【生活習慣】心臓を守る習慣は、がんも遠ざける―「慢性炎症」という共通の火種が、心臓とがんを結んでいます―
はじめに ― その努力は、心臓のためだけではありません
「血圧を下げコレステロールを下げて、毎日スクワットして血糖を下げ」。近年の研究は、心臓を守るために積み重ねてきた習慣が、そのまま「がんを遠ざける習慣」でもあることを、次々と明らかにしています。
2026 年にDiseases 誌に発表された総説(Chughtai et al., 2026)は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)とがんが、「慢性炎症」という共通の土壌を介して双方向に影響し合う関係にあることを、多数の臨床試験と疫学研究から丹念に整理しました。実際、心血管疾患をもつ人はそうでない人に比べて、その後にがんを発症するリスクが13%高いことが2,700万人規模の解析で示されています。そして逆方向にも、がんを経験した方は心血管疾患のリスクが1.47倍に上昇することが、160のコホート研究・約4,940万人を統合したメタ解析(Li et al., eClinicalMedicine 2025)で報告されました。
心臓と、がん。長らく循環器内科と腫瘍内科という別々の診療科が担当してきたこの二つの病は、体の中では同じ火種を共有しています。本コラムでは、その火種である慢性炎症のしくみ、最新の臨床試験が示した希望と限界、そして私たちが今日から実践できることを、ヨーロッパとアメリカの権威ある研究をもとに読み解いていきます。
1. 心臓とがんは双方向性という新しい常識
世界の死因の一位と二位は、心血管疾患とがんです。2023年には心血管疾患で1,920万人、がんで1,040万人が亡くなったと推計されています(Chughtai et al., 2026)。この二つは、これまで「別々の病気」として語られてきました。しかし、両者を追跡した大規模疫学研究が積み重なるにつれ、この前提は静かに崩れつつあります。
まず、心臓から、がんへ。2,700 万人以上を対象とした解析では、心血管疾患をもつ患者さんは、健常な対照群と比べてその後にがんを発症する可能性が 13%高いことが示されました。この傾向は、とくに動脈硬化性の心血管疾患をもつ方で顕著でした(Chughtai et al., 2026)。心臓の病気が、がんの発生そのものを後押ししうる――この視点は「リバース・カーディオオンコロジー(逆・心臓腫瘍学)」と呼ばれ、近年急速に研究が進んでいる分野です。
そして、がんから、心臓へ。Li らが2025年にeClinicalMedicine誌に発表したメタ解析は、160 件のコホート研究、がんサバイバー909 万人を含む約 4,940 万人のデータを統合し、がん経験者の心血管疾患発症リスクがハザード比 1.47(95%信頼区間 1.33〜1.62)であることを示しました。とくに静脈血栓塞栓症のリスクは 3.07 倍と高く、若年で診断された方や、脳腫瘍・血液がん・呼吸器のがん・乳がんの経験者でリスクが高い傾向がみられました(Li et al., 2025)。つまり、心臓とがんは一方通行ではなく、互いに互いを呼び込む「双方向の関係」にあるのです。
2. 共通の火種「慢性炎症」 ― 動脈硬化とがんが同じ土壌で育つ理由
では、なぜこの二つは結びつくのでしょうか。加齢、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病といった「共通の危険因子」があることは以前から知られていました。しかしそれだけでは説明しきれない部分を埋める鍵として浮上したのが、慢性炎症です(Chughtai et al., 2026)。
動脈硬化は、もはや単なる「血管に脂がこびりつく病気」とは考えられていません。血管の内側を覆う内皮細胞が傷つくと、酸化されたLDLコレステロールが血管壁にたまり、単球が呼び寄せられてマクロファージ(貪食細胞)に変化し、脂を抱え込んで泡沫細胞になります。この過程を指揮しているのがNF-κBという転写因子で、IL-1β、IL-6、TNF-α といった炎症性サイトカインや接着分子、マトリックスメタロプロテアーゼの産生を一斉に引き上げます(Chughtai et al., 2026)。動脈硬化とは、血管に起きた「消えない炎症」なのです。
