三田市から発信! 健康寿命を延ばす、取り組むべき“たった7つのこと”
■はじめに
心臓病や脳卒中などの心血管疾患と多くのがんは、一見別の病気のようですが、実は共通の生活習慣リスク(いわゆる生活習慣病につながる要因)を抱えています。喫煙、運動不足、不健康な食事、肥満、高血圧、高血糖、そして高コレステロールといった要因は、いずれも動脈硬化を進め心血管リスクを高めるだけでなく、一部のがんの発症や再発にも関わっています。欧州心臓病学会などが提唱する「ライフ・シンプル7 (Life’s Simple 7)」は、これら7つの生活習慣要素を管理することで心臓病と脳卒中を予防しようという指標です。近年の研究では、この「7つのこと」を実践して心血管の健康状態が理想的な人は、そうでない人に比べて死亡リスクが大幅に低いことが示されました。特に、過去にがんを経験したがんサバイバーでは、この7つの要素を理想的に保てている人はそうでない人より38%も死亡リスクが低かったという報告があります。つまり「たった7つのこと」を心がけるだけで、がんサバイバーを含む中高年の健康寿命を延ばせる可能性があるのです。
以下では、この「7つのこと」それぞれについて、最新のエビデンスに基づいた具体的な解説とポイントを述べます。いずれも難しい医療行為ではなく日常生活の習慣です。今年からぜひ一緒に取り組んでみましょう。
1. 禁煙(タバコを吸わない習慣)
タバコを吸わないこと、あるいは今吸っている人は禁煙することは、健康長寿への第一歩です。喫煙は心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患の最も強力な危険因子の一つであり、肺がんをはじめ多くのがんの原因でもあります。たとえ長年喫煙してきた方でも、今から禁煙することで確実にリスクを減らせます。実際、がん患者さんを対象にした研究では、診断時に喫煙を続けた人に比べ、その後に禁煙した人は死亡リスクがおよそ半分に減少しました。特に進行がんの患者さんでも、禁煙により予後が大きく改善しうることが報告されています。これは、「今さら遅い」ということは決してなく、何歳からでも禁煙の利益は大きいことを意味します。
喫煙を続けるほど動脈硬化は進行し、肺や血管へのダメージも蓄積します。重度の喫煙者では、たとえ禁煙しても過去の喫煙歴によるリスクが完全になくなるまでに年単位の時間がかかるとも言われます。だからこそ一刻も早い禁煙が重要です。禁煙すると血圧や心拍数はすぐに改善し、1年後には心臓発作のリスクが半減するといった良い変化が次々と起こります。また、喫煙者の方はニコチン依存の治療や禁煙外来のサポートを活用することで、禁煙成功率が高まります。50~70代の方でも遅すぎることはありません。ご自身やご家族の健康のため、今年こそタバコをやめる決意をしましょう。
2. 適度な運動
運動習慣は、年齢を重ねられた方ほど極めて重要です。運動不足は肥満や糖尿病・高血圧など生活習慣病(メタボ)の原因となり、心臓や血管にも負担をかけます。一方で日常的に体を動かす人は、死亡リスクが大幅に低下することが数多くの研究で示されています。例えば、米国での大規模研究では、週に合計300~600分程度の中等度の運動(早歩きや軽いジョギングなど)を行っている人は、運動不足の人に比べて死亡リスクがおよそ30%も低く、心疾患による死亡も30%以上低いことが報告されました。さらに嬉しいことに、週150分程度の適度な運動でも心血管疾患による死亡リスクが2~3割減るとされています。つまり、全く運動しない人が週に数日のウォーキングを始めるだけでも、心臓病で命を落とす確率が大きく下がるのです。
「70代になってから運動を始めても意味があるの?」という疑問の声も聞かれますが、答えはもちろんYESです。国際的な調査では、70~79歳の高齢者において他のどの健康因子よりも「身体活動量」が死亡リスクに強く影響するとの報告があります。この世代では喫煙や高血圧などよりも、「どれだけ体を動かしているか」が寿命に関わっていたのです。運動の内容は人それぞれですが、最初は無理のない範囲で構いません。早歩きでの散歩、水中ウォーキング、軽い筋トレやストレッチなど、自分の体調に合った運動を毎日少しずつ習慣化しましょう。特に年齢を重ねると、筋力低下やバランス能力の低下から転倒もしやすくなります。運動習慣は心肺機能を高めるだけでなく、筋力や平衡感覚を維持し転倒や骨折を防ぐ効果も期待できます。また運動は血圧や血糖の改善、肥満解消にも繋がり、結果的に生活習慣病全般の予防につながります。今年はぜひ「ちょっときつい程度の運動」を日々の生活に取り入れてみてください。それが長い目で見れば大きな財産となるでしょう。
