病気と健康の話

【脂肪肝】健診の「脂肪肝」放置していませんか?―大腸がんリスク 1.6 倍、2026 年国際コンセンサスが示す新常識―

はじめに ― 「ありふれた病気」に隠れたサイン

健康診断の腹部超音波検査で「脂肪肝があります」と言われたものの、そのままにしている方は少なくありません。脂肪肝は自覚症状がほとんどないため、どうしても後回しにされがちです。しかし 2026 年、消化器病学の代表的な国際誌である Gut 誌に、この「ありふれた脂肪肝」に対する見方を大きく変える報告が掲載されました。アジア、ヨーロッパ、北米、南米、アフリカ、オセアニアの 24 か国から集まった 35 人の専門家が、脂肪肝と大腸がんの関係について議論を重ね、「脂肪肝(MASLD)は大腸がんの危険因子である」という声明に全員一致で合意しました(Wu et al., Gut 2026)。
一方で、大腸がんそのものも、いま医学界で最も警戒されている病気のひとつです。米国がん協会の 2026 年の統計では、50 歳未満の大腸がんが年 3%のペースで増え続け、この年代のがん死亡原因の第 1 位になったと報告されています(Siegel et al., CA Cancer J Clin2026)。若い世代の大腸がんが増える理由として、肥満、2 型糖尿病、そして脂肪肝といった「代謝の乱れ」が注目されています(Tian et al., Nat Rev Cancer 2026)。
本コラムでは、Gut 誌の国際コンセンサスをはじめ、Nature Reviews Cancer、Nature Reviews Clinical Oncology、CA: A Cancer Journal for Clinicians などに掲載された最新論文に、NEJM、JAMA、欧州肝臓学会(EASL)のガイドラインなど欧米の権威ある研究を加えた計 16 件のエビデンスをもとに、「なぜ肝臓の脂肪が大腸のがんにつながるのか」というしくみと、「脂肪肝と言われた人が今日から何をすればよいのか」を、できるだけわかりやすく解説します。

1. 「脂肪肝」の新しい名前 MASLD ― もう肝臓「だけ」の病気ではな
い

かつて「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていた脂肪肝は、2023 年に米国肝臓学会(AASLD)や欧州肝臓学会(EASL)など世界の主要学会が参加した国際的な合意によって、「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD:マッスルディー)」という新しい名前に変わりました(Rinella et al., J Hepatol 2023)。この名称変更のポイントは、「お酒を飲まないのに肝臓に脂肪がたまる病気」という“除外”の考え方から、「肥満・高血糖・高血圧・脂質異常といった代謝の異常を背景に肝臓に脂肪がたまる病気」という“原因”に着目した定義へと切り替えた点にあります。
具体的には、肝臓に脂肪がたまっていることに加えて、①BMI や腹囲が基準を超える、②血糖値が高い・糖尿病がある、③血圧が高い、④中性脂肪が高い、⑤HDL(善玉)コレステロールが低い、のうち 1 つ以上があれば MASLD と診断されます。つまり MASLD は、肝臓に現れた「メタボリックシンドロームの顔」と言い換えることができます。
2024 年に発表された欧州肝臓学会・欧州糖尿病学会・欧州肥満学会(EASL–EASD–EASO)の合同ガイドラインも、MASLD を肝臓だけの病気ではなく、心血管病、2 型糖尿病、慢性腎臓病、そして肝臓以外のがんのリスクとも深く結びつく「全身の代謝病」として扱うよう求めています(EASL–EASD–EASO, J Hepatol 2024)。世界の MASLD 有病率は 1990〜2006 年の 25.3%から2016〜2019 年には 38%にまで増加しており(Younossi et al., Hepatology 2023)、成人の 3人に 1 人以上が該当する、まさに国民病と言える状況です。

