病気と健康の話

【高血圧】 その血圧、薬の前に「食事」で間に合う ―2025年新ガイドラインが示す食事先行―

はじめに ― 「血圧 130」と言われた瞬間が、人生の分岐点

「血圧が 130/80mmHg を超えていますね」――健康診断や外来でこう言われた経験のある方は、決して少なくないはずです。多くの方が「すぐに薬が必要になるのでは」「年齢のせいだから仕方ない」と感じる一方で、最新の医学は「血圧高めに気付いた最初の 3〜6 か月」が、薬を始めるか・始めないかを決定する極めて重要な分岐点であることを明確にしています。

2025 年 8 月、米国心臓協会(AHA)・米国心臓病学会(ACC)を含む多学会合同による最新の高血圧管理ガイドライン「2025 AHA/ACC/Multisociety High Blood Pressure Guideline」が発表されました(Jones et al., Hypertension 2025)。この新ガイドラインの最大の変更点のひとつが、「ステージ 1 高血圧(130-139/80-89mmHg)で心血管リスクが低い方に対して、3〜6 か月の生活習慣改善を最初に試行する」ことが正式に推奨されたことです。つまり、「血圧高めと気付いた今こそ、食事で間に合う時間がある」のです。

そして 2026 年 4 月、米国 American Journal of Preventive Cardiology 誌に発表された Mangalesh博士ら(米 Albert Einstein 医科大学・Montefiore 医療システム)の最新解析は、この新ガイドラインの恩恵を定量的に証明しました。米国国民健康・栄養調査(NHANES)2013-2020 年のデータ 16,040 人を用いたモンテカルロ・シミュレーションで、DASH 食(高血圧予防のための食事戦略)を 50%の遵守率で実践しただけでも、ステージ 1 高血圧の約 3 分の 1(620 万人)が「血圧上昇(elevated BP)」カテゴリーに改善し、薬物療法を回避できる可能性があることが示されました(Mangalesh et al., Am J Prev Cardiol 2026)。本コラムでは、この最新エビデンスを軸に、欧米の権威ある研究を交えながら、「血圧が気になり始めた今、何をすべきか」をわかりやすく解説します。

「ステージ 1 高血圧」は、薬の対象ではなく『食事の対象』に変わった

高血圧の診断基準と治療方針は、ここ 10 年で大きく書き換えられてきました。2017 年の AHA/ACC ガイドラインでは、収縮期血圧 130-139mmHg または拡張期血圧 80-89mmHg を「ステージ 1 高血圧」と再定義し、それ以前の「正常高値」より厳しい基準が採用されました(Whelton et al., Hypertension 2018)。そして 2025 年 8 月の新ガイドラインでは、これに加えて「PREVENT(米国心臓協会 2023 年策定の心血管リスク計算式)による 10 年心血管リスクが 7.5%未満の方には、まず 3〜6 か月の生活習慣改善を試みる」ことが明示されました(Jones et al., Hypertension 2025)。

この変更の臨床的インパクトは大きいものです。米国 Northwestern 大学による 2025 年の解析では、新ガイドライン下では新たに 2,680 万人(米国成人の 10.8%)が「ステージ 1 高血圧+低リスク群」として『生活習慣改善先行』の対象となり、その約半数は 18〜39 歳の若年層でした(Stamler et al., Hypertension 2025)。「気付いた今なら、生活習慣改善で薬を回避できる時間がある」――これは新ガイドラインが明確に示した方針です。

重要なのは、「3〜6 か月後に血圧が 130/80 未満に下がっていれば、薬は不要」という点です(Jones et al., 2025;American College of Cardiology 2025)。逆に、その期間に血圧コントロールができなければ、初めて薬物療法が推奨されます。つまり、新ガイドラインは「血圧高めに気付いた最初の 3〜6 か月」を、薬を始めるか・回避できるかを決める重要な分岐点として位置づけたのです。日本の高血圧治療ガイドライン 2024(JSH2024)でも同様に、軽症高血圧では生活習慣改善の試行が第一に推奨されており、当院でも生活習慣病管理料(Ⅱ)に基づく個別療養計画書を通じて、患者さん一人ひとりの状況に合わせた減塩・食事改善・運動指導を継続的に提供しています。