3. 健康的な食事
何を食べるかは健康に直結します。野菜や果物、魚、豆類、未精製の穀物などを中心としたバランスの良い食事は、生活習慣病の予防に欠かせません。その中でも近年注目されているのが地中海食です。地中海食とは、野菜・果物、オリーブオイル、ナッツ、魚介類、全粒穀物など抗酸化物質や食物繊維に富む食品を多く含む食事パターンで、心臓や血管に良い食事として欧米で広く推奨されています。イタリアで行われた研究では、がんサバイバーの方々において地中海食を忠実に実践していたグループは、そうでないグループに比べ死亡リスクが32%も低く、とりわけ心疾患による死亡は60%も低いという結果が報告されました。このように、質の良い食事はがんを経験した方の予後改善にもつながる可能性があります。
では日本人にはどのような食事が良いのでしょうか?実は伝統的な和食も地中海食と共通する点が多く、野菜や魚、大豆製品を多用し、適度な炭水化物を含む点で健康的です。ただし近年は食の欧米化で動物性脂肪や塩分、砂糖の過剰摂取が増え、メタボや高脂血症(脂質異常症)につながるケースが見られます。食事のポイントは以下の通りです。
- 野菜と果物を毎食たっぷり摂りましょう。食物繊維やビタミンが動脈硬化やがんのリスクを下げる助けになります。目標は1日350g以上の野菜です。
- 魚を積極的に。特に青魚に含まれるオメガ3脂肪酸は中性脂肪を減らし、心臓に良い影響があります。肉より魚を主菜にする頻度を増やしましょう。
- オリーブオイルや菜種油など良質な油を適量使い、バターやラードなど動物性脂肪を減らします。油の質に気を配ることでコレステロール管理に役立ちます。
- 減塩も忘れずに。日本人は塩分摂取が多めで、高血圧の一因です。漬物や味噌汁の塩分を控えめにし、出汁の旨味を活かす工夫をしましょう。
このような食生活を続けることで、太り過ぎの解消や血圧・血糖の改善にもつながり、結果的に心臓病やがんの予防に寄与します。要は「何をどれだけ食べるか」を意識することです。「腹八分目」を心がけ、加工食品や甘い飲料を減らし、自然に近い食品を選ぶようにしましょう。食事は毎日のことなので、無理のない範囲で楽しみながら健康的なメニューにシフトしていくことが大切です。
4.体重管理(適正体重・ウエスト維持)
適切な体重とウエストサイズの維持も健康長寿には不可欠です。肥満、とくに内臓脂肪型肥満(いわゆる「メタボ」体型)は、高血圧・高血糖・脂質異常といった生活習慣病を引き起こしやすく、心臓や血管への負担を増大させます。実際、太り過ぎや肥満の人は、糖尿病、高血圧、心血管疾患、脳卒中になりやすいだけでなく、少なくとも13種類のがんにもかかりやすいことがわかっています。さらに、太り過ぎの人はあらゆる原因による死亡リスクも高くなると報告されています。一方、適正体重を維持している人ではこれら疾患のリスクが低く、健康寿命が延びる傾向があります。
適正体重の目安は、一般にBMI(体格指数)が18.5~25未満の範囲と言われます(BMI=体重kg÷身長m^2)。しかし、高齢の方では極端な低体重も望ましくないため、一律に痩せすぎを目指す必要はありません。大切なのはお腹周りの脂肪(内臓脂肪)をためすぎないことです。腹囲が男性で85cm、女性で90cmを超えると内臓脂肪症候群(メタボ)の疑いがあります。内臓脂肪が多いと、高血圧・糖尿病・脂質異常の発症リスクが飛躍的に上がり、心筋梗塞や脳卒中につながりかねません。
