病気と健康の話

【脂質異常症】脂質代謝と免疫の深い関係: 炎症・老化・生活習慣病をつなぐ最新エビデンス

■私たちの体を守る「脂質」の意外な力

「脂質」と聞くと、多くの方が「太る原因」「健康の敵」といったネガティブなイメージを持たれるかもしれません。しかし、最新の医学研究により、脂質は私たちの免疫システムにとって不可欠な存在であることが明らかになってきました。

2026年に発表された国際的な医学雑誌『Signal Transduction and Targeted Therapy』の包括的レビューによれば、脂質代謝は免疫細胞の機能維持に必須であり、その異常はがん、自己免疫疾患、糖尿病など様々な疾患と関連しています(Li et al., 2026)。免疫細胞であるマクロファージ、T細胞、B細胞、好中球などは、脂質代謝に強く依存しており、これが正常に機能することで私たちの体は病原体や異常細胞から守られているのです。

腸内細菌が作る「短鎖脂肪酸」の驚くべき働き

食物繊維を摂取すると、腸内細菌がそれを発酵させて「短鎖脂肪酸(SCFA)」という物質を作り出します。代表的なものに酢酸、プロピオン酸、酪酸があります。これらの短鎖脂肪酸は単なる代謝産物ではなく、免疫システムの重要な調整役として機能しています。

2025年の研究では、短鎖脂肪酸が制御性T細胞(Treg)と呼ばれる免疫の暴走を抑える細胞を増やし、逆に炎症を引き起こすTh17細胞を減らすことが明らかになりました(Cui et al., 2025)。これは、関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症などの自己免疫疾患の治療に新たな可能性を開くものです。実際、酪酸は炎症性腸疾患の患者さんにおいて、好中球の過剰な活性化を抑え、腸の炎症を軽減することが確認されています。

オメガ3脂肪酸:天然の抗炎症薬

青魚に豊富に含まれるオメガ3脂肪酸(EPA、DHA)は、「天然の抗炎症薬」として注目を集めています。2025年に発表された最新の栄養学研究では、オメガ3脂肪酸が免疫細胞の膜に組み込まれ、細胞の機能を根本的に変化させることが示されました(Bodur et al., 2025)。

具体的には、オメガ3脂肪酸は炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の産生を抑制し、NF-κBという炎症に関わる重要な転写因子の活性化を阻害します。さらに、「炎症を終わらせる」働きを持つレゾルビンやプロテクチンといった特殊な脂質メディエーターの前駆体となります。

2024年の大規模研究では、オメガ3とオメガ6の摂取が全身性免疫炎症指数(SII)、好中球リンパ球比(NLR)、白血球数などの炎症マーカーと負の相関を示し、適切な摂取が全身の炎症状態を改善することが43,155人の成人データから確認されました(Frontiers in Nutrition, 2024)。

■がん治療における脂質代謝の新発見

がん細胞と免疫の関係において、脂質代謝が重要な役割を果たすことが次々と明らかになっています。2024年にNature誌に発表された画期的な研究では、がん細胞が「グリコスフィンゴリピド」という特殊な脂質を利用して免疫システムから身を隠していることが判明しました(Nature, 2024)。

この発見により、既存のゴーシェ病治療薬を用いてがん細胞の脂質代謝を阻害することで、免疫細胞ががん細胞を認識しやすくなり、腫瘍の増殖が抑制されることが示されました。これは膵臓がん、肺がん、大腸がんモデルで確認されています。

また、2025年の研究では、がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬など)の効果を高めるために脂質代謝を調整する新しい治療戦略が提案されています(Ping et al., 2025)。腫瘍微小環境において、腫瘍関連マクロファージが脂肪酸酸化に依存していることから、これを標的とすることでT細胞の浸潤を促進し、抗腫瘍免疫を強化できる可能性があります。

