【生活習慣】それでも運動と食事は欠かせない―失うのは脂肪だけではない。筋肉を守りリバウンドを防ぐための最新エビデンス
はじめに ―なぜ運動と食事なのか
GLP-1 関連薬は、肥満治療の景色を一変させ「GLP-1 薬は減量の姿を変えた」と表現されるほどです。2025 年 12 月には世界保健機関(WHO)が、成人の肥満に対する GLP-1 療法の使用について初めてのガイドラインを公表しました(Celletti et al., JAMA 2026)。
しかし、薬が強力になったからこそ、見落とされがちな問題が浮かび上がっています。減った体重の中身は脂肪だけなのか。薬をやめたら体重はどうなるのか。そして、運動と食事はもう不要になったのか。本コラムでは、2026 年 9 月に米国肥満医学会の学術誌 Obesity Pillars に掲載された実臨床研究(Kucuk Yetgin et al., 2026)を軸に、NEJM、JAMA、BMJ、Lancet、Nature Medicine など欧米の権威ある最新論文 9 件を加えた計 10 件のエビデンスから、「GLP-1 の時代でも運動療法と食事療法は必須である」理由をわかりやすく解説します。
1. GLP-1 が変えた減量の常識
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、食事をとると腸から分泌されるホルモンです。脳の満腹中枢に働きかけて食欲を抑え、胃の動きをゆっくりにし、血糖値に応じてインスリン分泌を促します。チルゼパチドはこれに GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)という別の腸管ホルモンの作用を併せ持つ薬です。
これらの薬の減量効果は、従来の肥満治療薬とは桁違いです。添付論文が整理しているように、セマグルチドの大規模試験 STEP 1 では体重が平均 15.0%、チルゼパチドの SURMOUNT-1試験の体組成サブ解析では平均 21.3%減少しました(Look et al., Diabetes Obes Metab2025)。かつては外科手術でしか到達できなかった減量幅が、注射薬で得られるようになったのです。
欧州肥満学会(EASO)は 2025 年、Nature Medicine 誌に薬物治療の枠組みを発表し、セマグルチドとチルゼパチドを「合併症を伴う肥満」の第一選択薬に位置づけました(McGowan et al., Nat Med 2025)。睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症、心血管疾患、心不全、脂肪肝など、合併症ごとに推奨薬を整理した点が画期的です。肥満治療は「体重を減らす」から「病気を治す」段階へと進んでいます。ただし同じ枠組みは、これらの薬が治療の柱の一つにすぎないことも明確に述べています。この点は第 7 章で詳しく触れます。
2. 減った体重の「4 分の 1」は筋肉だった ― 体組成という視点
体重計の数字が減ると、私たちはつい「脂肪が落ちた」と考えがちです。しかし体重は、脂肪・筋肉・骨・水分などの合計です。DXA(二重エネルギーX 線吸収測定法)で体組成を詳しく調べた研究からは、GLP-1 関連薬による減量の一部が「除脂肪量」、つまり筋肉を中心とした脂肪以外の組織の減少であることがわかってきました。
SURMOUNT-1 試験の DXA サブ解析では、チルゼパチド投与で脂肪量は 33.9%減少した一方、除脂肪量も10.9%減少し、減った体重の約26%が除脂肪量の減少によるものでした(Look et al., Diabetes Obes Metab 2025)。STEP 1 試験でもセマグルチドにより除脂肪量が 9.7%減少しています。添付論文が引用する 2026 年のメタ解析では、減った体重に占める除脂肪量の割合はセマグルチドで 35.2%、チルゼパチドで 25.4%、リラグルチドで 26.8%と報告されています(Kucuk Yetgin et al., Obesity Pillars 2026 に引用)。
もっとも、これは薬だけの特徴ではありません。食事制限でも外科手術でも、減量時にはおおむね「4 分の 1」が除脂肪量として失われることが古くから知られています。カナダ・米国の研究者らは Lancet Diabetes & Endocrinology 誌の論説で、薬による急速かつ大幅な減量の時代だからこそ、筋肉量と筋力に目を向けるべきだと強調しました(Prado et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2024)。減量の質を測る物差しは、体重から「体組成」へと移りつつあります。
3. なぜ筋肉を失ってはいけないのか ― 代謝・転倒・リバウンド
