おなかの脂肪は『炎症の発電所』だった ― 内臓脂肪と万病の関係性
はじめに ― 内臓脂肪は「ただの脂肪」ではありません
「お腹まわりの脂肪が気になる」「健康診断でメタボと言われた」――そんな経験はありませんか。実は、内臓脂肪は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、ホルモンや炎症性物質を活発に分泌する「内分泌・免疫器官」であることが、近年の研究で次々と明らかになっています。
2026 年に Diabetologia 誌に発表されたカロリンスカ研究所の Rydén 教授による総説では、白色脂肪組織(WAT)は「代謝・内分泌・免疫機能を統合する驚くほど可塑性に富んだ臓器」であり、肥満関連疾患の中心的な原動力であると位置づけられています(Rydén, 2026)。さらに 2025 年の Obesity Reviews 誌の総説でも、慢性的な低度炎症と免疫細胞の動態変化が、2 型糖尿病・心血管疾患・脂肪肝などの「肥満関連合併症」の発症に深く関わることが確認されました(Turner & Santosa, 2025)。
本コラムでは、内臓脂肪と免疫システムがどのように相互作用し、私たちの健康をかたちづくっているのかを、最新のヨーロッパ・アメリカの権威ある研究を踏まえて、わかりやすく解説します。お腹の脂肪が「燃えにくい」だけでなく、「炎症を起こしている」可能性を知ることは、生活習慣病の予防と治療の第一歩です。
1. 内臓脂肪と皮下脂肪 ― 同じ脂肪でも全く違う性質
脂肪組織は大きく「皮下脂肪」と「内臓脂肪」に分けられます。皮下脂肪は皮膚のすぐ下にあり、エネルギー貯蔵や体温保持を担う比較的「おとなしい」脂肪です。一方、内臓脂肪は腹腔内の臓器のまわりに蓄積し、門脈(肝臓への直接の血流路)に脂肪酸を送り込むため、肝臓・心臓・血管に大きな影響を与えます(Rydén, 2026)。
2025 年に Nature Reviews Endocrinology に掲載された総説では、ウエスト・ヒップ比に代表される「腹部肥満」は、BMI(体格指数)よりも心血管疾患や 2 型糖尿病の予測因子として優れていることが、1980 年代以来一貫して示されてきたと指摘されています(Nature Reviews Endocrinology, 2025)。実際、メンデルランダム化解析という遺伝学的手法を用いた研究では、内臓脂肪量の遺伝的増加が 2 型糖尿病リスクを約 2.4 倍、冠動脈疾患リスクを約 1.6 倍に押し上げることが示されています(Huang et al., 2022)。
内臓脂肪と皮下脂肪の決定的な違いは、「炎症のしやすさ」にあります。2025 年の Obesity Reviews 誌では、内臓脂肪はあらゆるサブタイプのマクロファージ(免疫細胞)を皮下脂肪よりも多く含み、TNF-α・IL-6 などの炎症性サイトカインを高レベルで発現することが報告されています(Turner & Santosa, 2025)。つまり、「同じ 1kg の脂肪」でも、皮下と内臓では体への影響が根本的に異なるのです。腹部 CT やウエスト周囲径の測定が重要視されるのは、こうした科学的根拠に基づいています。
2. 慢性炎症はこうして始まる ― 脂肪細胞の「悲鳴」
従来は、肥満による脂肪組織の炎症は「免疫細胞の浸潤」が引き金と考えられてきました。しかし近年の研究は、この順序を見直す必要があると示しています。Rydén 教授の 2026 年の総説では、最初に「ストレスを受けた脂肪細胞」が炎症シグナルを発し、その結果として免疫細胞が呼び寄せられるという「脂肪細胞ファースト」の概念が提唱されています(Rydén, 2026)。
脂肪細胞が肥大化(ヒパートロフィー)すると、機械的ストレスや相対的な低酸素状態にさらされ、ケモカイン(MCP-1/CCL2 など)を産生して単球やマクロファージを誘引します。また、肥大した脂肪細胞は小胞体ストレスや活性酸素種(ROS)の増加を起こし、アディポネクチン(抗炎症性アディポカイン)の分泌が低下し、TNF-α・IL-6 などの炎症性サイトカインの分泌が増加します(American Journal of Physiology-Cell Physiology, 2021)。
