【脂肪肝】脂肪肝が映す全身の地図―糖尿病・慢性腎臓病・高血圧と同じ根を持つ世界的課題―
はじめに ― 「別々の病気」ではない
健康診断で「脂肪肝の気があります」「血糖値が高め」「血圧が少し高い」「尿に蛋白が出ています」――別々の項目で別々に指摘され、それぞれを別の病気として受け止めている方は少なくありません。しかし近年の医学は、こうした指摘の多くが「まったく別の病気」ではなく、共通の土壌から生まれたことを明らかにしてきました。2023 年、米国心臓協会(AHA)は、心臓・腎臓・代謝(糖尿病・肥満)の障害が互いに深く結びついた状態を「心腎代謝(CKM)症候群」として初めて定義しました(Ndumele et al., Circulation 2023)。そして 2026 年、世界的医学誌 Lancet は、糖尿病・心血管病・慢性腎臓病・脂肪肝などが重なり合う「心代謝と複数の長期疾患併存」を世界共通の課題として特集しています(Khunti et al., Lancet 2026)。本コラムでは、脂肪肝・糖尿病・慢性腎臓病・高血圧が、なぜ「共通のリスク要因」によって起こるのか、最新のエビデンスとともにご説明します。
1. 「別々の病気」という思い込み ― 同じ根を持つ四つの疾患
脂肪肝、2 型糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、高血圧――これらは消化器内科、糖尿病内科、腎臓内科、循環器内科という別々の診療科で扱われることが多く、患者さんも「肝臓の病気」「血糖の病気」「腎臓の病気」「血管の病気」と切り離して理解しがちです。しかし、これらは独立して偶然に重なるのではなく、高い頻度で同じ人に集積します。
Lancet 2026 のシリーズ論文は、糖尿病・冠動脈疾患・脳卒中を中心に、高血圧・CKD・心不全・心房細動、そして脂肪肝(MASLD)までを含む一群を「心代謝マルチモビディティ」と呼び、多くの分析で最も頻度の高い疾患クラスターであると報告しています(Khunti et al., Lancet 2026)。2015 年に JAMA に発表された大規模解析では、糖尿病・脳卒中・心筋梗塞のうち 2 つが重なると平均余命は約 15 年、3 つすべてが重なると 20 年以上短縮すると推計されました(Di Angelantonio et al., JAMA 2015)。「別々の病名」の裏に、一つの共通した病態が潜んでいるのです。
2. 共通の土壌 ― 内臓脂肪・インスリン抵抗性・炎症
ではなぜ、これらの病気は束になって現れるのでしょうか。鍵を握るのは、内臓脂肪の蓄積、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)、そして慢性的な軽い炎症という、共通の「土壌」です。AHA の CKM 症候群の枠組みは、過剰または機能の乱れた脂肪組織が CKM 症候群の最も早い段階(ステージ 0〜1)を形づくり、そこから高血圧・脂質異常・高血糖、さらには腎障害や心血管病へと進んでいくと整理しています(Ndumele et al., Circulation 2023)。
実際、米国と欧州の 16 のコホート研究・約 12 万人を統合した解析では、BMI が 5kg/m²増えるごとに心代謝マルチモビディティの発症リスクが約 1.9 倍に上昇し、BMI 35 以上では健常体重の 14.5 倍にも達しました(Kivimäki et al., Lancet Public Health 2017)。喫煙・運動不足・睡眠の乱れ・超加工食品の摂取といった生活習慣も、これら共通の土壌を肥やす要因として作用します。臓器ごとに「点」で対処するより、共通の土壌に「面」で働きかけることが理にかなっているのです。
3. 脂肪肝(MASLD)は「全身病のサイン」 ― 肝臓に映る代謝の乱れ
