気になるお腹まわり、お酒は明らかに原因の一つです
―「液体カロリー」の科学と最新治療の選択肢―
はじめに ― 「ビール腹」は本当にビールのせいなのか
「最近、ベルトの穴がひとつずれた」「健診でウエスト周囲径が引っかかった」「お腹まわりだけ気になる」――こうした体の変化を感じている方は少なくないはずです。多くの方は「年齢のせい」「運動不足のせい」と考えますが、もしかするとその一因は、毎日の晩酌や週末のビールにあるかもしれません。お酒は単なる嗜好品ではなく、体重・体脂肪・肝臓・代謝機能に複合的な影響を与える「液体カロリー源」だからです。
実際、米国の国民健康・栄養調査(NHANES)を用いた解析では、肥満と過剰飲酒を併せ持つ「高リスク表現型」をもつ成人は 1999 年から 2017 年にかけて毎年約 3.25%ずつ増加し、特に 40〜59 歳の中年層では 2007 年以降毎年約 9.94%という急速な増加が報告されています(Raza et al., Lancet Reg Health Am 2023)。日本でも同様の傾向が懸念されており、「お酒×お腹まわり」の問題は今や世界的な代謝疾患課題の一翼を担っています。
そして 2026 年 5 月、Lancet 誌に発表されたデンマーク・コペンハーゲン大学の Klausen 博士らによる画期的な臨床試験(SEMALCO 試験)は、この「お酒と体型」の関係に新しい光を当てました。アルコール使用障害+BMI 30 以上の患者 108 人に、肥満治療薬として認可されているセマグルチド(GLP-1 受容体作動薬)を週 1 回投与したところ、26 週間で大量飲酒日数が有意に減少し、体重も平均 11.2kg 減少したのです(Klausen et al., Lancet 2026)。本コラムでは、お酒がなぜお腹まわりに影響するのか、そして最新治療がどこまで進んだかを、欧米の権威ある最新研究を交えて、わかりやすく解説します。
1. 「液体カロリー」の正体 ― 1 グラム 7 キロカロリーという落とし穴
お酒のカロリーは、しばしば過小評価されています。アルコールは 1 グラムあたり 7 キロカロリーのエネルギーを持ち、これは炭水化物(4 kcal/g)やタンパク質(4 kcal/g)よりも高く、脂質(9 kcal/g)に次ぐ高エネルギー栄養素です(Traversy & Chaput, Curr Obes Rep 2015)。しかも、アルコールには有益な栄養素は含まれず、いわゆる「エンプティカロリー(空のカロリー)」と呼ばれます。500mL の缶ビール 1 本は約 200kcal、ハイボール 1 杯は約 100kcal、日本酒 1 合(180mL)は約 180kcal、焼酎ロック 1 杯は約 140kcal。これらは「ご飯 1 膳分(約 240kcal)」に相当する規模です。
問題は、アルコールが固形食品に比べて満腹感を生みにくいことです。2024 年に Current Obesity Reports に発表された総説では、アルコールはエネルギー密度が高いにもかかわらず満腹感シグナルを弱め、脂肪酸化(脂肪を燃やす反応)を抑制し、食欲を刺激することで、体重増加に寄与すると整理されています(Tobaruela-Resola et al., Curr Obes Rep 2024)。つまり、アルコールを飲むと、(1)アルコール自体のカロリーが上乗せされ、(2)つまみの摂取が増え、(3)脂肪が燃えにくくなる、という三重の効果でお腹まわりに脂肪が蓄積しやすくなるのです。
特に重要なのは「飲み方」です。少量の飲酒(1 日 1 ドリンク程度)では体重増加との関連は一貫しませんが、大量飲酒は明確に体脂肪・腹部肥満と関連することが、複数の前向き研究で確認されています(Traversy & Chaput, 2015; Tobaruela-Resola et al., 2024)。「毎晩のビール 1 本」が長年積み重なれば、それは 1 年で約 7 万 kcal、体脂肪換算で約 10kg 分のエネルギー超過に相当します。「飲みすぎていないつもり」が、知らぬ間にお腹まわりを育てているのです。