では、現在太り気味の方はどう体重管理すれば良いでしょうか?鍵は無理のない減量とリバウンド防止です。急激な食事制限は続かないので、前項で述べたような食生活の改善と適度な運動を組み合わせ、ゆっくりと脂肪を減らしていくのが王道です。目安として、半年~1年で今の体重の5~10%減を目標にしましょう。例えば体重70kgの方なら、1年かけて約3.5~7kg落とすイメージです。この程度の減量でも血圧や血糖のコントロールがかなり改善し、糖尿病発症リスクが半減したとの研究もあります。実際、糖尿病予防の臨床試験では、食事と運動で7%の減量に成功した人々は、そうでない人に比べ糖尿病発症率が約58%も低下しました(米国DPP研究)。減量の効果は糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症の改善にも現れます。さらに、肥満気味のがんサバイバーにおいても、適度な減量が再発リスクを下げる可能性が指摘されています。まずはできる範囲で体重を減らし、その後は適正体重を長く維持することが大切です。
もちろん、やせすぎも禁物です。高齢になると筋力低下を防ぐためにある程度の筋肉と脂肪が必要です。極端なダイエットではなく、バランスの良い食事と運動で筋肉を保ちながら脂肪を落とすことを目指しましょう。適正体重を守ることは見た目だけでなく体の中身の健康(血圧・血糖・脂質)を守ることにつながります。毎朝体重を測る習慣をつけ、自分の体重や腹囲の変化に気を配ることから始めてみてください。
5. 血圧管理(高血圧を予防・治療)
高血圧を予防・適切に治療することは、心臓病・脳卒中の発症リスクを大幅に低下させます。高血圧は「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれ、自覚症状がなく進行して動脈硬化を促進し、ある日突然、心筋梗塞や脳出血といった重大な結果を招く怖い状態です。50~70代では高血圧の有病率が非常に高く、日本人男性の2人に1人以上、女性でも3人に1人以上が高血圧もしくはその予備群とされています。血圧を正常範囲(収縮期〈上の血圧〉130未満かつ拡張期〈下の血圧〉80未満)に保つことが理想ですが、すでに高血圧と言われている方もあきらめずに適切な治療を受けましょう。
降圧目標は個人差がありますが、近年の研究から血圧は低いほど脳心血管イベント予防に有効であることがわかってきました。例えば、大規模なメタ解析によれば、収縮期血圧をわずか5mmHg下げるだけで、心筋梗塞や脳卒中など主要な心血管イベントのリスクが約10%低下したと報告されています。このリスク低下効果は、たとえ元の血圧が「正常高値(130前後)」程度の人でも認められ、既往症の有無に関わらず有益でした。言い換えれば、たとえ今あなたの血圧が「まあまあ高め」程度でも、そこから少し下げる努力をするだけで脳卒中や心臓発作を防げる可能性があるのです。
血圧管理の基本は減塩・適正体重維持・適度な運動・禁煙といった生活習慣の改善ですが、必要に応じて降圧薬の力を借りることも大切です。現在の降圧薬は安全かつ効果的であり、複数の薬を併用してもしっかり管理する方が、漫然と高血圧を放置するより何倍も健康に良いことが証明されています。特に、すでに心筋梗塞や脳卒中を経験した方、高血圧による臓器障害(腎臓病や心肥大など)がある方は、厳格な血圧管理が再発予防に直結します。定期的に家庭血圧を測定し、主治医と相談の上で自分に合った目標値を決めましょう。例えば「朝は135/85未満、夜は125/75未満」など具体的に設定し、達成できない場合は薬の調整も含めて対策します。
血圧は年齢とともに上がりやすいですが、「年だから高めで良い」ということはありません。何歳でも血圧管理は重要です。特にがんサバイバーの方は、治療の影響で血圧が上がりやすいこともありえますし、心血管リスクを下げるためにも血圧を甘く見ないでください。普段から減塩を意識し(目標食塩6g/日未満)、野菜や果物でカリウムを十分に摂り、ストレスをためず良質な睡眠をとることも血圧には有益です。「血圧は毎日測る、薬はきちんと飲む」——この基本を守って、高血圧をしっかりコントロールしましょう。
6. 血糖管理(血糖値を適正に保つ)
血糖(血糖値)の管理もまた、健康長寿の柱です。糖尿病やその予備群(血糖高めの状態)は血管を傷つけ、心臓病や脳卒中のリスクを高めます。実際、糖尿病の人はそうでない人に比べて心血管疾患のリスクが2~4倍にもなり、コントロール不良なほどそのリスクは上昇します。糖尿病の方では心臓病が主要な死亡原因となっており、糖尿病そのものが全死亡率を約75%も高める要因になるとも報告されています。いわば糖尿病は心臓にとって「負荷の大きい状態」なのです。