筋肉は単に体を動かすための組織ではありません。食後の血糖の多くを取り込んで処理する「最大の糖の貯蔵庫」であり、安静時のエネルギー消費を支える代謝の要でもあります。さらに近年では、筋肉が運動時に「マイオカイン」と呼ばれる物質を分泌し、脂肪組織や肝臓、脳などに働きかける内分泌器官であることもわかってきました(Prado et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2024)。
減量中に筋肉が大きく失われると、いくつかの問題が起こり得ます。第一に、基礎代謝が落ち、同じ食事量でも体重が戻りやすくなります。第二に、特に高齢の方では筋力低下から転倒や骨折、生活機能の低下につながるおそれがあります。第三に、脂肪が多く筋肉が少ない「サルコペニア肥満」と呼ばれる状態は、心血管疾患や死亡のリスクを高めることが指摘されています。体重が減って筋肉も減り、その後リバウンドで脂肪だけが戻ってくる、という「体重の乱高下」を繰り返すと、体組成はむしろ悪化しかねません(Prado et al., 2024)。
ただし、除脂肪量の減少がそのまま「害」であると断定できるわけではない点にも注意が必要です。肥満の方はもともと体重を支えるために筋肉量が多く、減量に伴うある程度の減少は生理的な適応とも考えられます。大切なのは、減らすべき脂肪をしっかり減らし、守るべき筋肉と筋力をできるだけ守ることです。その最も確実な手段が、運動と食事なのです。
4. 運動と食事を組み合わせると何が変わるか ― 2026 年 Obesity
Pillars の実臨床研究
2026 年 9 月、インディアナ大学などの研究チームは Obesity Pillars 誌に、GLP-1 関連薬の治療と同時に「指導付きの運動」と「管理栄養士による個別の栄養サポート」を受けた方の体組成変化を報告しました(Kucuk Yetgin et al., Obesity Pillars 2026)。対象は BMI27以上の成人 11 人(平均 53 歳)で、セマグルチドまたはチルゼパチドを 9〜12 か月使用し、トレーナー指導の筋力トレーニング(目標週 2 回以上、最大筋力の 60〜70%)と有酸素運動(週150〜300 分)、そして食品からのたんぱく質摂取を中心とした食事指導を受けていました。
結果は興味深いものでした。体重は平均 4.99kg(4.71%)、脂肪量は 4.37kg(11.06%)減少し、内臓脂肪面積も 14.08%減少しました。一方で除脂肪量の変化は-0.62kg(-0.94%)にとどまり、統計学的に有意な減少は認められませんでした。減った体重のうち 87.6%が脂肪、除脂肪量は 12.4%にすぎません。研究チームは、減量幅がほぼ同じ(約 5%)だった SURMOUNT-1 試験のプラセボ群では除脂肪量の割合が約 25%だったことと比較し、より「脂肪優位」の好ましい減量だったと考察しています。
注目すべきは、参加者の実際の取り組みが「理想的」ではなかった点です。筋トレの参加は平均週 1.24 回(目標は週 2 回以上)、たんぱく質摂取は治療前の体重 1kg あたり 0.75g から1.15g へと増えたものの、推奨の 1.2〜1.6g には届きませんでした。それでも筋肉は概ね保たれていたのです。もちろん、対照群のない 11 人の後ろ向き研究であり、著者ら自身も「仮説を生み出す段階の結果」と慎重に述べています。それでも、「完璧でなくても、運動と食事に取り組むこと自体に意味がある」ことを示唆する、実臨床からの貴重なデータといえます。
5. 「薬+運動」は単独に勝る ― デンマーク S-LiTE 試験の教訓
運動と薬の組み合わせを最も厳密に検証したのが、デンマーク・コペンハーゲン大学の SLiTE 試験です。肥満の成人 195 人がまず 8 週間の低カロリー食で平均約 13kg 減量し、その後 1 年間、「プラセボ」「運動のみ」「リラグルチド(GLP-1 受容体作動薬)のみ」「運動+リラグルチド」の 4 群に割り付けられました(Lundgren et al., N Engl J Med 2021)。
1 年後、プラセボ群と比べて追加の体重減少は、運動群で 4.1kg、リラグルチド群で 6.8kg、併用群で 9.5kg でした。さらに重要なのは体脂肪率で、併用群の減少は 3.9 ポイントと、運動単独やリラグルチド単独のおよそ 2 倍に達しました。併用群では除脂肪量はほぼ保たれ、体脂肪が選択的に減っていたのです。薬が食欲を抑え、運動が筋肉と代謝を守る。両者は互いの弱点を補い合う関係にあることが示されました。
この試験には続きがあります。治療終了後、薬も運動指導もない状態で 1 年間追跡したところ、リラグルチド単独群では体重が大きく戻ったのに対し、運動を続けていた群や併用群では減量効果がより良く維持されていました(Jensen et al., eClinicalMedicine 2024)。運動は、薬をやめた後も体に残る「財産」になり得ることを示す結果です。