DASH 食とは ― 米国国立衛生研究所が開発した「降圧の処方箋」

「DASH 食(ダッシュ食)」とは、Dietary Approaches to Stop Hypertension(高血圧を止めるための食事アプローチ)の略で、1997 年に米国国立衛生研究所(NIH)主導の臨床試験「DASH 試験」によって科学的に確立された食事パターンです(Appel et al., NEJM 1997)。世界で初めて「特定の食事パターンが薬に匹敵する降圧効果を持つ」ことを大規模ランダム化試験で証明した、食事療法の金字塔です。

DASH 食の核心は、(1)野菜・果物を 1 日合計 8〜10 サービング以上、(2)低脂肪乳製品を 1 日 2〜3 サービング、(3)全粒穀物を 1 日 6〜8 サービング、(4)ナッツ類・豆類を週 4〜5 サービング、(5)赤身肉・加工肉・砂糖含有飲料を制限、(6)ナトリウム(食塩)を 1 日 2,300mg 以下(理想は 1,500mg 以下)に抑える、というシンプルな構成です。要点は「カリウム・カルシウム・マグネシウムの豊富な食品を増やし、塩分・飽和脂肪酸を減らす」ことです。

2020 年に Advances in Nutrition 誌に発表された Filippou 博士ら(ギリシャ・アテネ大学)による 30 試験 5,545 人のメタ解析では、DASH 食は対照食と比較して収縮期血圧を平均 3.2mmHg、拡張期血圧を 2.5mmHg 低下させることが確認されました(Filippou et al., Adv Nutr 2020)。さらに高血圧患者では、収縮期血圧の低下幅が 4.2mmHg に達することも報告されています。これは、降圧薬 1 剤分に近い効果であり、薬物療法と組み合わせることで相乗効果が得られます。当院では、管理栄養士による日本人向けにアレンジしたDASH 食の個別指導を提供しています(伝統的和食をベースに、減塩・野菜増量・全粒穀物の取り入れを段階的に進めるアプローチ)。

Mangalesh 論文 ― 16,040 人のシミュレーションが示した『食事先行の希望』

本コラムの主軸となるのが、2026 年 4 月に American Journal of Preventive Cardiology 誌に発表された Mangalesh 博士らの最新解析です(Mangalesh et al., Am J Prev Cardiol 2026)。彼らは米国国民健康・栄養調査(NHANES)2013-2020 年のデータから、20〜79 歳の成人 16,040 人(全米 2億1,700 万人を代表)を解析し、2025 年新ガイドラインの「食事先行」戦略がどれだけ実効性を持つかを、モンテカルロ・シミュレーションで定量的に評価しました。

結果は注目すべきものでした。米国にはステージ 1 高血圧で薬の即時開始が必要ない(=食事先行が可能な)成人が 2,130 万人存在し、そのうち 99%(1,990 万人)は DASH 食を実践していませんでした。シミュレーションでは、彼らが「DASH 食を 50%の遵守率で実践した」と仮定すると、収縮期血圧3-7mmHg・拡張期血圧2-6mmHg の降圧効果により、全体の31.1%(620万人)が「血圧上昇(elevated BP、120-129/<80)」へとカテゴリー降格し、薬物療法を回避できる可能性が示されました(Mangalesh et al., 2026)。

さらに保守的な感度解析(収縮期血圧 5mmHg 低下のみを仮定し、部分的遵守を考慮)でも、7.2〜18.0%の対象者が降格できると推計されました。Mangalesh 博士らの結論は明快です――「不完全な遵守でも、食事改善は薬を始める時期を遅らせる、あるいは回避できる」(Mangalesh et al., 2026)。これは、完璧を目指さなくても食事改善には実質的な意義があることを示しています。当院では「100 点を目指さず、まず 60 点から始める」をモットーに、患者さんが続けられる現実的な食事改善プランを管理栄養士と一緒に作成しています。

