口内炎
日本人の約9割が経験すると言われる口内炎。 小さな白い潰瘍から、水ぶくれ、白い苔状のものまで、その種類や原因は実に様々です。その原因はウイルスやカビかもしれません。 様々なタイプの口内炎の原因や症状、そして治療法と予防策を説明します。
■口内炎の種類と原因
口内炎は、口の中の粘膜に炎症が起こり、痛みや不快感を引き起こす症状です。食事や会話がしづらくなるなど、日常生活に支障をきたすこともあります。一口に口内炎といっても、実はいくつかの種類があり、それぞれ原因や特徴が異なります。
アフタ性口内炎:最も一般的な口内炎
アフタ性口内炎は、最も頻繁にみられる口内炎です。直径数ミリ程度の白い円形の潰瘍ができ、周囲が赤く縁どられているのが特徴です。この白い部分はフィブリンというタンパク質でできた偽膜で、炎症によって生じます。
アフタ性口内炎は、頬の内側や唇の裏側、舌、歯茎など、口の中の様々な場所に発生する可能性があります。1つだけの場合もあれば、複数同時にできる場合もあります。発生する部位や数、大きさには個人差があります。
アフタ性口内炎の明確な原因は未だ完全には解明されていません。しかし、疲労やストレス、睡眠不足、栄養バランスの乱れなどが関係していると考えられています。また、口の中を誤って噛んでしまうなどの物理的な刺激や、特定の食品に対するアレルギー反応がきっかけとなることもあります。さらに、免疫機能の低下もアフタ性口内炎の発生に関与しているという報告があります。特に、T細胞とTNF-αを伴う細胞性免疫反応が主要な役割を果たしている可能性が高いと考えられており、口内炎ができやすい場所にはリンパ球などの免疫細胞が多く集まっていることが研究で示されています。
カタル性口内炎:物理的刺激
カタル性口内炎は、物理的な刺激が原因で起こる口内炎です。例えば、口の中を誤って噛んでしまったり、熱い食べ物や飲み物で火傷をしたり、歯ブラシで強くこすったりすることで発生します。また、合わない入れ歯や矯正器具が口内を傷つけることでもカタル性口内炎を引き起こすことがあります。
カタル性口内炎は、粘膜が赤く腫れたり、ただれたり、潰瘍を形成したりします。症状の程度は、刺激の強さや範囲によって異なります。軽度の場合、粘膜が少し赤くなる程度で済むこともありますが、重度になると、強い痛みを伴う潰瘍ができてしまうこともあります。
ヘルペス性口内炎:ウイルス感染による口内炎
ヘルペス性口内炎は、単純ヘルペスウイルス1型というウイルスの感染によって引き起こされます。多くの人が幼少期にこのウイルスに感染し、ウイルスは体内に潜伏します。普段は症状が出ないことも多いのですが、免疫力が低下した時などにウイルスが再び活性化し、口内炎を発症します。
ヘルペス性口内炎の特徴は、口の中に小さな水ぶくれが複数できることです。これらの水ぶくれは、やがて破れて潰瘍になります。強い痛みを伴うことが多く、発熱やリンパ節の腫れなどの症状が現れることもあります。一度感染するとウイルスは体内に残るため、再発を繰り返す可能性があります。特に、風邪をひいたり、過労が続いたりすると再発しやすくなるため、注意が必要です。
カンジダ性口内炎:カンジダ菌感染による口内炎
カンジダ性口内炎は、カンジダ・アルビカンスという真菌(カビの一種)の感染によって引き起こされます。カンジダ菌は健康な人の口の中にも存在する常在菌ですが、免疫力が低下したり、抗生物質を長期間服用したりすることで、菌が過剰に増殖し、口内炎を発症します。
カンジダ性口内炎は、口の中に白い苔のようなものが付着するのが特徴です。これは、カンジダ菌の集まりです。この白い苔は、容易に剥がすことができますが、剥がすと出血することがあります。痛みはそれほど強くありませんが、口の中の違和感や味覚異常を感じることがあります。高齢者や免疫力が低下している人、あるいは糖尿病などの基礎疾患を持つ人に多く見られます。