2. 若い世代で増える大腸がん ― 数字で見る現状

米国がん協会の Siegel らによる「Colorectal cancer statistics, 2026」によると、米国では 2026 年に約 15 万 8,850 人が新たに大腸がんと診断され、約 5 万 5,230 人が亡くなると推計されています(Siegel et al., CA Cancer J Clin 2026)。65 歳以上では大腸内視鏡検診の普及により罹患率が年 2.5%ずつ低下している一方、20〜49 歳では年 3%、50〜64 歳でも年0.4%のペースで増加しています。50 歳未満の死亡率も 2004 年以降、毎年約 1%ずつ上昇しており、特に大腸の出口に近い直腸や S 状結腸のがんが増えているのが特徴です。
この「若年化」は米国だけの現象ではありません。2026 年に Nature Reviews Cancer 誌に発表された若年発症大腸がん(50 歳未満で発症する大腸がん)予防のロードマップは、この傾向が世界的に広がっており、より後に生まれた世代ほどリスクが高い「出生コホート効果」があると指摘しています(Tian et al., Nat Rev Cancer 2026)。同論文は、思春期から成人期の肥満が若年大腸がんのリスクを 54%高めること(相対リスク 1.54)、2 型糖尿病が 43%高めること(オッズ比 1.43)、そして MASLD やメタボリックシンドロームとの関連がますます明確になっていることをまとめています。
遺伝子は数十年でこれほど急激に変わることはありません。そのため研究者たちは、この半世紀で大きく変わった「環境」、すなわち代謝異常の低年齢化、甘い飲み物や超加工食品の普及、運動不足、腸内細菌の変化に原因を求めています。そしてこれらの要因が一か所に集まって現れる臓器こそが、肝臓なのです。

3. 脂肪肝の人は大腸がんになりやすいのか ― 国際コンセンサスが示
した数字

Gut 誌の国際コンセンサスは、17 の声明のうち 11 項目で全員一致の合意に達しました(Wu et al., Gut 2026)。その根拠として示されたデータは印象的です。約 10 万人を追跡した前向きコホート研究では、MASLD がある人はない人に比べて大腸がんの発症リスクが 54%高く(ハザード比 1.54)、8 件のコホート研究(約 16 万 7 千人)を統合したメタ解析でも 64%高いという結果でした(ハザード比 1.64)。後者はイタリアと英国の研究グループが2022 年に Gut誌に発表したもので、MASLD が大腸がんを含む消化器がん全般のリスク上昇と関連することを示した代表的な研究です(Mantovani et al., Gut 2022)。
さらに重要なのは、この関連が「肥満や糖尿病があるから」というだけでは説明できない点です。コンセンサスは「MASLD は肥満や 2 型糖尿病で調整した後も大腸がんの危険因子である」という声明に全員一致で合意しました。米国メイヨー・クリニックで脂肪肝のある約4,700 人を中央値 8 年間追跡した研究では、脂肪肝のある人の結腸がんリスクは 1.8 倍であった一方、「肥満はあっても脂肪肝のない人」ではがんとの関連はわずかでした(Allen et al., J Hepatol 2019)。つまり、体重そのものよりも「肝臓に脂肪がたまっているかどうか」が重要な目印になっている可能性があるのです。韓国の約 893 万人を対象とした全国調査でも、年齢・性別・代謝の危険因子を調整した後になお 19%のリスク上昇が認められています。
また、遺伝子の個人差を利用して因果関係を推定する「メンデルランダム化解析」でも、MASLD から大腸がんへの方向性をもつ関連(オッズ比 1.27)が示され、両者の関係が単なる偶然ではないことを裏づけています(Wu et al., Gut 2026)。
リスクは代謝異常の数に比例して高まります。約 977 万人の解析では、代謝異常が 1 つ増えるごとに大腸がんリスクが 10%、22%、31%、36%、49%と段階的に上昇し、MASLD の中でも代謝異常を 4〜5 個もつ人では 93%の上昇(ハザード比 1.93)がみられました。しかも 20〜49 歳の若い世代でも MASLD は大腸がんリスクを 24%高めており(相対リスク 1.24)、さらに大腸がんになった後も、MASLDがある人では肝臓への転移が約4倍多く、大腸がんによる死亡も85%多いことが報告されています(Wu et al., Gut 2026)。スウェーデンで肝生検により脂肪肝と診断された約 1 万 500 人を中央値 14 年間追跡した全国研究でも、脂肪肝の人の死亡増加の最大の要因は肝臓の病気ではなく「肝臓以外のがん」であり、その死亡リスクは 2.16 倍に達していました(Simon et al., Gut 2021)。