■コレステロールと免疫:善玉と悪玉を超えた複雑な関係

コレステロールは「善玉」「悪玉」という単純な二分法では語れない、免疫システムにとって極めて重要な物質です。コレステロールの過剰蓄積はマクロファージにおいてNLRP3インフラマソームを活性化し、IL-1βの分泌を促進することで炎症を増強します。これが動脈硬化の進行に関与しています。

一方で、コレステロール由来の代謝物である7α,25-ジヒドロキシコレステロールは、活性化したCD4+T細胞の移動を助け、濾胞ヘルパーT細胞(Tfh)の蓄積を促進することで、抗体産生という重要な免疫機能を支えています(Li et al., 2026)。

神経系における脂質と免疫の対話

脳は体内で最もコレステロールが豊富な臓器であり、そのほとんどがミエリン鞘、アストロサイト、神経細胞膜に存在します。2025年のJournal of Experimental Medicine誌の研究では、脳内の脂質代謝異常が神経炎症を引き起こし、多発性硬化症やアルツハイマー病などの神経変性疾患の進行に関与することが示されました(JEM, 2025)。

ミクログリア(脳の免疫細胞)における脂質の蓄積は、炎症性表現型を促進し、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を阻害することで、神経の再ミエリン化を妨げます。これが慢性活動性多発性硬化症病変の特徴である、活性化ミクログリアのリムで囲まれた脱髄コアの形成につながります。

代謝性疾患と脂質:肝臓を守るカギ

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/MASLD)は世界人口の約25%に影響を与える現代病です。2025年の研究では、腸内細菌が産生する二次胆汁酸が肝臓の免疫代謝に重要な役割を果たすことが明らかになりました(Cell Metabolism, 2025)。

特に、ヒオデオキシコール酸(HDCA)は肝臓でのPPARα依存的な脂肪酸酸化を活性化し、NAFLDを改善することが動物実験で確認されています。また、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)は炎症反応を調節し、腸管バリア機能を維持し、肝臓の糖・脂質代謝を調整することでMAFLD治療の可能性を示しています。

自己免疫疾患における脂質代謝の標的化

自己免疫疾患は免疫システムが自分の体を攻撃してしまう病態ですが、2025年の包括的レビューでは、脂質代謝の異常がこれらの疾患の発症と進行に深く関与していることが示されました(Cui et al., 2025)。

多発性硬化症では、ミクログリア、T細胞、B細胞における脂肪酸酸化の異常と、オリゴデンドロサイトでのコレステロール合成障害が神経の脱髄に寄与しています。乾癬では、ケラチノサイト、Th17細胞、マクロファージにおけるアラキドン酸代謝の異常とオメガ3多価不飽和脂肪酸の減少が、皮膚病変形成を促進します。

■臨床応用への展望:個別化医療の実現に向けて

これらの基礎研究の成果は、すでに臨床応用への道を歩み始めています。スタチン(コレステロール合成阻害薬)、PPARγアゴニスト(ピオグリタゾンなど)、オメガ3脂肪酸サプリメント、可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH)阻害薬など、脂質代謝を標的とした様々な治療戦略が開発・検証されています。

特に注目されるのは「免疫代謝正常化」という新しい治療概念です。これは単に免疫を抑制するのではなく、過剰に活性化した脂質代謝経路を生理的レベルに調整することで、生体防御機能を保ちながら炎症を制御しようとするものです(Cui et al., 2025)。

■まとめ:バランスの取れた脂質摂取が健康のカギ

最新の研究から明らかになったのは、脂質と免疫の関係が単純な「善か悪か」ではなく、種類、量、バランスによって大きく異なるということです。

私たちができる具体的な対策として:

  • 食物繊維を豊富に含む野菜・果物・全粒穀物を積極的に摂取し、腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生を促進する
  • 青魚(サバ、イワシ、サンマなど)を週2-3回摂取し、オメガ3脂肪酸を確保する
  • オメガ6脂肪酸(植物油)とオメガ3のバランス(理想的には4:1程度)に注意する
  • 過剰なコレステロール摂取を避けつつ、極端な制限もしない

これらの科学的知見を日常生活に取り入れることで、免疫システムを最適な状態に保ち、様々な疾患のリスクを減らすことができます。ただし、既存の疾患がある方や薬を服用中の方は、食事内容の大きな変更を行う前に必ず医師にご相談ください。

■FAQ(よくある質問)

Q1: オメガ3脂肪酸のサプリメントは誰でも飲んでいいのでしょうか?