■口内炎の症状と治療法
口内炎は口の中の粘膜に起こる軽度の炎症ですが、場合によっては、発熱やリンパ節の腫れを伴うこともあり、決して軽視できない症状です。
症状:痛み、白い潰瘍、発赤
口内炎の主な症状は、痛み、白い潰瘍、発赤です。 これらの症状は、口内炎の種類によって現れ方が異なります。
例えば、アフタ性口内炎では、初期症状として口の中に小さな円形の潰瘍が現れます。 多くの場合、初期段階では痛みはあまり感じません。 しかし、次第に潰瘍の周囲が赤く腫れてきて、痛みが増していきます。 潰瘍部分は白っぽく変化し、ひどい場合には出血することもあります。 アフタ性口内炎の場合、白い潰瘍の大きさは直径5~6mm程度で、口の中に1つから複数できることが多いです。 痛みの強さは、口内炎の大きさや深さに関係しており、大きな口内炎や深い口内炎ほど、強い痛みを感じる傾向があります。
カタル性口内炎では、粘膜が赤く腫れ、ただれたり、潰瘍を形成したりします。 症状の程度は、刺激の強さや範囲によって異なり、粘膜が少し赤くなる程度の軽度なものから、強い痛みを伴う潰瘍ができる重度なものまで様々です。
ヘルペス性口内炎では、口の中に小さな水ぶくれが複数できます。 これらの水ぶくれは、やがて破れて潰瘍になり、強い痛みを伴います。 発熱やリンパ節の腫れなどの症状が現れることもあります。
カンジダ性口内炎では、口の中に白い苔のようなものが付着します。 これはカンジダ菌の集まりで、容易に剥がすことができますが、剥がすと出血することがあります。 痛みはそれほど強くありませんが、口の中の違和感や味覚異常を感じることがあります。
市販薬(アフタッチA、トラフル軟膏など)
軽度の口内炎であれば、市販薬で症状を緩和することができます。 市販薬には、患部に直接貼るパッチタイプ(アフタッチAなど)、患部に塗る軟膏タイプ(トラフル軟膏など)、うがい薬、内服薬など、様々な種類があります。
パッチタイプは患部を保護し、痛みを軽減する効果があります。 軟膏タイプは炎症を抑え、治癒を促進する効果があります。 うがい薬は口内を清潔に保ち、感染を防ぐ効果があります。 内服薬には、ビタミンB群などを配合したものが多く、粘膜の健康維持をサポートする効果があります。
処方薬(ステロイド剤、抗生物質など)
市販薬で症状が改善しない場合や、重症の場合は、医療機関を受診し、処方薬による治療を受ける必要があります。
処方される薬としては、ステロイド剤、抗生物質などがあります。 ステロイド剤は炎症を抑える効果が非常に高い薬で、口内炎の炎症が強い場合や痛みが激しい場合に処方されます。 抗生物質は細菌感染が原因の口内炎に処方され、細菌の増殖を抑え、炎症を鎮める効果があります。 これらの薬剤は、医師の指示に従って適切に使用することが重要です。 自己判断で服用を中断したり、量を変更したりすることは避けてください。
レーザー治療
痛みが強い場合や再発を繰り返す場合、レーザー治療が有効な場合があります。 低出力のレーザーを照射することで、痛みを軽減し、治癒を促進することができます。レーザー治療は患部に直接作用するため、副作用が少ないというメリットがあります。 また、治療時間も短く、すぐに日常生活に戻ることができるのも利点です。 硝酸銀による焼灼療法も同様の効果がありますが、レーザー治療の方が効果が高いとされています。
栄養バランスの良い食事と十分な睡眠
