病気と健康の話

【メタボ】糖尿病予備群+脂肪肝、食事療法の最新エビデンス ―同じ減量でも肝臓では大きな差がついたー

はじめに ― 「痩せれば同じ」ではありませんでした

健康診断で「血糖値が少し高めですね」「脂肪肝です」と言われた経験はありませんか。糖尿病予備群(前糖尿病)と脂肪肝は、いまや日本の成人の健診でもっとも多く指摘される組み合わせのひとつです。そしてこの二つに対して、私たち医がまず提案するのは、いつの時代も「減量」でした。実際、体重を 5〜10%減らせば血糖も肝臓の脂肪も改善することは、数多くの研究で確認されています。
しかし、ここで長らく答えが出ていなかった問いがあります。それは「同じだけ体重を減らすなら、どんな食事で減らしても結果は同じなのか」という問いです。糖質制限(ケトジェニック食)、地中海食、超低脂肪の植物中心食。書店にもインターネットにも、それぞれを推す情報があふれています。ところが、これらを同じ条件で真正面から比較し、しかも肝臓の代謝機能まで精密に測定した研究は、ほとんど存在しませんでした。
2026 年 10 月、Cell Metabolism 誌に発表されたワシントン大学セントルイス校の無作為化比較試験(Petersen et al., Cell Metab 2026)は、この空白に正面から答えを出しました。結論を先にお伝えすると、「体重の減り方は3つとも同じ、しかし肝臓に起きたことはまったく違った」のです。本コラムでは、この試験の中身を読み解きながら、飽和脂肪酸という見過ごせない注意点、そして「では何年続ければ心筋梗塞や脳卒中が減るのか」という、まだ誰も答えを持っていない問いまでを、欧米の最新エビデンスとともに整理します。

1. 糖尿病予備群と脂肪肝は「同じコインの裏表」 ― MASLDという新しい呼び名

糖尿病予備群と脂肪肝は、別々の病気として説明されることが多いのですが、代謝の視点で見ると同じ土壌から生えた二本の枝です。内臓脂肪が増えてインスリンが効きにくくなると、筋肉での糖の取り込みが落ちて血糖が上がり、同時に肝臓では脂肪の合成が進んで肝細胞に中性脂肪が溜まります。近年、この病態は「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」という新しい名称に整理されました。2024年にヨーロッパの3学会(EASL・EASD・EASO)が合同で発表した診療ガイドラインは、MASLDを単なる肝臓の病気ではなく、心血管疾患と2型糖尿病を共有する全身性の代謝疾患として位置づけています(EASL-EASD-EASO, J Hepatol 2024)。
このガイドラインが治療の第一選択として明記しているのは、薬でも手術でもなく体重減少です。体重の 5%減で肝脂肪が、7〜10%減で肝の炎症(脂肪肝炎)が、10%以上の減量で線維化までもが改善しうるとされ、減量幅が大きいほど肝臓の改善も深くなる用量反応関係が示されています。また同ガイドラインは、食事パターンとしては地中海食を推奨し、加糖飲料と超加工食品の制限、そして週150分以上の身体活動を組み合わせるよう求めています。
興味深いのは、ヨーロッパのガイドラインが「どの食事法が最良か」については明確な優劣をつけていない点です。理由は単純で、そこを厳密に比較した質の高い試験が乏しかったからです。減量が効くことは分かっている。しかし『何を食べて減量するか』で差がつくのかは分からない ― これが2026年までの到達点でした。今回の試験は、まさにその空白を埋めるために設計されています。

2. 3 つの食事を真正面から比べた試験 ― 食事をすべて提供した5か月間

Petersen らの試験に参加したのは、肥満・糖尿病予備群・脂肪肝という三つの条件をすべて満たす「代謝的に不健康な肥満」の方々です。627 名がスクリーニングを受け、最終的に55 名が無作為に3群へ割り付けられ、42名(各群14名)が全プロトコルを完遂しました。平均年齢43歳、平均BMIは約39と、かなり高度の肥満を伴う集団です。
3 つの食事の中身は、意図的に極端なまでに差をつけてあります。2000kcalあたりで換算すると、超低炭水化物ケトジェニック食は糖質20g(エネルギー比4%)・脂質164g(73%)・たんぱく質112g(23%)。地中海食は糖質 254g(50%)・脂質 80g(35%)。超低脂肪の植物中心食は糖質352g(70%)・脂質35g(15%)です。糖質のエネルギー比は4%から70%まで、17倍以上の開きがあります。
この試験の最大の強みは、参加者に食事を「指導した」のではなく「すべて提供した」ことです。5 か月間、調理済みの食事とスナックが箱詰めで配られ、参加者は毎週管理栄養士と面談しました。その結果、記録された遵守率は3群とも95%超。食事試験の最大の弱点である『実際に食べたかどうか分からない』という問題を、ここまで抑え込んだ研究は多くありません。加えて、高インスリン正常血糖クランプ法、重水素標識水による新規脂肪合成の測定、MRIによる肝脂肪定量、24時間にわたる連続採血と、代謝研究として望みうる最高水準の測定が行われています。

