【脂肪肝】たかが脂肪肝、されど脂肪肝
脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積した状態のことです。
以前は「ただの脂肪肝」と軽く見られがちでしたが、実は現代人の約3割が抱えている、非常に一般的な肝臓の病気であり、放置すれば肝硬変(かんこうへん)や肝臓がんといった重篤な疾患に進展する可能性があります。脂肪肝自体に明確な自覚症状はなく「沈黙の臓器」とも呼ばれますが、その陰で肝臓は悲鳴を上げており、「たかが脂肪肝、されど脂肪肝」と心得る必要があります。
近年、ウイルス性肝炎の克服により肝硬変・肝がんの原因として脂肪肝が台頭してきたことから、国内外で脂肪肝への注目が高まっています。また脂肪肝は生活習慣病(メタボリックシンドローム)と深く関係し、心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患のリスク因子にもなり得ることが分かっています。本記事では、脂肪肝の定義(MASLD/MASH/MetALD)や原因、検査方法、そして治療法(食事療法・禁酒・運動・体重管理・薬物療法)について、日本・米国・欧州の知見を踏まえながら分かりやすく解説します。
■MASLD/MASH/MetALDの定義と新しい名称
脂肪肝には大きく分けて「アルコール性脂肪肝」と「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」があり、後者はお酒を飲まない人に起こる脂肪肝として注目されてきました。しかし、“Non-Alcoholic(非アルコール性)”という名前は飲酒習慣がないことを強調するあまり、「何もしていないのに脂肪肝になった」という患者さんの自責の念を和らげる一方で、肥満や糖尿病など根本原因である代謝異常への注目が薄れる欠点がありました。さらに英語で「Fatty (fat)」や「Alcoholic」といった言葉には侮蔑的な響きがあるため、患者へのスティグマになりうるとして、名称変更を求める声が上がりました。
そこで2023年、米国肝臓病学会(AASLD)・欧州肝臓学会(EASL)・南米肝臓学会(ALEH)など世界の肝臓専門家によるコンセンサス会議により、新しい脂肪性肝疾患の分類と名称が発表されました。その概要は以下の通りです。
●Steatotic Liver Disease (SLD)/脂肪性肝疾患
脂肪肝全般の包括的な病名(新設された総称)。
●MASLD (Metabolic dysfunction-associated Steatotic Liver Disease)/代謝異常関連脂肪肝疾患
従来のNAFLDに相当する新しい病名です。診断には肝臓に5%以上の脂肪蓄積(脂肪肝)があり、肥満・2型糖尿病・高血圧・高トリグリセリド血症・低HDLコレステロール血症といった心代謝リスク因子を少なくとも1つ有することが必要です(リスク因子の具体的基準は人種によって異なり、日本人では、BMI≧23や腹囲基準の見直しも検討されています。従来のNAFLD患者の96%以上はこのMASLD基準を満たすと報告されており、基本的には名称が変わっただけで、対象となる患者層は大きく変わりません。ただし、「非アルコール性」という除外要件が外れたことで、診断の際に「他の肝疾患ではないこと」を厳密に確認する必要がなくなり、従来より簡便に診断できるようになりました(以前は肝生検を行って確定診断するケースもありましたが、MASLDでは診断基準が実用的になり肝生検は必須ではなくなっています。
●MASH (Metabolic dysfunction-associated SteatoHepatitis)/代謝異常関連脂肪肝炎
MASLDの中でも、肝臓に炎症と細胞障害(風船化変性など)を認める状態で、従来の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に相当します。脂肪肝が単なる脂肪蓄積から肝炎(肝細胞の炎症・変性)を伴う段階に進行したことを示し、この段階になると、線維化が進展して肝硬変や肝がんのリスクが高まります。
●MetALD (Metabolic dysfunction-associated and Alcohol-related Liver Disease)/代謝異常とアルコール関連脂肪肝疾患
MASLDに該当する脂肪肝患者のうち、飲酒量が比較的多いケースを指す新設カテゴリです。具体的には、男性で週あたり純アルコール摂取量が210g超(エタノール換算で1日平均30g超)、女性で140g超(1日20g超)といった、中等度以上の飲酒習慣がある場合、純粋なMASLDとは区別してMetALDと分類されます。以前、このような患者さまは「アルコール摂取量が多いのでNAFLDから除外」という扱いでしたが、新分類では、飲酒習慣と代謝異常の両方が脂肪肝の要因であることを明示した形です。MetALDと診断された場合でも、生活習慣改善や代謝リスク管理を行う点で、MASLDと共通ですが、加えてアルコール制限がより強く求められます。
●ALD (Alcohol-related Liver Disease)/アルコール関連肝疾患
従来からある、大量飲酒による肝障害(脂肪肝~肝炎~肝硬変)の総称です。上記MetALDにも該当しないような、純粋なアルコール性脂肪肝の場合はこちらに分類されます(男性でエタノール換算1日約60g以上の飲酒は大量飲酒とされ、脂肪肝のみならずアルコール性肝炎や肝硬変のリスクが高まります)。
●Cryptogenic SLD/成因不明脂肪性肝疾患
原因となる代謝異常も飲酒もないのに脂肪肝になる希少なケースを指します。例えば、劇的な体重減少や栄養不良、特定の遺伝要因などで脂肪肝が起こる場合が該当しますが、頻度的には多くありません(これまで「原因不明の肝硬変」とされていたものの一部は、実際には過去のNASHの名残だった可能性があります)。
●Specific Aetiology SLD/特定成因脂肪性肝疾患
薬剤性肝障害やウイルソン病など、はっきりとした他の原因による脂肪肝に分類されるものです。脂肪肝は様々な肝疾患に付随しうる所見なので、それら明確な原因疾患があればこちらに分類されます。
以上のように新しい分類では、「非アルコール性」など否定的な表現を避けつつ、脂肪肝の原因に積極的に着目した名前へと変更されています。
日本肝臓学会と日本消化器病学会もこの国際方針に賛同し、2024年に新しい日本語病名を発表しました。それによれば、MASLDは「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」(正式な日本語病名)、MASHは「代謝機能障害関連脂肪肝炎」、MetALDは「代謝機能障害アルコール関連肝疾患」と訳されています。本コラムでも便宜上、以降は主に新しい用語(MASLD/MASH等)を用いて解説しますが、従来のNAFLDやNASHとほぼ同義であることを念頭に置いてください。
