病気と健康の話

【感染症】2026年コロナ後になぜ呼吸器感染症が急増?ーインフル・RSV・hMPV…9つのウイルスのリスクを解説

インフル・RSV・hMPV…9 つのウイルスのリスクを解説

はじめに: なぜ今、呼吸器感染症が再び増えているのか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が一区切りを迎えた一方、2022 年から 2025 年にかけて、世界各国でインフルエンザや RS ウイルス、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、ライノウイルスなど、さまざまな呼吸器ウイルス感染症が再び増加傾向を示しています。欧州疾病予防管理センター(ECDC)や米国疾病予防管理センター(CDC)、中国 CDC いずれの監視データでも、急性呼吸器感染症(ARI)やインフルエンザ様疾患(ILI)の報告数が、パンデミック前の水準に近づき、一部はそれを上回る勢いで推移しています。

2026 年に国際専門誌『Allergy』に発表された大規模なレビュー論文(Zheng Y, et al. 2026)は、この「再燃現象」の背景に複数の要因が重なっていることを示しています。具体的には、①マスク着用や外出自粛といった非薬物的介入(NPI)の緩和、②自然感染の機会が減ったことで社会全体の免疫が弱まった「免疫負債(immunity debt)」、③新型コロナ自体が免疫機能を損なう可能性が指摘される「免疫窃盗(immunity theft)」、④最初にかかったウイルス株の記憶が後の感染防御の型を決める「免疫インプリンティング」、そして⑤ウイルス自身の抗原変異、などが挙げられています。

この記事では、同レビューに基づいて、主要な呼吸器ウイルスそれぞれの特徴、重症化しやすい方、守ってくれる要因について、できるだけわかりやすく解説します。あわせて、欧米の最新の権威ある論文から、2025 年〜2026 年冬シーズンに向けた新しい知見もご紹介します。

1. 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)― オミクロン以降の現状

新型コロナウイルスは、2019 年末の出現以来、次々と変異を繰り返し、現在はオミクロン系統(BA.5、XBB、さらに KP.2 などの亜系統)が主流です。これらの系統は、以前の株に比べて感染力が強く、ワクチンや既感染による免疫をすり抜けやすい性質を持っているのが特徴です。

感染のしやすさに関する大規模コホート研究(Turpin ら, 2024)では、年齢は U 字型のリスク分布を示すことが確認されました。3 歳以下の乳幼児と 65 歳以上、とくに 90 歳以上の高齢者は、45〜54 歳と比べて感染リスクが約 20 倍にもなります。男性の方が女性より感染・重症化しやすく(相対リスク 1.18)、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、心血管疾患、白血病、非アルコール性脂肪肝疾患、乾癬、肺高血圧症などの基礎疾患を持つ方でもリスクが上がります。免疫抑制剤を使用している方、HIV 感染者、臓器移植を受けている方も、重症化と入院のリスクが大きく増えることが報告されています。

重症化の危険因子としては、高齢(65 歳以上で重症化リスク約 24 倍)、男性、複数の基礎疾患、間質性肺疾患、喫煙、肥満が知られています。一方で、ワクチン接種は強力な保護因子です。追加接種(ブースター)を受けた場合、入院リスクは 70〜90%、重症化リスクは 80%以上、死亡リスクは非接種者のおよそ 10 分の 1〜5 分の 1 に減少します(Matveeva ら, 2023;Tan-Lhernould ら, 2023)。日本でも、65 歳以上の高齢者では、秋冬シーズンに合わせた追加接種が推奨されています。

また、感染から 3 か月以上続く倦怠感、息切れ、集中力低下、動悸などの症状は「Long COVID(罹患後症状)」と呼ばれます。若年〜中年の女性、基礎疾患のある方、ワクチン未接種で感染した方、ビタミンD 不足の方、肥満や喫煙者でリスクが上がる一方、ワクチン接種は Long COVID の発症リスクを有意に下げることが示されています(Kogevinas ら, 2025)。

2. インフルエンザ ― 再び本格的な流行へ

2020〜2022 年のパンデミック期には、マスクや手指衛生の徹底で一時的に激減していたインフルエンザですが、2023 年以降は流行が本格的に戻ってきました。米国CDC、ECDC、中国 CDC いずれの監視データでも、コロナ前の水準に近い陽性率が報告されています。