4. なぜ肝臓の脂肪が腸のがんにつながるのか ― 4 つのルート

国際コンセンサスは、MASLD と大腸がんを結ぶしくみとして、大きく 4 つのルートを挙げています(Wu et al., Gut 2026)。1 つ目は「インスリン抵抗性と高インスリン血症」です。脂肪肝ではインスリンが効きにくくなり、すい臓は血糖を下げるために大量のインスリンを出し続けます。インスリンには細胞を増やす作用があるため、大腸の粘膜細胞の増殖が加速し、遺伝子の傷をもった細胞が生き残りやすい環境ができてしまいます。35 件の研究のメタ解析では、空腹時インスリン値が高い人ほど大腸がんのリスクが 42%高いことが示されています。
2 つ目は「全身の慢性炎症」です。脂肪がたまった肝臓や内臓脂肪からは、TNF-α やインターロイキン 6(IL-6)といった炎症を起こす物質が放出され、全身に“くすぶる火事”のような状態をつくります。この慢性炎症は、大腸の粘膜でがんが育ちやすい土壌になります。3つ目は「腸と肝臓をつなぐ一本道」、すなわち腸肝軸と腸内細菌の乱れです。腸から吸収された栄養や細菌の産物は、門脈という血管を通ってまず肝臓に運ばれます。高脂肪の欧米型食事では、腸内細菌が胆汁酸を「二次胆汁酸(デオキシコール酸など)」に変え、これが大腸粘膜を傷つけます。腸のバリアが弱まると細菌由来の物質が肝臓に流れ込み、脂肪肝を悪化させ、悪化した肝臓は解毒力が落ちてさらに有害物質を全身に回す、という悪循環が生まれます。
4 つ目は「アディポカイン(脂肪細胞が出すホルモン)のバランスの崩れ」です。食欲を抑えるレプチンが過剰になり、インスリンの効きを良くして炎症を抑えるアディポネクチンが減ると、肝臓にも大腸にも不利に働きます。日本人男性 4 万 4 千人あまりを対象とした研究でも、肥満の人ではレプチン高値・アディポネクチン低値が大腸がんリスクの上昇と関連していました(Wu et al., Gut 2026)。若年大腸がんのロードマップも、高インスリン血症を招く食事・生活習慣の指標が、高齢発症よりも若年発症の大腸がんでより強い危険因子であると報告しています(Tian et al., Nat Rev Cancer 2026)。なお、腸内細菌と食事の関係については、当院のコラム「大腸がんを遠ざける食事、育ててしまう食事」でも詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

5. 心臓・腎臓・代謝はひとつながり ― CKM 症候群とがん

米国心臓協会(AHA)は近年、心臓病、腎臓病、肥満・糖尿病などの代謝異常をひとつながりの病態として捉える「心血管・腎・代謝(CKM)症候群」という概念を提唱しています。2026年に Nature Reviews Nephrology 誌に掲載された論評は、この CKM 症候群が進行するほど、がんの発症とがんによる死亡が増えることを示す研究をまとめました(Hatamizadeh &Jhaveri, Nat Rev Nephrol 2026)。米国の国民健康栄養調査(NHANES)のデータでは、最も進んだステージ 4 の CKM 症候群の人は、CKM 症候群がない人に比べてがんで亡くなるリスクが2 倍以上高く、関連は乳がん、肺がん、すい臓がん、腎臓がん、そして大腸がんなど幅広いがんに及んでいました。
同論評によれば、CKM 症候群の初期には白血球の活性化が、中期には T 細胞の機能低下が、進行期にはがん細胞を攻撃するナチュラルキラー(NK)細胞の働きの低下と持続的な炎症がみられ、こうした免疫の変化ががん細胞の「免疫逃避」を助ける可能性があると考えられています。MASLD はこの CKM 症候群の中心に位置する病態であり、脂肪肝を「肝臓の数値の問題」として切り離すのではなく、心臓・腎臓・代謝・がんをまとめて管理する視点が求められています。
重要なのは、同論評が紹介する英国バイオバンク約 22 万 7 千人の研究で、定期的な運動、禁煙、健康的な食事、過度な飲酒を避けるといった良好な生活習慣が、CKM のどのステージにおいてもがんの発症を 14〜24%、がんによる死亡を 22〜40%低下させることと関連していた点です。また、糖尿病や肥満の治療に使われる GLP-1 受容体作動薬や SGLT2 阻害薬が、CKM 症候群とがんを結ぶ共通の経路に作用する可能性にも言及しています(Hatamizadeh &Jhaveri, Nat Rev Nephrol 2026)。脂肪肝への取り組みは、心臓や腎臓を守ることと同時に、がんの予防にもつながるのです。