■脂肪肝の原因とメカニズム(なぜ脂肪肝になるのか)
MASLD(代謝異常関連脂肪肝)の大半の原因は、食べ過ぎ・運動不足・睡眠不足やストレスなどの生活習慣の乱れです。簡単に言えば摂取カロリーが過剰で、消費が追いつかない状態が続くと、余ったエネルギーが中性脂肪として肝臓に蓄積していきます。また、遺伝的な体質や腸内細菌叢の影響も明らかになっており、太っていなくても脂肪肝になる人も少なくありません。
実際、日本人のMASLD患者の約20%は、BMI25未満の非肥満タイプであると推定されており、その背景にはPNPLA3という脂肪代謝に関与する遺伝子変異を持つ人の割合が高いこと(日本人では約30%)などが関係しています。この遺伝的要因により、日本人の脂肪肝は欧米よりも肝硬変・肝がんに進展しやすい傾向が指摘されています。
脂肪肝のメカニズムは、食習慣や運動習慣と密接に関わるメタボリックシンドローム(代謝異常症候群)そのものです。代表的なリスク因子として内臓脂肪(腹部肥満)、インスリン抵抗性(糖代謝異常)、2型糖尿病, 高血圧, 脂質異常症(高トリグリセリド血症・低HDLコレステロール血症)が挙げられ、これらはそのままMASLD発症の主要因子です。
内臓脂肪は、人間最大の内分泌臓器とも呼ばれ、脂肪が過剰に蓄積するとTNF-αやインターロイキン6など、炎症性サイトカインを大量に分泌します。これらが肝臓に流れ込むことで、肝臓に慢性的な炎症反応が起こり、細胞内では活性酸素が増えて酸化ストレスという有害な状態に陥ります。こうして肝細胞の傷害(脂肪肝炎=MASH)が生じると、更なる炎症と細胞死が連鎖して肝臓内で線維化が進行し始めます。肝線維化とは肝臓に瘢痕組織(コラーゲン繊維)が沈着して硬くなることで、最終的には肝硬変に至ります。
肥満や糖尿病などの生活習慣病を抱える方は、脂肪肝のリスクが非常に高くなります。逆に言えば脂肪肝は全身の代謝異常の表れであり、肝臓以外の臓器にも影響を及ぼします。例えば、内臓肥満のある方は動脈硬化が進行しやすく、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが高まります。また、糖尿病や高血圧を合併している場合、それ自体が肝線維化や肝がんへの進行リスクを更に押し上げます。実際、MASLD患者の死因を見ると、肝硬変・肝がんといった肝臓病に加え、心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中など)や肝外の癌(大腸がん、膵臓がん、子宮がん等)も多いことが報告されています。
このように脂肪肝は単なる肝臓の異常に留まらず、全身の健康に深く関わる疾患なのです。
一方で、お酒をまったく飲まないのに脂肪肝になるケースもあります。
上記のように、飲酒以外の要因(代謝異常や遺伝素因など)で発症する脂肪肝がMASLDであり、日本を含む東アジアでは、特にそうした「非肥満型NAFLD(Lean NAFLD)」が多いことが知られています。
自分は痩せ型だから、あるいは甘い物も控えているから脂肪肝とは無縁だ…と思われるかもしれませんが、現代社会ではストレスや睡眠不足、運動不足による軽度の内臓脂肪蓄積でも脂肪肝が起こりえます。また高齢者では、加齢に伴う筋肉量の低下(サルコペニア)が脂肪肝の一因となることも分かってきました。痩せていても内臓脂肪は少しずつ蓄積するため、自覚がなくとも肝臓には脂肪が溜まっていることがあります。特に日本人は欧米人に比べて皮下脂肪より内臓脂肪がつきやすい体質とも言われますので、BMIが正常範囲でもウエスト周囲径が大きめの方(いわゆる隠れ肥満)は注意が必要です。
まとめると、脂肪肝(MASLD)の主な原因は、過剰な栄養(糖質・脂質)の摂取と運動不足によるエネルギー過剰であり、それによって肥満・インスリン抵抗性・脂質代謝異常など複数の代謝異常が引き起こされ、肝臓に脂肪が蓄積します。さらに遺伝要因や腸内環境など複合的な要素が絡み、肝臓の炎症・線維化へと進行していきます。
脂肪肝は、初期のうちであれば生活習慣の改善によって十分に改善・回復可能な病態でもあります。次章からは、具体的な検査方法や治療法について詳しく説明していきます。
■脂肪肝の検査方法(どのように診断するか)
脂肪肝は基本的に自覚症状がなく、健康診断の超音波検査(エコー)や血液検査で初めて指摘されることがほとんどです。「肝機能」の異常をみる血液検査項目(AST/GOT、ALT/GPT、γ-GTPなど)が高値だと脂肪肝を疑いますが、注意すべきはこれらの数値が正常でも脂肪肝を否定できない点です。
実際、軽度~中等度の脂肪肝ではAST・ALTが基準値内に収まることも珍しくなく、逆に数値が高くても肝炎や線維化が進んでいない場合もあります。
したがって、肥満傾向にある方や糖尿病・高血圧・脂質異常症などのリスク因子を持つ方は、血液検査だけで安心せず腹部超音波検査(腹部エコー)で肝臓の脂肪有無をチェックすることが重要です。
エコー検査では、脂肪肝になると肝臓が全体的に白く高エコー(高輝度)に見え、腎臓より白く写る「肝腎コントラスト陽性」や、深部が見えにくくなる「後方エコー減衰」といった所見が現れます。超音波は痛みもなく被曝もない安全な検査ですので、脂肪肝が疑われる方にはまず腹部エコーをお勧めします。
最近では、腹部エコー装置に脂肪肝の定量化(脂肪蓄積の程度を数値で示す)機能を持つものも登場しており、通常診療でも活用され始めています。
例えば、ATT(超音波減衰係数)やCAP値(Controlled Attenuation Parameter)といった指標で脂肪含有率を推定し、経過観察に役立てることが可能です。
エコー以外の画像検査では、腹部CTやMRIでも脂肪肝の診断・定量ができます。特に、MRIは肝脂肪量を正確に定量化するMRI-PDFFという解析が可能ですが、高価なため主に研究目的で使われます。一般的にはエコー検査が脂肪肝スクリーニングの第一選択です。
血液検査では、肝臓の炎症や線維化のマーカーを調べることがあります。
例えば、CK-18(サイトケラチン18)はNASHの補助診断マーカーとして保険承認され、MASHの活動性(炎症の程度)を反映します。またヒアルロン酸、IV型コラーゲン7S, M2BPGi(Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体)などは線維化のマーカーとして測定され、肝硬変の診断や予後予測に用いられます。
これら単独では精度に限界がありますが、複数のマーカーを組み合わせたELFスコア(Enhanced Liver Fibrosisスコア)が欧米で導入され、日本でも2024年から保険算定可能となりました。ELFスコアは血液で線維化の程度を評価でき、FIB-4より高価ですが精度が高い検査です。