感染リスクの観点では、5〜14 歳の学童期(他の年齢層より 2.87 倍)と、冬季(夏と比べて 4.24倍)が突出しています。低所得層、過密な住環境、大人数の屋内会食や大人数の集まりへの参加もリスクを高めます(Lewis ら, 2023)。遺伝的には、ST6GAL1 や B3GALT5 といった糖鎖修飾に関わる遺伝子の変異が、インフルエンザウイルスの感染を抑える方向に働くことも示されています。

入院に至るリスクは年齢が大きく、65 歳以上は 5〜17 歳と比べて約 9 倍です。悪性腫瘍(白血病、リンパ腫、転移性がん)、神経筋疾患、HIV、COPD などの基礎疾患があると、入院リスクがさらに 2〜4 倍に上がります。肥満の小児、少数民族、A(H1N1)pdm09 株流行時も重症化と関連します。致命率上昇の因子としては、人工呼吸管理、脳症・脳炎の合併、二次性細菌性肺炎、CD4/CD8 比の低下が報告されています(Sun ら, 2024;Yi ら, 2023)。

予防の中心はワクチンです。欧州全年齢を対象とした研究では、ワクチンは外来受診を 75%、入院を 60%、ICU 入室を 37%減少させました(Castilla ら, 2013;Presa ら, 2025)。手洗い(1 日 10回以上で感染リスク 38%減)、マスク着用(H1N1 パンデミック時の aOR 0.33)、早期の抗インフルエンザ薬(タミフル、ゾフルーザなど)の内服も、感染・重症化を約 40%減らすことが示されています。さらに、週 150 分以上の有酸素運動を習慣にしている方は、インフルエンザ・肺炎による死亡リスクが 48%低いという米国の大規模研究も報告されています(Webberら, 2023)。

3. RS ウイルス(RSV) ― 乳幼児と高齢者を守る時代へ

RS ウイルス(respiratory syncytial virus)は、乳幼児の細気管支炎・肺炎の最大の原因ウイルスであり、5 歳未満の下気道感染症の入院原因として最も頻度が高いことが知られています(年間 10 万人あたり約 175〜195 例)。近年は高齢者や免疫不全患者における重症化も大きな問題となっています。

小児でのリスクは、生後 1〜5 か月、6〜11 か月、1〜2 歳と、月齢が若いほど高まります。早産児、低出生体重児、RSV 流行期前 3 か月以内に生まれた児、慢性肺疾患や先天性心疾患を持つ児は、入院と重症化のリスクが特に高くなります。母乳栄養を受けていない、母親の喫煙曝露、教育歴の低さなど、社会経済的要因も重症化と関連します。成人では、固形がん、血液腫瘍、慢性腎臓病、造血幹細胞移植後の患者、高齢者(とくに 85 歳以上)、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群の合併でリスクが大きく上昇します。

重症化を示唆する検査所見としては、好中球増多、リンパ球減少、CRP 上昇、低体温、酸素飽和度低下、呼吸数増加が挙げられます。小児の細気管支炎では、RS ウイルスと他のウイルス(特にライノウイルス)の重複感染が重症化リスクを 1.5〜2.5 倍に高めます。

予防面では、60 歳以上を対象とした RSV ワクチン(RSVpreF、RSVPreF3、mRNA-1345)の有効性が近年急速に明らかになってきました。米国の大規模リアルワールド研究では、60 歳以上の感染予防効果 75.1%、入院予防効果 75.5%、救急受診予防効果 75.8%と報告されています(Fry および CDC, 2025)。乳児では、母体ワクチン接種と長時間作用型モノクローナル抗体ニルセビマブ(nirsevimab)が、入院を 68%以上減らすことが欧米の複数の研究で示されています。日本でも 60 歳以上を対象とする RSV ワクチンと、乳児への抗体製剤(ニルセビマブ)が利用可能になっており、対象となる方は医師にご相談ください。

4. ライノウイルス ― いわゆる「普通のかぜ」の主役

ライノウイルスは、1956 年に発見された非エンベロープ型の小さな RNA ウイルスで、「普通のかぜ」の最も一般的な原因です。A、B、C の 3 種類に分類され、とくに C 型は喘息の急性増悪や乳幼児の重症下気道感染と関連することが分かっています。12 歳未満の小児での陽性率は、成人の約 4 倍高いと報告されています(Hansen ら, 2022)。

