病気と健康の話

【脂質異常症】「悪玉」「善玉」ならなんとなく。でも、non-HDL って?―健診表の non-HDL コレステロールが語る、30 年後の脳と心臓―

はじめに ― 見過ごしがちな、健診結果の一行

健康診断の結果票を受け取ったとき、脂質に関して多くの方が最初に目を走らせるのは「LDL コレステロール(悪玉)」と「HDL コレステロール(善玉)」の欄ではないでしょうか。
悪玉は低いほうがよく、善玉は高いほうがよい ― そこまではなんとなくご存じの方が多いと思います。ところが近年、その二つの少し下、あるいは中性脂肪の隣に、見慣れない項目が並ぶようになりました。「non-HDL コレステロール」です。
「善玉、じゃないほう、という意味?」「LDL と何が違うの?」結論から申し上げると、nonHDL コレステロールは「LDL の代わりの、少し大ざっぱな数字」ではありません。むしろ、コレステロールを取りこぼしなく合計した、より完成度の高い指標です。そしてこの数字は、あなたの 10 年後ではなく、30 年後の心臓と脳の運命を、LDL 以上に雄弁に語ります。
その根拠は、ヨーロッパ・北米・オーストラリアの 19 か国 38 コホート、39 万 8846 人を最長 43.6 年間追跡した Multinational Cardiovascular Risk Consortium の解析です(BrunnerFJ, Waldeyer C, Ojeda F, et al. Lancet. 2019;394:2173-2183)。さらに 2026 年 3 月には、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)が 8 年ぶりに脂質異常症のガイドラインを全面改訂し、いったん背景に退いていた non-HDL コレステロールの管理目標値を正式に復活させました(Blumenthal RS, Morris PB, et al. Circulation. 2026)。
本コラムでは、non-HDL コレステロールとは何か、なぜ LDL だけでは足りないのか、どこからが「高い」のか、何が数値を押し上げるのか、そして下げるとどれだけ得をするのかを、最新の欧米エビデンスに沿って順を追って解説します。なお、原著論文では mmol/L という単位が使われていますが、本コラムでは日本の健診結果と同じ mg/dL に換算して統一しました(1 mmol/L ≒ 38.67 mg/dL)。

1.non-HDL コレステロールとは何か ― たった一度の引き算で見える
「悪玉の総量」

non-HDLコレステロールの定義は、拍子抜けするほど単純です。総コレステロールから、HDLコレステロール(善玉)を引く。それだけです。総コレステロール 220 mg/dL、HDL コレステロール 60 mg/dL の方であれば、non-HDL コレステロールは 160 mg/dL となります。健診結果に記載がなくても、ご自身の結果票の二つの数字から今この場で計算できます。
なぜこの引き算に意味があるのか。血液中のコレステロールを運ぶ粒子(リポ蛋白)は、大きく二つの陣営に分かれます。一方は、コレステロールを血管壁へ置き去りにして動脈硬化を進める「アポリポ蛋白 B(apoB)を持つ粒子」の陣営 ― LDL はその代表ですが、仲間には超低比重リポ蛋白(VLDL)、その代謝途中で生じるレムナント(残り物)リポ蛋白、中間比重リポ蛋白(IDL)、そしてリポ蛋白(a)〔Lp(a)〕が含まれます。もう一方は、余分なコレステロールを血管壁から回収して肝臓に戻す HDL の陣営です。
つまり総コレステロールから HDL を引くという操作は、「回収役を除いた、動脈硬化を起こしうる粒子すべてが運んでいるコレステロールの合計」を取り出す作業にほかなりません。
米国脂質学会(National Lipid Association)の2024年のエキスパートコンセンサスも、nonHDL コレステロールを apoB 粒子の総量を反映する実用的な代替指標と位置づけています(Remaley AT, Kirkpatrick CM, Ballantyne CM, et al. J Clin Lipidol. 2024;18:e647-
e663)。特別な採血も追加費用も不要で、既存の健診項目の引き算だけで得られる ― これがこの指標の最大の美点です。

