【肺機能検査】風邪やPM2.5はこどもの肺に何を残すのか――将来のCOPDリスクを考える
■幼少期の繰り返す気道炎症が将来の呼吸器疾患リスクとなる理由と根拠
幼少期に肺や気道に炎症(例えば気管支炎や肺炎、重度の喘息発作など)を繰り返すことは、成長後の呼吸器疾患リスクを高める重要な要因と考えられています。その背景には、子どもの頃に肺の発育が阻害され最大限に成長できないと、大人になってから肺機能が低下しやすくなり、慢性の呼吸器疾患(特に閉塞性障害)につながる可能性があるという知見があります。世界保健機関(WHO)も「幼少期の頻繁かつ重度な呼吸器感染症は肺の成長を妨げ、将来COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの原因になり得る」と指摘しています。
実際、イギリスで行われた長期追跡研究(1946年生まれの人々を数十年追跡)では、生後2歳までに気管支炎や肺炎などの下気道感染症(LRTI)に罹患した子どもは、成人後に呼吸器疾患で早死にするリスクが約2倍に増加したと報告されました。具体的には、2歳未満でLRTIを起こした群では、その後の呼吸器疾患による早期死亡率がそうでない群の約2.1%と比べて2倍近い4%に上昇しており、幼少期の肺感染症が何十年も後の肺の健康に影響を及ぼしうることが示されたのです。研究の著者らは「幼児期の肺炎・気管支炎が成人後の肺機能低下、喘息、COPDの発症と関連する」こと自体は以前から指摘されていたものの、これほど長期間追跡して成人期の死亡リスクまで関連づけたのは初めてだと述べています。
また、幼少期に喘息を患った場合、とくに重症の喘息を繰り返した場合には、将来のCOPD発症リスクが大幅に高まることが知られています。オーストラリアの有名な追跡研究(タスマニア幼児喘息スタディ)では、7歳時点で重度の喘息症状があった子どもは、50歳頃までにCOPDを発症するリスクが同年代で幼少期に喘鳴がなかった人の32倍にも達したと報告されました。この研究ではCOPDと診断されたグループの約4割が非喫煙者であったことから、喫煙以外の要因として「子どもの頃の重い喘息」がCOPDの重要な原因になり得ることが示唆されています。その他の疫学調査でも、「小児ぜんそく」や「小児期のぜーぜーする気管支炎」を経験した人は、成長後に肺活量や1秒量といった肺機能指標が低く、将来COPDを発症しやすいことが示されています。例えばスコットランドの長期研究では、子どもの頃に「ぜんそく性気管支炎」を起こした人は、成人後に明らかな肺活量低下がみられ、COPDになるリスクも有意に高かったと報告されています。これらの事実から、幼少期の繰り返す気道の炎症(感染症や喘息発作)は、肺の成長に不可逆的な影響を与え、気道の構造を変化させたり(リモデリング)、最大肺機能の獲得不足を招くことで、将来的な閉塞性肺疾患(COPDや成人喘息)の土台を作ってしまうと考えられます。
■PM2.5など環境要因と肺発達・成人後の呼吸機能低下の関係
私たちが日常的に吸っている大気中のPM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質)などの大気汚染物質も、子どもの肺の発達や成人後の呼吸機能に影響を与えることが分かってきました。PM2.5は非常に細かいため鼻や喉で捕捉されず肺の奥深くまで入り込み、そこで炎症や酸化ストレスを引き起こします。その結果、肺の組織に慢性的なダメージを与え、気道が狭く硬くなる(線維化する)ことで空気の通り道を少しずつ塞いでしまい、呼吸機能を低下させると考えられています。こうした大気汚染による影響は子どもと大人の両方で問題になりますが、特に発育途中の子どもでは影響が大きい可能性があります。事実、これまでの疫学研究の蓄積からは「大気中PM2.5濃度の改善は子どもの肺機能発達の改善につながる」ことが示されています。例えばアメリカ・ロサンゼルスの児童を対象とした有名な研究(チルドレン・ヘルス・スタディ)では、1990年代から2000年代にかけてPM2.5など大気汚染濃度が下がった地域ほど、思春期までの子どもの肺活量の伸びが良くなり、18歳時点での肺機能値が明らかに向上したという結果が報告されています(※引用論文より)。これは空気をきれいにすることが、子どもの肺の成長を助けるエビデンスであり、環境政策の重要性を裏付けるものです。