6. 甘い飲み物と果糖 ― 脂肪肝と若年大腸がんの「共通の燃料」

脂肪肝と若年大腸がんの両方に深く関わる食品として、いま注目されているのが砂糖と果糖ぶどう糖液糖(異性化糖)です。砂糖も異性化糖も「果糖(フルクトース)」を含んでおり、欧米型の食事では総エネルギーの 10〜20%を占めます。2026 年に Nature Metabolism 誌に掲載された解説によれば、果糖は肝臓で代謝される際に細胞のエネルギー(ATP)を急激に消費させ、ミトコンドリアに酸化ストレスを与えることで、取り込んだカロリーを脂肪として蓄える方向に体を切り替えてしまいます(Johnson et al., Nat Metab 2026)。
同誌に掲載された臨床試験では、果糖代謝の最初の酵素(ケトヘキソキナーゼ)を阻害する薬を、肥満で脂肪肝のある 15 人に 6 週間投与したところ、体重は変わらないにもかかわらず肝臓の脂肪が約 30%減少し、15 人中 9 人で肝臓の脂肪量が正常化しました。さらにインスリンの効きも肝臓・脂肪組織・全身で大きく改善しました。この結果は、果糖そのものが体重とは独立して脂肪肝とインスリン抵抗性を引き起こしていることを強く示唆しています(Johnson et al., Nat Metab 2026)。試験で用いられた果糖の量が、清涼飲料水 1 本分程度に相当する点も見逃せません。
そして甘い飲み物は大腸にも影響します。若年大腸がんのロードマップによると、米国の看護師を対象とした大規模研究では、甘い飲み物を 1 日 2 杯以上飲む女性は 1 杯未満の女性に比べて若年大腸がんのリスクが 2.18 倍高く、思春期に 1 日 1 杯増えるごとにリスクが 32%上昇していました。マウスの実験でも、果糖ぶどう糖液糖は肥満とは無関係に腸の腫瘍の成長を早めることが示されています(Tian et al., Nat Rev Cancer 2026)。甘い飲み物を水やお茶に替えることは、肝臓と大腸の両方を守る、最も手軽で効果的な一歩と言えるでしょう。

7. 体重を 5〜10%減らす意味 ― 食事・運動・薬のエビデンス

国際コンセンサスは、脂肪肝と大腸がんリスクの両方を下げるための対策として、「赤肉・加工肉を減らし、新鮮な野菜と果物を増やす」ことに全員一致で、「1 年以内に体重の 5〜10%を減らす」ことに 9 割以上の専門家が合意しています(Wu et al., Gut 2026)。赤肉は大腸がんリスクを 15%、ハムやソーセージなどの加工肉は 21%高めることが 60 件の前向き研究のメタ解析で示されています。また、閉経後女性約 5 万 9 千人の追跡研究では、意図的に 5%以上減量した女性は肥満関連がんのリスクが 12%低く、ウエストを意図的に減らした場合は大腸がんリスクが 21%低下していました。欧州のガイドラインも、5%以上の減量で肝臓の脂肪が、7〜10%以上の減量で肝臓の炎症や線維化が改善するとしています(EASL–EASD–EASO, J Hepatol 2024)。
運動の効果も確かです。2026 年に Nature Reviews Clinical Oncology 誌に掲載された総説によれば、米国の男性約 4 万 8 千人の研究では運動量が最も多い群で結腸がんのリスクがほぼ半分(相対リスク 0.53)であり、欧米とオーストラリアの約 75 万 5 千人を統合した解析でも運動量が多い人の結腸がんリスクは 16%低いという結果でした(Bliss & Jones, Nat Rev Clin Oncol 2026)。さらに、手術と抗がん剤治療を終えた大腸がん患者 889 人を対象としたCHALLENGE 試験では、3 年間の運動プログラムによって再発・新たながんの発生が 28%、死亡が 37%減少しました(Courneya et al., N Engl J Med 2025)。運動は脂肪肝を改善するだけでなく、大腸がんの予防と治療の両方に効く「薬」なのです。
薬物療法も大きく進歩しています。2025 年に NEJM 誌に発表された ESSENCE 試験では、GLP1 受容体作動薬のセマグルチド(ウゴービ)2.4mg を週 1 回 72 週間投与したところ、肝臓の炎症(脂肪肝炎)が消失した人は 62.9%(プラセボ 34.3%)、線維化が改善した人は 36.8%(同22.4%)に達しました(Sanyal et al., N Engl J Med 2025)。がんとの関連では、肥満の成人約 8 万 7 千人を解析した 2025 年の JAMA Oncology 誌の研究で、GLP-1 受容体作動薬の使用者はがん全体の発症リスクが 17%低いと報告されています(Dai et al., JAMA Oncol 2025)。国際コンセンサスも「MASLD で GLP-1 受容体作動薬の適応がある人では大腸がんリスクを下げる可能性がある」としていますが(Wu et al., Gut 2026)、これらは観察研究に基づく結果であり、がん予防そのものを目的とした使用が確立しているわけではありません。薬はあくまで、食事と運動を土台にしたうえでの選択肢と考えることが大切です。