COVID-19 パンデミックの期間中、他のほとんどの呼吸器ウイルスが激減した一方で、ライノウイルスは比較的高い流行を維持し続けました。これは、ライノウイルスが非エンベロープ型で環境中に安定して存在し、通常のアルコール消毒やマスクでは抑えにくい特性を持つためと考えられています(Leung ら, 2020)。世帯内 5 人以上、学校・保育園での集団生活、大家族は感染リスクを上げる一方、50 歳以上では感染率が低下します(aOR 0.39)。

興味深いことに、ライノウイルス感染は、インフルエンザ A・B、RSV、hMPV の感染率を下げる方向に働くことが報告されています(Wu ら, 2020)。これは、ライノウイルス感染が気道上皮細胞のインターフェロン産生を強く誘導し、他のウイルスの侵入を一時的にブロックするためと考えられています。現在もなお、有効なライノウイルスワクチンは存在しませんが、血清型の多様性を克服するための新しいオルガノイド(臓器モデル)研究が進んでいます。

5. アデノウイルス ― 流行性角結膜炎から重症肺炎まで

アデノウイルスは、非エンベロープ型の二本鎖 DNA ウイルスで、咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、胃腸炎、膀胱炎など多彩な症状を起こします。免疫不全の方では、肺炎や播種性感染に進むこともあります。小児では若年齢、長期入院、乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇がアデノウイルス肺炎のリスク因子です(Liu ら, 2022)。

重症化では、マイコプラズマ肺炎との重複感染(OR 5.0)、血中ウイルス量の上昇(OR 1.5)、白血球増加などが重要な因子です。重症後遺症としては「閉塞性細気管支炎(PIBO)」が知られており、男児、発熱期間の長さ、侵襲的人工呼吸管理、ステロイド静注歴、重複感染、アトピー体質がリスクを高めます(Xu ら, 2024)。

予防は現時点で有効なワクチンがないため、手洗い、環境消毒、密集の回避といった基本的な感染対策が中心となります。近年は、小児への T 細胞療法や、新しい抗 HAdV55 抗体(Liuら, 2024)といった治療開発が進んでおり、免疫不全の患者さんにおける選択肢が広がりつつあります。

6. ヒトメタニューモウイルス(hMPV) ― 2025 年冬に注目された新興ウイルス

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、2001 年に発見された比較的「新しい」呼吸器ウイルスで、RS ウイルスと似た臨床像を示します。小児、高齢者、免疫不全患者で重症化しやすく、2025 年初頭には中国での流行が世界的に報道され、ポストコロナ時代の注目ウイルスとなっています(Al-Tawfiq と Memish, 2025)。

中国の大規模解析では、5 歳以上の小児(陽性率1.47%)と比べ、それより若い児で有意に陽性率が高いことが示されています。成人でも 65 歳以上はリスク因子です(OR 1.82)。生後 6 か月未満の児、早産児、人工栄養(非母乳栄養)、低栄養、基礎疾患があると、酸素投与や入院が必要な重症化の可能性が高まります。RS ウイルスとの重複感染では、ICU 入室リスクが約 7 倍になることも報告されています(Li ら, 2020)。

高齢者では、低BMI、心拍数増加、心筋梗塞の既往が死亡リスクと関連します。残念ながら現在のところ hMPV に対するワクチンや特異的抗ウイルス薬はなく、基本的な感染対策(手洗い、マスク、密集の回避)が中心となります。しかし、mRNA-1653 をはじめとする mRNA技術を用いた hMPV とパラインフルエンザ 3 型の二価ワクチンの臨床試験が進行中で、今後の選択肢拡大が期待されます。

7. ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV) ― クループの主役

ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)は 1〜4 型があり、小児のクループ(犬吠様咳嗽、嗄声、喘鳴)、気管支炎、肺炎の主要な原因です。中国の小児下気道感染症 1,335 例を対象とした研究では、とくに 36 か月未満で HPIV 陽性率が高いことが示されました(Zhong ら, 2019)。

