【高コレステロール血症】心筋梗塞・脳卒中を防ぐコレステロール管理|2026年最新ACC/AHA 脂質異常症ガイドラインで変わった「正しい目標値」
■はじめに:なぜいまコレステロール管理が重要なのか
「コレステロールの薬を飲んでいれば大丈夫」――そう思っている方は少なくありません。しかし 2026 年、循環器学の最高権威である米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)が共同で発表した最新ガイドラインは、コレステロール管理の「常識」を塗り替えました。
動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)――心筋梗塞や狭心症、脳卒中、末梢動脈疾患を含む病気の集まり
――は、日本でも依然として死因の上位を占めています。そのリスクを左右する最大の修正可能因 子のひとつが、LDL コレステロール(LDL-C)を中心とした脂質管理です。2026 年ガイドラインは、より精密なリスク計算、より低い LDL-C 目標値、そして Lp(a) や ApoB といった新しい指標の活用を推奨しており、予防医療の在り方を根本から見直す内容となっています。
本コラムでは、2026 年 ACC/AHA 多学会合同脂質異常症ガイドライン(Blumenthal RS et al. Circulation 2026)とその関連論文を中心に、一般の方にも分かりやすくエビデンスを解説します。
■①2026年ガイドラインの「3つの大転換」
2026 年ガイドラインが 2018 年版から変わった最大のポイントは、大きく 3 つあります。
変換点 1:リスク計算式の刷新(PREVENT-ASCVD スコアへ)
これまでのリスク評価は「Pooled Cohort Equations(PCE)」という 2013 年に開発された数式を使 っていました。しかしこの計算式は、現代の食事・運動・薬物療法の実態を反映しておらず、リスクを過大評価しやすいという批判がありました。
2026 年ガイドラインは「PREVENT-ASCVD」という新しいリスク計算式を採用しました。この式は 10 年リスク
と 30 年リスクの両方を推定でき、現代の生活習慣をより正確に反映しています。重要な変更として、リスクの区分も更新され、「低リスク:3%未満」「境界リスク:3〜5%未満」「中等リスク:5〜10%未満」「高リスク:10%以上」と再定義されました(旧 PCE では低リスクは 5%未満、高リスクは 20%以上でした)。
変換点 2:LDL-C の「絶対値目標」の復活
2013〜2018 年版ガイドラインでは「何%下げる」という相対的な目標が主流でした。しかし 2026 年版は「いくつまで下げる」という絶対値目標を明確に復活させました。
| リスク区分 | 目標 LDL-C |
|---|---|
| 超高リスク(二次予防:既往 MACE+追加リスク因子) | <55 mg/dL |
| 高リスク(一次予防:高リスク糖尿病・CKD 等) | <70 mg/dL |
| 中等リスク(10 年リスク 5〜10%) | <100 mg/dL |
| 低〜境界リスク | <130 mg/dL |
特に「超高リスク(very high risk)」患者では LDL-C を 55 mg/dL 未満に下げることが推奨されており、この目標はスタチンのみならずエゼチミブや PCSK9 阻害薬を組み合わせることで達成を目指します。
変換点 3:Lp(a) の全例測定推奨と ApoB の活用
リポ蛋白(a)【Lp(a)】は遺伝的に規定される脂質の一種で、LDL-C が正常でも心血管リスクを高め る独立した危険因子です。2026 年ガイドラインは、すべての成人に対して生涯に少なくとも 1 回は Lp(a) を測定するよう推奨しました。
また、アポリポ蛋白 B(ApoB)は、LDL-C が目標に達しても残余リスクがある場合に、治療強化の 判断指標として活用するよう推奨されています。「LDL-C は下がったのになぜ?」という疑問への答えが、ApoB 測定から得られることがあります。
コラム:PREVENT-ASCVD で「自分のリスク」を数字で知ろう
「心筋梗塞や脳卒中になる確率は、具体的にどのくらいですか?」――こう聞かれると、多くの方 が数字で答えられないことに気づきます。PREVENT-ASCVD は、あなたの年齢・性別・血圧・コレステロール・喫煙・糖尿病の有無などを入力するだけで、「これから 10 年間で心血管疾患を発症する確率(%)」と「30 年間の長期リスク」を計算してくれるツールです。2026 年ガイドラインはこれを標準的なリスク評価ツールとして採用しました。健診の結果票をお手元に、以下のリンクから無料でご自身のリスクを確認できます(英語表記):PREVENT Risk Calculator(ClinCalc):https://clincalc.com/cardiology/PREVENT/
