病気と健康の話

【腎臓】 慢性腎臓病(CKD)管理のポイント 2025

慢性腎臓病(CKD)は腎機能が徐々に低下していく病気で、高齢者、高血圧、糖尿病の方に多く見られます。CKDは放置すると心血管疾患などの合併症につながるため、早期発見と適切な管理が重要です。ここでは2025年時点でのCKD管理のポイントをわかりやすく解説します。腎機能の指標であるクレアチニンやeGFR(推定糸球体濾過量)といった検査項目や、近年注目されるシスタチンCについても取り上げ、国内外ガイドライン(KDIGO 2024年版や日本腎臓学会ガイドライン2023年版)と研究知見を踏まえて説明します。

■1.早期発見と腎機能検査(クレアチニン・eGFR・シスタチンC)

CKDの早期発見には血液と尿の定期検査が欠かせません。

血液検査では、クレアチニン値から腎臓のろ過能力を推算したeGFR(推定GFR)が用いられます。一般にeGFRはクレアチニンをもとに算出されますが、クレアチニン値は筋肉量や食事、薬剤の影響を受けやすく、高齢者や筋肉量の少ない方では、実際より良い腎機能と見誤る可能性があります。

そこで近年、筋肉量に左右されにくいシスタチンCという蛋白質を測定してeGFRを算出する方法(eGFR-cys)が普及しつつあります。シスタチンC由来のeGFRはクレアチニンだけの場合より腎機能が低く出るケースが多く、特に高齢CKD患者ではクレアチニンより、シスタチンCのほうが腎機能低下を敏感に反映することがあります。腎機能評価の精度を上げるため、クレアチニンとシスタチンCの両方でeGFRを算出し併用することが最も正確とされています。実際、国際ガイドラインKDIGOでもクレアチニンだけでなくシスタチンCによるeGFR測定の活用が推奨されています。シスタチンCに基準値という概念はなく、eGFR-cysで評価することが大切です。

クレアチニン由来eGFRと、シスタチンC由来eGFRの差異にも注目が必要です。

シスタチンCのeGFRがクレアチニンより大幅に低い(例えば差が15mL/分/1.73㎡を超える)患者は全体の約30%存在し、そのような場合には、心不全入院や死亡など予後不良のリスクが高いことが報告されています。この差は筋肉量や炎症など、腎機能とは別の要因(非GFR因子)によって生じると考えられ、特にシスタチンCが低下(腎機能が悪化)している人は高齢で併存症が多い傾向があります。

したがって、健診や診察でCKDが疑われたら、クレアチニンと同時にシスタチンCの検査も受けることで、より確かな腎機能評価とリスク把握につながります。実際、イギリスのNICEガイドラインでも、クレアチニン由来eGFRが45~59程度で尿タンパクが軽度の場合、シスタチンC検査でCKDか否かを確認することが推奨されています。尿検査での蛋白尿(アルブミン尿)の有無も含め、血液・尿双方から総合的に腎機能を評価することが、CKDの早期発見には重要です。

■2.血圧管理と急性腎障害への対処

CKDの進行を防ぐ上で、高血圧の管理は極めて重要です。

適切な降圧治療により、腎臓への負担を減らすことができます。しかし、血圧を下げる薬(降圧薬)を開始・増量した直後に血清クレアチニンが上昇し、eGFRが低下することがあります。血清クレアチニン値だけでは、腎臓の「構造的な損傷(腎へのダメージ)」と「機能的な低下(腎血流の変化による一時的なろ過低下)」を区別できないため、この変化に驚くかもしれません。

しかし、心配し過ぎる必要はありません。血圧が改善した結果として、クレアチニンが多少上がるのは、むしろ治療が奏功している証拠である場合があります。血圧コントロールにより糸球体(腎臓のろ過装置)への過剰な圧力が下がると、一時的にろ過率(eGFR)が下がることがあり得ます。これはむしろ、腎臓の長期的な保護につながる良い変化と考えられています。実際、長年高血圧だった方では、急に正常な血圧になった際、クレアチニンが上がる矛盾が知られています。

自己判断で降圧薬を中止すると、短期的にはクレアチニンが下がっても、長期的には血圧悪化で腎障害が進む恐れがあります。

とはいえ、急性腎障害(AKI)の兆候を見逃さないことも大切です。クレアチニンの上昇幅が大きい場合や、脱水や他の原因が考えられる場合は、医師が慎重に評価します。近年は、AKIが起きた際にそれが一時的な血行動態の変化(機能的AKI)か、腎臓の実質ダメージ(構造的AKI)かを見極めるための新たな指標(尿中の特定タンパク質など)の研究も進んでいます。例えば尿中の傷害分子(KIM-1など)を測定し、腎臓へのダメージが起きているかを判定する試みが行われています。これらの検査法はまだ一般診療には浸透していませんが、将来的には「薬を続けるべき一時的変化」なのか「治療変更が必要な真の腎障害」かを、判断する助けになると期待されています。

