病気と健康の話

【血糖値】筋肉は「第二の膵臓」だった ―内臓脂肪を減らし筋肉を増やすことが、糖尿病とがんを同時に遠ざける理由―

はじめに ― 「筋肉は運動するための器官」という誤解

健康診断の結果を前にして、「体重は変わっていないのに血糖値だけが上がってきた」「お腹まわりだけが年々せり出してくる」とお感じになったことはないでしょうか。あるいは、ダイエットに成功して体重計の数字は落ちたのに、以前より疲れやすく、少し食べただけで元に戻ってしまう——そうした経験をお持ちの方も少なくないと思います。これらは意志の弱さの問題ではありません。体重という一つの数字の裏側で、内臓脂肪と筋肉という二つの組織のバランスが静かに崩れていることのあらわれです。
多くの方は、筋肉を「体を動かすための器官」として理解しておられます。しかしこの理解は、現代の代謝生理学から見ると大きく不足しています。2026年8月にNature Metabolism誌に掲載された総説「The hallmarks of skeletal muscle health(骨格筋の健康のホールマーク)」は、骨格筋を「単なる運動の機械装置をはるかに超えた、全身代謝の中心的な調節器官であり、その分泌するメッセンジャーがほとんどすべての生理系に影響する内分泌臓器である」と明確に位置づけました(文献 1)。骨格筋は体重の約 40〜50%を占め、食後に取り込まれるブドウ糖の大部分を引き受けています。つまり筋肉は、膵臓が出すインスリンを受け取る側の「最大の受け皿」なのです。
一方で内臓脂肪は、単に余ったエネルギーを貯めておく倉庫ではありません。2026 年にNature Aging 誌に掲載された総説は、内臓脂肪が炎症性サイトカイン、エクソソーム、アディポカイン、脂肪毒性代謝物を放出し、代謝の悪化と老化の加速を媒介することを整理しています(文献 4)。そして 2025 年、英国ブリストル大学らのグループが Journal of the National Cancer Institute 誌に発表したメンデルランダム化解析は、脂肪が「どこに」ついているかが、がんのリスクを左右することを遺伝学的に示しました(文献3)。
本コラムでは、なぜ「内臓脂肪を下げ、筋肉量を増やす」ことが糖尿病予防とがん予防の両方にとって最も確実な戦略なのかを、ヨーロッパとアメリカの最新の権威ある研究を手がかりに、順を追って解き明かしていきます。

1. 筋肉は紛れもない代謝臓器である ― 食後の糖を引き受ける最大の受け皿

食事をすると血糖値が上がり、膵臓からインスリンが分泌されます。ではそのブドウ糖はどこへ行くのでしょうか。答えは、その大部分が骨格筋です。Nature Metabolism 2026の総説は、インスリン刺激下におけるブドウ糖の処理(glucose disposal)のうち、およそ80%を骨格筋が担っていると記しています(文献 1)。肥満のない人では、骨格筋は体重の 40〜50%を占め、食後の糖処理の大半を引き受けています。この事実だけでも、筋肉の代謝的健康が全身の恒常性に直結していることがわかります。
その仕組みの中心にあるのがGLUT4という糖輸送体です。インスリンが筋細胞の受容体に結合すると、IRS-1、PI3K、Akt、そして AS160(TBC1D4)を経由するシグナルが走り、細胞内に待機していたGLUT4が細胞膜と横行小管へ移動して、血中のブドウ糖を筋肉の中へ引き込みます。2025年にPhysiological Reviews誌に掲載されたリヒターらの包括的総説は、この経路の全体像を最新の知見で整理しています(文献10)。筋肉量が少なければ、そもそもGLUT4を並べる「面積」が足りません。筋肉が減るということは、糖の受け皿が物理的に小さくなるということなのです。
さらに重要なのは、筋肉が糖を取り込む経路はインスリンだけではないという点です。筋肉が収縮すると、Rac1、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ II(CaMKII)、AMP 活性化プロテインキナーゼ(AMPK)、活性酸素種などを介した、インスリンとは独立した経路でGLUT4が細胞膜へ移動します(文献1、文献10)。運動中は血中インスリンがむしろ低下するにもかかわらず筋肉の糖取り込みが急増するのは、このためです。インスリンの効きが悪くなった状態、すなわちインスリン抵抗性がある方でも、体を動かせば血糖が下がる理由がここにあります。
加えて筋肉は、600 種類を超えるシグナル分子——マイオカインと総称されます——を分泌する内分泌臓器でもあります(文献 1)。運動によって放出されるインターロイキン 6(IL-6)は肝臓の糖放出と脂肪分解を促し、イリシンは白色脂肪の褐色化を促し、FGF21 や β-アミノイソ酪酸は肝臓の脂質酸化を調節します。筋肉は脳、肝臓、膵臓、脂肪組織、骨、免疫系、そして腸内細菌叢とまで双方向に会話しているのです。「筋肉は代謝臓器である」という表現は、比喩ではなく、解剖学的にも生理学的にも正確な記述です。

