病気と健康の話

【糖尿病】糖尿病の薬、”HbA1c”だけではわからない〜最新論文 10 本で読み解く血糖降下薬のリアル〜

糖尿病の治療といえば「HbA1c を下げること」が長らく中心的な目標とされてきました。しかし近年、世界の糖尿病診療は大きく変化しつつあります。HbA1c という「平均点」だけでは測れない血糖変動の質、低血糖の有無、そして心臓や腎臓を守る作用といった多面的な視点から、血糖降下薬を選ぶ時代に入っています。

本コラムでは、2026 年に発表された最新の大規模比較試験「GRADE 試験」の持続血糖モニタリング(CGM)解析を中心に、欧米の権威ある医学雑誌(New England Journal of Medicine、Lancet、Diabetes Care など)に掲載された最新論文 9 編を合わせた計 10 編を読み解きながら、血糖降下薬の「リアル」な実力と使い分けについて、エビデンスに基づいて解説します。2 型糖尿病の治療を受けている方、そしてご家族の方にとって、薬の意味を理解する一助となれば幸いです。

第 1 部 GRADE 試験: 4 種類の血糖降下薬を CGM で徹底比較

(Bergenstal RM, et al. Diabetes Care 2026;49(00):1-9)

1-1. GRADE 試験とはどのような研究か

GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Diabetes)試験は、米国国立衛生研究所(NIH)が主導した大規模比較試験で、5,047 名の 2 型糖尿病患者を対象としています。対象となった患者さんは、糖尿病の罹病期間が 10 年未満、メトホルミン単独で治療中、HbA1c は 6.8〜8.5%という方々でした。これらの患者さまを、インスリングラルギン(基礎インスリン)、グリメピリド(スルホニル尿素薬=SU 薬)、リラグルチド(GLP-1 受容体作動薬)、シタグリプチン(DPP-4 阻害薬)の 4 群に無作為に割り付け、平均 5 年間にわたり追跡しました。今回の CGM解析は、そのうち 1,080 名を対象として、2 週間にわたり血糖値を連続的に記録する「盲検化された CGM」を用いた頭突き合わせ比較であり、この規模の 4 剤比較 CGM データは世界初となります。

1-2. 4 剤の 24 時間血糖プロファイル(AGP)の違い

CGM によって描き出された 24 時間の血糖プロファイル(Ambulatory Glucose Profile:AGP)は、各薬剤の「個性」を鮮やかに浮き彫りにしました。インスリングラルギン群では、午後 3 時から夜 12 時にかけて血糖値が他剤よりもやや高めに推移する傾向が見られました。これは、前日就寝前に注射した基礎インスリンの作用時間が終盤に差し掛かること、および基礎インスリンだけでは食後高血糖を完全には抑えきれないことを示唆します。一方、シタグリプチン群では夜間の血糖値がやや高めでした。グリメピリド群では血糖値の振れ幅(ばらつき)が顕著に大きく、リラグルチド群とシタグリプチン群は一日を通じて最も安定したプロファイルを描きました。平均血糖値だけでは見えない「血糖の形」の違いが、CGM によって初めて可視化されたのです。

1-3. 血糖変動係数(%CV)— 血糖管理の質を示す新指標

血糖変動係数(%CV)は、血糖値のばらつきを数値化した指標で、国際コンセンサスでは 36%未満が推奨されています。GRADE 試験では、インクレチン関連薬であるシタグリプチン群の%CV は 24.9%、リラグルチド群は 25.4%と極めて低く、血糖が安定していました。一方、グリメピリド群の%CV は 30.7%と最も高く、インスリングラルギン群も 29.2%と高めでした。全てのペア間比較で、インクレチン関連薬 2 剤は他の 2 剤より統計学的に有意に低い%CV を示しました(P<0.001)。血糖変動が大きいほど酸化ストレスや血管内皮障害を介して糖尿病合併症リスクが高まる可能性が指摘されており、%CV は単なる平均血糖を超えた「管理の質」を示す指標として注目されています。

