病気と健康の話

【腰痛】本当に腰の痛みですか?〜見逃されがちな「腰椎以外の原因」と、緊急度の判断〜

■腰痛は、本当に腰の痛みですか?

「先生、腰が痛くて…」——この訴えは日常の外来で最もよく聞かれる言葉のひとつです。ところが、2026年3月に医学界最高峰の国際誌『BMJ』に掲載された最新の論文(Oliveira CB et al., BMJ 2026;392:s353)は、「腰痛」として診察室に来る患者さんの中に、意外なほど多くの割合で腰椎(背骨)とはまったく関係のない疾患が潜んでいることを指摘し、世界中の医師に警鐘を鳴らしました。

腰痛の「3分類」とその盲点

これまでの腰痛ガイドラインは、過去30年以上にわたり、患者さんの腰痛を主に次の3つに分類してきました。

① 非特異的腰痛(原因が特定できないもの)
② 神経根症候群(坐骨神経痛など、神経が圧迫されるもの)
③ 重篤な脊椎疾患(がん・骨折・感染症など)

この3分類は長年の「標準」として世界中で採用されてきましたが、BMJの論文は「重大な欠陥がある」と断言しています。その最大の問題は、腰椎以外の臓器・組織の病気が原因で起こる腰痛——すなわち「非脊椎性腰痛(non-spine causes)」——というカテゴリーが、ほとんどのガイドラインで明記されていないことです。2018年以降に発表された世界の腰痛ガイドライン28件を調査したところ、非脊椎性疾患を独立したカテゴリーとして明示していたのはわずか8件(約29%)にとどまりました。

「腰が痛い」≠「腰の病気」——衝撃の実態データ

これは単なる学術的な議論ではありません。実臨床のデータがその深刻さを物語っています。

オーストラリアの救急病院での観察研究では、「腰痛」を主訴に来院した患者の21〜58%が、最終的に腰椎とは無関係の疾患と診断されました。さらにイギリスNHSの大規模分析では、1年間に腰痛で救急受診した3,872名のうち834名(約22%)が非脊椎性疾患であることが判明しました。

つまり、腰痛で受診する患者のおよそ5人に1人(救急では場合によっては2人に1人)は、「腰の病気」ではなかったということです。

腰痛の原因となりうる「腰椎以外」の疾患

では、腰椎以外の何が原因で腰痛を引き起こすのでしょうか。BMJの論文や関連研究が指摘する代表例を挙げます。

泌尿器・腎臓系急性腎盂腎炎(腎臓の感染症)、尿路結石、水腎症。これらは背部・腰部への放散痛を生じやすく、腰痛との鑑別が重要です。特に急性腎盂腎炎は、治療が遅れると敗血症に移行する危険があり、早急な診断と治療が必要です。
消化器系消化管出血、急性膵炎、後腹膜疾患。膵臓は背部に近い位置にあるため、膵炎では腰から背中にかけての強い痛みが生じます。
血管系腹部大動脈瘤(AAA)の切迫破裂は、腰痛・腹痛として発症し、緊急手術が必要な致死的疾患です。高齢男性・喫煙者では特に注意が必要です。
整形外科(股関節)股関節変形性関節症(股関節の軟骨がすり減る病気)は、鼠径部だけでなく腰部・臀部にも痛みが放散することがあります。「hip-spine syndrome(股関節・脊椎症候群)」として近年注目されており、腰椎の治療をいくら続けても改善しない腰痛の一因となっています。
婦人科系(女性の場合)子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣嚢腫なども腰痛として感じることがあります。

「赤旗(red flags)」の正しい解釈——緊急度の判断

腰痛の診察では、重篤な疾患を示唆する警戒サインを「赤旗(red flags)」と呼びます。発熱、体重減少、悪性腫瘍の既往、安静時痛、夜間痛、神経脱落症状(下肢の麻痺・膀胱直腸障害)などが代表的です。
しかし同論文は「赤旗の解釈は、医療現場によって大きく異なる」という重要な点を強調しています。