3. 体重は同じ、しかし肝臓は違った ― 「67%減と45%減」という分かれ道

まず体重です。ケトジェニック食群は10.4%、地中海食群は10.2%、超低脂肪食群は10.1%の減量を達成しました。統計学的な差はまったくありません(p=0.877)。体脂肪率の低下も、除脂肪体重の減り方も、3 群でほぼ同じでした。つまり「どの食事でも、カロリーを抑えて続ければ同じだけ痩せる」というよく言われる主張は、この試験でもきれいに再現されたことになります。
ところが肝臓を見ると、景色が一変します。MRI で測定した肝内中性脂肪含量は、ケトジェニック食群で19.4%から 6.2%へ、率にして約 67%減少しました。一方、地中海食群と超低脂肪食群はいずれも約45%の減少にとどまっています(群間p=0.011)。同じ10%の減量でありながら、肝臓の脂肪の落ち方には明確な差が生まれたのです。
肝臓のインスリン感受性の改善幅は、さらに劇的でした。ケトジェニック食群の改善は他の2 群の2〜3倍に達しています(p<0.001)。対照的に、筋肉のインスリン感受性はどの群でも約 50%改善し、群間差はありませんでした(p=0.617)。この対比は本試験の核心です。筋肉は「どれだけ痩せたか」に反応し、肝臓は「何を食べて痩せたか」に反応する ― データはそう語っています。ハーバード大学系の一般向け解説やClevelandClinicの記事でも、ケト食の短期的な代謝指標の改善は一貫して認められており、今回の試験はその生理学的な裏づけを与えた形です。

4. なぜ糖質を絞ると肝臓の脂肪が落ちるのか ― 「新規脂肪合成」というスイッチ

肝臓に脂肪が溜まる経路はいくつかありますが、糖尿病予備群の方でとりわけ重要なのが「デノボ脂肪合成(新規脂肪合成)」です。これは、食べた糖質を材料に肝臓自身が中性脂肪を作り出す反応で、血糖とインスリンが高いほど活発になります。今回の試験では重水素標識水を用いてこの合成速度を直接測定しており、ケトジェニック食群では約 63%減少したのに対し、地中海食群は 29%減、超低脂肪食群では有意な変化がありませんでした(p<0.001)。
この差を生んだのはホルモンの動きです。ケトジェニック食群では 24 時間の血糖とインスリンが大きく低下し(インスリンは−74%)、逆にグルカゴンが 52%上昇しました。その結果、グルカゴン/インスリン比は 3 倍以上に跳ね上がっています。インスリンは肝臓に「脂肪を作れ・溜めろ」と命じるホルモン、グルカゴンは「脂肪を分解して燃やせ」と命じるホルモンです。糖質を極端に絞ることは、肝臓に対するこの二つの号令のバランスを、貯蔵から燃焼へと切り替える操作にほかなりません。実際、ケトジェニック食群の血中 β-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)は20倍以上に上昇していました。
ケトン体そのものが肝臓を守っている可能性も指摘されています。2025 年に Journal of Clinical Investigation 誌に発表された研究(Queathem et al., 2025)は、ケトン体の産生経路が、単なる脂肪酸の燃焼を超えたメカニズムでMASLDの進行を抑えることを示しました。糖質制限が肝臓に効くのは「カロリーが減るから」ではなく、肝臓の代謝プログラムそのものを書き換えるからだ ― 今回の結果は、この解釈を強く支持しています。