オメガ3脂肪酸サプリメントは一般的に安全ですが、過剰摂取は免疫機能の一部を抑制し、感染症への感受性を高める可能性があることが報告されています(Clinical Nutrition Research, 2025)。また、魚アレルギーの方はアレルギー反応を起こす可能性があります。抗凝固薬(ワーファリンなど)を服用している方は出血リスクが高まる可能性があるため、必ず医師に相談してください。一般的な推奨量はEPA+DHAで1日1-3g程度ですが、個人の健康状態により異なります。

Q2: 短鎖脂肪酸を増やすにはどうすればいいですか?

短鎖脂肪酸は腸内細菌が食物繊維を発酵させることで産生されます。したがって、水溶性食物繊維を豊富に含む食品を摂取することが重要です。具体的には、全粒穀物(玄米、オートミール)、豆類、野菜(ブロッコリー、キャベツ、ニンジン)、果物(りんご、バナナ、ベリー類)、海藻類などです。研究によれば、食物繊維の摂取が増えると腸内での短鎖脂肪酸レベルが上昇し、炎症マーカーが低下することが確認されています(Li et al., 2026)。1日25-30gの食物繊維摂取が推奨されています。

Q3: コレステロールは結局、体に良いのですか悪いのですか?

コレステロールは量とバランスが重要です。コレステロールは細胞膜の構成成分として不可欠であり、ホルモン合成やビタミンD産生にも必要です。しかし、血中LDLコレステロールが過剰になると、マクロファージでの酸化LDLの蓄積が起こり、NLRP3インフラマソームを活性化してIL-1β分泌を促進し、動脈硬化を進行させます(Li et al., 2026)。一方、HDLコレステロールはコレステロールを回収し、抗炎症作用を持ちます。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、LDLコレステロールを120mg/dL未満(冠動脈疾患のある方は100mg/dL未満)に保つことが推奨されています。

Q4: 脂質代謝異常はがんのリスクを高めますか?

はい、複数の研究で脂質代謝異常とがんリスクの関連が示されています。2024年のNature誌の研究では、がん細胞がグリコスフィンゴリピドという特殊な脂質を利用して免疫システムから逃れていることが明らかになりました(Nature, 2024)。また、腫瘍微小環境では、腫瘍関連マクロファージが脂肪酸酸化に依存しており、これが免疫抑制環境を作り出しています(Liu et al., 2025)。さらに、肥満による脂質代謝異常は、CD8+T細胞の脂肪酸酸化を増加させ、抗腫瘍効果を減弱させることが報告されています。適切な体重管理と脂質バランスの維持ががん予防に重要です。

Q5: 自己免疫疾患の治療に脂質代謝を標的とすることはできますか?

現在、多くの研究が進行中で、一部はすでに臨床応用されています。例えば、多発性硬化症の治療薬フィンゴリモド(FTY720)はスフィンゴシン1-リン酸受容体調節薬で、T細胞とB細胞の中枢神経系への移動を抑制します(Li et al., 2026)。また、関節リウマチでは、オメガ3脂肪酸の補給が疾患活動性を有意に減少させることが報告されています(European Review, 2023)。2025年の研究では、「免疫代謝正常化」という新しい概念が提唱され、過剰活性化した脂質代謝経路を生理的レベルに調整することで、生体防御を保ちながら炎症を制御する戦略が検討されています(Cui et al., 2025)。ただし、これらは医師の管理下で行うべき治療法です。

参考文献

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記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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