2. 筋肉の健康は「量」だけでは測れない ― 7つのホールマークという新しい地図

Nature Metabolism 2026 の総説の最大の貢献は、これまで断片的だった骨格筋研究を、7つの相互依存的な「ホールマーク(基本的特徴)」として統合した点にあります(文献 1)。それは、①代謝と生体エネルギー、②プロテオスタシス(タンパク質の合成・折りたたみ・分解の均衡)、③ゲノミクス、④興奮性(神経筋接合部と興奮収縮連関)、⑤構造(筋線維の型とサルコメア、細胞外基質)、⑥再生(筋衛星細胞の機能)、⑦クロストーク(マイオカインを介した臓器間連携)の 7 つです。著者らは、どれか一つが崩れると、その障害が他の領域へ連鎖的に波及することを強調しています。
この枠組みが臨床的に重要なのは、「筋肉の健康=筋肉の量」という単純な等式を明確に否定しているからです。総説の中で紹介されている印象的な事実があります。ミオスタチン(GDF8)という筋成長の抑制因子を欠損したマウスは、筋肉量がおよそ2倍になります。ところが、その巨大な筋肉は最大張力の増加をもたらさず、単位断面積あたりの力(specific force)はむしろ著しく低下し、線維は速筋・解糖系優位へシフトし、酸化能力は減少していました(文献1)。量は増えたのに、質は落ちたのです。
実際、抗ミオスタチン抗体や活性型受容体阻害薬を用いたヒトの臨床試験でも、除脂肪体重は増えるものの、身体機能の意味ある改善には至らなかったことが繰り返し報告されています(文献 1)。総説はここから、「筋量、筋力、筋質の関係は未解決の問題である」と率直に述べ、臨床試験の評価項目を体組成だけでなく、筋力、疲労耐性、身体パフォーマンス、そして患者報告アウトカムまで含めた「エンドポイント・スタック」として設計すべきだと提言しています。
私たちが日常診療で目にする握力、歩行速度、椅子立ち上がりテスト、最大酸素摂取量(VO2max)といった指標が、全死亡や心血管疾患、代謝疾患、神経疾患の強い予測因子となることも、この文脈で理解できます(文献 1)。筋肉の健康とは、体重計や体組成計に表示される一つの数字ではなく、代謝的柔軟性、ミトコンドリアの質、毛細血管の密度、インスリン感受性、神経筋の連絡といった複数の層が積み重なった状態なのです。だからこそ、単に「痩せる」のではなく、「筋肉の質を保ちながら内臓脂肪を減らす」という視点が必要になります。