重要なのは、抗炎症薬(抗 TNF-α 抗体や IL-1 受容体拮抗薬など)による臨床試験は、代謝改善効果が限定的だったという事実です(Rydén, 2026)。これは「炎症を直接抑える」だけでは不十分で、「脂肪細胞そのものの機能を回復させる」ことが本質的に重要であることを示しています。さらに 2025 年の Nature 誌の研究では、好中球(免疫細胞の一種)が交感神経系の活性化を介して脂肪細胞のエネルギー貯蔵を維持する役割を持つことも明らかになり、免疫と代謝の関係はますます複雑であることがわかってきました(Son et al., 2025)。
3. 脂肪細胞は「均一な集団」ではない ― 最新の空間トランスクリプトーム解析
長らく、脂肪細胞は「同じような細胞の集まり」と考えられてきました。しかし 2021 年以降の空間トランスクリプトーム解析(組織内の遺伝子発現を空間的に可視化する技術)によって、ヒトの白色脂肪組織には少なくとも 3 つの異なる脂肪細胞状態が存在することが明らかになりました(Bäckdahl et al., Cell Metabolism 2021;Rydén, 2026)。
それぞれ「Adipo-PLIN(脂質代謝に特化)」「Adipo-LEP(脂肪量センシング)」「Adipo-SAA(免疫調節型)」と命名されており、インスリン応答性や脂質処理能力が大きく異なります。同じ BMI(体格指数)の人でも、これらの脂肪細胞サブタイプの構成比が異なるため、糖尿病になりやすい人とそうでない人がいるのです(Rydén, 2026)。
特に注目されるのが、内臓脂肪(特に大腸近傍の網脂肪=epiploic fat)に豊富に存在する「Adipo-SAA」と呼ばれる炎症調節型脂肪細胞です。これらの脂肪細胞は、血清アミロイド A(SAA)遺伝子を発現し、免疫細胞(特にマクロファージ)と密接にコミュニケーションを取り、腸内細菌由来のリポ多糖(LPS)などのシグナルに反応する「免疫の見張り役」として機能していると考えられています(Jalkanen et al., Cell Metabolism 2026)。この発見は、「内臓脂肪はなぜ皮下脂肪より炎症性が強いのか」という長年の疑問への有力な答えを提供しています。
4. 腸内環境と内臓脂肪の対話 ― 「腸からの漏れ」がもたらす炎症
近年、内臓脂肪の炎症と腸内環境の密接な関係が明らかになってきました。「リーキーガット(漏れる腸)」と呼ばれる腸管バリア機能の低下により、腸内のグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)が血中に漏れ出し、低レベルの慢性炎症を引き起こす状態を「代謝性エンドトキセミア」と呼びます(Cani et al., 2007)。
2024 年に Microbiome 誌に発表された研究では、閉経後の女性 50 名を対象に内臓脂肪量と腸内細菌叢・血中エンドトキシンマーカーを解析したところ、内臓脂肪が多い群では腸内細菌叢の構成が炎症促進的にシフトし、エンドトキシン関連マーカーが有意に上昇していることが示されました(Wilson et al., Microbiome 2024)。また 2025 年の Frontiers in Microbiology の総説では、高脂肪食や腸内細菌叢のディスバイオシス(乱れ)が血中 LPS 濃度を上昇させ、Toll 様受容体 4(TLR4)経路を介して TNF-α・IL-6・IL-1β などの炎症性サイトカインを産生し、インスリンシグナルを阻害することがメカニズム的に確立されています(Frontiers in Microbiology, 2025)。
Rydén 教授の総説でも、内臓脂肪のうち特に大腸近傍の網脂肪(epiploic fat)は、腸内細菌由来のシグナルを直接受け取る「最前線」であり、Adipo-SAA と呼ばれる免疫調節型脂肪細胞が腸内環境と全身炎症を結ぶ「翻訳者」の役割を果たしている可能性が示唆されています(Rydén, 2026)。つまり、食生活・腸内環境・内臓脂肪・全身炎症は一連の連続したシステムとして理解する必要があります。