口内炎を予防し、再発を防ぐためには、栄養バランスの良い食事と十分な睡眠が不可欠です。 ビタミンB群、ビタミンA、ビタミンCは粘膜の健康維持に重要な栄養素です。 これらのビタミンを多く含む食品を積極的に摂るようにしましょう。 また、疲労やストレスは口内炎の大きな原因となります。 質の高い睡眠を十分にとることで、疲労やストレスを軽減し、口内炎の予防・改善に繋げましょう。 ドイツの研究では、硬い、酸っぱい、辛い食べ物や、SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)を含む歯磨き粉、アルコール、炭酸飲料は口内炎を悪化させる可能性があると報告されています。
再発しやすい人の特徴
口内炎は誰にでも起こりうるものですが、再発しやすい人もいます。 例えば、20~30代の若い世代はアフタ性口内炎になりやすい傾向があります。 また、子供や高齢者は口の中を噛んでしまうなど、物理的な刺激による口内炎になりやすいです。 さらに、T細胞やTNF-αなどの免疫に疾患をお持ちの方、ストレスを多く抱えている方も、口内炎を繰り返しやすい傾向があります。 特定の食品や歯磨き粉に含まれる成分が口内炎の引き金になることもあります。
■口内炎の予防とホームケア
口内炎は、できてしまうと食事や会話の際に痛みを伴い、日常生活に支障をきたす厄介なものです。誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。口内炎の多くは毎日のちょっとした心がけで予防できる可能性があります。
ビタミンB群、C、鉄分の摂取
口内炎の予防には、ビタミンB群、ビタミンC、そして鉄分の摂取が重要です。ビタミンB群、特にビタミンB2とビタミンB6は、粘膜の健康維持に欠かせない栄養素です。
ビタミンB2は、細胞の成長や代謝を助ける働きがあり、皮膚や粘膜の健康を保つ上で重要な役割を担っています。ビタミンB2が不足すると、口内炎だけでなく、唇のひび割れや口角炎、舌炎なども起こりやすくなります。成長期のお子さんや妊婦さんなどは、特にビタミンB2を意識して摂取する必要があります。
ビタミンB6は、タンパク質の代謝や免疫機能の維持に関与しています。不足すると、免疫力が低下し、細菌やウイルスへの抵抗力が弱まり、口内炎ができやすくなってしまいます。また、皮膚炎や神経系の障害を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。
ビタミンCは、抗酸化作用があり、免疫機能の維持にも役立ちます。また、コラーゲンの生成にも関与しており、健康な粘膜を維持するために必要不可欠な栄養素です。鉄分は、赤血球のヘモグロビンの構成成分であり、酸素を全身に運ぶ役割を担っています。鉄分が不足すると、貧血を引き起こすだけでなく、細胞の成長や修復が阻害され、口内炎の治りが遅くなることがあります。
これらの栄養素は、バランスの良い食事から摂取することが理想です。ビタミンB2は、レバー、うなぎ、牛乳、卵、納豆などに多く含まれています。ビタミンB6は、マグロ、カツオ、バナナ、にんにく、鶏肉などに多く含まれています。ビタミンCは、柑橘類、いちご、ブロッコリー、ピーマン、キウイフルーツなどに多く含まれています。鉄分は、レバー、ひじき、ほうれん草、小松菜などに多く含まれています。食事からの摂取が難しい場合は、サプリメントを活用するのも一つの方法です。
ストレス軽減、十分な睡眠
ストレスや睡眠不足は、自律神経のバランスを崩し、免疫力を低下させ、口内炎の発症リスクを高めます。十分な睡眠時間を確保し、ストレスをうまくコントロールすることが、口内炎の予防につながります。
ストレス発散方法には、適度な運動、趣味の時間、リラックスできる音楽を聴く、アロマテラピー、瞑想など、自分に合った方法を見つけることが大切です。また、規則正しい生活リズムを維持することも、ストレス軽減に効果的です。毎日同じ時間に起床し、同じ時間に就寝することで、体内時計が整い、自律神経のバランスも安定します。
刺激の強い食べ物、歯磨き粉を避ける
