病気と健康の話

【循環器】臓器別医療の終焉 ― 心臓+腎臓+代謝を“同時に診る”新・内科的戦略

これからの医療: 医療3.0では、心臓・血管疾患(例:心筋梗塞、脳卒中など)、腎臓病(例:慢性腎臓病)、そして代謝異常(例:高血糖、肥満)を一緒に考えることが重要です。これらは一見別々の病気に見えますが、実は密接に関連しており、まとめて「心臓血管-腎臓-代謝(CKM)シンドローム」とも呼ばれます。例えば慢性腎臓病や糖尿病があると、通常より若い年代から心臓病リスクが高まることが報告されています。本記事では、心血管・腎臓・代謝の各要素が互いに及ぼす影響と、その背景にある動脈硬化や慢性炎症について、専門知識がなくても理解できるよう平易に解説します。また、最新の研究に基づいた包括的な予防アプローチについても紹介します。クリニックの来院者の皆様がご自身の健康管理に役立てられるよう、根拠となるエビデンスを示しながら説明していきます。

■心血管疾患と動脈硬化 – 「血管の老化」と心筋梗塞

心臓や血管の病気は世界で最も人々の命を奪っている疾患群です。実際、2022年には全世界の死亡原因の約3分の1(約1,980万人)を心血管疾患が占めており、その85%は心筋梗塞や脳卒中でした。こうした心筋梗塞や脳卒中の主な原因となるのが**「動脈硬化」と呼ばれる血管の変化です。動脈硬化とは、動脈の壁が硬く厚くなり弾力を失った状態を指し、イメージしやすくいえば血管の老化です。年齢を重ねるごとに誰にでも起こる現象ですが、高血圧・高コレステロール・喫煙・糖尿病といった生活習慣病の影響で血管の内側にコレステロールなどの蓄積(プラーク)が進むと、通常より早く深刻な動脈硬化が起こります。血管を水道管にたとえると、内壁に錆や汚れ(プラーク)がこびりついて管が狭く詰まってしまうような状態です。その結果、心臓を栄養する冠動脈が詰まると心筋梗塞、脳の血管が詰まると脳卒中を引き起こします。動脈硬化自体には自覚症状がないため、「知らないうちに血管が老化して詰まり、ある日突然心筋梗塞や脳卒中が起きる」ことも少なくありません。実際、心筋梗塞や脳卒中は動脈硬化がかなり進行した後に起こる突然の発作です。そう聞くと怖く感じるかもしれませんが、動脈硬化の進行は私たち自身の努力で緩やかにすることが可能です(後述の「予防アプローチ」で詳述します)。心血管疾患から身を守るには、動脈硬化の原因となる生活習慣病を早めに発見・改善することが極めて重要なのです。

心血管疾患の予防や治療戦略は年々進歩しています。例えば、アメリカ心臓協会(AHA)は2023年に新しい心疾患リスク評価モデル「PREVENT」を発表し、従来よりも長期(10年および30年先)のリスクを予測して早期予防につなげる試みを始めました。このモデルでは従来考慮されていなかった腎臓の機能(eGFR)や肥満度(BMI)もリスク計算に含めることで、より正確なリスク評価を目指しています。新しい予測モデルの導入は、「心臓・血管だけでなく腎臓や代謝の状態も含めて総合的にリスクを判断しよう」という流れの一環です。つまり、心血管疾患は単独で起こるのではなく、腎臓病や糖尿病などと深く関わり合って生じるものと捉え、包括的に対処することが大事だという考え方です。

■慢性腎臓病(CKD)と心臓の深い関係

腎臓は体の老廃物をろ過する臓器ですが、腎機能が低下する慢性腎臓病(CKD)になると心臓と血管にも大きな影響が及びます。慢性腎臓病の患者さんの死亡原因の実に5割以上が心血管疾患であることが報告されています。言い換えれば、CKDの患者さんは腎不全そのものよりも心筋梗塞や心不全など心臓・血管の合併症で命を落とすリスクの方が高いのです。特に腎機能がかなり低下したステージ4〜5(重度の腎不全)の場合、そのリスクは過去に心筋梗塞を起こした人と同等かそれ以上とも言われます。そのため医学界では、CKDそのものを心臓病の重要な危険因子とみなして対策すべきだと考えられています。実際、米国の最新のガイドラインでも、高血圧・脂質異常症・糖尿病などと並んでCKDを心血管リスク評価に含め、積極的に管理することが推奨されています。