5. 内臓脂肪が引き起こす疾患リスク ― 数字で見るエビデンス
内臓脂肪の蓄積がもたらす健康リスクは、近年の大規模疫学研究によって定量的に明らかにされています。2025 年の Obesity 誌に発表された研究では、内臓脂肪面積に基づく心血管リスク層別化モデルが提案され、BMI だけでは捉えきれない「内臓肥満特有のリスク」が強調されています(Guo et al., 2025)。BMI が正常範囲でも、内臓脂肪が蓄積していれば(いわゆる「隠れ肥満」)、メタボリックシンドロームや糖尿病のリスクが高まることが示されています。
前述のメンデルランダム化解析では、内臓脂肪量の遺伝的増加は、2 型糖尿病(オッズ比 2.40)、冠動脈疾患(オッズ比 1.57)、心房細動(オッズ比 1.41)、インスリン抵抗性(オッズ比 1.20)のリスクを有意に上昇させることが示されました(Huang et al., 2022)。さらに 2025 年の Obesity Reviews 誌では、心臓を取り囲む心外膜脂肪(epicardial AT)のマクロファージ浸潤が冠動脈疾患患者で増加し、内臓脂肪由来のエクソソーム(細胞外小胞)がマクロファージを M1 型(炎症型)に偏向させ、動脈硬化を促進することが報告されています(Turner & Santosa, 2025)。
また、内臓脂肪は脂肪肝(MASLD/MASH)、慢性腎臓病、変形性関節症、一部のがん(乳がん・大腸がんなど)、さらには認知症や免疫機能低下との関連も指摘されており、まさに「全身病の起点」と言えます(Frontiers in Endocrinology, 2025)。腹部 CT やウエスト周囲径の定期的な測定、そして食事・運動・睡眠の管理が、これらの疾患予防の基盤となるのです。当院でも、必要に応じて腹部 CT による内臓脂肪面積の測定を行っており、客観的な数値に基づく生活指導を提供しています。
6. GLP-1 受容体作動薬と内臓脂肪 ― 新しい治療の選択肢
近年、糖尿病・肥満症の治療として注目されている GLP-1 受容体作動薬(セマグルチド=オゼンピック/ウゴービ、リラグルチドなど)と GLP-1/GIP 二重作動薬(チルゼパチド=マンジャロ/ゼップバウンド)は、内臓脂肪の減少という観点でも顕著な効果を示しています。2025 年に Diabetes Obesity and Metabolism 誌に発表された SURMOUNT-1 試験のサブ解析では、チルゼパチドにより内臓脂肪量が 72 週で 40.1%減少し、プラセボ群(7.3%減)に比べて有意に大きな効果を示しました(Look et al., Diabetes Obes Metab 2025)。
2025 年 5 月に New England Journal of Medicine に掲載された SURMOUNT-5 試験では、チルゼパチドはセマグルチドに比べて 72 週時点で体重(–20.2% vs –13.7%)・ウエスト周囲径ともに優れた減少効果を示しました(Aronne et al., NEJM 2025)。GLP-1 受容体作動薬は、減量効果に加えて炎症マーカーである hsCRP の低下、マクロファージの M2 型(抗炎症型)へのシフト、TNF-α・IL-6・IL-1β の産生抑制など、抗炎症作用も報告されています。
ただし、Rydén 教授の総説では重要な指摘もなされています。脂肪細胞自体は GLP-1 受容体を発現していないため、GLP-1 作動薬の減量効果は直接脂肪細胞に作用するのではなく、食欲抑制を介した間接的なものです。そのため、薬剤を中止すると体重リバウンドが起こりやすいことが STEP 4 試験(セマグルチド)や SURMOUNT-4 試験(チルゼパチド)で確認されています(Rydén, 2026)。したがって、GLP-1 作動薬を始める際は、生活習慣の改善と組み合わせ、長期的な治療計画を立てることが重要です。当院でも、GLP-1 製剤の処方は単なる減量手段ではなく、内臓脂肪減少と全身代謝改善を目指す総合戦略の一環として位置づけています。