2. お酒×お腹まわりは「世界的な流行病」 ― 増え続ける高リスク表現型
「お酒+お腹まわり」の組み合わせは、単なる個人の嗜好の問題ではなく、すでに公衆衛生上の大きな課題となっています。2023 年に Lancet Regional Health–Americas 誌に発表された NHANES を用いた米国の大規模解析(45,292 人)では、過剰飲酒(男性週 14 杯超、女性週 7 杯超)と肥満(BMI 30 以上)を併せ持つ成人の割合が、1999 年から 2017 年にかけて年率約 3.25%で増加していることが示されました(Raza et al., Lancet Reg Health Am 2023)。
特に注目すべきは、40〜59 歳の中年層で 2007 年以降、年率約 9.94%という急増を示している点です。さらに女性では男性より速いペースで増加しており(年率 3.96% vs 2.47%)、白人・黒人で増加が顕著、ヒスパニック系では大きな変化はないとの結果でした(Raza et al., 2023)。日本でも、コロナ禍前後の在宅時間増加・ストレス増加にともなう家飲み習慣の固定化が、同様のトレンドを生んでいる可能性が指摘されています。
なぜ問題かというと、過剰飲酒と肥満は別々のリスクではなく、心血管疾患・脂肪肝・糖尿病・がん・認知症など複数の慢性疾患リスクを「相乗的に」高めるからです。Klausen 博士らの 2026 年 Lancet 論文でも、米国だけで肥満と過剰飲酒の両方を抱える成人は推定 800 万人にのぼると指摘されており、「お酒×お腹まわり」は世界が直面する未解決の臨床課題のひとつなのです(Klausen et al., Lancet 2026)。当院では、ウエスト周囲径、腹部 CT による内臓脂肪面積測定、肝機能検査(γ-GTP・ALT・AST)、AUDIT による飲酒スクリーニングを組み合わせた包括的な評価を提供しています。
3. お酒は肝臓だけでなく「全身」を蝕む ― MetALD という新概念
お酒の影響と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、肝硬変や脂肪肝といった肝臓の病気でしょう。しかし最新の医学は、お酒と肥満の組み合わせが従来の「アルコール性肝障害」「非アルコール性脂肪肝」とは異なる、独立した病態を形成することを明らかにしました。それが 2023 年に米国肝臓病学会(AASLD)・欧州肝臓病学会(EASL)・ラテンアメリカ肝臓研究学会(ALEH)による合同コンセンサスで定義された、新しい疾患概念「MetALD(メタアルド)」です。
MetALD とは、代謝異常を伴う脂肪性肝疾患(MASLD)を持ち、なおかつ女性で週 140g、男性で週 210g(おおよそビール 7〜10 本/週)を超えてお酒を飲む方を指します(Rinella et al., Hepatology 2023)。これは従来の「非アルコール性脂肪肝(NAFLD)」と「アルコール性肝障害(ALD)」の中間に位置する独立したカテゴリーで、世界の脂肪性肝疾患患者の約 10%、一般人口の約 2.1〜8.3%を占めると推計されています(Israelsen et al., Liver Int 2024)。
重要なのは、MetALD が肝硬変や肝臓がんへの進行リスクが高く、心血管死亡リスクも上昇することです。2025 年に Liver International 誌に発表された UK Biobank 等 464,556 人の前向き解析では、MetALD は MASLD(非飲酒性脂肪肝)と比較して肝硬変リスクが有意に高く、全死亡リスクも上昇することが示されました(Hu et al., Liver Int 2025)。つまり「メタボ気味の人がお酒も飲む」という日本でも非常に多いパターンは、肝臓・心血管・代謝のすべてを同時に脅かす最も危険な組み合わせのひとつなのです。当院では、超音波・腹部 CT・肝線維化マーカー(FIB-4)による肝臓評価と、飲酒・代謝両面からの介入を提供しています。
4. お酒とがん ― 「1 杯目から」始まるリスク