一方で、比較的汚染レベルが低い環境における影響についても調べられています。日本国内で行われた大規模縦断研究では、年間平均PM2.5濃度がおおよそ10~20 µg/m3程度の比較的クリーンな地域に住む小学生1,400人以上を4年間追跡し、肺機能の発達との関係を解析しました。その結果、この濃度範囲(年平均13.5 µg/m3程度)のPM2.5曝露では、小児期の肺活量や1秒量の成長への目立った影響は観察されませんでした。つまり日本の都市部レベル(年平均10~20µg/m3程度)のPM2.5濃度では、短期的には子どもの肺発達に有意な悪影響は確認できなかったという報告です。この結果は一見安心材料に思えますが、研究グループは「さらに低濃度でも長期的影響がないかどうか慎重に見極める必要がある」と述べており、今後中学生以降まで引き続き追跡調査が行われる予定です。
しかし国際的な研究では、やはりPM2.5を含む大気汚染物質への長期曝露は成人の肺機能を着実に低下させることが強く示されています。たとえば2025年に発表された世界各地の研究をまとめた大規模解析では、PM2.5濃度が長期間10 µg/m<sup>3</sup>高いと、成人のFEV1.0(1秒量)が平均で数十ミリリットル低下することが報告されました。同様に、慢性的な大気汚染への曝露は努力肺活量(FVC)も有意に減少させることが確認され、オゾンやNO2など他の汚染物質についてもほぼ一貫して「濃度が高いほど肺機能が低い」という関連が示されています。こうしたエビデンスの蓄積により、専門家は「長期的な大気汚染曝露は肺の健康を損ない、肺機能の早期かつ過度な低下(老化)を招いて、結果的に本来防げたはずの呼吸器疾患を引き起こす」と警鐘を鳴らしています。実際、近年では非喫煙者のCOPDの増加が注目されていますが、世界規模で見るとCOPD症例の約半数は喫煙以外の要因が原因であり、家庭内でのバイオマス燃焼や職業性粉じん曝露と並んで、大気汚染(PM2.5など)は主要なリスク因子と位置づけられています。別の言い方をすれば、「空気が汚い場所で子ども時代を過ごしたり、大人になってからも長年汚染物質にさらされ続けると、将来の喘息やCOPDなど慢性肺疾患のリスクが高まる」ということです。
現在、世界人口のほとんど(推計で99%)はWHOの定める基準を超えた空気質の地域に暮らしているとされ、PM2.5対策は喫緊の課題です。幸い、大気汚染は喫煙と違い社会全体の取り組みで改善し得る「修正可能なリスク因子」です。ディーゼルトラックの排ガス規制や工場からの排出削減、クリーンエネルギーの推進といった公衆衛生施策によって汚染濃度を下げることで、将来世代の肺の健康を守れる可能性があります。実際、前述のロサンゼルスの研究のように、空気がきれいになれば子どもの肺もより大きく育つのです。環境要因と呼吸器疾患の関連は年々明らかになってきており、「子どもの頃から健康な肺を育てるにはきれいな空気が不可欠」と言えるでしょう。
■肺機能検査(スパイロメトリー)の意義と具体的なパターン
肺機能検査(スパイロメトリー)とは、呼吸の機能を調べる代表的な検査で、主に「どれだけたくさん息を吸って吐けるか(肺の容量)」と「どれだけ速く息を吐き出せるか(気道の通りやすさ)」を測定します。やり方はシンプルで、専用の機械(スパイロメータ)に思い切り息を吸って吐く動作をしてもらい、吐き出された空気の量や速度を記録します。風船を膨らませたり縮ませたりするのをイメージすると分かりやすいですが、人によって「風船の大きさ」(肺活量)や「空気を押し出す勢い」(1秒量など)には差があり、肺や気道の病気があると特徴的なパターンが現れます。スパイロメトリーは喘息やCOPDの診断確認にも欠かせない検査で、症状からこれらの病気が疑われる場合は息を吹く検査で実際に空気の通りが悪くなっていることを確認します。COPD(慢性閉塞性肺疾患)の場合、典型的には息切れや咳の症状が中年以降に現れますが、確定診断にはこの肺機能検査で「息を吐く力が低下し閉塞性のパターンになっている」ことを証明する必要があります。ところが残念ながらスパイロメトリーは設備や技術者の問題で必ずしも世界中どこでも受けられる検査ではなく、特に発展途上国ではCOPDが見過ごされている原因にもなっています。日本では呼吸器内科などで比較的容易に検査できますので、喫煙者や長年咳・息切れが続く方は一度検査を受けてみると良いでしょう。
