秋の花粉症の症状・対策|原因となるブタクサ・ヨモギ・カナムグラを解説
秋になると、再び花粉症の症状に悩まされる方が少なくありません。実際、花粉症患者の約15%が秋にも症状を訴えているとの報告があります。
秋の花粉症は、夏の終わり頃から10月にかけて発症し、原因となる植物は主に秋に花粉を飛ばす雑草です。その代表がブタクサ、ヨモギ、カナムグラなどです 。
これらの雑草は住宅地や河川敷、公園など身近な場所にも生育しており、秋に向けて飛散する花粉によって花粉症症状を引き起こします。
カナムグラはアサ科の一年草で、8月~10月頃に花粉を飛散させます。ブタクサ・ヨモギと並び秋の花粉症の原因となり、住宅街の空き地や河原など身近な所にも自生しています。草丈は2~3mに達し群生しやすいため、近くに生えている場合には注意が必要です。
■秋の花粉症の症状
秋の花粉症でも、基本的な症状は春と同様にアレルギー性鼻炎や結膜炎の症状が中心です。具体的には、くしゃみの連発、鼻水(透明でさらさらした鼻汁)、鼻づまり、目のかゆみ・充血といった症状が典型的です。これらは春のスギ花粉症と大きく変わりませんが、秋特有の特徴として咳(せき)や喉の違和感、喘息様症状が出やすい点が指摘されています。秋は空気が乾燥しやすく、またブタクサやイネ科花粉は粒子が小さく気管支に入り込みやすいため、気道の症状(咳・喘鳴など)が春より現れやすいと考えられます。
熱は出ないことが多く、乾いた咳が長引く場合は秋の花粉症を疑った方が良いでしょう。
症状の強さや現れ方は、原因となる植物によって若干異なることがあります。
例えば、ブタクサやヨモギなどキク科雑草の花粉症では鼻水・鼻づまり・眼症状に加えて咳が起こりやすく、風邪と間違われることもあります。一方、イネ科(例えばカモガヤ等)の花粉症では鼻より眼症状が中心になる傾向も報告されています。ただし、個人差も大きいため、秋口にくしゃみ鼻水や目のかゆみが続く場合は原因植物を特定するアレルギー検査を受け、適切な対策を講じることが重要です。
ヨモギ(Artemisia属)はキク科の多年草で、秋の代表的な花粉症原因植物です。ヨモギ花粉は例年8月頃から飛散し始め、9月中旬~10月にピークとなります。ヨモギ花粉症ではブタクサ花粉症と同様にくしゃみや鼻炎症状を起こし、しばしば秋の「風邪」と勘違いされます。穂状の小さな花を多数つけて風に花粉を飛ばすため、近くに群生していると注意が必要です。
■秋の花粉症への対策と対処法
秋の花粉症対策の基本は春と同様、「花粉を浴びないこと」です。
ブタクサやヨモギなど秋の雑草花粉は、スギ花粉に比べて飛散距離が短く(数メートル~数十メートル程度)近くにいなければ大量に被曝しないという性質があります。そのため、まずは花粉源となる雑草に近づかない工夫が有効です。河川敷や空き地にブタクサが群生している場所には近寄らない、雑草の刈り取りを地域で行う、庭に生えているブタクサ・ヨモギは抜き取る、といった環境整備が大切です。
■日常生活では以下のような対策を心がけましょう
マスク・眼鏡の着用 | やむを得ず花粉源付近を通る際は、高性能マスクや花粉症用メガネで鼻・口・眼を保護します。特に喘息のある方は、マスクの内側にガーゼを当てる(インナーマスク)ことで微細な花粉の吸入をより防げます。 衣服・帰宅時の工夫:花粉が付きにくい素材の衣服(ナイロンやポリエステルなど滑らかな生地)を選び、屋外から帰宅したら服をよくはたいて花粉を落とします。帰宅後は手洗い・洗顔・うがいをして、粘膜や皮膚に付着した花粉を洗い流しましょう。 |
室内環境の整備 | 室内に花粉を持ち込まないよう玄関で衣類を払う習慣をつけ、こまめな掃除(床の拭き掃除・掃除機掛け)を行います。空気清浄機を設置して24時間稼働させることも、浮遊する花粉の除去に有効です。 |
薬物療法の併用 | 症状が出始める前から抗ヒスタミン薬の内服や点鼻薬(ステロイド点鼻など)を使用する初期療法が有効です。症状が軽いうちに薬を使えば重症化を防げます。市販薬でも対応できますが、症状が辛い場合や長引く場合、特に鼻づまりで睡眠不足や日中の集中力低下を招く場合は、遠慮なく医師に相談してください。 |
アレルゲン免疫療法 | 根本的な治療を望む場合、アレルゲン免疫療法(減感作療法)も選択肢です。スギ花粉症では舌下免疫療法が普及していますが、ブタクサ花粉症に対しては日本ではまだ舌下錠が承認されておらず、皮下免疫療法(注射)が中心となります。週1~2回の皮下投与を数年続ける必要がありますが、体質改善が期待できます。免疫療法を希望する場合は対応可能な専門医療機関に相談してください。 |
