中年期の「走れる体」が認知症もがんも心臓病も遠ざける―最新コホート 25,000 人が示した事実―
はじめに ― 「走れる体」とは何か
「最近、駅の階段で息が切れるようになった」「以前より疲れやすい」「健康診断で運動を勧められた」――40 代・50 代になると、こうした体の変化を実感する方が増えてきます。多くの人はこれを「年のせい」と受け流してしまいますが、最新の医学研究は、中年期のこの「持久力」――専門用語では「心肺フィットネス(cardiorespiratory fitness:CRF)」――が、その後 20〜30 年の健康と寿命を大きく左右する強力な予測因子であることを次々と示しています。
2026 年、米国心臓病学会の機関誌 Journal of the American College of Cardiology(JACC)に、これまでで最も包括的な研究の一つが発表されました。Meernik 博士らによる「Cooper Center Longitudinal Study」の解析では、米国人 24,576 人(うち女性 25%)を、中年期のトレッドミル運動負荷試験から最大 46 年間追跡し、心肺フィットネスが高い人は、心臓病・がん・認知症・糖尿病・腎臓病・脳卒中など主要慢性疾患の発症が遅れ、合併症が少なく、寿命も長いことを定量的に証明しました(Meernik et al., JACC 2026)。
心肺フィットネスとは、ランニング、自転車、水泳など中等度〜高強度の運動を持続できる能力のことで、客観的にはトレッドミル運動負荷試験で測定される METs(メッツ)値で表されます。本コラムでは、Cooper Center コホートの最新成果を中心に、欧米の権威ある最新研究を交えながら、なぜ中年期のフィットネスが「健康寿命」を決めるのか、そして、いまから何をすべきかを、わかりやすく解説します。
1. 心肺フィットネスとは ― 客観的に測れる「予備力」のものさし
心肺フィットネス(CRF)は、心臓と肺、そして全身の血管・筋肉・代謝が連携して、活動中の体に酸素を供給し続ける能力です。一般に「持久力」「スタミナ」と呼ばれるものの医学的な指標であり、トレッドミルやエルゴメーターを用いた最大運動負荷試験で、最大酸素摂取量(VO2max)または METs 値として客観的に測定されます。1 MET はおよそ安静時代謝に相当し、12 METs は「20km/h 程度のランニングを持続できる」レベルに対応します(Meernik et al., 2026)。
重要なのは、CRF が自己申告の「運動量」とは違い、客観的に測定できる生理学的指標だという点です。2024 年に British Journal of Sports Medicine に発表された 26 件の系統的レビュー・メタ解析(計約 2,090 万人、199 コホート)を統合した大規模研究では、CRF は成人の死亡率・主要疾患発症リスクの「強力かつ一貫した予測因子」であり、CRF が 1 MET 高くなるごとに全死亡リスクが 11〜17%、心血管疾患リスクが 18%低下することが示されました(Lang et al., Br J Sports Med 2024)。これに先立つ 2022 年の Mayo Clinic Proceedings 誌のメタ解析(37 コホート、約 226 万人)でも、CRF が高い群は低い群に比べて全死亡リスクが約 45%低いことが報告されています(Laukkanen et al., 2022)。
米国心臓協会(AHA)は 2016 年の科学声明で、CRF を「血圧や血糖値と並ぶ第 5 のバイタルサイン(臨床指標)」として臨床現場で評価すべきだと提言しました(Ross et al., Circulation 2016)。つまり心肺フィットネスは、「運動が好きかどうか」という個人の趣味の問題ではなく、医師が脈拍や血圧と同じように評価すべき重要な健康指標なのです。当院でも運動療法施設を併設し、運動負荷の評価と個別の運動処方を行っています。
2. Cooper Center 研究 ― 中年期フィットネスが「健康寿命」を決める
今回の主軸となる Meernik 博士らの 2026 年 JACC 論文は、世界最大級の予防医学コホート「Cooper Center Longitudinal Study(CCLS)」のデータを用いた画期的な研究です。1971 年から 2017 年まで Cooper Clinic(米テキサス州ダラス)で予防健診を受けた成人 24,576 人(平均 47.6歳)を追跡し、その後 Medicare(米国の高齢者医療保険)の請求データ(1999〜2019 年)と連結することで、心臓病・脳卒中・糖尿病・慢性腎臓病・COPD・認知症・大腸がん・肺がん・乳がん・前立腺がんなど 11 の主要慢性疾患の発症と死亡を網羅的に追跡しました(Meernik et al., JACC 2026)。