PREVENT-ASCVD が使う「6 つの情報」
このツールに必要な情報は、健康診断の結果票があれば揃います:①年齢・性別、②収縮期血圧( 上の血圧)と降圧薬の有無、③総コレステロールと HDL-C の値(または非 HDL-C)、④喫煙の有無(現在)、⑤糖尿病の有無、⑥腎機能(eGFR)。この 6 項目を入力するだけで、10 年・30 年のリスクが瞬時に算出されます。従来の計算式(PCE)と比べて、より現代的な日本人に近い生活習慣の実態を反映しており、過大評価が少ないことが特徴です。
リスク区分の読み方:「3・5・10」の境界線を覚えよう
PREVENT-ASCVD が算出する「10 年リスク(%)」は、以下の 4 段階で解釈します。数字が大きいほど、より積極的な LDL-C 管理が必要になります。
| リスク区分 | 10 年リスク | LDL-C 目標値(2026 年ガイドライン) |
|---|---|---|
| 低リスク | 3%未満 | <130 mg/dL(生活習慣改善を優先) |
| 境界リスク | 3%以上〜5%未満 | <130 mg/dL(リスク増強因子次第でより積極的に) |
| 中等リスク | 5%以上〜10%未満 | <100 mg/dL(スタチン療法を考慮) |
| 高リスク | 10%以上 | <70 mg/dL(スタチン+エゼチミブ等を 積極推奨) |
具体的な計算例で理解する
以下に、PREVENT-ASCVD を実際に適用した 2 つの仮想患者の例を示します。数値はいずれも ACC PREVENT 計算機(Khan SS et al. Circulation 2023)に基づく近似値で、一般的な理解を助けるための教育的例示です。
| 項目 | A さん(55 歳男性) | B さん(48 歳女性) |
|---|---|---|
| 収縮期血圧/降圧薬 | 148 mmHg/内服あり | 128 mmHg/内服なし |
| 総コレステロール/HDL-C | 210 mg/dL/41 mg/dL | 188 mg/dL/56 mg/dL |
| 喫煙(現在) | あり | なし |
| 糖尿病 | なし | あり(罹患 5 年) |
| eGFR(腎機能) | 72 mL/min/1.73m² | 81 mL/min/1.73m² |
| PREVENT 10 年リスク(介 入前) | 約 15%(高リスク) | 約 4.5%(境界リスク) |
| PREVENT 30 年リスク(介 入前) | 約 55% | 約 28% |
| 治療介入の内容 | 禁煙+スタチン(LDL-C 80 mg/dL へ) | スタチン(LDL-C 65 mg/dL へ) |
| PREVENT 10 年リスク(介 入後) | 約 7%(中等リスクへ低下) | 約 2.8%(低リスクへ低下) |
この 2 つの例が教えてくれること
A さんのケースでは、「喫煙」と「高血圧」という 2 つのリスク因子が重なり、55 歳という年齢も加わって 10 年リスクが約 15%と高リスク域に達しています。この数字は「100 人いたら 10 年で 15 人が心筋梗塞・脳卒中を発症する可能性がある」ことを意味します。しかし禁煙とスタチン療法を組み合わせることで、10 年リスクは約 7%(中等リスク)まで下がります。リスクは「半分以下」に変えられるのです。
B さんのケースは、一見「血圧も血液検査も大きく異常ではない」ように見えます。しかし糖尿病 があるため境界リスク(4.5%)に分類され、30 年リスクは約 28%もあります。言い換えれば、「今は問題なくても、今後 30 年で 4 人に 1 人以上が心血管疾患を経験しうる」状態です。スタチンで LDL-C を 65 mg/dL に下げると10 年リスクは 2.8%(低リスク)まで改善し、将来の心血管イベントリスクを大幅に減らすことができます。「30年リスク」は特に若い世代の方や糖尿病をお持ちの方に、将来を見据えた予防の重要性を実感してもらうための強力なツールです。
まんかいメディカルクリニックでは、健康診断の結果をもとに PREVENT-ASCVD による個別リスク評価を行い、「あなたには今どのくらいのリスクがあり、どのような対策で何%下げられるか」を数字でわかりやすくご説明しています。ご自身のリスク数値を知ることが、予防の第一歩です。
■② CPR フレームワーク:治療決定の 3 ステップ
2026 年ガイドラインが提唱する臨床的意思決定の枠組みが「CPR」です。これは単なる略語ではなく 、患者ひとりひとりに最適な治療を届けるための系統的アプローチです。
- C(Calculate):10 年心血管リスクを PREVENT-ASCVD で計算する
- P(Personalize):リスク増強因子(糖尿病・CKD・炎症マーカー等)で個別化する