5. 血糖・HbA1c・そして「予備群からの離脱」 ― ケト食群の50%が正常化

肝臓以外の代謝指標にも、はっきりとした差が出ました。空腹時血糖はケトジェニック食群で12mg/dL 低下したのに対し、他の2群は6mg/dLの低下(p=0.001)。HbA1cはケトジェニック食群で0.6%低下し、地中海食群の0.1%低下を大きく上回りました(p=0.001)。空腹時中性脂肪も、ケトジェニック食群では82mg/dLという大幅な低下を示しています(p<0.001)。
臨床的にもっとも意味が大きいのは「糖尿病予備群からの離脱率」でしょう。血糖値が正常域に戻った参加者の割合は、ケトジェニック食群で 50%、地中海食群で 29%、超低脂肪食群では7%にとどまりました(p<0.05)。同じ10%の減量でも、予備群を卒業できるかどうかには7 倍の開きがあったことになります。
そしてこの「予備群からの離脱」には、近年きわめて重い意味が与えられつつあります。2026 年にLancet Diabetes & Endocrinology 誌に発表された、米国DPPOS(20年追跡)と中国大慶研究(30年追跡)の統合解析(Vazquez Arreola et al., 2026)によれば、予備群から正常血糖に戻った人は、戻らなかった人に比べて心血管死・心不全入院のリスクがおよそ半減していました(DPPOSでハザード比0.41、大慶研究で0.49)。血糖の正常化は検査値上の勝利にとどまらず、数十年先の心臓を守る可能性がある ― この点は、今回の食事試験の価値を考えるうえで欠かせない補助線です。

6. ただし、飽和脂肪酸には注意 ― LDLコレステロールという別勘定

ここまでの結果だけを見ると「では糖質を極限まで絞ればよいのか」と考えたくなります。しかし、本試験で用いられたケトジェニック食の中身を見ると、慎重にならざるを得ない数字が並んでいます。2000kcal あたりの飽和脂肪酸は52g(エネルギー比23%)、コレステロールは 749mg。地中海食(飽和脂肪酸 19g、8%)や超低脂肪食(7g、3%)とは桁違いで、米国心臓協会(AHA)が推奨する飽和脂肪酸エネルギー比の目安を大きく超える水準です。
この試験では、5か月間という期間においてLDLコレステロールとアポリポ蛋白Bに群間差は認められませんでした(LDL-Cのp=0.444、アポBのp=0.243)。しかし、これは「大丈夫だった」と結論できるほど強いデータではありません。参加者は42名と少なく、期間も5か月です。実際、2024年にAmerican Journal of Clinical Nutrition 誌に掲載された27件の無作為化試験・1278 名のメタ解析(Wang et al., 2024)では、ケトジェニック食は中性脂肪・血糖・血圧・体重を改善する一方で、総コレステロールとLDLコレステロールを有意に上昇させることが示されており、著者らは心血管リスク全体については「慎重な姿勢が必要」と結論しています。
さらに重いのが観察研究のデータです。2024年にJACC: Advances誌に発表された英国バイオバンクの解析(Iatan et al., 2024)では、低炭水化物・高脂肪食を実践していた群は標準的な食事群に比べてLDL-Cとアポリポ蛋白Bが有意に高く、重度高コレステロール血症(LDLC>190mg/dL 相当)の頻度は 11.1%対 6.2%。約 11.8 年の追跡で主要心血管イベントは 9.8%対4.3%、危険因子で調整後のハザード比は2.18(95%信頼区間1.39-3.43)と、2倍を超えるリスク上昇が報告されました。ハーバード大学医学部の健康情報サイトも、ケト食は「健康的な食事の基準を満たさず、心疾患のある人には安全でない可能性がある」として、LDL-C の上昇と長期的なエビデンス不足を明確な注意点として挙げています。
したがって、糖質を控える場合でも「何の脂質で置き換えるか」が決定的に重要になります。バターや加工肉、脂身の多い赤身肉ではなく、オリーブ油、ナッツ、青魚、アボカドといった不飽和脂肪酸を中心に据えること。米国心臓協会が 2026 年に発表した最新の食事ガイダンス声明(Lichtenstein et al., Circulation 2026)も、単一の栄養素の増減ではなく「食品ベースの食事パターン」全体で心血管の健康を評価すべきだと強調しています。

