病気と健康の話

【慢性腎臓病】eGFR が下がったら―2026 年 ESC/ERA ガイドラインが示す「腎臓を守る」新常識―

はじめに ― 結果表の隅にある、その数字を見たことがありますか

「eGFR 58.4」。健康診断や採血の結果表の片隅に、こんな数字を見つけたことはないでしょうか。診察室で「腎臓の数値が少し下がっていますね。でも様子を見ましょう」と言われ、そのまま何年も経ってしまった、という方も少なくありません。
2026 年に発表された欧州心臓病学会(ESC)と欧州腎臓学会(ERA)の合同ガイドライン(Dammanと Herrington らによる編集、European Heart Journal 2026)は、慢性腎臓病(CKD)を「腎臓だけの病気」ではなく「心臓・腎臓・代謝が絡み合った全身の病気」として捉え直しました。
そして、eGFR が明らかに 60 を下回った時点――つまり自覚症状がまったくない段階――から、腎臓と心臓を守る治療を開始することを推奨しています。約 2,800 万人を含む 114 のコホートを統合した解析では、eGFR 60 未満と尿アルブミンの増加は、それぞれ独立して心筋梗塞・脳卒中・心不全・心房細動・末梢動脈疾患・心血管死のリスク上昇と関連していました。
さらに Nephrology Dialysis Transplantation 誌に掲載された Ortiz らの総説(2026 年)は、CKD が 2050 年までに日本と西欧で死因の第 3 位に浮上すると予測しています。日本では CKDによる年齢調整死亡率が今後 29.6%増加する一方、虚血性心疾患は 45.6%、脳卒中は 55.8%減少すると見込まれています。心臓と脳の医療が進歩した分だけ、腎臓が「取り残された臓器」として前面に出てくるのです。世界の CKD 患者は推定 8 億 5,000 万人に達し、その多くが診断されないまま過ごしています。
本コラムでは、eGFR が下がってきたときに「何を確認し」「何を始め」「何を恐れなくてよいのか」を、添付した 3 編の主要文献と欧米の最新論文 9 編、あわせて 12 件のエビデンスをもとに、8 つの視点から整理します。

1. eGFR とは何か ― 「腎臓の残り体力」を数値化した推定値

eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate、推算糸球体濾過量)とは、腎臓が 1 分間にどれだけの血液を濾過して老廃物を取り除けるかを表す指標です。単位は「mL/分/1.73m²」で、1.73m²というのは標準的な成人の体表面積を指します。実際に濾過量を測るにはイヌリンや放射性同位元素を用いた煩雑な検査が必要になるため、日常診療では血液中のクレアチニン濃度に年齢と性別を組み合わせた推算式を用います。ESC/ERA ガイドラインは、この推算式による eGFR 測定と、腎機能の評価・病期分類への使用をクラス I・エビデンスレベル A で推奨しています。
クレアチニンは筋肉で産生される老廃物で、腎臓から排泄されます。腎機能が落ちると血中に溜まるため、その濃度から逆算して濾過能力を推定するわけです。CKD は、eGFR 60 未満、あるいは尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)30mg/g 以上が 3 か月以上持続する状態と定義されます。eGFR の値により、G1(90 以上)、G2(60〜89)、G3a(45〜59)、G3b(30〜44)、G4(15〜29)、G5(15 未満)の 6 段階に分類され、G5 は「腎不全(kidney failure)」と呼ばれます。
ESC/ERA ガイドラインは、従来の「末期腎不全(end-stage kidney disease)」という言葉は誤解を招くとして、この用語を廃止しました。
注意すべきは、eGFR があくまで「推定値」だという点です。ESC/ERA ガイドラインは、eGFRの推算式は 60 を超える領域では精度が落ちること、そして同じ人でも日によって生理的な変動があることを明記しています。したがって、eGFR が 85 から 78 に動いたことに一喜一憂する必要はありません。問題になるのは、60 という境界を超えて低下してきたとき、あるいは短期間に大きく落ちたときです。なお、欧州人口では 2009 年版の CKD-EPI 式(人種係数なし)が最適とされていますが、日本では日本人向けの係数を組み込んだ日本腎臓学会の推算式が用いられており、同じクレアチニン値でも算出される eGFR は国により異なります。