驚くべきことに、がんが育つ場所――腫瘍微小環境――でも、ほぼ同じ分子が同じように働いています。NF-κBはがん細胞のアポトーシス(細胞の自死)への抵抗性を高め、VEGFやIL8 を介して新しい血管を呼び込み、転移と治療抵抗性を助けます。慢性的な炎症は免疫の監視をすり抜ける環境をつくり、発がんから転移まで全過程を後押しします(Chughtai et al., 2026)。ピロリ菌と胃がん、B型・C型肝炎と肝がん、潰瘍性大腸炎と大腸がんといった古典的な例は、「炎症ががんを生む」という関係をすでに私たちに教えてくれていました。動脈硬化とがんは、同じ土壌に咲いた二輪の花だったのです。
3. 炎症 ― hsCRPとIL-6 という2つの物差し
「炎症」というと熱や腫れを想像されるかもしれませんが、ここで問題になるのは自覚症状のない、ごく弱い炎症です。これを数値として捉える代表的な指標が、高感度 CRP(hsCRP)です。アメリカ心臓病学会(ACC)の見解では、hsCRPが3mg/Lを超える場合、症状のない方でも炎症性の心血管リスクが高いと判断する目安になります(Chughtai et al., 2026)。
この指標の重み付けを大きく変えたのが、Ridkerらが2023年にLancet誌に発表した研究です。スタチン(コレステロール低下薬)を服用中の患者さん3万人以上を対象とした3つのランダム化試験を統合したこの解析では、その後の心血管イベントと死亡を予測する力において、hsCRP で測った「残存炎症リスク」がLDLコレステロールで測った「残存脂質リスク」を上回っていました(Ridker et al., 2023)。コレステロールを下げきってもなお炎症がくすぶっている人がいて、その人たちのほうが危険だった――という結果です。
そしてhsCRP は、心臓だけの指標ではありません。107件の疫学研究を統合したメタ解析では、19 の解析のうち10で炎症マーカーとがん罹患の有意な正の関連が示され、なかでも最も強い関連は肺がんとCRPの組み合わせ(ハザード比2.03)でした(Chughtai et al., 2026)。CRP を肝臓に作らせる上流のサイトカインが IL-6 であり、IL-6 の上昇が最も高い群では心血管イベントリスクが 2.11 倍になることも報告されています。一本の採血が、心臓とがんという二つのリスクを同時に照らし出す可能性があるのです。
4. 炎症を抑えれば、がんも減るのか ― CANTOS試験が投げかけた問い
「炎症が両方の病気を駆動しているなら、炎症を薬で抑えれば両方が減るのではないか」。この仮説を人間で初めて正面から検証したのが、CANTOS 試験でした。IL-1β に対する抗体薬カナキヌマブを心筋梗塞後の患者さんに投与したこの試験は、コレステロールを一切下げずに心血管イベントを 15%減らし、「炎症を抑えるだけで心臓を守れる」ことを証明した歴史的な試験です(Chughtai et al., 2026)。
しかし世界を驚かせたのは、むしろ副次的な発見でした。Ridkerらが2017年にLancet誌に報告した探索的解析では、カナキヌマブ300mg群において肺がんの発症が67%減少していたのです(Ridker et al., 2017)。IL-1β がマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP-2)を誘導してがん細胞の基底膜突破を助けるという機序が提唱され、「抗炎症薬による、がん予防」という構想が一気に現実味を帯びました。
ただし、ここは慎重に読む必要があります。CANTOS 試験はもともとがんを主要評価項目とした試験ではなく、この結果はあくまで探索的な観察でした。実際、その後に行われた3つのがん領域の試験では、この肺がん抑制効果は再現されていません(Chughtai et al., 2026)。さらにカナキヌマブ群では致死的感染症が増加しており、免疫を抑えることの代償も明らかになりました。同じ抗炎症薬でも、痛風の治療薬コルヒチンでは事情が異なります。LoDoCo2試験で31%、COLCOT試験で23%の心血管イベント減少が示された一方、2025年にNew England Journal of Medicine 誌に発表された大規模なCLEAR SYNERGY(OASIS 9)試験では、心筋梗塞後のコルヒチン投与に明確な上乗せ効果は認められませんでした(Jolly et al., 2025)。仮説の魅力と、臨床試験の現実。その差を見つめることが、次章のテーマです。
5. 2026 年 ZEUS 試験の教訓 ― 「炎症の数字」を下げるだけでは足りない
抗炎症治療の切り札として最も期待されていたのが、IL-6 そのものを標的とする抗体薬ジルチベキマブでした。第2相のRESCUE試験では、慢性腎臓病でhsCRPが2mg/L以上の患者さんにおいて、12 週時点で hsCRP が最大 92%低下するという劇的な結果が得られています(Chughtai et al., 2026)。IL-6 は動脈硬化・クローン性造血・がん生物学が交わる中心に位置するため、ここを止めれば両方に効くのではないかと考えられました。