2.中性脂肪が高い人ほど、LDL は嘘をつく

ここで、多くの方が抱く当然の疑問にお答えします。「LDL さえ見ていれば十分ではないのか」。答えは「多くの人ではおおむね十分だが、決して少なくない人では不十分」です。理由は二つあります。                               第一に、日本を含む多くの健診では、LDL コレステロールは直接測定ではなく Friedewald 式という計算式で推定されています。この式は中性脂肪(トリグリセライド)が高いと LDL を実際より低く見積もる性質があり、中性脂肪が 400 mg/dL を超えると計算そのものが成立しません。米国ジョンズ・ホプキンス大学のグループは、この推定誤差が治療方針の誤りにつながりうることを大規模データで示しています。一方 non-HDL コレステロールは総コレステロールと HDL の実測値の引き算なので、中性脂肪の影響を受けず、しかも食後採血でも比較的安定しています。
第二に、より本質的な理由として、LDL 値はレムナントリポ蛋白の運ぶコレステロールを勘定に入れていません。中性脂肪が高い方、肥満・脂肪肝・糖尿病・メタボリック症候群のある方では、このレムナントが増えます。2025 年に米国心臓病学会誌 JACC に発表された 430万人規模の解析では、20〜39 歳の若年成人においてレムナントコレステロールが最も高い群は最も低い群に比べ心筋梗塞リスクが 1.42 倍、心血管死リスクが 2.19 倍であり、注目すべきことに LDL コレステロールが 100 mg/dL 未満と「合格」だった人に限っても、レムナントコレステロールが 30 mg/dL 以上あれば心筋梗塞 1.24 倍・心血管死 1.83 倍のリスクが残存していました(Jung H, Heo J, Kim M, et al. J Am Coll Cardiol. 2025)。LDL が基準内でも安心できない人がいる ― これが non-HDL が必要とされる理由です。

3. 39 万 8846 人・最長 43.6 年の追跡 ― 数字で見る non-HDL のリス

non-HDL コレステロールの臨床的価値を決定づけたのが、冒頭で触れた MultinationalCardiovascular Risk Consortium の解析です(Brunner FJ, et al. Lancet. 2019;394:2173-2183)。ヨーロッパを中心に北米・オーストラリアを含む 19 か国 38 コホートから、登録時に心血管疾患のなかった 39 万 8846 人を集め、中央値 13.5 年・最長 43.6 年、延べ 560 万人年にわたって追跡し、5 万 4542 件の心血管イベント(致死的・非致死的な冠動脈疾患および虚血性脳卒中)を解析した、この分野で最大規模の研究です。
研究では non-HDL コレステロールを 5 段階に分けました。原著の mmol/L 表記を日本の単位に換算すると、100 mg/dL 未満、100〜145 mg/dL 未満、145〜185 mg/dL 未満、185〜220mg/dL 未満、220 mg/dL 以上、となります。この区分で 75 歳までの 30 年間に心血管イベントを起こす割合を見ると、女性では 7.7%(100 mg/dL 未満)から 33.7%(220 mg/dL 以上)へ、男性では 12.8% から 43.6% へと、階段状にきれいに増加しました。220 mg/dL 以上の男性では、実に 10 人に 4 人以上が心筋梗塞か脳梗塞を経験する計算になります。
年齢・性別・喫煙・糖尿病・BMI・収縮期血圧・降圧薬使用を調整した多変量解析でも、100mg/dL 未満を基準とした場合の 220 mg/dL 以上のハザード比は女性 1.9 倍(95%信頼区間 1.6-2.2)、男性 2.3 倍(2.0-2.5)。さらに重要なのは、リスクの上昇に「ここから危険」という明確な折れ点(閾値)がなく、およそ 100 mg/dL を超えたあたりから直線的・連続的に上がり続けていたことです。基準値ぎりぎりで「セーフ」と胸をなでおろす発想そのものが、この曲線の前では通用しません。