減塩の威力 ― CARDIA-SSBP 試験が示した「1 週間で血圧 6mmHg 低下」

DASH 食の核となる戦略のひとつが減塩です。「塩分を減らせば血圧が下がる」――これは古くから知られていましたが、その効果の大きさを正確に示したのが 2023 年 11 月に JAMA誌に発表された米国 Vanderbilt 大学の Gupta 博士らによる CARDIA-SSBP 試験です(Gupta et al., JAMA 2023)。50〜75 歳の成人 213 人を対象に、1 週間ずつ高塩分食(1 日約 5,000mg)と低塩分食(1 日約 1,300mg)を交互に試したクロスオーバー試験で、低塩分食では収縮期血圧が平均 6mmHg、24 時間血圧では 8mmHg 低下しました。

驚くべきことに、この 6mmHg という数字は降圧薬 1 剤に匹敵する効果であり、効果は 1 週間という短期間で、しかも参加者の 75%で認められました。さらに、高血圧治療中の方でも、糖尿病の方でも、年齢や肥満の有無に関わらず、低塩分食の効果は一貫していました(Gupta et al., 2023)。「すでに薬を飲んでいるから減塩は効かない」というのは誤解で、薬と減塩は相加的・相乗的に働きます。

WHO(世界保健機関)と AHA は、ナトリウム摂取量を 1 日 2,300mg 未満(理想は 1,500mg 未満)に抑えることを推奨しています。これは食塩換算で 5.8g(理想は 3.8g)に相当します。一方、日本人の平均塩分摂取量は 1 日約 10g(2023 年国民健康・栄養調査)で、WHO 推奨の約 2 倍です。日本食は伝統的に塩分が多く(味噌汁、漬物、醤油、加工食品)、減塩への取り組みが特に重要です。当院では、外食の選び方、調味料の置き換え、出汁の活用、加工食品の見極めなど、日本人の食生活に即した実践的な減塩指導を管理栄養士が個別に提供しています。

カリウムの再評価 ― SSaSS 試験が証明した「食卓の塩を変える」効果

「塩を減らす」と並んで重要なのが、「カリウムを増やす」ことです。カリウムはナトリウムと拮抗的に働き、血管拡張、ナトリウム排泄促進、交感神経活性抑制などを通じて血圧を下げます。2021 年9 月にN Engl J Med 誌に発表された中国・オーストラリア共同研究「SSaSS試験(Salt Substitute and Stroke Study)」は、この「カリウム増加」の力を世界で初めて大規模に証明した記念碑的試験です(Neal et al., NEJM 2021)。

高血圧または脳卒中既往のある中国人 20,995 人を、減塩・カリウム強化塩(75%塩化ナトリウム+25%塩化カリウム)群と通常塩群にランダム化し、約 4.7 年追跡しました。結果、減塩・カリウム強化塩群は通常塩群と比較して、(1)脳卒中発症が 14%減少、(2)主要心血管イベントが 13%減少、(3)全死亡が 12%減少と、心血管予後が顕著に改善しました(Neal et al., 2021)。後続のサブ解析では、降圧効果(平均 3.3mmHg)の大半は塩分減少よりカリウム増加によるものであることも示されました(Yin et al., J Hum Hypertens 2024)。

ただし、注意点もあります。カリウムは腎機能が低下した方(eGFR<60)、ACE 阻害薬・ARB・スピロノラクトンなどカリウム保持性薬剤を使用中の方では、高カリウム血症のリスクがあるため摂取量の調整が必要です。当院では、必ず腎機能(eGFR、尿アルブミン)・電解質を確認したうえで、安全に実施できるカリウム増加プラン(野菜・果物・豆類・芋類の積極摂取、必要に応じた減塩・カリウム強化塩の活用)を個別に提案しています。「腎臓に問題がない方は、もっと野菜・果物を」「腎機能に注意が必要な方は、まず減塩から」――これが原則です。