7. 「1 年後」のデータがない ― 硬いアウトカムの空白地帯

今回の試験の著者ら自身が、論文の限界(Limitations)の項で率直に述べています。第一に、サンプルサイズが小さく、群間差を見落としている可能性があること。第二に、介入期間が約5か月であり、この食事を減量後の維持期に続けた場合に同じ効果が保たれるかは分からないこと。第三に、ケトーシスに至らない程度の緩やかな糖質制限でも同じ効果が得られるのかは検証されていないこと。
そして最大の空白が、心筋梗塞・脳卒中・死亡といった「硬いアウトカム」です。今回改善したのは肝脂肪、インスリン感受性、HbA1c、中性脂肪、PAI-1 といった代替指標(サロゲートマーカー)であり、これらが改善したからといって、何年後かの心血管イベントが減ることが自動的に保証されるわけではありません。実際、ケトジェニック食を長期に続けて心血管イベントや死亡が減ることを示した無作為化比較試験は、現時点で存在しません。
対照的に、地中海食にはこの種のデータがあります。スペインのPREDIMED試験(Estruch et al., N Engl J Med 2018)は、約7,400名を中央値4.8年追跡し、エクストラバージンオリーブ油またはナッツを加えた地中海食が主要心血管イベントを有意に減らすことを示しました。心血管イベントという硬い結果で有効性が証明された食事パターンは、いまなお地中海食だけです。米国糖尿病学会の2026年版診療基準(ADA Standards of Care 2026)も、特定の一つの食事法を万人に推奨することはせず、個々の状況・嗜好・持続可能性に応じて食事パターンを選ぶよう求めています。
薬物療法の領域では、この空白がすでに埋まりつつあります。2025 年に New England Journal of Medicine 誌に発表されたESSENCE試験(Sanyal et al., 2025)では、セマグルチド 2.4mg の 72 週間投与により脂肪肝炎の消失が 62.9%(プラセボ 34.3%)、線維化の改善が36.8%(同 22.4%)に達し、体重は10.5%減少しました。食事療法が同等の組織学的改善と長期予後改善をもたらすかどうかは、今後の大規模長期試験を待つほかありません。

8. では、どう食べるか ― 診療現場での現実的な落としどころ

以上を踏まえると、現時点で私たちが患者さんにお伝えできることは、次のように整理できます。まず、糖尿病予備群と脂肪肝を併せ持つ方にとって、10%前後の減量は依然として治療の土台であり、どの食事法を選んでもここは達成しうるということ。次に、肝臓の脂肪と肝臓のインスリン抵抗性という一点に関しては、糖質を強く制限する食事に明確な優位性がある可能性が高いということ。そして、その優位性は飽和脂肪酸の摂りすぎという代償と引き換えになりやすく、脂質の「質」を管理しなければ心血管の側で損をしかねないということです。
実務的には、極端なケトーシスを長期に維持するよりも、精製された糖質(白いご飯・パン・麺・菓子・加糖飲料)を減らし、その分を魚・大豆製品・卵・鶏肉・オリーブ油・ナッツ・野菜で埋めるという「地中海食寄りの緩やかな糖質制限」が、多くの方にとって最も現実的な着地点になります。Cleveland ClinicのDiabetes Centerが公開しているケトジェニック食の実践プランでも、ケトーシスの期間を 3〜6 か月に限定し、その後は良質な糖質を段階的に戻す3段階構成が採られており、医学的管理下での実施と月1回の血液検査が前提条件として明記されています。
また、体重や血糖だけを見ていては不十分です。糖質制限を始める前と開始後 2〜3 か月の時点で、LDL コレステロール、アポリポ蛋白 B、肝機能、腎機能を確認することを強くお勧めします。とくに LDL コレステロールが著しく上昇するタイプの方(いわゆるハイパーレスポンダー)が一定の割合で存在することが知られており、この場合は食事内容の再設計、あるいは脂質低下薬の併用を検討する必要があります。減量の成功を、心血管リスクの上昇で相殺してしまっては本末転倒だからです。

おわりに ― 「体重計の数字」の先にあるもの

同じ10%の減量でも、肝臓に起きることは食事の中身によって大きく異なる ― Petersenらの試験が示したのは、減量という古典的な処方箋のなかに、まだ最適化の余地が残されているという事実です。肝脂肪 67%減という数字は確かに印象的ですが、そこには飽和脂肪酸23%という条件が付随しており、心筋梗塞や脳卒中、死亡といった最終的な結果については、1 年を超える長期の有効性と安全性がいまだ未解決であることも、同時に受け止める必要があります。エビデンスは「ケト食が最良である」とは言っていません。「肝臓に関しては差がつく。ただし長期の答えはまだない」と言っているのです。
だからこそ、食事療法は「始めること」以上に「測りながら続けること」が重要になります。当院では、腹部超音波検査と CT による肝脂肪・内臓脂肪の評価、血液検査による肝機能・脂質・血糖の推移の追跡、そして運動療法士による運動処方を組み合わせ、減量の中身まで含めて伴走する体制を整えています。糖尿病・脂質異常症・脂肪肝はいずれも自覚症状に乏しく、健診で指摘されても放置されがちな病気です。日曜・祝日にも診療を行っておりますので、平日にお時間の取りにくい方もどうぞご相談ください。
体重計の数字は、あくまで入口にすぎません。その先で肝臓と血管に何が起きているかを一緒に確認していくことが、10年後、20年後の健康を分ける分岐点になります。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. 糖質制限をすれば、脂肪肝は必ず良くなるのでしょうか?