重症化は、細菌・ウイルス・真菌との重複感染、好中球数の上昇、肺の硬化像や胸水、慢性心血管・呼吸器疾患の合併で高まります。HPIV-4 型と慢性心血管疾患、慢性呼吸器疾患の合併例では重症化リスクが 3〜4 倍に上がります。造血幹細胞移植(HSCT)後では、リンパ球減少(OR 17.7)と重複感染(OR 5.7)が死亡率の上昇と強く関連します(Perez ら, 2024)。

現時点で HPIV に対するワクチンや特異的治療薬はありません。ただし、肺炎球菌ワクチン接種と母乳栄養は重症化を抑えることが示されており、乳幼児の基本予防として重要です。最近では、mRNA-1653(HPIV-3 と hMPV の二価 mRNA ワクチン)が第 I 相試験で良好な安全性と免疫原性を示しており、今後の開発が注目されます(Ghamloush ら, 2024)。

8. その他のヒトコロナウイルス(hCoVs) ― NL63・229E・HKU1・OC43

新型コロナ(SARS-CoV-2)以外にも、NL63、229E、HKU1、OC43 の 4 種類の「季節性コロナウイルス」が古くから人間の間で循環しており、多くの方が幼少期にすでに感染を経験しています。通常は軽い鼻かぜや咽頭炎を起こす程度ですが、高齢者や免疫不全の方では肺炎に進むこともあります。

米国の研究では、5 歳未満の小児、早産児、基礎疾患のある小児で入院率が高く、とくに 5歳未満は独立した重症化リスク因子でした(Alsulami ら, 2023)。hCoV 229E は他の型と比べ死亡率が高く(30 日死亡率 25.0%)、注意が必要です(Choi ら, 2021)。

日本のサーベイランスでは、パンデミック後に流行ピークが「冬→夏」にシフトし、11 歳以下の小児で増加しているという報告もあります(Kakuya ら, 2024)。現在のところ季節性コロナに対するワクチンは開発されておらず、手洗い、咳エチケット、感染者との濃厚接触の回避が基本となります。

9. サイトメガロウイルス(CMV) ― 免疫不全・妊娠中の方に注意

サイトメガロウイルス(CMV)は、世界の成人の 60%以上が感染しているヘルペスウイルスの仲間です。健康な方では無症状ですが、妊娠中の初感染・再活性化では先天性 CMV 感染症の原因となり、難聴や発達障害を引き起こすことがあります。免疫不全の方(臓器移植後、造血幹細胞移植後、HIV 感染、ステロイド・免疫抑制剤使用中など)では、CMV 肺炎、CMV腸炎、網膜炎、脳炎を起こすことがあります。

臓器移植では、ドナー陽性・レシピエント陰性(D+/R-)というミスマッチ、バルガンシクロビル予防投与の不足、高用量の抗胸腺細胞グロブリン使用がリスク因子です(Ju ら, 2022)。造血幹細胞移植では、移植片対宿主病(GVHD)、T 細胞除去処置もリスクになります。妊娠中の先天感染予防としては、既感染による免疫が 69%の再感染低減効果を示しています(Fowler ら, 2003)。

治療にはガンシクロビル、バルガンシクロビル、レテルモビルなどが用いられます。現在ライセンスされた CMV ワクチンはありませんが、mRNA-1647(モデルナ)の第 III 相臨床試験が進行中で、妊娠可能年齢の女性における先天性 CMV 予防が期待されています(Akingbola ら, 2025)。

10. 共通する重症化のメカニズム ― 上皮バリアとタイプ 2 炎症

Zheng らの 2026 年のレビューが注目したのは、多くの呼吸器ウイルスが「異なるけれど、似た道筋」で重症化を起こすという視点です。その中心にあるのが、①気道の「上皮バリア」の機能低下と、②アレルギーと関わる「タイプ 2 免疫」の過剰反応です。

気道上皮細胞はタイトジャンクション(密着結合)によってウイルスやアレルゲン、汚染物質の侵入を防いでいます。しかし、大気汚染、タバコ煙、界面活性剤、繰り返す炎症によってこの結合が壊れると、ウイルスが組織の奥へ侵入しやすくなり、感染が重症化・遷延化します。喘息、COPD、アトピー性皮膚炎、糖尿病、肥満、加齢などはいずれもこの「上皮バリアの脆弱化」と関連しており、COVID-19 重症化のバイオマーカー研究(Yazici ら, 2023)では、上皮バリア障害を示すタンパク(AREG、CXCL10 など)が死亡予測マーカーとして同定されています。