以上の対策を組み合わせることで、秋の花粉症シーズンをできるだけ快適に過ごすことが可能です。特にブタクサ花粉は飛散ピークが朝~午前中にくる傾向があるため、その時間帯の外出を控えることや、天気の良い乾燥した日・風の強い日は警戒するなど、状況に応じた工夫も有効でしょう。また、「風邪かな?」と思っていた症状が実は花粉症だったという例も少なくないため、秋口の長引く鼻炎・咳症状は放置せず適切な診断を受けることをお勧めします。
■ブタクサ(Ambrosia)
ブタクサ(Ambrosia artemisiifolia)はキク科ブタクサ属の一年草で、日当たりの良い道端や河川敷に普通に生える雑草です。草丈はおよそ1~2メートルに達し、夏の終わり~秋にかけて黄緑色の小さな花を穂状に多数つけます。
北アメリカ原産の外来種で繁殖力が強く、明治初期に日本に侵入して以来あっという間に全国に広がりました。わずかな土があればアスファルトだらけの都会でも生育し、現在では沖縄を含む日本全国に帰化分布しています。
一見地味な雑草ですが、花粉症の原因植物としては歴史が古く、日本で最初に報告された花粉症はブタクサによるものだったことが知られています(現在のようにスギ花粉症が社会問題化する以前、1960年代後半には既にブタクサ花粉症が注目されていました)。ブタクサ花粉の飛散時期は地域や気候によって多少異なりますが、一般的に8月中旬頃から花粉が飛び始め、9月に飛散ピークを迎えて10月頃まで続きます。関東地方では8月下旬~9月にブタクサ花粉の飛散が特に多く、同時期にヨモギやカナムグラの花粉も飛ぶため注意が必要です。東北でも8月中旬~10月中旬がシーズンで、北海道ではヨモギ属花粉が主になります。ブタクサ花粉は朝方(午前中)に多く飛散する特徴があるため、ピーク時期の朝は窓を閉める、洗濯物は部屋干しにするといった工夫が有効でしょう。
ブタクサは非常に強力なアレルゲンであり、少量の花粉でも感作された人に激しい症状を引き起こします。花粉粒子は直径20µm前後と小さく軽いため鼻腔だけでなく下気道まで侵入しやすく、気管支喘息の発作や咳込みを誘発することがあります。実際、ブタクサやカナムグラ花粉が原因で秋に喘息症状が悪化するケースも報告されています。またブタクサ花粉症の患者では、春の花粉症(スギなど)を合併していることも多く、アレルギー性鼻炎全体の重症化リスクとなり得ます。ブタクサ花粉症の有病率は日本では正確な統計が十分ありませんが、秋の花粉症患者の多くがブタクサに陽性反応を示すことが知られています。海外では特に北米で患者数が多く、例えばアメリカ合衆国では全人口の5~15%がブタクサ花粉症に罹患しているとの疫学統計があります。ヨーロッパでも近年ブタクサの分布拡大に伴い患者が急増し、公衆衛生上の問題となっています。 ブタクサ花粉症の予防と治療については前述の秋の花粉症対策に準じますが、特にブタクサは身近な雑草ゆえ知らぬ間に近くで大量の花粉を浴びてしまうリスクがあります。自宅周辺のブタクサを見つけた場合は早めに抜く・刈るなどし、飛散源を減らす努力も効果的です。症状が酷い場合は適切な薬物療法に加え、必要に応じて減感作療法(皮下免疫療法)を検討することで、長期的な症状緩和が期待できます。
ブタクサは外来生物法で要注意外来生物にも指定されており、各自治体で繁茂地の駆除が推奨されています。地域ぐるみの雑草対策と、個人レベルでのアレルギー対策の双方で、秋の花粉症シーズンを乗り切りましょう。
参考文献
- 岸川拓也 ほか (2020). 日本全国における主要花粉飛散時期の長期変動傾向(1975–2018年).
- 日本花粉学会会誌 65(2): 55-66.
- Wang W, et al. (2023). Behavior of autumn airborne ragweed pollen and its size-segregated allergens (Amb a 1) in urban Saitama, Japan. Atmosphere 14(2): 247 mdpi.com mdpi.com .
- 国立環境研究所 侵入生物データベース:「ブタクサ (Ambrosia artemisiifolia)」 nies.go.jp nies.go.jp .
- 日本耳鼻咽喉科学会 (2020). 鼻アレルギー(花粉症)診療ガイドライン2020年版. アレルギー 69(3): 331-345 sciencedirect.com