多くの方で改善が期待できますが、「必ず」ではありません。Petersen らの試験(Cell Metab 2026)では、超低炭水化物ケトジェニック食による10%減量で肝内脂肪が約67%減少し、地中海食や超低脂肪食(いずれも約 45%減)を上回りました。ただしこれは食事をすべて提供した 5 か月間・42 名の試験結果であり、飲酒量、薬剤、遺伝的背景、睡眠時無呼吸の有無などによって反応は変わります。ヨーロッパの MASLD 診療ガイドライン(EASLEASD-EASO, J Hepatol 2024)も、まず 5〜10%の減量を目標とし、超音波やMRIで肝脂肪の推移を客観的に確認しながら調整することを推奨しています。

Q2. 体重が同じだけ減るなら、どの食事法を選んでも同じではないのですか?

体重・体脂肪率・筋肉のインスリン感受性については、ほぼ同じでした。実際、Petersenらの試験では3群とも約10%の減量を達成し、筋肉のインスリン感受性はいずれも約50%改善して群間差がありません(p=0.617)。差がついたのは肝臓です。肝臓のインスリン感受性の改善はケトジェニック食群で他群の2〜3倍(p<0.001)、糖質から脂肪を作る新規脂肪合成の低下も 63%対 29%と大きく異なりました。つまり「痩せる」という目的なら食事法は好みで選べますが、「肝臓を治す」という目的では中身が問われる、というのが現時点の答えです。

Q3. ケトジェニック食で悪玉コレステロールが上がると聞きました。心配は要りませんか?

注意が必要な、現実的な懸念です。今回の5か月の試験ではLDLコレステロールとアポリポ蛋白Bに群間差はありませんでしたが(p=0.444)、27 試験 1278 名を統合したメタ解析(Wang et al., Am J Clin Nutr 2024)では、ケトジェニック食は総コレステロールとLDLコレステロールを有意に上昇させると報告されています。さらに英国バイオバンクの解析(Iatan et al., JACC Adv 2024)では、低炭水化物・高脂肪食群の主要心血管イベント発生は約11.8 年で9.8%(標準食群4.3%)、調整後ハザード比2.18 でした。糖質を控える場合は飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換え、開始2〜3か月後にLDLコレステロールを必ず確認してください。

Q4. 糖尿病予備群から正常値に戻ることに、どれだけの意味がありますか?

近年、非常に大きな意味があることが分かってきました。米国DPPOS(20年追跡)と中国・大慶研究(30 年追跡)を統合した解析(Vazquez Arreola et al., Lancet Diabetes Endocrinol 2026)では、予備群から正常血糖に戻った人は、戻らなかった人と比べて心血管死および心不全入院のリスクがほぼ半減していました(ハザード比0.41および0.49)。Petersen らの試験でケトジェニック食群の 50%が予備群を離脱した(地中海食 29%、超低脂肪食 7%)ことは、この観点からも注目に値します。ただし、食事法そのものが数十年後のイベントを減らすことを示した試験はまだ存在しません。

Q5. 長く続けても、本当に心筋梗塞や脳卒中は減るのでしょうか?

率直に申し上げて、糖質制限食については未解決です。今回の試験を含め、報告されている改善はいずれも肝脂肪・HbA1c・中性脂肪などの代替指標であり、1 年を超える長期の有効性と安全性を検証した無作為化試験はありません。一方、地中海食には PREDIMED試験(Estruch et al., N Engl J Med 2018、約7,400 名・中央値4.8年追跡)という、心血管イベントの減少を示した無作為化試験が存在します。米国糖尿病学会の 2026 年版診療基準も、単一の食事法を万人に推奨せず、個々の状況と継続可能性に応じた選択を求めています。現時点では「肝臓のためには糖質を絞る価値があるが、血管のためには脂質の質と長期の追跡が欠かせない」と考えるのが妥当です。

参考文献

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参考リンク

・Cleveland Clinic, Diabetes Center. Ketogenic Meal Plan(ケトジェニック食の実践プラン).
  https://my.clevelandclinic.org/-/scassets/files/org/endocrinology
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・Cleveland Clinic. Is the Keto Diet Heart-Healthy?
  https://health.clevelandclinic.org/keto-diet-and-heart-disease
・Harvard Health Publishing (Harvard Medical School). Keto diet is not healthy and may
   harm the heart. https://www.health.harvard.edu/heart-health/keto-diet-is-not-healthy
  and-may-harm-the-heart

※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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