口内炎ができている時や予防したい時は、刺激の強い食べ物や歯磨き粉は避けましょう。香辛料の効いた辛い食べ物、酸味の強い柑橘系の果物、炭酸飲料などは、口内炎を悪化させる可能性があります。熱い食べ物や飲み物も、粘膜を刺激するため注意が必要です。ドイツの研究では、硬い、酸っぱい、辛い食べ物や、アルコール、炭酸飲料は口内炎を悪化させる可能性があると報告されています。
また、研磨剤の入った歯磨き粉や、発泡剤が多く含まれている歯磨き粉も、口内を刺激することがあります。歯磨き粉に含まれるラウリル硫酸ナトリウム(SLS)は発泡剤として広く使用されていますが、粘膜への刺激性が指摘されており、口内炎を悪化させる可能性も懸念されています。刺激の少ない歯磨き粉を選び、歯磨きの際は力を入れすぎないように優しく丁寧に磨きましょう。うがい薬を使用する際は、刺激の少ないノンアルコールタイプを選びましょう。
正しい歯磨きと口腔ケアの実践
口内を清潔に保つことは、口内炎の予防に非常に重要です。食後や就寝前は必ず歯磨きを行い、歯垢や食べかすを取り除きましょう。歯垢や食べかすは、細菌の温床となり、口内炎の原因となることがあります。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシも使用して、歯と歯の間の汚れも丁寧に落とすようにしましょう。歯ブラシは、毛先が開いていないか、定期的に確認し、必要に応じて交換するようにしてください。
また、舌苔も細菌の温床となるため、舌ブラシを使って優しく清掃しましょう。舌苔は、舌の表面に付着した白い苔状のもので、細菌や食べかすなどが溜まりやすい場所です。舌苔を放置しておくと、口臭の原因となるだけでなく、口内炎のリスクを高める可能性もあります。
患部を清潔に保つ
口内炎ができてしまった場合は、患部を清潔に保つように心がけましょう。うがい薬を使用することで、口内を殺菌し、炎症を抑える効果が期待できます。刺激の少ないタイプのうがい薬を選び、用法・用量を守って使用しましょう。また、唾液には、口内を清潔に保つ自浄作用や抗菌作用、粘膜の保護作用など様々な機能があります。唾液の分泌を促すために、こまめな水分補給を心がけ、よく噛んで食事をするようにしましょう。
口呼吸をしていると口内が乾燥しやすいため、鼻呼吸を心がけることも大切です。口内が乾燥すると、唾液の分泌量が減少し、細菌が繁殖しやすくなります。就寝時に口が開いてしまう方は、マスクを着用することで口呼吸を予防することができます。
口内炎は、再発しやすい疾患です。口内炎を予防するためには、日頃からこれらのホームケアを実践し、口内環境を整えることが重要です。
■まとめ
口内炎は、アフタ性、カタル性、ヘルペス性、カンジダ性などの種類があり、それぞれ原因や症状が異なります。軽度の口内炎であれば市販薬で対処できますが、症状が重い場合や長引く場合は、自己判断せず、医療機関を受診してください。日頃からバランスの良い食事、十分な睡眠、適切な口腔ケアを心がけ、口内炎を予防し、健康な口内環境を保ちましょう。
参考文献
- Altenburg A, El-Haj N, Micheli C, Puttkammer M, Abdel-Naser MB, Zouboulis CC. The treatment of chronic recurrent oral aphthous ulcers.
- Staines K, Greenwood M. Aphthous ulcers (recurrent).
- Benahmed G, Noor S, Menzel A, Gasmi A. Oral Aphthous: Pathophysiology, Clinical Aspects and Medical Treatment.