脊椎骨折の有病率を例にとると:

プライマリケア(一般診療所)約0.7%
救急外来約4%
入院患者約14%

つまり、同じ「50歳以上で夜間痛あり」という患者さんでも、かかりつけ医の外来での意味と、救急病院での意味は全く異なります。また、単一の赤旗よりも複数の赤旗が重なっている場合に、重篤疾患の可能性が大幅に高まることも示されています(Cochrane Database Syst Rev,2023)。

さらに同論文は、「緊急度」という視点の欠如も指摘しています。たとえば硬膜外膿瘍や馬尾症候群は時間との勝負ですが、体軸性脊椎関節炎は緊急性が低い。同様に、非脊椎性疾患でも急性腎盂腎炎は緊急対応が必要ですが、肋骨骨折や胃腸炎は必ずしもそうではありません。このような「緊急度の差」を明確にしたガイドラインが必要と訴えています。

まんかいメディカルクリニックからのメッセージ

当院では、腰痛を訴えて来院されるすべての患者さんに対して、「腰椎以外の病気が隠れていないか」という視点を常に持ちながら診察を行っています。必要に応じて腹部超音波検査(当院は認定超音波検査士が在籍)、尿検査、血液検査、CTスキャン(院内完備)などを組み合わせ、単なる「腰の痛み」として見過ごされがちな疾患を早期に発見・対応します。腰痛が続いている方、他院で「異常なし」と言われた方も、ぜひお気軽にご相談ください。

■関連する最新エビデンス(欧米の権威ある論文9件の要約)

以下に、腰痛の診断分類・赤旗・非脊椎性疾患に関する欧米の権威ある最新論文9件を簡潔に要約します。

論文① Downie A et al. BMJ 2013;347:f7095

赤旗と悪性腫瘍・骨折スクリーニング:系統的レビュー

プライマリケアを受診した腰痛患者における悪性腫瘍の有病率は0.7%未満、脊椎骨折は1〜4%と非常に低い。単一の赤旗は診断精度が低く、「がんの既往」のみが悪性腫瘍の有用なスクリーニング指標として支持された。複数の赤旗の組み合わせによる診断精度の向上が今後の課題とされた。

論文② Verhagen AP et al. Eur Spine J 2016;25(9):2788-802

赤旗の悪性腫瘍診断精度:系統的レビュー(ロッテルダム大学 Erasmus MC)

欧州・米国を含む16か国のガイドライン13種の赤旗を評価。ガイドライン間で推奨される赤旗に大きなばらつきがあり、その多くは診断精度を支持するエビデンスが不足していた。単独の赤旗による悪性腫瘍スクリーニングには限界があり、臨床推論との組み合わせが不可欠と結論づけた。

論文③ Oliveira CB et al. Eur Spine J 2018;27:2791-803

プライマリケアにおける非特異的腰痛ガイドライン:国際的概観(シドニー大学・欧州各国)

2008〜2017年に発行された15か国15件のガイドラインをレビュー。腰痛の診断分類・治療勧告に国際的に高い一致が見られる一方、非脊椎性疾患カテゴリーの明示は依然として少数派にとどまることが示された。エビデンスに基づく診断トリアージの国際標準化を提唱した。

論文④ Shaw B et al. Eur Spine J 2020;29:1870-8

救急外来における腰痛患者の赤旗と重篤病理:観察研究(英国)

英国の救急外来で腰痛を訴えた1,000名を分析。筋骨格系80.6%、重篤な脊椎疾患3.3%、重篤な非脊椎性疾患14.6%と分類された。赤旗の69%に該当者がいたが、多くが偽陽性であり、単独赤旗は重篤疾患の予測に有用でないことが示された。

論文⑤ Han CS et al. Cochrane Database Syst Rev 2023;8:CD014461

腰痛患者における脊椎骨折スクリーニング赤旗:Cochraneレビュー

腰痛患者での脊椎骨折を検出するための赤旗について系統的に評価。「重大外傷の既往」「ステロイド長期使用」「高齢(65歳以上)」が有用な指標とされた。単一赤旗よりも複数赤旗の組み合わせが陽性尤度比を高めることを確認し、臨床的意思決定への組み込みが推奨された。