FIB-4インデックスは近年最も広く推奨されている肝線維化リスク評価ツールです。
年齢・AST・ALT・血小板値から算出する簡易指数で、本来はC型肝炎の線維化評価のため開発されましたがNAFLD/MASLDでも有用性が確認されました。FIB-4が1.3未満であれば進行線維化(F3-F4)の可能性が極めて低く、1.3以上なら追加精密検査が必要とされています。ガイドラインでもまずFIB-4で線維化リスクをスクリーニングし、高値の場合に次の段階の検査へ進むことが推奨されています。この「次の段階の検査」として用いられるのが、前述の血中マーカー(ELFなど)や画像による肝硬度測定です。
肝臓の硬さ(線維化)を非侵襲的に測定する技術として代表的なのがエラストグラフィです。超音波エラストグラフィ装置(FibroScanなど)では、肝臓に振動波を当てて伝わる速さから肝組織の硬さ(せん断波速度)を測定します。硬い(線維化の進んだ)肝臓ほど振動が速く伝わるため、その速さをkPa(キロパスカル)という単位で数値化し、線維化ステージF0~F4に相当する値を推定できます。FibroScanは痛みもなく数分で終わる検査で、国内でも保険適用され広く使われています。またMRIを用いたMRエラストグラフィはさらに高精度ですが、設備の関係で主に専門施設で行われます。エラストグラフィの数値と肝生検病理結果との相関は良好で、肝生検に匹敵する診断能力を持つまでに進歩しています。
最終的な確定診断や線維化の詳細評価には、肝生検(肝臓の組織検査)が必要となる場合があります。肝生検では局所麻酔下で肝臓に細い針を刺し、数mm×数cm程度の組織を採取して顕微鏡で解析します。これによって脂肪の蓄積度、炎症や肝細胞傷害の有無(NASH/MASHかどうか)、線維化のステージ(F1~F4)などを正確に判定できます。NASH(MASH)の正式診断は本来この肝生検によりますが、侵襲的手技のため入院や出血リスクが伴います。そのため現在では非侵襲検査で高度線維化が疑われる場合に限り、生検で確認するという方法が一般的です。実際問題として、肥満患者における生検のリスクや合併症も無視できません。
よって「血液検査 + 画像検査 + 臨床背景」を総合して脂肪肝・NASHの診断を行い、重症度評価にはFIB-4やエラストグラフィを活用し、生検は必要最小限に留めるという流れが主流です。
早期発見の観点からは、肥満傾向の方や生活習慣病を抱える方は、定期的に肝臓の検査を受けることが望まれます。具体的には年1回以上の健康診断で腹部超音波検査を含める、血液検査でAST・ALT・γ-GTPの推移を見る、といったことが有用です。
また自宅でできる簡易チェックとして、ウエスト周囲長(おへそ周り)を測る方法があります。日本人では一般に、男性で85cm以上・女性で95cm以上あると脂肪肝の人が半数を超えると報告されています。若い頃(20歳時点)に比べて体重が+10kg以上増えている方も脂肪肝リスクが高いです。こうした自分の体型変化も指標に、「もしかして脂肪肝かも?」と思ったら放置せず医療機関で検査を受けましょう。
■食事療法:肝臓に良い食事とは?
脂肪肝の治療法の基本は食事を含む生活習慣の見直しです。
肝臓に良い食事とは、一言でいえば「適正エネルギーかつバランスの取れた食事」です。具体的には、摂取カロリーを適切に制限して体重を減らすことが何より重要となります。肥満を伴う脂肪肝の患者さんでは、まず減量するだけで肝臓の脂肪が大きく減少します。目標としては5~10%の体重減少で肝臓の脂肪沈着や肝炎の改善が期待でき、10%以上減量できれば線維化の改善(肝硬変への進行抑制)も報告されています。例えば体重70kgの人なら3.5~7kgの減量が一つの目安です。急激なダイエットは推奨されませんが(極端な絶食はかえって肝臓に負担をかける可能性があります)、適度なカロリー制限と適切な栄養バランスで無理なく痩せていくことが大切です。一般には現在の食事量から摂取エネルギーを20~30%程度減らすと持続しやすく、有効な減量につながります。日本人の平均的な必要エネルギー量(デスクワーク中心の場合)は1日あたり成人男性で約2400kcal、女性で約1800kcal前後なので、脂肪肝の方はそれより500kcalほど少ない食事を続けると徐々に体重が減っていく計算です(個人差がありますので専門医や管理栄養士に相談すると良いでしょう)。
栄養バランスの面では、炭水化物・脂質・たんぱく質の比率や質に気を配ります。
特に現代の食生活では、糖質と飽和脂肪(動物性脂肪)の過剰摂取が問題となるため、これらを減らしつつビタミン・ミネラルや食物繊維を豊富に含む食品を増やすことがポイントです。具体的には、野菜・果物・海藻・キノコ・豆類・全粒穀物などの食物繊維や抗酸化成分が多い食品、そして魚(特に青魚)やオリーブオイル・ナッツ類に含まれる良質な不飽和脂肪酸を積極的に摂るようにします。一方で、砂糖類や精製された炭水化物(白米や小麦製品の過剰摂取)、ジュースや清涼飲料水などの果糖を多く含む飲料、揚げ物やバター・ラードなど飽和脂肪酸の多い高脂肪食は肝臓に中性脂肪を溜め込む原因となるため控えましょう。こうした食習慣は、いわゆる「地中海式食事」に近いスタイルです。実際、欧米の研究では地中海食(野菜・果物・魚・オリーブ油中心で、赤身肉やバター・砂糖を控えた食事)は脂肪肝の改善に有効であると報告されています。逆に高炭水化物・高脂肪の食事を続けると、たとえカロリーが同じでも肝臓に脂肪が付きやすくなります。特に果糖(フルクトース)はブドウ糖以上に脂肪合成を促進するため、砂糖や異性化糖を大量に含む清涼飲料の飲みすぎは要注意です。
もう一つ、肝臓に良い飲み物としてコーヒーが挙げられます。意外に思われるかもしれませんが、ブラックコーヒー(砂糖やクリームを加えないもの)を適量飲む習慣は、脂肪肝のリスク低減に繋がる可能性があります。複数の研究を統合解析したメタ分析では、コーヒー摂取により脂肪肝発症リスクが約29%低下し、さらに肝線維化の進行リスクも約30%低下するとの結果が報告されています。コーヒーに含まれるポリフェノールやカフェインが肝臓の炎症・線維化を抑制する作用があると考えられています。ただしカフェインの過剰摂取は、不眠や動悸の原因になり得るため、飲みすぎには注意しましょう(午後はカフェインレスに切り替えるなど工夫してください。目安として1日2~3杯程度のブラックコーヒーであれば肝臓に有益とされています。