6. やめたら、どうなる? ― 1 年半で元の体重に戻るという現実
GLP-1 関連薬は、飲み続ける(打ち続ける)ことで効果を発揮する薬です。米国などで行われた SURMOUNT-4 試験では、チルゼパチドで 36 週間に平均 20.9%減量した 670 人を、そのまま継続する群とプラセボに切り替える群に分けました。その後 52 週間で、継続群はさらに5.5%減量した一方、中止群は 14.0%体重が戻りました(Aronne et al., JAMA 2024)。薬をやめると食欲を抑える作用も消えるため、体重が戻るのは自然な反応です。
2026 年 1 月、英国オックスフォード大学のチームは BMJ 誌に、37 研究・9,341 人を統合したメタ解析を発表しました(West et al., BMJ 2026)。肥満治療薬を中止すると体重は月平均0.4kg のペースで戻り、約 1.7 年で治療前の体重に戻ると推定されました。セマグルチドやチルゼパチドなど新しい薬では、戻るペースが月 0.8kg とさらに速く、約 1.5 年で元に戻る計算です。血糖や血圧、コレステロールなどの改善も、約 1.4 年で治療前の水準に戻っていました。
同じ解析で、食事や運動などの行動療法を終了した場合の体重の戻り方は、薬の中止に比べて月あたり約 0.3kg 緩やかでした。行動療法で身につけた食習慣や運動習慣は、プログラムが終わった後も一定程度続くためと考えられます。「薬をいつまで続けるのか」は個々の状況で判断が分かれますが、いずれの場合でも、生活習慣という土台を築いておくことが、長期的な体重管理の鍵を握っています。
7. 世界の指針は「薬だけ」を推奨していない ― WHO・EASO・米国 4学会
WHO の 2025 年ガイドラインは、成人の肥満に対して GLP-1 療法を長期治療として用いることを条件付きで推奨しました。同時に、GLP-1 療法を受ける人には「健康的な食事と構造化された運動を中心とした集中的な行動療法」を、包括的な治療の一部として提供すべきだと推奨しています(Celletti et al., JAMA 2026)。薬は肥満治療の主役の一人であっても、単独で舞台に立つものではないという立場です。
欧州肥満学会(EASO)の枠組みも、治療の基盤として「治療としての栄養」「治療としての身体活動」、ストレス対策と睡眠の改善、必要に応じた心理的支援を挙げ、その上に薬物療法や外科治療を重ねる構造を示しています。治療の目標も体重減少だけでなく、合併症の改善、心の健康、体力、社会生活の充実まで含めた「健康全体」に置かれています(McGowan et al., Nat Med 2025)。
米国では 2025 年、米国ライフスタイル医学会、米国栄養学会、肥満医学会、米国肥満学会の 4 学会が、GLP-1 療法を支える栄養に関する共同勧告を発表しました(Mozaffarian et al., Am J Clin Nutr 2025)。治療開始前の栄養評価、吐き気など消化器症状への対応、加工度の低い栄養密度の高い食事、微量栄養素の欠乏予防、そして「十分なたんぱく質と筋力トレーニングによる除脂肪量の維持」など 8 つの優先事項を掲げています。欧米の主要な指針は一致して、薬と生活習慣介入を「車の両輪」と位置づけているのです。
8. 実践編
GLP-1 関連薬を使うと食事量が自然に減るため、何も意識しないとたんぱく質が不足しがちです。目安は体重 1kg あたり 1 日 1.2〜1.6g 程度とされ(Mozaffarian et al., 2025;Kucuk Yetgin et al., 2026)、体重 80kg の方なら 1 日約 100〜130g になります。サプリメントに頼るより、魚、大豆製品などの食品から摂ることが勧められています。少量でも満足感が得られるよう、野菜や海藻、きのこで食物繊維を補い、脱水や便秘を防ぐため水分もしっかりとりましょう。
運動では、筋力トレーニングを週 2〜3 回行うことが推奨されています(Kucuk Yetgin et al.,2026)。筋トレはスクワット、椅子からの立ち上がり、かかと上げ、壁腕立て伏せなど、自宅でできるものからで構いません。第 4 章の研究が示したように、目標に届かなくても続けること自体に意味があります。特に高齢の方や持病のある方は、安全のため専門職の指導のもとで始めることをお勧めします。
そして、体重だけでなく体組成を定期的に確認することが大切です。体重が順調に減っていても、筋肉量や握力が大きく落ちていれば、食事や運動の内容を見直すサインです。当院では体組成計 InBody による筋肉量・体脂肪量の測定、CT による内臓脂肪の評価、運動療法の専門スタッフによる指導を組み合わせ、GLP-1 治療中の「減量の質」を一緒に見守る体制を整えています。