3. 内臓脂肪という「もう一つの臓器」 ― 脂肪は“どこに”つくかで意味が変わる

肥満の指標として長らく用いられてきた BMI(体格指数)には、決定的な弱点があります。それは、脂肪の「量」は反映しても「分布」を反映しないことです。2025 年、ランセット糖尿病・内分泌学誌に発表された国際委員会のコンセンサス(ルビーノらによる The Lancet Diabetes & Endocrinology Commission)は、この問題に正面から取り組み、肥満を「臨床的肥満(clinical obesity)」と「前臨床的肥満(preclinical obesity)」に区別する新しい診断枠組みを提唱しました(文献 7)。BMI という単一の数字ではなく、体脂肪の分布と、実際に臓器機能が障害されているかどうかで診断すべきだという提言です。国際的な肥満の定義そのものが、いま書き換えられつつあります。
なぜ分布が重要なのでしょうか。2026年のNature Aging誌の総説は、内臓脂肪(VAT)について、それ自体が本質的に有害なのではなく、「その病原性は文脈依存的であり、特定の条件下で立ち現れる」と述べています(文献 4)。その条件とは、脂質のスピルオーバー(脂肪細胞の貯蔵能力を超えた脂質の溢れ出し)、前駆脂肪細胞の分化障害、慢性炎症、遺伝的素因、ホルモン環境の変化、そして加齢です。脂肪組織が健全に拡張できなくなったとき、脂肪は肝臓、骨格筋、心臓、膵臓といった本来の貯蔵先ではない場所へ「異所性」に沈着し、そこで炎症性サイトカイン、エクソソーム、アディポカイン、脂肪毒性代謝物を放出して、代謝と老化の悪循環を駆動しはじめます。
重要なのは、この異所性脂肪の主要な沈着先の一つが、ほかならぬ骨格筋であるという事実です。筋肉内脂肪浸潤(myosteatosis)は、筋線維内および筋束間に脂質中間体を蓄積させ、インスリン受容体の下流シグナルを妨害します。Nature Metabolism 2026の総説も、インスリン抵抗性の機序として「インスリン受容体基質の活性化障害、脂質中間体の蓄積、免疫細胞浸潤、そして低グレードの慢性炎症」を挙げています(文献 1)。内臓脂肪が増えることと、筋肉の質が落ちることは、別々の現象ではなく、同じ病態の表と裏なのです。
この点は、腹囲やBMI だけでは捉えきれません。当院では腹部CTと超音波装置を備えており、内臓脂肪面積の定量や脂肪肝の評価を行うことができます。同じ腹囲でも、皮下脂肪が主体の方と内臓脂肪が主体の方では、意味するリスクがまったく異なります。「どこに脂肪がついているか」を可視化することは、漠然とした減量目標を、根拠のある具体的な目標へと変える第一歩になります。