2. 一度の数字で慌てない ― 「3 か月」と「シスタチン C」という二
つの安全装置

eGFR が一度低く出たからといって、すぐに CKD と決まるわけではありません。ESC/ERA ガイドラインは、少なくとも 3 か月以上の間隔をあけた 2 回の eGFR と UACR の測定によって「慢性」であることを確認することを、クラス I で推奨しています。発熱、激しい運動、脱水、尿路感染などは一時的に eGFR を下げ、尿蛋白を増やします。逆に、予想外に大きく eGFR が下がった場合や尿アルブミンが急増した場合は、悠長に 3 か月待つのではなく「数日から数週間以内」に再検査し、急性腎障害(AKI)の可能性を評価するよう推奨されています。この「急がば回れ」と「急ぐべきときは急ぐ」の使い分けが、最初の分岐点です。
もう一つの落とし穴が、クレアチニンそのものの性質です。クレアチニンは筋肉から産生されるため、筋肉量が極端に多い人では eGFR が実際より低く、逆に高齢でサルコペニア(筋肉減少)がある方、長期臥床の方、四肢切断後の方などでは、腎機能が悪くてもクレアチニンが上がらず、eGFR が実際より高く見えてしまいます。そこで ESC/ERA ガイドラインは、クレアチニンによる推算に誤差が生じやすい状況では、シスタチン C という別のマーカーによるeGFR 測定を考慮することをクラス IIa・レベル A で推奨しています。シスタチン C はすべての有核細胞で産生され筋肉量の影響を受けにくいため、より実態に近い評価が可能になります。
この「二つの物差しのズレ」が持つ意味は、単なる測定精度の問題にとどまりません。
Estrella らが 2025 年の JAMA 誌に発表した、CKD 予後コンソーシアムの外来患者 821,327 人を対象とした大規模メタ解析では、シスタチン C による eGFR がクレアチニンによる eGFR より 30%以上低い「大きな乖離」を示した人が外来患者の 11%、入院患者では 35%に達しました。そして平均11年の追跡において、この乖離を持つ人の全死亡率は1,000人年あたり28.4件と、乖離のない人の 16.8 件に比べて著しく高く、ハザード比は 1.69 に達しました。数字が食い違うこと自体が、実は重要な危険信号なのです。

3. eGFR だけでは半分しか見えない ― 尿アルブミンという「もう一
つの軸」

腎臓の状態を評価するとき、eGFR は「量」の指標であり、尿アルブミンは「質」の指標です。KDIGO(国際的な腎臓病ガイドライン機構)が 2024 年に改訂した診療ガイドラインと、それを踏襲した ESC/ERA ガイドラインは、eGFR による G 区分と、UACR による A 区分(A1:30mg/g未満、A2:30〜300mg/g、A3:300mg/g 超)を縦横に組み合わせた「ヒートマップ」で、腎不全と心血管疾患のリスクを層別化します。ESC/ERA ガイドラインは、随時尿(できれば早朝第一尿)による UACR 測定をクラス I・レベル A で推奨しています。
重要なのは、アルブミン尿がしばしば eGFR 低下に先行するという事実です。ESC/ERA ガイドラインは「アルブミン尿は GFR 低下に先行することが多く、早期 CKD のスクリーニングには随時尿の UACR が理想的である」と明記しています。ところが実際の診療では、尿検査を試験紙(定性検査)だけで済ませてしまうことが少なくありません。試験紙は A3 レベルの高濃度アルブミンしか検出できず、尿が薄いと偽陰性になります。ガイドラインは、試験紙の使用は資源が限られた場面での初期検査や、血尿・膿尿・尿糖など他の異常を見るための用途に限定すべきだとしています。
この見落としの規模は深刻です。Ortiz らの総説(Nephrology Dialysis Transplantation2026)は、「糖尿病患者のアルブミン尿だけを調べる」という 20 世紀型の発想が、最終的に腎不全に至る人の最大 80%を検査対象から取りこぼしていると指摘しています。そして代替策として、A(Albuminuria:尿アルブミン)、B(Blood pressure:血圧)、C(Cholesterol:コレステロール)、D(Diabetes:糖尿病)、E(estimated GFR:eGFR)の頭文字をとった「ABCDE アプローチ」の普及を提唱しました。一度の尿検査と、一度の血圧測定と、一本の採血。この三つで、心・腎・代謝(CKM)リスクのほぼ全体像が把握できるという考え方です。当院では健診・人間ドックの段階から UACR と eGFR をあわせて評価しています。