- R(Reclassify):冠動脈石灰化スコア(CAC)でリスクを再分類する
特に「R」の冠動脈石灰化スコア(CAC)は、CT を用いた検査で動脈硬化の程度を定量化するもの で、まんかいメディカルクリニックでもオンサイト CT 検査として提供しています。CAC ≥100 Agatston 単位(AU)の場合は LDL-C <70 mg/dL、CAC ≥300 AU の場合は LDL-C <55 mg/dL を選択目標として設定することができます。
■③ VESALIUS-CV 試験:「一度も心筋梗塞を起こしていない人」でも積極治療が有効
2026 年ガイドラインが発刊されるタイミングで発表されたのが、VESALIUS-CV 試験です(Bohula EA et al. N Engl J Med 2026)。この試験の結果は、ガイドラインを書いた著者たちが「自分たちのガイドラインをすでにアップデートする必要がある」と声明を出すほどの衝撃でした。
- 対象:12,257 人/心血管高リスクだが心筋梗塞・脳卒中の既往なし
- 方法:エボロクマブ(PCSK9 阻害薬)vs プラセボ+スタチン療法
- 登録基準:冠動脈疾患・末梢動脈疾患・脳血管疾患・CAC 高値 or 高リスク糖尿病
- 追跡期間:中央値 4.6 年
- LDL-C:ベースライン中央値 122 mg/dL → エボロクマブ群で 45 mg/dL に低下(55%減)
結果として、3 点複合エンドポイント(心筋梗塞・虚血性脳卒中・冠動脈疾患死)はエボロクマブ群で有意に減少しました(HR: 0.75、95%CI: 0.65-0.86、p<0.001)。4 点エンドポイント(上記+血行再建術)でも同様に有意な低下を示しました(HR: 0.81、95%CI: 0.73-0.89、p<0.001)。
特に重要なのは、この試験の 67%の参加者が「心筋梗塞や脳卒中の既往はないが、動脈硬化が確認されている」患者であった点です。これまで積極的な脂質低下療法の証拠が乏しかったこのグループでも、 LDL-C を 55 mg/dL 未満に下げることで心血管イベントを大幅に減らせることが初めて大規模 RCT で示されました。
この結果を受けて、ガイドライン委員会は今後の改訂版では「ASCVD を持つすべての患者(心筋梗塞・脳卒中の既往の有無にかかわらず)に単一の治療パスとして LDL-C <55 mg/dL」を目標とすることを計画しています。
④ さらに深く理解するために
2026 年 ACC/AHA ガイドラインの内容を多角的に理解するため、欧州・日本の権威ある最新研究 9 本の要点を解説します。
論文②:FOURIER 試験(Sabatine et al. N Engl J Med 2017)
エボロクマブ(PCSK9 阻害薬)のランドマーク試験。27,564 人の心血管疾患患者を対象に、スタチンに加えてエボロクマブを投与した群と プラセボ群を比較(追跡期間中央値 2.2 年)。エボロクマブ群では LDL-Cが 59% 低下し(中央値 30 mg/dL 達成)、主要複合心血管イベントが 15%有意に減少しました(HR: 0.85、 p<0.001)。「LDL-C は下げれば下げるほど心血管リスクが下がる」という「LDL 仮説」を最も強力に支持する試験のひとつであり、現行ガイドラインの科学的根拠の中核をなします。
論文③:ODYSSEY OUTCOMES 試験(Schwartz et al. N Engl J Med 2018)
急性冠症候群(心筋梗塞・不安定狭心症)発症後の患者 18,924 人を対象に、アリロクマブ(別の PCSK9阻害薬)の効果を検証した試験(追跡期間中央値 2.8 年)。アリロクマブ群では LDL-C が 54%低下し、主要心血管イベントが 15%減少(HR: 0.85、p<0.001)。特に LDL-C が高い患者ほど恩恵が大きく、LDL-C 100 mg/dL 超の患者では相対リスク低下が 24%に達しました。急性冠症候群後の積極的 LDL-C 低下の重要性を示し、2026 年ガイドラインの超高リスク管理の根拠となっています。
論文④:ESC/EAS 脂質異常症管理ガイドライン 2019(Mach et al. Eur Heart J 2020)
欧州心臓学会(ESC)と欧州動脈硬化学会(EAS)が共同発表した脂質管理の基準文書。超高リスク患者の LDL-C 目標を「<55 mg/dL かつベースラインから 50%以上の低下」と設定しており、2026 年 ACC/AHAガイドラインと整合しています。ヨーロッパのガイドラインがいち早く設定したこの目標が、FOURIER・ ODYSSEY・VESALIUS-CV 等の試験で裏付けられた形です。生活習慣介入、スタチン、エゼチミブ、 PCSK9 阻害薬の段階的な使用アルゴリズムを明示し、2026 年 ACC/AHA ガイドラインの基本的な考え方と一致しています。