4.若い人ほど差がつく ― 45 歳未満で最大 4.6 倍という衝撃

同じ Lancet の解析でもっとも臨床医を驚かせたのは、年齢別の結果でした。non-HDL コレステロール 220 mg/dL 以上の群のハザード比を年齢層別に見ると、45 歳未満では女性 4.3倍(3.0-6.1)、男性 4.6 倍(3.3-6.5)。ところが 45〜59 歳では女性 2.3 倍・男性 2.1 倍、60歳以上では女性 1.4 倍・男性 1.8 倍と、年齢が上がるほど「相対的な差」は小さくなっていきます。
直感に反するこの結果は、コレステロールの害が「濃度 × 時間」の積で決まることを示しています。若い時期に高い値が続くということは、それだけ長い年月、血管壁が apoB 粒子にさらされ続けるということです。米国デューク大学のグループは、若年成人期に脂質異常があると、その後たとえ数値が改善しても長期の冠動脈疾患リスクが高いままであることを報告しており(Navar-Boggan AM, Peterson ED, D’Agostino RB Sr, et al. Circulation.2015;131:451-458)、フラミンガム研究の系譜を引く解析でも、中年期を通じた non-HDL コレステロールの「軌跡」そのものが将来のリスクを規定することが示されています(PencinaKM, Thanassoulis G, Wilkins JT, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:70-79)。
逆に高齢者で相対リスクの差が縮むのは、コレステロールが無害になるからではありません。高齢期には高血圧・糖尿病・腎機能低下など他の要因が加わって全体のリスクが底上げされるため、コレステロール単独の「差」が目立ちにくくなるだけであり、絶対的な発症数はむしろ高齢者のほうが多いのです。したがって、「若いから大丈夫」も「もう歳だから今さら」も、どちらもこのデータの読み方としては誤りということになります。

5.どこからが「高い」のか ― 日本の健診基準と、2026 年アメリカ
新ガイドライン

では、自分の数字をどう読めばよいのでしょうか。日本では動脈硬化性疾患予防ガイドライン(日本動脈硬化学会)が、LDL コレステロールの管理目標値に 30 mg/dL を上乗せした値をnon-HDL コレステロールの目標としています。一次予防の低リスクで 190 mg/dL 未満、中リスクで 170 mg/dL 未満、糖尿病や慢性腎臓病などの高リスクで 150 mg/dL 未満、そして心筋梗塞や狭心症の既往がある二次予防では 130 mg/dL 未満(急性冠症候群や家族性高コレステロール血症などではさらに 100 mg/dL 未満)が目安です。特定健診の場面では、おおむね150 mg/dL 以上で保健指導、170 mg/dL 以上で医療機関の受診が勧められる水準と理解しておくとよいでしょう。
そして 2026 年 3 月、米国心臓病学会と米国心臓協会は 11 学会合同で脂質異常症ガイドラインを全面改訂しました (Blumenthal RS, Morris PB, et al. Circulation.2026;doi:10.1161/CIR.0000000000001423)。改訂の柱は三つあります。第一に、2018 年版(Grundy SM, Stone NJ, Bailey AL, et al. Circulation. 2019;139:e1082-e1143)ではいったん背景に退いていた「数値目標」が復活したこと。第二に、リスク評価の道具が旧来のPooled Cohort Equations から、腎機能や代謝指標も組み込んだ PREVENT 方程式に置き換わ
ったこと(Khan SS, Matsushita K, Sang Y, et al. Circulation. 2024;149:430-449)。そして第三に、LDL と並んで non-HDL コレステロールの管理目標が正式に併記されたことです。
具体的には、中等度リスクの一次予防で LDL 100 mg/dL 未満、高リスクで LDL 70 mg/dL 未満・non-HDL 100 mg/dL 未満、二度以上のイベント歴などを持つ超高リスクでは LDL 55mg/dL 未満・non-HDL 85 mg/dL 未満が目標とされました。冠動脈石灰化スコア(CAC スコア)が 100 以上の場合も LDL 70 mg/dL 未満・non-HDL 100 mg/dL 未満が推奨されています。また、生涯に一度は Lp(a) を測定することがクラス I 推奨となり、糖尿病・高中性脂肪・慢性腎臓病などで LDL 目標を達成しても残るリスクの評価に apoB を測ることが推奨されました。米国の最新の心血管統計でも、脂質管理の未達は依然として最大の予防機会の一つとして指摘されています(Wadhera RK, Dhruva SS, Bikdeli B, et al. J Am Coll Cardiol.2026;87:1094-1134)。