現段階では、脱水を避ける(特に夏場や体調不良時)ことや、痛み止め(NSAIDsなど)を乱用しないことなど、急性腎障害の予防に日頃から気を付けましょう。

■3.慢性腎臓病と炎症:全身への影響とリスク

CKDは腎臓だけの病気ではなく、全身の慢性炎症状態を引き起こすことが分かってきました。

腎機能が低下すると体内で炎症性物質(CRPやIL-6など)が慢性的に上昇し、免疫の異常や血管の障害を招きます。その結果、心筋梗塞や脳卒中といった心血管病リスクが高まるだけでなく、肺炎や痛風、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、感染症・炎症性疾患にもかかりやすくなります。

実際、約20年にわたる大規模研究でも、CKDの進行に伴って心血管疾患だけでなく「慢性炎症関連疾患(感染症や炎症疾患)」の発症リスクが段階的に増加し、重度CKD患者ではそれら炎症性疾患のリスクがCKDのない人の4倍近くにも達したと報告されています。これはCKD患者の体内で起きる慢性的な炎症(いわゆる“炎症加齢”現象)が、多様な病気を引き起こす土台になっているためと考えられます。

さらに、尿中アルブミンのごく軽度な増加(微量アルブミン尿)であっても全身リスクの兆候となりうることです。最近の研究では、尿アルブミン/クレアチニン比がわずか10~29 mg/g(※CKDと診断される基準より低い値)程度でも、将来の心血管疾患や感染症による入院・死亡リスクが有意に高いことが示されました。これは、微量の蛋白尿であっても血管内皮の障害や慢性炎症の始まりを反映している可能性を示唆しています。このため、「正常な尿たんぱく」の基準を見直し、微量でもアルブミン尿が出ている段階で、生活習慣の見直しや治療介入を開始すべきであると提言されています。

実際、CKDのリスク評価において、eGFRだけでなく尿アルブミンも併せて重視することで、より正確に予後を予測できるとされています。血液検査と尿検査の両方を定期的に受けて、炎症のサインである微量アルブミン尿も見逃さないことが大切です。

このような炎症リスクに対し、近年は抗炎症的なアプローチがCKD管理に取り入れられ始めています。

例えば、適度な運動は慢性炎症を抑える効果があり、また抗酸化作用のある野菜や果物を取り入れた食生活(いわゆる「食事を薬とみなす」考え方)も炎症軽減に有用と考えられています。実際、CKD患者さんにおいて運動療法は腎機能低下の進行を遅らせ、心血管リスクを減らす効果が報告されています。また減塩食や適切なたんぱく質摂取も腎臓の負担と体内炎症を減らす基本です。治療面では、リウマチ薬などで使われる抗炎症薬(サイトカイン阻害薬)をCKD患者に応用する臨床試験も進行中です。

例えばIL-6という炎症物質を抑える新薬が、透析患者で心血管イベントを減らす可能性が示唆されており、CKD全体でも炎症を標的とした治療が将来有望視されています。今後の研究次第では、CKD管理のパラダイムが「腎臓数値を下げないこと」に加えて「炎症を抑えること」へと大きくシフトする可能性があります。

■4.CKDの進行抑制

CKDの進行を遅らせ、合併症を防ぐための治療法は年々進歩しています。

基本は、生活習慣の改善と内科的治療の両輪です。まず食事面では減塩(目標食塩6g/日未満)や適正なタンパク質摂取(過剰な蛋白摂取は控える)が推奨されます。塩分の摂りすぎは高血圧を招き腎臓に負担をかけるため、漬物・加工食品を控える、だしや香辛料で薄味に慣れるといった工夫が有効です。また、肥満や喫煙もCKDを悪化させる要因のため、減量や禁煙も重要です。糖尿病の方では血糖コントロール(食事療法・薬物療法)により糖尿病腎症の進行を大幅に遅らせることができます。日常生活の積み重ねが腎臓を守ることにつながります。

薬物療法では、ここ10年で新薬が登場しガイドラインに組み込まれています。

従来から使われてきたACE阻害薬やARB(レニン・アンジオテンシン系阻害薬)は、尿タンパクの減少と腎保護効果が確立しており、特に蛋白尿のあるCKD患者には第一選択薬です。

さらに近年、糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬(糖の尿中排泄を促す薬)が、糖尿病の有無を問わずCKDの進行抑制と心不全リスク低減に有効なことが大規模試験で示されました。国内外の最新ガイドラインでは、糖尿病性腎症(DKD)の治療第一選択薬としてSGLT2阻害薬を位置付け、ステージ3~4のCKD患者にも投与を推奨しています。実際、日本腎臓学会のCKDガイド2023でもSGLT2阻害薬の有用性が強調され、5年ぶりの改訂で新たなエビデンスが反映されました。

また、GLP-1受容体作動薬という糖尿病薬も体重減少や心血管保護効果を通じてCKD患者に有益とされ、糖尿病を合併するCKD患者さんでは積極的に用いられ始めています。一方、日本では慢性腎臓病患者さんの多くが高齢で併存症も多いため、新薬の使い分けは主治医が慎重に判断します。複数の薬を併用する際は、腎機能に応じて用量調節や相互作用のチェックが必要です。

