【eGFR】実は多い“隠れアルブミン尿” 早期発見で腎臓病を防ぐ
■アルブミン尿検査の実施率が低い現状とそのリスク
アルブミン尿とは、尿中にアルブミンというタンパク質が排出されている状態を指します。アルブミンは本来血液中にあるタンパク質で、健康な腎臓では尿にほとんど漏れ出しません。そのため尿中にアルブミンが検出されるのは、腎臓に負担やダメージが生じているサインです。しかし現在、このアルブミン尿の検査が十分に行われていないのが問題となっています。実際、糖尿病や高血圧、慢性腎臓病など腎臓病リスクが高い人々の2/3近くで、アルブミン尿が見逃されている可能性が指摘されています。これは主に尿検査(尿中アルブミン/クレアチニン比など)の実施率が低いためで、地域のクリニックから病院まで一貫して検査が不足している状況です。各国の腎臓病ガイドラインでは、糖尿病・高血圧・心血管疾患・CKD(慢性腎臓病)の患者には少なくとも年1回の定期的な尿アルブミン検査を推奨しています。例えば国際的な腎臓病指針(KDIGO)や米国・欧州のガイドラインでも、これらリスクを抱える人に尿アルブミン検査を行い早期発見・リスク評価することを強く推奨しています。それにも関わらず検査が実施されないと、腎臓の異常サインを見逃してしまい、治療介入のタイミングを逃すリスクがあります。アルブミン尿の早期発見は、腎臓病の進行や心血管合併症を防ぐ上で非常に重要です。検査率の向上が求められている現状を認識し、リスクの高い方は積極的に医療機関で尿検査を受けることが推奨されます。
■アルブミン尿が見つかったときは原因の究明が必要
尿検査でアルブミン尿が確認された場合、まず、それが一過性か持続性かを評価する必要があります。激しい運動直後や発熱時など、一時的にタンパク尿が出る場合もあるため、初めて指摘されたときは数週間~数か月おいて再検査し、3か月以上持続していれば慢性腎臓病(CKD)と診断されます。持続的なアルブミン尿は腎臓に何らかの負担がかかっているサインですので、その原因を特定することが不可欠です。代表的な原因としては、糖尿病や高血圧による腎機能への慢性的な負担、腎臓そのものの病気(例:糸球体腎炎など)、心不全や肥満に伴う腎血流の変化などが挙げられます。原因の究明には、患者さんの既往歴や血液検査・追加の尿検査、必要に応じ画像検査や専門医による評価が必要です。アルブミン尿が初めて確認された段階で適切な評価を行い、糖尿病や高血圧があればそのコントロール状況を見直します。また、明らかな原因疾患がない場合や糸球体腎炎など特殊な腎疾患が疑われる場合には、早めに腎臓専門医(腎臓内科)へ紹介し精査することが推奨されます。例えば「原因不明のアルブミン尿」や「尿に血液が混じる(血尿)を伴う重度のアルブミン尿」のケースでは専門的な検査が必要になるため、放置せず専門医の診断を仰ぐことが重要です。このように、アルブミン尿というサインを見逃さず、その背後にある腎臓への負担要因を洗い出して対処することが、腎機能悪化の防止につながります。
■微量アルブミン尿段階での早期介入による予後改善
微量アルブミン尿(ごく少量のアルブミンが尿中に出ている状態)の段階から治療や生活習慣改善に取り組むことで、患者さんの予後(将来の健康状態)を大きく改善できる可能性があります。アルブミン尿は、多ければ多いほど腎臓や心臓のリスクが高まりますが、わずかな増加であっても油断はできません。実際、正常とされる範囲内でのわずかな尿アルブミン上昇であっても、心血管疾患の発症リスクや腎機能低下のリスクが高まることが研究で示されています。言い換えれば、「微量だから大丈夫」ではなく、微量の段階から対策を講じることが肝要です。幸いにも、アルブミン尿の低減は予後改善に結びつくエビデンスがあります。疫学研究では、治療などにより尿中アルブミン量を30%以上減少させることができた場合、腎不全への進行リスクが最大で56%も低下し、心血管疾患のリスクも約28%低下したとの報告があります。また別の臨床試験解析でも、尿アルブミン値を30%下げることができた患者群では、腎機能悪化の危険度が27%低下していたことが示されました。こうしたデータから、糖尿病腎症のガイドラインでは治療目標の一つとして「尿アルブミンを30%以上減らすこと」が掲げられるほどです。早期介入としては、血糖値や血圧の厳格なコントロール、減塩・減量など生活習慣の改善、そして後述する腎保護効果のある薬剤の導入が含まれます。微量アルブミン尿の時期から適切に介入することで、重篤な腎不全への進行を食い止める可能性が高まり、ひいては心筋梗塞や脳卒中など心血管イベントの予防にもつながります。
■RAS系阻害薬とSGLT2阻害薬による治療の意義と効果
