病気と健康の話

【脂質異常症】腸は「小さな発酵工場」― 短鎖脂肪酸をつくりやすい腸内環境が血糖・血圧・コレステロールを整える—

はじめに ― あなたの腸は、いま何を「つくって」いますか

最近、「食物繊維」や「腸活」という言葉をよく耳にするようになった、という方は多いのではないでしょうか。ヨーグルトや納豆、野菜や海藻を意識してとっている方も増えています。けれども、「なぜ腸によいのか」「体の中で何が起きているのか」を説明できる方は、意外と少ないかもしれません。その答えの中心にあるのが、腸内細菌が食物繊維を発酵させてつくり出す「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」という物質です。2026 年に Nature Metabolism 誌に発表された総説(Dagbasi ら, 2026)は、短鎖脂肪酸が単なるエネルギー源ではなく、血糖・血圧・コレステロール・免疫、さらには脳にまで働きかける「情報物質」であることを、最新の知見として整理しています。

実際、食物繊維や全粒穀物を多くとる人ほど、心臓病・2 型糖尿病・大腸がんなどが少ないことは、大規模な解析(Reynolds ら, Lancet 2019)でも一貫して示されています。本コラムでは、短鎖脂肪酸とは何か、どこでどうつくられ、全身にどのような恩恵をもたらすのか、そして「短鎖脂肪酸をつくりやすい腸内環境」を毎日の食事でどう育てていくのかを、私たちが食事からとる脂肪酸の「質」の話も交えながら、最新の医学的根拠にもとづいてわかりやすくお伝えします。腸は、あなたが食べたものを材料に、健康を左右する物質を日々「製造」している——そんな「小さな発酵工場」の仕組みを、一緒にのぞいてみましょう。

1. 短鎖脂肪酸とは何か ― 腸内細菌が食物繊維からつくる「第三の栄養」

脂肪酸と聞くと、体につく「脂肪」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、腸の中でつくられる短鎖脂肪酸は、炭素の数が 6 個より少ない、とても小さな脂肪酸です。主役は炭素 2 個の酢酸(さくさん)、3 個のプロピオン酸、4 個の酪酸(らくさん)の三つで、大腸の中でおおよそ 60:20:20 の割合で存在します(Dagbasi ら, Nature Metabolism 2026)。私たちの体は、野菜や豆、海藻、全粒穀物などに含まれる食物繊維を、自分の消化酵素では分解できません。そのため食物繊維は消化されないまま大腸まで届き、そこで待ち構える腸内細菌が発酵させることで、はじめて短鎖脂肪酸が生まれます。いわば腸内細菌は、私たちが利用できないはずの「食べ残し」を、価値ある物質へと変えてくれる存在なのです。

短鎖脂肪酸には、大きく二つの顔があります。一つはエネルギー源としての顔です。とくに酪酸は、大腸の粘膜をつくる細胞(大腸上皮細胞)にとって最大の燃料であり、その必要エネルギーの最大 70%をまかなっているとされます(Dagbasi ら, 2026)。つまり酪酸は、腸そのものを健康に保つための「主食」のような役割を果たしています。もう一つの顔は、情報物質(シグナル分子)としての顔です。短鎖脂肪酸は腸の壁から吸収されて血液に乗り、肝臓・脂肪組織・膵臓、そして脳にまで届いて、代謝や免疫、食欲をコントロールする指令を出します。

興味深いことに、私たちの祖先は現代人よりもはるかに多くの食物繊維(1 日 100g 以上とも言われます)をとっており、必要エネルギーの最大 50%を短鎖脂肪酸からまかなっていたと推定されています。現代の食生活ではこの割合はわずか数%まで下がっており、食物繊維の不足が慢性的な炎症や代謝の病気につながっている可能性が指摘されています(Dagbasi ら, 2026)。短鎖脂肪酸は、人類が腸内細菌と長い時間をかけて築いてきた「共生」の産物であり、それを現代の食卓に取り戻すことが、いまの栄養学の大きなテーマになっているのです。