8. 脂肪肝と言われたら ― 40 歳からの大腸がん検診

国際コンセンサスの中で、私たちの日常診療に最も直結する提言が「MASLD の人、特に肥満や 2 型糖尿病を合併している人は、大腸がん検診の開始年齢を 40 歳に引き下げることを検討すべき」というものです(Wu et al., Gut 2026)。米国予防医療専門委員会(USPSTF)は2021年、一般の人の大腸がん検診開始年齢を 50 歳から 45 歳に引き下げましたが(USPSTF, JAMA2021)、コンセンサスは MASLD の人ではそれよりも早い開始が望ましいとしています。実際、40〜45 歳の大腸ポリープ(腺腫)の保有率は 50〜55 歳と同程度であり、40〜49 歳で便潜血検査を始めた人は 50 歳から始めた人に比べて大腸がん死亡が 39%少なかったという研究も紹介されています。
日本では、40 歳以上を対象とした年 1 回の便潜血検査が自治体の大腸がん検診として行われています。つまり脂肪肝を指摘された方にとって大切なのは、「40 歳になったら便潜血検査を毎年きちんと受けること」、そして「陽性と言われたら必ず大腸内視鏡検査を受けること」です。便潜血検査の陽性を放置してしまう方は少なくありませんが、それでは検診の意味が失われてしまいます。米国の統計でも、50〜64 歳で増えている大腸がんは進行した段階で見つかるものに限られており、早期発見の機会を逃していることがうかがえます(Siegel et al., CA Cancer J Clin 2026)。
また、検診を待たずに受診すべき症状もあります。血便、便が細くなった、便秘と下痢を繰り返す、お腹の張りや痛みが続く、貧血を指摘された、といった症状は年齢にかかわらず注意が必要です。さらに国際コンセンサスは、意図しない体重減少、特に 1 年で 10%を超える減少は、隠れたがんのサインである可能性があると注意を促しています(Wu et al., Gut2026)。「ダイエットしていないのにやせてきた」という場合は、早めに医療機関にご相談ください。なお、アジア人では肥満でなくても脂肪肝になる「やせ型脂肪肝」が少なくないことも知られており、体格が標準だからといって安心はできません。

おわりに ― 肝臓を守ることは全身の代謝を守ること

脂肪肝は、自覚症状がないまま進む「沈黙の病気」です。しかし最新のエビデンスは、脂肪肝が肝臓だけの問題ではなく、インスリン抵抗性、慢性炎症、腸内細菌の乱れを通じて大腸がんの「入口」になりうることを示しています。裏を返せば、脂肪肝は大腸がんのリスクを知らせてくれる“早めのサイン”でもあります。体重の 5〜10%の減量、甘い飲み物を控えること、赤肉・加工肉を減らし野菜を増やすこと、日常的な運動、そして 40 歳からの確実な大腸がん検診。これらはどれも、肝臓と大腸を同時に守るための、科学的に裏づけられた方法です。
まんかいメディカルクリニックでは、腹部超音波検査や CT による脂肪肝の評価、InBody による体組成測定を行い、内分泌・代謝の専門的な視点から糖尿病や脂質異常症を含めた総合的な管理を行っています。積極的に、運動療法や GLP-1 受容体作動薬を用いた体重管理プログラムに取り組んでおり、日曜・祝日も診療しています。健診で「脂肪肝」と言われた方は、どうぞお気軽にご相談ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. お酒を飲まないのに脂肪肝と言われました。それでも大腸がんに関係がありますか?