6.何が non-HDL を押し上げるのか ― 原因を分解して考える

non-HDL コレステロールが高いと言われたとき、原因は大きく「LDL が高いタイプ」「中性脂肪・レムナントが高いタイプ」「HDL が低いタイプ」、そしてそれらの混合に分けて考えると整理しやすくなります。LDL 優位型の背景には、飽和脂肪酸(脂身の多い肉、バター、生クリーム、菓子パンやスナックなど)やトランス脂肪酸の過剰摂取、遺伝的素因である家族性高コレステロール血症、甲状腺機能低下症、閉経後のエストロゲン低下、ネフローゼ症候群、ステロイドなどの薬剤があります。
一方、中性脂肪・レムナント優位型では、内臓脂肪の蓄積、アルコール、果糖や精製糖質の過剰摂取、インスリン抵抗性、2 型糖尿病、脂肪肝(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患:MASLD)、慢性腎臓病が主役になります。このタイプでは前述のとおり LDL 値が実力より低く出るため、non-HDL コレステロールを見なければリスクを取りこぼします。米国脂質学会のコンセンサスが、中性脂肪高値や糖尿病、代謝症候群のある方で apoB あるいは non-HDL の評価を強く推奨しているのはこのためです(Remaley AT, et al. J Clin Lipidol. 2024;18:e647-e663)。
また、粒子の「数」という視点も無視できません。米国ハーバード大学系のグループが英国バイオバンク約 38 万 9000 人を解析した研究では、apoB(=動脈硬化を起こす粒子の個数)を統計モデルに組み込むと、LDL コレステロールや中性脂肪の単独効果は心筋梗塞リスクの予測から消失し、粒子数こそが真の駆動因子であることが示されました(Marston NA,Giugliano RP, Melloni GEM, et al. JAMA Cardiol. 2022;7:250-256)。non-HDL コレステロールは、この粒子数を追加採血なしで近似できる、いわば「apoB の代理人」なのです。

7.下げるとどうなるか ― 半分にできれば、リスクは 70-80 %減る

リスクの話ばかりでは気が滅入りますので、ここからは希望のあるデータを紹介します。前述の Lancet の研究チームは、non-HDL コレステロールを 50%低下させた場合に 75 歳までの心血管イベント発症確率がどう変わるかをシミュレーションしました。もっとも印象的だったのは、45 歳未満・non-HDL コレステロール 145〜185 mg/dL・危険因子(喫煙、高血圧、糖尿病、肥満)を 2 つ以上持つ集団の結果です。女性では 30 年後までの発症確率が 15.6%(95%信頼区間 14.9-16.6)から 3.6%(3.4-3.8)へ、男性では 28.8%(28.1-29.5)から 6.4%(6.3-6.6)へと激減しました。
相対リスク減少率にして女性 77%、男性 78%。1 件のイベントを防ぐために生涯にわたって治療を要する人数(NNT)は女性8.3人、男性4.5人という、予防医学としては破格の効率です。
そして重要なのは、この恩恵が「早く始めるほど大きい」という一貫した傾向でした。同じ50%低下でも、60 歳を過ぎてから開始した場合、得られる絶対リスク減少は若年開始群より小さくなります。
だからこそ 2026 年の ACC/AHA ガイドラインは、小児期(9〜11 歳)からの脂質スクリーニングと、若年成人で LDL 160 mg/dL 以上や家族性高コレステロール血症が疑われる場合の早期の薬物療法を明記しました。米国予防医学専門委員会(USPSTF)も、40〜75歳で危険因子を持ち10 年リスクが 10%以上の成人へのスタチンによる一次予防を推奨しています(US PreventiveServices Task Force. JAMA. 2022;328:746-753)。ただし薬だけが答えではありません。飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える食事、水溶性食物繊維、有酸素運動と筋力トレーニング、内臓脂肪の減量、禁煙、節酒は、いずれも non-HDL コレステロールと中性脂肪の双方を動かす、確立された基盤治療です。