また、IL-4、IL-5、IL-13、TSLP、IL-25、IL-33 などの「タイプ 2 サイトカイン」が過剰に働くと、抗ウイルスに必要なタイプ 1 免疫(インターフェロン、Th1 細胞)が抑えられ、ウイルスの排除が遅れます。RS ウイルスによる乳児の重症細気管支炎、ライノウイルスによる喘息増悪、インフルエンザや SARS-CoV-2 の重症化のいずれにも、このタイプ 2 偏倚の関与が報告されています。喘息やアレルギー性鼻炎を持つ方が、ウイルス感染をきっかけに発作を起こしやすいのは、この仕組みが関わっていると考えられます。

欧米の最新権威論文によるアップデート(2025〜2026 年)

ここからは、2025 年以降に欧米の主要医学誌で発表された最新の権威論文 5 件をご紹介し、ポストコロナ時代の呼吸器感染症対策について、現時点でのベストエビデンスを整理します。

① COVID-19・RSV・インフルエンザワクチンの 2025-2026 シーズン向けエビデンス総括(NEJM 2025)

ハーバード大学らの研究チームが、2025 年 12 月に世界最高峰の医学誌『New England Journal of Medicine』に発表した系統的レビュー(Abers ら, 2025)は、3 つの主要呼吸器ウイルスのワクチン有効性を 17,263 件の文献から統合解析したものです。

結果は次のとおりでした。(1)COVID-19 の mRNA ワクチンは、XBB.1.5 亜系統に対する入院予防効果が成人 46〜50%、免疫不全者で 37%。KP.2 亜系統に対しては 68%の効果が示されました。(2)母体 RSV ワクチン(乳児保護目的)、乳児へのニルセビマブ、60 歳以上への RSVワクチンはいずれも、入院予防効果 68%以上を示しました。(3)インフルエンザワクチンは、18〜64 歳成人で 48%、小児で 67%の入院予防効果を示しました。

安全性は従来の評価と整合的で、心筋炎の発生率は男性青年で 10 万接種あたり 1.3〜3.1 例と極めて稀でした。この論文は、2025-2026 シーズンに向けて、これら 3 つのワクチンを「対象となる方に適切なタイミングで接種する」ことが、重症化と入院を防ぐ最も効果的な手段であることを改めて確認する内容となっています。

② 呼吸器ウイルスの「非同期的再燃」 ― 92 拠点グローバル解析 (Nature Communications 2025)

中国復旦大学と世界保健機関(WHO)の共同チームが、2025 年 2 月に『Nature Communications』に発表した論文(Zhao ら, 2025)は、世界 92 拠点のデータを統合し、パンデミック後の呼吸器ウイルスの再燃の順序を明らかにしました。

解析の結果、非薬物的介入の緩和後、最も早く再燃したのはライノウイルスで、続いて季節性コロナ、パラインフルエンザ、RS ウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、インフルエンザ A、最後にインフルエンザ B という順序が示されました。この「非同期的再燃」という現象は、それぞれのウイルスの伝播力、環境中の安定性、集団免疫の状態が異なることを反映しています。

臨床的には、一つのウイルス流行が落ち着いたからといって油断できず、次々と異なるウイルスの流行が到来する可能性があることを意味します。冬場のシーズンには、インフルエンザだけでなく RSV や hMPV、アデノウイルスも同時期に流行することを前提に、PCR・迅速抗原検査で原因を特定する体制が重要です。当院でも、呼吸器ウイルスマルチプレックス PCR 検査を用いた的確な鑑別診断を行っています。

③ 60 歳以上の RSV ワクチン無作為化試験(DAN-RSV 試験)― NEJM 2026

デンマークで実施された大規模プラグマティック無作為化試験「DAN-RSV 試験」の結果が、2026 年 1 月の『New England Journal of Medicine』に発表されました(Johansen ら, 2026)。60 歳以上の 131,276 名を、RSVpreF ワクチン接種群と非接種群に 1:1 で割り付け、2024-2025 冬シーズンのアウトカムを比較したものです。