1-4. 低血糖のリアル — 数値より深刻な真実

低血糖は、糖尿病治療における最も重要な安全性の課題の一つです。GRADE 試験では、1 日のうち血糖 70mg/dL 未満の時間(TBR<70)は、グリメピリド群で 8.6%と最も多く、次いでインスリングラルギン群 5.6%、リラグルチド群 4.9%、シタグリプチン群 3.6%という順でした。さらに深刻な血糖 54mg/dL 未満の時間(TBR-VL<54)も同様の傾向を示しました。注目すべきは、グリメピリドだけが「日中の低血糖」を示した唯一の薬剤だったことです。他の 3 剤では低血糖は主に夜間でしたが、グリメピリドでは昼間にも低血糖が発生していました。また、14 日間の CGM 期間中の低血糖エピソード回数も、グリメピリド群は他剤の 2 倍以上であり、全てのペア比較で P<0.001 という圧倒的な差が出ました。これらの知見は、近年のガイドラインで「SU 薬の使用が減少している傾向」の科学的根拠を補強するものとなりました。

1-5. ADA コンセンサス目標の達成率

米国糖尿病学会(ADA)が推奨する理想的な血糖管理目標、すなわち「TIR(Time in Range:血糖 70-180mg/dL の時間)>70%かつ低血糖時間 TBR<70 <4%」という複合目標の達成率は、シタグリプチン群 64.3%、リラグルチド群 59.2%、インスリングラルギン群 49.2%、グリメピリド群 32.6%という結果でした(P<0.001)。さらに厳しい「TIR>70%かつ TBR-VL<54 <1%」の達成率は、シタグリプチン 76.4%、リラグルチド 77.2%、グラルギン 61.3%、グリメピリド 44.6%でした。つまり、インクレチン関連薬は「高血糖も低血糖も少ない、理想的な血糖管理」を最も達成しやすい薬剤であることが、ランダム化試験で初めて明確に示されました。同じ HbA1c であっても、CGM 指標は薬剤による明確な違いを捉えることができるという点が、本研究の最大の臨床的意義です。

1-6. 臨床への示唆 — HbA1c の先へ

GRADE 試験の CGM 解析は、「HbA1c だけでは糖尿病治療の質を評価できない」という事実を強く示しました。インクレチン関連薬(GLP-1 受容体作動薬と DPP-4 阻害薬)は、低い血糖変動係数、少ない低血糖、高い TIR 達成率という三拍子を揃えた薬剤クラスであることが裏付けられました。一方で、SU 薬(グリメピリド)は「HbA1c は下がるが、血糖の質は悪い」という特徴が浮き彫りとなり、ガイドラインが推奨優先順位を下げている背景が科学的に説明されます。なお、この研究はメトホルミンとの併用下でのデータであり、単剤使用時の結果とは異なる可能性がある点には注意が必要です。今後は CGM 指標と長期合併症との関連をさらに検証する縦断研究が求められており、「血糖管理の質」を問う新時代が始まっています。

第 2 部 欧米の権威ある最新論文 9 編の解説

2-1. SELECT 試験: 糖尿病でない肥満患者でも心血管病を減らすセマグルチド

(Lincoff AM, et al. New England Journal of Medicine 2023;389:2221-2232)

SELECT 試験は、41 カ国 17,604 名という大規模な対象者を登録した国際共同試験です。対象は 45 歳以上、BMI 27 以上、心筋梗塞・脳卒中・末梢動脈疾患などの心血管病既往があり、糖尿病は持たない方でした。週 1 回のセマグルチド 2.4mg 皮下注射またはプラセボを平均約40 カ月投与した結果、心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の複合主要評価項目は、セマグルチド群で 6.5%、プラセボ群で 8.0%と、相対リスクで 20%の有意な減少を認めました(ハザード比 0.80、95%信頼区間 0.72-0.90、P<0.001)。さらに全死亡や心不全複合イベントも有意に減少しました。GLP-1 受容体作動薬は「血糖を下げる薬」から「心血管病を予防する薬」へとその位置づけを大きく変えつつあります。平均体重減少は約 9.4%であり、体重減少だけでなく血圧・脂質・炎症・血管機能への多面的作用が心血管保護に関与していると考えられます。

2-2. SURPASS-CVOT 試験: チルゼパチドはデュラグルチドに劣らず

(Nicholls SJ, et al. New England Journal of Medicine 2025)