4. なぜ腎臓が「心臓の病気」になるのか ― CKD はリスクの増幅装置

eGFR が下がって最初に困るのは、実は腎臓そのものではなく心臓です。ESC/ERA ガイドラインが引用する約 2,800 万人・114 コホートのメタ解析では、eGFR 60 未満と尿アルブミン増加は、いずれも独立して心筋梗塞、脳卒中、心不全、心房細動、末梢動脈疾患、心血管死のリスク上昇と関連していました。しかもこのリスク上昇は、年齢・性別・人種・糖尿病の有無にかかわらず質的に同じパターンを示しました。腎機能低下は特定の集団だけの問題ではなく、あらゆる人にとって心血管リスクを底上げする共通要因なのです。
逆方向の因果も強力です。同ガイドラインが示すデータでは、心血管疾患を新たに発症した人が腎代替療法(透析・移植)を必要とするリスクは発症後 3 か月以内に最も高く、冠動脈疾患・脳卒中・心房細動の後で 2〜4 倍、心不全の後では実に 45 倍にも達しました。心臓が弱れば腎臓への血流が落ち、腎臓が弱れば体液と血圧の調節が乱れて心臓に負荷がかかる。この悪循環こそが、ESC と ERA という二つの学会が合同でガイドラインを作成した理由にほかなりません。
だからこそ、CKD のある方の心血管リスクは専用のツールで評価すべきだとされます。
ESC/ERA ガイドラインは、eGFR と UACR を組み込んだ SCORE2 CKD Add-On の使用をクラス I・レベル B で推奨しています。このアドオンを加えると、約 14%の人がより高いリスク区分へ、15%がより低い区分へと再分類されました。また、eGFR 30〜44 で UACR が 3mg/mmol 未満、あるいは eGFR 45〜59 で UACR 3〜30mg/mmol という「中等度 CKD」の方は、他に危険因子がなくても比較的高リスクとして扱うことが推奨されています。腎機能の低下は、それ自体が独立した心血管危険因子なのです。