なぜ腎臓が悪いと心臓に負担がかかるのでしょうか。その理由の一つは、腎機能低下に伴って高血圧や動脈硬化が進行しやすくなることです。腎臓が悪い人は塩分や水分の調節が難しくなり血圧が上がりやすい上、動脈の石灰化(カルシウム沈着)も促進され、血管が固く詰まりやすくなります。また、腎不全が進むと体内に老廃物や毒素が蓄積して慢性的な炎症状態を引き起こし、それが血管のダメージにつながるとも考えられます。さらに最近の研究では、心臓と腎臓の間に双方向の悪循環があることも分かってきました。例えば腎臓の機能低下が進むと心臓への負担(高血圧や貧血などを通じて)が増え、逆に心臓が弱ると腎臓への血流が低下して腎機能がさらに悪化するといった具合です。このように心臓と腎臓はお互いに影響し合う臓器であり、一つが悪くなるともう一方も悪くなる「心腎連関」と呼ばれる現象が起こります。

糖尿病など代謝の問題を併せ持つ患者さんでは、事態はさらに深刻です。後述するように糖尿病そのものが強力な心臓病の危険因子ですが、そこに慢性腎臓病が加わるとリスクは加速度的に上昇します。実際、糖尿病と腎臓病を併発している人の死因の第1位は心血管疾患であることが報告されています。40歳の糖尿病患者さんでは、心臓病や脳卒中・腎臓病を一つも持たない場合と比べ、これらを全て持つ場合には男性で30年、女性で35年も寿命が短くなるとの試算もあります。それほどまでに心臓・腎臓・代謝は切り離せない関係なのです。だからこそ、腎臓病の管理においても心臓を守る視点が不可欠であり、腎臓内科医と循環器内科医が連携して診療にあたるケースも増えています。

■代謝異常(糖尿病・肥満)と血管リスク

糖尿病や肥満といった代謝の問題は、心臓や血管の健康と深く結びついています。代表的な代謝疾患である糖尿病では、血糖(血液中のブドウ糖)が慢性的に高い状態が続きますが、この高血糖そのものが血管を老化させる(動脈硬化を進める)最大の要因の一つです。血糖値が高いと血管の内皮(内側の細胞層)が傷つきやすくなり、そこにコレステロールなどが沈着してプラークが形成され、動脈硬化が加速します。いわば糖尿病は血管を内側から錆びつかせる病気と言えるでしょう。その結果、糖尿病患者さんは心筋梗塞や脳卒中になるリスクが持たない人の2〜4倍にも高まります。実際、糖尿病のある方の死亡原因のかなりの部分は心臓病や脳卒中といった心血管疾患が占めています。糖尿病歴の長い患者さんでは、心筋梗塞など心血管イベントの発症が糖尿病のない人より平均で15年も早まるとのデータもあります。とくに女性の場合、糖尿病があると男性以上に心臓病のリスクが高くなるという報告もあり、糖尿病は男女問わず心臓にとって大敵なのです。

もう一つ重要な代謝要因が肥満です。ただの肥満より、内臓の周りに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」は心臓病リスクとの関連が強いことが知られています。内臓脂肪が増えると脂肪組織から炎症性の物質が多く分泌されるようになり、全身に軽度の慢性炎症(後述)が起こります。この内臓脂肪に由来する炎症こそが、糖尿病や高血圧などを背景とした動脈硬化性疾患の根底にあるメカニズムと考えられています。いわば肥満による「見えない炎症」が血管を傷つけ、動脈硬化を悪化させるのです。実際、肥満の指標である体格指数(BMI)やウエスト周囲径が大きい人ほど、将来的な心筋梗塞リスクが高いことが疫学研究で繰り返し示されています。また、肥満はそれ自体が高血圧や脂質異常症を引き起こし、さらには睡眠時無呼吸症候群など間接的に心臓に負担をかける状態も招きます。

糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満といった危険因子は往々にして一人の患者さんに重複します。これらは典型的な**「生活習慣病」**でもあります。食事・運動・喫煙など生活習慣の影響で発症し、相互に関連し合いながら動脈硬化を進めてしまうためです。例えばメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)という言葉が一般にも定着していますが、これは肥満に高血糖・高血圧・脂質異常のうち二つ以上を合併した状態を指し、放置すると将来的に心筋梗塞などを発症する確率が高いことが分かっています。このように代謝の異常は単体でも心血管リスクになりますが、複数重なることでリスクは指数関数的に上昇します。実際、糖尿病・脳卒中既往・中等度CKD(慢性腎臓病)の3つすべてを持つ患者さんは、どれもない人に比べ心血管死亡リスクが約3.6倍にもなるとの報告がありました。要するに、生活習慣病は複合的に動脈硬化を促進し、心臓病や腎臓病の発症を早めるということです。だからこそ、日頃から生活習慣を整えることが何より大切なのです。

■慢性炎症 – 見えない炎症が血管をむしばむ

近年、慢性炎症(慢性的な体内の炎症反応)が心臓血管疾患の発症・進行に重要な役割を果たすことが明らかになってきました。炎症というとケガや感染の時に赤く腫れるイメージですが、ここで言う慢性炎症とは身体の中で常に続いている弱い炎症反応のことです。生活習慣の乱れや肥満、喫煙、大気汚染など様々な要因で全身の細胞がストレスを受けると、免疫システムが活性化されて炎症性物質(サイトカインなど)が放出されます。この状態が長年続くと、血管の壁で慢性的なダメージと修復が繰り返され、結果的に動脈硬化が進展してしまいます。実際、動脈硬化で見られるプラークには炎症細胞(マクロファージなど)が多数含まれており、炎症は動脈硬化の成り立ちに深く関与しています。プラークが破裂して血栓(血の塊)ができる最終段階でも、炎症反応が引き金になることが分かっています。

それでは、この「見えない炎症」の程度を調べるにはどうしたらよいでしょうか? 一つの指標となるのが高感度CRP(C反応性タンパク)と呼ばれる血液検査です。CRPは肝臓で作られる炎症タンパクで、体内に炎症があると上昇します。高感度CRP検査はごく微量のCRPも測定でき、動脈硬化に関連する慢性炎症の程度を反映するとされています。健常な人でもCRP値が高めの人は低い人に比べて将来の心筋梗塞リスクが高いことが、大規模研究(女性約28,000人を30年間追跡した研究など)で示されています。さらに興味深いことに、一度心筋梗塞などを発症した患者さんでは、LDLコレステロール値と同じくらいCRP値が再発リスクを予測する指標になることが分かっています。たとえコレステロールを薬で十分下げていても、CRPが高ければその人は再び心血管イベントを起こしやすいということです。実際、ある臨床試験では「LDL値は正常だがCRPが高い」人々にスタチン(コレステロール低下薬)を投与したところ、心筋梗塞の予防に有効だったという結果が報告されました。このJUPITER試験と呼ばれる研究は「コレステロールだけでなく炎症を標的に治療することで心血管疾患を減らせる」ことを示したものとして画期的でした。現在では、スタチンが心臓病予防に効く理由の一つはコレステロール低下作用だけでなく抗炎症作用によるものだと考えられています。

さらに近年は、炎症そのものを直接抑える新たな治療法の研究も進んでいます。例えば抗炎症薬コルヒチンを少量内服することで心臓発作の再発リスクを下げられることが報告され、既に海外のガイドラインでは心筋梗塞経験者に対するコルヒチン投与が推奨され始めています。また、インターロイキン-1βという炎症物質を中和する抗体医薬(カナキヌマブ)を用いた大規模試験でも心筋梗塞の再発抑制効果が示され、炎症を標的にした治療の有効性が証明されました。現在では、インターロイキン-6という炎症物質を抑える新薬の臨床試験も進行中であり、「炎症を治療することで心筋梗塞を防ぐ」という新時代がまさに到来しようとしています。米国心臓学会(ACC)は2025年に「炎症と心血管疾患」に関する科学声明を発表し、「炎症と動脈硬化の因果関係はもはや仮説の段階ではなく、臨床的に扱うべき明確な標的である」と強調しました。そして、「心血管疾患の予防・治療において、従来のコレステロール管理や血圧管理に加えて炎症の評価とコントロールを取り入れるべき」との提言を行っています。具体的には、心疾患リスクのある人に対して高感度CRP測定を積極的に活用し、必要に応じて抗炎症薬の使用も検討するなど、炎症リスク低減を包括的戦略に組み込むことが提唱されています。このように、慢性炎症は今や動脈硬化予防の重要なキーワードとなっており、「血管のサビ」を落とす新たなアプローチとして期待が高まっています。

