際の臨床試験でも「薬+運動」の優位性は示されています。低カロリー
食で減量した肥満者を、プラセボ・運動・リラグルチド(GLP-1 薬)・運動+薬の 4 群に分けて
1 年間追跡したデンマークの試験(Lundgren et al., NEJM, 2021)では、運動と薬を組み合わせた
群が最も良好でした。体脂肪率の低下は併用群で 3.9 ポイントと、運動単独や薬単独のおよ
そ 2 倍に達し、減量の維持と健康指標の改善において併用が最も優れていたのです。
国際的な診療指針もこの方向を支持しています。米国糖尿病学会と欧州糖尿病学会
(ADA/EASD)の 2022 年合意報告は、薬物療法が進歩した現在でも、週 150 分の中強度運動、
週 2〜3 回の筋力トレーニング、1 日あたり 500 歩の上乗せ、長時間の座位の中断を、糖尿病
管理の柱として明確に推奨しています(Davies et al., Diabetologia, 2022)。AHA 声明も、米国の
身体活動ガイドライン(週 150 分の中強度または 75 分の高強度の有酸素運動に加え、週 2 回
の筋力強化)を基準としつつ、運動を始めたばかりの方ではより少ない量でも測定可能な健
康効果が得られると述べています(Anderer, JAMA, 2026)。
では、どう始めればよいのでしょうか。AHA は「アセス・アドバイス・アグリー・アシス
ト・アレンジ(評価・助言・合意・支援・計画)」という 5A モデルと、具体的・測定可能・
達成可能・適切・期限つきの「SMART」目標を勧めています。階段を数回上る、目的地か
ら少し離れた場所に駐車する、座る時間を区切る――こうした小さな工夫の積み重ねが出発
点になります。歩数計やスマートウォッチで活動量を「見える化」することも、継続の助け
になります(Anderer, JAMA, 2026)。
7. 筋肉を守ることは「長生き」を守ること ― 数字で見るリスク
筋肉量と筋力は、見た目や体力の問題にとどまらず、生命予後そのものに直結します。28
か国の超高齢者を対象とした大規模コホート研究では、握力が弱いことが全死亡リスクの上
昇と段階的に関連することが示されました(Andersen et al., J Cachexia Sarcopenia Muscle, 2024)。
筋力は、その人がどれだけ自立して長く生きられるかを映す鏡なのです。
運動量と寿命の関係も、数多くの研究で一貫しています。歩数と死亡率の用量反応メタ解析
では、1 日約 2,500〜2,700 歩という少ない歩数でも全死亡が約 8%、心血管リスクが約 11%
低下し、1 日約 8,800 歩あたりで全死亡リスクが約 60%減少する地点に達することが示され
ています(Stens et al., JACC, 2023)。「たくさん運動しなければ意味がない」のではなく、少
しの運動から確実に効果が積み上がるのです。
GLP-1 薬で大幅に減量できる時代だからこそ、その減量を「脂肪は減らし、筋肉は守る」質
の高いものにできるかどうかが、10 年後・20 年後の健康寿命を左右します。薬で体重とい
う数字を下げるだけでなく、運動で筋肉という資産を守る――この両輪こそが、これからの
体重管理の標準形といえます。
おわりに ― 薬は「土台」、運動は「設計図」
マンジャロやウゴービは、これまで困難だった減量を実現する強力な味方です。しかしその
効果が高いほど、失われる筋肉を守る対策の重要性も増します。減った体重の約 4 分の 1 は
筋肉であり(Look et al., 2025)、その筋肉は全身にマイオカインという健康の指令を送る臓器
でもあります(Aslam et al., 2026)。AHA が述べるように、運動は「やせるための道具」では
なく、それ自体が心臓と代謝の治療なのです(Anderer, JAMA, 2026)。薬が代謝の「土台」を
整えるなら、運動はその上に健やかな体を築く「設計図」です。両者を組み合わせることが
最も良い結果につながることは、臨床試験でも繰り返し示されています(Lundgren et al.,
2021)。
まんかいメディカルクリニックでは、GLP-1 プログラムと、指定運動療法施設における健康
運動指導士指導の下の運動療法、体組成測定、「脂肪を減らし、筋肉を守る」体重管理を一
人ひとりに合わせてご提案しています。CT・超音波による全身の評価、糖尿病・内分泌の
専門的診療、日曜・祝日の診療体制で、薬と運動の両輪を継続できる環境を整えています。
減量を考えている方、薬を始めたけれど運動をどう取り入れればよいか迷っている方は、ど
うぞお気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. マンジャロやウゴービを使えば、運動はしなくてもよいのですか?