2. どこで、どうつくられるのか ― 発酵と相互栄養という共同作業

短鎖脂肪酸がもっとも盛んにつくられるのは、大腸のなかでも入口に近い「盲腸(もうちょう)」から「上行結腸(じょうこうけっちょう)」にかけての部分です。ここには腸内細菌がもっとも密集し、届いたばかりの食物繊維を活発に発酵させています(Dagbasi ら, 2026)。腸内細菌は種類によって「得意料理」が異なります。バクテロイデスという菌のグループは酢酸やプロピオン酸を、フィルミクテスというグループ、とりわけフェカリバクテリウム・プラウスニッツィやロゼブリアといった菌は酪酸を多くつくります。つまり、どの菌がどれだけ元気かによって、つくられる短鎖脂肪酸の「レシピ」が変わってくるのです。

さらに面白いのは、腸内細菌たちが「分業と連携」をしている点です。これはクロスフィーディング(相互栄養)と呼ばれます(Dagbasi ら, 2026)。まず、複雑な食物繊維を分解するのが得意な菌が、乳酸や酢酸、コハク酸といった中間産物を放出します。すると、それを材料として受け取った別の菌が、酪酸やプロピオン酸へと仕上げていきます。たとえば、ビフィズス菌がつくった乳酸や酢酸を、ユーバクテリウム・ハリイのような菌が酪酸に変換する、といった連携が知られています。腸内は、一つの菌だけでは完成しない料理を、多くの菌がリレーのようにつないで仕上げる「共同厨房」のような場所なのです。

この仕組みは、私たちの食事の選び方が「腸内で何がつくられるか」を直接左右することを意味します。2024 年に npj Biofilms and Microbiomes 誌に発表された解析(Van-Wehle & Vital, 2024)は、どんな食物繊維をとるかによって酪酸の産生量が大きく変わることを示しました。特定の一種類だけをとるよりも、種類の異なる食物繊維を組み合わせることが、多様な菌をバランスよく育て、短鎖脂肪酸を安定してつくらせる鍵になります。次の章では、こうしてつくられた短鎖脂肪酸が、全身でどのように働くのかを見ていきましょう。

3. 全身をめぐる情報物質 ― FFAR2/FFAR3 受容体と GLP-1

短鎖脂肪酸が「情報物質」として働くとき、体の細胞にはそれを受け取る「アンテナ」が必要です。その代表が、FFAR2(別名 GPR43)とFFAR3(GPR41)と呼ばれる受容体です(Dagbasi ら, 2026)。これらのアンテナは、腸の粘膜、免疫細胞、脂肪組織、そして神経など、全身のさまざまな場所に備わっています。短鎖脂肪酸がこのアンテナに結合すると、細胞のなかでスイッチが入り、代謝・免疫・食欲などにかかわる反応が次々と起こります。腸内でつくられた小さな分子が、体じゅうに張りめぐらされた受信機を通じて、全身に指令を送っているのです。

なかでも注目されているのが、食欲と血糖にかかわる働きです。腸の壁には、L 細胞と呼ばれるホルモン分泌細胞が点在しています。短鎖脂肪酸がこの L 細胞のアンテナを刺激すると、 GLP-1 や PYY といった「満腹ホルモン」が分泌されます(Dagbasi ら, 2026)。GLP-1 は、近年、肥満症や 2 型糖尿病の治療薬(セマグルチドなど)として広く知られるようになったホルモンですが、本来は私たち自身の腸が、食物繊維を発酵させることで自然に分泌しているものです。これらのホルモンは、脳に「もう満腹だ」と伝えて食欲を抑え、胃の動きをゆるやかにして食後血糖の急な上昇を防ぎます。

短鎖脂肪酸の働きは、消化管のなかだけにとどまりません。血圧の調整にもかかわっていることが、最新の研究で明らかになってきました。2025 年に Circulation Research 誌に発表された研究(Muralitharan ら, 2025)は、食物繊維からつくられた短鎖脂肪酸が、私たちの GPR41/43 受容体を介して血圧の上昇を防ぐことを、実験モデルで示しました。「食物繊維をしっかりとると血圧によい」という昔からの経験則の裏には、こうした腸内細菌と受容体の精密なやりとりがあったのです。加えて短鎖脂肪酸、とくに酪酸は、遺伝子の働きを調整する「エピジェネティクス」の仕組み(HDAC 阻害)を通じても、炎症を抑える方向へ体を導くことがわかっています(Dagbasi ら, 2026)。