8.実践 ― 受診の目安と、検査室で確かめておきたいこと

受診の目安を整理します。まず、non-HDL コレステロールが 170 mg/dL 以上であれば、年齢にかかわらず一度は医療機関でご相談ください。150〜170 mg/dL の場合は、糖尿病・高血圧・喫煙・肥満・慢性腎臓病・家族歴のいずれかがあるかどうかで対応が変わります。190mg/dL を大きく超える、あるいは若い頃から高い、家族に若くして心筋梗塞や突然死をきたした方がいる ― こうした場合は家族性高コレステロール血症の可能性を考え、早期の評価が必要です。LDL が基準内でも中性脂肪が 150 mg/dL 以上あるいは脂肪肝を指摘されている方も、レムナントの評価という観点から一度の確認をお勧めします。受診の際には、単に数字を下げる相談だけでなく、「その数字が血管にすでに何をしたか」を確かめておくと安心です。まんかいメディカルクリニックでは、CT による冠動脈石灰化(CAC)の評価、頸動脈超音波によるプラークと内膜中膜複合体厚(IMT)の測定、腹部超音波による脂肪肝の評価、体組成計による内臓脂肪面積の測定を院内で完結できます。2026 年ACC/AHA ガイドラインでも CAC スコアはリスクの再分類に有用な検査として位置づけられており、「治療するかどうか迷う」層の判断を助けてくれます。
また、脂質異常の背景に甲状腺機能低下症や糖尿病、慢性腎臓病が隠れていることは決してまれではありません。当院は内分泌・甲状腺、糖尿病、呼吸器の各領域を専門とする体制を備えており、原因の見きわめから治療、そして運動療法による生活習慣の立て直しまでを一つの窓口で進められます。日曜・祝日も診療しておりますので、平日にお時間の取れない方も、健診結果を手にしたそのタイミングでご相談いただけます。

おわりに ― 30 年後の自分に手紙を書くつもりで

non-HDL コレステロールは、総コレステロールから HDL を引くだけの、きわめて素朴な数字です。しかしその素朴さの中には、LDL だけでは見えないレムナントも Lp(a)も含めた「動脈硬化を起こしうるコレステロールの総量」が、余すところなく詰め込まれています。39万8846 人を最長 43.6 年追跡した Lancet の解析は、この数字が 30 年後の心臓と脳の運命を階段状に、そして連続的に規定することを示しました。とりわけ 45 歳未満では最大 4.6 倍という、若さゆえに見過ごされがちな差が生まれます。
同時にこのデータは、希望の書でもあります。non-HDL コレステロールを半分にできれば、若年で危険因子を持つ方の 30 年後の発症確率は 7〜8 割減りうる ― これは、今日の選択が30 年後の自分に確実に届くという意味です。食事、運動、体重、禁煙、そして必要な方には適切な薬物療法。どれも劇的ではありませんが、時間を味方につけたとき、その効果は他のどの介入にも劣りません。
健診結果の中の「non-HDL コレステロール」という一行は、あなたの血管が今どんな環境に置かれているかを教えてくれる、静かなメッセージです。その意味を一緒に読み解き、次の一歩を決めるお手伝いをさせてください。数値が気になった方は、どうぞお気軽にご相談ください。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. LDL コレステロールが基準内なら、non-HDL コレステロールは気にしなくてよ
いですか?