7. 「脂肪の記憶」 ― なぜ体重リバウンドは起こるのか
ダイエットで一度減量しても、リバウンドしてしまった経験のある方は多いのではないでしょうか。その背景には、最新研究で明らかになった「アディポース・メモリー(脂肪組織の記憶)」という現象があります。2024 年に Nature 誌に発表された研究では、肥満を経験した脂肪組織には、減量後も持続するエピジェネティック変化(DNA 修飾の変化)が刻まれ、再び体重が増えやすい「太りやすい体質」を形成することが示されました(Hinte et al., Nature 2024)。
Rydén 教授のグループの研究では、減量後も脂肪細胞の数は減らず、サイズだけが小さくなった「post-obese」状態の脂肪組織は、満腹ホルモンであるレプチンの分泌が低下しており、結果として食欲が亢進しやすいことが示されています(Rydén, 2026)。さらに 2025 年の Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 誌の総説では、減量と体重リバウンドのサイクル(いわゆる体重サイクリング/ヨーヨーダイエット)は、脂肪組織のマクロファージに「免疫記憶」を残し、慢性炎症を悪化させる可能性が指摘されています(Caceres et al., 2025)。
この「アディポース・メモリー」の概念は、ダイエットにおける考え方を根本から変えます。短期間で大きく減量するよりも、緩やかな減量を長期間維持し、脂肪細胞の構成や代謝パターンを少しずつ正常化していくことが理想です。また、体重リバウンドが心血管リスクを上昇させることは New England Journal of Medicine の研究でも示されており(Bangalore et al., NEJM 2017)、「ダイエットを始める」ことと同じくらい「維持する」ことが重要なのです。当院では、減量後の維持期も含めた中長期的なフォローアップを重視しています。
8. 内臓脂肪と免疫炎症を改善する実践的アプローチ
ここまで述べた知見をふまえ、内臓脂肪と免疫代謝の悪循環を断ち切るための実践的なアプローチをまとめます。第一に「食事」です。地中海食(野菜・果物・全粒穀物・オリーブオイル・魚介類が中心)は、腸内環境を改善し、内臓脂肪と全身炎症を低下させることが多くのランダム化試験で示されています。一方、過剰な飽和脂肪酸・精製糖・超加工食品は、腸管バリアを傷害し、代謝性エンドトキセミアを引き起こすことが報告されています(Frontiers in Microbiology, 2025)。
第二に「運動」です。有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせは、内臓脂肪を選択的に減少させ、脂肪細胞のインスリン感受性を改善することが知られています。Rydén 教授のグループの研究でも、刺激誘発性の脂肪分解能が低い人ほど将来の体重増加と糖尿病発症リスクが高いことが示されており、「脂肪を動員する力」を維持することが重要です(Rydén, 2026)。第三に「睡眠」です。睡眠不足や睡眠リズムの乱れは、内臓脂肪蓄積と炎症を悪化させることが報告されています。
第四に「医療的介入」です。生活改善で十分な効果が得られない場合、SGLT2 阻害薬、メトホルミン、GLP-1 受容体作動薬などの薬物療法は、体重・内臓脂肪・炎症マーカーを改善する強力なツールです。心血管疾患リスクが高い方では、セマグルチドが主要心血管イベントを約 20%減らすこと(SELECT 試験)が示されています(NEJM 2023)。当院では、内臓脂肪面積測定、血中炎症マーカー(hsCRP など)、HbA1c、脂質プロファイル、肝機能などを総合的に評価し、個々の患者さんに最適な治療戦略をご提案しています。「体重を減らす」だけでなく、「脂肪組織の質を改善する」ことを目標にした医療を実践しています。