結果は明快です。中年期の CRF が「高い」群は、「低い」群と比較して、健康寿命(主要慢性疾患のない人生の年数)が男性で 2%、女性で 2%長く、合併症の数が 9〜12%少なく、寿命が男性で 3%(約 2.3 年)長いことが示されました(Meernik et al., 2026)。さらに、11 の慢性疾患それぞれの発症時期を見ると、CRF が高い群は低い群に比べて発症が平均 1.5 年以上遅れており、心不全・糖尿病・COPD・大腸がん・肺がんでは 3 年以上遅れていました。
この研究の優れた点は、単一の疾患や死亡だけでなく、「健康寿命」「合併症の数」「疾病とともに生きる年数」「総寿命」を同時に評価したことです。つまり中年期のフィットネスは、「長生きするか」だけでなく、「どれだけ健康なまま長生きできるか」を決めているのです。著者らは、この効果はクリニック受診年(1990 年以前/以後)、年齢(45 歳未満/以上)、喫煙状況、肥満の有無を問わず一貫していたと報告しており、「フィットネスの恩恵は誰にでも届く」ことが強調されています(Meernik et al., 2026)。
3. 心臓病・脳卒中の予防 ― CRF が下げる心血管リスクのエビデンス
心肺フィットネスは、心血管疾患(CVD)予防の最も強力な修正可能因子の一つです。Meernik 博士らの研究では、中年期の CRF が高い男性は、低い群に比べて心血管疾患の発症が 0.5〜2.0 年遅れ、健康寿命が 1〜3%延長していました(Meernik et al., 2026)。Lang 博士らの 2024 年 BJSM メタ解析でも、CRF が 1 MET 増えるごとに心血管疾患リスクが 18%低下することが、約 2,090 万人のデータから示されています(Lang et al., 2024)。
AHA(米国心臓協会)と ACC(米国心臓病学会)の合同ガイドラインでは、成人に対して中等度の有酸素運動を週 150〜300 分、または高強度の有酸素運動を週 75〜150 分、加えて週 2 回以上の筋力トレーニングが推奨されています(Arnett et al., J Am Coll Cardiol 2019)。これは「Physical Activity Guidelines for Americans 2nd Edition」にも沿った基準で、達成すれば心血管死亡率が大きく低下することが多数のメタ解析で確認されています。重要なのは、ガイドラインの量に達しない「少しの運動」でも効果があることで、週 1〜2 回・150 分未満の中等度活動でも、全死亡が 34%、心血管死亡が 40%減少したというデータも存在します。
また、2025 年の British Journal of Sports Medicine の系統的レビューでは、肥満があっても CRF が高ければ、正常体重・低フィットネス群と同等以上の心血管予後を示すことが報告されました(Weeldreyer et al., Br J Sports Med 2025)。つまり「太っているかどうか」よりも「運動できる体かどうか」のほうが、心血管予後により大きな影響を与える可能性があるのです。当院では、内臓脂肪の評価(腹部 CT)に加え、運動療法による筋力・持久力の改善を組み合わせた包括的な心血管予防プログラムを提供しています。
4. がんを遠ざける ― CRF と発症リスク・治療成績の関係
「運動とがん予防」というと意外に思われるかもしれませんが、心肺フィットネスとがんの関係についてのエビデンスは、近年急速に蓄積しています。Meernik 博士らの研究では、CRF が高い男性ではがんの発症が遅れ、男女ともがんの累積疾病年数が長くなるという結果が示されました。これは「がんと診断された後も長く生きられる」ことを意味し、特に前立腺がんでは高フィットネス群で診断後の生存期間が 32%延長していました(Meernik et al., 2026)。
2023 年に JAMA Network Open に発表されたスウェーデンの大規模コホート研究(177,709 人の男性、平均 9.6 年追跡)では、中年期の CRF が高い群は、低い群と比較して、大腸がんの発症リスクが約 30%低く、肺がん死亡リスクが約 45%低い、前立腺がん死亡リスクが約 20%低いことが示されました(Ekblom-Bak et al., JAMA Netw Open 2023)。さらに、2024 年の Cancer Medicine 誌では、139,764 人の男性において青年期から中年期にかけて CRF が向上した群は、低下した群と比較して大腸がんと前立腺がんの発症リスクが有意に低いことが報告されました(Bojsen-Møller et al., Cancer Med 2024)。