4. 糖尿病予防 ― インスリン抵抗性は、まず筋肉から始まる

2 型糖尿病は、しばしば「膵臓の病気」として語られます。しかし時系列でみると、多くの場合、最初に異常が生じるのは膵臓ではなく骨格筋です。筋肉のインスリン感受性が低下すると、同じ血糖値を処理するためにより多くのインスリンが必要になり、代償性の高インスリン血症が起こります。この状態が続いた末に膵 β 細胞が疲弊し、はじめて血糖値が診断基準を超えてくる——これが典型的な経過です。Nature Metabolism 2026の総説も、「インスリン感受性の低下は高インスリン血症をもたらし、心血管代謝疾患と強く関連する」と明記しています(文献1)。
筋肉側で何が起きているのかも、かなり詳しく分かってきました。2 型糖尿病および加齢では、ミトコンドリアの酸化的リン酸化に関わる遺伝子群とPGC-1αの発現が低下し、ミトコンドリアの分裂・融合バランスの乱れとマイトファジー(傷んだミトコンドリアの選択的除去)の障害によって、機能不全のミトコンドリアが蓄積します(文献 1)。同時に、毛細血管の希薄化(capillary rarefaction)が起こり、インスリンとブドウ糖が筋線維の表面まで届きにくくなります。代謝的柔軟性——すなわち脂質と糖の間で燃料をすばやく切り替える能力——が失われていくのです。
逆に言えば、ここに介入の余地があります。総説は「運動は、代謝の三本柱すべてを改善する最も効果的な介入であり続けている」と結論しています(文献 1)。持久性トレーニングはミトコンドリア容積、クリステ密度、毛細血管化、インスリン感受性を高め、とりわけ毛細血管密度と毛細血管/線維比への効果が顕著です。レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)はインスリン依存性のブドウ糖取り込みを改善し、ミトコンドリア量とは独立してクリステのリモデリングを誘導し、血管新生を促します。単回の運動でも急性のインスリン感受性改善が得られ、継続すればGLUT4とヘキソキナーゼの発現増加、ミトコンドリア新生、毛細血管化として定着します(文献1、文献10)。
こうした基礎的知見は、臨床のガイドラインにもそのまま反映されています。米国糖尿病学会(ADA)のStandards of Care in Diabetes—2026 は、糖尿病予防の章において、高リスク者に対し初期体重の少なくとも 5〜7%の減量を目標とする糖尿病予防プログラムへの紹介を推奨しています(文献 9)。これは、生活習慣介入により 2 型糖尿病の発症が約 58%減少したDiabetes Prevention Program の結果を基礎とするものです。薬物療法ではなく、体組成を変える介入が、最も強い予防エビデンスを持っているという事実は、もっと知られてよいと思います。

5. 内臓脂肪はがんを呼び、筋肉はがんを遠ざける

肥満とがんの関連はこれまでも指摘されてきましたが、観察研究では「がんがあるから痩せた/太った」という逆因果や、生活習慣による交絡を排除しきれないという弱点がありました。この問題を克服する手法がメンデルランダム化解析です。遺伝的にどれくらい内臓脂肪がつきやすいかという「生まれつきの傾向」を用いることで、因果の向きをより確からしく推定できます。
2025 年、ヘイズルウッドらがJournal of the National Cancer Institute 誌に発表した解析は、脂肪の分布と 12 種類の肥満関連がんの関係を検討しました(文献 3)。結果は明快でした。遺伝的に予測される内臓脂肪(VAT)が 1 標準偏差増えるごとに、肝がんのリスクは約4.29 倍(95%信頼区間 1.41〜13.07)に上昇していました。肝臓の脂肪含量についても同様に、肝がんリスクが約4.09倍(95%信頼区間2.29〜7.28)と推定されています。腹部皮下脂肪は子宮体がん、肝がん、食道腺がんのリスク上昇と関連する一方で、大腿・臀部の脂肪はむしろ乳がんや髄膜腫に対して保護的でした。同じ「脂肪」でも、つく場所によってがんへの意味が正反対になるということです。
そのメカニズムは、内臓脂肪が単なる貯蔵庫ではないという事実から説明されます。内臓脂肪の増加は、レプチンをはじめとするアディポカインの上昇、慢性的な低グレード炎症、インスリンおよびIGF-1シグナルの亢進、性ホルモン代謝の変化をもたらし、これらはいずれも細胞増殖を促し、アポトーシス(細胞の自死)を抑制する方向に働きます(文献 3、文献 4)。実際、ヘイズルウッドらの解析でも、内臓脂肪の遺伝的増加はレプチン値の上昇と明瞭に関連していました。
では筋肉の側はどうでしょうか。ここで注目すべきが、2025年にNew England Journal of Medicine 誌に掲載された CHALLENGE 試験です(文献 2)。大腸がん(ステージ III または高リスクステージII)に対する術後補助化学療法を終えた889 名を、3 年間の構造化された運動プログラム群と健康教育のみの群に無作為に割り付けた第III相試験で、5年無病生存率は運動群80.3%、対照群73.9%、全生存のハザード比は0.63(95%信頼区間0.43〜0.94)でした。運動という「介入」が、がんの再発と死亡を減らすことを、無作為化比較試験という最も強い研究デザインで示した歴史的な結果です。
予防の側面でも、大規模コホートのエビデンスが蓄積しています。米国 NIH-AARP 研究の216,339 名を対象とした解析(International Journal of Epidemiology 2024)では、ウエイトトレーニングを行っている高齢者は、行っていない人に比べ全死亡のハザード比 0.94、心血管死0.92、そしてがん死 0.95 と、いずれも有意に低い値を示しました(文献 8)。さらに、この保護効果は有酸素運動と併用したときに最も大きく、有酸素運動をまったく行っていない人ではウエイトトレーニング単独の効果は小さいことも示されました。「筋トレか有酸素か」ではなく、「両方」が答えなのです。