スパイロメトリーで得られる主な指標には、肺活量(VC)と1秒量(FEV1.0)があります。肺活量とは「ゆっくり深呼吸したときに吐き出せる空気の総量」のことで、健康な人なら年齢や身長によって決まる予測値の80%以上あれば正常とされます。肺活量が低下するのは、例えば肺が線維化して固く小さくなっている場合(間質性肺疾患)や、胸郭の変形(重度の側弯症など)、呼吸筋力の低下(神経筋疾患など)といった状況で、要するに「肺そのものが大きく膨らめない状態」を示します。このような肺活量の減少を特徴とする障害を「拘束性(こうそくせい)障害」と呼びます。拘束性障害では肺全体の容積が制限されているため、深く息を吸ったり吐いたりすること自体が難しくなります。ただし気道が狭いわけではないので、息を吐くスピード自体(1秒量の割合)は比較的保たれるのが特徴です。スパイロメトリー上は、グラフ全体の大きさ(吐ける容量)が小さいものの、形のカーブ自体は概ね正常に近いパターンとして現れます。典型的には肺線維症や重度の肥満症などで見られる所見です。
一方、1秒量(FEV1.0)とは「思い切り息を吐いたとき、最初の1秒間で吐き出せる空気の量」のことです。気道が健康でスムーズに空気が通る人ほど1秒量が多くなり、逆に気道が狭かったり痰で詰まっていたりすると1秒間で出せる息の量が少なくなります。この1秒量と肺活量の比率(FEV1.0/FVC比、いわゆる1秒率)が、肺機能検査では非常に重要な指標となります。正常な人では1秒率は概ね70%以上ありますが、70%未満に低下している場合「閉塞性(へいそくせい)障害」が疑われます。閉塞性障害とは、気道が狭くなって息を吐き出しにくい状態のことで、スパイロメトリーでは「肺活量はそれほど低下しないか正常範囲だが、1秒量が低いため1秒率が低下する」というパターンを示します。息を吐こうとしても途中で空気の通りが悪く抵抗がかかるため、一気に吐けず時間がかかるのが特徴です。グラフで見ると、息を吐き始めのピークの流量が低く、ゆっくりだらだら吐き出すようなカーブになります(専門的には「息を吐くのに時間がかかる(呼気延長)」と表現します)。代表的な疾患は喘息やCOPDで、実際この1秒率は喘息・COPDなど気道が狭くなる病気を簡便に見つける指標として用いられています。例えばCOPDの診断基準では、肺活量に対する1秒量の割合が0.7未満(=70%未満)であることが必要条件の一つになっています。この閉塞性障害では、気管支拡張薬(吸入薬)を使った後に1秒量がどれくらい改善するかを見ることで、喘息(可逆的な閉塞)かCOPD(不可逆的な閉塞)かの鑑別にも役立ちます。
なお、スパイロメトリーでは他にも特徴的なパターンとして「上気道閉塞」を検出できる場合があります。上気道閉塞とは、のどから気管にかけての太い気道が狭くなっている状態です。原因としては喉頭(声帯)の異常や気管の腫瘍、甲状腺腫による気道圧迫などがありますが、スパイロメトリーのフローボリューム曲線(息を吐き吸いする流量と量の関係を示すグラフ)上で独特の所見を呈します。具体的には、息を吐く局面だけでなく吸う局面でも流れのピークが頭打ちになり、グラフが上下に平坦に削られたような形になります。例えると「太めのストローで息を吐くときだけでなく吸うときにも抵抗がかかってスムーズに空気が通らない」ような状態です。こうしたパターンは甲状腺の腫れによる気管圧迫や大きな声帯ポリープ、気道の狭窄を起こす腫瘍などで見られ、発見次第さらなる詳しい検査(画像検査や内視鏡検査)につなげる必要があります。
このように、肺機能検査で得られる数値やグラフのパターンを読み取ることで「換気障害のタイプ」を判別することができます。簡潔にまとめると、閉塞性障害は「空気は入るが出にくい(気道が細い)」状態、拘束性障害は「空気自体があまり入らない(肺が小さい)」状態、上気道閉塞は「喉や気管の入口が狭く詰まっている」状態と言えるでしょう。それぞれ原因となる疾患が異なるため、スパイロメトリーでどのパターンかを見極めることは診断に直結します。専門医はこれらの検査結果と症状・画像所見を組み合わせて総合的に判断し、最適な治療方針を決定します。肺機能検査は痛みもなく短時間でできる検査ですので、呼吸器の不調がある場合は早めに受けてみることをお勧めします。
■FAQ(よくある質問と回答)
Q1. 閉塞性障害とは何ですか?