心血管疾患予防の観点からは、スタチン(コレステロール低下薬)もCKD患者の心筋梗塞・脳卒中リスクを下げる目的で用いられます。スタチンやRAA系阻害薬、そしてSGLT2阻害薬は、現在のCKD治療における三本柱とも言える存在で、ガイドラインでも強く推奨されています。これらを適切に使うことで心臓や血管を守り、ひいては腎臓の予後改善にもつながります。さらに、近年登場した非ステロイド性抗鉱質コルチコイド薬(フィネレノンなど)は糖尿病腎症での蛋白尿と心保護に効果を示し、特定の患者さんに追加されることもあります。貧血や代謝性アシドーシスなどCKDに伴う合併症の治療(エリスロポエチン補充や重炭酸ナトリウムの投与など)も、QOLの維持と長期予後改善に重要です。

ポイントは、主治医と相談しながら最適な治療コンビネーションを続けることです。新しい腎保護治療は数多くありますが、その恩恵を受けている患者さんは必ずしも多くありません。たとえば米国の統計では、CKDステージ3~5かつ糖尿病のある高齢患者で実際にSGLT2阻害薬やGLP-1作動薬を処方されていた割合は、2021年時点で1割程度に留まっていたと報告されています。

■5.地域ぐるみのCKD予防と患者・家族の役割

CKDから患者さんを守るには、本人や家族の努力に加え、地域や医療システム全体で取り組むポピュレーションヘルス(集団健康管理)戦略が重要です。CKDは日本だけでなく世界的に患者数が増えており、世界の死亡原因第10位を占める重大な疾患です。そのため国際的にもCKD対策の強化が叫ばれており、世界保健機関(WHO)でもCKDを重点的な非感染性疾患(NCD)の一つに加えるよう提言がなされています。CKD患者のケアには多職種・多領域の連携が必要であり、「知っていること(エビデンス)」と「実際に行われていること(診療現場)」とのギャップを埋める取り組みが求められています。実際の医療現場では、患者教育の不足や検査の見落とし、薬剤投与ミス、専門医紹介の遅れなどが依然として課題となっており、これらがCKDの進行や入院・死亡につながるケースが少なくありません。こうしたギャップを解消するため、日本腎臓学会はかかりつけ医向けの診療ガイド2024を発行し、地域の非専門医によるCKD診療の標準化と質向上を目指しています。また同時に、「患者さんとご家族のためのCKD療養ガイド2024」も刊行され、患者さん自身が家族と共にCKDに前向きに取り組むための分かりやすい解説が提供されています。このように専門医だけでなく、患者・家族やプライマリケア医、行政が一丸となってCKD予防・管理にあたる時代になっています。

患者さまとご家族に期待される役割も大きく変わりつつあります。

まず、糖尿病や高血圧などCKDのリスクがある方は、定期的に健康診断を受け、腎機能のスクリーニングを欠かさないようにしましょう。日本では40歳以上を対象にした特定健診で血清クレアチニン測定が導入されており、eGFR低下や蛋白尿が見つかった場合には早めに医療機関を受診することが大切です。万一、CKDと診断されても、落胆せず、「自分の腎臓を守る主役は自分」という意識で生活習慣の改善や薬の管理に取り組みましょう。医師や看護師、管理栄養士といった医療チームと、患者さまとその家族が、二人三脚で進める自己管理こそ、CKDの進行を遅らせる鍵です。

地域ぐるみでCKD重症化予防プログラム(栄養指導教室、腎臓病教室の開催、薬剤師による服薬支援など)を展開する自治体もあります。CKDは患者数が多いため、データに基づいた計画的で公平な対策が求められており、医療費抑制の観点からも重要です。一人ひとりの患者さんの努力に加え、社会全体でCKDと向き合うことで、将来的な透析や腎移植の必要な状態になる方を減らしていくことが可能です。

CKDは、完治が難しい疾患ですが、上述したような早期発見・厳格な管理により、その進行を大幅に遅らせ、健康寿命を伸ばすことができます。実際に近年は、透析導入数の増加ペースが鈍化、腎代替療法なしで長期生存されるCKD患者さんも増えてきています。患者さまとご家族は、主治医と二人三脚で、「腎臓を守る習慣」を日々実践してください。定期検査で腎機能指標(クレアチニンやeGFR)と尿タンパクをチェックし、血圧・血糖コントロールや食生活の改善と毎日の運動、適切な薬物療法を続けることで、CKDと上手に付き合っていくことができます。知識とその実践の両方で、大切な腎臓を守っていきましょう。

参考文献

  • Creon A., Levey A.S., Carrero J.J. (2025) 「Why Do Creatinine- and Cystatin C–Based Estimated GFR Values Often Differ?」 Am J Kidney Dis 86(2): 152-154.
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  • Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group (2024)
    「KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease」 Kidney Int 105(4S): S117-S314.
  • 日本腎臓学会 (2023) 『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.
  • National Institute for Health and Care Excellence (NICE) (2021) 「Chronic kidney disease: assessment and management. NICE Guideline [NG203].

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