アルブミン尿の改善と腎機能保護を目的として、近年は薬物療法による積極的な介入が推奨されています。その中心となるのが、RAS系阻害薬とSGLT2阻害薬の2つの薬剤クラスです。RAS系阻害薬とは、腎臓の糸球体での過剰な圧力を下げる働きを持つ薬剤群で、具体的にはACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)が含まれます。これらは高血圧の治療薬として広く使われていますが、同時に腎臓のフィルター機能への負担を軽減し尿タンパクを減らす効果があるため、糖尿病やタンパク尿を伴う高血圧患者では標準的な第一選択薬となっています。臨床試験でも、ACE阻害薬やARBを用いることで腎症の進行を遅らせ末期腎不全や蛋白尿の悪化を防ぐ効果が確認されています。また、SGLT2阻害薬と呼ばれる新しいクラスの薬剤も画期的な効果を示しています。SGLT2阻害薬は元々2型糖尿病の治療薬として開発され、腎臓でのブドウ糖再吸収を抑制して尿中に糖を排泄させることで血糖を下げる薬です。近年の大規模臨床試験により、この薬が糖尿病の有無に関わらず腎臓を保護する効果を持つことが明らかとなりました。SGLT2阻害薬は尿への糖と一緒にナトリウム(水分)も排泄させるため、腎臓の糸球体にかかる圧力を下げて過剰なろ過(糸球体過剰濾過)を是正する作用があります。その結果、尿中のアルブミン排泄量が減少し、腎機能の低下スピードが緩やかになるのです。実際に、腎臓病患者を対象とした複数の臨床研究で、SGLT2阻害薬の追加投与によって腎不全への進行や心不全による入院リスクが大きく減少しています。現在の国際ガイドライン(KDIGO 2024年版など)でも、アルブミン尿のあるCKD患者に対しRAS系阻害薬(ACE阻害薬/ARB)とSGLT2阻害薬の併用を強く推奨しています。これらの薬剤は心不全や糖尿病、肥満など様々な疾患にも良い影響を与えることが分かっており、腎臓のみならず全身の予後改善につながる「腎保護療法」の要と言えます。例えば、従来からのRAS系薬であるACE阻害薬/ARBで血圧と尿タンパクをコントロールしつつ、SGLT2阻害薬を併用することで相乗的に腎機能低下を抑え、心血管イベント(心臓発作や心不全)の発生も減らせることが示されています。このように、RAS系阻害薬とSGLT2阻害薬による治療はアルブミン尿の低減と腎臓病の進行抑制において非常に意義が大きく、その効果も医学的に確立されています。
SGLT2阻害薬の作用と腎保護効果(詳細解説)
SGLT2阻害薬は近年登場した糖尿病治療薬ですが、その作用機序と腎臓への有用性について詳しく解説します。SGLT2阻害薬は腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2というタンパク(ナトリウム-グルコース共輸送体)を阻害します。通常、腎臓のフィルターで濾し出されたブドウ糖は、このSGLT2によって尿細管から血液中に再吸収されます。SGLT2阻害薬を投与すると、ブドウ糖が再吸収されずに尿中に排泄されるため、尿に糖が出る(尿糖)状態を意図的に作り出します。その結果、血糖値が低下するだけでなく、尿と一緒にナトリウムや水も排泄されるため、体の余分な水分が減って利尿作用・降圧効果も生じます。腎臓の糸球体では、SGLT2阻害薬により尿細管でのナトリウム再吸収が抑えられることで、塩分が遠位のマクラデンサという部位に多く届くようになります。その結果、糸球体への血液供給が調節され、糸球体内の高い圧力(高血圧状態)が緩和されます。この作用によって糸球体の過剰な濾過が是正され、長期的には尿タンパクの減少と腎臓組織の保護につながると考えられています。実際に、SGLT2阻害薬は糖尿病のない慢性腎臓病患者にも有効であることが複数の試験で示されました。代表的な臨床試験として、DAPA-CKD試験やEMPA-KIDNEY試験では、2型糖尿病を合併しない腎臓病患者でもSGLT2阻害薬により腎不全や心不全のリスクが低下しています。このエビデンスを受け、日本腎臓学会も「SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらずCKD患者において腎保護効果を示すため、積極的な使用を検討する」ことを推奨しています。さらに興味深い点に、SGLT2阻害薬と他の腎保護薬との併用効果があります。ACE阻害薬やARBで治療中の患者にSGLT2阻害薬を追加すると、両者の作用で相乗的にアルブミン尿が減り、腎機能低下の速度が一層緩やかになります。またSGLT2阻害薬と後述するGLP-1受容体作動薬を併用することでも、糖尿病腎症において心腎双方のアウトカムがさらに改善するとの報告もあります。総じて、SGLT2阻害薬は「血糖を下げる薬」という枠を超え、腎臓と心臓を守る新たな治療柱として位置付けられています。その効果は世界中の臨床試験で確認され、現在では腎臓病治療ガイドラインの中心的な推奨薬剤の一つとなっています。
GLP-1受容体作動薬の腎保護効果
GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、もともと糖尿病治療に用いられるインクレチン関連薬の一種で、近年では肥満症治療薬としても注目を集めています(週1回の注射製剤などが代表例です)。このGLP-1受容体作動薬が、腎臓を守る効果を持つことが最新の研究で明らかになってきました。とりわけ話題となっているのがsemaglutide(セマグルチド)というGLP-1受容体作動薬です。2024年に発表された大規模臨床試験「FLOW試験」では、2型糖尿病と腎臓病を併せ持つ患者3,500人以上を平均3.4年間追跡し、週1回のセマグルチド投与群とプラセボ群を比較しました。その結果、セマグルチドを投与された群では、腎不全への進行や心・腎原因による死亡を含む主要複合アウトカム発生率が24%低下したことが報告されています(ハザード比0.76, 95%信頼区間0.66–0.88)。さらにセマグルチド群では腎機能の低下速度が有意に緩やかで、主要な心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)も18%減少し、全死亡も20%減少するといった有益な結果が得られました。この試験は途中で明白な有効性が示されたため早期に中止されたほどで、研究者らは「セマグルチドが腎臓と心臓と命を救うことが示された」と評価しています。こうしたエビデンスを受け、米国FDAや欧州当局はセマグルチドを2型糖尿病を伴うアルブミン尿陽性CKDの治療薬として承認する動きを見せており、国際ガイドラインでも糖尿病腎症患者へのGLP-1受容体作動薬の使用が推奨選択肢に加わりつつあります。GLP-1受容体作動薬は膵臓からのインスリン分泌を促進する作用で血糖コントロールを改善するだけでなく、食欲抑制による減量効果や軽度の血圧下降作用もあり、こうした全身的な改善が腎臓の負担軽減につながっている可能性があります。さらに直接的にも腎臓の炎症や線維化を抑える作用が指摘されており、アルブミン尿の減少効果も報告されています。実際、GLP-1受容体作動薬を使った糖尿病患者では、新たな顕性タンパク尿への進行が有意に減ったとの研究結果もあります。現在までのところGLP-1受容体作動薬の腎保護効果は主に糖尿病患者で確認されていますが、専門家は「この薬は将来的に糖尿病のない腎臓病患者にも有用である可能性が高い」と期待しています。将来的な研究次第では、糖尿病の有無を問わず腎不全リスクの高い人への新たな治療オプションとしてGLP-1受容体作動薬が位置づけられるかもしれません。現時点でも、糖尿病性腎症の患者さんでアルブミン尿が持続する場合には、ACE阻害薬/ARBやSGLT2阻害薬に加えてGLP-1受容体作動薬を検討することで、腎臓と心血管の予後改善が期待できる状況となっています。
参考文献
- Claudel SE, Kar D, Majeed A, Burgwinkle PS, Verma A. Assessment and management of albuminuria in adults. BMJ. 2025;391:e084911.
- 日本腎臓学会. CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation. 日腎会誌. 2023;65(1):1-10cdn.jsn.or.jp.
- Perkovic V, Tuttle KR, Rossing P, et al. Effects of semaglutide on chronic kidney disease in patients with type 2 diabetes (FLOW trial). N Engl J Med. 2024;391(2):109-121pubmed.ncbi.nlm.nih.gov. doi:10.1056/NEJMoa2403347.
- ADA (American Diabetes Association) Scientific Sessions. FLOW trial demonstrates kidney, cardiovascular benefits of semaglutide in high-risk patients with type 2 diabetes. ADA Meeting News. July 11, 2024adameetingnews.orgadameetingnews.org.
- Fairbank R. Ozempic keeps wowing: trial data show benefits for kidney disease. Nature. 24 May 2024nature.com. doi:10.1038/d41586-024-01564-w.
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