4. 腸の壁を守る ― 酪酸とバリア機能・免疫

腸は、栄養を吸収する場所であると同時に、外の世界と体の内側を隔てる「関所」でもあります。口から入ってくる食べ物には、細菌やその毒素も混じっています。腸の壁がしっかりしていれば、必要な栄養だけを通し、有害なものは通さずにすみます。ところが、この壁がゆるむと、細菌の成分などが体内に漏れ込み、全身にくすぶるような炎症を引き起こします。これは俗に「リーキーガット(漏れる腸)」とも呼ばれる状態です。短鎖脂肪酸、とりわけ酪酸は、この腸の壁を守る主役です(Dagbasi ら, 2026)。

酪酸は、腸の粘膜細胞のエネルギー源になるだけでなく、細胞と細胞のすき間を締める「タイトジャンクション」というつなぎ目を強化し、粘膜を覆う粘液の産生を促します(Dagbasiら, 2026)。これにより、腸のバリアが物理的に丈夫になります。さらに酪酸は、先に述べたエピジェネティクスの仕組み(HDAC 阻害)を通じて、炎症を鎮める遺伝子のスイッチを入れ、過剰な免疫反応にブレーキをかけます。腸の壁を「厚く」し、同時に免疫を「静か」に保つ——酪酸はこの二役を同時にこなしているのです。腸の壁が健やかであることは、栄養をきちんと吸収するためだけでなく、全身にくすぶる炎症を低く抑えるうえでも土台になります。

免疫の面でも、短鎖脂肪酸は重要な調整役です。酪酸やプロピオン酸は、暴走しがちな免疫を抑える「制御性 T 細胞」の分化を促し、抗炎症性の物質(IL-10 など)の産生を高めることが知られています(Dagbasi ら, 2026)。逆に、酪酸をつくる菌が減り、便中の短鎖脂肪酸が少ない状態は、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)など、腸の炎症をともなう病気と関連することが報告されています。短鎖脂肪酸をつくりやすい腸内環境を保つことは、腸を「炎症に傾きにくい」状態へ整えることでもあるのです。ただし、これらの多くは観察研究や動物実験にもとづく知見であり、ヒトでの因果関係については今後さらに検証が必要とされています(Dagbasi ら, 2026)。

5. 血糖・体重・脂肪 ― 代謝を整える短鎖脂肪酸

短鎖脂肪酸は、全身のエネルギーの流れを整える「司令塔」のような役割も担っています(Dagbasi ら, 2026)。前章で述べた GLP-1 や PYY を介した食欲の抑制に加え、短鎖脂肪酸はエネルギーの消費を高め、脂肪の蓄積をコントロールします。血液に乗って肝臓に届いたプロピオン酸は、肝臓での脂肪合成やコレステロールの合成を抑える方向に働きます。実際、プロピオン酸を経口で補うと、血中の LDL(悪玉)コレステロールが下がることがヒトの研究で示されており、これは肝臓でのコレステロール合成が抑えられるためと考えられています(Dagbasi ら, 2026)。腸内でつくられる物質が、遠く離れた肝臓の脂質工場にまで「減産」の指示を出しているのです。

血糖の管理にも、短鎖脂肪酸は好ましく働きます。短鎖脂肪酸はインスリンの効きめ(インスリン感受性)を高め、膵臓の β 細胞を守る方向に作用します。食物繊維を多くとり、血中のプロピオン酸濃度が高い人ほど、2 型糖尿病になりにくいことが疫学研究で示されています(Dagbasi ら, 2026)。つまり、短鎖脂肪酸をつくりやすい食生活は、血糖・体重・脂質という、生活習慣病の中心となる指標を同時に良い方向へ動かす可能性を秘めているのです。これらの指標は互いに影響し合っているため、腸という「上流」から一つの流れを整えることが、複数のリスクにまとめて働きかけることにつながります。