したがって、現在糖尿病の方は血糖コントロール目標(HbA1c値など)を主治医と共有し、食事・運動・薬物療法を組み合わせてできるだけ正常に近い血糖を維持することが重要です。血糖が安定すると動脈硬化の進行が遅くなり、腎臓や目の合併症も防げます。また、糖尿病でない方も空腹時血糖やヘモグロビンA1cの定期チェックを受け、境界型と指摘されたら早めに生活習慣を見直しましょう。特にメタボ傾向のある方は、減量によりインスリンの効きが改善し、「血糖値が高め」から正常域に戻ることも十分期待できます。実際、大規模臨床試験(DPP研究)では、生活習慣改善により糖尿病発症を58%も減らせたことが示されています。また近年では、良好な心血管予防効果を持つ糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬)も登場し、糖尿病患者さんの心臓や腎臓の保護に役立っています。薬物治療が必要な場合はそれらも含め、専門医と相談し最適な治療を受けましょう。
さらに血糖管理は、がん予防やがんサバイバーのケアの面でも重要です。高血糖状態が続くと慢性の炎症や酸化ストレスを招き、これは動脈硬化だけでなく一部のがん細胞の増殖環境を助長しうると考えられています。そのため、糖尿病の人はがん罹患リスクや再発リスクがやや上昇するとの指摘もあります。一方で、糖尿病ではない健康な人でも血糖値が慢性的にやや高め(正常高値)であると、心血管リスクが上昇するという報告があります。つまり「まだ糖尿病ではないから大丈夫」ではなく、血糖値は正常範囲に越したことはないのです。
血糖管理の基本は食生活です。食べ過ぎ・間食のしすぎを避け、炭水化物は適量に抑えつつ、野菜やタンパク質を先に食べる食べ順を意識しましょう。甘い清涼飲料水はできるだけ控え、水やお茶で水分補給を。適度な運動もインスリン感受性を高め血糖を下げる効果があります。睡眠不足やストレスも血糖を悪化させるため、生活リズムを整えることも大切です。50~70代の方は年に一度は健診で空腹時血糖やHbA1cを確認し、自分の血糖傾向を把握しておきましょう。「血糖値が高め」と言われたらチャンスです。それは将来の糖尿病発症を食い止めるサインですから、今からでも食習慣・運動習慣を改善し、適正体重に近づける努力を始めてください。
7. コレステロール管理(脂質異常症の予防・改善)
最後の7つ目は血中コレステロールの管理です。コレステロールには善玉(HDL)と悪玉(LDL)がありますが、特に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が高すぎる状態(脂質異常症・高脂血症)は動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞の大きな原因となります。高コレステロール血症は全世界で毎年約360万人もの死亡に関与するとの推計もあり、先進国・途上国を問わず心疾患と脳卒中の主要な危険因子です。逆に言えば、コレステロールを適正にコントロールすればそれだけ多くの命を救える可能性があります。
LDLコレステロールの目標値は個人のリスクによって異なりますが、一般的に低ければ低いほど良いとされます。欧米の大規模研究で、LDLコレステロールを1 mmol/L(約39mg/dL)下げるごとに心血管イベントリスクが約20%低下したことが報告されており、「下げ幅」と「下げた期間」が大きいほど恩恵も大きくなります。とりわけ冠動脈疾患の既往がある方や糖尿病の方では、LDLコレステロールを厳格に低下させるほど再発予防効果が高まるため、最新の欧州ガイドラインではLDL 55mg/dL未満という非常に低い目標値も設定されています。一方で健康な方でも、脂質管理を怠ると中高年以降に動脈硬化が進行してしまいます。50~70代では「悪玉コレステロールは120未満」「できれば100未満」を目指すと良いでしょう。特に高脂血症と高血圧・喫煙が重なると心筋梗塞のリスクは跳ね上がるため、総合的な対策が必要です。