これらの効果のメカニズムには、慢性炎症の抑制、インスリン抵抗性の改善、性ホルモンや成長因子の調整、免疫機能(特に NK 細胞活性)の向上などが関与すると考えられています。一般的に CRF 7 METs 以上が「がん予防の閾値」とされており、これは早歩きで坂道を登れる程度の運動能力に相当します(GeroScience 2024 年系統的レビュー)。
5. 認知症予防のキー ― 中年期フィットネスが脳を守る
「運動が脳を守る」という研究は、近年特に注目されている分野です。Meernik 博士らの研究では、中年期の CRF が高い男女で、認知症(アルツハイマー病および関連認知症)の発症が遅れることが示されました。注目すべきは、男性では高 CRF 群が低 CRF 群と比較して、認知症と診断されてから生きる年数が 28%長かったこと――つまり、認知症があっても「より長く、より穏やかに」生きられる可能性があることです(Meernik et al., 2026)。
2026 年 2 月に Alzheimer’s & Dementia 誌に発表されたスウェーデンの研究では、中年期の CRF が高いほど、後年の認知症発症リスクが有意に低下することが、長期追跡データから示されました(Wiklund et al., Alzheimers Dement 2026)。さらに 2025 年の Alzheimer’s & Dementia: Translational Research 誌の米国退役軍人 13 万人の研究では、CRF が時間とともに改善した人は、低下した人に比べて認知症発症リスクが大きく減少することが報告されました。重要なのは、CRF が「変えられる(modifiable)」要因であるという点で、いつ始めても改善は意味があるのです(Kokkinos et al., Alzheimers Dement TRCI 2025)。
また、2025 年の British Journal of Sports Medicine の研究では、認知症の遺伝的リスクが高い人(APOE ε4 キャリアなど)でも、CRF が高ければそのリスクを部分的に打ち消すことができると報告されました(Wang et al., Br J Sports Med 2025)。「家族に認知症の人がいるから自分も…」と諦める必要はなく、生活習慣の力で運命を変えうるのです。CRF が脳を守るメカニズムには、脳血流の改善、神経栄養因子(BDNF)の分泌増加、炎症の抑制、白質(脳の配線)の保護などが関与すると考えられています。当院では、運動療法による認知症予防アプローチを、食事・睡眠・血管リスク管理と組み合わせて提供しています。
6. 「健康寿命」と「寿命」を同時に伸ばす経済的価値
Meernik 博士らの研究は、医学的意義だけでなく、社会経済的にも大きなインパクトを持っています。論文中では、「健康寿命と寿命を同時に 1 年延ばすこと」の経済価値が 38 兆ドル(米国の医療費約 8 年分に相当)と推計されています(Meernik et al., 2026)。これは、心肺フィットネスへの投資が、個人の健康だけでなく、社会全体の医療費削減と生産性維持にとっても極めて有益であることを示しています。
また、Meernik 博士らの研究では、CRF が高い群は単に発症が遅れるだけでなく、複数の慢性疾患(マルチモビディティ)を抱える割合が 9〜12%低いことも示されました。マルチモビディティは高齢者の機能障害・入院・死亡の最大の要因であり、米国の医療費の 3 分の 2 以上が「複数の慢性疾患をもつ患者」に費やされていると推計されています。つまり、中年期のフィットネスへの投資は「合併症の連鎖」を断ち切る費用対効果の極めて高い予防策なのです。
日本でも事情は同じで、健康寿命と平均寿命のギャップ(男性約 9 年、女性約 12 年)を縮めることが国家的課題となっています。米国心臓協会は 2030 年までに「健康寿命を 2 年延ばす」ことを掲げており(Angell et al., Circulation 2020)、これを達成する最も実証された介入の一つが、心肺フィットネスの維持・向上なのです。当院は地域医療機関として、運動療法施設・専門医外来・各種検査を組み合わせ、患者さん一人ひとりに合った中年期からの予防医療を提供しています。
7. CRF はどう測り、どう改善するか ― 実践のためのガイド
心肺フィットネスを正確に測定する標準的方法は、医療機関で行うトレッドミルやエルゴメーターによる最大運動負荷試験(VO2max 測定)です。当院でも、必要に応じて運動負荷試験による評価を行っています。日常生活での目安としては、「軽く息が弾むペースで 20 分以上歩ける」「階段を駆け上がっても会話ができる」「1.6km を 15 分以内で歩ける」などがおおよその基準になります。