かつて「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれた状態は、2023 年以降、代謝の異常と密接に結びついていることを明確にするため「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」と国際的に改称されました。これは単なる「肝臓に脂肪がたまった状態」ではなく、肥満・インスリン抵抗性・高血圧・脂質異常といった心代謝リスクと一体で起こる、いわば「全身の代謝の乱れが肝臓に映し出されたサイン」です。
MASLD は世界人口の約 3 割が該当するとされ、自覚症状がほとんどないまま進行する点が特徴です。重要なのは、MASLD を指摘された方の多くが、肝硬変や肝がんよりもむしろ心血管病で命を落とすという事実です。Lancet 2026 のシリーズも、MASLD を心代謝マルチモビディティの一員として位置づけ、糖尿病・心血管病の進行と重なり合って進むことを指摘しています(Khunti et al., Lancet 2026)。脂肪肝は「お酒を飲まないから大丈夫」な軽い所見ではなく、全身を見直すための入口なのです。
4. 病気は連鎖する ― 一つ増えると次が増える「クラスター化」
心代謝の病気の厄介な点は、一つ持っていると次が起こりやすくなる「連鎖」です。Lancet 2026 のシリーズは、ある心代謝疾患を発症すると、その後の疾患の蓄積が加速し、すでに持っている疾患の数が多いほど新たな疾患を発症する確率が高まると報告しています(Khunti et al., Lancet 2026)。例えば肥満から高血圧、2 型糖尿病、そして腎臓・心臓・肝臓の障害へと、坂道を転がるように疾患が積み重なっていきます。
さらにこの連鎖は、社会経済的に厳しい環境にある人ほど 10〜15 年早く始まり、より速く進むことも示されています。生活習慣の面では、欧州の多国籍コホートで、加工食品の摂取量が 1 日あたり約 260g 増えるごとに、がんと心代謝疾患の併存リスクが 9%上昇することが報告されました(Córdova et al., Lancet Reg Health Eur 2023)。裏を返せば、連鎖の早い段階で介入できれば、後戻りできる可能性が高いということでもあります。
5. 世界の課題 ― 数字で見るマルチモビディティの広がり
心代謝マルチモビディティは、もはや一部の高齢者だけの問題ではありません。背景には、世界的な肥満と糖尿病の急増があります。NCD-RisC(非感染性疾患リスク因子共同研究)の解析では、世界の糖尿病有病者は 1990 年から 2022 年の間に約 6 億 3 千万人増加したと推計されています(NCD Risk Factor Collaboration, Lancet 2024)。
英国のデータでは、マルチモビディティ発症の年齢中央値が 2004 年の 56 歳から 2019 年には 46 歳へと若年化し、最も社会経済的に厳しい地域ではさらに 7 年早く始まると報告されています(Khunti et al., Lancet 2026)。米国でも、心代謝マルチモビディティの有病率は 1999 年の 9.4%から 2018 年の 14.4%へと増加しました。日本を含む世界中で、人々が数十年にわたって複数の慢性疾患を抱えて生きる時代が到来しており、「一つの病気ずつ治す」従来の医療では立ち行かなくなりつつあります。
6. 共通の土壌に効く治療 ― GLP-1・SGLT2 という新しい武器
朗報は、共通の土壌に同時に働きかける治療薬が登場したことです。なかでも GLP-1 受容体作動薬と SGLT2 阻害薬は、複数の臓器を横断して保護効果を示します。糖尿病と慢性腎臓病を併せ持つ患者を対象とした FLOW 試験では、セマグルチド(オゼンピック)が主要な腎イベントと心血管死のリスクを 24%低下させました(Perkovic et al., NEJM 2024)。糖尿病のない肥満・心血管病の患者を対象とした SELECT 試験では、セマグルチド(ウゴービ)が主要心血管イベントを 20%減少させました(Lincoff et al., NEJM 2023)。