いいえ、むしろ運動はより重要になります。米国心臓協会は 2026 年の声明で、GLP-1 薬
を運動なしで単独使用することを明確に戒めています(Anderer, JAMA, 2026)。これらの薬
で減る体重には筋肉も含まれ、SURMOUNT-1 試験ではチルゼパチドで減った体重の約
25%が除脂肪量(主に筋肉)でした(Look et al., Diabetes Obes Metab, 2025)。薬は食欲や血糖に
働きますが、筋肉を増やしたり、筋肉から全身へ届くマイオカインを動かしたりするこ
とはできません。運動は薬の代わりではなく、効果を最大化するパートナーです。
Q2. 体重が減れば、筋肉が少し減っても問題ないのでは?
減量に伴う筋肉減少が必ずしも機能低下に直結するわけではありませんが、軽視はでき
ません(Conte, Hall & Klein, JAMA, 2024)。特に高齢の方や急速に大幅減量する方では、サ
ルコペニアやフレイルのリスクが高まります。筋力(握力)の低下は全死亡リスクの上昇と
段階的に関連することが 28か国の研究で示されており(Andersen et al., J Cachexia Sarcopenia
Muscle, 2024)、筋肉を守ることは長く自立して生きるための投資といえます。
Q3. 薬で食欲が減ったら、自然に運動量も増えるのではないですか?
残念ながら、必ずしもそうではありません。700 人以上の肥満成人のウェアラブル端末デ
ータでは、GLP-1 薬の開始後、平均してかえって身体活動量が減っていたと報告されてい
ます(Anderer, JAMA, 2026)。体重が落ちて楽になると活動量が下がる「落とし穴」がある
のです。だからこそ、薬を始めたときこそ意識して運動を取り入れることが大切で、歩
数計やスマートウォッチで活動を見える化すると継続しやすくなります。
Q4. 筋トレと有酸素運動、どちらを優先すべきですか?
両方が大切で、目的が異なります。AHA によれば、有酸素運動は血圧低下・HDL 上昇・
中性脂肪低下・心肺持久力向上に優れ、レジスタンス運動(筋トレ)は減量中の筋肉を守る
主役です。両者を組み合わせるとインスリン感受性の改善や HbA1c 低下により効果的と
されます(Anderer, JAMA, 2026)。ADA/EASD も週 150 分の有酸素運動に加え、週 2〜3 回
の筋力トレーニングを推奨しています(Davies et al., Diabetologia, 2022)。
Q5. 忙しくて運動の時間がとれません。少しの運動でも意味はありますか?
はい、少しの運動から確実に効果が積み上がります。歩数と死亡率のメタ解析では、1 日
約 2,500 歩という少ない歩数でも全死亡が約 8%低下し、歩数が増えるほどリスクが下が
ります(Stens et al., JACC, 2023)。AHA も、運動を始めたばかりの方ではより少ない量でも
健康効果が得られると述べ、階段を使う・少し遠くに駐車するといった小さな工夫を勧
めています(Anderer, JAMA, 2026)。当院では体組成測定をもとに、無理なく続けられる運
動をご提案しています。
参考文献
- Abbasi J. A New GLP-1 Pill for Diabetes, Semaglutide With Amylin, Data From China, and More
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するもの
ではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