5. 「下がった値」より「下がり方」 ― eGFR スロープと腎不全リス
ク方程式

eGFR を一点の値として見ているうちは、腎臓の本当のメッセージは読めません。臨床研究の世界では、いま「eGFR スロープ(slope)」、すなわち年あたりの低下速度が最も重視される指標になっています。加齢に伴う生理的な低下は年に 0.8〜1.0 程度とされますが、糖尿病性腎症や高血圧性腎硬化症では年 3〜5、時にそれ以上のペースで低下します。同じ eGFR45 でも、5 年かけて 60 から下がってきた人と、1 年で下がった人とでは、その後の経過はまったく異なります。ESC/ERA ガイドラインが、糖尿病や腎機能悪化リスクの高い方に少なくとも年 1 回の eGFR 再検査をクラス I で推奨しているのは、この「傾き」を捉えるためです。
傾きを個人のリスクに翻訳するのが、腎不全リスク方程式(KFRE:Kidney Failure RiskEquation)です。年齢・性別・eGFR・UACR の 4 項目だけで、2 年後・5 年後に腎代替療法が必要になる絶対リスクを算出できます。ESC/ERA ガイドラインは、CKD G3〜G5 の方で KFRE を用いることをクラス I・レベル A で推奨し、5 年リスクが 3〜5%を超えたら腎臓専門医への紹介を、2 年リスクが 40%を超えたら透析用血管アクセスの準備を検討する目安として提示しています。「eGFR がいくつになったら透析」という漠然とした不安は、こうして具体的な数字と時間軸に置き換えることができます。
この「傾きを変える」という発想は、治療効果の測り方も変えました。2026 年に NewEngland Journal of Medicine 誌に発表された FIND-CKD 試験(Heerspink と Neuen ら)は、糖尿病を伴わない CKD 患者 1,500 人超を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンを検討し、eGFR の年間低下速度をプラセボに比べて 0.7mL/分/1.73m²改善させました(95%信頼区間 0.3〜1.1)。年 0.7 という数字は一見わずかですが、20 年、30 年という時間軸で積算すれば、透析導入を数年から十数年先送りできる差になります。Ortizらの総説も、アルブミン尿ではなく eGFR 正常の段階から腎保護薬を開始した場合、腎代替療法の必要性を最大 30 年近く遅らせられる可能性を指摘しています。

6. 2026 年の薬物療法 ― 四本柱と「早く、同時に」という発想

eGFR が下がってきたときに使える薬は、この 10 年で劇的に増えました。第一の柱は ACE 阻害薬・ARB(RAS 阻害薬)で、ESC/ERA ガイドラインは最大耐用量での使用をクラス I・レベルA で推奨しています(ただし ACE 阻害薬と ARB の併用は、急性腎障害と高カリウム血症のリスクが上回るためクラス III で非推奨)。第二の柱が SGLT2 阻害薬です。EMPA-KIDNEY 試験(NEJM 2023)は、CKD 患者 6,609 人でエンパグリフロジンが腎疾患進行または心血管死を 28%減少させ(ハザード比 0.72)、その後の長期追跡(NEJM 2025)では全追跡期間で 21%の減少、末期腎不全 26%減、心血管死 25%減が示されました。注目すべきは、試験薬を中止した後の 2年間も 13%の効果が残存していた点です。
第三の柱が非ステロイド型 MRA のフィネレノンです。FIDELIO-DKD と FIGARO-DKD を統合したFIDELITY 解析では、2 型糖尿病を伴う CKD で腎複合エンドポイントを 23%(ハザード比 0.77)、心血管複合エンドポイントを 14%減少させました。そして前述の FIND-CKD 試験(NEJM 2026)により、糖尿病のない CKD でも腎・心血管複合アウトカムを 23%減少させること(ハザード比0.77、95%信頼区間 0.60〜0.99)が示され、適応が大きく広がりました。第四の柱が GLP-1 受容体作動薬です。FLOW 試験(NEJM 2024、Perkovic ら)は 2 型糖尿病と CKD を合併した 3,533人でセマグルチド週 1 回 1.0mg が腎複合アウトカムを 24%減少させ(ハザード比 0.76)、eGFRの低下速度を約 3 分の 1 改善しました。糖尿病のない肥満者を対象とした SELECT 試験の腎アウトカム解析(Colhoun ら、Nature Medicine 2024)でも、22%の減少が報告されています。
これらは「どれか一つ」ではなく「重ねて使う」薬です。CONFIDENCE 試験(Agarwal ら、NEJM 2025)は、CKD と 2 型糖尿病を合併した 818 人でフィネレノンとエンパグリフロジンを同時に開始し、併用群が各単剤群に比べて尿アルブミンをさらに約 25〜30%低下させることを示しました。しかも高カリウム血症の頻度は、併用群のほうがフィネレノン単剤群より低い傾向にありました。ESC/ERA ガイドラインは、この結果を受けて「資源が許すなら、腎不全リスクの高い方や進行の速い方では、複数の薬剤を短期間のうちに順次導入することを優先すべきである」と述べています。加えて、eGFR 60 未満の CKD では脂質値にかかわらずスタチンを基本とする脂質低下療法がクラス I・レベル A で推奨されます(SHARP 試験で主要アテローム性イベント 17%減)。一方、動脈硬化性疾患のない方への抗血小板薬のルーチン投与は、出血リスクが上回るためクラス III で推奨されません。