肝臓の健康、とくに近年増えている脂肪肝(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、MASLD)にも短鎖脂肪酸は関係します。発酵しやすい食物繊維を多くとる食事は、脂肪肝のリスクが低いことと関連し、酪酸には肝臓の脂肪蓄積や炎症を抑える働きが報告されています(Dagbasi ら, 2026)。もっとも、これらは有望な知見である一方、短鎖脂肪酸そのものを薬のように大量に補えばよい、という単純な話ではありません。腸のなかで、自分の菌に、自分の食べたものから、こつこつとつくってもらう——この「自前の発酵」こそが、体にとって最も自然で持続可能な形なのです。

6. 脂肪酸の「質」を問う ― 飽和脂肪酸から多価不飽和脂肪酸へ、そして LDL は「長く低く」

ここまで、腸内でつくられる「短い」脂肪酸の話をしてきました。一方で、私たちが食事から直接とる脂肪酸——炭素の鎖が長い「長鎖脂肪酸」——の「質」も、健康を大きく左右します。脂肪酸は大きく、肉やバター、乳製品に多い飽和脂肪酸と、植物油や魚に多い不飽和脂肪酸(一価・多価)に分けられます。長年の研究が示すのは、飽和脂肪酸を減らし、その分を多価不飽和脂肪酸(オメガ 6 やオメガ 3)に置き換えると、心血管疾患が減少する傾向がある、ということです。信頼性の高い研究を集めたコクラン・レビュー(Hooper ら, 2020)は、飽和脂肪酸の摂取を減らすことで心血管イベントが減ることを示しました。

置き換える相手として、とりわけ注目されるのが多価不飽和脂肪酸です。世界 30 のコホート研究を統合した大規模解析(Marklund ら, Circulation 2019)では、体内のリノール酸(代表的なオメガ 6 の多価不飽和脂肪酸)の濃度が高い人ほど、心血管疾患や死亡のリスクが低いことが示されました。植物油や種実類、魚に含まれるこれらの脂肪酸を「主役」に据えることは、現代の栄養学が推奨する方向性です。実際、エキストラバージンオリーブオイルやナッツを豊富にとる地中海食が心血管疾患を予防することは、PREDIMED という大規模ランダム化試験(Estruch ら, N Engl J Med 2018)で示されています。米国心臓協会(AHA)の食事指針(Lichtenstein ら, Circulation 2021)も、飽和脂肪を不飽和脂肪、とりわけ植物由来の油に置き換えることを一貫して勧めています。

そして、脂質管理でもう一つ大切な視点が、LDL(悪玉)コレステロールを「どこまで下げたか」だけでなく、「どれだけ長く低く保ったか」です。2024 年に Nature Reviews Cardiology 誌に発表された「LDL 累積曝露」の考え方(Ference ら, 2024)は、動脈硬化のリスクが、LDL の高さと、それにさらされた年数の“かけ算”で決まることを示しています。つまり、若いうちから少しずつでも LDL を低く保つことが、生涯の心血管リスクを大きく減らすのです。2025 年に改訂された欧州(ESC/EAS)の脂質管理ガイドライン(2025)も、より早期から、より低い LDL を長く維持する方針を強調しています。まとめると、食事からは質の良い長鎖不飽和脂肪酸を主役にとりつつ、腸内では短鎖脂肪酸をしっかり産生できる食生活を目指すこと——これが、現在の栄養学が最も推奨する「脂肪酸との付き合い方」なのです。

7. 短鎖脂肪酸をつくりやすい食生活 ― 明日からの実践

では、短鎖脂肪酸をつくりやすい腸内環境を、毎日の食事でどう育てればよいのでしょうか。第一の鍵は、食物繊維を「量」と「種類」の両面で増やすことです。大規模な解析(Reynolds ら, Lancet 2019)は、1 日およそ 25〜29g 以上の食物繊維をとる人で、心臓病・2 型糖尿病・大腸がんが最も少ないことを示しました。日本人の多くは、この目標に届いていないのが現状です。野菜、豆類、全粒穀物(玄米・オートミールなど)、海藻、きのこ、果物といった、さまざまな食材を組み合わせることが大切です。前述のとおり、一種類に偏るより多様な食物繊維をとるほうが、多様な菌を育て、酪酸などの産生が安定します(Van-Wehle & Vital, 2024)。

