【風邪】風邪の原因とは
■風邪の原因微生物とは?──その正体と当院の診断体制
風邪(かぜ症候群)の原因の多くはウイルスによる感染です。実に200種類以上のウイルスが知られており、代表的なものにはライノウイルス、コロナウイルス(一般型)、アデノウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスなどがあります。また、ウイルス以外にも、細菌であるA群溶血性連鎖球菌(溶連菌)やマイコプラズマ、百日咳菌などが原因となることもあります。これらは症状が似ているため、見た目だけでは診断が困難です。
とくに最近では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やインフルエンザウイルスとの同時流行(ツインデミック)も話題になっており、原因微生物の正確な特定が医療現場でますます重要になっています。
ライノウイルス|最も身近な風邪のウイルス
ライノウイルスは「風邪の原因」として最も一般的なウイルスで、特に秋や春に流行します。くしゃみ・鼻水・喉の痛み・微熱といった典型的な風邪症状を引き起こします。感染力が強く、ドアノブや手すりなどを介した接触でも感染します。多くの場合は軽症で済み、自然に回復しますが、小さなお子さまや高齢者では注意が必要です。抗菌薬は効かないため、治療は解熱剤や咳止めなどの対症療法が中心です。当院では、症状が重い・長引く場合には、ウイルス検出も可能なBioFire® SpotFire®システムによる診断を行っています。
一般型コロナウイルス|日常に潜む風邪の原因
「コロナウイルス」と聞くとCOVID-19を思い浮かべる方も多いですが、もともと一般型コロナウイルスは風邪の原因として昔から知られており、ライノウイルスと並んで一般的です。主な症状は咳、喉の痛み、鼻水、軽度の発熱などで、季節性があり冬に増加します。通常は軽症で自然に治りますが、免疫力の低下している方は長引くことがあります。一般型とCOVID-19の見分けは難しいこともあり、当院では必要に応じてマルチプレックスPCR検査(BioFire® SpotFire®)でウイルスの種類を正確に判別し、適切な対応を行っています。
アデノウイルス|喉・目・腸にくるしつこい風邪
アデノウイルスは、風邪症状に加えて咽頭炎(喉の強い腫れや痛み)、結膜炎(目の充血や目やに)、胃腸炎(下痢・嘔吐)など多様な症状を引き起こします。高熱が4〜5日続くことも多く、子どもを中心に流行します。いわゆる「プール熱(咽頭結膜熱)」の原因ウイルスとしても知られています。ウイルスなので抗生物質は無効ですが、症状が強い場合や長引くときには早めの医療受診が推奨されます。当院では、アデノウイルスを含む複数ウイルスを1回で判定できるBioFire® SpotFire®による迅速診断を実施しております。
RSウイルス|乳幼児の咳と呼吸困難に注意
RSウイルスは主に乳幼児や高齢者に重症化しやすい呼吸器ウイルスで、冬季に流行します。最初は鼻水や咳など軽い風邪症状から始まりますが、次第に咳が悪化し、喘鳴(ゼーゼー音)や呼吸困難を伴う「細気管支炎」や「肺炎」へと進行することもあります。感染力が非常に強く、保育園や家庭内での集団感染にも注意が必要です。特に1歳未満の乳児では重症化リスクが高いため、早期診断と適切な管理が重要です。当院では、BioFire® SpotFire®システムにより、RSウイルスを含む感染症の迅速な鑑別が可能です。
マイコプラズマ|しつこい咳が続く“隠れ肺炎”
マイコプラズマは細菌とウイルスの中間のような微生物で、特に学童から若年成人に多い“非定型肺炎”の原因として知られています。咳が3週間以上続く「長引く咳」が特徴で、発熱や喉の痛みはあっても、胸部X線検査で初めて肺炎と分かるケースも少なくありません。通常の抗生物質が効かないことも多く、マクロライド系抗菌薬などが使用されます。当院では、マイコプラズマも含む感染症の診断を1回で行えるBioFire® SpotFire®を用いたPCR検査により、早期診断と確実な治療方針の決定をサポートしています。
A群溶血性連鎖球菌(溶連菌)|喉の痛みと腫れ
A群溶血性連鎖球菌は、小児を中心に「咽頭炎」や「扁桃炎」の原因となる細菌です。喉の激しい痛み、発熱、咽頭の腫れ、白苔(しらこけ)の付着、舌のブツブツ(いちご舌)などが見られます。抗菌薬による治療が必要で、放置すると「リウマチ熱」や「腎炎」といった合併症を引き起こす可能性もあるため、早期診断としっかりとした治療が大切です。
百日咳|長引く咳に要注意
百日咳は、「コンコンコン…ヒューッ」という特徴的な咳が長期間続く細菌感染症です。成人では軽症の風邪と見なされがちですが、乳児では命に関わることもあります。特に夜間に咳が激しくなり、息が止まりそうになるほどの“咳発作”が見られます。治療にはマクロライド系抗菌薬が使用されますが、発症初期でなければ効果が限定されることもあるため、早期診断が重要です。当院では、百日咳菌も含めた複数の病原体を一括で調べられるBioFire® SpotFire®により、見落としのない診断を行っています。
こうした背景のもと、当院では「BioFire® SpotFire® システム」を導入しています。このシステムは、マルチプレックスPCR法を用い、1回の検査で複数のウイルスや細菌(最大15項目以上)を迅速かつ正確に判定できる画期的な検査機器です。これにより、従来よりも短時間(最短15分〜1時間程度)で診断が可能となり、適切な治療選択がよりスムーズに行えるようになりました。
特に、重症化リスクのある方(小児・高齢者・持病のある方)や、学校・職場での集団感染が懸念されるケースでは、原因微生物を明確にすることが感染拡大防止と早期回復に直結します。症状が「風邪っぽい」で片付けられない時代だからこそ、科学的根拠に基づいた検査の重要性が高まっています。
当院では、「咳が長引く」「熱が数日続く」など、風邪の症状に不安を感じた方に対し、必要に応じてPCR検査をおすすめしています。
参考文献
- Rapid multiplex PCR for respiratory viruses reduces time to result and improves clinical care:
- Results of a systematic review and meta-analysis
Author links open overlay panelTristan W. Clark a b c, Kristina Lindsley d, Tara - . Wigmosta e, Anil Bhagat f, Rachael B. Hemmert e, Jennifer Uyei g, Tristan T. Timbrook e h
https://doi.org/10.1016/j.jinf.2023.03.005