Meernik 博士らの研究で「望ましい CRF」とされたのは、男性で 9〜12 METs 以上、女性で 7〜9 METs 以上(年齢による)です(Meernik et al., 2026)。これは中等度〜高強度の有酸素運動を継続することで達成可能で、Bouchard 博士らの研究によれば、規則的な運動トレーニングにより平均して CRF は 15〜25%向上するとされています(Bouchard et al., J Appl Physiol 2011)。
実践のポイントは 4 つあります。第一に、「有酸素運動」――早歩き、ジョギング、自転車、水泳など、息が少し弾む程度の活動を週 150〜300 分(1 日 30 分×5 日が目安)。第二に、「筋力トレーニング」――2025 年の Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 誌のアンブレラレビューでは、有酸素+筋力の組み合わせが全死亡リスクを 40%減少させると報告されました(Rahmati et al., 2025)。週 2 回以上、大きな筋肉を使う運動が推奨されます。第三に、「座位時間を減らす」――長時間の座りっぱなしは、運動の有無に関わらず健康リスクを高めます。第四に、「継続性」――短期集中ではなく、生涯にわたって続けられるリズムを作ることが何より重要です。当院の運動療法施設では、健康運動指導士による個別プログラム作成と継続支援を行っています。
8. 「いまさら遅い」はない ― 何歳からでも改善は意味がある
「もう 50 代だから手遅れでは?」「運動歴がないから無理」――そう感じる方も多いかもしれません。しかし最新の研究は、いつ始めても、どこから始めても、心肺フィットネスの改善には意味があることを一貫して示しています。Meernik 博士らの研究では、効果は 45 歳未満・45 歳以上の両方で確認されており、肥満の有無、喫煙の有無に関わらず、CRF が高いほど健康寿命と寿命が延びていました(Meernik et al., 2026)。
2025 年の Alzheimer’s & Dementia: Translational Research 誌では、米国退役軍人 13 万人を対象に、2 回の運動負荷試験で「CRF が時間とともに変化した人」を追跡しました。その結果、当初 CRF が低かった人でも、後に改善したグループは、改善しなかったグループに比べて認知症発症リスクが有意に低下しました(Kokkinos et al., 2025)。つまり、過去の運動歴ではなく、「今から何をするか」が重要なのです。
ただし、長年運動から離れていた方が突然激しい運動を始めることは、心血管イベントや整形外科的トラブルのリスクを高める可能性があります。当院では、運動を始める前の心電図・血圧・血糖・腎機能などのチェック、必要に応じた運動負荷試験(CT での内臓脂肪評価を含む)を行い、安全かつ効果的な運動処方を提供しています。三田市の地域に根ざした医療機関として、健康運動指導士・管理栄養士との多職種連携、運動療法施設での継続的なサポート、日曜・祝日診療によるアクセスの確保により、「中年期からはじめる健康投資」を全力でお手伝いします。
おわりに ― 「走れる体」は、いま育てられる
「誰もが長生きしたいと願うが、誰も歳をとりたくはない」――これは、Meernik 博士らが JACC 論文の冒頭で引用した、米 Harvard 大学の進化人類学者 Lieberman 教授の言葉です(Meernik et al., 2026)。長生きと健康寿命を両立させる――この一見矛盾した願いを叶える鍵が、中年期の心肺フィットネスにあることを、最新の医学は明確に示しています。
心臓病、脳卒中、糖尿病、認知症、がん――これらは「年齢」のせいではなく、多くの場合「中年期から積み重ねてきた小さな選択の結果」です。そして、その選択は今からでも変えられます。週に数回、息が少し弾む運動を続ける。階段を使う。座りっぱなしを避ける。こうした小さな積み重ねが、20 年後、30 年後の自分を救うのです。
まんかいメディカルクリニックでは、運動機能評価、CT・超音波による合併症リスク評価、指定運動療法施設による継続的なサポート、多職種連携による包括的ケアを通じて、患者さんが「走れる体」を手に入れ、維持し、その先の人生を健やかに生きるためのお手伝いをしています。「最近、息切れが気になる」「健康寿命を伸ばしたい」「運動を始めたいが何から始めればよいかわからない」――そうしたご相談をぜひお気軽にお寄せください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 心肺フィットネス(CRF)はどうすれば測れますか? 簡単な目安はありますか?