栄養素では、他にビタミンE(抗酸化作用)も脂肪肝に良い可能性があります。ビタミンEはナッツ類や植物油、緑黄色野菜などに多く含まれますが、食事だけで十分な量を摂取するのは難しいため、NASHの一部患者には高用量のビタミンEサプリメント投与が行われます。これは肝細胞の酸化ストレスを和らげ炎症・線維化を改善する効果が期待されるためですが、長期大量摂取は出血傾向や総死亡率の増加といった報告もあり、自己判断で大量に摂ることはお勧めできません。医師の指導のもとで必要な方のみ補助的に用いる形になります。基本は日々の食事から自然に摂取することが望ましいでしょう。
以上のように、脂肪肝の食事療法では「適正なカロリー」「バランスの良い栄養」「肝臓に優しい食品を選び、負担となる食品を避ける」ことが大切です。
食事療法の具体例
主食 | 白米よりも玄米や雑穀米、全粒パンなど食物繊維が多いものを選ぶ。麺類やパンは食べ過ぎない(糖質過多に注意)。 |
主菜 | 肉より魚を中心に(特に青魚のEPA/DHAは抗炎症効果があります)。肉を食べるなら脂身の少ない赤身肉や鶏むね肉を適量に。揚げるより茹でる・蒸す・焼く調理で余計な脂を落とす。 |
副菜 | 毎食たっぷりの野菜料理を摂る。食物繊維は腸での脂肪・糖の吸収を緩やかにし、肝臓への負担を減らします。きのこ類や海藻類も低カロリーでビタミンミネラル豊富なので積極的に。 |
乳製品 | 脂肪分の多い牛乳やチーズの摂りすぎは避けつつ、良質なたんぱく源やカルシウム源として無脂肪~低脂肪乳製品を適量利用。ヨーグルトは腸内環境改善に役立ちます。 |
間食 | 甘いお菓子やジュースはできるだけ控えます。小腹が空いたら素焼きナッツや果物少量、無糖ヨーグルトなどがお勧めです。アルコールは後述するようにできれば禁酒し、水やお茶、ブラックコーヒーなどに置き換えましょう。 |
このような地道な食習慣の改善によって、脂肪肝はかなりの程度まで改善可能です。「肝臓に良い食事」は即効性こそありませんが、副作用もなく体全体の健康増進にも繋がります。栄養バランスの取れた食事を続け、過度な制限食や偏ったダイエットは避けてください。
禁酒(アルコールとの関係、MetALDを含む)
前述のとおり、MASLD(旧NAFLD)は基本的に飲酒以外の要因で起こる脂肪肝ですが、アルコール摂取が脂肪肝に与える影響は無視できません。むしろ適量の飲酒であっても肝臓に余分な脂肪を蓄積させてしまうことが分かっています。アルコールの代謝過程で生じる物質(アセトアルデヒドや活性酸素など)は、肝細胞に直接ダメージを与え、肝臓内での脂肪酸の分解を阻害したり中性脂肪の蓄積を促進したりします。そのため、お酒を飲む人は飲まない人に比べて脂肪肝が悪化しやすく、「少量なら問題ない」という油断は禁物です。特にMASH(脂肪肝炎)や線維化を認める段階では、肝臓の回復のため禁酒が強く推奨されます。肝硬変寸前の状態でさらにお酒を飲めば、一気に肝不全へ進行する危険すらあります。
ただ現実問題として、お酒をたしなむ方に「今日から一滴も飲まないで」とお願いするのは容易ではありません。そこで一般的な目安としては「適正飲酒量の範囲内に留めること」を最低ラインとします。日本では「節度ある適度な飲酒」として男性1日あたりエタノール20g程度、女性は10g程度までとされています(ビール中瓶1本=エタノール約20gに相当)。冒頭で触れたMetALDの基準でいうと、男性は1週あたり140g以下・女性は90g以下くらいがこの範囲に当たります。
繰り返しになりますが、脂肪肝の改善という観点では、“ゼロに近いほど良い”のが事実です。たとえ適量の飲酒でも、肝臓にとっては無い方が望ましいのです。したがってMASLDと診断された方は、可能な限り禁酒を目指してください。
特にMetALD(代謝異常+アルコール性脂肪肝)と分類されるような方は要注意です。代謝リスク因子を抱え脂肪肝になっているうえに飲酒量も多いということで、肝臓には二重三重の負荷がかかっています。MetALDは名称こそ新しいものの、言い換えれば「肥満や糖尿病がある人のアルコール性脂肪肝」です。こうした患者さんでは肝硬変への進行や肝がん発症率が非常に高くなるため、肝臓専門医の指導のもとで減量と禁酒を厳格に実践する必要があります。
では「どの程度飲むと脂肪肝に悪影響か」について補足します。適量飲酒の範囲(男性20g/日・女性10g/日程度)内であれば肝臓への負担は限定的とされていますが、それでも長期的に見ると飲酒量に比例して肝疾患リスクが増加するとの報告があります。特に一日あたりエタノール40g以上(日本酒2合、ビール大瓶2本程度)の飲酒を続けると、明らかな肝障害リスクゾーンに入ります。肝臓は沈黙の臓器ゆえ、自覚症状がなくとも肝機能数値がじわじわ悪化しているかもしれません。脂肪肝と言われた方は「休肝日」を週に2日以上設ける、できれば完全禁酒に踏み切るくらいの覚悟で臨んでください。どうしてもお酒を楽しみたい場合は、できるだけ低アルコールの飲み物を少量ゆっくり嗜む程度にし、暴飲暴食は避けます。また「飲まないと寝付けない」といった状況であれば、生活リズムの改善やストレス対処を見直すサインです。必要なら専門家に相談し、アルコール以外の方法でリラックスできる手段(軽い運動や入浴、ハーブティー等)を見つけましょう。
要点をまとめると、脂肪肝の改善・予防にはアルコールは少なければ少ないほど良いです。MASLDの方は「自分はアルコールが原因ではないから多少飲んでも平気」と思わず、肝臓のためには禁酒が理想であることを認識してください。一方で適量の飲酒を楽しみたいというお気持ちも理解できます。その場合は「休肝日を設ける」「節度ある量を超えない」「肝機能検査の数値を定期的にチェックする」といった自己管理を徹底し、少しでも肝臓に優しい飲み方を心がけましょう。
■運動療法:どんな運動が脂肪肝に効果的か
運動習慣の改善は、脂肪肝治療の柱の一つです。食事療法と並んで、またはそれ以上に重要です。運動によって余剰カロリーを消費できるのはもちろん、インスリン抵抗性の改善や筋肉量の増加による基礎代謝アップなど、脂肪肝の根本原因にアプローチできます。さらに適度な運動は血圧や血糖のコントロールにも良い影響を与え、心臓病や糖尿病など合併症の予防にもつながります。
では具体的にどのような運動をすれば良いか? 基本的には有酸素運動(エアロビクス運動)を中心に、無酸素運動(筋力トレーニング)も組み合わせるのが理想的です。ガイドラインでは、中強度の有酸素運動を週150~300分または高強度の有酸素運動を週75~150分行うことが推奨されています。中強度とは息が上がるが会話はできる程度の運動強度で、具体例としてやや早歩き~速歩き、軽いジョギング、サイクリング(平地で時速15~20km程度)、水泳(ゆったりしたクロールや平泳ぎ)、エアロバイクなどが挙げられます。たとえば1日30分の速歩きを週5日行えば合計150分となり、ちょうどこの基準を満たします。実際、脂肪肝患者を対象にした研究でも、週150分程度の有酸素運動を続けると肝臓内の脂肪が有意に減少し(MRIで測定した肝脂肪が30%以上減少した人が約4割にのぼったとの報告)、肝臓の炎症や線維化のマーカーも改善することが示されています。つまり運動療法は一種の「肝臓の薬」と言えるほど効果があるのです。
