夏にかかったコロナと秋の寒暖差で喘息?:その理由と対策を解説
■COVID-19感染による喘息悪化・喘息発症のメカニズム
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した後、初めて喘息と診断されたり、喘息の症状が悪化するケースがあります。ウイルス感染自体が、気道に炎症を引き起こし喘息(発作や症状増悪)の誘因となり得ます。実際、香港で行われた研究では、軽度~中等度のCOVID-19に感染した喘息患者は、感染後に喘息症状のコントロール悪化と治療強化の必要性増大が確認されました。また米国の大規模電子カルテ研究でも、COVID-19急性期を過ぎたコロナ後遺症の段階で、喘息患者は非喘息患者に比べ息切れ、咳、気管支攣縮(呼吸困難)などの呼吸器症状を訴えるリスクが有意に高かったと報告されています。これらの知見は、新型コロナ感染自体が、普段は背景に隠れていた喘息を悪化させ、呼吸器科での継続的なモニタリングや治療調整が必要となる可能性を示しています。
COVID-19後に喘息が悪化するメカニズムとしては、ウイルスによる気道粘膜の損傷と慢性的な炎症反応が考えられます。気道粘膜の炎症により過敏性が高まり、わずかな刺激でも喘息症状(咳や喘鳴、呼吸苦)が出やすくなるのです。また、COVID-19感染によって自己免疫的な機序が長引き、喘息様症状に関与している可能性も指摘されています。さらに、COVID-19感染を契機に新たに喘息を発症する例も報告されています。例えば、従来喘息のなかった若年成人が軽症のCOVID-19罹患後に持続する咳・運動時呼吸困難を呈し、精密検査で成人発症喘息と診断されたケースが多く見られます。このようにCOVID-19は、後遺症として長期間にわたり呼吸器症状を残し、既存の喘息を悪化させたり新規の喘息を誘発したりすることがあるため注意が必要です。
■秋の寒暖差が喘息に与える影響
季節が夏から秋へ移り朝晩が涼しくなると、日中との寒暖差が大きくなります。こうした気温の急変は、気道を刺激し、喘息症状の悪化を招く要因となります。日本で行われた調査では、成人喘息患者が「秋の冷え込み」(秋季の急な冷え)の時期に症状悪化を最も感じやすいことが報告されています。特に朝晩の気温低下が顕著な秋に、喘息コントロールが乱れやすい傾向が確認されました。この寒暖差による気温変化は、俗に「寒暖差アレルギー」などとも呼ばれますが、喘息患者にとっては気道の過敏反応として喘息発作を誘発し得る重要な環境因子です。
国際的にも寒暖差と喘息悪化の関連が報告されています。香港での疫学研究によれば、1日の気温日較差(DTR)が1℃大きくなるごとに、喘息による緊急入院が約2.5%増加することが示されました。特に秋冬のような涼しい季節では、日内の気温変動が大きいほど喘息発作リスクへの影響が大きい傾向が報告されています。また、冷たい空気自体も気道を直接刺激します。急な冷気を吸い込むと気道の温度と湿度が急低下し、気道粘膜の乾燥と反射的な気管支収縮(bronchospasm )を引き起こします。その結果、咳込んだり喘鳴(ゼーゼーヒューヒュー)を生じやすくなります。気温の急激な降下が2~3℃程度の小さな変化でも、敏感な人では発作誘発の引き金になり得るため注意が必要です。
■COVID後遺症および寒暖差による喘息悪化の予防方法
COVID後の長引く呼吸器症状や秋の寒暖差による喘息悪化を防ぐには、医療的ケアと生活習慣上の対策の両面からアプローチすることが重要です。まず、呼吸器内科の指導のもと、既存の喘息治療を継続・強化しましょう。COVID-19感染後は炎症が残存している可能性があるため、吸入ステロイド薬の継続使用が症状悪化防止に役立ちます。必要に応じて医師と相談の上で薬剤の増減や追加(例:ロイコトリエン受容体拮抗薬の併用など)を検討します。また、定期的な受診と肺機能検査を通じて状態をモニタリングし、早めに対処することが勧められます。生活面では、季節の変わり目における自己管理が喘息コントロール維持の鍵となります。以下に具体的な予防方法を挙げます。
寒暖差対策を徹底する | 朝晩の冷え込みに備えて、急な温度変化から気道を守ります。外出時や寒い場所ではマスクで鼻口を覆い、冷たい空気を直接吸い込まないようにしましょう。室内ではエアコンや暖房で急激に室温を上下させないよう注意し、寝室は適度な暖かさを保ちます。 |
適切な室内環境の維持 | 秋は空気が乾燥しやすいため、加湿器などで適度な湿度(50%前後)を保つと気道粘膜の乾燥を防げます。また暖房を使い始める時期は、フィルター清掃や換気を行い、ハウスダスト(ダニ死骸やホコリ)の飛散を減らしましょう。これにより寒暖差のみならず室内アレルゲンによる喘息悪化も予防できます。 |
心肺トレーニング | COVID後遺症で呼吸が苦しい方や運動耐容能が低下した方は、無理のない範囲で軽い有酸素運動を取り入れて肺の機能回復を図ります。ただし急に激しい運動をすると症状が悪化する場合もあるため、少しずつ段階的に行いましょう。十分な睡眠とバランスの良い食事で自律神経の安定と免疫力維持に努めることも大切です。 |
ワクチン接種と感染予防 | 秋冬は他の呼吸器感染症(インフルエンザやRSウイルスなど)も流行する季節です。これらの感染は喘息発作を誘発しやすいため、インフルエンザワクチンや追加のCOVIDワクチン接種を検討してください。また手洗いやマスク着用など基本的な感染対策を継続し、ウイルス感染そのものを予防することが喘息悪化の防止につながります。 |
以上のような対策を講じることで、コロナ後遺症による長引く喘息様症状や季節の寒暖差による喘息の増悪リスクを可能な限り抑えることができます。症状コントロールが難しい場合は早めに医療機関(呼吸器内科)を受診し、医師と一緒に最適な治療計画を立てることが重要です。
参考文献
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