7. 「飲み始めたら下がった」を恐れない ― 初期 dip と、薬を止める
べきかの判断

腎臓を守る薬を始めると、多くの場合、開始後数週間で eGFR が一時的に下がります。この現象は「初期 dip(イニシャル・ディップ)」と呼ばれ、腎臓を守る薬ほど起こりやすいという逆説的な性質を持ちます。理由は、これらの薬が糸球体の過剰濾過(hyperfiltration)を是正するからです。傷んだ腎臓は、残った糸球体に無理をさせて濾過量を保っています。無理をやめさせれば、短期的には数値が下がる。しかしその「休息」こそが、長期的に腎臓の寿命を延ばします。ESC/ERA ガイドラインは、30%未満の dip は通常許容されると明記しています。
さらに同ガイドラインは、SGLT2 阻害薬や GLP-1 受容体作動薬の開始時に、通常の CKD 管理を超える頻回のクレアチニン・eGFR 測定をルーチンに行う必要はない、という踏み込んだ見解を示しました。過剰な採血は患者さんの負担になるだけでなく、一時的な数値低下を見て「薬が合わない」と判断し、本来続けるべき治療を中断させてしまう危険があるからです。
ただし RAS 阻害薬と MRA の開始時には、高カリウム血症のリスクがあるためカリウム値の測定が推奨されます。また、嘔吐・下痢・発熱などで食事や水分が摂れない「シックデイ」には、これらの薬を一時中断し、回復後に必ず再開するという指導(sick day rules)の重要性も強調されています。
では、腎機能がかなり進行した段階で、RAS 阻害薬をやめるべきでしょうか。この問いに答えたのが STOP-ACEi 試験(Bhandari ら、NEJM 2022)です。eGFR 30 未満で進行性の CKD を持つ 411 人を、ACE 阻害薬・ARB を中止する群と継続する群に無作為に割り付け 3 年間追跡したところ、中止群の 3 年後の eGFR は 12.6、継続群は 13.3 であり、中止によって腎機能が回復することはありませんでした。透析導入率にも死亡率にも差はありませんでした。「腎機能が悪いから、腎臓の薬をやめる」という直感は、少なくともこの試験では支持されなかったのです。ESC/ERA ガイドラインも、カリウムを監視しながらであれば、RAS 阻害薬は重度の CKD や腎不全に至るまで安全に継続できるとしています。自己判断での中断は避け、必ず主治医と相談してください。