■包括的な予防アプローチ – 生活習慣病をまとめて対策する

ここまで見てきたように、心臓・血管、腎臓、代謝(糖尿病など)、炎症はすべてつながり合っています。したがって、それぞれ個別に対策するのではなく包括的(総合的)にアプローチすることが効果的です。包括的アプローチの第一歩は、生活習慣の是正です。動脈硬化を招く要因の多くは生活習慣病であるため、原因となる生活習慣を見直すことが根本的な予防策になります。具体的には以下のような点に注意しましょう:

適切な食事

塩分や飽和脂肪、糖分の過剰摂取を控え、野菜・果物・魚を取り入れたバランスの良い食事を心がけます。過度の糖分や炭水化物は血糖値を上げて糖尿病リスクを高め、塩分の摂りすぎは高血圧を招きます。また揚げ物や脂肪の多い肉ばかりの食事は悪玉コレステロールを増やし動脈硬化を進めます。一方、野菜や果物、食物繊維の豊富な食品はこれら生活習慣病の予防に有益です。地中海食や和食のような伝統的で自然に近い食事は理想的なモデルと言えるでしょう。

適度な運動

週に150分程度の有酸素運動(速歩きや軽いジョギング、水泳、自転車など)を目標にしましょう。運動は体重や血圧、血糖のコントロールに直結するだけでなく、体内の慢性炎症を和らげる効果もあります。実際、定期的に運動習慣がある人はそうでない人に比べ心筋梗塞や脳卒中の発症率が低いことが多くの研究で示されています。また、長時間座りっぱなしの生活はそれ自体が心血管リスクを高めるため、日常生活でもこまめに体を動かす工夫が大切です。

禁煙

喫煙は動脈硬化の最大の危険因子の一つです。タバコに含まれる有害物質が血管を直接傷つけ、プラーク形成や血栓を促進します。喫煙者は非喫煙者に比べ心筋梗塞のリスクが飛躍的に高くなるため、禁煙は最優先の課題です。受動喫煙も有害なので、周囲の方も含めてタバコの煙を遠ざけましょう。

適正体重の維持

肥満、とりわけ内臓脂肪型肥満は前述の通り心臓・腎臓に負担をかけます。「人は血管とともに老いる」とも言われますが、適正体重を維持し内臓脂肪を減らすことが血管の老化防止につながります。減量により高血圧・糖尿病・脂質異常が改善し、慢性炎症も軽減されます。急激な減量より、無理なく続けられる生活習慣改善で徐々に体重を落とす方が効果的です。

適度な飲酒とストレス管理

アルコールの過剰摂取は高血圧や心不整脈の原因となります。節度ある適量飲酒に留めましょう。また慢性的なストレスも血圧や血糖を上昇させる要因です。十分な睡眠やリラクゼーションを心がけ、必要に応じて専門家に相談することも大切です。

以上のような生活習慣の改善によって、心臓病の約8割は予防できるとも言われています。実際、世界保健機関(WHO)も「心血管疾患の大部分は禁煙・食生活改善・運動促進などの対策で予防可能」であると強調しています。生活習慣を整えることは、心臓・血管のみならず腎臓や代謝の健康にも同時にプラスに働く、一石二鳥のアプローチなのです。

加えて、定期的な健康診断やクリニックでのチェックも欠かせません。高血圧・糖尿病・脂質異常症といった危険因子はサイレントキラー(静かな殺し屋)とも呼ばれ、自覚症状のないまま進行します。血圧測定、血液検査(血糖・ヘモグロビンA1c・コレステロール・腎機能・肝機能など)、尿検査(タンパク尿の有無で腎臓病スクリーニング)などを定期的に受けて、自分のリスクを「見える化」しておくことが重要です。特に糖尿病やCKDのある方は、心臓病のリスクを念頭に置いて通常より頻回にチェックを受けることが推奨されます。

リスク評価には血液検査に加えて画像検査が有用な場合もあります。例えば冠動脈カルシウムスコア検査(心臓のCTで冠動脈の石灰化の程度を調べる)や頚動脈エコー検査(首の動脈の内膜の厚さを測定する)は、動脈硬化の進み具合を直接評価できます。糖尿病や家族性高コレステロール血症のようにハイリスクな方では、こうした検査を行うことで治療介入の必要性を判断する材料になります。また先述の高感度CRPやリポタンパク(a)といった特殊検査も、患者さんによっては追加で測定する価値があります。研究によれば、遺伝的に高いリポタンパク(a)を持つ人は心筋梗塞のリスクが高いことが分かっており(一般的なコレステロール検査では分からない項目です)、一生に一度は測定しておくことが推奨されています。リポタンパク(a)が高値の方ではLDLコレステロールの管理目標値をより厳格にするなど、きめ細かな対応が可能です。同様に、高感度CRPが高値であれば将来のリスクに備えて生活習慣の一層の改善や必要に応じた薬物療法を検討するといった個別化予防(オーダーメイド予防)ができます。