SURPASS-CVOT 試験は、2 型糖尿病かつ動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有する 13,299 名を対象に、週 1 回のチルゼパチド(GIP/GLP-1 デュアル作動薬)と週 1 回のデュラグルチド(GLP-1受容体作動薬)を頭突き合わせで比較した史上初の大規模ランダム化試験です。中央値 4 年の追跡期間で、心血管死・心筋梗塞・脳卒中の 3 点複合主要評価項目はチルゼパチド群 12.2%、デュラグルチド群 13.1%であり、非劣性が統計学的に確認されました(P=0.003)。冠動脈血行再建術を含む拡大複合評価項目ではチルゼパチド群 16.5%、デュラグルチド群 18.5%と有意な減少を認めました。全死亡もチルゼパチド群 8.6%、デュラグルチド群 10.2%と、チルゼパチドで 16%の相対減少を示しました。体重減少、血糖コントロール、血圧、脂質プロファイルいずれもチルゼパチドが上回り、2 型糖尿病の心血管リスクの高い方への新たな治療選択肢としてのポジションを確立した重要な試験と言えます。

2-3. EMPA-KIDNEY 試験: 慢性腎臓病の進行を抑えるエンパグリフロジン

(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. New England Journal of Medicine 2023;388:117-127)

EMPA-KIDNEY 試験は、8 カ国 241 施設で 6,609 名の慢性腎臓病(CKD)患者を対象に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン 10mg/日の有効性を検証したランダム化試験です。対象は eGFR20-45mL/min/1.73m²、または eGFR 45-90 かつアルブミン尿≥200mg/g クレアチニンという幅広い CKD 患者で、糖尿病の有無を問わず登録されました。約 54%が糖尿病を持たない非糖尿病性 CKD でした。中央値 2 年の追跡で、主要評価項目(末期腎不全・eGFR 40%以上の持続低下・腎死または心血管死の複合)はエンパグリフロジン群 13.1%、プラセボ群 16.9%、ハザード比 0.72(95%信頼区間 0.64-0.82、P<0.001)と、相対リスクで 28%の有意な減少を認めました。この効果は糖尿病の有無や eGFR の範囲を問わず一貫しており、SGLT2 阻害薬は今や CKD 治療の標準治療の一翼を担っています。

2-4. FLOW 試験: セマグルチドが糖尿病性腎臓病の進行を抑える

(Perkovic V, et al. New England Journal of Medicine 2024;391:109-121)

FLOW 試験は、GLP-1 受容体作動薬を用いた史上初の「腎臓アウトカムを主要評価項目とした大規模試験」です。2 型糖尿病かつ CKD を有する 3,533 名(eGFR 50-75 かつアルブミン尿300-5,000mg/g、または eGFR 25-50 かつアルブミン尿 100-5,000mg/g)を対象に、週 1 回のセマグルチド 1.0mg 皮下注射またはプラセボを投与しました。中央値 3.4 年の追跡で、主要評価項目(腎不全、eGFR 50%以上の持続低下、腎死または心血管死)はセマグルチド群 5.8/100人年、プラセボ群 7.5/100 人年、ハザード比 0.76(95%信頼区間 0.66-0.88、P=0.0003)と、24%の有意な減少を認めました。さらに主要心血管イベントは 18%減少、全死亡は 20%減少しており、eGFR の低下速度も有意に緩やかでした。本試験の結果によって、糖尿病性腎臓病に対する治療の 4 本柱は「ACE 阻害薬/ARB、SGLT2 阻害薬、非ステロイド系 MR 拮抗薬(フィネレノン)、そして GLP-1 受容体作動薬」となりました。

2-5. DELIVER 試験: HFpEF/HFmrEF にも効くダパグリフロジン

(Solomon SD, et al. New England Journal of Medicine 2022;387:1089-1098)

DELIVER 試験は、左室駆出率(LVEF)40%超の心不全(保持駆出率心不全 HFpEF および軽度低下駆出率心不全 HFmrEF)6,263 名を対象に、ダパグリフロジン 10mg/日の効果を検証したランダム化試験です。平均追跡期間 2.3 年で、主要評価項目である心不全悪化イベント(心不全入院または心不全緊急外来受診)または心血管死の複合イベントはダパグリフロジン群 16.4%、プラセボ群19.5%、ハザード比0.82(95%信頼区間0.73-0.92、P<0.001)と、相対リスクで18%の有意な減少を認めました。効果は LVEF の範囲、糖尿病の有無、年齢、フレイル度を問わず一貫していました。LVEF が低下した心不全(HFrEF)を対象とした先行試験 DAPA-HF と合わせて、SGLT2 阻害薬は「左室駆出率を問わず全ての心不全の標準治療薬」としての地位を確立しました。糖尿病治療薬の枠を超えた心血管治療薬としての重要性が、近年ますます高まっています。