8. 土台は生活習慣 ― 血圧・減塩・運動・体重、そして「腎臓に優し
くない習慣」

薬物療法が進歩しても、その土台にあるのは生活習慣です。まず血圧。ESC/ERA ガイドラインは、eGFR 30 以上の CKD 患者において、忍容性があれば収縮期血圧 120〜129mmHg を目標とすることをクラス I・レベル A で推奨しています。診察室血圧130/80mmHg 以上であれば介入の対象です。同時に、白衣高血圧や仮面高血圧、夜間高血圧を見分けるために家庭血圧測定や 24 時間血圧測定をうこともクラス I で推奨されています。eGFR 30 未満の方については、個別化した目標設定が必要とされます。
次に食事です。ガイドラインは、ナトリウム摂取を 1 日 2g 未満(食塩換算で 5g 未満)に抑え、野菜を多く摂る食事をクラス I・レベル B1 で推奨しています。日本人の平均食塩摂取量は約 10g ですから、多くの方にとって半分への削減が目標になります。減塩は血圧とアルブミン尿を下げるだけでなく、利尿薬や RAS 阻害薬の効きを良くする作用もあります。体重管理も同様で、BMI 25 以上(アジア人では 23 以上)の方には、eGFR 30 以上であれば BMI 18.5〜25 を目指した減量が推奨されています。Look-AHEAD 試験の二次解析では、集中的な減量介入が CKD 区分の悪化リスクを低下させました。
運動については、英国腎臓研究コンソーシアムが BMC Nephrology 誌(2022 年、Baker ら)に発表した「CKD における運動と生活習慣の診療ガイドライン」が最も詳細です。非透析CKD(ステージ 1〜5)の方に対し、禁忌がなく併存疾患が安定していれば身体活動を奨励すること(推奨度 1B)、週 150 分の中等度有酸素運動または週 75 分の高強度運動、加えて週 2 日以上の筋力・バランス・柔軟性トレーニングを行うこと、長時間の座位を軽い活動または立位で中断することを推奨しています。その効果として、血圧の改善(1B)、身体機能と運動能力の改善(1B)、生活の質の改善(1C)が挙げられ、禁煙は最高ランクの推奨度 1A で示されました。ESC/ERA ガイドラインも週 150 分の中等度運動をクラス I・レベル B2 で推奨しています。
最後に、「腎臓に優しくない習慣」を減らすことも同じくらい重要です。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、いわゆる痛み止め)の常用、市販の鎮痛薬や一部の漢方薬の長期使用、脱水状態での利尿薬継続、そして必要性の乏しい造影検査の繰り返しは、いずれも腎機能を段階的に削っていきます。ESC/ERA ガイドラインは、腎毒性のある薬剤を処方する際には利益と害を天秤にかけて評価すること、そして腎排泄性で治療域の狭い薬剤については eGFR に応じた用量調整を行うことを、いずれもクラス I で推奨しています。お薬手帳を一冊にまとめ、市販薬やサプリメントも含めて主治医に見せることが、最も手軽で効果的な腎保護策の一つです。

おわりに ― 「様子を見ましょう」から「今日から始めましょう」へ

eGFR が下がってきたときにすべきことは、突き詰めれば四つです。第一に、一度の値で慌てず、3 か月あけて再検査し、必要ならシスタチン C で確かめること。第二に、eGFR と同時に必ず尿アルブミン(UACR)を測り、二つの軸でリスクを評価すること。第三に、値そのものより「下がり方」に注目し、KFRE で将来のリスクを数字にすること。そして第四に、RAS 阻害薬・SGLT2 阻害薬・フィネレノン・GLP-1 受容体作動薬という四本柱と、血圧・減塩・運動・体重管理・禁煙という土台を、早い段階から重ねていくことです。
2026 年の ESC/ERA ガイドラインが繰り返し強調しているのは、「治療開始の閾値を待つな」というメッセージです。アルブミン尿が増えるまで、eGFR がもっと下がるまで待つという姿勢は、生涯で最も介入効果の大きい時期を逃すことになります。腎臓は、失われた機能を取り戻すことが難しい臓器です。しかし、下がっていく速度を緩めることは、今日からでもできます。
まんかいメディカルクリニックは日曜・祝日も診療しておりますので、「腎臓の数値が少し下がっている」と言われたまま気になっている方は、どうぞ一度ご相談ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. eGFR が 59 でした。これで「腎臓病」と診断されてしまうのですか?