6. GLP-1 時代の落とし穴 ― 「体重が減った」の中身を問う

GLP-1 受容体作動薬や GIP/GLP-1 デュアルアゴニストの登場によって、薬物による減量は劇的に効果的になりました。Nature Metabolism 2026の総説も、これらの薬剤が体重減少、筋肉内脂肪浸潤の減少、灌流の改善を通じてインスリン感受性を高めることを認めています(文献 1)。しかし同時に、総説は重要な留保を付けています。減量に伴う体組成の変化は、もともと筋肉量が十分にある人ではおおむね適応的であり、筋機能を不釣り合いに損なうものではないが、「すでに筋肉量が低い人では、機能的・代謝的な帰結がより大きくなりうる」という指摘です(文献1)。
この論点については、2026年にCell Reports Medicine誌に発表された研究が、マウスとヒトの双方のデータを用いて、GLP-1 薬による減量が筋量や筋機能の「不釣り合いな」喪失をもたらすわけではないことを示しています(文献 6)。つまり、GLP-1 薬そのものが筋肉を狙い撃ちして壊すわけではありません。減量に伴って除脂肪量が一定割合減るのは、外科的減量でも食事療法でも共通して観察される生理的な現象です。
とはいえ、臨床的に無視できない場面はあります。Nature Metabolism 2026の総説が特に警告しているのが、体重が減っては戻る「ウェイトサイクリング」です。減量と再増加を繰り返すと、除脂肪量が段階的に削られる一方で脂肪組織は増悪し、サルコペニア肥満(筋肉量が少なく脂肪が多い状態)のリスクが積み上がっていきます(文献1)。同じ体重、同じBMIでも、その中身が「筋肉が減って脂肪が増えた」構成に置き換わっていれば、代謝的にはむしろ悪化しているのです。
この課題に対する薬理学的な回答も現れはじめています。2026年にNature Medicine誌に発表された第 II 相試験では、活性型受容体を阻害する抗体ビマグルマブとセマグルチドの併用が検討されました(文献5)。セマグルチド単独では除脂肪量が7.4%減少したのに対し、併用群では 2.9%の減少にとどまり、体重減少の中身をより「脂肪主体」に変えられる可能性が示されています。ただし、Nature Metabolism 2026の総説が繰り返し指摘するように、除脂肪量が保たれることと、筋力や身体機能が保たれることは同じではありません(文献 1)。過去のミオスタチン阻害薬の試験が示したとおり、量の維持が必ずしも機能の維持を意味しない以上、薬剤に頼るだけの戦略には限界があります。
薬物療法を否定しているのではありません。GLP-1 受容体作動薬は、内臓脂肪を減らすうえで極めて有効な選択肢です。重要なのは、「薬で体重を落とす」あいだにこそ、十分なタンパク質摂取とレジスタンストレーニングによって筋肉の側を守る、という併走の発想です。当院では、GLP-1 関連薬の適応判断から体組成のモニタリング、運動療法の指導までを一貫して行っています。