そこで組まれたのが、動脈硬化性心血管疾患と慢性腎臓病を併せもち、hsCRPが2mg/L以上に上昇した6,000 人超を対象とする第3相ZEUS試験です(Ridker et al., JAMA Cardiol 2025)。ところが2026年7月末に公表された速報では、ジルチベキマブは期待された生物学的作用――IL-6とhsCRPの明確な低下――を確かに示したにもかかわらず、心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の複合エンドポイントを減らせませんでした(ハザード比0.99、95%信頼区間 0.88〜1.11)。
この結果は、私たちに重要な教訓を残しました。「炎症マーカーが下がったこと」は、「病気が減ったこと」と同義ではないということです。Chughtai らも総説の中で、炎症バイオマーカーの低下を自動的にがん罹患やがん死亡の減少と読み替えてはならない、と明確に警告しています(Chughtai et al., 2026)。単一のサイトカインを一点集中で叩く戦略には限界があり、炎症という現象は、生活習慣・代謝・免疫・老化が織りなすネットワークの結果として立ち上がっているのだと考えられます。だからこそ、上流にある生活習慣そのものに手を入れることの価値が、逆に浮かび上がってくるのです。
6. がん治療が心臓を傷つける ― もう一つの方向、カーディオオンコロジー
双方向性のもう一方の矢印、すなわち「がんと、その治療が心臓を痛めつける」方向にも触れておきましょう。放射線治療は活性酸素を介して血管内皮を傷つけ、血小板凝集・血栓形成・プラーク破綻を促します。しかも放射線量と動脈硬化リスクは直線的な用量依存関係にあり、明確な安全閾値は見つかっていません(Chughtai et al., 2026)。
薬物療法も同様です。アントラサイクリン系抗がん剤は、がん細胞のトポイソメラーゼIIαを阻害する一方で、心筋細胞に多いトポイソメラーゼ IIβ にも作用し、DNA 二本鎖切断とp53 応答を介した心筋細胞死、さらにミトコンドリア障害と活性酸素産生を引き起こします。免疫チェックポイント阻害薬では、本来血管の炎症を抑えているPD-1/PD-L1やCTLA-4の制御が外れることでプラークが不安定化し、ある画像研究では非石灰化プラーク体積の年間進行率が対照の7倍に達したと報告されています(Chughtai et al., 2026)。VEGF阻害薬やチロシンキナーゼ阻害薬も高血圧・内皮機能障害・血栓症のリスクを高めます。
こうした背景から、ヨーロッパ心臓病学会(ESC)は 2022 年に初の「心臓腫瘍学(カーディオオンコロジー)ガイドライン」を発表し、がん治療の開始前に心血管リスクを層別化し、治療中および治療後も長期にわたって心血管管理を継続することを推奨しています(Lyon et al., Eur Heart J 2022)。注目すべきは、がんサバイバーの方はスタチンの明確な適応があるにもかかわらず、一般集団より治療を中断しやすいという指摘です(Chughtai et al., 2026)。がん治療を終えた「その後」こそ、心臓の管理が最も必要な時期なのです。
7. 血液の老化「CHIP」 ― 心臓とがんを同時に動かす上流のスイッチ
心臓とがんの結びつきを、さらに上流でつないでいる現象があります。クローン性造血(CHIP:clonal hematopoiesis of indeterminate potential)です。加齢とともに、骨髄の造血幹細胞にDNMT3A、TET2、ASXL1、JAK2 といった白血病関連遺伝子の体細胞変異が生じ、その変異をもつ細胞のクローンが少しずつ血液の中で優位になっていく――これが CHIP です。血液のがんではありませんが、その一歩手前の状態と位置づけられます。
アメリカ心臓協会(AHA)が2026年にCirculation誌へ発表した科学的声明は、CHIPを「動脈硬化、心不全、心房細動、血栓症を含む幅広い心血管疾患の危険因子」として明確に位置づけました(Rhee et al., 2026)。その機序として挙げられているのが、異常なサイトカイン産生、インフラマソーム(炎症を起こす細胞内装置)の活性化といった炎症性の経路です。とくにTET2変異はIL-1βを介したサイトカインシグナルとNLRP3インフラマソームの活性化を強めることが知られています(Chughtai et al., 2026)。CHIPをもつ方では全死亡が4050%増加し、その大半を冠動脈疾患と虚血性脳卒中が占めていました。