有酸素運動の強度・量について補足すると、「中強度150分/週」が一つの目安ですが、できる人は300分/週程度行うとさらに有益です。また中強度の運動が難しい場合は低強度(ゆっくりした散歩程度)でも構いません。その場合はもう少し長めに(毎日1時間歩く等)続けると良いでしょう。逆に高強度(ゼーハー息が上がるランニングやスポーツ)を行える人は、短時間でも効果があります。例えばランニングや山登り、水泳を週75分行うだけでも中強度150分に相当する運動量です。自分の体力レベルに応じて、無理のない範囲から始めてください。重要なのは「継続」することです。
さらに、レジスタンス運動(筋トレ)も脂肪肝改善に役立ちます。筋トレ自体が直接肝脂肪を大きく減らすわけではありませんが、筋肉量の増加やインスリン感受性の向上をもたらし、結果的に脂肪肝の改善を助けます。週に2~3回、筋力トレーニングの時間を取り入れると理想的です。ジムでのウェイトトレーニングに限らず、自宅でできる腕立て伏せ・スクワット・腹筋運動などでも十分です。筋トレは成長ホルモンの分泌を促し内臓脂肪の減少を助けるほか、基礎代謝を高めリバウンド予防にもなります。特に中高年では筋力低下が脂肪肝悪化に繋がるため、積極的に筋肉を鍛えましょう。
運動を習慣化するコツとしては、「自分が続けやすい種目」を選ぶことです。ウォーキングでもダンスでもヨガでも、何でも構いません。友人や家族と一緒に運動する習慣を作ったり、歩数計・スマホアプリで記録を付けてゲーム感覚で継続するのも効果的です。近年はオンラインで参加できるフィットネスプログラムも充実していますので、楽しめる方法を探してみてください。また日常生活の中でも、エレベーターより階段を使う、こまめに立ち上がって歩く、遠回りして歩数を稼ぐ等、「ながら運動」を心がけることで活動量を底上げできます。
運動習慣が付くと、多くの方は体調の良さや体重・体脂肪の減少を実感できるでしょう。肝臓の数値(AST/ALT/GGT)も数ヶ月単位で改善してくるはずです。ただし運動開始直後は筋肉の酵素が一時的に上昇しASTやCK(クレアチンキナーゼ)値がわずかに上がることがありますが、一過性の現象なので心配ありません。継続することで肝臓を含む全身の代謝状態が整い、結果的に肝機能も良くなっていきます。
最後に、安全面にも触れておきます。肥満や高血圧・心臓病のある方が急に激しい運動を始めるのは危険ですので、運動強度は医師と相談しながら決めてください。運動中は水分補給を忘れずに。関節に不安がある場合は水中ウォーキングやエアロバイクなど関節負担の少ない運動が適しています。何よりも「無理なく楽しく続ける」ことが運動療法成功の秘訣です。適度な運動は脂肪肝だけでなくストレス解消や睡眠の改善にも繋がりますので、ぜひ今日から生活に取り入れてみましょう。
体重管理:減量とリバウンド防止
体重管理(適正体重の維持)は脂肪肝対策の要です。食事療法と運動療法で触れたように、肥満を伴う脂肪肝では減量(ダイエット)に勝る治療法はありません。一方で痩せすぎも良くないので、自分にとって「適正な体重」を知り、それを長期的にキープすることが目標となります。適正体重の目安はBMI(体格指数)=22前後と言われます(BMI=体重(kg)÷身長(m)^2)。例えば身長170cmなら22×(1.7)^2≒63.5kgが標準体重です。ただしBMIはあくまで目安で、筋肉質な人や高齢者には当てはまりにくいこともあります。重要なのは内臓脂肪を減らすことであり、指標としてはウエスト周囲長の方が有用です。男性は85cm未満、女性は90cm未満を目指しましょう(これ以上だと脂肪肝の可能性大です)。
減量の具体的な進め方としては、前述のように食事改善と運動の併用が基本です。短期間で極端に減量する「過激なダイエット」は勧められません。急激な体重減少は筋肉や骨量の減少も伴いやすく、リバウンドもしやすいためです。目安として、1週間に0.5~1kg程度のペースでゆっくり減らすのが良いでしょう。たとえば1日に500kcalのエネルギー赤字(摂取カロリー500kcal減 or 消費500kcal増)を作ると、1週間で約0.5kg体重が減る計算です。これくらいの緩やかなペースなら空腹感や体調不良も少なく、長続きしやすいはずです。
減量に取り組む際は短期的な目標と長期的な維持の両方を考えます。まず3~6ヶ月で体重の5%以上減を目標に頑張ってみましょう。研究によれば、脂肪肝がある人が診断後1~2年以内に5%以上の減量に成功すると、肝臓の炎症を示すALT値が著明に改善し、その効果は4~5年後まで持続したと報告されています。さらにそのグループでは約60%の人が体重減少を維持できていたとのことです。つまり最初の頑張りが肝心で、ここである程度減量に成功すれば、その後の経過も良好になりやすいのです。達成感も得られてモチベーションが上がるでしょう。
しかし、減量に成功した後に油断するとリバウンドしてしまう恐れがあります。脂肪肝の治療では「痩せたけどまた太って逆戻り」というのが一番避けたい事態です。リバウンド防止のためには、減量期に培った生活習慣をそのまま維持することが何より大切です。よく「目標体重になったからもうダイエット終了!」と元の生活に戻ってしまうケースがありますが、それではリバウンドして当然です。ダイエットに終わりはないくらいの心構えで、食事・運動の新習慣を一生続けるつもりでいましょう。ただし無理な制限を一生続けるのも現実的ではないので、80点主義で構いません。多少の外食や飲酒の機会があっても、翌日以降に調整すれば帳尻は合います。体重計に定期的に乗る習慣を付け、±2kg程度の変動は許容範囲として、その範囲に収まるよう食事量や運動量で微調整してください。
体重管理では、モチベーションの維持も重要です。一人で頑張るのが難しい場合は、家族や友人に協力してもらったり、減量プログラムや糖尿病教室などに参加して仲間と励まし合うのも良い方法です。最近は減量をゲーム感覚で支援するスマホアプリも多く、市販の活動量計やスマートウォッチと連携して日々の歩数・消費カロリーを記録できるものもあります。そうしたツールを活用するのも良いでしょう。
どうしても生活習慣の改善だけでは減量が難しいケース(高度肥満症など)では、肥満症治療薬の併用や外科的治療(減量手術)が検討されることもあります。例えば近年話題のGLP-1受容体作動薬(糖尿病・肥満症治療注射薬)は食欲抑制と代謝改善により著明な減量効果をもたらし、肝臓の脂肪も大幅に減らせる可能性が示されています。米国ではBMIが非常に高い重症肥満患者に対してスリーブ状胃切除術などの減量手術(メタボ手術)が行われ、NAFLD/NASHが劇的に改善した例が数多く報告されています。日本でも一部の施設で行われていますが、リスクもあるため慎重な適応判断が必要です。いずれにせよ、そこまでの治療は一握りのケースで、ほとんどの脂肪肝患者さんは生活習慣の改善のみで十分に体重管理・肝機能改善が可能ですので、根気強く取り組んでいきましょう。