おわりに ― 「追い風」だが漕ぐのはあなた自身
GLP-1 関連薬は大きな希望であることは間違いありません。しかし最新のエビデンスは一貫して、減った体重の一部は筋肉であること、薬をやめれば体重は 1 年半ほどで戻りやすいこと、そして運動と食事を組み合わせることで脂肪を優先的に減らし、筋肉と長期的な効果を守れる可能性があることを示しています。
薬は自転車の電動アシストのようなものです。ペダルをこぐ力を大きく助けてくれますが、こぐのをやめれば自転車は止まります。そして、こぐ脚力を鍛えておけば、アシストを外した後も走り続けることができます。まんかいメディカルクリニックでは、内分泌・代謝の専門的な診療、GLP-1 プログラム、InBody や CT による体組成評価、そして運動療法を一体として提供しています。日曜・祝日も診療していますので、体重や体型のことでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
FAQ ― よくあるご質問
Q1. GLP-1 の注射をすれば、食事制限や運動はしなくてもやせられますか?
A. 薬だけでも体重は減りますが、それだけでは不十分です。減った体重の約 4 分の 1 は筋肉など脂肪以外の組織であることが報告されており(Look et al., 2025)、WHO のガイドラインも GLP-1 療法には食事と運動を中心とした行動療法を組み合わせるよう推奨しています(Celletti et al., 2026)。薬と生活習慣の改善を組み合わせることで、脂肪を優先的に減らし、筋肉を守り、長期的な効果を保ちやすくなります。
Q2. GLP-1 治療中に筋肉を落とさないためには、何をすればよいですか?
A. 柱は「十分なたんぱく質」と「筋力トレーニング」の 2 つです。たんぱく質は体重 1kgあたり 1 日 1.2〜1.6g 程度を目安に、魚・肉・卵・乳製品・大豆製品から摂り、筋トレは週 2〜3 回行うことが推奨されています(Mozaffarian et al., 2025)。2026 年の実臨床研究では、筋トレ週約 1.2 回、たんぱく質 1.15g/kg と目標に届かない取り組みでも、除脂肪量に有意な減少は見られませんでした(Kucuk Yetgin et al., 2026)。できる範囲から
始めることが大切です。
Q3. 薬をやめると、リバウンドしてしまいますか?
A. 中止すると体重が戻る傾向は明らかです。37 研究のメタ解析では、薬の中止後、体重は月 0.4kg(新しい薬では 0.8kg)のペースで戻り、約 1.5〜1.7 年で治療前の体重に戻ると推定されました(West et al., BMJ 2026)。一方、運動を組み合わせた群では治療終了 1年後も効果がより維持されていたという報告があります(Jensen et al., 2024)。治療中に運動と食事の習慣を身につけておくことが、最大のリバウンド対策です。
Q4. 運動は筋トレと有酸素運動、どちらが大切ですか?
A. どちらも大切で、役割が異なります。筋力トレーニングは筋肉量と筋力の維持に、有酸素運動は心肺機能の向上やエネルギー消費、内臓脂肪の減少に役立ちます。推奨は筋トレ週 2〜3 回、有酸素運動週 150 分以上です。S-LiTE 試験では、有酸素運動とインターバル運動を中心とした運動プログラムと GLP-1 受容体作動薬の併用で、体脂肪率の減少がそれぞれ単独の約 2 倍となりました(Lundgren et al., N Engl J Med 2021)。
Q5. 自分の筋肉が減っていないか、どうやって確認できますか?
A. 体重計だけでは筋肉と脂肪の区別はできません。体組成計(InBody など)で筋肉量と体脂肪量を定期的に測ること、握力や椅子からの立ち上がりやすさなど「筋力」もあわせて確認することが有用です。専門家も、薬による減量の時代には筋肉量と筋力の評価が重要だと指摘しています(Prado et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2024)。当院ではInBody による体組成測定や CT による内臓脂肪評価を行っていますので、GLP-1 治療中の
方もお気軽にご相談ください。
参考文献
- Kucuk Yetgin M, Gletsu-Miller N, Chapman RF, et al. Fat and lean mass changes during
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。
記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