コレステロール管理の基本も食事と運動です。脂質異常症の多くは遺伝的な体質に加え、食べ過ぎ・飲み過ぎ・運動不足が誘因となっています。食事では動物性脂肪(脂身の多い肉、バター、生クリームなど)や揚げ物を減らし、魚、大豆製品、食物繊維を増やしましょう。適度な有酸素運動はHDL(善玉)コレステロールを増やし中性脂肪を減らします。もし生活習慣の改善だけで目標値に届かない場合は、脂質異常症の薬物療法も遠慮なく取り入れてください。スタチン系薬剤を中心とした治療は長年の実績があり、安全にLDLコレステロールを大きく下げることができます。事実、スタチン治療により心筋梗塞や脳卒中の予防効果が大幅に向上することが確立しています。近年ではさらに強力な注射薬(PCSK9阻害薬)も登場し、家族性高コレステロール血症など難治の患者さんにも選択肢が広がっています。
コレステロール値は自覚症状がないので見落としがちですが、年1回は血液検査で確認しましょう。とくにがんサバイバーの方は、ホルモン療法などの影響で脂質異常症になりやすいケースもあります。放置せず主治医に相談し、必要なら生活指導や薬治療を受けてください。「血管をサビさせない」という意識で、コレステロールとも上手に付き合っていきましょう。それが将来の心臓病・脳卒中のみならず、認知症予防にもつながる可能性があります(動脈硬化の予防は脳の血流を保ち、認知機能低下を防ぐと考えられています)。
以上、2026年にぜひ取り組んでいただきたい7つの健康習慣について解説しました。この「たった7つのこと」は、欧米の大規模研究によって科学的根拠が示されたエビデンスに基づく健康法です。ポイントは、どれか一つだけでなくトータルに実践することにあります。例えば禁煙だけ達成しても、他がなおざりでは十分な効果が得られません。7項目すべてを少しずつでも改善することで相乗効果が生まれます。実際、最新の研究では7項目の達成度が1ポイント上がるごとに、がんによる死亡リスクが10%低下したと報告されています。これは、毎日の小さな積み重ねが長期的に大きな差となって現れることを意味します。
50~70代は健康寿命を左右する大切な時期です。「もう年だから…」とあきらめず、できることから生活習慣を見直してみましょう。今回ご紹介した7つの習慣は、メタボなどの生活習慣病予防のみならず、がんサバイバーの方の心身の健康維持にも有益です。ぜひ今日から、無理のない範囲でチャレンジしてみてください。その積み重ねがきっと数年後、数十年後の元気な自分を作り出すはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 長年タバコを吸ってきましたが、今から禁煙しても本当に効果がありますか?
はい、たとえ何十年と喫煙してきた方でも「今から禁煙する」ことには大きな健康上のメリットがあります。禁煙直後から心拍数や血圧が改善し始め、1年以内に心臓発作のリスクが半減するとされています。また最近の研究では、がんと診断された後でも禁煙した人は、喫煙を続けた人に比べ死亡リスクが約半分に減少したことが報告されました。特に進行がんの患者さんでも喫煙継続は予後を悪化させるため、禁煙による延命効果は大きいのです。重度の喫煙歴がある場合、禁煙後もリスクが完全になくなるまで10年以上かかることがありますが、それでも禁煙しなければリスクは下がりません。言い換えれば、「今が一番若い」のですから、今すぐ禁煙に踏み切る意義は非常に大きいと言えます。禁煙外来など専門のサポートも活用し、ぜひ禁煙にチャレンジしてください。
Q2. 運動はどのくらいすれば効果がありますか?高齢になってから始めても意味はありますか?
適度な運動習慣は「やらないよりやる方が確実に良い」です。量については、まずは1日30分程度の早歩きから始めてみましょう。週に150分(2時間半)の中強度の運動でも心疾患による死亡リスクを2~3割減らせるとのデータがあります。さらに余裕があれば、週300分以上の運動で最大効果が得られ、全死亡リスクが約3割低下したとの報告もあります。大切なのは継続することなので、最初は無理のない頻度で構いません。また、何歳から始めても遅くありません。70代でも運動している人は同世代の中で最も死亡リスクが低かったという研究もあり、高齢者ほど運動の恩恵を受けやすい可能性すらあります。関節に不安がある場合は水中歩行や室内でできる体操など、自分に合った形で生涯にわたる運動習慣を目指しましょう。
Q3. 地中海食が良いと聞きますが、日本人の私たちは具体的にどんな食事をすればいいですか?