おわりに ― 内臓脂肪を「数字」で管理する時代へ
内臓脂肪は、もはや「ただの余分な脂肪」ではありません。それは、ホルモンを分泌し、免疫系と対話し、全身の代謝を統御する「動的な臓器」です。Rydén 教授が総括するように、「白色脂肪組織は心血管代謝疾患の能動的な原動力」であり、その質を改善することが現代医療の重要な目標となっています(Rydén, 2026)。
「お腹が出てきた」「体重が増えた」というのは、見た目の問題ではなく、体の中で炎症と代謝の悪循環が始まりつつあるサインかもしれません。早期に気づき、客観的な数値(ウエスト周囲径、内臓脂肪面積、HbA1c、hsCRP など)で評価し、生活習慣の改善や必要に応じた医療的介入を行うことで、糖尿病・心血管疾患・脂肪肝などのリスクを大きく減らすことができます。
まんかいメディカルクリニックでは、CT による内臓脂肪面積測定、血液検査による炎症・代謝評価、専門医による生活習慣指導、必要に応じた薬物療法(GLP-1 受容体作動薬、SGLT2阻害薬など)を組み合わせ、エビデンスに基づいた包括的な内臓脂肪・代謝管理を提供しています。お気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. BMI(体格指数)が正常範囲なら、内臓脂肪を心配する必要はないのでしょうか?
いいえ、BMI が正常でも内臓脂肪が蓄積している「隠れ肥満(正常体重肥満)」の方は少なくありません。アジア人は欧米人よりも BMI が低くても内臓脂肪が蓄積しやすい遺伝的傾向があり、同じ BMI でも糖尿病や心血管疾患のリスクが高いことが知られています(Rydén, 2026;Caleyachetty et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2021)。ウエスト周囲径(男性 85cm 以上、女性 90cm 以上が日本のメタボリックシンドローム基準)や、より精密には腹部 CT による内臓脂肪面積(100 平方センチメートル以上が肥満)で評価することが重要です。BMI が正常でも気になる方は、当院にご相談ください。
Q2. 皮下脂肪と内臓脂肪、どちらが先に減りやすいのですか?
一般的に、適切な食事制限と運動を行うと、内臓脂肪のほうが皮下脂肪より早く減少することが知られています。これは、内臓脂肪のほうが代謝的に活発で、脂肪分解酵素への感受性が高いためです(Rydén, 2026)。実際にチルゼパチドの臨床試験(SURMOUNT-1)では、72 週で内臓脂肪が 40.1%減少し、これは全体重減少率(–21.3%)を大きく上回る結果でした(Look et al., Diabetes Obes Metab 2025)。「お腹が引っ込んだのに体重があまり変わらない」という方は、実は内臓脂肪が先に減って、健康指標は大きく改善している可能性があります。体重だけでなく、ウエスト周囲径や血液検査の数値もぜひチェックしてください。
Q3. 腸内環境を整えることは、内臓脂肪の減少に本当に効果があるのですか?
はい、エビデンスに基づくと効果が期待できます。2024 年の Microbiome 誌の研究では、内臓脂肪が多い人ほど腸内細菌叢が炎症促進的に変化し、血中エンドトキシンマーカーが上昇していることが報告されています(Wilson et al., 2024)。食物繊維(特に水溶性食物繊維)、発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌など)、オメガ 3 脂肪酸を含む青魚を意識的に摂取することは、腸内細菌叢の多様性を高め、腸管バリアを強化し、代謝性エンドトキセミアを減らすことに役立ちます(Frontiers in Microbiology, 2025)。一方、超加工食品や高脂肪食、過剰な砂糖摂取は腸内環境を悪化させるため避けるべきです。腸活は地味ですが、内臓脂肪と全身炎症を同時に改善する実用的なアプローチです。
Q4. 一度ダイエットに成功しても、なぜリバウンドしやすいのでしょうか?