食事だけじゃない ― 運動・体重・アルコールの統合的アプローチ

2025 年新ガイドラインは、食事だけでなく「生活習慣の総合的改善」を強調しています。具体的に推奨される変更は、(1)体重 5%以上の減量(過体重・肥満の方)、(2)DASH 食または地中海食の採用、(3)ナトリウム摂取量を 1 日 2,300mg 未満に制限、(4)中等度の有酸素運動を週 150 分以上+週 2 回以上の筋力トレーニング、(5)アルコール摂取の削減または禁酒(2025 年新ガイドラインでは『最適な血圧コントロールには禁酒を推奨』と明記)、(6)禁煙、(7)十分な睡眠と規則正しい生活リズム、の 7 つです(Jones et al., Hypertension 2025)。

それぞれの降圧効果は単独でも明確です。減量 1kg で血圧は約 1mmHg 低下、有酸素運動で 5-8mmHg、減塩で 5-6mmHg、DASH 食で 3-11mmHg、節酒で 4mmHg、と複数の介入を組み合わせれば 10mmHg 以上の降圧も十分可能です(Jones et al., 2025;Filippou et al., 2020;Gupta et al., 2023)。これは降圧薬 2 剤分に相当し、軽症高血圧であれば生活習慣だけで完全にコントロール可能なレベルです。

重要なのは、「すべてを同時に完璧にやる必要はない」ことです。Mangalesh 博士らのシミュレーションでも、50%の遵守率でも有意な降圧効果が得られることが示されました(Mangalesh et al., 2026)。「最も実行しやすい 1〜2 項目から始めて、3 か月続ける」――これが現実的な始め方です。当院では、患者さん個別の生活パターン、嗜好、職業、家族構成を踏まえた「無理なく続けられる介入の組み合わせ」を、管理栄養士・健康運動指導士・医師のチームでご提案しています。

「測る」ことが力になる ― 家庭血圧測定と PREVENT リスク評価

新ガイドラインの「3〜6 か月の生活習慣試行」を成功させる鍵は、「客観的に進捗を見える化する」ことです。2025 年新ガイドラインは、診察室血圧だけでなく、家庭血圧測定(Home Blood Pressure Monitoring:HBPM)を強く推奨しています(Jones et al., Hypertension 2025)。家庭血圧は、診察室での「白衣高血圧」を除外でき、24 時間の血圧変動を反映するため、より正確に治療効果を評価できます。

推奨される測定方法は、(1)朝の起床後 1 時間以内、排尿後、朝食前、降圧薬服用前、(2)夜の就寝前、いずれも座位で 1〜2 分の安静後、上腕で 2 回測定し、平均値を記録、(3)これを毎日継続、というシンプルなものです。家庭血圧の目標値は、ステージ 1 高血圧+低リスク群では 125/75mmHg 未満、それ以外は 130/80mmHg 未満が推奨されます(Jones et al., 2025)。

もうひとつ重要なのが、PREVENT リスク計算式です。これは 2024 年に Circulation 誌に発表された AHA 最新の心血管リスク評価ツールで、年齢・性別・血圧・コレステロール・糖尿病の有無・腎機能・喫煙歴に加え、社会的健康決定要因(SDOH)も統合し、より精密な 10 年・30 年心血管リスクを推計します(Khan et al., Circulation 2024)。2025 年新ガイドラインは、ステージ 1 高血圧で PREVENT リスク 7.5%未満なら生活習慣改善、7.5%以上なら薬物療法、と治療方針の分岐点として採用しました。当院では、血液検査・腎機能評価・血圧測定を通じて PREVENT リスクを算出し、患者さん個別の戦略を可視化しています。

当院での実践 ― 「3〜6 か月の食事先行」を地域で支える

ここまで述べてきたように、2025 年新ガイドラインは「血圧高めに気付いた最初の 3〜6 か月」を、薬を始めるか回避できるかを決める重要な分岐点として位置づけました。当院では、この期間を最大限に活かすため、以下のような統合的アプローチを提供しています。