地中海食のエッセンスは「野菜・果物や魚、豆類、オリーブオイル中心のヘルシーな食事」です。日本の伝統的な和食もそれに近い部分がありますが、意識してほしいのは以下のポイントです:(1) 野菜と果物を毎食しっかり摂る(抗酸化作用でがんや動脈硬化を防ぎます)、(2) 魚介類や大豆製品をタンパク源に選ぶ(魚の脂は心臓に良く、豆腐・納豆も優秀なタンパク源です)、(3) オリーブオイルや菜種油など質の良い油を適量使う(バターよりオリーブオイルを料理に活用)、(4) 全粒穀物や玄米を取り入れ、砂糖や精製炭水化物を控える、(5) 塩分を控えめにする(ハーブや出汁で風味付け)。要は「和食+オリーブオイル」のようなイメージです。例えば和風野菜たっぷりのスープにオリーブオイルをひと回し、魚の塩焼きにレモンとオリーブオイルをかける、といった工夫も美味しく実践できます。地中海食を実践したがんサバイバーが死亡率32%減と報告されたように、食事内容の改善は大きな力を持ちます。日本人でも無理なく地中海式のメリットを取り入れられますので、まずは野菜・魚中心の食生活から始めてみましょう。
Q4. 体重は年齢とともに増えやすいですが、少し太っているくらいでも問題ないでしょうか?
「適度な体重」は健康にとって非常に重要です。確かに高齢になると痩せ過ぎも良くないため、少しふくよかなほうが長生きという話もあります。ただし「少し太っている」の基準が問題です。ポイントは内臓脂肪の量で、ぽっこりお腹(メタボ体型)になっている場合は注意が必要です。腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上であれば標準体重でも内臓脂肪過多の可能性があります。肥満やメタボは高血圧・高血糖・脂質異常を引き起こし、心血管病や13種のがんリスクを高めます。一方、BMIで25前後の「軽度肥満」でも筋肉量が多く健康な人もおり、一概には言えません。一般論として、中年以降はBMI 23程度まで、腹囲は基準未満に収めることをおすすめします。それ以上の肥満では明確に生活習慣病リスクが上がるためです。適度な筋肉を保ちつつ体脂肪を落とすのが理想で、5~10%の減量でも血圧や血糖が改善する効果があります。逆に急激な無理な減量は筋肉を落としてしまい逆効果です。「少し太め」でも内臓脂肪が少なく、血圧・血糖・脂質が正常なら大きな問題はありませんが、その状態を維持するためにも食事と運動で生活習慣を整えてください。定期健診で各種数値をチェックし、問題が出てきたら早めに体重コントロールに取り組みましょう。
Q5. 薬に頼らず生活習慣だけで血圧やコレステロールを下げることはできますか?
軽症~中等症の段階であれば、生活習慣の改善で血圧やコレステロールを大きく改善できる可能性があります。例えば減塩(1日6g未満)や減量(5kg減)によって収縮期血圧が5~10mmHg下がるケースは珍しくありません。また食事内容の見直しと運動でLDLコレステロールが10~15%程度下がることも期待できます。ただし、遺伝的要因や病状によっては生活改善だけでは目標値に届かないこともあります。その場合、薬物療法をためらう必要はありません。近年の研究で、血圧もコレステロールも下げれば下げるほど将来の心血管リスクが減ると分かっています。例えば血圧を薬でしっかり下げることで脳卒中の発症が大幅に減りますし、スタチンでLDLコレステロールを1mmol/L下げれば主要心イベントが20%減少します。生活習慣改善と薬は敵対するものではなく、両方組み合わせてこそ最大の効果が得られます。まず可能な限り生活習慣で努力し、それでも不足する分は薬で補うという考え方で良いでしょう。医師と相談しながら、「生活+薬」で無理なく目標を達成することが、結果的にもっとも体に優しい方法と言えます。
参考文献
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記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