さらに、脂肪肝の進行型である MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)に対しても、第 3 相 ESSENCE 試験において、セマグルチドが 72 週時点で 62.9%の患者に肝炎の改善(プラセボ群 34.3%)をもたらし、線維化の改善も認められました(Sanyal, Newsome et al., NEJM 2025)。一つの薬が、血糖・体重・腎臓・心臓・肝臓に同時に効く――まさに「共通の土壌」を狙う発想です。ただし、これらの薬は万能ではなく、生活習慣の改善と組み合わせてこそ効果を発揮します。
7. 一人の主治医、一つの計画 ― 「臓器ごと」から「人ごと」へ
これだけ密接につながった病気を診療科ごとにバラバラに診ていては、治療が重複したり、薬が増えすぎたり(ポリファーマシー)、肝心な連鎖の芽を見逃したりしかねません。Lancet 2026 のシリーズが繰り返し強調するのは、「単一疾患の枠組み」を超え、一人ひとりを縦断的に診る統合的なケアの重要性です(Valabhji et al., Lancet 2026)。具体的には、年に一度は服薬内容を見直し、患者さんの優先順位・年齢・フレイル(虚弱)に応じて目標を個別化し、「誰が長期的に責任を持つ主治医か」を明確にすることが推奨されています。
当院では、内科・呼吸器内科・糖尿病を軸に、CT・超音波・心電図を院内で完結し、指定運動療法施設と GLP-1 プログラムを備えています。脂肪肝・血糖・血圧・腎機能を「別々の数字」としてではなく、「一人の体で起きている一つの物語」として捉え、共通の土壌に働きかける――それが私たちの目指す医療です。
おわりに ― 一つの物語として体を診る
脂肪肝、糖尿病、慢性腎臓病、高血圧――これらは決してバラバラの不運な偶然ではなく、内臓脂肪・インスリン抵抗性・炎症という共通の土壌から生まれ、互いに連鎖しながら進行する「一つの大きな問題」の異なる現れです。そしてこの問題は、肥満と糖尿病の世界的な増加を背景に、いまや世界共通の課題となっています(Khunti et al., Lancet 2026)。
一方で、共通の土壌に早く・面で働きかければ、複数の病気をまとめて予防・改善できる可能性があるということでもあります。健康診断で一つでも気になる項目を指摘された方は、それを「全身を見直す入口」と捉えてください。早期の生活習慣の見直しと習慣化、必要に応じた適切な治療が、未来の健康を大きく左右します。気になる数字があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 脂肪肝と言われました、お酒を全く飲みませんが。
お酒を飲まない方の脂肪肝(MASLD)は「軽い所見」と誤解されがちですが、実際には肥満・インスリン抵抗性・高血圧・脂質異常と一体で起こる、全身の代謝の乱れのサインです。世界人口の約 3 割が該当し、多くの方は肝臓そのものよりも心血管病のリスクが問題になります(Khunti et al., Lancet 2026)。お酒を飲まないことは安心材料にはなりません。むしろ「全身を見直す入口」と捉え、血糖・血圧・腎機能・脂質を合わせて確認することをおすすめします。
Q2. 糖尿病・高血圧・腎臓病・脂肪肝、どれから治せばよいですか?
「どれか一つ」を選ぶより、これらに共通する土壌(内臓脂肪・インスリン抵抗性)に働きかけるのが効率的です。減量・運動・食事の見直しは、これらすべてに同時に効きます。薬物療法でも、GLP-1 受容体作動薬や SGLT2 阻害薬は血糖・体重・腎臓・心臓・肝臓を横断して守ることが大規模試験で示されています(Perkovic et al., NEJM 2024; Lincoff et al., NEJM 2023)。優先順位はお一人ずつ異なるため、全体像を見渡せる主治医と相談しながら計画を立てることが大切です。
Q3. 体重を減らすと、本当に複数の病気がまとめて良くなるのですか?