興味深いのは、AHA声明がCHIPに影響する「生涯にわたる要因」として、遺伝的素因に加えて肥満、慢性炎症、たばこを含む環境毒素への曝露を挙げている点です(Rhee et al., 2026)。血液の老化のスピードもまた、生活習慣によって左右されうるということになります。現時点でCHIPに対する特異的な治療法は確立しておらず、AHA声明も、従来の心血管危険因子を徹底的に管理することを軸に据えています。つまりここでも、答えは同じ場所に戻ってくるのです。
8. 手軽で強い抗炎症薬は、やはり生活習慣だった ― 数字で見るエビデンス
高価な抗体薬が超えられなかったハードルを、生活習慣は静かに越えています。アメリカ心臓協会が提唱する心血管健康指標「Life’s Essential 8」(食事、身体活動、禁煙、睡眠、体重、脂質、血糖、血圧の 8 項目)と、がんの関係を調べた研究がその代表です。イギリスのUKバイオバンクに登録された、がんの既往のない332,417人を平均12年間追跡した解析では、この心血管健康スコアが10点上がるごとに、全がんの発症リスクが男性で3%、女性で4%低下していました(Yang et al., BMC Cancer 2025)。心臓のためにつくられた指標が、そのままがん予防の指標として機能していたのです。
運動の効果は、さらに劇的です。2025年にNew England Journal of Medicine誌に発表されたCHALLENGE 試験は、大腸がんの術後補助化学療法を終えた889人を、3年間の構造化された運動プログラム群と健康教育のみの群に無作為に割り付けました。5 年無病生存率は運動群80.3%に対し対照群73.9%、全生存についてはハザード比0.63(95%信頼区間 0.43〜0.94)と、運動が「死亡を減らした」ことをランダム化試験として示したのです(Courneya et al., 2025)。これは新規抗がん剤に匹敵する効果量であり、運動がもはや「補助」ではなく治療そのものであることを物語ります。
機序の面でも辻褄が合います。定期的な運動は、脂肪組織からのサイトカイン産生を減らし、炎症を収束させる方向に働く生理活性物質(プロレゾルビング・メディエーター)を増やし、血管内皮機能を改善することで安静時CRPを低下させます。ACCは慢性の低度炎症を下げる目的で、週 150 分の中強度または週 75 分の高強度の身体活動を推奨しています(Chughtai et al., 2026)。地中海食もPREDIMED 試験で心血管イベントと炎症マーカーの低下を示し、腎がん・肝がん・大腸がん・肥満関連がんのリスク低下と関連することが報告されています。禁煙については、CRPの低下が確認されるまでに4年程度を要するという長期追跡データもあり、早く始めるほど有利であることがわかります(Chughtai et al., 2026)。
おわりに ― 二つの病に、一つの処方箋
ここまで見てきたことを、一言でまとめます。心臓を守る習慣は、結局のところ、がんを予防するための生活習慣と同じものです。両者は慢性炎症という共通基盤を介して双方向に影響し合っており、動脈硬化を抑える営みは、そのまま発がんの土壌を痩せさせる営みでもあります。
一方で、2026 年の ZEUS 試験が示したように、炎症の「数字」だけを薬で叩いても、必ずしも病気は減りませんでした(Ridker et al., 2025)。私たちの体の中で炎症を生み出しているのは、食事であり、運動量であり、睡眠であり、体重であり、たばこです。上流にある習慣に手を入れることこそが、今のところ最も確実で、最も副作用の少ない「抗炎症治療」なのです。そしてその効果は、Life’s Essential 8の研究(Yang et al., 2025)やCHALLENGE試験(Courneya et al., 2025)によって、数字として裏づけられています。
実践の第一歩は、ご自身の現在地を知ることです。まんかいメディカルクリニックでは、血液検査、CT や超音波による動脈硬化・内臓脂肪の評価を組み合わせた人間ドックを行っています。結果を踏まえて、運動療法の専門スタッフとともに一人ひとりに合った運動処方を組み立て、日曜・祝日も診療、食事・体重管理まで継続して伴走いたします。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. 心臓の病気があると、本当にがんになりやすいのですか?