お酒とがんの関係について、近年の医学コンセンサスは大きく転換しました。米国臨床腫瘍学会(ASCO)は 2018 年の声明で、アルコールが口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・乳房・大腸の 7 部位のがんの確立されたリスク因子であることを明示し、適度な飲酒であってもがんリスクを高めうると警告しました(LoConte et al., J Clin Oncol 2018)。さらに 2025 年 1 月、米国公衆衛生長官は「アルコールはタバコ・肥満に次ぐ第 3 位の予防可能ながん原因」とする勧告を発表し、米国だけで年間約 10 万件の新規がんと約 2 万人のがん死がアルコールに帰せられると報告しました(Lancet Gastroenterol Hepatol, 2025)。
驚くべきことに、メカニズム研究では「安全な飲酒量」は存在しないと結論づけられつつあります。世界保健機関(WHO)は 2023 年、「健康のための安全な飲酒量はない」と公式声明を発表し、IARC(国際がん研究機関)は 1988 年以来、アルコールを「グループ 1 発がん物質(タバコ・アスベストと同じ最高ランク)」に分類しています。2024 年の系統的レビュー・メタ解析では、軽度〜中等度飲酒でも食道がん・大腸がん・喉頭がん・乳がんのリスク上昇が確認されました(Bagnardi et al., Br J Cancer 2024)。
発がんメカニズムには、アセトアルデヒド(アルコール代謝物質)による DNA 損傷、酸化ストレス、エストロゲン濃度上昇、葉酸代謝障害、免疫機能低下などが関与しています。特に日本人の約 40%は、アセトアルデヒド分解酵素(ALDH2)の活性が遺伝的に低く、お酒で顔が赤くなるタイプの方は、同じ飲酒量でも食道がん・頭頸部がんのリスクが数倍高まることが知られています。「飲んで赤くなる体質」は決して珍しいものではなく、医学的に重要な発がんリスク因子なのです。当院では、必要に応じてがんスクリーニング(腹部 CT、上部消化管内視鏡の医療連携)、肝機能評価、定期健診を組み合わせて提供しています。
5. お酒×肥満は「同じコインの裏表」 ― 脳の報酬系で結ばれた共通の病態
「お酒を飲みすぎる人」と「食べすぎる人」、両者は別の問題に見えるかもしれません。しかし最新の脳科学・神経生物学は、両者が脳の同じ「報酬系(ドーパミン系)」の機能異常という、共通の生物学的基盤の上に成り立っていることを明らかにしてきました。2025 年に Molecular Psychiatry 誌に発表された米国 NIDA(国立薬物乱用研究所)・NIAAA(国立アルコール乱用・アルコール依存症研究所)らの権威ある総説は、「アルコール使用障害と肥満は同じコインの裏表である」と結論づけています(Leggio et al., Mol Psychiatry 2025)。
両者は、(1)前頭前皮質-線条体ドーパミン経路の機能不全、(2)ストレス応答系(HPA 軸)の異常、(3)報酬への過剰反応と意思決定能力の低下、(4)摂食・飲酒行動を制御する腸-脳軸(GLP-1、レプチン、グレリン等)の異常、という共通の神経生物学的特徴を持ちます(Leggio et al., 2025)。だからこそ、お酒の問題と体重の問題はしばしば同じ患者さんに併存し、また「ダイエットがうまくいかない人ほどお酒もコントロールしにくい」という臨床現場の経験則とも一致します。
この理解は治療戦略にも大きな転換をもたらしました。従来は「お酒の問題は精神科」「肥満は内科」と分業していましたが、両者を統合的にとらえ、脳-腸-代謝系に同時に作用する治療(後述する GLP-1 受容体作動薬がその代表例)が、両方の問題を同時に改善できる可能性が現実のものとなってきています。当院では、アルコール、食事、運動、薬物療法を含む包括的なアプローチで、患者さんの「全体的な健康」を支える医療を提供しています。
6. SEMALCO 試験 ― セマグルチドが「お酒も体重も」減らした衝撃