残念ながら、そうとは限りません。中性脂肪が高い方では、計算で求めた LDL 値が実際より低く出るうえ、LDL には含まれないレムナントリポ蛋白が増えているためです。2025 年に JACC に発表された 430 万人規模の解析では、LDL コレステロールが 100 mg/dL 未満と良好だった若年成人でも、レムナントコレステロールが 30 mg/dL 以上あると心筋梗塞リスクが 1.24 倍、心血管死リスクが 1.83 倍に上昇していました(Jung H, et al. J Am CollCardiol. 2025)。とくに中性脂肪が 150 mg/dL 以上の方、脂肪肝や糖尿病のある方は、LDL ではなく non-HDL コレステロールで判断してください。

Q2. non-HDL コレステロールは、いくつ以下を目指せばよいのですか?

リスクの高さによって目標が変わります。日本のガイドラインでは、LDL の管理目標値に30 mg/dL を足した値が目安で、一次予防の低リスクで 190 mg/dL 未満、中リスクで 170mg/dL 未満、糖尿病や慢性腎臓病などの高リスクで 150 mg/dL 未満、心筋梗塞などの既往がある二次予防では 130 mg/dL 未満です。2026 年の ACC/AHA ガイドラインでは、高リスクで 100 mg/dL 未満、超高リスク(複数回のイベント歴など)で 85 mg/dL 未満と、より厳格な目標が示されました(Blumenthal RS, et al. Circulation. 2026)。ご自身がどの区分に当たるかは、血圧・血糖・喫煙・家族歴・腎機能などを合わせて判断する必要がありますので、外来でご確認ください。

Q3. 食事や運動だけで下げられますか? それとも薬が必要ですか?

どちらが必要かは、値の高さと他の危険因子の有無で決まります。飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える食事、水溶性食物繊維の摂取、有酸素運動、内臓脂肪の減量、節酒は、いずれも non-HDL コレステロールと中性脂肪を確実に下げる基盤治療で、すべての
方に推奨されます。一方、2026 年 ACC/AHA ガイドラインは、10 年心血管リスクが 5%以上の方や LDL 160 mg/dL 以上の若年成人には薬物療法を検討するよう述べており、USPSTFも危険因子を持つ 40〜75 歳への一次予防スタチンを推奨しています(US Preventive
Services Task Force. JAMA. 2022;328:746-753)。薬は生活習慣の代わりではなく、時間を買うための手段とお考えください。

Q4. 健診が食後の採血でしたが、non-HDL コレステロールの値は信用できますか?

はい、比較的信頼できます。non-HDL コレステロールは総コレステロールと HDL コレステロールという、いずれも食事の影響を受けにくい実測値の引き算で求まるため、空腹時でも食後でも大きくは変動しません。むしろ、中性脂肪が食後に上昇すると Friedewald
式による LDL の推定は不正確になりますので、食後採血の健診では non-HDL コレステロールのほうが実態を反映します。この安定性は、欧米のガイドラインが non-HDL コレステロールを実用的な指標として重視する理由の一つでもあります(Remaley AT, et al. J
Clin Lipidol. 2024;18:e647-e663)。

Q5. 60 歳を過ぎてから対策を始めても、意味はありますか?