■薬物療法
2025年現在、脂肪肝自体を直接治す特効薬は存在しません。MASLDの基本治療は生活習慣の是正(食事・運動・減量・禁酒)であり、薬物療法はあくまで補助的な位置づけです。ただし、NASH(MASH)に進行した患者さんや合併症を持つ患者さんでは、幾つかの薬剤が治療に用いられることがあります。また世界的に脂肪肝/ NASHをターゲットにした新薬開発が活発に進んでおり、近年画期的な薬が登場し始めています。ここでは脂肪肝治療に関連する主な薬剤について紹介します。
●ビタミンE(抗酸化剤)
NASH患者に対して最も古くから用いられてきた治療法です。ビタミンEには強力な抗酸化作用があり、肝細胞内の酸化ストレスを軽減して炎症や線維化を和らげる効果が期待されます。実際、NASH患者を対象にした大規模臨床試験(PIVENS試験)では、ビタミンE 800IU/日の投与群で肝炎の改善率がプラセボ群より有意に高かったと報告されています。日本のガイドライン(2020年改訂版)でも、活動性のNASH患者(特に非糖尿病)にビタミンE投与を考慮するとされています。ただし注意点として、長期大量投与による副作用が指摘されています。具体的にはビタミンE過剰により出血傾向が生じるリスクや、一部の研究で心血管疾患患者において長期ビタミンE補給が総死亡率をわずかに増加させたとの報告があります。そのためビタミンE療法は医師の管理下で慎重に行う必要があります。自己判断で市販サプリメントを大量に摂取することは避け、処方に従って服用してください。
●インスリン抵抗性改善薬(糖尿病治療薬)
脂肪肝の背景にインスリン抵抗性があることから、本来糖尿病の薬であるピオグリタゾン(チアゾリジン薬)やメトホルミン、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などがNASH改善に有効ではないかと研究されています。中でもピオグリタゾンは複数の臨床試験でNASH患者の肝組織所見を改善する効果が示され、海外のガイドラインでは糖尿病の有無にかかわらずNASH治療に使用を推奨する声もあります。ピオグリタゾンはインスリン抵抗性を是正して肝臓の脂肪蓄積を減少させる働きがあるため、脂肪肝治療に理論的にマッチします。ただし体重増加など副作用もあるため、日本では「糖尿病の治療薬として使い、その副次効果として脂肪肝が改善される」という位置づけです。
●SGLT2阻害薬(例:エンパグリフロジン、ダパグリフロジン)
一方SGLT2阻害薬は尿中への糖排泄を促す薬で、血糖降下と同時に体重減少効果もあるため、近年脂肪肝改善効果が注目されています。いくつかの臨床研究では、SGLT2阻害薬投与によりNAFLD患者の肝酵素や肝脂肪量が改善したとの報告があります。これも日本では糖尿病治療の一環として使われ、脂肪肝にも好影響があれば一石二鳥という形になります。
●GLP-1受容体作動薬(糖尿病・肥満症治療薬)
上記の糖尿病薬の中でも特に近年脚光を浴びているのが、週1回注射などで使用するGLP-1受容体作動薬(リラグルチド、セマグルチド等)です。これらは食欲を抑えて摂取カロリーを減少させ、インスリン分泌を調整して血糖コントロールを改善する薬ですが、結果的に大幅な体重減少をもたらすことが特徴です。肥満や糖尿病の治療薬として既に広く使われており、その延長で脂肪肝/NASHへの効果も期待されています。事実、NASH患者を対象にした臨床試験(例えばセマグルチドのPhase II試験)で、投与群の約60%に組織学的NASHの改善(肝炎消失)が認められたとの報告があります。またGIPとGLP-1、グルカゴンの三重作動薬であるレタルトルチドという新薬の試験では、参加者の90%でMRI上肝脂肪が正常化したという驚くべき結果も報告されました。これらはまだ研究段階ですが、GLP-1関連薬は脂肪肝治療のゲームチェンジャーになる可能性があります。日本でも2023年に肥満症治療として週1回注射のGLP-1薬(セマグルチド製剤)が承認され、肥満合併NAFLD患者さんに使用が開始されています。現時点では保険適用など制限はありますが、今後NASH適応が追加される可能性もあり注目です。
●脂質異常症治療薬
脂肪肝患者には高脂血症を合併している方も多く、LDLコレステロールを下げるスタチンや中性脂肪を下げるフィブラート系薬剤を服用中のケースがあります。これら脂質異常症の薬が脂肪肝にも良いかという点ですが、結論として「効果は限定的」です。スタチンに関しては心血管リスク低減のため脂肪肝があっても積極的に使うべきですが、肝臓の脂肪や炎症そのものへの有意な効果は証明されていません。ただしスタチンでAST/ALTなど肝酵素が改善したとの報告もあり、間接的にはプラスに働くこともあるでしょう。一方、近年日本発のフィブラート系薬剤であるペマフィブラートがNAFLD/NASHに有効かどうか盛んに研究されています。ペマフィブラートは高脂血症治療薬ですが肝臓・筋肉への副作用が少なく、肝臓の脂質燃焼を促進する作用が期待されています。まだ結論は出ていませんが、もし有効性が確認されれば今後脂肪肝治療薬の一つに加わる可能性があります。
●高血圧治療薬(ARB/ACE阻害薬)
高血圧と脂肪肝はしばしば併存しますが、実は一部の降圧薬は肝臓の線維化抑制に有用です。具体的にはレニン-アンジオテンシン系を遮断するARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)やACE阻害薬です。肝臓の線維化は肝星細胞という細胞が中心になって進みますが、この肝星細胞にはアンジオテンシンIIの受容体があり、アンジオテンシンIIによって活性化すると線維化が促進されます。ARBやACE阻害薬はこの作用をブロックするため、高血圧患者でNASHを伴う場合に肝線維化の進行を遅らせる可能性があります。実際、ロサルタン(ARB)やエナラプリル(ACE阻害薬)をNASH患者に投与した臨床研究では、肝組織の線維化スコアや血中線維化マーカーの改善が報告されています。NASH患者の約70%は高血圧を合併するとのデータもあり、そうした方にはARB/ACE阻害薬を選択することで一石二鳥の効果が期待できます。ただし血圧が正常な人に予防目的で使うものではありませんので、あくまで高血圧治療の一環として考えてください。
●肝庇護剤(ウルソデオキシコール酸など)