2-6. UKPDS 91: 44 年追跡で示された「早期介入の重要性」

(Adler AI, et al. Lancet 2024;404:145-155)

UKPDS(UK Prospective Diabetes Study)は、1977 年から 1997 年まで英国で行われた、新規診断2 型糖尿病患者 5,102 名を対象とした大規模ランダム化試験です。2024 年に Lancet 誌に発表された UKPDS 91 では、試験終了後の追跡を合わせ最長 42 年、中央値 17.5 年という類を見ない長期データが報告されました。早期の強化血糖管理群(SU 薬またはインスリン)は、従来治療群と比較して 24 年後においても、全死亡で 10%、心筋梗塞で 17%、微小血管合併症で26%の相対リスク減少が持続していました。また、肥満例に対する早期のメトホルミン強化治療群では、24 年後も心筋梗塞 31%、全死亡 20%、糖尿病関連死 25%の有意な減少が示されました。これらは「早期に血糖をしっかり管理すると、その恩恵は何十年も続く」という「レガシー効果(メタボリックメモリー)」を科学的に裏付けるものであり、糖尿病と診断された直後こそが治療の最大の好機であることを強く示しています。メトホルミンが今なお第一選択薬である科学的根拠の一つです。

2-7. ADA Standards of Care 2025: 最新の臨床指針

(American Diabetes Association Professional Practice Committee. Diabetes Care 2025;48(Suppl 1):S1-S352)

米国糖尿病学会(ADA)は、毎年「糖尿病ケアの基準(Standards of Care)」を更新しています。2025 年版の主要な更新点として、「インスリン非使用の 2 型糖尿病患者への CGM の積極的な検討」が明記されました。これは、GRADE 試験を含む最新エビデンスを反映したものです。また、GLP-1 受容体作動薬は「減量目的を超えて、心血管病・腎臓病への恩恵のために使用」という位置づけが一層強化されました。ASCVD(動脈硬化性心血管疾患)またはそのハイリスクの 2 型糖尿病患者では、HbA1c の値にかかわらず SGLT2 阻害薬または GLP-1 受容体作動薬の併用が推奨されます。HFpEF を含む心不全を合併する方には SGLT2 阻害薬、CKD を合併する方には SGLT2 阻害薬または GLP-1 受容体作動薬が推奨されます。単に血糖を下げるだけでなく、「どの臓器を守りたいか」に応じて薬剤を選ぶ時代が、世界標準となっています。

2-8. ADA/EASD 2022 コンセンサスレポート: 心腎保護薬優先時代へ

(Davies MJ, et al. Diabetes Care 2022;45:2753-2786 / Diabetologia 2022;65:1925-1966)

米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)が共同で発表した 2022 年のコンセンサスレポートは、2 型糖尿病治療の考え方を根本から再定義した重要な指針です。本レポートでは、血糖管理を 4 つの柱、すなわち①体重管理、②血糖管理薬、③心血管リスク因子の管理、④腎臓保護、という包括的アプローチに整理しました。メトホルミンは依然として多くの患者の治療基盤ですが、心血管病・心不全・CKD を有する患者では、HbA1c の値にかかわらず SGLT2 阻害薬・GLP-1受容体作動薬を優先することが強く推奨されました。一方、SU 薬・チアゾリジン薬・インスリンは「血糖を下げる以外の追加的な恩恵に乏しい薬剤」として位置づけが相対的に下げられました。本レポートは個別化・患者中心の意思決定を強調し、社会的決定要因、健康の公平性、患者の嗜好も含めた総合的な判断を勧奨しています。日本の診療も、こうした国際的コンセンサスと同じ方向に進んでいます。

2-9. EMPA-KIDNEY 長期追跡: SGLT2 阻害薬の恩恵は中止後も続く

(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. New England Journal of Medicine 2024 / 2025)