正確な測定はトレッドミルやエルゴメーターを用いた最大運動負荷試験(VO2max 測定)が標準ですが、日常生活では以下が目安になります。(1)1.6km を 15 分以内で歩ける、(2)階段を一気に 2 階分登っても会話ができる、(3)息が軽く弾むペースで 20 分以上歩き続けられる――これらができれば、ある程度の CRF が保たれていると考えられます。Meernik 博士らの研究では、男性で 9〜12 METs 以上、女性で 7〜9 METs 以上が「望ましい CRF」とされています(Meernik et al., JACC 2026)。より精密に測定したい場合は、医療機関での運動負荷試験を受けることをお勧めします。当院でも必要に応じて評価を行っており、結果に基づいて健康運動指導士による個別の運動処方を作成できます。「自分の今のレベルがわからない」と感じたら、まずは一度ご相談ください。
Q2. もう 50 代を過ぎてしまいました。今から運動を始めても効果はありますか?
はい、十分に効果があります。Meernik 博士らの 2026 年 JACC 論文では、45 歳以上の中年期から運動を始めた人でも、CRF が高い群は健康寿命が 0.3〜2.8 年延長していました(Meernik et al., 2026)。さらに 2025 年の Alzheimer’s & Dementia: TRCI 誌に発表された米国退役軍人 13 万人の研究では、当初 CRF が低かった人でも、後に CRF が改善したグループは認知症発症リスクが大きく減少していました(Kokkinos et al., 2025)。つまり、過去の運動歴ではなく「今から何をするか」が重要なのです。ただし、長年運動から離れていた方は、心電図・血圧・血糖・腎機能などのメディカルチェックを受けてから始めることをお勧めします。当院では、運動開始前の安全評価から、運動療法施設での継続支援まで、一貫してサポートしています。
Q3. 体重が多いのですが、運動をする意味はありますか?
あります。むしろ非常に重要です。2025 年の British Journal of Sports Medicine の系統的レビュー(20 研究、約 40 万人)では、肥満であっても CRF が高ければ、正常体重・低フィットネス群と同等以上の心血管予後を示すことが報告されました(Weeldreyer et al., Br J Sports Med 2025)。これは「Fat but Fit(太っているがフィット)」と呼ばれる現象で、体重そのものよりも「動ける体かどうか」のほうが、より大きな予後規定因子であることを示しています。Meernik 博士らの研究でも、肥満の有無に関わらず CRF が高い群で健康寿命と寿命が延長していました(Meernik et al., 2026)。減量は確かに重要ですが、まず体を動かすこと自体が、すでに大きな健康投資なのです。当院では、CT 検査による内臓脂肪評価、運動療法施設での個別運動指導、必要に応じた薬物療法(GLP-1 受容体作動薬等)を組み合わせた、体重と体力の両面からの包括的アプローチを提供しています。
Q4. 有酸素運動と筋力トレーニング、どちらを優先すべきですか?
両方が重要ですが、特に「両方を組み合わせること」が最も効果的というのが最新エビデンスです。2025 年の Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 誌のアンブレラレビュー(48 メタ解析の統合解析)では、有酸素運動+筋力トレーニングの併用が、全死亡リスクを 40%減少させ、これは有酸素運動単独や筋力トレーニング単独よりも強力な効果でした(Rahmati et al., 2025)。AHA(米国心臓協会)と ACC(米国心臓病学会)の合同ガイドラインでも、中等度の有酸素運動を週 150〜300 分(1 日 30 分×5 日が目安)、加えて週 2 回以上の主要筋群を使う筋力トレーニングが推奨されています(Arnett et al., J Am Coll Cardiol 2019)。50 歳以上の方や転倒リスクのある方には、これにバランス訓練を加えるとさらに効果的です。当院では、有酸素・筋力・バランスをバランス良く組み合わせた個別プログラムを健康運動指導士が作成しています。
Q5. 運動を始めたいのですが、何から始めればよいでしょうか?