第二の鍵は、腸内細菌の「えさ」になりやすい成分を意識することです。冷やごはんや冷ましたじゃがいもに増える「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」は、大腸まで届いて発酵し、酪酸のよい材料になります。オーツ麦に多い水溶性食物繊維、玉ねぎやごぼう、バナナに含まれるオリゴ糖なども、短鎖脂肪酸の産生を後押しします。あわせて、納豆・ヨーグルト・味噌・漬物・キムチといった発酵食品をとることも、腸内環境を整える助けになります。日本の伝統的な食卓には、こうした「発酵する腸」を育てる知恵がもともと備わっているのです。

第三の鍵は、脂肪酸の「質」を意識した全体設計です。第 6 章で述べたように、バターやラードなどの飽和脂肪酸を控えめにし、オリーブオイルや菜種油、青魚、ナッツなどの不飽和脂肪酸を主役にする——これは地中海食(Estruch ら, 2018)や米国心臓協会の指針(Lichtenstein ら, 2021)が勧める食べ方そのものです。食物繊維で腸を整え、質の良い脂質を選ぶ。この二つを同時に実践することが、短鎖脂肪酸と心血管の健康をともに手に入れる近道です。ただし、食物繊維を急に増やすとお腹が張ることがあるため、少しずつ、水分をとりながら増やすのがコツです。持病がある方や薬を服用中の方は、かかりつけ医に相談しながら進めてください。

おわりに ― 「発酵する腸」を育てる

短鎖脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維を発酵させてつくり出す、小さくても力強い物質です。エネルギー源であると同時に、血糖・血圧・コレステロール・免疫・食欲をも整える「情報物質」として、全身の健康を静かに支えています(Dagbasi ら, Nature Metabolism 2026)。その恩恵を受け取る鍵は、特別なサプリメントではなく、毎日の食卓にあります。多様な食物繊維と発酵食品で腸を育て、飽和脂肪酸を質の良い不飽和脂肪酸に置き換え、LDL コレステロールを「長く低く」保つ——地道ですが確かなこの積み重ねが、10 年後、20 年後のあなたの体を守ります。

まんかいメディカルクリニックでは、CT や超音波による内臓脂肪・脂肪肝の評価、血液検査による脂質・血糖の管理に加え、栄養指導や運動療法による生活習慣のサポートを行っています。「腸から全身を整える」第一歩を、私たちと一緒に踏み出してみませんか。気になる症状や健診の結果がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. 短鎖脂肪酸は、サプリメントでとったほうが効率的ですか?

短鎖脂肪酸そのものやその材料を補うサプリメントも研究されていますが、口からとった短鎖脂肪酸の多くは小腸で早く吸収されてしまい、大腸まで届きにくいことが知られています(Dagbasi ら, 2026)。また、12 か月間の補充試験では体重や体脂肪が必ずしも減らず、効果には年齢などの個人差があることも報告されています。現時点では、食物繊維をしっかりとり、自分の腸内細菌にこつこつつくってもらう「自前の発酵」が、最も自然で確実な方法と考えられます。

Q2. どんな食べ物が、いちばん短鎖脂肪酸を増やしますか?

「これだけ食べればよい」という特別な食品はありません。大切なのは種類の多さです。2024 年の解析(Van-Wehle & Vital, 2024)では、食物繊維の種類によって酪酸の産生量が変わることが示され、多様な食物繊維を組み合わせることが安定した産生につながります。野菜・豆・全粒穀物・海藻・果物をまんべんなくとり、冷やごはんなどのレジスタントスターチや、納豆・ヨーグルトなどの発酵食品を加えるのがおすすめです。

Q3. 食物繊維をとると、お腹が張ってしまいます。どうすればよいですか?