結果は驚くべきものでした。RSV 関連呼吸器疾患による入院は、接種群 3 例 vs 非接種群 18例で、ワクチン有効率83.3%(95%信頼区間42.9〜96.9)。RSV 関連下気道疾患による入院はワクチン有効率 91.7%、全原因呼吸器疾患による入院でも 15.2%の減少が見られました。重篤な有害事象の発生率は両群でほぼ同等でした。

この試験は、観察研究ではなく「ランダム化試験」で入院予防効果が実証された最初の大規模研究であり、60 歳以上の方に対する RSV ワクチンの接種を強く支持するエビデンスとなっています。また、2026 年 2 月に『Lancet Regional Health Europe』に発表された欧米 9 カ国121.8 百万人のリアルワールドメタ解析(Douglas ら, 2026)でも、60 歳以上での入院予防効果74.8%、重症疾患予防効果 79.8%と、この試験結果を裏付けています。

④ ヒトメタニューモウイルス(hMPV)のポストコロナ再燃 (Lancet Infectious Diseases 2025)

2025 年 6 月に『Lancet Infectious Diseases』に掲載されたレビュー論文(Kulkarni ら, 2025)は、パンデミック後の hMPV の疫学・臨床像の変化を包括的にまとめたものです。2025 年初頭に中国で話題となった hMPV の流行を契機に、世界的に注目が集まった病原体です。

本レビューによれば、パンデミック後の hMPV には、①季節性の不規則化(従来の 2〜3 月のピークに加え、夏・秋の流行も観察)、②重複感染率の増加、③感染年齢層の拡大、④遺伝子型(A2、B1、B2)分布の変化、という4 つの変化が世界的に認められています。重症化しやすい集団は従来通り、乳幼児、高齢者、免疫不全者ですが、成人での入院例も無視できない数に増えつつあります。

現時点で hMPV 専用のワクチン・抗ウイルス薬はないため、手洗い・マスク・換気といった基本対策と、原因ウイルスを特定するための精密な検査診断が重要です。治療は酸素投与や輸液などの支持療法が中心となりますが、重症例ではICU での集中管理が必要になるため、早期発見と適切なタイミングでの医療機関受診が鍵となります。

⑤ A(H3N2)subclade K の出現 ― ECDC 脅威評価 2025

欧州疾病予防管理センター(ECDC)は 2025 年 11 月、新しいインフルエンザ A(H3N2)subclade K(旧 J.2.4.1)の世界的拡散に関する脅威評価を発表しました(ECDC Threat Assessment Brief,2025)。この亜系統は、2025 年 5〜11 月に GISAID に登録された A(H3N2)配列の約 3 分の 1 を占め、EU/EEA ではほぼ半数に達しています。

注目すべき点は、この新亜系統のヘマグルチニン(HA)遺伝子に、現行の北半球ワクチン株と比較して 7 つのアミノ酸置換(K2N、T135K、S144N、N158D、I160K、Q173R、K189R など)が認められ、抗原性にミスマッチが生じている可能性が示唆されたことです。実際に、欧州では例年より早い時期(2025 年 10 月下旬)からインフルエンザ流行が始まり、迅速な拡大が観察されました。

ただし、ECDC の報告によれば、同亜系統による流行が先行した東アジアでは、重症度がとくに高まっているという明確な証拠はありません。ワクチンは株がマッチしない場合でも、重症化・入院を防ぐ効果は一定程度保たれるというエビデンスがあるため、2025-2026 シーズンも、対象の方にはワクチン接種を受けていただくことが強く推奨されます。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. コロナが一段落したのに、なぜ最近インフルエンザや RS ウイルスが以前より流行しているように感じるのでしょうか?

A1. この現象には複数の要因が重なっています。2026 年の『Allergy』誌の大規模レビュー(Zheng ら)によると、主な理由は以下の通りです。①マスク着用や外出自粛といった感染対策の緩和、②パンデミック中に自然感染の機会が減り、社会全体の免疫が弱まった「免疫負債(immunity debt)」、③新型コロナ感染自体が免疫機能を一時的に損なう「免疫窃盗(immunity theft)」の可能性、④インフルエンザ A(H3N2)の subclade K などの新しい抗原変異の出現、⑤パンデミック中に生まれた小児は自然感染の経験が少ないこと、などです。

Nature Communications(Zhao ら, 2025)の世界 92 拠点解析でも、各ウイルスが時期をずらして「非同期に」再燃していることが報告されており、今後数年は複数の呼吸器ウイルスが連続して流行する可能性があります。

Q2. 60 歳以上ですが、RS ウイルスワクチンは本当に接種したほうがよいのでしょうか?