治療面では、心臓・腎臓・代謝を包括的にケアするための新しい薬剤や治療戦略が続々と登場しています。例えば、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、血糖を下げるだけでなく心臓や腎臓を保護する効果があることが大規模臨床試験で証明されました。SGLT2阻害薬は尿中への糖排泄を促す薬ですが、心不全の悪化防止や腎機能低下の抑制にも寄与するため、糖尿病に加えて慢性腎臓病のある患者さんや心不全患者さんにも積極的に用いられています。GLP-1受容体作動薬はインスリンの分泌を助ける注射薬ですが、体重減少効果と動脈硬化抑制効果があり、特に肥満を伴う2型糖尿病患者さんで心血管イベントの抑制効果が示されています。これらの新しい薬剤は「糖尿病の薬だけれど心臓と腎臓も守れる薬」として位置づけられ、現在のガイドラインでは心血管リスクの高い糖尿病患者さんやCKD患者さんに対する第一選択肢の一つとなっています。まさに心臓・腎臓・代謝を包括的にターゲットとした治療といえるでしょう。

さらに、医療提供体制の面でも包括的アプローチが模索されています。心不全患者さんの中には腎臓や糖代謝にも問題を抱える方が多く、こうした「心腎代謝症候群」の患者さんに対しては、循環器専門医・腎臓専門医・糖尿病専門医がチームを組んで診療にあたるケースも増えています。一人の患者さんを複数の専門医で包括的に診ることで、治療の抜け漏れや矛盾を防ぎ、患者さんに最適な治療計画を立てることが可能になります。また、最近の提言では患者さんの社会的要因(経済状況や生活環境)にも目を配り、根底にある問題(薬の飲み忘れや通院困難の背景など)をチームで支援していく大切さが強調されています。このように、「患者さんを全人的に診る」医療への転換が進みつつあります。

最後に強調したいのは、心臓・血管・腎臓・代謝の包括的取り組みは患者さんご本人の主体的な参加があってこそ効果を発揮するという点です。生活習慣の改善はもちろんですが、処方された薬をきちんと飲む、定期検査を受ける、自分の数値(血圧や血糖など)を把握する、といった日々の自己管理も極めて重要です。医療側は最新エビデンスに基づき最善を尽くしますが、「病気を防ぐ主役は患者さん自身」です。クリニックでは管理栄養士による食事指導や看護師による継続支援なども行っていますので、ぜひ積極的に活用してください。心臓も腎臓も血管も、体の中でつながっています。一つでも健康になれば全体が良い方向に向かうことを忘れず、今日からできる一歩を踏み出してみましょう。

■よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ慢性腎臓病の人は心臓病になりやすいのですか?

腎臓病と心臓病は密接に関係しており、腎臓の機能低下に伴い高血圧や動脈硬化が進行し、心臓に負担がかかるためです。事実、慢性腎臓病(CKD)の患者さんの死亡原因の半数以上は心臓病などの心血管疾患で占められ、腎不全になる前に心臓病で亡くなる方が非常に多いことが分かっています。特に重度の腎不全では、心筋梗塞リスクが非常に高く、CKDそのものが心臓病の強力な危険因子(心疾患リスクにおいて心筋梗塞既往と同等)と位置付けられています。腎臓病があると体液や血圧の調節が乱れ、慢性的な炎症状態にもなるため、結果的に心臓や血管に大きな負担がかかってしまうのです。

Q2. 糖尿病があるとなぜ心筋梗塞を起こしやすいのですか?