評価段階では、(1)診察室血圧の正確な測定、(2)家庭血圧測定の指導と記録方法の説明、(3)血液検査(腎機能、電解質、脂質、HbA1c 等)、(4)尿検査(尿アルブミン、尿ナトリウム/カリウム比)、(5)腹部 CT・超音波による内臓脂肪・脂肪肝・冠動脈石灰化の評価、(6)PREVENTリスク計算による 10 年心血管リスクの算出を組み合わせ、患者さん個別のリスクと介入優先順位を客観的に把握します。

介入段階では、(1)管理栄養士による個別の食事指導(日本食をベースにアレンジした DASH食、減塩、カリウム増量、和食の出汁を活用した減塩テクニック)、(2)指定運動療法施設での健康運動指導士による個別運動プログラム、(3)生活習慣病管理料(Ⅱ)に基づく個別療養計画書の作成、(4)3 か月後・6 か月後の効果判定と方針再検討、(5)必要に応じた薬物療法の追加判断、を医師・管理栄養士・健康運動指導士のチームで包括的に提供しています。「気付いた今こそ食事で間に合う」――この貴重な時間を、地域に根ざした医療機関として全力でサポートいたします。

おわりに ― 「いま気付いた」あなたへ

「血圧 130/80 を超えた」と言われた瞬間は、人生の中で珍しい『分岐点』のひとつです。多くの慢性疾患は気付いたときには進行していて、もう生活習慣改善だけでは戻せないことが多いのですが、ステージ 1 高血圧は違います。Mangalesh 博士らのシミュレーションが示したように、不完全な遵守でも 30%以上の方が薬を回避できる可能性があります(Mangalesh et al., Am J Prev Cardiol 2026)。「いま気付いたこと」自体が、すでに大きな前進なのです。

薬を否定するわけではありません。3〜6 か月の生活習慣改善で目標血圧に到達できなければ、躊躇せず薬物療法を始めるべきです(Jones et al., Hypertension 2025)。むしろ重要なのは、「食事先行で間に合う方は食事だけで」「食事だけでは間に合わない方は薬を併用して」と、一人ひとりの状況に合わせた最適な戦略を選ぶことです。新ガイドラインが示したのは、まさにこの「個別最適化された予防医療」のあり方です。

まんかいメディカルクリニックは、CT・超音波・血液検査による客観的評価、管理栄養士・健康運動指導士による個別介入、定期的な家庭血圧モニタリング、そして必要時の適切な薬物療法判断を組み合わせ、患者さんが「気付いた今」を最大限活かせる医療を提供しています。「血圧高めと言われたが、何から始めればよいかわからない」「薬を始める前に、まず食事改善を試したい」――そうしたお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。気付いた今こそが、最良のスタートタイミングです。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. 健診で「血圧 130/85」と言われました。すぐに薬が必要ですか?

いいえ、多くの場合すぐには必要ありません。2025 年AHA/ACC 新ガイドラインでは、ステージ 1 高血圧(130-139/80-89mmHg)で心血管リスクが低い(PREVENT 10 年リスク 7.5%未満)方には、まず 3〜6 か月の生活習慣改善を試すことが推奨されています(Jones et al., Hypertension 2025)。具体的には、糖尿病・慢性腎臓病・心血管疾患既往がない比較的若年層が該当します。ただし、糖尿病、慢性腎臓病、心筋梗塞・脳卒中の既往がある方、PREVENT 10 年リスク 7.5%以上の方は、ステージ 1 でも薬物療法を直ちに開始することが推奨されます。当院では、血液検査・尿検査・心電図・PREVENT 計算により個別リスクを評価したうえで、「食事先行」と「薬物療法」のどちらが適切かを判断しています。気軽にご相談ください。

Q2. DASH 食って具体的にどんな食事ですか?日本人にも実践できますか?

DASH 食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)は、米国 NIH が開発した降圧のための食事パターンで、(1)野菜・果物を 1 日合計 8〜10 サービング以上、(2)低脂肪乳製品を 1 日 2〜3 サービング、(3)全粒穀物・ナッツ・豆類を多めに、(4)赤身肉・加工肉・砂糖含有飲料を制限、(5)ナトリウムを 1 日 2,300mg(理想 1,500mg)未満、を基本とします(Appel et al., NEJM 1997)。日本人にとっては、伝統的和食をベースに「魚・大豆製品(豆腐・納豆・味噌)・野菜・きのこ・海藻・全粒穀物(玄米・雑穀)」を増やし、「漬物・加工肉・塩辛い汁物・醤油の多用」を減らすことで、自然に DASH 食に近づけます。当院の管理栄養士は、日本人の食習慣に即した実践的なアレンジ(出汁の活用、減塩調味料、外食の選び方など)を個別に指導しています。

Q3. 減塩はどのくらいまで頑張ればよいですか?目標値は?