論文⑤:CLEAR Outcomes 試験(Nissen et al. N Engl J Med 2023)
スタチン不耐性(副作用で服用困難)の患者への新たな選択肢として注目されるベムペド酸(bempedoic acid)の大規模 RCT(n=13,970、追跡期間中央値 40.6 ヶ月)。スタチン不耐性の高リスク患者にお いてベムペド酸投与群では LDL-C が 21.1%低下し、主要心血管イベントが 13%有意に減少しました(HR: 0.87、 95%CI: 0.79-0.96、p=0.004)。筋肉への影響が少なく、スタチンが使えない患者への経口薬の選択肢として 2026 年ガイドラインでも位置付けられています。
論文⑥:ORION-10 試験(Ray et al. N Engl J Med 2020)
inclisiran(インクリシラン)という siRNA(低分子干渉 RNA)製剤の第 3 相試験。肝細胞の PCSK9 遺伝子発現を RNA レベルで抑制するという革新的な機序で、年 2 回の皮下注射という投与スケジュールが特徴です。スタチン服用中の心血管疾患患者 1,561 人を対象とし、18 ヶ月時点での LDL-C 低下率は 52.3%(プラセボ比)。投与の簡便さと高いアドヒアランスが期待され、PCSK9 阻害薬の新たなカテゴリー として2026 年ガイドラインに組み込まれています。
論文⑦:Lp(a) と ASCVD リスクに関する ESC 合意声明(Kronenberg et al. Eur Heart J 2022)
欧州心臓学会がリポ蛋白(a)【Lp(a)】に関する包括的な合意声明を発表。Lp(a) は遺伝的に規定される動脈硬化の独立したリスク因子であり、LDL-C が正常でも Lp(a) ≥50 mg/dL(≥125 nmol/L)では心血管リスクが有意に上昇します。成人への少なくとも 1 回の測定を推奨しており、2026 年 ACC/AHA ガイドラインが「全成人に Lp(a) の普遍的スクリーニング」を推奨する根拠となっています。現在、Lp(a) を標的と した核酸薬の大規模試験(HORIZON 試験など)が進行中であり、近い将来に Lp(a) 低下薬が登場する可能性があります。
論文⑧:日本動脈硬化学会(JAS)動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022 年版(Kinoshita et al. J Atheroscler Thromb 2023)
日本において動脈硬化性疾患の予防・治療の基準文書となる JAS ガイドラインの 2022 年版。日本人 データに基づくリスク分類と管理目標が示されており、「二次予防(既往のある方)」では LDL-C <70 mg/dL を基本目標とし、「冠動脈疾患の超高リスク(ACS 後・DM 合併等)」では LDL-C <55 mg/dL への強化目標が追加されました。欧米ガイドラインとの整合性を保ちつつ、日本人の生活習慣・体型・食習慣を考慮した独自の推奨が組み込まれています。
論文⑨:EMPATHY 試験(Taguchi et al. Sci Rep 2018)〜日本人における脂質管理の強化の意義〜
日本における動脈硬化性疾患患者を対象とした唯一の大規模 RCT。スタチン集中治療群(LDL-C <70 mg/dL 目標)vs 標準治療群(LDL-C 100〜120 mg/dL 目標)を 5 年間追跡比較(n=5,042)。集中治療群では LDL-C が有意に低下したものの、主要心血管イベントの低下は統計的有意差には達しませんでした(HR: 0.84、95%CI: 0.67-1.07)。ただし、アドヒアランスの問題(目標未達成例が多かった)や追跡期間の短さが影響した可能性が指摘されています。この試験は「目標値を設定すること」と「実際にその目標値を達成すること」の重要性を日本の臨床現場に示した貴重な研究です。
論文⑩:CTT コラボレーション メタ解析(Cholesterol Treatment Trialists, Lancet 2022)
26 の大規模スタチン試験と 22 の非スタチン試験を含む、最大規模のメタ解析。22 万人以上のデータを統合した結果、LDL-C を 1 mmol/L(約 38.7 mg/dL)低下させるごとに主要心血管イベントが約 22%減少することが示されました。この「LDL 低下量に比例してイベントが減る」という量反応関係は、最新ガイドラインの積極的 LDL-C 低下戦略の最も重要な科学的根拠のひとつです。また非スタチン薬(エゼチミブ・PCSK9阻害薬)でも同等の効果が得られることが確認されており、薬剤の種類よりも「LDL-C をどこまで下げるか」が重要であることを示しています。
■よくある質問(FAQ)
Q: LDL コレステロールはどこまで下げれば下げるほど良いのですか?