閉塞性障害とは、気道が何らかの原因で狭くなり、息を十分に吐き出せなくなった状態を指します。肺から空気を出す「通り道」に障害があるため、一気に吐こうとしても空気の流れが妨げられ、呼吸に時間がかかります。スパイロメトリー検査では、1秒率(FEV1.0/FVC比)が低下し、一般に70%未満であれば閉塞性換気障害と判定されます。このパターンは喘息やCOPDなど、気道が細くなる病気で典型的に認められます。例えば喘息発作時には気道の筋肉が収縮し粘液で詰まるため息が出にくくなりますし、COPDでは慢性的な炎症で気管支が狭く壊れているため常に息苦しさがあります。閉塞性障害では、吸うことよりも吐くことが苦しくなるのが特徴です。なお、閉塞性障害かどうかは呼吸機能検査でないと正確には判断できないため、症状がある場合は専門医での検査をおすすめします。
Q2. 子供の頃に喘息や気管支炎を繰り返すと、将来COPDなどになりますか?
幼少期の喘息発作や気管支炎(肺炎)を繰り返すことは、将来のCOPD発症リスクを確かに高めますが、必ずしも全員がCOPDになるわけではありません。リスク要因であって決定因子ではないということです。ただし医学研究からは無視できない関連が示されています。例えば、7歳までに重度の喘息を患った子どもは、そうでない子どもに比べて大人になってからCOPDを発症する確率が大幅に高く、ある追跡研究ではリスクが32倍にも達したとの報告があります。また幼少期に肺炎や気管支炎など下気道感染症にかかった人は、成人後に肺機能が低めで喘息やCOPDになりやすいことも分かっています。これは子どもの頃の肺の損傷や発育不足が大人になって響くためと考えられます。一方で、こうしたリスクを下げる努力も重要です。喘息であれば適切な治療で発作を減らすこと、成長後は禁煙して追加の肺ダメージを避けること、肺炎を繰り返す場合には、予防接種(インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなど)で重症感染を防ぐことなどが有効です。つまり、子どもの頃に呼吸器トラブルがあった人でも、生活習慣や医療介入によって将来COPDにならずに済む可能性は十分あります。定期的な検診で肺機能をチェックし、早め早めの対応を心がけましょう。
Q3. PM2.5はどのくらい肺に悪いのですか?
PM2.5は非常に微小な粒子のため肺の奥深くまで入り込み、肺にとって“悪者”であることは間違いありません。短期的に高濃度にさらされると気道を刺激して咳や喘息症状を悪化させますし、長期的に吸い続ければ徐々に肺機能が低下し、慢性的な呼吸器疾患の原因になります。実際、世界中の都市を比較した研究では、空気の汚染度が高い地域ほど平均的な肺活量や1秒量が低い傾向が明らかになっています。例えば統計解析によれば、PM2.5濃度が長年10 µg/m3高い環境に住む人は、肺活量(FVC)が約25 mL低いといった影響が報告されています。一見わずかな差に感じるかもしれませんが、人口レベルでは有意な違いです。またPM2.5は肺がんや心血管疾患のリスクも高める可能性が指摘されており、WHOは「PM2.5は公共の健康に対する重大な脅威」と警告しています(2021年に基準値を大幅強化し、年平均5µg/m<sup>3</sup>以下を推奨)。さらに、喫煙しなくても大気汚染の酷い地域で暮らすだけでCOPDになるケースもあり、大気汚染は喫煙に次ぐCOPDの原因とも言われます。要するに、PM2.5は少しずつ肺を“錆びつかせる”ようなものなのです。ただし影響の大きさは濃度や暴露期間によります。短時間マスク無しで外出した程度で深刻な肺ダメージを負うわけではありませんが、日常的に高い汚染にさらされる環境はできるだけ避け、綺麗な空気を吸う習慣が大切です。
Q4. 子どもをPM2.5など大気汚染から守るにはどうすれば良いでしょうか?