これは「アディポース・メモリー(脂肪組織の記憶)」と呼ばれる現象によるものです。2024 年の Nature 誌の研究では、肥満を経験した脂肪組織には、減量後も持続するエピジェネティック変化が刻まれ、体が「太りやすい状態」を記憶していることが示されました(Hinte et al., 2024)。また、減量後も脂肪細胞の数は減らずサイズが縮小するだけで、満腹ホルモンであるレプチンの分泌が低下し、食欲が亢進しやすくなります(Rydén, 2026)。対策としては、(1)短期間の極端なダイエットを避け、月に体重の 1〜2%程度の緩やかな減量を心がける、(2)減量後も筋力トレーニングを継続して基礎代謝を維持する、(3)睡眠とストレス管理を重視する、(4)必要に応じて GLP-1 受容体作動薬などの医学的サポートを長期的に活用する、などが有効です。
Q5. GLP-1 受容体作動薬(オゼンピック・マンジャロなど)は、内臓脂肪を減らす目的で使えますか?
GLP-1 受容体作動薬や、GLP-1/GIP 二重作動薬(チルゼパチド)は、内臓脂肪を顕著に減少させることが大規模臨床試験で示されています。SURMOUNT-1 試験ではチルゼパチドにより内臓脂肪が 72 週で 40.1%減少し(Look et al., 2025)、SURMOUNT-5 試験ではチルゼパチドはセマグルチドより優れた体重・ウエスト減少効果を示しました(Aronne et al., NEJM 2025)。ただし、これらの薬剤は日本では基本的に 2 型糖尿病または高度肥満症(BMI 35 以上、または 27 以上で合併症あり)の患者さんに保険適用となります。また、薬剤を中止すると体重リバウンドが起こりやすいため、生活習慣改善と組み合わせた長期戦略が必要です(Rydén, 2026)。副作用(吐き気、便秘、まれに膵炎など)もあるため、必ず医師の管理下で使用してください。当院では、適応・効果・副作用について十分にご説明したうえで、個別に最適な治療をご提案しています。
参考文献
- Rydén M. Perspectives on human adipose tissue: from cellular mechanisms to clinical complications. Diabetologia. 2026. https://doi.org/10.1007/s00125-026-06735-0
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- Basso PJ, Tsai S. Weight Loss-Associated Remodeling of Adipose Tissue Immunometabolism. Obesity Reviews. 2025;26(12):e13975. https://doi.org/10.1111/obr.13975
- Caceres L, Guha Ray A, Emont MP, Weinstock A. Influence of Weight Loss and Weight Regain on Adipose Tissue Inflammation. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2025;45(12):2155-2163. https://doi.org/10.1161/ATVBAHA.125.322196
- Hinte LC, Castellano-Castillo D, Ghosh A, et al. Adipose tissue retains an epigenetic memory of obesity after weight loss. Nature. 2024;636(8042):457-465. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08165-7
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- Wilson AS, Millen AE, Hovey KM, et al. Visceral adiposity in postmenopausal women is associated with a pro-inflammatory gut microbiome and immunogenic metabolic endotoxemia. Microbiome. 2024;12(1):192. https://doi.org/10.1186/s40168-024-01901-1
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- Guo T, He P, Lu W, et al. Visceral Adiposity Thresholds for Cardiovascular Risk Stratification: A Simplified Biomarker-Driven Model. Obesity (Silver Spring). 2025;33(10):1958-1969. https://doi.org/10.1002/oby.24367
- Bäckdahl J, Franzén L, Massier L, et al. Spatial mapping reveals human adipocyte subpopulations with distinct sensitivities to insulin. Cell Metab. 2021;33(9):1869-1882.e6. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2021.07.018
- Jalkanen J, Zhong J, Nono Nankam PA, et al. Cytoarchitectural multi-depot profiling reveals immune-metabolic crosstalk in human colon-associated adipose tissue. Cell Metab. 2026. https://doi.org/10.1016/j.cmet.2025.12.008
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