疫学データはその方向を支持しています。2,700 万人以上を対象とした解析では、心血管疾患をもつ方はもたない方に比べて、その後にがんを発症する可能性が 13%高く、とくに動脈硬化性心血管疾患の患者さんで顕著でした(Chughtai et al., 2026)。逆方向も同様で、160 件のコホート研究・約4,940万人を統合したメタ解析では、がんサバイバーの心血管疾患リスクはハザード比1.47と報告されています(Li et al., eClinicalMedicine 2025)。ただしこれらは観察研究であり、「心臓病ががんを直接起こす」と断定できるものではありません。共通の危険因子である加齢・喫煙・肥満・糖尿病の影響も大きく関わっています。過度に不安になる必要はありませんが、どちらか一方をお持ちの方は、もう一方の検診も欠かさないことをお勧めします。
Q2. 健康診断でCRPが少し高いと言われました。がんの心配をすべきでしょうか?
まずご安心ください。高感度 CRP(hsCRP)のわずかな上昇は、風邪や歯周病、けが、睡眠不足など日常的な要因でも起こります。ACCは、症状のない方で一回の測定値が3mg/Lを超える場合に炎症性の心血管リスクが高いと判断する目安を示していますが、治療方針を決める前には必ず再検査による確認を推奨しています(Chughtai et al., 2026)。一方で、107 件の疫学研究を統合したメタ解析では、CRP とがん罹患、とくに肺がんとの関連(ハザード比 2.03)が示されており、持続的な上昇は軽視できません(Chughtai et al., 2026)。単発の数値に一喜一憂せず、時間をおいて再検査し、上昇が続くようであれば原因検索と生活習慣の見直しを行うのが現実的な対応です。
Q3. 炎症を抑える薬を飲めば、心臓もがんも同時に防げるのでしょうか?
現時点では、そのようにはお勧めできません。CANTOS試験でIL-1β抗体カナキヌマブが心血管イベントを 15%減らし、探索的解析では肺がんが 67%減少したと報告されました(Ridker et al., Lancet 2017)。しかしこの肺がんへの効果は、その後の3つのがん領域の試験で再現されず、致死的感染症の増加も認められています(Chughtai et al., 2026)。さらに2026 年7月に速報が出たZEUS試験では、IL-6抗体ジルチベキマブがhsCRPを確実に下げたにもかかわらず、心血管イベントは減りませんでした(ハザード比 0.99)。「炎症マーカーの低下」は「病気の減少」とイコールではありません。現段階で確実なのは、生活習慣という上流への介入です。
Q4. がんの治療が終わったあと、心臓のために何をすればよいですか?
治療終了後こそ心血管管理が重要な時期です。ヨーロッパ心臓病学会の 2022 年カーディオオンコロジーガイドラインは、がん治療前のリスク層別化に加え、治療中および治療後も長期にわたる心血管フォローアップを推奨しています(Lyon et al., Eur Heart J 2022)。アントラサイクリン系抗がん剤や放射線治療、免疫チェックポイント阻害薬を受けられた方はとくに注意が必要です。具体的には、血圧・脂質・血糖・体重の定期評価、心エコーによる心機能チェック、そして必要な方はスタチンの継続が柱になります。がんサバイバーの方はスタチンを中断しやすいという指摘があり(Chughtai et al., 2026)、自己判断での中止は避け、主治医とご相談ください。
Q5. どの生活習慣から始めるのが、最も効率的でしょうか?
エビデンスの強さで選ぶなら、運動と禁煙です。CHALLENGE 試験では、大腸がん術後の889 人を 3 年間の構造化運動プログラムに割り付けた結果、5 年無病生存率が 80.3%対73.9%、全生存のハザード比が0.63と、運動が生存を延ばすことがランダム化試験で示されました(Courneya et al., N Engl J Med 2025)。ACC は週 150 分の中強度運動を推奨しています(Chughtai et al., 2026)。禁煙は効果が現れるまで時間を要し、CRPの低下は禁煙後4年目以降に確認されたという報告があるため、一日でも早い開始が有利です。加えてLife’s Essential 8 の8項目を総合的に整えることで、がんリスクも下がることがUK バイオバンク332,417人の解析で示されています(Yang et al., BMC Cancer 2025)。まずは歩数を増やすことから始めてみてください。
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