EMPA-KIDNEY 試験の参加者 6,609 名のうち 4,891 名が、試験終了後さらに 2 年間追跡されました。この追跡期間には試験薬は投与されず、実臨床に応じた SGLT2 阻害薬の処方は両群で同程度(約 40-43%)に行われました。試験期間+追跡期間を合わせた全期間で、当初エンパグリフロジン群に割り付けられた患者群では、腎疾患進行または心血管死の主要複合評価項目が 26.2%、プラセボ群は 30.3%、ハザード比 0.79(95%信頼区間 0.72-0.87)と、有意差が持続していました。特筆すべきは、試験薬中止後も少なくとも 12 カ月間、CKD 進行抑制効果と心血管保護効果が持続していたことです。これは「2 年間 SGLT2 阻害薬を服用した効果は中止後も一定期間持続する」ことを示しており、長期的な視点で SGLT2 阻害薬を評価する重要な知見となりました。早期導入の重要性を補強するエビデンスでもあります。

総括 — 血糖降下薬のリアルとは何か

本コラムで概観した 10 編の論文は、いずれも欧米の最高権威誌に発表された最新のエビデンスです。これらを通じて見えてくるのは、血糖降下薬選びの基軸が「HbA1c 最優先」から「患者さんの全身を守る視点」へと大きくシフトしているという事実です。GRADE 試験の CGM データは、同じ HbA1c でも薬剤によって血糖の質が大きく異なることを示し、SELECT・SURPASS-CVOT・FLOW・DELIVER・EMPA-KIDNEY は GLP-1 受容体作動薬と SGLT2 阻害薬の心血管・腎臓保護効果を明らかにしました。UKPDS 91 は早期介入の価値を、ADA/EASD コンセンサスレポートと Standards of Care 2025 は臨床指針の方向性を示しています。

もちろん、全ての方に同じ薬が最適というわけではありません。年齢、併存疾患、腎機能、体重、生活スタイル、経済的事情、そして患者さん自身の価値観を踏まえ、「あなたにとって最も適切な薬」を主治医とともに決めていくことが大切です。当院では最新のエビデンスに基づき、血糖のみならず心臓・腎臓・体重・QOL を総合的に評価した治療を心がけています。ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

FAQ — よくあるご質問

Q1. HbA1c が良ければ、それだけで安心できますか?

A. HbA1c は過去1〜2 カ月の平均的な血糖値を反映する非常に重要な指標ですが、同じHbA1cでも薬剤や生活様式により「血糖の変動の仕方」が大きく異なります。GRADE 試験の CGM解析(Diabetes Care 2026)では、同程度の HbA1c でも薬剤によって血糖 70mg/dL 未満の時間や血糖変動係数が有意に異なることが示されました。血糖変動が大きいこと自体が血管内皮障害や酸化ストレスを介して合併症リスクと関連する可能性があり、海外の観察研究でも血糖変動や TIR(目標範囲内時間)と 5 年死亡率との独立した関連が報告されています。HbA1c を下げるだけでなく、「低血糖を起こさずに血糖を安定的に管理する」ことが次世代の目標です。インスリン非使用の 2 型糖尿病患者さんへの CGM の活用も、ADA Standards of Care 2025 で新たに検討事項として明記されています。

Q2. SU 薬(スルホニル尿素薬)はもう使わない方がよいのですか?

A. 一概に「使わない方がよい」とは言えませんが、優先順位は下がっているのが国際的な流れです。GRADE 試験の CGM 解析では、グリメピリドは他の 3 剤と比較して血糖変動が大きく、低血糖イベント数が 2 倍以上、さらに日中にも低血糖が生じる唯一の薬剤でした。ADA/EASD 2022 コンセンサスレポートでも、SU 薬は心血管・腎臓保護作用を持たず、低血糖と体重増加のリスクがあるため、推奨順位は後方に位置づけられています。一方、SU 薬は安価で強力な血糖降下作用を持ち、適切な用量調整により有用な場面もあります。特に低用量での使用や、適切な患者選択、家族への低血糖教育など、安全な使い方を確認しながら個別に判断することが重要です。主治医と一緒に薬の位置づけを定期的に見直しましょう。

Q3. GLP-1 受容体作動薬や SGLT2 阻害薬は、心臓や腎臓を守るのですか?