7. 実践 ― 内臓脂肪を下げ、筋肉量を増やすために、今日から何をするか

第一に、レジスタンストレーニングを週2回以上、生活の中に固定することです。NIH-AARP研究では、ウエイトトレーニングを行う高齢者で全死亡・心血管死・がん死のいずれもが低下し、その効果は有酸素運動との併用時に最大化されました(文献 8)。特別なジムは必須ではありません。スクワット、椅子からの立ち上がり、腕立て伏せ(壁でも可)、ヒップリフトといった自重種目を、大きな筋肉——太もも、殿部、背中、胸——から順に、10〜15 回を 2〜3セット。翌日に軽い張りが残る程度の負荷が目安です。
第二に、有酸素運動を週150分以上。持久性トレーニングは、ミトコンドリア容積、クリステ密度、毛細血管化、インスリン感受性という代謝の三本柱すべてを改善します(文献 1)。早歩きで1回30分を週5日、あるいは通勤や買い物のなかで「息が少し弾む時間」を積み上げる形でも構いません。運動中はインスリンとは独立した経路で筋肉が糖を取り込むため、インスリン抵抗性のある方でも即座に血糖低下の恩恵が得られます(文献10)。
第三に、タンパク質を確保すること。Nature Metabolism 2026の総説は、栄養面の支援、とりわけタンパク質の摂取タイミングとロイシン濃度が、同化シグナルを支えプロテオスタシスの負荷を減らすことで、運動による適応をさらに増幅すると述べています(文献 1)。朝食のタンパク質が不足しがちな方が多いため、一日の総量だけでなく、3 食に分けて配分することを意識してください。腎機能に制限のある方は、必ず主治医とご相談ください。
第四に、減量目標は「体重の5〜7%」を一つの基準に据えること。ADAのStandards of Care in Diabetes—2026 は、糖尿病高リスク者に対し、初期体重の5〜7%減量を目標とする集中的生活習慣介入への紹介を推奨しています(文献 9)。この程度の減量でも、内臓脂肪と肝脂肪は体重減少率を上回る割合で減ることが知られています。急激な減量よりも、筋肉を保ちながらの緩やかな減量のほうが、長期的な結果は良好です。
第五に、評価を「体重」から「体組成と機能」へ切り替えること。ランセット委員会が示したように、BMI だけでは肥満の実態は捉えられません(文献 7)。腹囲、内臓脂肪面積、体脂肪率、そして握力や歩行速度といった機能指標を組み合わせて追跡することで、はじめて「良い減量」と「悪い減量」を区別できます。当院では CT・超音波による内臓脂肪と脂肪肝の評価、体組成測定、血液検査によるインスリン抵抗性の評価を組み合わせ、運動療法の指導まで一貫して行っています。

おわりに ― 二つの数字を、同時に動かす

糖尿病とがんは、まったく別の病気のように見えて、内臓脂肪の蓄積と筋肉の質の低下という共通の土壌の上に育ちます。内臓脂肪は炎症とインスリン抵抗性を通じて両者を近づけ、遺伝学的解析はそれが単なる相関ではなく因果である可能性を示しました(文献 3、文献 4)。一方の筋肉は、食後のブドウ糖の8割を引き受け、600種を超えるマイオカインで全身に指令を送る、紛れもない代謝臓器です(文献 1)。そして運動は、無作為化比較試験において、大腸がんの再発と死亡を実際に減らしました(文献2)。
だからこそ、目標は「体重を減らす」ではなく、「内臓脂肪を下げ、筋肉量と筋肉の質を上げる」でなければなりません。体重計の数字は、この二つの相反する変化を足し合わせて一つの数値に潰してしまうため、しばしば私たちの努力を見えなくします。測るべきものを測り、守るべきものを守る。それが、この 2026 年の科学が私たちに教えている最も実践的な結論です。
「運動したほうがよいのは分かっているが、何から始めればよいか分からない」「減量したいが、筋肉を落としたくない」「健診で内臓脂肪や脂肪肝を指摘された」——そうした段階でのご相談を、私たちはむしろ歓迎します。まんかいメディカルクリニックでは、CT・超音波による内臓脂肪と脂肪肝の評価、体組成と代謝機能の測定、GLP-1 関連薬を含む薬物療法の適応判断、そして運動療法の指導までを一貫してご提供しています。日曜・祝日も診療しておりますので、平日にお時間の取りにくい方もお気軽にお越しください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. BMI は正常範囲です。それでも内臓脂肪を気にする必要がありますか?