十分に意味があります。Lancet の解析で 60 歳以上の相対リスク比が小さく見えるのは、コレステロールが無害になるからではなく、高血圧や糖尿病など他の要因が加わって全体のリスクが底上げされるためで、実際に発症する人の数(絶対リスク)はむしろ高齢者
のほうが多いのが実情です(Brunner FJ, et al. Lancet. 2019;394:2173-2183)。同じ 50%の低下でも、高齢者では絶対的に防げるイベント数が決して小さくありません。ただし、より大きな恩恵が若いうちに始めるほど得られるのも事実です。「今からでは遅い」で
はなく「今日がいちばん早い」とお考えいただくのが、データに忠実な読み方だと思います。

参考文献

  1. Brunner FJ, Waldeyer C, Ojeda F, et al; Multinational Cardiovascular Risk Consortium.
    Application of non-HDL cholesterol for population-based cardiovascular risk
    stratification: results from the Multinational Cardiovascular Risk Consortium.
    Lancet. 2019;394(10215):2173-2183. DOI: 10.1016/S0140-6736(19)32519-X
  2. Blumenthal RS, Morris PB, Gaudino MFL, et al. 2026
    ACC/AHA/AACVPR/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of
    Dyslipidemia: A Report of the American College of Cardiology/American Heart
    Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation. 2026. DOI:
    10.1161/CIR.0000000000001423
  3. Khan SS, Matsushita K, Sang Y, et al. Development and Validation of the American Heart
    Association’s Predicting Risk of Cardiovascular Disease EVENTs (PREVENT) Equations.
    Circulation. 2024;149(6):430-449. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.067626
  4. Remaley AT, Kirkpatrick CM, Ballantyne CM, et al. Role of apolipoprotein B in the
    clinical management of cardiovascular risk in adults: An Expert Clinical Consensus
    from the National Lipid Association. J Clin Lipidol. 2024;18(5):e647-e663. DOI:
    10.1016/j.jacl.2024.08.013
  5. Jung H, Heo J, Kim M, et al. Remnant Cholesterol as an Independent Cardiovascular Risk
    Factor in Young Adults: An Age-Stratified Cohort Study. J Am Coll Cardiol. 2025. DOI:
    10.1016/j.jacc.2025.09.015
  6. Marston NA, Giugliano RP, Melloni GEM, et al. Association of Apolipoprotein BContaining Lipoproteins and Risk of Myocardial Infarction in Individuals With and
    Without Atherosclerosis: Distinguishing Between Particle Concentration, Type, and
    Content. JAMA Cardiol. 2022;7(3):250-256. DOI: 10.1001/jamacardio.2021.5083
  7. Grundy SM, Stone NJ, Bailey AL, et al. 2018
    AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management
    of Blood Cholesterol: A Report of the American College of Cardiology/American Heart
    Association Task Force on Clinical Practice Guidelines. Circulation.
    2019;139(25):e1082-e1143. DOI: 10.1161/CIR.0000000000000625
  8. Pencina KM, Thanassoulis G, Wilkins JT, et al. Trajectories of Non-HDL Cholesterol
    Across Midlife: Implications for Cardiovascular Prevention. J Am Coll Cardiol.
    2019;74(1):70-79. DOI: 10.1016/j.jacc.2019.04.047
  9. Navar-Boggan AM, Peterson ED, D’Agostino RB Sr, Neely B, Sniderman AD, Pencina MJ.
    Hyperlipidemia in Early Adulthood Increases Long-Term Risk of Coronary Heart Disease.
    Circulation. 2015;131(5):451-458. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.114.012477
  10. US Preventive Services Task Force; Mangione CM, Barry MJ, Nicholson WK, et al. Statin
    Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease in Adults: US Preventive
    Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2022;328(8):746-753. DOI:
    10.1001/jama.2022.13044
  11. Wadhera RK, Dhruva SS, Bikdeli B, et al. Cardiovascular Statistics in the United
    States, 2026: JACC Stats. J Am Coll Cardiol. 2026;87(9):1094-1134. DOI:
    10.1016/j.jacc.2025.12.027

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

お知らせ一覧へ戻る