現在入手できるエビデンスの範囲では、「LDL-C は下げれば下げるほど心血管リスクが下がる」という量反応関係が確認されています。CTT コラボレーションのメタ解析(Lancet 2022)では、LDL-C を 1 mmol/L下げるごとに主要心血管イベントが約 22%減少することが示されました。FOURIER 試験では中央値 30 mg/dL まで下げても安全性に問題はなく、VESALIUS-CV 試験(N Engl J Med 2026)でも 45 mg/dL 達成群で有益性が確認されています。ただし、現実的な治療目標としては患者さんのリスク区分に応じて「超高リスクは 55 mg/dL 未満」「高リスクは 70 mg/dL 未満」が設定されています。極端に低くすることによる害(出血性脳卒中など)については現時点では明確なエビデンスがなく、2026 年 ACC/AHA ガイドラインでは安全性への懸念より利益が上回ると判断されています。
Q: スタチンの副作用が怖いのですが、他の薬で代替できますか?
スタチンによる筋肉痛(ミオパチー)は臨床試験で約 5〜10%に報告されますが、重篤な横紋筋融 解症の発症率は 0.01〜0.1%と非常にまれです。なお、二重盲検試験(Blinded Nocebo Study of Statin Side Effects, NEJM 2020)では、スタチンによる筋肉症状の多くが「ノセボ効果(薬への先入観が引き起こす症状)」であることも示されています。それでもスタチンが使えない場合、2026 年ガイドラインはいくつかの代替・追加治療を推奨しています。エゼチミブは経口の非スタチン薬で筋肉への影響がなく、IMPROVE-IT試験(NEJM 2015)でスタチンに上乗せして心血管イベントを 6.4%減少させました。ベムペド酸は CLEAR Outcomes 試験(NEJM 2023)でスタチン不耐性患者のイベントを 13%減少させました。PCSK9 阻害薬(エボロクマブ・アリロクマブ)は注射薬ですが、スタチンに関係なく LDL-C を 50〜60%低下させます。ご自身に合った治療法について、かかりつけ医と相談してください。
Q: Lp(a)(リポ蛋白 a)の検査は必要ですか?どのような人が受けるべきですか?
2026 年 ACC/AHA ガイドラインは、すべての成人が生涯に少なくとも 1 回は Lp(a) を測定する ことを推奨しています。Lp(a) は遺伝的に決まるため、生活習慣の改善や一般的な脂質低下薬ではほとんど下がりません。ESC の合意声明(Kronenberg et al. Eur Heart J 2022)によれば、Lp(a) ≥50 mg/dL(≥125 nmol/L)は独立した心血管リスク因子であり、家族性高コレステロール血症の診断基準としても重要です。特に「LDL-C は正常なのに心血管疾患になった方」「家族に若くして心筋梗塞を起こした方がいる方」「 動脈硬化性疾患の家族歴がある方」は測定が強く推奨されます。現在、Lp(a) を直接標的とする核酸医薬(ペラカルセン等)の大規模試験が世界で進行中であり、近い将来に治療選択肢が広がる可能性があります。
Q: 糖尿病があるとコレステロールの目標値は変わりますか?