はい、必要があります。2025 年にランセット糖尿病・内分泌学誌に発表された国際委員会のコンセンサスは、BMI という単一の指標では肥満の実態を捉えられないとして、体脂肪の分布と臓器機能の障害の有無に基づいて「臨床的肥満」と「前臨床的肥満」を区別する新しい枠組みを提唱しました(文献 7)。BMI が正常でも内臓脂肪や肝脂肪が蓄積している方は珍しくなく、日本人を含むアジア系ではその傾向がより強いことが知られています。腹囲の増加、健診での脂肪肝の指摘、中性脂肪高値やHDLコレステロール低値、空腹時血糖の軽度上昇のいずれかがある方は、一度、腹部 CT や超音波による評価をご検討ください。

Q2. 筋トレと有酸素運動、どちらを優先すべきですか?

結論から申し上げると、両方を組み合わせるのが最善です。米国 NIH-AARP 研究(216,339名、International Journal of Epidemiology 2024)では、ウエイトトレーニングを行う人で全死亡ハザード比0.94、心血管死0.92、がん死0.95と、いずれも有意な低下がみられましたが、その効果は有酸素運動と併用したときに最も大きく、有酸素運動をまったく行っていない人ではウエイトトレーニング単独の効果は小さいことが示されました(文献8)。Nature Metabolism 2026 の総説も、持久性トレーニングは毛細血管化とミトコンドリア機能に、レジスタンストレーニングはインスリン依存性の糖取り込みと筋量に、それぞれ異なる経路で作用するため、併用が最も広範な効果をもたらすと述べています(文献1)。時間が限られている方は、週2回の筋トレを先に固定し、そのうえで日常の歩行時間を増やしていく順序をおすすめします。

Q3. GLP-1 受容体作動薬(オゼンピック、ウゴービなど)で痩せると筋肉も落ちますか?

「不釣り合いに」落ちるわけではありません。2026年にCell Reports Medicine 誌に掲載された研究は、マウスとヒトの双方のデータから、GLP-1 薬による減量が筋量や筋機能の不均衡な喪失をもたらすわけではないことを示しています(文献 6)。ただし、減量に伴い除脂肪量が一定割合減ること自体は事実で、もともと筋肉量が少ない方では機能的な影響が大きくなりうるとNature Metabolism 2026 の総説は警告しています(文献 1)。実際、2026年にNature Medicine 誌に報告された第II相試験では、セマグルチド単独で除脂肪量が 7.4%減少したのに対し、筋量を保つ抗体を併用した群では 2.9%の減少にとどまりました(文献 5)。薬物療法を行う期間こそ、タンパク質摂取とレジスタンストレーニングを併走させることが重要です。

Q4. 運動でがんを予防できるというのは、本当に確かなエビデンスがあるのですか?

予防と再発抑制を分けて考える必要がありますが、いずれも強いエビデンスがあります。再発抑制については、2025 年に New England Journal of Medicine 誌に掲載されたCHALLENGE 試験が決定的です。術後補助化学療法を終えた大腸がん患者889名を無作為に割り付けたこの第 III 相試験で、3 年間の構造化運動プログラム群は 5 年無病生存率80.3%(対照群 73.9%)、全生存のハザード比 0.63(95%信頼区間 0.43〜0.94)を達成しました(文献2)。予防については、NIH-AARP研究でウエイトトレーニング実施者のがん死ハザード比が 0.95 と有意に低いことが示されています(文献 8)。また、内臓脂肪の遺伝的増加が肝がんリスクを約4.29倍に高めるというメンデルランダム化解析の結果(文献3)は、内臓脂肪を減らすこと自体ががん予防的である可能性を裏づけています。

Q5. 高齢で持病もあります。今から筋肉を増やすことに意味はありますか?