診断されません。CKD の定義は、eGFR 60 未満または尿アルブミン・クレアチニン比30mg/g 以上が「3 か月以上持続する」ことです。ESC/ERA ガイドライン(2026 年)は、少なくとも 3 か月あけた 2 回の測定で慢性であることを確認するようクラス I で推奨しています。発熱・脱水・激しい運動の後などは一時的に下がることがあります。ただし「様子を見る」のと「放置する」のは別物です。明らかな 59 という値は、心血管リスクが上がり始める領域です。

Q2. クレアチニンは正常範囲なのに、eGFR が低いと言われました。どういうこと
でしょうか?

eGFR はクレアチニン値に年齢と性別を組み合わせて計算するため、クレアチニンが基準値内でも、年齢が高ければ eGFR は低く算出されます。逆に、筋肉量が少ない高齢の方や長期臥床の方では、腎機能が悪くてもクレアチニンが上がらず、eGFR が実際より良く見
えてしまいます。こうした場合にはシスタチン C による評価が有用で、ESC/ERA ガイドラインもクラス IIa・レベル A で推奨しています。Estrella らが 2025 年の JAMA 誌に発表した 82 万人規模の解析では、シスタチン C による eGFR がクレアチニンによる値より 30%以上低い人は外来患者の 11%を占め、全死亡のハザード比は 1.69 でした。二つの数値の食い違い自体が、注意すべきサインです。

Q3. 腎臓が悪いと運動は控えたほうがよいと聞きました。本当ですか?

逆です。Baker らが英国腎臓研究コンソーシアムを代表して BMC Nephrology 誌(2022 年)に発表したガイドラインは、禁忌がなく併存疾患が安定している非透析 CKD(ステージ 1〜5)の方に対し、身体活動を奨励することを推奨度1Bで推奨しています。具体的には週150分の中等度有酸素運動(または週 75 分の高強度運動)に加え、週 2 日以上の筋力・バランス・柔軟性トレーニングです。これにより血圧(1B)、身体機能と運動能力(1B)、生活の質(1C)の改善が期待できます。ESC/ERA ガイドラインも同じく週 150 分の中等度運動をク
ラス I・レベル B2 で推奨しています。急に強度を上げるのではなく、現在のレベルから段階的に増やしていくことが大切です。

Q4. 糖尿病はありませんが、SGLT2 阻害薬やフィネレノンは使えますか?

使える場面が広がっています。SGLT2 阻害薬については、ESC/ERA ガイドライン(2026 年)が、糖尿病のない CKD でも eGFR 20 以上かつ UACR 200mg/g 以上であればクラス I・レベルA で推奨しています。根拠となった EMPA-KIDNEY 試験(NEJM 2023)では腎疾患進行または心血管死が 28%減少し、その長期追跡(NEJM 2025)では試験薬中止後 2 年間も 13%の効果が残りました。フィネレノンについては、2026 年に NEJM 誌に発表された FIND-CKD 試験が、糖尿病を伴わない CKD 患者 1,500 人超で腎・心血管複合アウトカムを 23%減少させ(ハザード比 0.77)、eGFR の年間低下速度を 0.7 改善したことを示しました。適応の判断は eGFRと尿アルブミンの値によりますので、主治医にご相談ください。

Q5. eGFR が下がったら、痛み止めや造影 CT は絶対に避けるべきですか?

「絶対禁止」ではなく「利益と害を天秤にかける」が正解です。ESC/ERA ガイドラインは、腎毒性のありうる薬剤を処方する際に、急性腎障害や CKD 進行のリスクを最小化する目的で利益と害を評価することをクラス I で推奨しています。非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDs)は、特に脱水時や RAS 阻害薬・利尿薬との併用で腎機能を悪化させやすいため、常用は避け、必要なときに短期間にとどめるのが原則です。造影検査についても、診断上の必要性が上回るなら実施すべきで、その際は事前の補液など予防策を講じます。む
しろ問題なのは、市販の鎮痛薬やサプリメントを自己判断で長期に使い続けることです。
お薬手帳にすべてを記録し、主治医と共有してください。

参考文献

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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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