子どもの肺を大気汚染から守るには、汚染された空気にできるだけ触れさせないことが基本です。具体的には、まず地域のPM2.5値や大気汚染状況を把握し、数値が高い日は不要不急の外出や屋外での激しい運動を控えるようにします。近年は環境省や気象庁のサイト、天気予報アプリなどでPM2.5予報が提供されていますので活用しましょう。どうしても外出が必要な場合は、高性能マスク(N95マスクなど微粒子を捕集できるもの)を着用することでかなりの粒子を防げます。また家庭内では空気清浄機を使用して室内空気を綺麗に保つことも有効です。換気の際は、大気汚染のひどい時間帯(交通量の多い朝夕など)を避け、空気のきれいなタイミングで窓を開けるよう工夫しましょう。加えて、喫煙者は屋内で絶対にタバコを吸わないことも重要です(副流煙もPM2.5同様に有害です)。社会的な取り組みとしては、地域の大気汚染対策(車両規制や工場の排煙規制)に関心を持ち、クリーンなエネルギーや交通手段を選ぶことも長期的には子どもたちを守ることにつながります。実際、空気の質が改善すれば子どもの肺機能発達も良くなることが研究で示されています。家庭と社会の両面から、大人の責任として子どもにできるだけ綺麗な空気を提供できる環境づくりを目指しましょう。
Q5. タバコを吸っていなくてもCOPDになることはありますか?
はい、喫煙しない人でもCOPDになることがあります。近年「非喫煙者のCOPD」が注目されていますが、原因としては幼少期の肺の成長不足や重い呼吸器感染症、大気汚染(PM2.5曝露)、受動喫煙、職業性粉じん曝露など様々なものが判明しています。実は世界全体で見れば、COPD患者の約半数は生涯非喫煙者だという推計もあり、「タバコを吸わない=肺が安心」とは言い切れません。例えば発展途上国の農村部では、調理や暖房に使う薪や石炭の煙(屋内のPM2.5濃度が非常に高くなります)を長年吸い込むことでCOPDになる主婦の方々が少なくありません。また幼い頃に重度の喘息や肺炎に罹った人が中年以降に徐々に肺機能が低下し、気づいたときにはCOPDと診断されるケースもあります。このように喫煙以外にも油断できないリスク因子は多々ありますので、「息切れしやすい」「長引く咳や痰がある」といった症状がある非喫煙者の方も、「自分はタバコを吸わないからCOPDじゃない」と決めつけずに一度肺機能検査を受けてみることをおすすめします。早期発見できれば、生活指導や吸入薬などで進行を食い止めたり症状を軽減することが可能です。
参考文献
- Allinson JP, Hardy R, Donaldson GC, et al. Early childhood lower respiratory tract infection and premature adult death from respiratory disease in Great Britain: a national birth cohort study. Lancet. 2023;401(10383):1183-1193healthpolicy-watch.newshealthpolicy-watch.news.
- Tai A, Tran H, Roberts M, et al. The association between childhood asthma and adult chronic obstructive pulmonary disease. Thorax. 2014;69(9):805-810pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov.
- Yang IA, Jenkins CR, Salvi SS. Chronic obstructive pulmonary disease in never-smokers: risk factors, pathogenesis, and implications for prevention and treatment. Lancet Respir Med. 2022;10(5):497-511pubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov.
- Takebayashi T, Taguri M, Odajima H, et al. Exposure to PM<sub>2.5</sub> and Lung Function Growth in Pre- and Early-Adolescent Schoolchildren: A Longitudinal Study Involving Repeated Lung Function Measurements in Japan. Ann Am Thorac Soc. 2022;19(5):763-772env.go.jp.
- Gross A, Tham R, Dharmage SC, et al. Long-term ambient air pollution exposure and adult lung function: a systematic review and meta-analysis. Eur Respir Rev. 2025;34(176):240264pmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov.
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