はい。エビデンスがあります。16 コホート・約 12 万人の解析では、BMI が高いほど心代謝マルチモビディティのリスクが大きく上昇しました(Kivimäki et al., Lancet Public Health 2017)。逆に、体重の 5%減少で肝臓の脂肪が減り、10%以上の減量では肝臓の線維化(MASH)が改善することも知られています。減量は、血糖・血圧・脂質・肝臓・腎臓に同時に働きかける「最も費用対効果の高い治療」の一つです。まずは無理のない範囲から始めましょう。
Q4. なぜ年齢が若くても複数の病気を抱える人が増えているのですか?
世界的な肥満と糖尿病の急増が背景にあります。世界の糖尿病有病者は 1990 年から 2022 年で約 6 億 3 千万人増加しました(NCD Risk Factor Collaboration, Lancet 2024)。英国ではマルチモビディティ発症の年齢中央値が 56 歳から 46 歳へと若年化しています(Khunti et al., Lancet 2026)。超加工食品の摂取増加もリスクを高めます(Córdova et al., Lancet Reg Health Eur 2023)。若い世代こそ、早めの生活習慣の見直しが、将来の病気の連鎖を防ぐ鍵になります。
Q5. GLP-1 の薬は、糖尿病でなくても使えるのですか?
適応は個別に判断されますが、エビデンスは糖尿病の枠を超えて広がっています。糖尿病のない肥満・心血管病の患者を対象とした SELECT 試験では、セマグルチドが心血管イベントを 20%減らしました(Lincoff et al., NEJM 2023)。また脂肪肝の進行型 MASH に対しても改善効果が示されています(Sanyal, Newsome et al., NEJM 2025)。ただし、これらの薬は万能ではなく、生活習慣の改善と組み合わせてこそ最大の効果を発揮します。使用の可否や目的は、必ず医師にご相談ください。
参考文献
- Khunti K, Zaccardi F, Mehta R, Gregg EW, Misra S. Epidemiology of cardiometabolic multiple long-term conditions. Lancet. 2026;407:2641-2654. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(26)00606-9
- Valabhji J, Hope D, El Sayed N, et al. Interventions for the prevention and management of cardiometabolic multiple long-term conditions. Lancet. 2026;407:2668-2684. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(26)00608-2
- Ndumele CE, Rangaswami J, Chow SL, et al. Cardiovascular-Kidney-Metabolic Health: A Presidential Advisory From the American Heart Association. Circulation. 2023;148(20):1606-1635. https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000001184
- Sanyal AJ, Newsome PN, Kliers I, et al. Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis (ESSENCE). N Engl J Med. 2025;392(21):2089-2099. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2413258
- Perkovic V, Tuttle KR, Rossing P, et al. Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes (FLOW). N Engl J Med. 2024;391(2):109-121. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2403347
- Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, et al. Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes (SELECT). N Engl J Med. 2023;389(24):2221-2232. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2307563
- Kivimäki M, Kuosma E, Ferrie JE, et al. Overweight, obesity, and risk of cardiometabolic multimorbidity: pooled analysis of individual-level data for 120 813 adults from 16 cohort studies from the USA and Europe. Lancet Public Health. 2017;2(6):e277-e285. https://doi.org/10.1016/S2468-2667(17)30074-9
- NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC). Worldwide trends in diabetes prevalence and treatment from 1990 to 2022: a pooled analysis of 1108 population-representative studies with 141 million participants. Lancet. 2024;404(10467):2077-2093. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)02317-1
- Di Angelantonio E, Kaptoge S, Wormser D, et al. Association of Cardiometabolic Multimorbidity With Mortality. JAMA. 2015;314(1):52-60. https://doi.org/10.1001/jama.2015.7008
- Córdova R, Viallon V, Fontvieille E, et al. Consumption of ultra-processed foods and risk of multimorbidity of cancer and cardiometabolic diseases: a multinational cohort study. Lancet Reg Health Eur. 2023;35:100771. https://doi.org/10.1016/j.lanepe.2023.100771
※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。
気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