よく「脂肪肝にウルソ(ウルソデオキシコール酸)は効きますか?」と質問を受けます。ウルソは胆汁酸のお薬で、肝臓の酵素値を改善する目的で処方されることがあります。しかし通常量のウルソでは脂肪肝/NASHの改善効果は証明されていません。いくつか小規模研究では肝機能の改善が報告されたものの、大規模臨床試験やメタ解析の結果では有意差が認められなかったためです。高用量(通常の2倍量以上)のウルソでは効果の可能性があるとの報告もありますが、現時点で標準治療とは言えません。脂肪肝に対して安易にウルソを処方することは推奨されず、まずは食事・運動療法に専念すべきでしょう。
以上、現在利用可能な薬物療法を紹介しましたが、脂肪肝の治療の主体は生活習慣改善です。薬はあくまでサポート役であり、「薬を飲んでいるから安心」というものでは決してありません。
トピックとしては、脂肪肝・NASHに対する新薬開発が世界中で進んでおり、2024年にはついに史上初のNASH治療薬が米国で承認されました。それがレズメチローム(商品名:レズディフラ)という甲状腺ホルモン受容体β作動薬で、非代償期でない線維化を伴うNASH(MASH)患者に対して使われます。臨床試験では肝線維化の改善やNASH解消効果が確認されており、今後の実臨床でのデータ蓄積が期待されています。また他にもオベチコール酸(FXR作動薬)やエラフイブランソール(PPAR作動薬)、上記のセマグルチド(GLP-1薬)やシルマラフィブ(シルフェニース)など多数の候補薬が治験段階にあります。日本でもこれら新薬の導入が進めば、将来的に脂肪肝・NASHの治療法が劇的に変わる可能性があります。それまでは基本に立ち返り、「食事+運動で肝臓を元気にする」ことを地道に続けていきましょう。
■Q&A:脂肪肝に関するよくある質問と回答
Q1.脂肪肝はどんな症状がありますか? |
初期~中等度の脂肪肝では、ほとんどの場合自覚症状はありません。ときに「肝臓のあたりが重たい」「疲れやすい」と感じる方もいますが、沈黙の臓器といわれるように脂肪肝だけでは明確な症状が出ないのが普通です。健康診断の血液検査や腹部エコー検査で発見され、「自分が脂肪肝だったなんて」と驚くケースが典型的です。ただし脂肪肝が進行してNASH(肝炎・線維化の状態)になると、だるさや食欲低下、右季肋部の違和感などが出ることもあります。また末期の肝硬変まで進むと、腹水(お腹に水が溜まる)や黄疸、むくみなど様々な症状が現れます。つまり脂肪肝自体では症状が無いのが怖い点で、「症状がない=軽症」ではありません。症状がなくても油断せず、定期的に検査を受けながら治療に取り組みましょう。
Q2.脂肪肝を放置するとどうなりますか? |
放置すると一部の人はNASH(非アルコール性脂肪肝炎、現在はMASH)に進行し、さらに肝硬変・肝臓がんに至る可能性があります。統計的には、NAFLD患者の約5%前後が20年ほどの経過で肝硬変に進行すると推定されています。特にNASHまで進展した場合、その後10年間で10~20%が肝硬変になるという報告があります。肝硬変になると肝がん発生率は年あたり数%(数年で数十%)に跳ね上がります。実際、NAFLD由来の肝がん発症率は年間0.044%(1000人に0.44人)ですが、NASHでは年間0.529%(1000人に5.29人)、肝硬変になると年間2~3%(1000人に最大22.6人)に達すると報告されています。またNASH患者では、肝硬変まで至らなくても肝がんが発生するケースもあります。肝臓以外にも、脂肪肝のある人は心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患で命を落とすリスクも高いことがわかっています。このように脂肪肝を軽視すると将来的に命に関わる病気につながりかねません。「脂肪肝くらい大丈夫」と放置するのは非常に危険で、健康からのサインと受け止めて早めに対策することが大切です。
Q3.痩せていてお酒も飲まないのに脂肪肝と言われました。なぜでしょうか? |
痩せていても脂肪肝になることはあります。お酒を飲まない非肥満の脂肪肝は「Lean NAFLD(リーンナッフルド)」とも呼ばれ、日本人を含むアジア人に比較的多いことが知られています。原因としては、皮下脂肪が少なくても内臓脂肪が蓄積しやすい体質や、PNPLA3遺伝子変異などの遺伝的素因が関与します。日本人では約20~30%がこの遺伝子変異を持つとされ、肝臓で脂肪を処理する機能が弱いために太っていなくても脂肪肝を発症しやすいのです。また、痩せている方でも食生活の偏り(糖質中心・野菜不足など)や運動不足、ストレス、睡眠不足などで代謝が乱れると脂肪肝になり得ます。特に内臓の周りに付いた脂肪(内臓脂肪)は体重や外見では分かりにくく、「隠れ肥満」として蓄積してしまうことがあります。したがって「自分は痩せ型だから脂肪肝のはずがない」とは言い切れません。実際、日本人MASLD患者の約2割は非肥満型とのデータがあります。お酒を飲まなくても発症するのがMASLD(旧NAFLD)なので、飲酒歴に関係なく肥満傾向や生活習慣の乱れがあれば脂肪肝に注意が必要です。痩せている方が脂肪肝と言われた場合もショックを受けず、食事内容の見直しや適度な運動で内臓脂肪を減らすよう心がけましょう。また潜在的な糖代謝異常(隠れ糖尿病)などがないか検査することも大切です。
Q4.脂肪肝は治りますか?治すにはどうすればいいですか? |
はい。脂肪肝は適切な治療で改善・完治し得ます。脂肪肝の初期段階(肝炎や線維化が進んでいない段階)であれば、肝臓に蓄積した脂肪は比較的短期間(数ヶ月~1年程度)で減少させることが可能です。実際、5~10%の体重減少が達成できれば肝臓の脂肪沈着は大きく改善し、多くの患者さんで肝機能(AST/ALT)も正常化します。肝炎(NASH/MASH)を合併している場合でも、7~10%以上の体重減少により組織学的な炎症が治まり線維化が良くなるケースが報告されています。つまり生活習慣の徹底した改善により脂肪肝は「治る」可能性が十分あります。特に発症から時間が経っておらず肝硬変になっていない段階なら、肝臓の再生能力は高いため元の綺麗な肝組織を取り戻せるでしょう。
脂肪肝を治すための具体策は、本記事で解説してきた食事療法・運動療法・減量・禁酒の実践に尽きます。これらを組み合わせることで肝臓の脂肪蓄積要因を取り除き、肝細胞に溜まった中性脂肪をエネルギーとして燃焼させていきます。
ポイントは継続することです。肝臓の脂肪は数週間のダイエットでもある程度落とせますが、完全に正常化するには数ヶ月~1年以上の地道な努力が必要な場合もあります。また一度良くなっても、そこで気を抜くと再び脂肪肝に逆戻り(リバウンド)してしまいます。脂肪肝は「生活習慣病」であることを忘れず、治ったあとも良い生活習慣を維持することが再発防止につながります。