十分に意味があります。NIH-AARP研究の対象は平均年齢69.9歳の高齢者であり、その集団でウエイトトレーニングによる死亡リスク低下が確認されています(文献 8)。Nature Metabolism 2026 の総説も、運動は7つのホールマークすべてに同時に働きかける唯一の介入であり、加齢に伴うミトコンドリア機能低下、毛細血管の希薄化、神経筋接合部の不安定化のいずれに対しても改善効果を持つと述べています(文献 1)。骨格筋には「マッスルメモリー」と呼ばれるエピジェネティックな記憶が備わっており、過去に鍛えた経験のある方は再開後の回復が速いことも知られています。ただし、心疾患、整形外科疾患、進行した腎機能障害などをお持ちの方は、運動の種類と強度を個別に調整する必要があります。当院では救急救命士が常駐し、医師の管理下で安全に運動療法を開始していただける体制を整えておりますので、まずはご相談ください。

参考文献

1. Vainshtein A, Blaauw B, De Bock K, Munoz-Canoves P, Olson EN, Ottenheijm CAC, Richter
 EA, Ruas JL, Schaffer L, Spiegelman B, Sandri M. The hallmarks of skeletal muscle
 health. Nat Metab. 2026 Aug 20. doi:10.1038/s42255-026-01595-9
2. Courneya KS, Vardy JL, O’Callaghan CJ, Gill S, Friedenreich CM, Wong RKS, et al;
 CHALLENGE Investigators. Structured exercise after adjuvant chemotherapy for colon
 cancer. N Engl J Med. 2025;393(1):13-25. doi:10.1056/NEJMoa2502760
3. Hazelwood E, et al. Adiposity distribution and risks of 12 obesity-related cancers: a
 Mendelian randomization analysis. J Natl Cancer Inst. 2025. doi:10.1093/jnci/djaf201
4. Maeyens LT, Nelson JF, Zhao S. Visceral adiposity, metabolic health and aging. Nat
 Aging. 2026;6:506-519. doi:10.1038/s43587-026-01076-4
5. Heymsfield SB, et al. Bimagrumab plus semaglutide alone or in combination for the
 treatment of obesity: a randomized phase 2 trial. Nat Med. 2026;32:869-882.
 doi:10.1038/s41591-026-04204-0
6. Langer HT, et al. Weight loss with GLP-1 medicines does not result in a
 disproportionate loss of muscle mass or function in obese mice and humans. Cell Rep
 Med. 2026;7(3):102665. doi:10.1016/j.xcrm.2026.102665
7. Rubino F, Cummings DE, Eckel RH, et al. Definition and diagnostic criteria of clinical
 obesity. Lancet Diabetes Endocrinol. 2025;13(3):221-262. doi:10.1016/S2213-
 8587(24)00316-4
8. Shailendra P, Baldock KL, Li LSK, Bennie JA, Boyle T. Weight training and risk of all-
 cause, cardiovascular disease and cancer mortality among older adults. Int J
 Epidemiol. 2024;53(3):dyae074. doi:10.1093/ije/dyae074
9. American Diabetes Association Professional Practice Committee. 3. Prevention or delay
 of diabetes and associated comorbidities: Standards of Care in Diabetes—2026.
 Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S50-S60. doi:10.2337/dc26-S003
10. Richter EA, Bilan PJ, Klip A. A comprehensive view of muscle glucose uptake:
 regulation by insulin, contractile activity, and exercise. Physiol Rev.
 2025;105(3):1867-1945. doi:10.1152/physrev.00033.2024

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

お知らせ一覧へ戻る