はい、関係があると考えられています。お酒をほとんど飲まない方の脂肪肝の多くは、肥満、高血糖、高血圧、脂質異常といった代謝の異常を背景にした「MASLD」に該当します(Rinella et al., J Hepatol 2023)。Gut 誌の国際コンセンサスでは、MASLD のある人はない人に比べて大腸がんの発症リスクが約 1.5〜1.6 倍高く、この関連は肥満や糖尿病の影響を差し引いても残ることが示されています(Wu et al., Gut 2026)。お酒を飲まないから安心、というわけではありませんので、代謝の状態も含めて一度評価を受けることをおすすめします。

Q2. 脂肪肝が治れば、大腸がんのリスクも下がりますか?

脂肪肝の改善だけで大腸がんがどれだけ減るかを直接確かめたランダム化試験は、まだありません。しかし、脂肪肝と大腸がんはインスリン抵抗性や慢性炎症という共通の土台をもっており、その土台を改善する方法は両方に効くと考えられています。国際コンセンサスは、1 年以内に体重の 5〜10%を減らすことが脂肪肝を改善し大腸がんリスクも下げうると合意しており、意図的な減量やウエストの減少が大腸がんリスクの低下と関連したという研究も紹介しています(Wu et al., Gut 2026)。運動についても、運動量の多い人で結腸がんのリスクが低いことが多くの研究で示されています(Bliss & Jones, Nat Rev Clin Oncol 2026)。

Q3. 脂肪肝がある場合、大腸内視鏡検査は何歳から受ければよいですか?

国際コンセンサスは、MASLD の人、特に肥満や 2 型糖尿病を合併している人では、大腸がん検診の開始を 40 歳に引き下げることを検討するよう提言しています(Wu et al., Gut2026)。日本では 40 歳以上の方を対象に便潜血検査による大腸がん検診が行われていますので、まずは毎年確実に受診し、陽性の場合は必ず大腸内視鏡検査を受けてください。
米国では一般の方の検診開始年齢が 45 歳に引き下げられています(USPSTF, JAMA 2021)。血便や便通の変化などの症状がある場合は、年齢や検診の時期にかかわらず早めに受診しましょう。

Q4. やせているのに脂肪肝と言われました。大丈夫でしょうか?

アジア人では、BMI が標準範囲でも内臓脂肪が多く、脂肪肝になる「やせ型脂肪肝」が少なくないことが知られています。国際コンセンサスも、こうした人種による脂肪肝のタイプの違いを今後の重要な研究課題として挙げています(Wu et al., Gut 2026)。体重が標準でも、血糖値や中性脂肪、血圧などに異常がある場合は MASLD に該当し、代謝の異常が多いほど大腸がんのリスクも段階的に高まります。甘い飲み物の多い食生活は体重と関係なく肝臓に脂肪をためることも示されています(Johnson et al., Nat Metab 2026)。
体格にかかわらず、食習慣と代謝の状態を見直すことが大切です。

Q5. GLP-1 受容体作動薬(ウゴービなど)は、大腸がんの予防のために使えますか?

現時点では、がん予防そのものを目的として GLP-1 受容体作動薬を使用することは確立していません。ESSENCE 試験ではセマグルチドが脂肪肝炎の改善と線維化の改善に有効であることが示され(Sanyal et al., N Engl J Med 2025)、肥満の成人を対象とした研究ではGLP-1 受容体作動薬の使用者でがん全体のリスクが 17%低いことが報告されています(Dai et al., JAMA Oncol 2025)。ただし、これらのがんに関するデータは観察研究に基づくものです。肥満症や 2 型糖尿病などの治療として適応がある方では、脂肪肝や代謝の改善を通じた副次的な効果が期待されますので、医師と相談のうえで検討してください。

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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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