本コラムの主軸となるのが、2026 年 5 月に Lancet 誌に発表されたデンマーク・コペンハーゲン大学 Klausen 博士らの SEMALCO 試験です。これは、治療を希望するアルコール使用障害+肥満(BMI 30 以上)患者 108 人(男女ほぼ半数)を対象に、肥満治療薬として承認されているセマグルチド(週 1 回 2.4mg 皮下注射、製品名ウゴービ)とプラセボを比較した 26 週間の二重盲検ランダム化比較試験です(Klausen et al., Lancet 2026)。
結果は明確でした。主要評価項目である「大量飲酒日数(男性≥60g/日、女性≥48g/日のアルコール摂取日)」は、セマグルチド群で 41.1 ポイント減少、プラセボ群で 26.4 ポイント減少し、推定治療差は−13.7 ポイント(p=0.0015)と有意でした。総アルコール摂取量はセマグルチド群で平均 1,550g/30 日減少(プラセボは 1,026g 減)、飲酒衝動(クレービング)、AUDIT 点数、WHO リスク飲酒レベルなど、ほぼすべての副次評価項目でセマグルチドが優越性を示しました(Klausen et al., 2026)。
そして体重についても、セマグルチド群は平均 11.2kg 減少(プラセボは 2.2kg 減)、ウエスト周囲径は 12.1cm 減少(プラセボは 3.8cm 減)、HbA1c も 0.3%低下と、肥満治療薬としての効果が並行して確認されました。注目すべきは、セマグルチド群では飲酒日数の減少と体重減少に有意な相関(Spearman 相関係数 −0.40)があり、「お酒が減ること」と「体重が減ること」が同じ薬剤で同時に達成された点です。さらに、米国 FDA が承認している既存のアルコール使用障害治療薬(アカンプロセート、ナルトレキソンなど)の必要治療数(NNT)は 7 以上であるのに対し、セマグルチドの NNT は 4.3 と、より高い臨床効果が示唆されました(Klausen et al., 2026)。
7. なぜ GLP-1 作動薬は「お酒」にも効くのか ― 食欲と飲酒衝動の共通回路
セマグルチドが体重だけでなく飲酒にも効果を示す機序について、近年の研究は急速に解明を進めています。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、もともと 2 型糖尿病・肥満症の治療薬として開発されましたが、GLP-1 受容体は膵臓だけでなく、脳の報酬系・食欲制御中枢(視床下部、孤束核、腹側被蓋野、側坐核)にも豊富に存在することがわかっています(Klausen et al., 2026)。
前臨床(動物)研究では、GLP-1 受容体作動薬がドーパミン報酬系の活性を抑え、アルコール・ニコチン・コカインなどの嗜好品摂取を有意に減らすことが繰り返し示されています。Klausen 博士らが 2022 年に JCI Insight に発表した先行試験では、GLP-1 作動薬エキセナチドがアルコール使用障害患者の脳画像において、アルコール関連の手がかり(写真、グラスの音など)に対する報酬関連脳領域の活性を有意に減少させることが示されました(Klausen et al., JCI Insight 2022)。
さらに 2024 年に Nature Communications に発表された米国の電子カルテ約 100 万人規模の解析では、セマグルチド処方患者はアルコール使用障害の新規発症リスクが約 50%、再発リスクも有意に低下していました(Wang et al., Nat Commun 2024)。同年、フィンランドの 18 万人レジストリ研究(JAMA Psychiatry)でも、セマグルチド・リラグルチドが入院を要するアルコール関連イベントを有意に減らしたことが報告されています(Lähteenvuo et al., JAMA Psychiatry 2024)。さらに 2025 年 2 月の JAMA Psychiatry に発表された米国 Hendershot 博士らの第 II 相 RCT(48 人、9 週間)では、セマグルチド低用量でも飲酒衝動の減少と実験室飲酒量の減少が確認されました(Hendershot et al., JAMA Psychiatry 2025)。これらすべてが、Klausen 博士らの 2026 年 Lancet 論文へとつながる流れです。