なお、既に線維化が進んだNASHのケースでは、脂肪を減らすだけでなく繊維化をどこまで改善できるかが課題です。肝硬変まで進行していると完全に元通りの肝臓には戻らないこともあります。しかし最近の研究では、線維化もある程度は可逆的である(治りうる)ことが分かってきました。実際、肝硬変の患者さんが減量や禁酒で線維化ステージが改善したとの報告もあります。「もう遅い」と諦めず、今できる対策を講じることが大切です。さらに2024年にはNASHの新薬(レズメチローム)が登場し、線維化改善効果が期待されています。今後、薬物療法の進歩により肝硬変からの回復も夢ではなくなるかもしれません。
Q5.脂肪肝に良い食べ物・悪い食べ物はありますか? |
良い食べ物としては、まず野菜や果物、食物繊維が豊富な食品全般が挙げられます。特に緑黄色野菜や海藻・キノコ・豆類・ナッツ類などは低エネルギーでビタミン・ミネラルに富み、肝臓の代謝を助けます。次に魚介類です。青魚(サバ、イワシ、サンマなど)に含まれるオメガ3系脂肪酸(EPA/DHA)には肝臓の炎症を抑える作用が期待できます。肉より魚を積極的に摂るようにすると良いでしょう。油脂では、オリーブオイルやえごま油など不飽和脂肪酸主体の油が良質です。オリーブオイルを多用する地中海式の食事は、脂肪肝の改善に有効とする研究があります。
一方で悪い食べ物は、砂糖や果糖を多く含む甘い物や脂っこい物です。具体的には清涼飲料水、洋菓子・スイーツ、スナック菓子、ファストフード、揚げ物、脂身の多い肉、バター・生クリームたっぷりの料理などが該当します。これらは高カロリーで中性脂肪の原料になりやすく、肝臓に脂肪が溜まりやすいので要注意です。アルコール飲料も悪影響が大きいので控えてください。
また、コーヒーは脂肪肝に良い影響を与える珍しい嗜好品です。ブラックコーヒーを習慣的に飲む人は脂肪肝や肝硬変のリスクが低いというデータがあり、適量のコーヒー摂取は肝臓に有益と考えられています。抗酸化物質のポリフェノールやカフェインが肝臓を守る作用をするためと推測されています。ただし、コーヒーに砂糖やクリームを大量に入れると逆効果なので注意しましょう。甘くないコーヒーを1日2~3杯飲む程度がおすすめです。
他に話題となる食品としては、緑茶(カテキンによる抗酸化作用)、ウコン(ターメリック)(クルクミンによる抗炎症作用)、オートミール(水溶性食物繊維による脂質代謝改善)、発酵食品(腸内環境改善による肝負荷軽減)などがあります。これらは一定のエビデンスがあるものの、あくまで補助的と考えてください。「これさえ食べれば脂肪肝が治る」という魔法の食品は存在しません。結局は全体のバランスが大事で、偏らず多様な食品を食べることが健康な肝臓づくりにつながります。
Q6.脂肪肝でもお酒は少量なら飲めますか? |
できれば禁酒が理想ですが、どうしても飲みたい場合は節度ある少量に留めてください。前述の通り、アルコールは少量でも脂肪肝を悪化させうるため、本質的には「一滴も飲まない方が良い」のが事実です。しかし現実には嗜好品としてお酒を楽しみたい方もいるでしょう。その場合、男性で1日ビール中瓶1本(アルコール20g)程度、女性でその半分程度までが目安です(週に換算すると男性140g、女性70g程度)。これを超えると脂肪肝や肝障害のリスクが明らかに高くなります。仮にこの範囲内の飲酒であっても、毎日飲むのではなく週に2日は休肝日を作りましょう。また飲むお酒の種類では、蒸留酒より醸造酒(ワインやビール)の方が肝臓に負担が大きいとされます。さらに空腹で飲むとアルコールの吸収が早くダメージが大きいので、必ず食事を摂りながらゆっくり飲むようにしてください。
重要なのは、自分が「脂肪肝を治す」ことを優先し、お酒と上手に付き合うことです。検査で肝数値が高めのうちは禁酒に専念し、肝機能が正常化してきたら主治医と相談の上で適量飲酒を再開する、というステップもあり得ます。ただしNASH(MASH)や線維化が進んだ肝臓の場合は、たとえ肝数値が落ち着いていても禁酒を続けるべきです。線維化した肝臓は脆くなっており、少しのアルコールでも炎症が再燃する恐れがあります。繰り返しになりますが、脂肪肝改善のためにはアルコールは極力避けることが望ましいと心得てください。
Q7.脂肪肝にはどんな運動が効果的ですか? |
有酸素運動を定期的に行うのが効果的です。具体的にはウォーキング(速歩き)や軽いジョギング、サイクリング、水泳など、息が上がる程度の運動を週に150分以上行うことが推奨されています。例えば「1日30分の早歩きを週5日」というのは手軽で多くの研究が支持する運動処方です。この程度の運動でも、継続すれば肝臓の脂肪が大きく減少し得ると報告されています。ポイントは週に合計150~300分程度の運動時間を確保することと、少なくとも中等度の強度(ややきつい程度)で行うことです。強度が低すぎると効果も限定的なので、軽く汗ばむくらいの運動を心がけましょう。運動を始めて1~2ヶ月で血液検査のAST・ALTが低下してくるケースも多く見られます。
また、筋力トレーニング(無酸素運動)も組み合わせると尚良いです。筋トレ自体も脂肪肝の改善に寄与するとのエビデンスがあり、有酸素運動と並行して週2回程度の筋トレを行うと相乗効果が期待できます。筋トレは自宅でできる範囲でも十分ですので、腕立て伏せやスクワット、ダンベル運動などを取り入れてください。筋肉量が増えると基礎代謝が向上して痩せやすい体質になりますし、筋肉が糖や脂肪を消費してくれるため肝臓への負担が減ります。
運動の時間がなかなか取れない場合は、生活の中で活動量を増やす工夫をしましょう。通勤通学で一駅歩く、エレベーターではなく階段を使う、家事や趣味で体を動かすなど、小さな積み重ねがカロリー消費につながります。最近はスマートフォンのアプリで歩数や運動量を記録できますので、1日8000歩以上を目標に歩くのも効果的です。
注意点として、普段運動をしていなかった人が急に激しい運動を始めると怪我や体調不良の原因になります。まずは無理のない範囲(例えば最初は1日15分の散歩から)で始め、徐々に負荷を上げてください。継続できるペース配分が大事です。運動によるダイエット効果は少しずつ現れますので、最低でも3ヶ月、できれば半年~1年は続けて評価しましょう。
最後に、「どんな運動でもやらないよりはマシ」ということを強調します。好きな運動で構いませんので、とにかく体を動かす習慣をつけてください。継続した運動は脂肪肝の改善だけでなく、ストレス発散や睡眠改善にも役立ちます。ぜひ今日から一歩踏み出してみましょう。
参考文献
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- 日本肝臓学会・日本消化器病学会 「脂肪性肝疾患の新しい日本語病名」 (2024年8月発表)
- 国立健康危機管理研究機構 肝炎情報センター 「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 (2025年改訂)
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