はい、変わります。糖尿病は動脈硬化のリスクを大幅に高めるため、2026 年 ACC/AHA ガイド ラインでは糖尿病の状態によって目標値が変わります。「高リスク糖尿病」(インスリン療法・罹病期間 10 年以上・細小血管合併症あり)に追加リスク因子が重なる患者を対象とした VESALIUS-CV 試験(N Engl J Med 2026)では、LDL-C を 55 mg/dL 未満に下げることで心筋梗塞・脳卒中の発症を有意に抑制しました(HR:0.75)。一般的な糖尿病患者では LDL-C <70 mg/dL が目標とされますが、心血管疾患の既往があれ ば<55 mg/dL が推奨されます。また日本動脈硬化学会の JAS ガイドライン 2022 年版でも、糖尿病合併の冠動脈疾患患者への LDL-C <55 mg/dL の達成が推奨されています。定期的な HbA1c と脂質の同時管理が心血管予防の要です。
Q: 生活習慣の改善だけでコレステロールを下げることはできますか?どの程度の効果が期待できますか?
生活習慣改善は脂質管理の基盤であり、2026 年ガイドラインも薬物療法と並行して継続することを強く推奨しています。具体的なエビデンスとして:①食事:飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸(オメガ 3・6 系)に置き換えることで LDL-C が 3〜8 mg/dL 低下します(CTT メタ解析 Lancet 2022)。地中海食や DASH 食は LDL-C の低下に加え、炎症指標・血圧・血糖の改善も示されています。②運動:定期的な中強度有酸素運動(週 150 分以上)は HDL-C(善玉コレステロール)を 5〜10%高め、中性脂肪を 15〜20%低下させます。③禁煙:喫煙は HDL-C を低下させ動脈硬化を促進するため、禁煙により HDL-C 改善と酸化ストレス軽減の両方の効果が期待できます。ただし生活習慣改善による LDL-C 低下効果は最大で 10〜20%程度であり、高リスク患者では薬物療法との併用が不可欠です。まんかいメディカルクリニックでは生活習慣改善と薬物療法を組み合わせた個別化プログラムを提供しています。
Q: スタチンは一生飲み続けなければなりませんか?
「一生飲み続けるのは嫌だ」――これは外来でも非常によく聞かれる言葉です。結論から言えば、高リスクの方では原則として長期継続が推奨されています。その理由はエビデンスにあります。
スタチンをやめるとリスクが戻る
スタチンは LDL-C を下げる作用を持ちますが、飲むのをやめると通常 2〜4 週間以内に血中 LDL-C は服薬前の値に戻ります。動脈硬化は LDL-C が高い状態が続くほど進行するため、中断によってそれまでの予防効果が失われます。Heart Protection Study(HPS)のサブ解析では、スタチンを中断した群でその後の心血管イベントリスクが有意に上昇することが示されており、長期継続の重要性を支持しています。また、 CTT コラボレーション(Lancet 2022)のメタ解析では、スタチンによる LDL-C 低下の恩恵は治療期間に比例して蓄積されることが確認されています。つまり「長く続けるほど守られる」のです。
「一生飲む」ことの安全性はどうか
スタチンは世界で最も長期安全性データが蓄積されている薬剤のひとつです。20 年以上にわたる追跡研究でも、肝障害・腎障害・認知機能低下との因果関係は確認されていません。懸念されることがある新規糖尿病リスクについては、スタチン投与群でわずかに上昇する可能性が報告されていますが(JUPITER 試験など)、それによる心血管イベント予防効果のほうが統計的にはるかに大きく、2026 年 ACC/AHA ガイドラインでも「ベネフィットがリスクを上回る」と明確に結論づけています。
減量や生活習慣の改善で中止できるケースも
すべての方が一生涯スタチンを必要とするわけではありません。低〜境界リスクの方で、食事療法・運動・体重減少・禁煙などの生活習慣介入によって LDL-C が目標値に達した場合は、担当医の判断のもとで減量・中止を検討できる場合があります。特に、肥満や過栄養が主因で LDL-C が高かった方では、体重が大幅に改善すると LDL-C も著明に低下することがあります。GLP-1 受容体作動薬による体重管理が LDL-C にも好影響を与えることも、近年の研究(SURMOUNT-1 試験など)で示されています。一方、心筋梗塞・脳卒中の既往がある方(二次予防)や高リスク糖尿病の方では、生活習慣の改善状況にかかわらず継続が強く推奨されます。「自分はやめられるのか」という疑問は、ぜひ担当医と PREVENT-ASCVD のリスク評価をもとに相談してみてください。
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本コラムは最新の学術文献に基づく医療情報提供を目的としたものであり、個々の診断・治療を保 証するものではありません。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