論文⑥ Ferreira ML et al. Lancet Rheumatol 2023;5(6):e316-e329

腰痛の世界的負担:GBD 2021研究(ランセット)

腰痛は世界の障害原因の第1位を維持しており、2020年時点で6億1,900万人が罹患。2050年には8億4,300万人に達すると予測された。高・中所得国だけでなく低所得国でも急増しており、診断精度向上と早期鑑別の重要性が国際的な公衆衛生課題として改めて強調された。

論文⑦ Castagnini F et al. (WFNS Spine Committee) Neurospine 2024;21(1):113-24

急性腰痛の臨床的・放射線学的診断:世界脳神経外科連合コンセンサスステートメント

2012〜2022年の文献97報をDelphi法で検討し、10項目のコンセンサスを策定。赤旗(50歳以上、発熱、悪性腫瘍既往、神経脱落症状など)の有無による画像診断の必要性を明示。赤旗がなければ初診時の画像検査は原則不要であり、非脊椎性疾患の鑑別を含む詳細な病歴聴取と神経学的診察の重要性が強調された。

論文⑧ Zhou T et al. BMC Musculoskelet Disord 2024;25(1):344

腰痛ガイドラインのグローバル比較:インペリアル・カレッジ・ロンドン

近年発表された腰痛ガイドラインを国際的に比較した結果、非特異的腰痛の過剰診断と、非脊椎性疾患の系統的な見落としが共通の課題として浮上した。設定(プライマリケア/救急外来/入院)ごとに異なるガイダンスが必要であるとの勧告が、複数のガイドラインで共通して示された。

論文⑨ Shah AA et al. Am Fam Physician 2025;112(5):526-536

急性腰痛の診断と治療:米国家庭医学会(AAFP)最新レビュー

急性腰痛は「特異的原因(脊椎由来・全身疾患・他臓器からの放散痛)」と「非特異的原因」に大別される。画像検査は赤旗がない場合には原則不要で、活動性の維持・温熱療法・非薬物療法が第一選択とされる。他臓器由来の放散痛(尿路系・消化器系・血管系など)のスクリーニングが重要であると改めて強調されている。

■よくある質問(FAQ)

Q1. 「腰が痛いだけだから、内科には行かなくてよい」と思っていました。受診すべきですか?

エビデンスに基づく回答

BMJ(2026)の研究をはじめ、英国NHSの大規模調査では、腰痛で来院した患者の22〜58%が腰椎以外の疾患(腎臓・泌尿器・消化器・血管系など)と診断されています。「腰が痛い」という症状は、必ずしも整形外科的な病気を意味しません。特に発熱・頻尿・血尿・食欲低下・体重減少を伴う場合や、休んでも楽にならない腰痛、夜間に悪化する腰痛は、内科的疾患の可能性があります。腰痛が2週間以上続く場合は、内科的な鑑別診断を含む診察を受けることをお勧めします。

Q2. 整形外科で「異常なし」と言われても、まだ腰が痛い場合はどうしたらよいですか?

エビデンスに基づく回答

整形外科の画像検査(レントゲン・MRIなど)は、腰椎・椎間板・神経の異常を評価するものです。しかし前述の研究が示すように、腰痛患者の一定割合では、腎臓・尿管・消化管・血管・股関節などに原因があります。これらは整形外科的検査では発見できません。「整形外科的に異常なし」でも腰痛が続く場合、腹部超音波検査・尿検査・血液検査(炎症マーカー・腎機能・膵酵素など)による内科的評価が有益です。当院では院内超音波検査士・CTを活用し、腰椎以外の原因検索にも対応しています。

Q3. 「赤旗(危険なサイン)」とは何ですか?どのようなときに急いで受診すべきですか?