食物繊維を急に増やすと、発酵の過程でガスが増え、お腹の張りや不快感が出ることがあります。これは腸内細菌が食物繊維に慣れていく過程でよく見られる反応です。対策は、少量から始めて数週間かけて少しずつ増やすこと、こまめに水分をとること、そして水溶性食物繊維(オーツ麦、大麦、海藻など)から取り入れることです。症状が強い場合や、下痢・血便・体重減少などをともなう場合は、別の病気が隠れていることもあるため、医療機関にご相談ください。

Q4. 短鎖脂肪酸は、コレステロールや血圧にも本当に効くのですか?

腸内でつくられる短鎖脂肪酸は、肝臓でのコレステロール合成を抑えて LDL コレステロールを下げる方向に働き(Dagbasi ら, 2026)、受容体(GPR41/43)を介して血圧の上昇を防ぐことが最新の研究で示されています(Muralitharan ら, Circulation Research 2025)。ただし、これらの多くは実験モデルや観察研究にもとづく知見で、食事だけですべてが解決するわけではありません。すでに脂質異常症や高血圧と診断されている方は、食事の工夫に加えて、必要に応じた治療を続けることが大切です。

Q5. コレステロールの薬を飲んでいれば、食事は気にしなくてよいですか?

そうとは言えません。LDL コレステロールは「どこまで下げたか」だけでなく「どれだけ長く低く保ったか」が重要で、生涯の累積曝露が動脈硬化のリスクを決めると考えられています(Ference ら, Nature Reviews Cardiology 2024)。薬による管理と、食物繊維・質の良い脂質を中心とした食事は、車の両輪です。食事で腸内環境と脂質の質を整えることは、薬の効果を支え、糖尿病や脂肪肝など他のリスクも同時に下げてくれます。自己判断で薬を中止せず、食事と治療の両方を続けることをおすすめします。

参考文献

  1. Dagbasi A, Cai M, Hirdaramani A, et al. Short-chain fatty acids. Nat Metab. 2026. https://doi.org/10.1038/s42255-026-01579-9
  2. Reynolds A, Mann J, Cummings J, et al. Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses. Lancet. 2019;393(10170):434-445. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31809-9
  3. Hooper L, Martin N, Jimoh OF, et al. Reduction in saturated fat intake for cardiovascular disease. Cochrane Database Syst Rev. 2020;(8):CD011737. https://doi.org/10.1002/14651858.CD011737.pub3
  4. Marklund M, Wu JHY, Imamura F, et al. Biomarkers of dietary omega-6 fatty acids and incident cardiovascular disease and mortality: an individual-level pooled analysis of 30 cohort studies. Circulation. 2019;139(21):2422-2436. https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.118.038908
  5. Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, et al. Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet supplemented with extra-virgin olive oil or nuts (PREDIMED). N Engl J Med. 2018;378(25):e34. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1800389
  6. Ference BA, Braunwald E, Catapano AL, et al. The LDL cumulative exposure hypothesis: evidence and practical applications. Nat Rev Cardiol. 2024;21(10):701-716. https://doi.org/10.1038/s41569-024-01039-5
  7. European Society of Cardiology (ESC) and European Atherosclerosis Society (EAS). 2025 Focused update of the 2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias. Eur Heart J. 2025;46(42):4359-4378. https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehaf190
  8. Muralitharan RR, Zheng T, Dinakis E, et al. Gut microbiota metabolites sensed by host GPR41/43 protect against hypertension. Circ Res. 2025;136:e20-e33. https://doi.org/10.1161/CIRCRESAHA.124.325770
  9. Van-Wehle T, Vital M. Investigating the response of the butyrate production potential to major fibers in dietary intervention studies. npj Biofilms Microbiomes. 2024;10:63. https://doi.org/10.1038/s41522-024-00533-5
  10. Lichtenstein AH, Appel LJ, Vadiveloo M, et al. 2021 Dietary guidance to improve cardiovascular health: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation. 2021;144(23):e472-e487. https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000001031

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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