WHO・AHA の推奨は 1 日 2,300mg(食塩換算約 5.8g)未満、理想は 1,500mg(約 3.8g)未満です。日本人の平均塩分摂取量は 1 日約 10g ですから、半分以下を目指す計算です。CARDIA-SSBP 試験では、1 日 1,300mg まで減塩することで 1 週間で収縮期血圧が 6mmHg 低下し、参加者の 75%で効果が確認されました(Gupta et al., JAMA 2023)。ただし、いきなり半減を目指すと挫折しやすいので、(1)まず加工食品・外食・インスタント食品を減らす、(2)味噌汁を 1 日 1 杯までに、(3)漬物・佃煮・塩辛を週 1〜2 回程度に、(4)出汁・酢・レモン・香辛料・薬味で塩分依存を減らす、というステップ式が現実的です。当院では、患者さんの食生活を聞き取ったうえで、最も効果が出やすい「最初の一歩」を一緒に決めています。

Q4. 食事改善を 3 か月続けても血圧が下がらない場合はどうなりますか?

2025 年新ガイドラインでは、3〜6 か月の生活習慣改善後も血圧が 130/80mmHg 以上で続く場合、薬物療法の開始が推奨されます(Jones et al., Hypertension 2025)。これは「失敗」ではなく、「あなたには薬が必要だった」というデータに基づく適切な判断です。重要なのは、生活習慣改善を継続しながら薬を併用することで、薬の用量を最小限に抑えられ、長期予後も改善することです。また、「3 か月で下がらない」原因として、隠れた二次性高血圧(原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸症候群、腎血管性高血圧など)が潜んでいる可能性もあります。2025 年新ガイドラインでは、ステージ2 高血圧や治療抵抗性高血圧では二次性高血圧のスクリーニングが拡充されました。当院では、必要に応じてこれらの精査も行い、原因に応じた最適な治療を提供しています。

Q5. 家庭血圧の測り方を教えてください。何回くらい測ればよいですか?

推奨される測定方法は、(1)朝:起床後 1 時間以内、排尿後、朝食前、降圧薬服用前、(2)夜: 就寝前、いずれも座位で 1〜2 分安静後、上腕で 2 回測定し、平均値を記録、(3)これを毎日継続、です。1 日 2 回(朝・夜)を最低 5〜7 日続け、平均値で判断します。家庭血圧の目標は、低リスク群で 125/75mmHg 未満、それ以外は 130/80mmHg 未満が推奨されます(Jones et al., 2025)。推奨される血圧計は上腕式(腕に巻くタイプ)で、手首式は精度が落ちるため避けます。日本高血圧学会認証マーク(JSH 認証)のあるものが安心です。当院では、血圧手帳の使い方、測定時の注意点(直前の喫煙・カフェイン・運動を避ける、足を組まない、話さない等)、グラフ化による進捗の見える化を個別にご指導しています。「測ること」自体が降圧効果を持つ(白衣高血圧の除外、患者さんの自己管理意識の向上)ことも知られています。

参考文献

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  5. Filippou CD, Tsioufis CP, Thomopoulos CG, et al. Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) Diet and Blood Pressure Reduction in Adults with and without Hypertension: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Adv Nutr. 2020;11(5):1150-1160. https://doi.org/10.1093/advances/nmaa041
  6. Gupta DK, Lewis CE, Varady KA, et al. Effect of Dietary Sodium on Blood Pressure: A Crossover Trial (CARDIA-SSBP). JAMA. 2023;330(23):2258-2266. https://doi.org/10.1001/jama.2023.23651
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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