エビデンスに基づく回答

「赤旗(red flags)」とは、重篤な疾患の可能性を示す警戒症状のことです。世界脳神経外科連合(WFNS, 2024)のコンセンサスステートメントや複数のコクランレビュー(2023)に基づくと、以下の症状がある場合は早急な医療機関受診が必要です。

  • 38℃以上の発熱を伴う腰痛
  • 下肢の麻痺・感覚障害・排尿障害・排便障害(馬尾症候群の疑い)
  • がんの既往がある方の新たな腰痛
  • 安静にしても改善しない激しい腰痛、夜間痛
  • 原因不明の体重減少(6か月で5kg以上)
  • 重大な外傷の後に発症した腰痛

ただし、単独の赤旗は偽陽性も多く、複数の赤旗が重なることで重篤疾患の可能性が高まります(Han CS et al., Cochrane 2023)。自己判断せず、医師に相談することが重要です。

Q4. 股関節が原因で腰が痛くなることはありますか?

エビデンスに基づく回答

はい、あります。これは「Hip-Spine Syndrome(股関節・脊椎症候群)」と呼ばれ、股関節変形性関節症が腰部・臀部への放散痛を引き起こすことが知られています。BMJ(2026)の論文においても、股関節変形性関節症は腰椎以外の腰痛原因として明示的に挙げられています。また、ドイツの実世界データ研究(Hradetzky E et al., J Public Health 2022)では、股関節または膝関節の変形性関節症と慢性腰痛を併存する患者が多数存在することが確認されています。腰痛が股関節・鼠径部・臀部に広がる場合や、歩行・起立時に痛みが増強する場合は、股関節疾患との鑑別が必要です。当院では整形外科的診察と超音波検査を組み合わせて評価します。

Q5. 腰痛のMRI・レントゲンはすぐ撮ったほうがよいですか?

エビデンスに基づく回答

複数の国際ガイドラインおよびWFNSの2024年コンセンサスステートメントは、「赤旗がない急性腰痛に対する初診時の画像検査は、原則として不要」と明言しています。理由のひとつは、腰椎のMRIで見られる椎間板膨隆・変性などの所見は、痛みのない人にも高頻度(50歳以上では約80%以上)に存在するため、痛みの原因とは限らないからです。むしろ、赤旗のない腰痛に対して過剰に画像検査を行うことは、偶発所見による不必要な追加検査や患者不安につながるリスクがあります。一方、赤旗がある場合や6週間治療しても改善しない場合は、MRIが第一選択の画像検査です(WFNS 2024)。腰痛の重症度・経過・赤旗の有無に応じて、医師が適切な画像検査の必要性を判断します。

参考文献

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  2. Downie A, Williams CM, Henschke N, et al. Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review. BMJ. 2013;347:f7095. doi: 10.1136/bmj.f7095
  3. Verhagen AP, Downie A, Popal N, Maher C, Koes BW. Red flags presented in current low back pain guidelines: a review. Eur Spine J. 2016;25(9):2788-802. doi: 10.1007/s00586-016-4684-0
  4. Oliveira CB, Maher CG, Pinto RZ, et al. Clinical practice guidelines for the management of non-specific low back pain in primary care: an updated overview. Eur Spine J. 2018;27(11):2791-803. doi:10.1007/s00586-018-5673-2
  5. Shaw B, Kinsella R, Henschke N, Walby A, Cowan S. Back pain “red flags”: which are most predictive of serious pathology in the Emergency Department? Eur Spine J. 2020;29:1870-8. doi: 10.1007/s00586-020-06452-1
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  7. Ferreira ML, de Luca K, Haile LM, et al. Global, regional, and national burden of low back pain, 1990-2020, its attributable risk factors, and projections to 2050: a systematic analysis of the Global Burden of Disease Study 2021. Lancet Rheumatol. 2023;5(6):e316-e329. doi: 10.1016/S2665-9913(23)00098-X
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※ 本コラムはエビデンスに基づく医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を代替するものではありません。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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