糖尿病では血糖が高い状態が続き、高血糖が血管の壁を傷つけて動脈硬化を促進するため、心筋梗塞や脳卒中のリスクが大幅に高まります。統計的にも、糖尿病患者さんは心筋梗塞など心血管疾患になる危険性が糖尿病でない人の2〜4倍と報告されています。また糖尿病の方は心臓病を発症する年齢も若くなりがちで、糖尿病がない人に比べ平均して約15年も早く心筋梗塞や脳卒中が起こるとのデータがあります。これは高血糖そのものの害に加え、糖尿病の人は高血圧や脂質異常症など他の危険因子も合併しやすいためです。したがって糖尿病のある方は、血糖コントロールと同時に血圧やコレステロール管理にも特に注意する必要があります。

Q3. 動脈硬化とは何ですか?血管の老化とはどういう意味でしょうか?

動脈硬化とは動脈(血管)が硬く厚くなって弾力を失った状態を指し、いわば血管が「老化」した状態です。血管が老化すると内腔(血液の通り道)が狭くなり、心臓や脳など重要臓器への血流が不足します。動脈硬化の主な原因はコレステロールなどが血管壁に沈着してできるプラーク(コブ)で、プラークが徐々に血管を狭めたり、急に破裂して血栓を作ったりすることで、心筋梗塞や脳卒中が発生します。健康な血管はしなやかで内部も滑らかですが、動脈硬化が進んだ血管はまさに古い水道管のように錆びついて脆くなったイメージです。そのため動脈硬化を予防・改善することが心筋梗塞予防につながります。動脈硬化は加齢に伴い誰にでも起こりますが、適切な運動・食事や禁煙によってその進行を遅らせることができます(実際、そうした生活習慣の改善は心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを大幅に低減します)。逆に高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などを放置すると血管の老化が早まり、若い年代でも動脈硬化性の心臓病が起こりえます。

Q4. 慢性炎症を抑える方法や調べる方法はありますか?

慢性炎症の程度を調べる簡便な方法として高感度CRP検査があります。血液中のCRP値が高いと体内で炎症が起きているサインで、値が高い人ほど将来の心血管リスクも高い傾向があります。CRPは健康診断などでも測定できる安価な検査です。一方、慢性炎症を抑える方法の基本は生活習慣の改善です。規則的な有酸素運動や野菜中心の抗炎症作用のある食生活は、全身の炎症反応を和らげる効果があります。実際、定期的に運動している人はCRP値が低く保たれ、心疾患の発症率も低いことが分かっています。十分な睡眠も含めた健康的な生活は体のストレス(酸化ストレス)を減らし、血管の炎症予防につながります。また、医療面ではスタチンなどの薬剤にも抗炎症作用があるため、コレステロールが高くない場合でも炎症の高い人には予防的に投与が検討されます。最近ではコルヒチンという抗炎症薬が心筋梗塞予防に有効と報告され、心疾患患者さんで炎症の強い方に使われ始めています。さらに開発中の新薬として、炎症性サイトカイン(IL-1βやIL-6)をブロックする抗体治療も試験段階にあります。これらは専門医の判断で用いる高度な治療ですが、まずは日常生活で炎症を増やさない習慣を心がけることが何より大切です。

Q5. 糖尿病や慢性腎臓病がある人は、心筋梗塞を防ぐために具体的に何をすべきですか?

総合的なリスク管理が重要です。まず血糖・血圧・コレステロールを厳格にコントロールし、禁煙・食事改善・運動など生活習慣の徹底改善を行うことが基本になります。例えば血圧は130/80mmHg未満、LDLコレステロールは通常より低め(例:100→70mg/dL未満など)を目標に設定し、必要に応じて複数の薬剤を併用します。また、近年は糖尿病やCKDをお持ちの方に対して心臓と腎臓を保護する効果が証明された薬剤が登場しています。具体的には、前述のSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬がそれに当たり、ガイドラインで推奨される治療の一つです。SGLT2阻害薬は腎臓の機能低下や心不全による入院リスクを減らす効果があり、慢性腎臓病や心不全の患者さんにも積極的に使われます。GLP-1受容体作動薬は体重減少と心血管イベント抑制効果が期待でき、肥満を伴う2型糖尿病患者さんなどで有用です。これらの新しい薬は従来の治療にプラスして使用することで、心筋梗塞や腎不全の発症をさらに抑制できることがエビデンスによって裏付けられています。もちろん薬物療法だけでなく、主治医と相談しながら適切な頻度で心臓や腎臓の状態を検査すること(心エコーや腎機能検査など)、減塩や体重管理を続けることも重要です。糖尿病やCKDがある方でも、これら総合的な対策をしっかり行えば心筋梗塞は十分予防可能です。あきらめずにスタッフと二人三脚で取り組んでいきましょう。

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記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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