8. 当院での実践 ― お酒×体重増加への包括的アプローチ
ここまでの最新研究を踏まえると、「お酒」と「お腹まわり」は別々の問題ではなく、共通の代謝・脳機能の異常として統合的にとらえるべきであることが明らかです。当院では、こうした最新の医学知見をもとに、以下のような包括的なアプローチを提供しています。
まず、評価の段階では、ウエスト周囲径、BMI、腹部 CT による内臓脂肪面積測定、超音波による脂肪肝評価、肝機能検査(AST・ALT・γ-GTP)、HbA1c・脂質プロファイルを組み合わせ、お酒・代謝・肝臓の三方向から状態を客観的に把握します。必要に応じて、肝線維化スコア(FIB-4)などの追加検査も実施します。
治療のステップでは、(1)生活習慣改善(飲酒量の段階的減量、運動療法施設での個別運動指導、管理栄養士との連携による食事調整、睡眠衛生)、(2)必要に応じた薬物療法(2 型糖尿病や高度肥満症の保険適用範囲内での GLP-1 受容体作動薬・SGLT2 阻害薬・メトホルミン)、(3)定期的なフォローアップとデータの可視化(CGM、ウエスト周囲径の推移、肝機能の経時変化)を組み合わせます。なお、現在の日本ではセマグルチドのアルコール使用障害への適応は承認されていないため(2026 年 4 月時点)、本コラムの内容はあくまでエビデンス紹介であり、適応外処方を推奨するものではありません。
おわりに ― 「ちょっと気になるお腹」は、人生の分岐点
お酒を全否定するつもりはありません。適度な飲酒は文化であり、人生の楽しみであり、人とのつながりを育てる大切な時間です。しかし、「お酒は健康にいい」という以前の通説は、近年の大規模研究によって大きく書き換えられています。WHO が「健康のための安全な飲酒量はない」と明言し、米国公衆衛生長官が「お酒はタバコ・肥満に次ぐ第 3 位のがん原因」と勧告する時代になりました(Lancet Gastroenterol Hepatol, 2025)。
「ちょっとお腹が気になる」「健診で肝機能がひっかかった」「お酒の量が増えた気がする」――これらは決して小さなサインではなく、体が発する重要なメッセージです。早期に評価して、自分の状態を客観的に把握し、必要なら飲酒量を見直し、ときには医学的な介入を組み合わせることで、肝臓・心血管・代謝・がんリスクを大きく減らすことができます。Klausen 博士らの SEMALCO 試験は、これまで治療法が限られていた「お酒×お腹まわり」問題に新しい選択肢が現れたことを示しています(Klausen et al., Lancet 2026)。
まんかいメディカルクリニックでは、CT・超音波による客観的評価、運動療法施設での継続的サポート、内科・代謝・肝臓の専門的視点からの治療を通じて、患者さんが「お酒も人生も上手につき合える健康な体」を取り戻すお手伝いをしています。気になる方はお気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 健康のために「適量のお酒」はあるのでしょうか?
従来は「適度な飲酒は心血管に良い(J カーブ理論)」とされていましたが、近年の大規模研究はこの説を否定する方向に進んでいます。世界保健機関(WHO)は 2023 年、「健康のための安全な飲酒量はない」と公式声明を発表し、米国公衆衛生長官は 2025 年に「お酒はタバコ・肥満に次ぐ第 3 位の予防可能ながん原因」と勧告しました(Lancet Gastroenterol Hepatol, 2025)。とはいえ、現実的な目安として、日本の「健康日本 21」では男性で純アルコール 20g/日(ビール中瓶 1 本、日本酒 1 合、ハイボール缶 1 本相当)、女性ではその半分の 10g/日が「節度ある飲酒」とされています。週に 2 日以上の休肝日を設けることも推奨されます。当院では、AUDIT(飲酒スクリーニングテスト)と肝機能・代謝指標の評価により、個別のリスクを踏まえたアドバイスを提供しています。
Q2. 「お酒だけ」気をつければ、体重も減りますか?