A. はい、複数の大規模試験で確認されています。SELECT 試験(NEJM 2023)では、糖尿病を持たない肥満・心血管病既往のある 17,604 名で、セマグルチド 2.4mg が主要心血管イベントを 20%減らしました。FLOW 試験(NEJM 2024)では、糖尿病性腎臓病の 3,533 名で、セマグルチド 1.0mg が腎疾患進行と心血管死の複合イベントを 24%減らし、全死亡も 20%減らしました。SURPASS-CVOT 試験(NEJM 2025)では、チルゼパチドがデュラグルチドに対して心血管イベント抑制で非劣性を示しました。SGLT2 阻害薬も EMPA-KIDNEY 試験(NEJM 2023)で腎不全・心血管死を 28%減らし、DELIVER 試験(NEJM 2022)で左室駆出率を問わず心不全悪化・心血管死を 18%減らしました。これらは「血糖を下げる」だけでなく、多くの臓器を守る薬剤であることを示す強固なエビデンスです。

Q4. 糖尿病と診断されたばかりです。どのタイミングから治療を始めるべきですか?

A. 結論から申し上げますと、「できるだけ早期に、しっかりと」が最も適切です。UKPDS 91(Lancet 2024)の 44 年追跡データは、新規診断時からの強化血糖管理が 24 年後の心筋梗塞・全死亡リスクを持続的に減らす「レガシー効果」を明確に示しました。特にメトホルミンによる早期治療では、24 年後も心筋梗塞 31%、全死亡 20%の有意な減少が持続していました。つまり、診断直後の血糖管理の質が、何十年も先の健康を左右するということです。食事・運動・体重管理といった生活習慣改善を基盤としつつ、HbA1c が高めの方、心血管リスクや腎臓病リスクをお持ちの方では、薬物療法の早期開始が望ましいことが多くあります。ADA Standards of Care 2025 でも、併存疾患を持つ方には目標 HbA1c 到達を待たずに心腎保護作用のある薬剤を追加することが推奨されています。

Q5. 肥満や体重増加が気になります。体重に影響しない薬、あるいは減量できる薬はありますか?

A. あります。2 型糖尿病治療薬の中で、体重増加を来しにくい、または減量効果を持つ主なグループは、(1)メトホルミン(体重中立〜軽度減少)、(2)SGLT2 阻害薬(2〜3kg 程度の減量)、(3)GLP-1 受容体作動薬(5〜10%前後の減量)、(4)GIP/GLP-1 デュアル作動薬(チルゼパチド、10〜20%の減量も報告)です。特に GLP-1 受容体作動薬とチルゼパチドは、体重減少と同時に血糖・血圧・脂質・心血管病・腎臓病への好影響も多面的に示されています。SELECT試験では糖尿病のない肥満患者でも心血管イベントを 20%減らしました。一方、SU 薬やインスリンは体重増加を来しやすいため、肥満を伴う 2 型糖尿病の方には、ADA/EASD 2022 コンセンサスレポートでも減量効果のある薬剤が優先されています。ただし、消化器症状(吐き気、下痢など)や低頻度ながら膵炎のリスクなど、薬剤ごとの副作用にも留意が必要ですので、主治医とご相談のうえで最適な選択を行いましょう。

参考文献

  1. Bergenstal RM, Crandall JP, Rosin SP, et al.; for the GRADE Research Group. Comparison of the Continuous Glucose Monitoring Profiles of Four Glucose-Lowering Medications in the GRADE Randomized Trial. Diabetes Care 2026;49(00):1-9. doi:10.2337/dc25-3055
  2. Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, et al.; SELECT Trial Investigators. Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes. N Engl J Med 2023;389(24):2221-2232. doi:10.1056/NEJMoa2307563
  3. Nicholls SJ, Pavo I, Bhatt DL, et al.; SURPASS-CVOT Investigators. Cardiovascular Outcomes with Tirzepatide versus Dulaglutide in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2025. doi:10.1056/NEJMoa2505928
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  6. Solomon SD, McMurray JJV, Claggett B, et al.; DELIVER Trial Committees and Investigators. Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med 2022;387(12):1089-1098. doi:10.1056/NEJMoa2206286
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※本コラムは 2026 年 4 月時点の情報に基づくものです。実際の治療方針は個々の病状により異なりますので、必ず主治医にご相談ください。
本記事は特定の薬剤を推奨するものではなく、最新のエビデンスをわかりやすくお伝えすることを目的としています。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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