まずは医療機関でのメディカルチェックをお勧めします。中年期以降に運動を始める場合、隠れた高血圧・糖尿病・冠動脈疾患・整形外科的問題などがないかを確認することで、運動による心血管イベントやけがのリスクを最小化できます。当院では、血液検査、心電図、必要に応じて運動負荷試験、CT・超音波による合併症評価などを組み合わせて安全性を確認します。運動内容としては、まず「早歩き 10 分から」始めるのが現実的です。Lang 博士らの 2024 年 BJSM メタ解析でも、ガイドラインの量(週 150 分)に達しない少量の運動でも、全死亡リスクが大きく減少することが示されています(Lang et al., 2024)。
徐々に時間を伸ばし、慣れたら週 2〜3 回の軽い筋力トレーニング(スクワット、腕立てなど)を追加。3 か月続けば CRF は確実に向上します。「一人だと続かない」「正しい方法がわからない」という方は、当院の運動療法施設で健康運動指導士による継続支援を受けられます。週 2〜3 回の通所型プログラムで、確実な改善を目指せます。
参考文献
- Meernik C, Leonard D, Shuval K, et al. Midlife Cardiorespiratory Fitness and Healthy Aging: An Observational Cohort Study. J Am Coll Cardiol. 2026. https://doi.org/10.1016/j.jacc.2026.02.5122
- Lang JJ, Prince SA, Merucci K, et al. Cardiorespiratory fitness is a strong and consistent predictor of morbidity and mortality among adults: an overview of meta-analyses representing over 20.9 million observations from 199 unique cohort studies. Br J Sports Med. 2024;58(10):556-566. https://doi.org/10.1136/bjsports-2023-107849
- Laukkanen JA, Isiozor NM, Kunutsor SK. Objectively Assessed Cardiorespiratory Fitness and All-Cause Mortality Risk: An Updated Meta-analysis of 37 Cohort Studies Involving 2,258,029 Participants. Mayo Clin Proc. 2022;97(6):1054-1073. https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2022.02.029
- Ross R, Blair SN, Arena R, et al. Importance of Assessing Cardiorespiratory Fitness in Clinical Practice: A Case for Fitness as a Clinical Vital Sign. Circulation. 2016;134(24):e653-e699. https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000000461
- Wiklund CA, Wang R, Lindwall M, et al. Mid-life cardiorespiratory fitness and risk of late-onset dementia incidence. Alzheimers Dement (Amst). 2026;18(1):e70239. https://doi.org/10.1002/dad2.70239
- Kokkinos P, Faselis C, Samuel IBH, et al. Long-term changes in cardiorespiratory fitness and incidence of Alzheimer’s disease and related dementias among US Veterans. Alzheimers Dement (TRCI). 2025;11(4):e70171. https://doi.org/10.1002/trc2.70171
- Ekblom-Bak E, Bojsen-Møller E, Wallin P, et al. Association Between Cardiorespiratory Fitness and Cancer Incidence and Cancer-Specific Mortality of Colon, Lung, and Prostate Cancer Among Swedish Men. JAMA Netw Open. 2023;6(6):e2321102. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.21102
- Bojsen-Møller E, Bolam KA, Väisänen D, et al. Change in Cardiorespiratory Fitness and the Risk of Colorectal and Prostate Cancer Incidence in Men. Cancer Med. 2024;13(23):e70430. https://doi.org/10.1002/cam4.70430
- Weeldreyer NR, De Guzman JC, Paterson C, et al. Cardiorespiratory fitness, body mass index and mortality: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2025;59(5):339-346. https://doi.org/10.1136/bjsports-2024-108748
- Rahmati M, Lee H, Lee H, et al. Associations Between Exercise Training, Physical Activity, Sedentary Behaviour and Mortality: An Umbrella Review of Meta-Analyses. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2025;16(2):e13772. https://doi.org/10.1002/jcsm.13772
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