減る可能性はありますが、それだけでは不十分なことも多いです。Klausen 博士らの Lancet 2026 論文(SEMALCO 試験)では、セマグルチド群で飲酒日数の減少と体重減少に有意な相関(Spearman 相関係数 −0.40)があり、「お酒を減らすこと」が「体重を減らすこと」と密接につながることが示されました(Klausen et al., 2026)。ただし、お酒を減らしても、その分のカロリーを甘いもの・つまみ・夜食で補ってしまえば体重は減りません。また、長年の過剰飲酒による脂肪肝や代謝異常は、飲酒量を減らすだけでは完全には改善しないことが多く、運動・食事・必要に応じた薬物療法を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。当院では、CT・超音波による客観的評価と、運動療法施設・栄養指導・薬物療法を組み合わせた個別の戦略をご提案しています。
Q3. 「お酒で顔が赤くなる体質」は、どのくらい注意すべきですか?
非常に注意が必要です。日本人の約 40%は、アセトアルデヒド(アルコール代謝物)を分解する酵素 ALDH2 の活性が遺伝的に低く、いわゆる「フラッシャー(飲んで赤くなる体質)」とされます。この体質の方は、同じ飲酒量でもアセトアルデヒドが体内に長く留まり、食道がん・頭頸部がん(口腔・咽頭・喉頭)のリスクが正常活性者の数倍に上昇することが、複数の疫学研究で確認されています(Bagnardi et al., Br J Cancer 2024)。残念ながら「飲み続ければ強くなる」という俗説は誤りで、ALDH2 活性は遺伝的に固定されています。フラッシャー体質の方は、飲酒量を抑えること、定期的な上部消化管内視鏡(胃カメラ)によるがんスクリーニングを検討することが推奨されます。当院では、必要に応じて医療連携による検査をご案内しています。
Q4. 脂肪肝と言われたのですが、お酒をやめれば元に戻りますか?
状態によります。脂肪肝の段階(肝脂肪沈着のみ)であれば、断酒・減酒+体重 5〜10%減量で改善することが多いです。しかし、肝炎(炎症を伴う段階)や線維化(肝臓が硬くなる段階)に進行している場合、回復には数か月から数年を要し、肝硬変まで進むと完全には戻らないこともあります。特に注意が必要なのは「MetALD(メタアルド)」という新しい疾患概念です。これはメタボ要素(肥満・糖尿病・脂質異常など)に加えて週 140g(女性)〜210g(男性)以上の飲酒がある脂肪性肝疾患で、純粋なメタボ性脂肪肝(MASLD)よりも肝硬変・肝がん・心血管死亡リスクが有意に高いことが、2025 年の Liver International 誌の 46 万人解析で示されました(Hu et al., Liver Int 2025)。当院では、超音波・腹部 CT・肝線維化マーカー(FIB-4)による客観的評価と、減酒・減量・代謝改善を組み合わせた治療をご提案しています。
Q5. GLP-1 薬(セマグルチドなど)は、お酒の問題のために処方してもらえますか?
現在の日本では、セマグルチドはアルコール使用障害への保険適用は承認されていません(2026 年 4 月時点)。あくまで 2 型糖尿病(オゼンピック・リベルサス)、または高度肥満症(BMI 35 以上、または 27 以上で複数の合併症あり、ウゴービ)が保険適用範囲です。Klausen 博士らの SEMALCO 試験(Lancet 2026)はあくまで研究段階のエビデンスであり、現時点で適応外処方を推奨するものではありません(Klausen et al., 2026)。ただし自費診療でセマグルチドを使用しながら、結果として飲酒量も体重も自然に減ったというケースは臨床現場で数多く経験しています。今後、第 III 相試験の結果次第で適応拡大の可能性もあります。当院では、適応・効果・副作用(吐き気、便秘、まれに膵炎など)・費用負担について十分にご説明したうえで処方判断を行っています。気になる方はお気軽にご相談ください。
参考文献
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