A2. 現時点のエビデンスでは、60 歳以上で基礎疾患(心不全、COPD、糖尿病、慢性腎臓病など)がある方、施設入所中の方、免疫不全の方に対して、RSV ワクチン接種は強く推奨されます。2026 年1 月に『New England Journal of Medicine』に発表されたデンマークのDAN-RSV試験では、13 万人超を対象とした無作為化試験で、RSV 関連入院を 83.3%、下気道疾患による入院を 91.7%減らすことが示されました。欧米 9 カ国 121.8 百万人のリアルワールド解析でも、入院予防効果 74.8%、重症化予防効果 79.8%と一貫した結果が得られています。日本でも 60 歳以上向け RSV ワクチンが利用可能ですので、基礎疾患や既往歴をふまえて、医師にご相談ください。

Q3. 毎年インフルエンザワクチンを打っていますが、効かないという話も聞きます。今年も打つ意味はありますか?

A3. 結論から申し上げると、打つ意味は十分あります。NEJM の 2025 年系統的レビュー(Abers ら)では、インフルエンザワクチンの入院予防効果は、18〜64 歳成人で 48%、小児で67%と報告されています。また、欧州全年齢対象の研究では、外来受診を 75%、ICU 入室を37%減少させました。2025-2026 シーズンは A(H3N2)subclade K という新しい亜系統が出現し、ワクチン株とのミスマッチが懸念されていますが、ECDC は「株が完全に一致しなくても、重症化・入院を防ぐ効果は保たれる」と評価しています。とくに 65 歳以上、妊婦、基礎疾患のある方は接種が強く推奨されます。喘息など気道の基礎疾患がある方は、感染をきっかけに増悪しやすいため、ワクチン接種が重症化予防に極めて重要です。

Q4. 子どもが何度もかぜをひきます。これは免疫力が弱いのでしょうか?

A4. 就学前のお子さんは、1 年に 6〜10 回程度かぜをひくことが普通で、これは免疫系が成熟する正常な過程の一部です。とくにライノウイルスは 100 以上の血清型があり、一つにかかっても別の型にはすぐ再感染しうるため、頻回に見えます。ただし、以下のような場合は医療機関への相談をお勧めします:①発熱が 5 日以上続く、②呼吸が速い・陥没呼吸がある、③水分が取れない、④意識がもうろうとしている、⑤3 か月未満の乳児の発熱、⑥早産児・先天性心疾患・免疫不全の基礎疾患がある、⑦喘息の急性増悪を繰り返す、などです。母乳栄養、受動喫煙の回避、十分な睡眠、手洗いの習慣は小児の重症化予防に有効であることがエビデンスで示されています(Nishimura ら, 2009;ほか)。

Q5. 呼吸器のウイルス感染を防ぐために、日常生活で最も重要なことは何ですか?

A5. エビデンスが確立している基本対策は次の 5 つです。①手洗い(1 日 10 回以上で感染リスク 38%減;Saunders-Hastings ら, 2017)、②流行期の室内マスク着用(2020 年 Lancet 系統的レビューで伝播リスク大幅減)、③対象者のワクチン接種(COVID-19、インフルエンザ、60 歳以上の RSV、乳児の母体 RSV ワクチンまたはニルセビマブ、肺炎球菌など)、④換気と密集の回避、⑤有酸素運動(週 150 分以上の運動はインフルエンザ・肺炎死亡リスクを 48%減;Webber ら, 2023)。また、基礎疾患(糖尿病、COPD、心不全、慢性腎臓病など)のコントロール、禁煙、適正体重の維持、十分な睡眠、バランスの取れた食事、ビタミンD の充足も、上皮バリアを守り、免疫機能を適切に保つうえで重要です。症状が出てからも、早期受診と適切な抗ウイルス薬の使用で重症化を防ぐことができます。

参考文献

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本コラムは一般の方に向けた医学情報の啓発を目的としており、個別の診断・治療を提供するものではありません。
症状や持病、ワクチン接種の適応については、必ず医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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