病気と健康の話

【喘息発作】 発作の時もステロイド吸入?- SMART療法

■季節の変わり目と喘息発作

朝晩の気温差が大きくなると、空気の乾燥も加わって気道を刺激し、喘息発作が起こりやすくなります。ぜんそくは気道の慢性的な炎症が本体であり、発作時にだけ気管支拡張薬で気管支を広げても根本的な治療にはなりません。英国の医療機関では、短時間作用型β₂刺激薬(SABA)だけで治療することは推奨されず、必ず吸入ステロイド薬(ICS)を併用して気道炎症を抑える必要があると強調しています。コントロールされている喘息とは、夜間の症状がなく、運動や遊びの制限がなく、週に3回以上リリーバー(発作時吸入薬)を使わない状態を指します。気温差が大きくなる時期には日頃から症状を記録し、医師と相談しながら予防的な吸入治療を徹底することが大切です。

■成人におけるSMART療法と発作時のステロイド吸入

成人および思春期のぜんそく治療では、近年「SMART療法(Single Maintenance and Reliever Therapy)」が推奨されています。これは1本の吸入器に、炎症を抑える吸入ステロイド(ICS)と気道を拡張する迅速発現型長時間作用性β₂刺激薬(formoterol)を組み合わせており、毎日の長期管理と発作時の救急吸入を「同じ薬」で行う方法です。国際ガイドラインのGINAや米国のNAEPPは、中等度の喘息患者に対しこの方法を推奨しており、特に12歳以上で、低用量または中用量のステロイド単独で十分にコントロールできない場合に有効とされています。SMART療法ではブデソニド・ホルモテロールの組み合わせが最も研究されており、12歳以上では160/4.5 μgを1日最大12回までとする目安が提示されています。この療法の利点は重症発作を減らせることと、ステロイドの総使用量が減り副作用リスクを下げられる点にあります。一方で、現在米国では発作時吸入薬としての適応が限定的で保険の制約もあり、導入に当たっては医師と十分に相談することが必要です。

■「CARE」試験が示した小児の新しい可能性

今月号の医学雑誌『The Lancet』に掲載された「CARE試験」は、5〜15歳の軽症喘息の子ども360人を対象に、52週間にわたりブデソニド50 μg–ホルモテロール3 μg(2吸入)を発作時にのみ使用する群と、従来のサルブタモール100 μg(2吸入)群を比較した初の大規模ランダム化試験です。その結果、年換算の発作率はブデソニド–ホルモテロール群が0.23回/人年、サルブタモール群が0.41回/人年であり、相対率0.55(95% CI 0.35–0.86)と有意に低下しました。179人が割り当てられたブデソニド–ホルモテロール群では、総発作数が45件だったのに対し、サルブタモール群では80件でした。年齢別では12〜15歳の子どもや一酸化窒素(FeNO)値が高い子どもで効果が顕著で、男女間や基礎疾患による大きな差はみられませんでした。副作用や成長への影響は両群で同程度であり、重篤な薬剤関連有害事象は報告されませんでした。この試験は1年間の現実的なデザインであり、スペーサー付き定量噴霧式吸入器を用いたことで若年児でも実臨床に応用しやすい点が評価されています。ただし、非盲検試験であることや受診頻度が高いこと、COVID‑19による遠隔参加などの限界も指摘されており、今後他の地域や人種での再検証が必要です。

■小児の発作時吸入はどうすべきか – 従来の気管支拡張薬を中心に

小児喘息の治療では、基本として毎日ステロイドを吸入して気道炎症を抑えつつ、発作時にはSABA(例:サルブタモールやプロカテロール)で気管支を広げるのが現在の主流です。一方で、英国のガイドラインは、リリーバーのみの治療では発作リスクが高く、ICSを併用することの重要性を強調しています。実際の使い方としては、サルブタモール吸入器の場合、症状が出たときに1~2吸入し、24時間で最大4回までに抑えるのが一般的です。発作の前兆を予防するために、運動前などに吸入するときも同じ用量が用いられます。もし1日4回以上使用する必要がある場合や、夜間の発作が続く場合は、コントロール不良の可能性があり治療の見直しが必要です。重い発作が起こった場合は1回10吸入まで増やすことが認められており、各吸入の間隔は30〜60秒空けます。それでも改善しない場合は救急車を呼び、さらに10分後に同様の吸入を繰り返します。メプチンなどを処方されている場合も用量は同様で、通常1吸入あたりの有効成分量が異なるだけです。発作が治まった後も決められた回数以上の使用は避け、必ず主治医の指示に従ってください。

今回のCARE試験は、こうした従来のSABA単独治療に対し、発作時にもICSを含む吸入薬の併用が有効である可能性を示しましたが、使用量や対象年齢などは今後のガイドラインで慎重に検討される見通しです。

■おわりに

朝晩の寒暖差が大きくなる季節は、お子さんの呼吸器症状に気を配ることが特に大切です。今回ご紹介したCARE試験では、発作時にもステロイド含有吸入薬を使用することで発作率を減らせる可能性が示されました。しかし、この結果だけで直ちに治療方針を変えることは推奨されません。成人で推奨されているSMART療法は多くのエビデンスを持っていますが、小児への適用はまだ始まったばかりです。基本は毎日のICSによる予防と、発作時のSABAによる迅速な症状緩和であり、リリーバーの使用回数が増えた場合は医師に相談してください。各家庭には医師が作成したプランがあるはずです。新しい研究の成果を踏まえつつも、自己判断で薬を追加したり変更したりせず、必ず主治医や専門医と話し合って最適な治療方法を選びましょう。

参考文献

  • Hatter L, et al. Budesonide–formoterol versus salbutamol as reliever therapy in children with mild asthma (CARE). The Lancet 2025; published online Sep 28, 2025.
  • AAAAI. “SMART Therapy for Asthma”. American Academy of Allergy, Asthma & Immunology. Accessed 2025.
  • Asthma + Lung UK. “Managing asthma in children aged 5‑11 years”. Accessed 2025asthmaandlung.org.uk.
  • NHS. “How and when to use salbutamol inhalers – Ventolin, Airomir, etc.”. Accessed 2025nhs.uknhs.uk.

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